妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします! 番外編   作:tom200

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こちらは別サイトでも本日上げさせていただいた話をそのまま掲載したものになります。

公式さまの投下した爆弾に被弾して書かずにはいられませんでした。
『魔法科高校の劣等生・お兄様の日』記念日登録、おめでとうございます。



祝!『お兄様の日』制定

 

「お兄様の日です!」

「……うん?」

 

ダイニングに降りると、挨拶よりも先に、キラキラと輝く笑みに迎えられたが、うまく反応ができなかった。

そんな鈍い反応を返したというのに、深雪は嬉しそうにニコニコと、もう一度「お兄様の日ですよ」と言った。

 

「さっき日付を見て気付いたのですが、本日は2月13日で、『お兄様』の語呂合わせになるのですよ」

「……ああ、そういうことか」

 

一応理由らしきものがあったので理解はしたが、飲み込めてはいなかった。

だが、まあ。

 

「今日も深雪は可愛いね」

 

そんな理由ではしゃぐ妹が可愛かったので抱きしめると、先ほどまでの勢いはどこへ行ったのか、急にしおれたように動かなくなってしまった。

……うん、可愛い。

 

「おはよう、深雪。朝からご機嫌だな」

「……おはようございます……」

 

羞恥で真っ赤に染まるところも、とても愛らしい。

三十秒どころかその倍以上抱きしめたところで、深雪からタップされ、放してやる。

困った顔も堪らない。

 

「……その……」

「ん?」

「あまり、そのような目で見つめないでくださいませ……」

 

そのような目、というのがどういうものか自覚はないが、恐らく言外にものを語っている目なのだろうと察した。

言葉にするとすぐに恥ずかしがって隠れようとするから遠慮したのだが、無意味だったようだ。

 

「朝からはしゃぐ姿を見られて、今日はいい日だな」

 

心からの言葉だったが、「それはようございました……」と、深雪がさらに小さくなっていく。

これ以上いじめるのは可哀想か、と――まだまだ愛でたいところではあったが、ルーティーンに遅れると深雪が悲しむので、用意してくれていたドリンクを飲み干した。

 

「じゃあ、行ってくる」

「お見送りします……」

 

この様子では無理かな、と思ったのだが、玄関までは付いてきてくれるらしい。

こういう律儀なところもまた、可愛らしいところだ。

 

「お兄様」

 

玄関で準備を整え終えたタイミングで声を掛けられ、振り返ると、ふわり、と深雪が春の訪れを彷彿とさせる温かな笑みを浮かべていた。

 

「本日は我が家で『お兄様の日』を制定し、お祝いをさせていただきます。思い付きですので、大したおもてなしもできませんが、精いっぱい努めたいと思います」

 

こうしてまた、司波家に新たな記念日がつくられた。

深雪がそうしたいというのであれば、俺が否を唱えるはずもなく。

 

「楽しみにしているよ。だが、無理のない範囲でな?」

 

この妹は、時折振り切ってとんでもないことをすることがある。

兄として注意をすれば、もちろんです、と良い子の返事をする。

……少し心配だ。一体何をするつもりなのか。

少々の不安を抱えながら、家を出るのだった。

 

 

 

いつもより早く戻ったのは、恐らく気がはやったからだろう。

師匠にも、浮かれていることを指摘された。

そして、いつもより多く転がされたのは、自分が気を抜いていたからではなく、師匠の指導に熱が入ったからだったのだと思う。

あの人は気分屋なところもある。

指摘したら、「たまにはこういう緊張感がないとね」などと言っていたが。

 

「おかえりなさいませ、お兄様」

「ただいま。――すまん、今日はだいぶ汚れているから、後でお願いしていいか?」

 

走ってきた際に落ちたとはいえ、あれだけ砂に塗れたのだ。

このままハグをしたら深雪が汚れてしまう。

朝一番に見た時と違い、以前俺が選んだエプロンをわざわざ身に着けてくれたのだろう。

真っ白なエプロンごと汚すことは躊躇われた。

だが、深雪はそんなことはなんともない、と微笑み、抱きしめてくる。

 

「お兄様は気にしすぎです。そんなもの、パパッとしてしまえばいいのです」

 

そう言ってどこからともなく取り出したCADを片手で操作し、二人は白い靄に包まれた。

正に『パパッと』という表現通り、清潔な状態になっていた。

 

「相変わらず見事なものだ」

「お褒めに与り光栄です」

 

共に汚れることも厭わず抱きしめられ、俺が気にするだろうからと魔法で杞憂の元を消し去られた。

本当にこの子は、俺に甘すぎる。

その甘さに溺れそうだ、と少し強く抱きしめて気付く。

いつもならすでに終了の合図が出されるのだが、と顔を上げると、深雪は困りつつも照れた顔で、

 

「今日はお兄様の日、ですので」

 

お兄様のお気の済むまで、と。

 

(……なんて、凶悪なことを)

 

そんなもの、抱きしめた瞬間から満足しているし、このまま抱きしめ続けていいだなんて、どこまでも兄を付け上がらせる――悪い妹だ。

 

「そんなことを言ったら、学校を休むことになるな」

「……お兄様が望まれるのでしたら、と言いたいところですが、世間ではこの記念日は認可されておりませんからね」

 

……日本に多くある記念日は、申請が通れば簡単に登録されるらしいが、深雪もそこまではしないだろう。

 

「残念です」

 

にっこり微笑む深雪に、届け出を出したりはしていないよな?とは聞けなかった。

 

 

 

昼時間も、友人たちに浮かれていることを指摘されたのだが、『無表情の割にバックに花が咲いている』とは、どういうふうに見えているのか気になるところではあったが、まあ、それは置いておくとして。

 

「おかえりなさいませ、お兄様」

「ただいま。深雪もお帰り」

「はい、ただいま帰りました」

 

帰宅して、いつもと変わらないハグ。

だが、違うのは30秒を過ぎても、まだ熱を分け合えること。

 

「このまま抱いたまま、部屋まで運ぼうか」

「それは……足下が危ないので」

 

冗談半分で言えば、若干引き気味に答える深雪に、これは諦めるところかと引き下がった。

抱きしめるのは玄関まで。

 

それから部屋に一度戻り、深雪は夕食をいつもより時間をかけるとのことだったので、こちらも今晩予定した分をこの時間でできるだけ終わらせてしまおうと、集中して作業に取り掛かった。

 

それから一時間半ほど没頭したところで、深雪が呼びに来た。

が――

 

「……これは、俺も着替えた方がいいか」

 

そこには、フォーマルでも通用するワンピースドレスに身を包んだ深雪の姿があった。

 

秋冬用ではあるので、露出は手首と足首だけ。首元もレースで覆われている。

それでも隠し切れない色香を感じさせるのは、女性らしい曲線が浮き彫りになっているからか。

 

手の甲の半分までレースで覆われた手を口元へと運び、少々首を傾けて上品に微笑むと、まとめられた髪からひと房こぼれた髪が、重力に従って垂れた。

 

それだけで、心臓が大きく音を立てた。

 

「私の恰好は、お兄様に楽しんでいただくためのものですので、お気になさらなくてもよろしいかと思うのですが……そうですね。気になるのでしたら、すべて着替えずともジャケットを羽織るだけでもいいのではないでしょうか」

 

その提案を有難く採用させてもらうことにして、深雪から視線を逸らすきっかけを得た。

 

(……深雪のおもてなしの凄さを、甘く見すぎたか)

 

いつまでも見つめていたい妹ではあるし、触れていたいとも思うのだが、それでは妹を困らせてしまう。

 

(それに、そんなことをしたら俺自身が駄目になるだろうな)

 

きっと、一度それを許してしまえば手放せなくなってしまう。

何もせず、この幸福に浸ってしまう。

 

それもとても幸せなことだろうが、自由を生きる深雪を見守りたい思いもある。

 

この二つは両立が非常に難しく、どちらかを選ぶしかないのなら、現実的な後者を選ぶ。

 

「なら、すぐに着替えてこよう。料理が冷めてしまう前には戻らなくてはね」

 

髪を崩してはいけないので、垂れたひと房を摘まみ、指に絡めてから急いで自室に戻った。

早く移動しないと、すれ違い様に漂った甘い香りに引き寄せられてしまうだろうから。

 

 

 

シャンパングラスには、ガス入りの水。

雰囲気づくりも大切にする深雪は、テーブルにもクロスを引いていて、随分本格的に見えた。

 

食事も、出来立てのように湯気が昇っている。

これはまた魔法を使ったのだろう。

 

なんと贅沢な夕食だろうか。

 

深雪は「こんなものしかできませんでしたが」と謙遜するが、これのどこが『こんなもの』なのか。

むしろやりすぎの部類に入るのではないかと思うのだが、こういう凝り性なところも深雪らしい。

 

「では、記念すべきお兄様の日に」

 

掲げられたグラスに合わせて音を鳴らす。

しかし、やはり釈然としない。

 

『お兄様の日』とは一体……何を記念とする日なのか。

 

(いや、単なる語呂合わせなのはわかっているのだが)

 

問題は、深雪が何をしたいのか、だ。

 

11月には「いい兄さんの日」というのが元々あって、うちではそれを深雪と俺がねじ曲げ、『いいお兄様の日』に改変。

深雪から日ごろの感謝の礼として、俺が深雪を好きに世話させてもらえる日、ということにしている。

 

これもこれで意味不明の内容になっているのだが――

 

深雪にずっと感謝を伝えられ、一日尽くされるというのは、なんとも落ち着かなかったのだ。

 

どうせ感謝してもらうのなら、自分の好きなようにさせてほしいと願い出たことで、普段はさせてくれないことを許される日に変わっていったのだが、それが最終的に深雪の世話をすることに落ち着いた。

 

今度は一体どんなことになるのか。

 

きっと、この美しい姿も、食事も、彼女にとっては前座に過ぎないのだろう。

 

俺では予想もつかないことをする可能性が高い、と内心緊張感を高めている間に、食事は終了した。

 

どれもこれも美味しく、デザートこそ出てこなかったが、レストランで出ても遜色ない出来栄えだったように思う。

 

「ごちそうさま。とても美味しかったよ」

「お粗末さまでございました」

 

食器を下げるのを手伝おうとしたら、「今日はお兄様の日なので」と断られかけたが、そこは強引にいかせてもらった。

その方が二人の時間をたっぷり過ごせると言えば、深雪はよく見える首元まで赤く染め、しばし無言で片づけをした。

 

 

 

一通り終わり、先にソファで待つように促され、腰を沈めてしばし。

コーヒーの香りを漂わせて深雪が現れる。

 

「お待たせしました」

「お疲れ様」

 

今日はいつも以上に大変だったろうと労うと、はにかみながら隣に腰を下ろす。

ひと房の髪を耳にかける仕草、腰を下ろす際に服に皺が付かないよう均す手、そして腰を下ろした瞬間ふわりと漂う、香水のような人工的な香りとは違う甘い匂いに、『兄』の立場が揺らぎそうになる。

 

世界一美しい妹を持つ兄の宿命なのだろうか。

時折このように試練を与えられた気分になるが、自分は深雪の兄なのだから、と自分を戒めた。

 

「お兄様」

 

そんな葛藤を抱えているとは知らない深雪は、すっと姿勢を正してこちらに体を向ける。

 

「色々と悩んだのですが、お兄様に選んでいただこうかと思いまして」

 

そして提案されたのは、二つ。

 

「その……今朝もやりとりがありましたが、30秒のハグが足りないのでしたら、満足されるまでハグをされたらいかがかと」

 

……とても、とても魅力的な提案ではある。

が、それは夕食前に結論が出ていた。

 

もう一つは――

 

「お兄様はいつもお仕事や研究でお疲れでしょうから、マッサージで疲れを取って差し上げられたら、と」

 

今ならリクエストにお応えしてハミングもお付けしますよ?

と、これまた魅力的な提案をしてくれるのだが――なぜだろう。そのマッサージは危険な気がする。

 

「マッサージか。以前にも肩を揉んでもらったね」

「はい。ですが、今回は肩だけでなく、全身をさせていただければと思います」

 

「ソファに横になっていただいて――」と説明してもらっているところ悪いが、これも却下だ。

マッサージとは案外力がいるものだ。深雪の手にそんな重労働をさせるわけにはいかない。

 

それに何より――

 

(それは一体どんな耐久レースだ?)

 

何がどう、などと考える前に、これはさせられない、と心の中で大きくバツ印を書いた。

 

深雪は呑気に「どちらでしょう?」と首を傾げているが、残念ながらどちらも選べない。

 

「どちらの提案も魅力的だが、これは俺への感謝の礼なのだろう?

だったら俺の好きにさせてくれるか? もちろん無理なお願いなどするつもりはない」

 

一瞬、深雪の身体が緊張で強張ったのを見逃さない。

一体俺が何をお願いすると思ったのか……いや、前科があったかと過去のことを振り返る。

 

日ごろから揶揄い過ぎたツケが回ってきたのか。

だが、当然ながら妹に無体な真似をするはずもない。

 

しばらく沈黙が続くが、何かひらめいたらしい。

深雪が「少しお待ちくださいませ」と一旦席を外す。

 

すぐに戻ってきたが、その手には一枚のカードが。

 

「せっかくの記念日ですもの。何か形に残るものを、と」

 

そうして差し出されたのが――

 

「深雪を、好きにしていい券……?」

 

ご丁寧に、使用期限が本日23時59分とある。さらに「一回限り」とも。

 

「以前、母の日に子供が知恵を絞って『お手伝い券』なるものをプレゼントしていたのを思い出しまして」

 

それを真似て書いたのだと言うが、

『お手伝い券』と『深雪を好きにしていい券』は、何かが決定的に違う気がする。

 

気がするが――もういいか、と考えを放棄した。

 

(そうだ。ハグも、マッサージも、考えてみれば今日だけの話だ)

 

期限付きの、終わりあるもの。

この「妹を好きにしていい」というのも、今日限定なのだ。

 

「では、さっそく使用させてもらうことにしようか」

「どうぞ、お兄様」

 

どんとこい、という意気込みを感じる。

 

深雪は、俺が絶対に彼女を傷つけないとわかっているから、ここまで無防備でいるのだろう。

時折警戒もされるが、これまで積み上げてきた信頼が、彼女を自分の前でだけ隙だらけにできるのかと思うと、それはそれで優越感を覚えた。

 

同時に、それでいいとも思った。

 

(俺が深雪を傷つけることなど、万に一つの可能性も無い。――あってはならない)

 

傷などつけない。

真綿に包むように、これからも大事に守っていくつもりだ。

 

だから――

 

「そうだな。まずは、いつもさせてもらえないことを頼もうか。

――逃げずに、俺から褒められてくれ」

 

「……え……?」

 

「いつもは深雪が照れたり恥ずかしがってしまうから我慢していたが、

今日は好きにさせてくれるのだろう?」

 

深雪は驚きで声も出ない様子だ。

その間に畳みかける。

 

「他には……ああ、深雪をたくさん着飾りたい。

このドレス姿もとても素敵だが、滅多に見られないからね。

 

クローゼットの肥やしになってしまいそうな服を、今一度着用してもらおうか」

 

夏休みのブティックでは、まだまだ合わせたい服もあった。

深雪の体力や気力を考慮して、二十着に抑えたのだ。

 

「時間が足りないな。あと三時間と少ししかないのか」

 

「じゃあ、まずは体力のあるうちに着せ替えからだな」

 

そう言って、固まっている深雪を抱き上げた。

 

結果として、帰宅直後にしたかったことも叶ったな――

などと思いながら、慌て出す深雪を宥めつつ部屋へと連れていく。

 

「お兄様!」

「こら、暴れたら危ないだろう?」

「う、ごめんなさい……」

「素直に謝れる深雪は、本当にいい子だね」

「も、もう褒め殺しは始まっているのですか!?」

「褒め殺しなど、人聞きが悪いな」

 

全力で深雪を褒めたたえるだけだ、と伝えれば、

 

「息の根が止まってしまいます!」

 

と悲鳴を上げる。

 

そうだった。気を失う前にほどほどで止めねばな――

と加減を考えながら、残り時間の計画を、超高速で組み立てていくのだった。

 

 




久しぶりに書いたのでお兄様が少し迷走しました。
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