妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします! 番外編   作:tom200

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盲目にもなるけれど、している側の観察眼は鋭くもある。
好きな人のことは逐一知りたくなるよね!…度を越すとストーk(おっと誰かが来たようだ…)


二人だから見えるモノ

 

 

地下から戻ってリビングへ。

 

「計測結果はほとんど変わりないようだね。誤差はあるけれど、想定内の範囲だ。身体のデータは全く変化がなかった」

「…つまり精神だけが入れ替わって体は変わっていないということでしょうか?」

「俺の眼から視ても深雪と同一だから、恐らく入れ変わっているとしたら精神、心だけなのだと思うが、このような現象自体初めてだからな」

 

はっきりとしたことは言えない、とお兄様は申し訳なさそうだけれど、こんな事態は誰もわかるはずもない。

心が入れ替わるなんて、精神構造を研究している四葉に知られたら大変なことになりそうだ。お兄様もそう思ったのだろう。このことは周囲にバレてはいけないと、普段通りに過ごすべきだという結論に至った。

 

「深雪には苦労させるだろうが」

「大丈夫です。お兄様がいますもの」

 

もしこれが、お兄様のいない全く別の世界なら戸惑って何もできずにいただろうけれど、ここには、私の傍にはお兄様がいてくれる。

ならば一体何を心配するというのか。

笑顔で答えると、お兄様もそうか、とほっとしたように微笑んでくださった。

こういう笑みはいつも通りで安心する。

先ほど着替えた際にボタンを上まできっちり締めたことで、お兄様の不穏な空気もなくなった。

アレはどうやら態と警告するために、のようだったけれど口で言って欲しかった。それならば素直に受け止められただろうに。

 

「学校ではフォローを入れるが、家ではいつも通りに過ごしてくれて構わないよ。普段はどう過ごしているんだ?」

「普段でしたら今頃夕食を作る時間です」

「自分で作るのが好きなのかい?」

「ええ。作ったものを食べていただくのは好きです」

 

料理自体苦でもなく、作った料理をお兄様に美味しいと言っていただけることが何よりも嬉しい。お兄様にしてあげられることの一つだから、と言えば、お兄様はほう、と感心するように頷かれた。

 

「こういうところでも違うものだな」

「違い、ますか」

「深雪からは全身で尽くしたい、という気持ちが溢れているように見える。そちらの俺はだいぶ愛されているらしい」

 

そんな指摘をされてカッと顔が熱くなる。

 

(あ、あ、愛しているだなんて!)

 

思わず頬を抑えて身を捩る。

いえ、このお兄様もこちらの妹を愛しているようだからそんな言葉がするっと出るのかもしれないけれど、お兄様の口からそのようなことを言われてしまうと本人にバレてしまった心地がして恥ずかしい。

 

(お兄様も『お兄様』なのだから本人に違いないには違いないのだけれどややこしい!)

 

頭がパニックを起こしているようだった。

 

「そ、その、こちらでの深雪はどうなのですか?」

 

だけど違う、ということはこちらの私はお兄様に全身全霊で尽くしてはいないのだろうか。

お兄様の傍に居てそんなことは無いと思うのだけど、と問い返すと、お兄様はそうだね、と瞳を細めて遠くを見つめて。

 

「もちろん、あの子も妹として兄を支えようとしてくれているよ。一生懸命にね」

 

その笑みは私に向けられていたのとは違う熱を感じる。

 

「それなのに、違うのですか?」

「何と言えばいいのか、隠すのが上手いんだ。その行動は結論から見ると俺のためなのに、楽しんでやった結果が俺を喜ばせることに繋がっている、というようにね」

 

お兄様の言葉に胸が痛む。…私は、お兄様にいつも喜んでもらいたい、と全面に出していたと思う。こうしたら喜んでくれるかな、と期待して。そしてお兄様に褒めてもらえることが至上の喜びだった。

 

「…深雪のは、押し付けがましいでしょうか」

 

不安になった。もしかしたら私の行動は、お兄様に負担になっているのではないかと。

けれどその気持ちを、目の前のお兄様が真直ぐと視線を合わせて否定する。

 

「それは違うよ。――そうだな。おそらくだが、深雪のようにはっきりとした行動をしないとあちらの俺は気付けないんじゃないか」

「どういう、ことです?」

「いくら大事な深雪のことであっても、俺は感情の機微には疎いから。そういった細やかな気遣いには気づかない。どうしてそんなことをするんだろう、と疑問に思ってしまう。深雪くらい全面に出してもらえると、鈍感な俺でもわかりやすい」

 

大事な深雪、と言われてまた顔が熱くなりかけたけれど、続く言葉にはっとなる。

 

「でも、お気づきになるのですよね?」

「うん?」

「お兄様は、こちらの深雪、さんの細やかな心遣いには気付かれるのでしょう?」

 

自分のことをさん付けで呼ぶのは少し違和感があったけれど、とりあえずさん付けをすると、お兄様もちょっとおかしかったのか口角が若干上がった。

 

「全て気付けているかはわからないが、あの子が何を考えているか知りたくて逐一見てしまうんだ。――それは深雪も同じではないか?」

 

好きな人のことはどんな些細なことも見逃したくない。

それをこのお兄様が知っていて、そのように行動しているなんて。

 

「まあ、なんだ。俺たちはどうやら似た者兄妹らしいな」

「そのようですね」

 

兄妹に恋をして、相手のことを知りたくて、どんな些細なことでも気づきたい。

これは恋をしていないと出来ないこと。

 

「と、話がだいぶ逸れてしまったな。今日は疲れているだろうから、HARに任せるか」

「いえ、できれば作りたいと思うのですが」

「わかった。深雪の好きにすると良いよ」

 

お兄様の提案を断ってキッチンに立たせてもらったのだけれど――

 

「すごいですね…」

 

驚いた。並べられている調味料の数が桁外れだ。

塩だけでも何種類あるのか。

きちんとラベルがあるからどのようなものかわかるのだけれど、どのような味か想像がつかないものもある。

冷蔵庫の食材に関しては豊富過ぎていろんなものが作れそうだ。

和・洋・中全てできる材料が揃っている。今夜は何を作る予定だったのか。

 

「キッチンも違いがあるのか」

「私も料理をしますけど、これほどの調味料を扱ったことはありません」

 

戸惑いながらも、一番作り慣れている料理を作ることにした。

ここで変に対抗意識を燃やして作り方を変えて変なものを提供するより、普段通りの料理を作った方が良い。

作ったのはハンバーグだった。

デミグラスソースをかけ、綺麗に盛り付ける。

食材や調味料が違っても食器はほとんど変わりなかったのがありがたい。

どこに何があるかわからない、なんて慌てる姿をお兄様に見られたくなかった。――そう、お兄様はじっとこちらを見つめていた。楽しそうに、私が料理するのを眺められていたのだ。

そんなこと、お兄様と偶に過ごす休日くらいしかなかったのでちょっと緊張してしまった。

スープとサラダをトレイにのせて運ぼうとしたらお兄様が手伝ってくださった。

あちらのお兄様もだけれど、このお兄様も自然とこうして手伝ってくださるらしい。お優しい。こういうところは変わらないんだ、と共通点を見つけるたびに嬉しくなる。

作ったものを美味しい、と食べて下さるお兄様と、学校の話になった。

 

「一科生と二科生がいがみ合ったままでは学校生活も大変なんじゃないか?」

「大変、というのはわかりませんが、お兄様に対しての視線はとても不愉快な気持ちにさせられます…」

「深雪を不快にさせてしまうのは申し訳ないな」

「!お兄様は何も悪くありません!!悪いのはお兄様に嫉妬して蔑もうとする者たちです!」

「そんな他人の視線なんて、俺のことだからどうでもいいと割り切っていると思うぞ。それよりも心配なのはそうして心穏やかに過ごさせてあげられない深雪のことだ。お前をそんな気持ちにさせてしまう不甲斐無い自分にフラストレーションが溜まっているかもしれないな」

「そんな…」

「だが、そう思う反面、お前が俺のことを心配してくれているのだという事実に、感謝もしているはずだ。深雪がそうやって俺に心を砕いてくれるから、俺は幸せなんだ」

「お兄様…」

 

お兄様の言葉こそ、私を喜ばせてくれる。

お兄様が幸せだと言ってくださるだけで、私の心は救われるのだ。

 

「だが、そんな感じだとこちらの生活とは違いすぎるかもしれないな」

 

お兄様の指摘に思い当たることがあって頷いて答える。

 

「それは、はい。たった半日しか過ごしておりませんでしたが、だいぶ学校の雰囲気も違ったように感じます。お兄様に向けられている視線も負の感情のものは無いように見受けられました」

 

そう言うとお兄様はクスリと笑われた。

何かおかしなことを言っただろうかと首を傾げると、お兄様は笑みを深くして。

 

「深雪の基準は本当に俺が中心なんだな」

「も、申し訳ございません!」

「いや、謝ることじゃないよ。俺もすべての基準が深雪だから」

 

真直ぐな視線を向けられて慌てふためいた心が、今度は別の緊張でかちんこちんに固まった。

お兄様は私の様子に気付いているだろうに、何でもないように話を続けた。

 

「まあ簡単に言えば、一科生と二科生の問題を解決するきっかけになった事件の中心人物として、俺たち兄妹はちょっとした有名人扱いでな。だからあのように注目もされる。視線が煩わしいこともあるが悪感情が向けられることはほとんど無いからな。比較的過ごしやすいと思う」

「…全くないわけではないのですね」

「そうだな。…だが、今深雪が思っているようなことじゃないと思うぞ」

「え?」

 

どういうことだろう?悪感情だけど、蔑みや嘲りではないということ?

 

「あまり仲良くしすぎる時に向けられる時が多い。嫉妬というか僻みというか、エリカが言うにはあまりいちゃつくな、という類のものらしいから」

「…え、それは///」

 

私もお兄様の傍によると視線を向けられる。しかしそれは大抵悪感情だったり呆れの様なものが多かったと思う。

仲のいいエリカ達だって、やれやれ、とかしょうがない、といった風に見守られていたというのにこちらでは違うというのだろうか。

 

(それよりも、こちらでは一体どんな風に過ごしているというのです!?きょ、兄妹でいちゃつくと思われているなんて、そ、そんな破廉恥なことを?!)

 

先ほどまでの言動だけでも確かにその片鱗はあったように思う。

こんなに積極的なお兄様に迫られれば、どんな私だって耐えられるはずがない。…ないわよね?

 

「まあそんなに気負うこともないよ。皆には罰ゲームとしていつもと違う深雪を演じてもらっていることになっているからね。いつも通り好きに過ごしてくれて構わない。あとは俺が何とかしよう」

 

ああ、これだから、お兄様には困ってしまう。お兄様はどこの世界でもお優しいから。

何とか小さくお礼を返してご飯を食べきった。

 

 

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