妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします! 番外編 作:tom200
昨年のある日、トレンドに清楚えっちチャレンジって言葉があって、あれ?深雪ちゃんのことかな?と考えたら書かなくてはならない気がして書いてました。
タイトルはアレですが健全な作品です(笑)
ソファでコーヒーを飲みながら、お兄様は器用に片手で読書を。
私は端末で世のトレンドを斜め見していた。
無言で寄り添いながらの空間は心地よいモノで、肩を寄せ合うことにより熱を分け合うことでちょうどいい体温が心を穏やかにしてくれる。
恋人になろうとも、兄妹の頃から身を寄せ合う安心感は変わらない。
…それは、触れ合い方にもよるだろうけれど、今のお兄様の触れ合いに何かをしようという意図はなく、私もこの何もしないでくっつく時間が好きだった。
肩に回された腕の中、身を預ける様寄り添った状態で端末をスクロールしていく。
何時の時代も情報というのは重要だ。
ある程度世の中のトレンドを知っておくことは死活問題、とまではいかなくともそれなりに知っておかないと世間から取り残されてしまう。
情報はコミュニケーションを円滑にするために必須なのだ。
社交界で使われるものから学校の雑談レベルまで。どのような情報がいつ役に立つかなどわからないけれど、社会を知らねば会話に入れない。
私の通うお稽古には淑女教育が組み込まれている。紳士淑女の会話では、相手に如何に隙を見せないかが勝負。知っていても知らないふりをして詳しく聞き出し隙を見出し突っ込んだり、上回る知識でマウントを取られた時の対処法など様々ある。
そういう時に恥を掻かないためにも情報収集は大事なのだ。
ということで今日も今日とて世間の情報を収集するためざっと目を通しているのだけれど――
(これは…)
目に留まった文字に一瞬固まってしまった。
その間優秀な深雪ちゃんの脳内は目まぐるしく動いているのだけれど、ちょっと、文字を見つけただけなのにお兄様の腕の中にいることが気まずくなった。
「深雪?」
どうした、とすぐにお兄様が異変に気付く。
そうだよね、腕の中に納まっているのだから体が緊張したのなんてすぐに伝わってしまう。
急いで端末の画面を消したけれど、その直前にお兄様の目が向けられていたのだろう。ブラックアウトした画面に映るお兄様の瞳と目が合った。
素晴らしい動体視力と一瞬もあれば完全に記憶してしまうお兄様のこと。嘘は付けない。
出来る事なら嘘を吐きたいところだし、誤魔化せるなら誤魔化したいところではあるが、誤魔化せるようなトピックが他にない。
「…口にするのは少し、勇気がいると言いますか…」
完全にはぐらかせはしないだろうけれど、原文そのままを口にするのは憚られる。
それをぼかしながら気持ちが伝わるように見つめながら伝えるとお兄様は一拍考えられてから。
「恥ずかしがるような言葉か。一つだけ異様なものはあったな」
やっぱり。すぐに消したけどあの一瞬をお兄様はしっかりと見逃すことなく覚えておいででした。
…ここは腹を括るしかないようだ。
トレンドの中でもひときわ異質だった文言、それは――『清楚えっちチャレンジ』というもの。
それを見た瞬間、脳裏に過ったのは、
(清楚えっち…それはイコール深雪ちゃんのことでは?)
という煩悩に塗れた答えだった。
私は『深雪ちゃん』の名に恥じないように生き、お兄様を幸せにするのだと誓ったその日から深雪ちゃんのスペックを鍛える事に尽力してきた。それは勉強や魔法技術のみならず深雪ちゃんの美を更なる高みへと磨くことも含まれている。
弛まぬ努力は身を結び、まだ少女の域から抜けきらないながらも大人にも劣らぬ艶があった。羽化したばかりの蝶のように、色づき初めの透明度のある、数瞬の美。
このわずかな時期しか見られない、儚くも美しい姿に色香が加わりえもいわれぬ美を体現していた。
加えて淑女の所作により品の良さも合わさることで気品と清廉さが窺えて、そこに触れることを躊躇うほどの新雪の白を思わせる無垢さも匂わせているという、まさに神の創りたもうた芸術作品と呼ぶのにふさわしいほどの美しさがそこにはあった。
(純真無垢のようでいて匂い立つ色気も漂うなんて、本来この二つが交じり合うことなんてあり得ないのに、それを併せ持ってしまう、この少女と女性の時期だからこそ見られる希少な美を完璧に造りあげてしまうだなんて…深雪ちゃんスペックすごいわ…)
清楚えっちも両極端に位置する言葉のはずなのにね。見事に調和している。
でもね、原作の深雪ちゃんを思い出してほしい。彼女は清楚な淑女でありながら、お兄様を前にすると乙女になってつい惹き寄せられて無意識にやらかしてしまう女の子だった。最後にははっと気づいて恥じらって逃げてしまうけど、あれはドキドキするシーンだ。
(ドキドキするラブハプニング――すなわちえっち。深雪ちゃんったら大胆!テレビの前でドキドキしたものですよ)
元々素養はあったのだ。お兄様も危機感を覚えられていたし。
と、深雪ちゃんは元から清楚えっちだった…?などとそんなことをつらつら考えたり回想していた、なんてお兄様に言うわけにはいかない。
一応自分のことでもあるとはいえお兄様の妹をいやらしい目で見てました、なんて言えるはずがない。
「…達也様も、ご興味がありますか?」
なので、方向性をずらしてみました。
私が何を思い描いたか、ではなく、清楚えっちチャレンジに興味があるか、と。
答えづらいことを訊ねたと気付いたけれど、後には引けない。
(恥ずかしいけど、その質問の方がマシなので)
清楚えっちで自分を連想して固まりました、なんて言ったらどうなってしまうのか想像もできない。
お兄様とは恋人同士になったけれど、こういった直接的な異性に対しての質問などしたことがなかった。
これまで兄妹として過ごしてきたのだ。…恋人らしいことをやっていたとしても、そういった話題を上らせることは避けていたのだと思う。
だからいきなりこんな質問をしてはお兄様と言えど戸惑うのではないかな、とちらっと見上げるのだけどお兄様にとっては些細なことだったのか、動じることも無くじっと私を見ながら思案して――
「深雪が挑戦してくれるならぜひ見てみたいな」
…思ったより前のめりで答えが返ってきました。
お兄様、兄モード解除されました?肩を抱く手が逃さないとばかりにしっかり掴まれた。
しかし、お兄様のお言葉から推察するに、お兄様にはどうやら私が清楚えっちには見えていないらしい。
…オタクの目が悪いのかな?私にはすでに深雪ちゃんイコール清楚えっちの式が成り立っているのだけど。
原作の深雪ちゃんとでは言動に違いがあるから、お兄様にはそう見えないとか?
少しだけもやもやしていると、わずかに頭を傾けて問われる。
「チャレンジ、というからには何かするんじゃないのか?」
ああ、そういうこと。
お兄様の仕草にきゅんとときめきつつ、どうやら素の状態ではなく清楚でエッチな要素を加えた状態とやらを所望されているようだと理解。
確かにチャレンジ、挑戦というからには何かをすることでそう見せる、ということになるのか。
……。
お兄様もそういうことにご興味があったのですねぇ。
「俺だって男だからな」
「…心を読まないでくださいませ」
先ほどから口に出していないのに疑問に思っただけで答えが返ってくる。
わざと不満そうに見つめれば、楽しそうに目を細める。その視線には期待も込められているようで、敵前逃亡は許されないらしい。
さて、どうしたものか、と自分の恰好を見下ろしてみる。
いくら婚約者であっても、というより婚約者であるからこそ、みだりに肌を見せるような恰好はできない。
…原作の深雪ちゃんの恰好が悪いわけじゃない。私にその勇気がないだけだ。あの大胆さは高レベルすぎて私には無理なのです。
自信が無いわけじゃないけれど、単純にお兄様からの視線に耐えられる気がしない。
だから今も肌をほとんど見せない白のブラウスにロングスカートというシンプルな恰好だ。シンプルとはいえ首元にはレースの刺繍が施されていたり、スカートもタイトめのロングなのでウエストの細さと腰からお尻にかけてのラインが浮き彫りになるデザインではある。
それが見えないようにお尻が隠れるほどの裾の長い、サマーカーディガンを羽織っているので落ち着いた格好に見えているはずだ。
(だけど…うん。これなら表現できるんじゃないかな)
腕を一旦外してもらい、背を向けるように体を傾けて、止めていなかったカーディガンのボタンを一つ一つ下までしっかりと閉める。
ボタンをしていない時にはふんわりとぼかすようであったのに、全部閉めることでぴたりと身体のラインがはっきりと表れる。
その上、一部ボタンがはちきれそう、とまではいかないが引きつっていた。生地も、伸びている。
全て閉め終わるとかっちり、きっちりすべてを覆い隠す。
肌など首から上しか見えない。
ただ、ボタンを閉めただけ。それだけだというのに印象はがらりと変わった。
まるでタイトなドレスを纏ったような扇情的な曲線を描いているにもかかわらず、襟までしっかり止められたボタン、足首近くまで覆い隠されたスカート、更にその下も靴下で覆われているという貞淑さが窺える。
「…いかがです?」
振り返りながら俯き加減から髪を耳に掛けながら伏目がちにお兄様を見上げる。
――魔性のように誘惑をしておいて、純真無垢な初心さが触れることを躊躇わせる。
瞳を揺らすのもポイントだ。…と言いたいけれど頬が赤いのも目が泳ぐのも演技ではなく普通に恥ずかしさから。ちょっとあざとすぎただろうか、と不安になったのだ。
ゆっくりと見上げてお兄様と視線が合うと、お兄様は先ほどまでの穏やかな表情を消し、無表情でじっと見つめてから。
「まいったな」
白旗を上げる言葉と同時にお兄様の長い腕が壊れ物に触れるよう私を包み込むとふわっと持ち上げられて足の上に乗せられていた。
乗せられていた。
…何たる早業。
「今日は寛ぐ時間にしてあげたかったのに」
すまない、と謝罪を口にしてから口付けられる。
そっと、重ねらた唇が熱を伝えるだけで離れて視線が絡み合うと、肩口に頭を寄せて、
「たまらない。最高に清楚でえっちだ…」
抱き込んで吐息を首にかけられ擽られた。
まだ肝心なところに触れられているわけでもないのにそれだけでぞくり、と背中が震える。
それはその先の快感を期待しているからか。体に熱が篭り始めた。
「俺はダメな兄貴だな。今日くらいお前の兄でいてあげたかったのに、お前の魅力に抗えない」
「では、私は悪い妹ですね。『お兄様』を誘惑するなんて」
改めてため息を漏らすお兄様は自嘲しているけれど、お兄様をその気にさせたのは私。
再び絡んだ視線に引き寄せられるように顔を寄せ、重なった唇は、今度はすぐに離れることはなかった。
清楚えっちと見た瞬間、深雪ちゃんかな?と思いました。
服は脱がなくても、肌を見せなくてもえっちに見える。それが清楚えっちの境地ではなかろうか(←
いや、どんなものか知りませんけどね。背徳感がありそう。
お粗末様でした。