妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします! 番外編   作:tom200

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無意識にホームシックな深雪ちゃんと、気付いていて気を紛らわせてあげるお兄様。
…でもその紛らわせ方はどうかと思います。(←


お姫様は負けず嫌い

 

 

登校時間も変わりなく、…ただお兄様との距離感には戸惑った。

いつもなら私がお兄様に寄り添うのだけれど、今朝のようなこともありちょっと間隔を開けて歩く。

警戒する私に苦笑を浮かべられて、お兄様は困ったなそんなに期待されると応えたくなる、と揶揄い口調で呟いてから耳元で、

 

「面白いものを見せてあげよう」

 

そう囁くと、登校中の生徒がいる前で肩を抱き寄せた。

一気に頬が熱くなる。

私が寄り添うよりもずっと距離が近い、触れ合っての登校に、周囲の生徒たちは――なぜか歓声のような悲鳴を上げていた。

びっくりして何が起きたのかと視線を周囲に向けると…嫌悪感が一切向けられていない…?なんだか朝から良いモノを見た、といった好感のものばかり。中には拝むようなポーズをしている生徒までいる。

 

「…お兄様、これは…」

「俺たち兄妹が仲良くしていると一定の人間が喜ぶな」

「なぜ…?これが昨日、一科生と二科生の分断を無くした功績による副作用とおっしゃっていたものですか?」

「深雪の言葉のチョイスはなかなか端的でいいな。今度はそれを使わせてもらおう」

 

お兄様は私を驚かせたことに機嫌を良くされているようで、楽しそうな空気が周囲にも伝わるくらい感情を表に出されていた。

こんな、お兄様にいたずらっ子のような面があったなんて。

…でも、振り返って思えば、お兄様は以前にも私が慌てるとわかっていて迫って見せることもあった。

大抵注意するときだったり窘めるときだったりするのだけれど。

 

(いつかお兄様も、こんな風に――)

 

見てみたいような、それはそれで恐ろしいような。

両頬を押さえて困っていると聞き覚えのある声が、聴き慣れない言葉で話しかけてきた。

 

「ちょっとー、ナイトが気安くプリンセスに触れないでよー。ここには周囲の目があるのよ」

 

そういうのは陰でこっそり、皆にも見えるようにやんなさい。と矛盾した発言をしながらおはよー、と近づいてきたのはエリカだ。

そしてその後に美月と西城くんが続く。

 

「おはよう」

「朝から上機嫌だな、達也」

「深雪さんも、おはようございます」

「おはよう美月。…お兄様」

 

美月の視線がお兄様に触れられている肩に向けられているのが気になって、お兄様に声を掛けるとお兄様はふっと笑って手を下ろした。

 

「なぁに、まだ罰ゲームやってるの?」

「今日までの予定だが、次にまたゲームをやった時にもこの罰ゲームになるかもな」

「…次は絶対に負けません」

 

お兄様からのパスを貰って答える。土曜の今日までということにして、もし月曜日にも帰れずこのまま私が通うことになる時のことまで考えての発言だとすぐわかった。お兄様に抜け目はない。

 

「じゃあ今日も一日敬語でお兄様呼び?大変ね」

 

同情するように言われるのは、エリカが九校戦の時、自分のお兄様のことを兄上と呼んでいたからか。皆には知られたくなかったようなことも言っていたものね、彼女にとってその呼び方は恥ずかしかったのだ。

それからしばらく歩くとほのか達も合流。

 

「おはよ、深雪」

「おはよう雫」

 

ただ、雫との距離には少し戸惑う。妙に近いし、じっと見つめられると見透かされそうな気がして少し鼓動が早くなる。

 

「深雪、緊張してる?」

「…罰ゲーム、間違えたりするとペナルティがあるの」

 

これは前もってお兄様から授けられた切り抜けるための策だった。

何かおかしいとツッコまれた時、そのように言えばいつもと違う行動をしていてもおかしく思われなくなるだろう、と。

でもこの発言に皆の視線がお兄様に集中する。

皆の目は何か訴えるような目だ。

 

「達也くん…」

「流石にお前、それは…」

「ぺ、ペナルティなんて、深雪にいったい何をするつもりなんですか!?」

 

ほのかはなぜそんな顔を赤くしてお兄様に詰め寄っているの?そして雫はなぜ無言でそんなにお兄様を睨んでいるの?

美月も顔が赤いけど、こちらは何か期待している目の色をしているような…。

そこへ最後の一人のメンバー吉田くんが合流した。

 

「おはよう、…て、何この空気」

「おはよう。達也くんがまたやらかしてるのよ」

「達也が?…ああ~、昨日の深雪さん関連のこと?」

 

吉田くん、察しがいい。

というより皆の視線と状況がそう思わせるということだろうか。

お兄様は皆の視線を特に気にした風もなく、そういうことだ、とさらっと言ってこの話を打ち切った。

校舎が目の前だったこともあったのだろうけど、女子の視線が特に鋭くお兄様の背に刺さっていた。

…私のせいでお兄様が睨まれてしまうことが申し訳ないのだけど、お兄様は最後に気にするな、と口にはしないまでも頭を撫でて行かれてしまった。

 

「み、深雪。それでペナルティって何なの?」

「それはわからないわ。今のところミスはしていないから」

「深雪、絶対気を抜いちゃダメ。達也さんのペナルティが普通なわけない」

「雫!達也さんも流石にそこまで鬼畜じゃない、…よね?」

 

私に聞かれても困る。こちらのお兄様の説明書を持ち合わせていないのだから。

あちらのお兄様だったならペナルティと言ってもせいぜい鼻を摘ままれたりするくらいだった。

でも、雫やほのか達の様子に、こちらのお兄様のペナルティがそんなもので済むような気はしなくて。

 

「…そうね。気を抜かないよう頑張るわ」

 

二人から頑張って、と声援を送られた。

 

 

 

 

授業は順調に進み、土曜日だけれど放課後生徒会がある私と、それに付き合うお兄様に付き合って皆も昼食を食堂で食べることに。学食は安いから、とか家に帰るまでもたない、とかこの後クラブがあるから、と理由はそれぞれ。

話の中心はやはりエリカなのだけど、お兄様がこんなに積極的に話に参加しているのは新鮮だった。

それをそっと見つめていたのだけれど、隠れているわけでもないから皆に注目されてしまうけど、お兄様が頭を撫でることで周囲に起こる悲鳴と、エリカたちの視線が私からお兄様に移動した。お兄様が誘導してくださったのがわかる。

やっぱりお兄様はどんなお兄様であってもお優しい。

それが嬉しくて、ついお兄様の手に擦り寄ってしまい、また視線がこちらに戻りかけて慌ててしまったのだけど、お兄様の手がするりと頭から頬に下りてきて――

 

「あまり可愛いことをしてくれるな」

 

顎の裏を流れるように離れていった。

頭からボンッと音が鳴り、煙も上がった気がする。

頭の中は真っ白になって、けれど顔は真っ赤になっているのが見なくてもわかった。

 

「今日は土曜だから空いてるぞ」

「店員さーん、コーヒーお願い」

「俺は店員じゃねーよ」

「レオ、僕も手伝うから行こう」

「ミキはただここから離れたいだけでしょ」

「僕の名前は幹比古だ」

 

机の向こう側では楽しそうな声がするけれど、顔を上げられない。

お兄様の隣ではほのかが悲鳴を上げて、雫と一緒にお兄様を引きはがそうとする動きがあるようだけれど、お兄様はこれ以上何もしない、と躱していた。

美月は…美月の方から音が聞こえない。マイペースにご飯を食べてるのかしら。

しばらくしてコーヒーの匂いが漂う頃になってようやく落ち着きを取り戻し、顔を上げて急いでご飯を食べ始める。

賑やかなお昼時間はあっという間に過ぎていき、もう生徒会へ行く予定時刻になっていた。

 

「深雪、遅れても仕事は十分に間に合うのだからあまり慌てて食べないようにな。消化に悪いぞ」

 

…こういうところはお兄様なんだけれど、先ほどの衝撃から抜け出せない。

お兄様を直視できずに俯いて、はい、としか返せなかった。

 

 

 

その後、ギリギリ間に合った生徒会で仕事を熟し、特に特筆することもなく作業を終えた。

そしてお兄様の迎えの頃には、あの衝撃は抜けきっていて、真直ぐ見ることができて安心した。

お兄様はあからさまにほっとした私にくすりと笑い、七草会長がちょっと不思議そうな顔をしたことがヒヤリとした場面だった。

家に帰ると、お兄様からハグをするか、と尋ねられちょっと意地悪な笑みを浮かべるお兄様に闘争心に火がついて、私から抱きついてみた。

お兄様は驚かれたのか、今朝のようにスムーズに、とはいかず背中に手が回るのに時間がかかっていた。

 

「…深雪は負けず嫌いだね」

「いつまでもやられっぱなしはお兄様の妹としていかがなものかと思いますので」

 

顔を上げるとお兄様の仕方のない子だ、と言わんばかりの優しいお顔をされていて、そのことに安心してもう一度お兄様の胸に顔を預ける。

 

「深雪は、お兄様の妹ですもの」

「そうだな。可愛い俺の妹だ」

「…もう三十秒は終わりましたよ」

 

そう言うと、お兄様は調子を取り戻したようだな、と笑って離してくれた。

二人で微笑んで、自室に向かい、今日は迷うことなくしっかりと上までボタンの閉まる服を選ぶ。

夕食もお兄様は美味しいと食べて下さって、食後のコーヒーを飲みながら。

 

「今日はどうだった?」

「そうですね、やはり学校の雰囲気はとても不思議な感じがしますけれど、お兄様がいて下さるので問題なく過ごせたと思います」

 

そうか、とお兄様は言って微笑みかけてくれた。

とくとくと、心音はするけれど、これは安心した音。お兄様の笑みに嬉しくなった音。

昨日のように肩を抱き寄せられたけれど、もう真っ赤になって俯くこともない。

ほんのりと薄く染まった頬がお兄様の瞳に移り込んでいるのを見つけて、お兄様の肩に寄り添った。

分けられるその熱に、もう浮かされることもない。

 

「明日の日曜日だが、何も予定が無いから深雪と過ごそうと思うんだが、どこか行きたいところはないか」

「まあ!そうなのですか。…ですが、せっかくの休暇です。ゆっくりお休みになった方がよろしいのではないのですか?」

「そんな遠慮はしなくていいよ。俺が深雪と出かけたいんだ。深雪はこういう場合、いつもどう過ごすんだ?」

「そう、ですね。お兄様と一緒に外出する時は大抵ショッピングだったりお茶をしたり、でしょうか」

「なら決まりだな。明日はショッピングに行こう。深雪が普段どういう服を着ているのかも気になるしな」

 

お兄様はそう言うと、端末でどういうお店がいいかといくつか候補をピックアップしてくれた。

明日は朝からお兄様とお出かけするらしい。

 

(これってデート、よね…?お兄様相手だけど、浮気になるのかしら…って、私ったら!別にお兄様とお付き合いをしているわけでもないし!それに明日だってただお出かけするだけだし!でも、違うお兄様であってもお兄様ではあるわけで――)

 

一人盛り上がっていると、お兄様がぽん、と私の頭に手を置いて。

 

「少し落ち着きなさい。これは兄妹デートなのだから浮気になんてならないから」

「…お兄様は深雪の心を読まれるのですか?」

「言っただろう、似た者兄妹だからお前の考えはわかるよ。俺自身、一瞬過ったからな」

 

どうやらお兄様もこれは浮気になるのかと一瞬考えたらしい。

私たちは本当に、似た者兄妹みたい。

 

 

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