妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします! 番外編 作:tom200
途中ではありますが、ここで11月記念日シリーズは終了します。
お付き合いいただきありがとうございました!
11月25日
「お兄様」
にっこり微笑む深雪を朝一番に見られるというのはどれだけ幸せなことなのだろうか。
今日一日が幸せな日になると確信をして朝の挨拶を返すと、一歩前に出た深雪が手を伸ばしてきて――むに。
「今日はいい笑顔の日ですよ。お兄様も」
ニッコリ笑顔でいきましょう、と口角に人差し指を当てられ上に持ち上げられた。
…俺の妹は可愛いの具現化した姿か?可愛いがすぎる。やることなすこといちいち可愛い。
「?お兄様?」
おっと、思考がおかしな方向にとんでいたようだ。
深雪の手をそっと掴んで自分のできる限り頬を持ち上げて再度「おはよう」と声を掛ける。
「はい、おはようございます、お兄様」
にこにこにっこり。
可愛らしい笑みに胸が温かくなる。
これが活力が湧くという状態か、九重寺での朝の鍛錬はいつも以上にキレが良く、師匠からも驚かれるほど快調だった。
それについ今朝の深雪が可愛すぎてと滑らせてしまい、師匠が一拍置いた後大爆笑したことで浮かれていた心がスッと冷静さを取り戻した。
「達也くんも案外、単純な男の子だねぇ」
「意外でも何でもないでしょう」
俺ほどわかりやすい人間もいない。
何故なら深雪にしか衝動を覚えないのだから、深雪の言動に一喜一憂するように見えるのはおかしなことじゃない。
まあ、この場に深雪のいないというのにそう見えるのはおかしなことではあっただろうが。
「うん、そうだね。達也君は深雪くんの前では年相応の、格好つけたがりのお兄ちゃんだからねぇ」
にやにやと人の悪い笑みを浮かべる師匠にも素直に冷めた視線を向けるが、全く効いてはいない。こちらもそんなものが効くとも思っていないが。
それからいつものように直接手合わせをしてもらい、帰宅する。
出迎えもニコニコと笑みを浮かべていたので疲労が吹っ飛ぶようだった。
ハグをして、風呂を勧められるが、なんとも離れがたい。熱いシャワーよりもこのぬるま湯のような温かさが心地よすぎた。
「ふふ、お兄様ったら」
ぽんぽん、とあやす様に叩かれてしぶしぶ離れると、よくできましたと撫でられた。
それだけで気分が浮上するのだから、心を掌の上で転がされている気分だが、悪い気はしない。
深雪だから、何をされようとも構わなかった。
深雪に転がされるなら本望だ。
(…今日の思考は壊れてしまっているな)
流石に自身の思考が狂っていることは自覚できた。
だが、今日はそれでもいいかと思えるほど気分が良かった。
――
「…なぁんか、今日の達也君、浮かれてる?」
「やっぱり、そう見えるよね」
幹比古とエリカがこそこそと話しているのが聞こえてきたが(というか聞こえるように言っているのだが)達也は気にも留めない。
真正面から美月が「達也さん、ご機嫌ですね」と言われてそうだな、素直に返すとエリカに変な視線を向けられた。
「深雪と何かあった?」
「いや。特に何かあったわけではないが」
疑う目を向けられるが、本当に特別何かがあったわけではない。
ただ深雪にいつも以上に笑顔を向けられて機嫌が良いだけである。
ただそれだけだが、キーボードの上を滑る指は常になく早く動き、予定より早く作業を終わらせてしまい、実技でも居残りギリギリのはずが、今日は一発で決められた。
(…魔法が感情によって左右されることは聞いてはいたが)
達也には今まで経験が無かったことだった(たとえ衝動に突き動かされて暴れた――と周囲に見られたが達也にはそのつもりも無く至って理性的に敵を殲滅していたつもりだった――時も手元が狂うことなく普段通りに魔法を発動できていた)のだが、わずかながらに向上していることに自分にも影響はあったらしい、という自覚をした。
(そういえば、中学の球技大会で深雪に応援された時は調子が良かったか)
深雪の前では格好つけたいという兄の意地だと思ったが、あれは深雪の応援があってからこそのことだったかと今になって気付く新事実。
これは家に帰って研究すべきか?と時間を余らせたせいで真剣に悩む。が、授業が終わる頃になって必要がないことに気付いた。
浮かれて魔法力が向上する場面などそうあるものでは無いし、いざと言う時に浮かれる余裕などあるはずがないからだ。
浮かれるとこういう無駄な時間を過ごすのだな、と浮かれすぎるのも問題だとそろそろ自身を落ち着かせようと思考を切り替えて昼食に向かうと、朝のにこやかさは控えめに、学校内でのいつもの深雪にほっと一安心したのだが――。
「兄さんも和定食だったのね」
お揃いだわ、と隣に座ってにっこり自身に向けて微笑む深雪にまたも気分が浮上する。
だが、それは一瞬だけのこと。流石に学校であの笑みは危険だということを深雪もわかっているのだろう。
危険を冒してまで俺に笑いかけてくれたことが嬉しくて、つい頭を撫でた。
「もう、子供じゃないのよ」
「いやいや、お揃いねって喜んでる時点でお子様じゃない?深雪ちゃん」
エリカの揶揄いに、深雪はわざとらしく唇を尖らせて周囲を和ませていつものように雑談に花を咲かせた。
「達也さんも、なんだか今日はいつもより穏やかというか…何かあったんですか?」
ちらちら、と見ながら食事をするほのかに、多少居心地の悪さを覚えなくもないが隠すことでもない、と達也は一旦箸を下ろして。
「美月にも言われたが、別段特別なことなど無いんだがな。――しいて言うなら、俺の妹が可愛い、か?」
その発言にがたがたっ、といろんなところから音が聞こえたが、達也が一番注目すべきはすぐ隣、深雪だ。
深雪は急いで箸を膳に戻して俯いてぷるぷると震えていた。
覗きこめば真っ赤に染まった顔と潤んだ瞳に、どうやら照れて恥ずかしがっているらしいと窺えた。
(やはり、俺の妹が可愛い)
が、ここは学校だ。あまり触れあうのはよろしくないことぐらいは承知している。と達也はこぶしを握り締めたがその心は、(…許されるなら膝に抱き上げて撫でたいところではあるが)、で埋まっていた。
シスコンだと思われているのだからそれくらいしても許容範囲では?と思わなくもないが達也は口に出さなかった。
もし、ここでそれを口に出していればエリカから口だけではなく剣まで出ていただろう。
それはしっかりアウトだ、と。
「…深雪、アンタまたなんかしたわね?」
「……だって」
「だってもへちまもありません!やめてよね、こっちにまで被害が来るんだから」
「ごめんなさい」
本気で怒っているわけでも謝っているわけでもない、形上のやり取りなので達也は黙って食事を続けた。
彼女たちなりのお決まりのやり取りというモノらしく、これに本気になって口を挟むと空気を悪くすることは学習済みだった。
「卵焼き一切れあげるから許して」
「仕方ないわね。ポテトと交換してあげる」
「ありがとう」
それからいつも通りの話に戻り、一番に食べ終わったレオが珍しく立ち上がって食器を片付けに行き、戻ってくると6杯のコーヒーを運んできた。
「で、結局深雪さんは何をしたんだ?」
深雪本人にではなく達也に尋ねた。その間に兄妹以外にコーヒーを配る。ウェイターとしてアルバイトでもしたことがあるような手際だった。
(そうまでして聞きたいか)
レオは事なかれ主義でもあるが、好奇心が無いわけではないと達也は短い付き合いながらも理解していた。
これらの行動も事前に対策を講じれば多少のダメージは受けられる、ということなのだろう。
「今日はいい笑顔の日らしくてな。俺にだけいい笑顔を向けてくれる。――可愛いだろう?」
深雪は素知らぬ顔をして食事を続けているつもりだろうが、指先が微かに震えていた。
他の皆はそれに気づかぬまま、熱くないのかぐびっとコーヒーを呷っていた。
帰宅してハグをして、いつものルーティーンに続けて達也がしたことといえば深雪を抱き上げソファに向かい、膝にのせて撫で繰り回すことだった。
「昼にできなかったから」
そう供述しており、深雪は己の犯した罪の結果だ、と大人しく罰を受けた。
いい笑顔の日、ということでしたのでにっこり深雪ちゃんに可愛い笑顔を見せてもらいました。
そしたらお兄様が浮かれまくるっていうね。
最後の罰は、お兄様にこっそり笑みを向ける行為が成主妹にとってちょっとした悪戯心もあったから。揶揄ったつもりではないけれどワクワクしてた。
先生ありがとうの日でもあったそうなので無理やり師匠に出てきてもらったけれどありがとうじゃなかった。お兄様お礼するどころか冷めた視線を向けてましたね。でも、この二人だとこういうやり取りが似合う。
ランジェリー文化の日、なんてしようものならお兄様選ぶのに一日かかりそうで却下した。お兄様、きっと妹に似合う物をじっくり選んじゃうだろうから。
ところで中学時代って魔法も関係ない普通の生徒たちと混じって学校に通ってたんですよね?体育祭とか文化祭ってあったんだろうか…?中学校時代どう過ごしていたのか気になる…。
お粗末様でした。