妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします! 番外編   作:tom200

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恋しいのは家でなく、あの人の隣――


夢は希望を与えて

 

 

あれから何着か試着してみたのだが、そのたびにお兄様が褒めてくださるのだけど、途中からドアを開けるだけで降りることを許されなくなった。

ほかの人に見せたくないのだと、お兄様が扉の前を塞ぐように立ちはだかって。

 

(どうしよう…こんなに心配されてしまうと胸が苦しくなる…っ)

 

嬉しさがこみあげて顔が熱い。鏡を見てもほんのりと染まっているのがわかってしまい、それがまた羞恥を煽った。

 

(だって、お兄様なんだもの…)

 

ほかの人であればこんなことにならない。

唯一の存在であるお兄様にしか、このように揺らぐことはない。

でもこのお兄様は私と一緒に暮らしていたお兄様ではないのに、違うとわかっているのに重ねてしまい、胸が、ときめかないはずの心がときめいてしまう。

 

(…お兄様……)

 

ときめきの中に潜む寂寥感。

これがホームシックというものなのだと、私は気づかなかった。

 

 

 

 

結局服は買わずに、お店を後にしてウィンドウショッピングを楽しみ、お昼を食べるのだけど。

 

「お兄様はいつもあのように、その…密着されているのですか?」

 

人目のない完全個室なのでリラックスして食事できるのは気が楽でいい。

お兄様はそうだね、と微笑みながら。

 

「あれははぐれ防止の意味もあるが、視線の分散も目的の一つだ」

「視線の分散、ですか?」

「俺に嫉妬の視線が向けばその分深雪が見られずに済む」

「…お兄様に悪感情が向けられるのですか?それは…」

「俺にとってはそっちの方が断然いい。――お前が誰かに見られ続けるというのはあまりいい気分がしない」

 

そう言うとお兄様は食事の手を完全に止められてヒミツだよ、と言わんばかりに口元に指を立てた。

 

「お前は俺の大事な宝物だ。世界一美しい妹を自慢をしたい気持ちもあるが、他人の目垢が付くと思うと大事にしまっておきたくなる。自分の家で飾って眺めていたいと思うんだ」

 

その瞳には熱が篭っていて、見ているだけで火傷しそうなくらいだった。

 

「もちろん、お前とのデートは楽しいよ。だからこうして誘ってくれて出かけられるのは俺にとっても嬉しいことでもあるから、深雪が気にすることじゃない。これは俺の問題だからね」

 

お兄様が嫌なら、と言おうと思ったのに先手を打たれてしまった。でも…

 

「お兄様も嫉妬をなさるんですね」

「嫉妬、か。そうだな。独占欲は人並み以上かもしれないな」

 

指摘されて苦笑する姿に、嬉しくなった。

 

「一緒ですね」

「一緒?深雪が、か?」

「ええ。深雪はいつだってお兄様の周辺に嫉妬してしまいますもの」

「あちらでも俺が深雪以外に関心を寄せることなんてないだろうに」

「それでも、です。…お兄様もそうでしょう?こちらの私だって、お兄様以上に関心を寄せることなどきっとできませんもの」

 

こちらの私が何を考えて、どう行動して、お兄様の関心を得ているのかを知らない。

それでも、お兄様がこれほどまでに執着を見せるのは、それだけここの私も、お兄様に尽くしているということで。

 

(あのキッチンを見ればわかるというもの。彼女が、どれだけお兄様のことを思って食事を作っているかが)

 

食事とは、その人の基礎を作り上げる必須要素。その人の一部となるもの。

きっと彼女なりにお兄様を支えようとした結果があれだけのものを揃えることになったのだ。

 

「深雪に言ってもらえると心強いな」

 

お兄様の笑みにドキドキもする。だけど、ほっと安心させられたことの方が嬉しいと思える。

 

「お兄様のような可能性もあるのだと思うと、私も心強く思います」

 

私も頑張れば、お兄様に恋をしてもらえるのではないかって。

 

(この世界を見られて、別の可能性を知れてよかった)

 

同じ未来なんて待っていないかもしれない。すでにこの世界と私の暮らす世界ではずれているから。

まず一科生と二科生の壁が崩れている時点でこんなにも世界は変わる。

それでも、ここに一つの可能性が示された。

お兄様が、妹に恋をする――

 

(絶対にないと思っていた。お兄様が、そのようなアブノーマルなことをお考えになるなんて。感情を、激しい衝動を奪われたお兄様には、私にだけ残されたという兄妹愛だけでは発展などありえないと思っていた。でも、違った。こちらのお兄様は、自身でお気づきになられていた。恋を、してくれるのだと――)

 

それだけで救われた気がした。

もちろん、この根拠だけで私がお兄様に同じように愛してもらえるかなんてわからないし、兄妹に対して恋心を抱くなんてそれだけで険しい道だ。この思いを知られたらお兄様に拒絶される恐れだってある。

だから想いは秘め続けなければならない。お兄様に変な子と思われるくらいなら、妹でいい。傍に居てくれるならなんだっていい。その考えはここに来た今でも変わらないけれど――

 

(もっと、お兄様にできることを考えよう。今迄みたいに私を押し付けるんじゃなくて、もっと、お兄様の喜ぶようなことを考えよう)

 

いつも意識してもらうことばかり考えていた。今日見ていただいていた服装だってそう。関心を持ってもらいたくてちょっぴり過激なものを選んでいた。

でも、お兄様を困らせたかったわけじゃない。

いえ、困るってことは意識してくれてるんだ!と喜んでしまっていたけれど、家で落ち着かない恰好をするのって、居心地を悪くさせていたのかもしれない。

 

(お兄様は真面目な方だから)

 

思い出すだけで頬が緩む。心が温かくなる。

お兄様を思うだけで、こんなにも幸せな気持ちになる。

やっぱり、私にはお兄様しかいないのだと、改めて認識した。

 

 

 

 

いろんな発見があり、とても有意義だった兄妹デートから帰ってきて、夕食を軽く済ませてコーヒーを入れてお兄様の待つソファへ運ぶ。

ありがとう、とお礼を言うお兄様に微笑んで隣に腰を掛けて、自身もコーヒーに手を伸ばした。

ちらりと横目で見るお兄様は、どう見てもお兄様で。

ぱっと見、私のお兄様との見分けなんて付かない。口を開いても、出てくる言葉に戸惑うことはあるものの、概ね内容は変わらない。私を気にかけ、心配し、見守ってくださっている。

少し距離が近いものの、本質は何も変わってはいない。

――大好きなお兄様だ。

 

「今日はお付き合いくださりありがとうございました」

「俺も楽しませてもらったよ。本当は買ってやりたかったんだが」

「それは、こちらの深雪さんを戸惑わせてしまうことになるでしょうから」

 

買ってもらったとしても持ち帰ることができなければ、それはこちらの深雪さんのものになってしまうということで。

 

「戸惑う深雪にも興味があるが、どうせならもう一度選ぶところからの方が良いか」

「…あまり、困らせないであげてくださいませ」

 

こちらのお兄様はちょっぴり意地悪な面が強いので、もう一人の私が心配になる。

彼女はずっとこの積極的なお兄様に触れられてきているのだから、私と違って耐性があるのだろうけれど心配になってしまう。

愉しそうに浮かべられている笑みが、そんな不安を掻き立てるのか。…どうしよう、私のお兄様にもこんな一面があるのかしら?と不安に思う反面、こんなお兄様の表情もきっと素敵だと思ってしまう。

 

(…お兄様がこんなに近くにいてくださっているのに)

 

お兄様が、恋しい。

ついにはそんな言葉が頭に過る。

 

「きっと、帰れるよ。そして必ず、帰ってくる」

「!」

 

思わずお兄様を見上げると、眉を下げた困ったような…いえ、切なげなお兄様の表情があった。

お兄様も、恋しいのだ。自身の妹が。

そのことがとても、とても嬉しかった。

羨ましいとか、嫉妬するとか、そんなことは浮かばなかった。

 

(お兄様がそう思ってくださっている。それがどれだけ心強いことか)

 

「お兄様、触れてもよろしいですか?」

「構わないよ、おいで」

 

近づくように座りなおしてお兄様の肩に寄り添う。

お兄様の腕が、支えるように肩に回された。

 

「深雪は幸せ者です。お兄様にこんなに思われて。きっとこちらの深雪さんもそう思っているはずです」

「そうかな。そうだと嬉しいが」

「もう、お兄様はもっと自信を持ってくださいませ。お兄様だけなのです。これだけ深雪を幸せにして下さるのは」

 

お兄様は手術によって私に対してだけ強い感情を残された。だから、お兄様が私を大事にするのは必然。

だけれど、自由なはずの私の想いはあの日からずっとお兄様にばかり向けられている。

お兄様以外目に入らない。

お兄様が、好き。

愛している。

 

「――本当、お前は俺によく似ている」

 

お兄様が首を傾け私の頭にその重みを少しだけ預けるように乗せた。

お兄様も、同じなのだ。私と一緒。

そう思うとふふ、と笑いが漏れた。

 

「似た者兄妹ですね、私たち」

「ああ。そのようだ」

 

くすくすと笑い合う私たちの間には温かな家族のぬくもりを感じられた。

お兄様に感じるようなくすぶる熱は一切ない、純粋な家族愛、兄妹愛があった。

 

「不思議なものだな。お前は間違いなく深雪なのに」

「不思議です。お兄様はお兄様ですのに」

 

この先の言葉など無くても、言いたいことが分かった。

 

「欲張りですよ、お兄様。これ以上を求めようなんて」

「ひどいな。俺だけが責められるのか?」

 

お前も一緒だろう?と頬に触れられ顔を突き合わせても、それ以上のことは何も起こらない。起こす気にもならない。

心も身体も温められて、心地よさに瞼が重くなる。

お兄様にもそれが分かったのか、もう少し寄りかかるように肩に力が込められた。

 

「今日は疲れただろう?我慢することはない」

「ですが…」

「おやすみ、可愛い俺の妹」

 

その言葉が、別れの言葉なのだと、私は帰れるのだと悟った。

どうしてお兄様がそのことを分かったのかわからない。でも、お兄様がそう言うのなら、そうなのだろう。

 

「おやすみなさいませ、お兄様。ありがとうございました。深雪は、お兄様と出会えたことに感謝します」

「…俺もだよ。ありがとう」

 

とん、とん、と眠りを促すリズムに身をゆだね、深く、深く眠りに落ちていく…。

 

最後に、お前の幸せを願っている、と確かに聞こえた気がした。

 

 

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