妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします! 番外編   作:tom200

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兄だけど、兄じゃなかった!
深雪ちゃん、お兄様の洗礼をたっぷり浴びる。
どうしてこんなことになってしまったのか…本当に、申し訳なく思う。深雪ちゃん頑張って。


服は立派な防具です

 

 

家に着くと、お兄様からどうする?と尋ねられた。

どうする?とは、一体?とお兄様を見つめると、眉を下げつつ苦笑して。

 

「いつもはここでハグをするんだが、深雪もするか?」

 

は、ハグ、とは。さっきも言っていたアレよね?とはわかるのだけれど…。

 

「…そう、ですね。お願いしてもよろしいでしょうか」

 

先ほども抱きしめられたりと、このお兄様はためらいなく触れるようだ。

いつかお兄様に抱きしめられる予行練習と思えば、とお兄様の広げられた両手の間に身を寄せる。

その腕が背に回されて、びくっと体を強張らせてしまうと、お兄様はクスッと笑われた。

 

「まるで好奇心旺盛な子猫だね。興味はあるのに実際行動を起こすと驚いて腰が引けてしまう」

「お、お兄様にこんなことしていただいたことなんて無いですから!」

 

やっぱり、こっちのお兄様は私の知っているお兄様より意地悪なところがおありのようだ。

すぐにこうして揶揄いになる。

 

「それはまた。そちらの俺は随分と損をしているな。こんなに可愛い深雪を知らないなんて」

 

あと…言葉の選択が、その…、ストレート過ぎるというか、まるで口説き文句のような。

お兄様だとわかっているのに、いえ、お兄様だからこそ顔が赤くなるのが止められない。

 

「もう、お兄様ったら…」

 

これ以上くっついていては熱くなる一方でのぼせてしまいそうだと体を離そうと胸を押し返すと、お兄様は腕を下ろしてくださった。

 

「そうだ。念のため計測をさせてもらえないか」

 

確かにこのような状態だ、何か変化があってもおかしくない。

了承すると制服を着替えたらリビングへ行くことになった。

家は全く同じだったので当然部屋の位置も変わらない。

けれど、扉の向こうは私の知っている部屋ではなかった。

内装こそ同じものの、揃えている物が違っていた。

何というか、落ち着いた、色味の少ない部屋というのだろうか。少女というより女性の部屋の様な感じがした。

こういうところにも違いがあるのか、と思いながらクローゼットを開けたら、こちらはもっと驚いた。

服の数が少ない。その上スカートやワンピースまでひざ丈以上の長さのものしかないのだ。

首元もしっかり覆えるようなものばかり。

どれも品のいいものではあるのだけれど、それにしても落ち着きすぎている。はっきり言ってしまえば地味だ。

 

(こちらのお兄様の趣味なのかしら?…あちらのお兄様も、実はこういった服が好みだったりしたらどうしよう)

 

あちらのお兄様も、私の恰好を可愛いと、時折刺激的だとお褒め下さっていたけれど、もしや本当の好みはこのような清楚系だったのだとしたら――私は間違っていたのかもしれないという不安が押し寄せる。

とりあえず着てみよう。

制服を脱いで下着姿を鏡で見るのだけれど、ふと違和感があった。…なんなのかははっきりわからないが、なんとなく自分の姿と何かが違うような、そんな気がした。

けれどその違和感は一瞬で、下着は私のものと似通ったデザインだったことに安堵しつつ服を手に取る。

手触りのいい素材だ。こちらの私のこだわりはこういうところにあるのかもしれない。

身に着けてからもう一度鏡の前に立つのだけれど、ボディラインの見えない清純派な恰好で、何か物足りない。

こんな地味な恰好でお兄様は本当に喜んでくださるのだろうか。

せめて、とブラウスのボタンを開けて首元を開放的にするのだけれど、それだけで顔周りが一気に華やいだようだ。

一番短いスカートの下には短めの靴下にして生足を晒せば、少しいつもの雰囲気に近づけたと思う。

全体のバランスを見れば、いつもの肌色の面積が多い服に比べても種類こそ違うけれど、これはこれでまたアリかもしれない。いつもより色気が見えなくもない。

そこでようやく自分の身体との違いに気付いた。

成長途中の身体ではあるものの、私の身体よりも部分的に引き締まっているのだ。

痩せているわけではない。ふくらはぎを見るとほっそりとしていた足に程よく筋肉がついている。

気をつけて見れば、程度のもので筋肉質と言うほどでもない。どのみちこの体は筋肉が付きにくい。

幼さの残る少女と女性の中間のようなほっそりとした体つきではなく、成長途中の華が開く直前のみずみずしさのある健康的な肉体というのだろうか。

同じ体、同じつくりなのに、これは大きな違いだ。

服の上から胸を持ち上げてもサイズは変わらないはずなのに、ウエストに触れても、そこには割れるほどの筋肉が付いていないはずなのに、見慣れた自分のものより引き締まりくびれているように見えた。

それだけで、この地味な恰好もボタン一つ外せば華やかになるのか。

このような着こなしは目から鱗だ。これなら一着でどちらも楽しめる。

 

(…自然にそのように考えてしまったけれど、つまり私は体ごとこちらの世界に来たわけではなく)

 

精神が入れ替わったということ。

…でも、これをお兄様に言うのは憚られる。

何故なら違いに気付いたとして、どう違うのかを説明しなければならないのだ。そうなると自分の身体よりもこちらの自分の体の方が優れていると言わざるを得ないわけで。その事実を自分の口からお兄様に告げるのは辛過ぎた。

だけどわかっていて何も言わないというのもお兄様を騙すようで気が引ける。

 

(違和感はある、気がする程度ならいいかもしれない)

 

…けれど、どこがどう、とは言えない。言いたくない。

たとえ違う世界のお兄様にも身体に違いがあるとは知られたくなかった。

 

(いけない、こんなこと考えている場合ではないわ!)

 

首を振って思考を切り替える。

お兄様をお待たせしているのだ。悠長に考え事などしている場合ではない。

急いで手櫛で髪を整えてもう一度鏡をチェックしてから部屋を出た。

 

 

 

リビングに着くとお兄様はソファに腰かけており、端末から手を離すところだった。

顔を上げるお兄様と目が合ったのだけれど、一瞬目を見開いたように見えた。

 

「お待たせしました」

「いや、それは構わないのだけれど…参ったな」

 

言うとお兄様は徐に立ち上がって私の前に立つと髪をひと房持ち上げて、

 

「いつ見ても深雪は魅力的なのに、今の深雪は可憐とは言えないね」

 

その髪にキスをした。

キスをした!!

直接触れられた感覚なんてあるわけがないけれど、目の前で起きた光景に驚いて固まってしまった。

顔が熱い。きっと真っ赤に染まってしまっているのだろう。

 

(というよりこのお兄様の言動は一体!?何がどうしたらあのお兄様がこうなるというの?!こんなお兄様知らない!!)

 

細められた瞳はまるで獲物を狙う肉食獣のよう。

今にも噛みつかれてしまうのではないかという緊張感が襲う。

心臓がバクバクと音を立てている。お兄様に聞かれてないだろうかと不安にもなるけれど、すでに顔が赤いのだ。ばれていて当たり前なのだけれど、混乱していてそんなことにも気づけない。

 

「あ、あの、お、お兄様っ」

「ああ、しまったな。つい深雪の眩さに目を奪われてしまった。計測に行くんだったな」

 

そう言いながらも指から髪を滑り落としてから頬に手を添えられた。

 

「あまりそのように無防備な顔をしてはいけないよ。そちらの俺は忠告していないのかい?兄だとて、美しい妹に参らないわけがないんだ」

 

今度はくすり、と笑ったことで先ほどの空気は霧散した。けれどその瞳には獲物を甚振る様ないじわるな色が見え隠れしていた。

お兄様に興味を向けられることは嬉しい。可愛がってもらえることは喜ばしいのだけれど――

 

(こ、これほど立て続けに、迫られるなんて)

 

これでは息つく暇もない。喜ぶ隙も無い。

舞い上がって恥ずかしくて苦しくて。その上――

 

「さ、行こうか」

 

何でもないようにエスコートされるけれど、腰を抱かれて移動するなんて家ですることではない。

このお兄様は距離が近すぎる!

服越しでもお兄様の温かさを感じられてどぎまぎしてしまう。

急に自分が無防備になった気がした。

 

(!そういうことなの?!彼女の服が私と違う理由)

 

もしいつもの私の服だったなら、こんな密着されては心許なかっただろう。

腰を抱かれているだけでも、肩と腕は密着する。それが素肌で感じたならば――私はきっと耐えられなかった。

ドキドキしている間に地下に到着した。

見慣れた場所に到着し、着替えるようにガウンを渡され一人になれる空間に入ってようやく心を落ち着けられた。

ここのお兄様は心臓に悪すぎる。

…お兄様と同じ姿でこのようなことはしないでほしい。違うとわかっていてもときめく心は抑えられない。だって、お兄様であることには違いないのだもの…。

まるでお兄様を相手に夢を見ているようだ。…とはいえ私の描く夢のお兄様は、ここまで苛烈に愛情をぶつけてくる想像なんてしていなかったけれど。

夢を上回るのはやめてほしい。本当に心臓が持たない。

慣れた手つきでガウンを羽織ってお兄様の元へ。お兄様は先ほどまでの空気が嘘のように通常運転のお兄様に戻っていた。

いつもと一緒、いつもと一緒と言い聞かせながらガウンを滑らせ下着姿になると台の上に横になる。

ジッとお兄様に見つめられるその瞳に先ほどの様な光は無く、いつもなら面白くないと思える淡々と計測する姿にほっとした。

 

「――ん、もういいよ」

 

起きていい、との言葉に体を起こすのだけれど、その声が近くから聞こえたことに不思議に思っていると、すぐ横にお兄様が立っていた。

その手には私が先ほど脱いだガウンが広げられている。

私が何かを言う前にお兄様はガウンを着せた。

…こんなことされたことが無い。

 

「…お兄様、一人でガウンくらい着られますよ」

 

何と言って良いかわからず、戸惑いつつ声を掛けると、お兄様は苦笑して。

 

「すまない。もう癖になっているんだ」

 

…いったい何がどうなって癖になるというのです?と尋ねる勇気は無かった。

どうにも今のお兄様の様子を見ると、こちらの私が何かをしたからこのような事態になっているのだとわかったので。

藪を突くと私にまで被害が来そうだったので大人しくここは口をつぐんでそっとこの場を離れた。

こちらのお兄様は私のお兄様とはまた違う苦労をしているらしい。

 

 

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