妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします! 番外編   作:tom200

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芸能パロで光宣君メインのお話です。

ドッキリの後の時間軸になります。

毎回適当に書いていたため設定が定まっていなかったので、昔から成主に前世魔法科世界で過ごした記憶があることになってます。
ふんわりお読みいただけると助かります!



右手に花を、左手にケーキを(芸能パロ)

 

 

幼少期、一年のほとんどをベッドの上でしか過ごしてこなかった光宣にとってその出会いは運命であり、奇跡であった。

 

 

 

モデルのミノルがトークバラエティに出演すると公表されてから一週間後、会社では女性社員がこぞって定時上がりを宣言し、夜の街には軒並み女性の姿が無くなっていた。

世界中の女性を虜にする、まだ二十歳にも満たない、デビュー僅か一年足らずでトップカリスマスーパーモデルにまで昇り詰めた美青年。

今世界で最も注目を浴びる彼の、初のトーク番組出演とあって番組が始まる前からその局の視聴率は上がり始めていた。

司会者はベテラン芸人で、真面目な話も楽しくさせる話術のプロだった。

どんな喋り下手でも拾い上げるので、ファンたちも安心して見られると確かな信頼を置きつつドキドキワクワクしながらテレビの前で待機していた。

彼はまだデビュー一年目で、雑誌などで容姿は有名になるものの、インタビューなどはほとんど受けないことからプライベートどころかどんな声なのかもほとんどわからない、謎に包まれた存在だった。

それがある日突然、なんの予告もなしに検証バラエティ番組にサプライズ出演を果たす。

世間は絶叫した。

笑顔など見せたことも無い、クールな青年と思われていた彼が、満面の笑みを浮かべて画面に映ったのだ。

偽りなしに救急車が呼ばれる事態にまで発展した。

画面越しであろうとも、それほどまでに衝撃的だった。

 

「おかえりなさい、タツヤさん」

 

透明感のある落ち着いた声色に滲むのは出迎えられる嬉しさか。そこから満面の笑みの出迎えからの流れるようなハグ。

彼の日常が垣間見れるのは嬉しいが、初っ端にしては刺激が強すぎた。

しかも相手は今を時めく、テレビで見ない日はないと言われるトップアイドルのタツヤ。二人の謎過ぎる交友関係も視聴者を混乱の渦に落とした。

体が弱い彼を気遣うタツヤに、一晩眠って元気になりました!とはにかんで元気をアピールするミノルにファンはキュンキュンした。

――そして明かされる二人の関係に更なる混沌が視聴者を襲った。

ミノル曰く、

 

「僕は、二人の息子です」

 

と。

現役トップアイドルタツヤと、その妹の間の息子だと宣言したのだ。

これで混乱しないわけがない。

ただでさえタツヤのファンの間でも最愛の妹は実在するのかと囁かれていたのに、ミノルの発言で存在が確定したのだ。

マサキの衝撃や反応振りもその一端を担っているのだが、何せ親子発言の衝撃が大きすぎて陰に隠れてしまった。

とはいえ徹底的に姿も声も映っていないのだが、画面に映らずともその存在感は有り、彼女の言動が彼らを笑顔にさせているのもよく伝わった。

そこには確かに家族愛が見えたのだ。

この番組により、タツヤは重度のシスコンであると共に愛妻家であるとも認識され、ミノルは病弱で儚く、繊細で人を寄せ付けない印象から、両親に愛され幸せに育った家族大好きの息子というイメージが定着した。

この放送後が転機のように彼の仕事にも影響を及ぼし、稀にだが笑みを浮かべるシーンが見られるようになる。

事務所が笑みを解禁したのだ、と噂になったが、そもそも事務所がクールでミステリアスなイメージづくりの為笑みを見せないようにと指示したのかも真相は定かではない。

その辺りも今夜の番組で明らかになるのだろうか、と世間は注目していた。

 

 

 

 

「今夜のゲストはこの方!」

 

司会者がゲートを振り返ると同時に開かれた扉からゆっくりと下からシルエットが見えてくると、足元だけで黄色い悲鳴が上がる。

細さと長さが違う。足だけですでにオーラがある。

ネットにはすでに似たような書き込みが溢れていた。

 

(そうでしょう、そうでしょう!)

 

テレビの前で大きく頷いてクッションを抱きながら画面を見守る私は、自慢の息子が褒められたことで鼻高々になっていた。

待ちに待った愛息子の晴れ舞台に、私のテンションは最高潮!

ちなみにこの番組は夜の時間帯だというのに生放送という珍しい番組で、数々のタレントたちの本音を引き出すことで人気を博していた。

偶に引き出しすぎて炎上をするタレントもいるが、うちの子はとてもいい子なのでそういった心配をすることも無ければ何も恐れるものはない。

でも母として緊張していないか、とか体調は大丈夫かとは心配になるのでハラハラと画面に映る彼を見守る。

そんな心配とは裏腹に、光宣君はとても落ち着いて見えた。

十代にしては大人びた表情で、如才なく挨拶を交わしている。

 

(うん、うん。目上の人に対する礼儀正しい態度、うちの子は世界一紳士でいい子)

 

欲目?違います。世間の反応とそう変わりありません。ネットでもほら!礼儀正しいって!!褒められてるもの。

緊張しています、っていう光宣君のはにかみの威力よ…。観覧席のお姉さま方がうっとりしてますね。ため息さえ聞こえてきそう。

 

「この番組はトークテーマをこの箱の中から引いて決めるんだけど、偶にとんでもないテーマが入ってるから引かないようにね」

「それは怖いですね。引かないようにしないと」

 

くすっと笑いながら手を箱の中に入れて迷うことなく引き抜くさまは潔い。

捲られた腕が意外と筋肉がついていることに目ざとく気づいた視聴者からの書き込みでSNSは一気に盛り上がった。

病弱だけどそれなりに鍛えているんですよ。お兄様とはまた違った筋肉のつき方だけど、彼の場合体脂肪率を下げると免疫力も弱まるのでね。

もう少し体が強くなったら筋トレのメニューを変えるか、とお兄様が専属トレーナーのようにチェックしていたりする。

『昔』と違い、サイオンの異常が酷いわけではなく、体質的なモノなのだそう。どうせなら完全に健康体で生まれ変われたらよかったのに、と思うのだけど光宣君本人は昔ほどひどくも無く、これのおかげでお二人に出会えたのなら悪くない、と教えてくれたのは出会ってすぐ。

彼が記憶を取り戻し、こちらも記憶を持っていることを察知してそっと伝えてくれたのだ。

嬉しかったなぁ、と思い出に耽りつつも一つ目のテーマを待っていると、紙を広げて見せたのは――

 

「『人生で一番キラキラした思い出は?』ですか。そうですね――」

 

 

この後語られる内容に涙で前が見えなくなるとは予想だにしていなかった。

 

 

 

 

僕の前世は成人を迎えるどころか高校を卒業する前に生を終えた。

それも病などで亡くなったのではなく、ある種自殺と言ってもいい方法で死を選択し、自由を得たという普通ではない死を遂げた。

理論的にはできる自信があったが、文字通り命がけの賭けだった。

計画は成功。全て思い通りとはいかなかったが予定通り人ではなくなったものの、失ったものに見合うだけの自由を手に入れた。

だが人を捨てるということは人間社会から外れた生活になるだろう覚悟もしていた。

規格外の力を持つ人外を人の社会が受け入れられるはずも無い。

だからひっそりと彼女と二人、暮らしていくつもりだったのだが、それを思っても無い形で受け入れてくれたのが彼らだった。

 

「生まれ変わっても家族には変わりない、そうでしょう?貴方は私たちの愛しい息子なの」

「前もって相談はしてほしかったがな。反抗期というヤツか」

 

――嬉しかった。受け入れてもらえるということがこれほどまでに嬉しいことなのだと初めて知った。

居場所は、ここにあるのだと、彼女と抱き合いながら一生分の涙を流した。

表立って大手を振りながら自由に出歩くことは無かったが、時折仕事で街中を歩いたり、休暇と称して家族旅行にも行けたことはとてもいい思い出だ。

そう、僕の前世の人生はとても幸せに幕を閉じた。

だからだろう。

新しい人生を、病弱な体で生を受けたが全く悲観していなかったのは。

きっとその前世を無意識に覚えていたからだと思った。

悲しくないわけではない。両親や兄弟があまりお見舞いに来てくれなかろうとも。学校に通えず友人があまりできなかろうとも。

もちろん悔しくなかったわけじゃない。自由に駆け回るどころか座っている時間すら長く保てず、思い通りにならない体も。能力が高いとわかってもそれを活かせる場がないことも。

だが、自らを研鑽することだけはやめなかった。

いつかこの努力を認めてくれる人が現れる、そんなことを期待していたのかもしれない。

家族には初めから何も期待していなかった。唯一可愛がってくれる祖父はいたけれど忙しい人で滅多に会うことができない。

では一体誰に自分は期待していたのだろう?――それは、あの邂逅の為だったのだと知ることになるのだが、当時幼い時分には不思議だったものだ。

 

(いつか出会う未来のお嫁さんかな、とか思っていた自分が恥ずかしい)

 

幼心の淡い期待、妄想だということにしてもらいたい。

幼い頃から子供らしからぬ思考を持っていた。

達観して物事を見て、親や家族はさぞ薄気味悪く映っていたことだろう。

ある程度物事が見えるようになり、表面を取り繕うことを覚えてそれなりに距離は縮めたものの、一番の権力者である祖父に気に入られたことで家族がまた離れていってしまったのは誤算だった。

祖父も孫に友人ができないことを憂いて彼らなら、と連れてきてくれたのが教え子の子供たちで、とても優秀だという二人の兄妹。

その日のことはよく、鮮明に覚えている。

僕の、今世で一番キラキラした記念すべき日――。

 

 

 

「――僕を息子にしてもらった日です」

 

 

どんな言葉も瞬時に返せると評判の名司会者が言葉を失っている。

無理もないかな、と内心苦笑しつつ、説明しないとわからないですよね、と言葉を続けた。

 

「昔はほとんどベッドの上から起き上がれなくて、一年の半分は熱を出しているような生活でした。

あの日もとても苦しくて、高熱と咳で寝込んでいました」

 

それがあの頃の日常だった。

 

「苦い薬を飲んで、浅い呼吸を繰り返しながらも意識を失うように眠る。そんな僕の下に彼らが来たのは丁度眠っている時でした。

祖父が連れてきてくれたのですが、眠っているなら別の部屋で待機してもらおうと彼らを別室へ案内しようとしたら、彼らはここで待つ、と眠っている僕の横に椅子を持ってきて傍にいてくれたんです」

 

そんなこと、血の繋がった家族の誰もしてくれなかった。

目覚める時はいつも一人か、世話をしてくれていた看護師くらいだった。

 

「彼らが来ることなど事前に聞かされていなかった僕はそのまま眠っていて、祖父も次の用事があって席を外して一時間ほど経った頃。

汗を拭われる感覚に目を覚ますと、潤んだ目に眩しい光が飛びこんできました。

とても美しい女神様が、僕に微笑みかけてくれていたんです」

 

キラキラ眩しい光を放つ、人並外れた美貌の少女だった。

熱に浮かされ涙の膜ではっきりと見えない筈の視界だろうとわかる、圧倒的な美がそこにあった。

一瞬、自分は死んで天使が迎えに来たのかと錯覚するほど、彼女の美しさは人間離れしていた。

 

「驚いて声を上げそうになったんですが、僕は咳き込んでしまって声を出せなくて。涙目になって咳き込むのを落ち着くまで見守り、手を握って待ってくれて」

 

ひんやりと冷たいのに温かい手だと思った。

彼女は動揺することも無くただただ笑みを浮かべていて。

 

「――初めて見る反応でした。

見慣れている家族でさえ、咳き込んだりすると慌てるものですが、彼女は落ち着くのを待ってくれたのです。

大丈夫だと信じてくれているようで、安心感を抱きました」

 

傍で辛そうな顔をされるのはどんな相手だろうと心苦しく、気が滅入るものだ。

辛いのは自分だけのはずなのに、辛い姿を見ると感化されて辛い気持ちになる負の連鎖。同情されすぎるというのは疲れるもの。

それを理解してくれているのだと、僕を理解して傍にいてくれているのだと思うと胸が苦しくなるほど歓喜した。

 

「なんと慈愛溢れる女神様だろうと、そう思ったのに、ようやくしゃべれるようになって口から飛び出したのは、まさかの『おかあさん?』との呼びかけでした」

 

完全に無意識だった。

今になって思えばわかる。魂が覚えていたのだ。

だが、そんなこと前世の記憶を思い出す前の自分にわかるわけなくて。

 

「自分でもびっくりしたのですが、同様に声を掛けられた彼女も驚いたように目を見開いていたのに、次の瞬間嬉しそうに微笑んで、応えてくれたんです。

『初めまして。貴方のお母さんよ』と」

 

それが、どれほど嬉しかったことか。

心が震えた。

溜まっていた涙がボロっと零れ落ち、フフッと笑った彼女が泣き虫さんね、とハンカチで拭ってくれた時、記憶の連鎖が起きた。

以前にもこんなことがあったと、――それが前世であったと。

そしてもう一度「お、かあさん?」と声を掛けると彼女はちょっと目を見開いて、冗談めかして「はぁい」と少し照れたように返事をし、直感で彼女も記憶があることが分かった。

――生まれて初めてこの人生に感謝した。

 

(再び出会えるなんて。そしてまた母と呼ばせてもらえるなんて)

 

嬉しさのあまり飛び起きて咳き込んでしまい、しばらく背を撫でてもらうことになったのだが、母の手は変わらずひんやり冷たくて、それでいて温かく、気持ちが良かった。

 

「それが僕とお母さんの出会いです」

「それは、…え、その時皆いくつなの?」

「僕は8歳、二人は一学年上で父は10歳、母は9歳でしたね」

「え、待って。情報が多い。耳が素通りできない」

 

ツッコミどころが多すぎる!と頭を抱えるベテラン司会者に、他人事のようにそうだろうなと同情する。

だけどここはまだ通過点だから、先に進ませてもらう。

そう、出会いは以前よりずっと前、まだ年齢が一桁の時だった。

母がいるのだから父もいるはずだ。

確信して視線をずらせば、空気に徹してこちらを観察している『父』の姿があった。

記憶している父の姿より幼い顔立ちにちょっと感動した。

母も幼いのだが、こちらは簡単に想像できる。が、父の幼い頃など想像もつかなかったのだ。

面影はとてもある。このまま前世で観た姿になるだろうことも容易に想像がつく。

だが、その表情に親しげな色は見えない。他人行儀に浮かべられている社交的な笑みに、父に記憶はないのだと悟る。

再び母に視線を向けるとパチン、とウインクされた。可愛らしい。相変わらず茶目っ気のある母だ。

 

(…落ち込んではいないってことは、父は変わりなく父なんだ)

 

記憶がなくても、相変わらず母を愛しているのは二人の距離と雰囲気で伝わってきた。

ならば僕のことを覚えてないからといって落ち込むことも無い。母が息子として愛してくれるなら父も愛してくれると信じられたから。

 

「母はとてもユニークな人なので。

でも、同じくらい父も変わった考えを持った人で、『お前が母親なら隣にいるのは俺だから、俺が父親になるのか』と真面目な顔で言うんです」

 

一瞬本当に記憶が無いか疑った。

それくらい、父による母への溺愛は以前と遜色ないくらいに見えた。

そして同じくらい、普通じゃない思考を持っている。

おかしな発言なのに不思議なくらい安堵した。

 

「それに対して母も母で、『普通母の兄妹は叔父であり、彼はお兄様にとって甥っ子になると思うのですが…』と首を捻りつつ、次の瞬間には笑って『それも有りですね』と僕を振り返って、『というわけで改めまして、私がお母さんで、こちらのお兄様がお父さんよ』と。普通なら何を言っているんだろう?と思うのでしょうが、僕には本当に両親ができたみたいな気がして嬉しかったんです」

 

またあの幸せな日々が送れるのだと思ったら、喜ばずにはいられなかった。

もう一度息子として彼らと共にありたい。そう願い、二人はその願いを受け入れてくれた。

 

「波長が合った、というのでしょうか。すぐに仲良くなりました。

残念なことに家が遠いので直接会うことは少なかったですが、お見舞いに来てもらったり、大きくなると互いの家を行き来したり、二人が実家を出て暮らすようになってからはお泊りさせてもらったりして。親子としての交流は今も続いています」

「えーと、それが先日世間を騒がせたあの伝説の番組に繋がるのかな?人気アイドルグループのタツヤ君が君のお父さん?だったって話題になった」

「かっこいいでしょう?自慢の父なんです」

「うわ、全国のお父さんが子供に言ってもらいたい一位のセリフ!それを二十歳そこそこの子が貰うの?一体どんな良いお父さんなの?ちょっと世の中のお父さんの参考にさせてよ!」

 

お父さんの良い所を教えて欲しい、との質問に僕は嬉しくなって。

 

「父の良い所ですか?たくさんありますよ。

冷静沈着で、動揺したところを見たことがありません。

頭もとってもいいので勉強も見てもらいました。

母のことをとても深く愛していて、見ているだけで嬉しくなります。

そんな二人に可愛がってもらえると愛されているな、と幸せな気持ちになるんです。

無関心のように見えてさりげなくフォローを入れるところとか、不意に見せる優しさもスマートで。

あと、とっても強いです!お母さんを守る為に昔から鍛えているので腕相撲をしてもびくともしないんですよ。

それから――」

「ちょっとストップ。何?タツヤ君は超人か何かなの⁇あれだけカッコよくてダンスや演技が上手くて、その上優しいの?モテモテじゃん。しかも何、強いって。喧嘩負けなしってこと?格闘とかやってた?」

「詳しいことはわかりませんが、お父さんが負けるって想像ができないです」

 

思いつく順番で父の良い所を述べていったら途中でストップがかかった。

まだまだあるのに、と思ったけれどちょっと興奮しすぎたようだ。途中から呼び方が変わってしまっていた。気を付けないと。

前世でも無敵の強さで、世界を相手に戦えるほどの強者であった父だけど、今世はその実力を発揮する場面がない。

母はいつも厳重な警備システムに守られた家にいるから襲われることも無いのだが、父にとって母は守りたい者なのだ。いつ何時何があろうと守れるように今でも鍛えている。

手ほどきを受けたことがあるけれど、明らかに実践向けの指導に、父は現在何と戦っているのだろうと思わなくもなかったが、彼にとってこれは必要なことなのだ。

その教えは護身術として僕の身も助けてくれているので今も時々修行を付けてもらっていたりする。

…触れられる前に避ける方法とか、さりげなく相手の手をずらすとか。

モデルという職業もそれなりに苦労があるのだ。

 

「あ、でも唯一父が動揺することがあります」

「完璧超人にも弱点?聞きたい聞きたい」

 

食い気味に聞かれると、ちょっと申し訳なくなる。だって、こんなの誰だって簡単にわかることだから。

 

「なんてことはありません。母からのイタズラです」

 

そう、お父さんの弱点はいつだって母だ。

父の心を唯一大きく揺さぶることのできる、最愛の人。

 

「彼が動揺って、想像つかないけどどんなイタズラ?」

「とはいっても成功はなかなか難しいんですよ。父は気配を読むのが上手いので驚かせること自体が至難の業ですから」

「…気配って、やっぱり武術の達人か何か?何でアイドルしてるの⁇」

 

その疑問は僕も常々思っている。

どうして達也さん、アイドルなんてしてるんだろう?

前世を知っているだけに不思議で仕方がない謎だ。

 

(収録が終わったらお母さんに聞いてみようかな)

 

「アイドルになった理由は先にスカウトされた母の代わりに、と伺ってますがどうなんでしょう?

でも、母がスカウトされるのは必然でしょうからそこに関しては何もおかしいとは思いませんが」

「なんでも絶世の美少女だとか。さっきミノル君も言ってたね。でもスーパーモデルのミノル君の美貌には及ばないんじゃない?」

「うーん、見れば誰もが納得すると思うのですけどね。それは父が許さないでしょうから」

「…そう言われると気になってきちゃうんだけど、そんなに美少女なの?」

「今はもう絶世の美女とも言えますが。時に可憐で愛らしく、時に凛として美しく。僕は生まれてこの方彼女ほど美しい人に出会ったことがありません。そしておそらく二度とないでしょう」

「世界中のモデルを見ているミノル君の発言だと信ぴょう性があるね。タツヤ君に似てる?」

「いいえ。同じ黒髪でも全く彼らの印象は異なります。仕草や表情が似ている時はありますけどね。容姿はほとんど似てません。だから彼らが街中で歩いていても兄妹だと見抜ける人はいないでしょう。…そもそも似ていたとしてもあの仲睦まじさから兄妹と思う人はいないと思いますけれど」

「そんな仲良いの?」

「僕にとっては見慣れた光景ですが、この間マサキさんとご一緒した時に仲の良さに不満を抱かれていましたから」

「ああ、それは見た。あれはまごうことなき嫉妬だったわ。兄妹相手に嫉妬も何もって思ったけど」

「父と母の間に誰かが入れるとは思えませんね。それにもし割って入ろうとするならまず息子の僕を倒してからにしてもらわないと」

「いやいやいや!それ誰も入れないやつ!!」

 

どっと笑いが起こるけれど、掛け値なしに本気である。

父と母の邪魔をする者は何人だろうと僕が排除するつもりだ。

彼らの幸せは僕の幸せでもあるのだから。

 

「話がずれにズレたけど、結局タツヤ君を驚かせるイタズラってどんなの?」

「そうでした。この間父を驚かせていたのはとんでもないサイズのプリンを作って出した時でしたかね。これくらいのバケツサイズの。でも大きさだけで驚かせるでは済まないのが母のイタズラで。――食べるとプリンの味じゃなかったんです」

「何だったの?」

「ウニです」

「………ウニ?ウニってあの?」

「そのウニです」

「…それをバケツサイズで?」

「父も流石に驚いてましたね。こんなに食べたら体に悪いのでは、と」

「いやそこ!?確かに通風とか怖いけど!」

「ですが母が何の考えもなしに父の体に悪いものを食べさせるなんてことはありえませんから。実は何層にも重ねて作られていて、表面だけがウニだったんです。その内側は茶わん蒸しでしたし、最後には普通サイズのプリンが出てきました」

「…どれにしてもコレステロール値が気になるわ」

「三人で食べましたのでセーフらしいですよ」

 

そこまで計算されてました、と言えば司会者はぐったり項垂れてしまった。

 

「言ったでしょう、とってもお茶目な人なんですよ」

「ちなみに味は?」

「とても美味しかったです」

 

そして工程を聞いてとてつもない手間がかかっていたことを知る。

母のイタズラはいつでも全力投球なのだ。だからこそ、父も驚きを隠せない。

 

「…楽しそうな家族だね」

「ええ!とても幸せです」

 

心から笑顔で答えた時だった。

 

「――そう言ってもらえると父親冥利に尽きるな」

 

僕が登場した扉が再び開いた。

そこには父の、アイドルらしいキラキラした恰好のタツヤの姿があった。

 

「お、とうさん⁇」

「隣のスタジオで撮影だったんだ。無理を言って乱入させてもらった」

 

こんなこと台本にもなかった。が、スタッフはもちろん司会者も把握していたらしい。

 

「はい、ということで今日はスペシャルゲスト!本当はビデオ出演だけのはずが、本人たっての希望でご本人の登場、タツヤ君でーす」

 

きゃあああ!と黄色い声が上がるが、僕も僕で驚きのあまり声が漏れてしまった。

それを苦笑しているように見えて、その裏で愉しそうに笑っているのがわかる。

父も父でイタズラ好きだったりするのだ。

まさか生放送でこんなイタズラを仕掛けられるとは思わなかったが。

 

「お父さん、これお母さんにも内緒にしてません?」

「あの子がお前の活躍を見逃すはずがないからね」

 

これ、僕へのイタズラであると共に母へのサプライズでもあったようだ。

 

「ってことでタツヤ君、息子のミノル君の言葉聞いてた?」

「直前まで撮影をしていたので、残念ながらつい先ほどの幸せだと言ってくれたところからしか聞いてないです」

「なら後でしっかり見ておいてね。ハンカチ用意して」

「それは楽しみですね。ぜひ家族そろって観たいものです」

「…せめて僕は外してください」

 

流石に本人の前で観るのは恥ずかしい、と訴えるが父が逃げ道を塞いでいないわけがないのだ。

 

「マネージャーからスケジュールは聞いている。今日はうちに一緒に帰ろう。俺ももう最後の予告を撮れば上がりだ」

「!!え、でも、明日は――」

「それはダミーだ」

 

明日も撮影が入っていたはずだったのだけど、まさかのマネージャーも共犯者だったとは。

 

「このまままっすぐ帰ってはお母さんも迎える準備ができないだろうからケーキでも買いに行こう」

「!なら、僕は花束も贈りたいです」

「いいね、きっと喜ぶ」

「えー、これから駆け込みで花屋とケーキ屋が混雑しそうです。ご注意くださーい。世の中のお父さん、家族サービスするなら今がチャンスですよー」

 

司会者の言葉に、うっかりテレビだということを忘れていた。

こんなんじゃプロ失格だ。そろり、と父を見上げるとこちらの動揺もわかっているとばかりに、フォローが入る。

 

「真剣に驚くのもプロのエンターテイナーの仕事だよ」

「…お父さんはずるいです」

「知らなかったか?」

「知ってました!帰ったらお母さんに慰めてもらうとします」

「ミノルも大概ずるいな」

 

ささやかな反撃。

母を少しの間独り占めしようとの発言に、初めて父の眉間に皴が寄る。

ほんの少しの時間くらい息子に独占させてほしい。そしてそのあとは三人でぎゅっとくっつくのだ。

 

「ほんと仲が良い親子だね」

「「はい」」

 

 

 

 

全く容姿の似ていない筈の二人のそっくりな笑みに、血のつながりがなくとも彼らは親子だとネットは称賛と感動の嵐だった。

残念ながら質問はまさかの一問のみで終了となったが、番組は大いに話題となり、これもまた伝説として語り継がれるようになる。

 

 

 

おまけ

 

「お母さん、本当のところ、どうしてお父さんはアイドルをしているのです?」

「私がスカウトされたのを将輝君が代わりに自分が、と立候補したのも事実で、お兄様がその後便乗したのも事実なんだけど、お兄様には別のお考えがあったようね」

「考え?お父さんが目立つことで何かメリットが?」

「というより、叔母様と交換条件で私を外に出さないようにしたことが重要だったのではないかと思うわ」

「…まさか」

「これは私の憶測でしかないのだけど、前世こそ覚えていないけれど前世での後悔は残っているんじゃないかしら」

「…お父さん…独占欲が強いとは思っていましたが」

「元々アウトドア派でもなかったから今の生活は私にとって快適な暮らしではあるのよ」

「……ちなみにお父さんに限ってそのようなことは無いと思いたいですが――」

「そこは安心して。お兄様にとって私は大事な『可愛い妹』だから」

「無体はされていない、と」

「うーん、息子にそこまで心配されるお兄様…」

「お父さんの執着はよく知っていますので」

「それは前世で?」

「今世でも」

「…不思議よね、お兄様覚えて無いのに」

 

 

 

 





お兄様、記憶が無かろうとも妹を誰の目にも触れさせないよう閉じ込めたいという願望を叶えました。
本来ただ妹が光宣君の看病をするシーンが書きたかったのに、なぜかトーク番組風に。
怒涛の前世を乗り越えた妹はどんなお兄様でも受け入れます。
お兄様が望むのなら軟禁エンドも「仕方がないお兄様」で流せちゃう。
前世でたっぷり愛されたのでその分、器ががばがばに。お兄様愛したい放題。前世よりも愛が暴走しがちだが、物理的にお兄様が傍にいる時間が少ないので妹はこの楽しいヒキニートライフを満喫している。
これもこれでハッピーエンドで。
わちゃわちゃ家族は書いてて楽しいです。

お粗末様でした。
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