妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします! 番外編 作:tom200
展開早めでサクサク行きます。
成主妹視点です。
授業中、珍しく眠気に負けて少しだけ瞼を下ろした。昨日は遅かったわけではないのだけれど、まあこんな日もあるか。
次に目が開いたのは、ディスプレイに表示されている時刻を確認すれば約10分後だった。
よかった。まだ授業内だ、と安堵しつつ周囲に視線を巡らせたのだが、…なんとなく違和感を覚えた。
何が違うのかはわからない。ただなんというか教室の空気が違う、そう感じたのだ。
とりあえず続きを終わらせて、早くこのもやもやの原因を探りたかった。
時間はさほど掛からずさっと課題を終わらせて次に手に取ったのは己の端末。
開いてびっくり。声が出そうになる衝撃を飲み込んだせいで噎せてしまった。何たる失態。
周囲が心配そうに視線を向けてくれたことに大丈夫、と手を振って応えてからもう一度端末を見る。
スケジュール機能を開けば秘密のお仕事(趣味のぬいの服作成)用の予定がすっぽり無くなっている。
自分の分だけ作るだけなら好きな時間に作れるけれど、今は受注を受けている身。しっかり予定に組み込んでいたのだが、何故かそれが無くなっていた。
他にもいくつか記憶している自分の端末の内容と違うことに気付いて、唐突に閃いた。
(あ、コレ原作トリップしたね!)
夢あるあるである。
オタクはすぐに順応した。
理屈じゃない。成り代わりがあるのだ、トリップだってあったとしてもおかしくないという謎理論。
そのピースがハマるだけで色々納得できた。
オタク知識だけではない。深雪ちゃんの優秀なる頭脳がすべての解を導き出した。
どうりで空気が違うわけである。一年A組は二科生との仲が良くなってからというもの、クラス全体に結束感が増し、仲が良かった。
学校全体の空気がよくなったこともあったけれど、九校戦後は特に絆が深くなっていたのだ。
そのおかげで和気あいあいとした、とまでは言い過ぎかもしれないが、基本授業中だろうが張り詰めたような空気になることは無かった。
けれど、ここは原作軸、と思われる世界。
だとしたらまず環境がよろしくない。ぎすぎす空気の漂う学校ではどのクラスだって何かしらの影が落ちるもの。成績優秀者の揃うA組であろうともそれは変わらない。
ここの空気はただの授業中だというのにピリピリとした緊張感が漂っていた。
ストレスによるものか、少しの音にも敏感になっているような、そんな空気感だった。
先ほど見た予定表から日付は私の世界のものと変わらない筈。
九校戦も優勝し、生徒会選挙もまだ話題に上り始めていない頃のはずなのに、こんなにギスギスしているのは――一年生の中の蟠りが、一時的に強まっていたからか。九校戦で問題の二科生(もちろんお兄様のことね)の活躍が目立っていたから。
(ってことはお兄様のことはお兄様呼び&敬語の世界か。…そこは問題ないけれど)
徐々にこの状況が呑み込めてきた。
いつまでこの世界で過ごすかなどわからないけれど、ここは違和感を抱かせないよう乗り切るのがベストだ。いずれ『深雪ちゃん』が帰ってくる場所なのだから。
ということで頭の中にある深雪ちゃんのイメージを引き出して、どのように過ごせばいいかシミュレーションをしてみた。
原作と変えて過ごしていたけれど、家では変わらずお兄様呼びである。なのでそこは問題ないのだけれど。
問題なのは私のお兄様に対する態度だ。お兄様にべったりなんて今までしたことが無い。深雪ちゃんの振りできるかな?
そこまで考えて、ハタと気付く。
――お兄様に隠し事する意味ってある?と。
そもそもお兄様のこと。もしかしたら私がお兄様の深雪ちゃんでないことに気付く可能性がある。
(…っていうかこの状況って、深雪ちゃんと体ごと入れ替わったの?それとも中身だけが入れ替わった?)
パッと自分の体を見下ろしてみるけれど…違いなんてわからない。日にちがずれてないことから成長リズムも変わりないだろうし、体のサイズが変わるなんてことはないだろう。
色々と確認しなくてはならないことがあるようだ。
(…お兄様に聞けば一発で解決すると思うのだけど)
この授業が終わればお昼だ。
この時期であればウチと同じように生徒会室ではなく食堂で食事をする予定のはず。そこで様子見をしよう。
というわけで食堂にほのかちゃんと雫ちゃんと移動するのだけれど、雫ちゃんとの距離がですね、入学当初と大差ないくらいの距離間でして。
寂しい。夏休み別荘で過ごした仲だよね?なんでお手手も繋げない距離なの?
ほのかちゃんはすでにお兄様にラブのよう。こっちは原作通りの流れだってわかる。
早く食堂に行ってお兄様に会いたいという気持ちが伝わってきます。
恋する乙女は可愛いね。
微笑ましそうに見ていたら、雫ちゃんから視線が。
「なあに、雫」
「…深雪、今日は機嫌が良い?」
「そう?いつもと変わりないけれど」
さっそくバレたのかと思ったけれど、そうではないみたい。…もしや浮かれているほのかちゃんを常にライバル視していて面白く思ってなかったりとか?
小説やアニメで描かれてないところの深雪ちゃんがどのようにしていたかなんて流石にわからない!…とりあえず淑女の仮面で乗り切ろう。
可愛いモノを見てニヤニヤしないように己を戒めてから食堂に向かった。
E組メンバーはすでに席についていた。お兄様の両端は空いている。深雪ちゃんとほのかちゃんのためか。ボッチじゃないようで安心しました。良かった。すでに席は決まっているのね。
とはいっても席はあっちと変わりないのだけれど。
「お兄様、お待たせしました」
「お待たせしてすみません!」
…これで合ってる?と内心心臓バクバクです。緊張しているけれど表面上はばっちり深雪ちゃんのはず。お兄様も微笑で返してくれた。うん、大丈夫そう。
それにしても、本当にお兄様中心だね。お兄様にだけ謝罪するのはちょっと賭けに出たところがあったのだけど、エリカちゃん達は特に気にした風もない。
そして私の登場で周囲の視線がこちらに向くと同時に、腰かけた瞬間隣のお兄様を睨む目がいくつも向けられている。
お兄様は気にもしてないけれど、これは気になるなぁ…。確かに深雪ちゃんがイライラしちゃうわけだ。
何をしようがどこに座ろうが、本人たちの好きにさせてくれればいいのに。
食事を取りに行っている間は問題なかったのだけどね。お兄様が傍にいるのが駄目ですか。そうですか。
食事を始めて、話の中心はやっぱりエリカちゃん。助かるね。にこやかに話を聞きながら食事をして、時折相槌を打ってはお兄様を窺って。…これでいいのかな。不安だ。
その様子に気付いたからか、お兄様がちらりとこちらに視線を向けてくれたけど、大丈夫、と微笑んで返すだけに留めた。
皆の前では言えないのでね。これは放課後、生徒会の仕事を終えて二人きりの帰り道にならないと無理かな。
それまでは『深雪ちゃん』として乗り切らねば、と気合を入れるのだけど、ほのかちゃんがお兄様に猛烈アピールをしている。
これは、どう反応するのが正解かな?
睨みつける?はないよね。対抗してアピール?はできそうにない。お兄様が困るとわかっててやるのはちょっと。
微笑む、はさっき雫ちゃんにおかしいと思われたみたいだし。
かといって嫉妬しているなんて出せるわけもないし…ここは無難にスルー?うん。ご飯美味しい。
ちら、ちらっと視線を感じるのは、私が怒らないかな、と心配されているようだ。
こんなことで怒らないよ。と思うのだけど、え、もしや怒るの?不満をアピールしちゃうの⁇
ごめんなさい。私にそれはできそうにない。スルーったらスルーです。せめて不満を堪えて黙っているとでも思ってください。
皆がほっとしてるから対応としては間違っていないと思うのだけど、なんか釈然としない。
ほのかちゃんアピール頑張ってたけど別にボディタッチがあったわけでもないのに、どうして不満を抱かなければならないの?
難しいよ深雪ちゃん…。
アニメを履修済みだから原作なんて楽勝さ、なんて思ってごめんなさい。沸点の見極めが難しいです。
何とか昼食は終わり、皆に不審を抱かれることなく終わったのだけれど。
「深雪、大丈夫か?」
「?何がです?」
「いや、何でもないならいいんだ」
…お兄様との最後の会話がですね。多分何かに気付いたよね。
これはやっぱり素直におしゃべりした方が良さそうだ。私ひとりでは乗り切れないからね!ということでこの後の方針が決まった。
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