妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします! 番外編   作:tom200

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絡まる糸が解け始めるーー。



夢から覚めて、

 

ふと、影が差した気配で目を覚ました。

ゆっくり瞼を上げると至近距離にお兄様の顔があった。

 

「お、に…さま」

「…深雪?」

 

お兄様だ、と気づけば腕を伸ばしていた。

上にかけられていたブランケットがめくれ上がるが、いつの間にブランケットなどかけられたのだろう?

そもそも、今はどういう状況なのだろう?

わからない。わからないけれど、ひどく目の前のお兄様を求めていた。

お兄様は止めることもなく私を迎え入れ、抱き留めてくださった。

 

「…おかえり、深雪」

 

おはよう、でも、おやすみでもなくおかえり、の言葉に徐々に意識が覚醒していく。

 

「お、兄さま、お兄様っ!」

「寝ぼけていたのか?それでも俺を求めてくれたのだとしたら、俺だとわかってくれたのだとしたら嬉しいよ。お帰り、俺の深雪」

「!!」

 

一瞬、この腕に抱きしめている相手がお兄様なのかと体が緊張したのは、お兄様らしからぬ、あちらのお兄様が移ったような甘いお言葉だったから。

 

(お、お、俺の深雪、だなんて!)

 

でも、分かっている。このお兄様が私のお兄様であると確信できている。

だから、――ぼん、と顔が一気に熱くなった。

 

「不思議だな。どう見てもさっきまでいた深雪も深雪なのに、今俺の腕に収まっている深雪が先ほどまでの深雪と違うことが分かる。つながりは変わりないのにな」

 

もう一度不思議だ、と口にしながら確かめるように抱きしめられて、心臓はさらに苦しくなる。

こんな風に、お兄様に抱きしめられるなんて、――心配をかけてしまった時ばかりで、つまり今もお兄様は私を心配しているということで。

 

「ご心配おかけしましたお兄様。ただいま戻りました」

「ああ。おかえり」

 

それからしばらく互いに離れることができずにいたのだけれど、次第にこの状況を理解してきて羞恥に襲われる。

 

(お、お兄様にこんなに長く抱きしめられているなんて!)

 

そんな私の緊張に気付いたのか、お兄様が落ち着かせるように背中を撫でてから。

 

「ダメだな。お前が傍に居なかったことが思った以上にキていたらしい。先に検査をした方が良いことはわかっているのに。深雪、悪いが」

「はい。大丈夫です」

 

感覚では理解していても、数値があった方がより確実性が増す。

ゆっくりと互いの体を離すとはらり、と二人の間にブランケットが落ちた。

…もしかして眠っていた私にかけようとしてくださったのだろうか。

そう見上げると、お兄様はなぜか視線を逸らされていて。

 

「お兄様?」

 

どうやら眠る私にかけようとしてくださったわけではないことは察せられた。

では、どうしてここにブランケットがあるというのか。

 

「…深雪があちらで生活していたのはこちらと同じ3日間でいいのか?」

「はい、金曜日から三日間でした」

「なら同じだな。…だったら彼女の生活スタイルも見てきたということで良いな?」

「生活、スタイル、ですか」

 

彼女とはこちらに来ていたあちらの世界の私のことで、生活スタイルを尋ねられるからには彼女と私の違いをお兄様も知ったということ。

彼女との違いは性格も考え方も違うようだったけれど、生活スタイル…?

言いづらそうに頬を掻きながら顔を逸らしたまま、気まずそうに口を開いた。

 

「どうやら深雪とは違い、その、あまり丈の短い衣服を着ていなかったらしくてな」

 

……丈の、短い、と視線を下に向ければむき出しの太ももが目に入った。

乱れた裾をさっと直すけれど、そうか。このブランケットはこれを隠すために使われていたのかと思うとなんだか彼女に申し訳ないことをしたような気がして謝罪したくなった。

私のクローゼットにはこういった服ばかり並んでいただろうから、きっと彼女は困ったことだろう。

思い出しても彼女のクローゼットにこの丈に近いスカートなどなかった。

 

「あ、の。お兄様も、その…深雪のことを破廉恥だと思いますか?!」

 

彼女の反応がどのようなものだったかは知らないけれど、あれだけ落ち着いた格好を好む彼女にはこれは相当破廉恥な格好に見えたのでは?と考えたら急に恥ずかしくなった。

そしてお兄様もそれを聞いたら私のことをおかしいと思われてもおかしくない!?と混乱してお兄様の顔が見れなくてうつむきながら訊ねた。口調が乱れたこともさらに自身の羞恥を煽る。

羞恥で今にも泣きそうだ。

 

「深雪、落ち着きなさい。俺は深雪のことをそんな風には思ったことはないから。確かに家では刺激的な服を好む傾向にあるなとは思うが、その、お前が好きなら自由に着て良いんだ」

 

その言葉が更なる追い打ちになっていることにお兄様だけが気付いていない。

お兄様に見せたくて着ていたのに、お兄様にも刺激が強かったと思われていたなんて…今の刺激ってきっと良い意味ではないのよね?これでは私が破廉恥な格好を好む痴女のようではないか…。

 

「深雪?!」

 

今度こそ耐え切れず顔を覆ってうつむいてしまった私に、お兄様は驚かれてしまったけれど、合わす顔が無い。

良かれと思っていたことが裏目に出ていたのだ。

もっと早く、気付いていれば――!

 

「…すまない。俺はまた言葉の選択を間違えているようだ。いいんだ。深雪が好きな恰好をできているならそれが一番だと言いたかったんだが」

 

俺が口下手なばっかりにすまない、と謝られるけれど、違うのです。

 

「深雪は、お兄様に喜んでいただきたかったのです」

「俺に?」

「…まさか、それがお兄様の負担になっていたなんて」

「もしもし?深雪さん?何か勘違いしていないか?」

「そうですよね…あれだけ困られていたのに、私は何を勘違いしていたのか」

 

目を覚ますことができてよかった。

今回どうしてこのような奇跡が起きたのかわからないが、おかげでこれ以上お兄様を困らせずに済む――

そう決意を改めて拳を握りしめたところで両頬を手に挟まれて少し上向きにされた。

お兄様とかを強制的に向かい合わされて、その真剣な表情にドキリとして固まってしまう。

 

「よく聞いてくれ。俺は、確かにお前の恰好に戸惑うことが多かったと思う。だがな、それは俺の事情であって深雪にはとても似合っていた。俺はそういった流行物などにも疎いから専門的なことなどわからないがとても素敵に着こなしていたと思う。――深雪のファッションショーはもはや俺の日常の一部だから、今まで通りでいいんだ」

「…ですが…」

 

戸惑う事情があるのなら、着る服を変えた方が良いのでは、と思うのだけれど…お兄様に一体どのような事情があるというのだろう?それによっては今後選ぶ服にも影響があるかもしれない。

詳しく聞きたいのだけれど、これもまたお兄様を困らせている。…どうしよう。どうすれば…。

 

「…わかった。白状する」

「え…?」

「お前を悲しませてまで隠すことじゃない。深雪、お前は自分で思っている以上に美しくて、兄である俺でさえ魅了してしまう。俺はいつも、その刺激的な恰好に目を奪われていることが、とても悪いことをしている気がして目を逸らすことに精いっぱいだった。――魅力的過ぎるんだ」

 

お前が、とのお兄様の告白に、私は赤くなる――前に混乱した。

だって、お兄様に動揺なんてほとんど見えなかった。時折困っているように見られていたことは知っていたけどそれもすぐに逸らされてから元に戻って、いつだって意識していたのは私だけ。そう、思っていたのに。

 

「つまり、今まで通りで構わない。俺は確かに困っているけれど、それは贅沢な悩みという奴であって、実際問題何も問題はないのだから」

「…お兄様に、喜んでいただけている、ということでよろしいのでしょうか」

「美しい妹の傍に居られることを喜ばない兄はいないさ」

 

苦笑するお兄様に、嘘は見られなくて。

 

「今までのままで、よろしいのですか?」

「ああ。深雪のしたいようにするのが一番だ。お前が楽しそうだと、俺も嬉しい」

 

じわりじわりと頬が熱くなるのを感じる。

 

「…お兄様は、私を甘やかしすぎだと思います」

「そうか?だとしてもいいだろう。誰も困らない」

「私が、付け上がったらどうなさるのです?」

「深雪のわがままを叶えるのが俺には喜びになるからな」

「もう、お兄様ったら」

 

付け上がったりなんてしたら困るのはお兄様だというのに。

でも、言葉だけでもそう言ってもらえることが嬉しい。

どこまでも許してくれる発言をすべて鵜呑みにして甘えるつもりはないけれど、その気持ちが嬉しかった。

心を落ち着けて、ようやくまっすぐとお兄様を見つめられるようになって。

 

「お待たせしてしまいましたね、計測に行きましょう」

「そうだったな。4日前に測った数値との差がどうなったか検証しよう」

 

お兄様の差し出してくださった手に、手を重ねて。

この手の温かさと、距離感に、改めて帰ってきたのだと実感する。

 

(あちらの深雪さんは、大丈夫かしら)

 

こちらのお兄様でさえ、あれほど感情を出されたのだ。

あのお兄様が、これだけで済むとは思えなかった。

 

「そういえば、あちらの俺はどうだった?」

「…お兄様のようであって、まるで別人のようでした」

「何?」

 

眉を顰められるお兄様に、どう説明したらいいかと慎重に言葉を選ぶのだけど、同じお兄様なのだと思うとなんだか面白くなってしまい、口元が緩んだ。

 

「ですが、アレもお兄様なのだと思うと、まだまだ深雪の知らないお兄様がいるのだと」

「ちょっと待て。あちらの俺は一体どんな奴なんだ?」

「ふふ、これから時間はたっぷりありますもの。まずは学校の話から聞いていただきたいです。あちらでは一科生と二科生が普通におしゃべりしていたのですよ」

「それは、確かに興味があるが、深雪さん。あちらの俺はどんな奴だったんだ?まさか、変なことをされたんじゃ」

「…お兄様、あちらの深雪さんから一体何をお聞きに?お相手はお兄様ですよ?」

「(俺だから信用ならないんだ、との言葉を飲み込んだことを、深雪には知られてはいけない――)」

 

 

 

そんなことをお兄様が考えているなんて知る由もなく、私はどこから話そうか、とたくさんの聞いて欲しい話について考えを巡らせているのだった。

 

 

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次で成主深雪視点に戻ります。
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