妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします! 番外編   作:tom200

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秋のお花にまつわる小話二本立て



単発モノその他
秋の香り(本編絡みあり)


『金木犀の香りに誘われて』

 

 

秋も半ばの帰り道。

生徒会の仕事を終えて、皆と駅で別れてお兄様と二人きり。

 

「お兄様、今日は歩いて帰りませんか?」

 

コミューターに乗らず帰ろうと提案すると、お兄様からは否は上がらず。

キャビネットで近くの駅まで揺られて、並んで歩く。

しばらく歩くと、漂ってくる香りが。

 

「秋ですね」

「・・・深雪がいなかったら今年も気づかないで終わるところだったよ」

 

秋の訪れを感じる香り、金木犀だ。

甘い、いい香りに頬も緩む。

 

「公園にでも寄っていこうか」

「いいですね」

 

お兄様の伸ばされた手を取って、繋いで歩いて。

まるで老後の夫婦の楽しみみたい、と前世の私が呟くけれどいいじゃない。季節のお散歩大事。

どんなに忙しくても季節感を感じられなくなると、ただ時間だけが過ぎて行ってしまうからね。

社会人になって季節を感じなくなった一年が、どれほどあっという間に過ぎるか。

お兄様の思考は学生ではなく社会人寄りだから、少しでも四季を感じてもらいたい。

余暇を楽しんでもらいたい。

 

 

 

秋の夜の公園は、色づき始めた葉がライトアップされてちょっと幻想的・・・とは大げさだけど。

 

「寒くないか?」

「少し風が出てきましたね。でもお兄様と手を繋いでいますから」

 

お兄様の体温は私より高い。筋肉量の差なのかな。あったかいです。

風上側にお兄様が位置を変えてベンチに座る。

 

「ここまで香ってきますね」

 

金木犀の木自体は遠いけれど、ここまで香りが届いていた。

 

「この香りが終わる頃、また服を選びに行こうか」

 

金木犀が終わる頃、冬が近づくことをお兄様はこの三年で学んだようで、これは冬服を買いに行こうというお誘いだとわかる。

 

「いいですね。今度はお兄様も一緒に選びましょう」

「俺のを深雪が選んでくれるのかい?」

「よろしいのですか?楽しみです」

「代わりに俺にも選ばせてもらえるかな?」

「・・・以前のように何十着も着せ変えられるのは嫌ですよ」

 

あれは辛いモノでした。途中からもう何をしていたか記憶がないくらい大変だった。

多分着替えるだけなら耐えられた。そこにお兄様の褒め言葉、褒め殺しがね。あれは本当に殺しにかかってたよね。

 

「深雪にはどれも似合うからな・・・ダメか?」

 

(やりたいのですか、お兄様・・・)

 

「・・・お兄様が同じ数を着て下さるなら」

「俺はそんなに代わり映えは無いと思うんだが――いいだろう」

「え、ええ?!よろしいのですか?」

 

これならお兄様も断らざるを得ないだろう、と提案したらまさかのOKが返ってきて驚きの声を上げてしまった。

お兄様正気ですか?前回二十回着せ替えしたのですよ?

あ、でも表情は苦渋の決断だった模様。なぜ天秤がそちらに傾きました?

 

「お前を着せ変えられるなら、それくらいの苦行耐えてみせよう」

 

苦行って言ってる。そんなに大変だと思うなら拒否すればいいのに。

でもそうか。お兄様はたくさん着せ替え付き合ってくれるって。何着てもらおう?

 

「・・・深雪が喜んでくれるなら、耐えられる、か」

「無理に耐えようとせずとも・・・。数を減らせばよろしいのに」

「深雪の服に妥協はできない」

 

サヨウデゴザイマスカ。

お兄様は一体どんな使命感を抱いているのか。

ガーディアンの任務にそんな業務は含まれてませんよ。

 

「手加減してくださいませね」

「善処しよう」

 

あ、これダメなやつ。日本人の良くないところが出てますね。

色づいた木を見上げる。赤と黄色に色づいた葉も秋を感じさせてくれる。

モミジやイチョウもいいけれど、こういうどこにでもある木の色づきでも十分素敵だ。

現実逃避?知らない子ですね。今は秋を楽しむ時間です。

 

「秋ですねぇ」

「秋だな」

 

お兄様も街灯に照らされた木を見上げて。

ここで石焼き芋屋さんでも来てくれればいいのだけど、この時代にはああいった屋台を引いているのを見たことはない。

地方にはあるらしいけれど、残念ながらこの近くでは聞いたこともない。残念。

でもここで食べちゃうと夜ご飯が入らなくなりそうだから、これでよかったのかもしれない。

 

「今晩は何にしましょうか」

「秋ということだから銀杏もいいな」

「お兄様はあの苦みがお好きですね」

「たくさん食べられないのが惜しいがな」

 

銀杏ならそのまま温めて食べてもいいし、茶わん蒸しも定番よね。

さつまいもご飯にしたら甘めだから、少し苦みを多めにしようかしら。さんまの山椒煮なら手間がかからないし。

 

「今日は秋づくしになりそうだね」

「少し冷えてきましたからキノコたっぷりのお味噌汁もいいですね」

 

私の言葉にお兄様が肩に腕を回して身を引き寄せる。

あったかい。

 

「お兄様は温かいですね」

「深雪の体が冷えているんだよ。帰ろうか」

「はい」

 

魔法を使えば温度なんて気にもならない。

けれど、これくらいならば使わずとも――

 

「抱きかかえて帰ろうか?それとも負ぶってもいいぞ?」

「そんなことをなさらなくても、お借りしている腕一本で十分ですよ」

 

お兄様の温かい腕一本に両腕を絡ませて暖を取る。

流石にこの年で負ぶわれて帰るのはおかしいし、抱きかかえてなんて・・・それは事件かと疑われる可能性がある。ぜひ止めてください。

 

「これからどんどん冷えていくんでしょうね」

「コートはカウント別枠だな」

「・・・考えたのですけれど、私の方が不利なのではないでしょうか」

 

女性物の方が、アイテムが多い上に種類も豊富だ。

初めから不公平だったのでは?とお兄様に訴えれば、お兄様は口角を上げて。

 

「どうだろうな?」

 

・・・男性物ってお店をはしごしてもそんなに種類無いものね・・・。はじめから天秤は釣り合っていなかったのか。

 

「ずるいです」

「ずるい俺はダメか?」

「・・・だめじゃないです」

「もう一声」

 

いつの間に競りになったんです?

もう。懐の広い妹に感謝してくださいね。

 

「もちろん、好きです」

「俺もだよ」

 

お前が好きだ、と耳に吹き込まれた。

急いで耳を防いだけれどもう遅い。顔から火が出るほど熱くなった。

 

「お兄様!」

「顔が赤いね、熱が上がったかな?」

 

お兄様のせいでしょう!そう叫びたくても声にならない。

解放したお兄様の腕はいつの間にか腰に回っていて、逃げられない。

触れられたところからは熱が移るよう。

そして残った手で頬を撫でられて――

 

「こんなところにも紅葉があったな」

「・・・お兄様はしばらく口を開くの禁止です」

 

これ以上何か言われたら耐えられない。

私は普段禁じ手としている命令をこんなことで下すなんて思わなかった。

でも後悔はしていない。これ以上は命の危機に関わる。

おかしいな。私はただお兄様と秋を感じる散歩を楽しみたかっただけなのに。

なぜこんなにも裸足で逃げ出したくなるくらい恥ずかしい思いをしているのだろう?

一体お兄様が何を考えているか顔を見たい気はするけれど、見たら最後な気もする。

このまま二人無言で帰宅した。

その間腰を抱かれたまま寄り添っていたので寒くなんてなかったけれど、おかげで熱も下がらなかった。

 

「・・・口を開くのを許します。おかえりなさい、お兄様」

 

ようやく対面で見られたお兄様の表情は、とても上機嫌なものでした。

 

 

 

――

 

『油断は禁物』

 

 

 

おとぎ話は教訓がちりばめられている。

 

 

日課の修行を終えて家に帰ると、いつも迎えに来てくれていた深雪がいなかった。

深雪のことだから二度寝ということはないだろうが、と帰宅後のシャワーよりも先に彼女の元に向かう。

 

(――彼女がそこに立つだけで、我が家の庭が立派な庭園のように見えるから不思議だ)

 

まるで童話の挿絵のように、花に手を添えている姿は朝露を飲まんとする妖精のよう。

キラキラと輝く朝日が彼女の背に羽根があるのかと錯覚までさせる。

幻想的で美しい光景にしばし見惚れてしまう。

だから振り向いた彼女への反応が遅くなってしまった。

 

「お兄様、お勤めご苦労様です。おかえりなさい」

 

ぱちん、と鋏の音を立て、一輪の花を手に微笑む深雪はその瞬間世界の記録を塗り替える美しさだった。

たとえそれが、スポーツウェアであっても彼女の美を損なうことはない。

兄の欲目と妹には言われるだろうが、そんなことはないと断言できる。

彼女の美しさは世界一だし、日に日に美しくなっていくのだから、その瞬間が毎回ワールドレコードとなる。

 

「ただいま深雪。ようやく咲いたのか」

「はい。今朝になって」

 

このところ深雪が庭を気にしているそぶりを見せていたことには気づいていた。

夏の頃から、随分と手間を掛けて育てていたことも記憶している。

それは三年前から毎年のことだったから、わかっていたことだが。

 

「無理を言ってこのバラだけはこちらに移植させてもらいましたので。土が合うか、今年咲くのか心配でしたが」

「深雪があれだけ丹精込めて世話をしていたんだ。その思いに応えて咲いたんだよ」

「まあ、お兄様ったら。でもそうですね。だとしたら嬉しいです」

 

俺らしくない、精神論の言葉に、しかし深雪は笑みを深めて喜んだ。

抱きしめたい。そう思うけれど、まだシャワーも浴びていない。こんな汚れた状態で深雪に触れることは憚られた。

 

「お母様も喜んでくださるかしら」

「喜ばないわけがない」

 

あの人は、深雪のようにはっきりと表情で表すことはできない人だったけれど、それでも俺がわかるくらい笑みを浮かべられるようになっていたから。形だけでなく、心まで。

特にこのバラは彼女たちにとって特別なバラだった。

深雪が初めて手入れをして、母に贈った花だから。

小ぶりの、濃淡のある色と香りの濃い、この秋バラを。

四季咲き、というらしい春にも咲く花だが、咲く時期によって同じ花でも違う咲き方をする。どちらも好ましいらしいがどちらかと言えば深雪は秋に咲く方を好んだ。春は春で華やかに花開くが、秋には丸みを帯びて控えめに咲く。

深雪曰く、小さくて丸くて可愛いらしい。色も黄色とピンクが複雑に混ざり合う不思議な色合いで、どれ一つ同じ柄の花が無いのがいいそうだ。

深雪の言う『可愛い』は、俺にはよくわからないが、母にはこの花の可愛さが分かったらしい。

初めて贈られた時は驚いていたが、その花は萎れかかるまで彼女の部屋を彩り続けた。最終的に深雪の手でポプリになって(入れ物も手作りだ)彼女の手元に残った。それが三つ。毎年贈られ続けた。

 

「だと嬉しいのですが」

「深雪」

 

はにかむ深雪に手を差し出すと、深雪は心得ているとばかりにバラと鋏を俺に差し出す。

これは俺の仕事だと、俺が譲らないことを知っているから。

受け取ると、深雪は庭から上がって俺の横に控える。

跳ねて深雪に当たらないよう、ぱちん、ぱちん、ととげを落とす。本当なら手入れをする段階でしたいくらいだが、病原菌に弱いこのバラを傷つけることはできないと止められた。

特にこの品種は繊細らしく、他のどの植物より手間がかかるので、深雪はしょっちゅうこの花の世話をする。

・・・流石に植物にまで嫉妬はしない。が、常に深雪に気にかけてもらえるところは羨ましく思わなくもない。

 

「ありがとうございます」

 

最後の一つを落とすと深雪からお礼の言葉と笑顔を貰った。

 

「これくらい大したことじゃないよ」

 

そう言って立ち上がると、深雪もつられるように立ち上がり、彼女のまとめられた髪の束がしなるように揺れ動く。

ちらりと覗く白い項に目が行かないようにしつつ、バラを差し出した。

 

「こうして美しい深雪にバラを差し出すことのできる数少ないチャンスだから」

 

一輪のバラを、捧げるように。

とはいえ、このバラは深雪が手ずから造ったものなのだから、俺からの贈り物ではないのだが。

それでも花を手渡す瞬間は、たまらなく好きだと言えた。

――深雪が、頬を染めて恥じらうように受け取ってくれるから。

 

「・・・お兄様ったら」

 

恥じらう深雪は可憐で可愛らしい。普段の凛とした美しさも好きだが、自分の前でだけみせるこの可愛らしい深雪も愛おしい。

ああ、なぜこの瞬間抱きしめられないのか。・・・汗を無くせばいいか?と血迷ったことを考えるが、砂ぼこりもついている。いつでもどこでも清潔にできる深雪ほどの魔法力が今まさに欲しい、などとくだらなく思われるだろうがそう思う瞬間だ。

 

(まさか深雪も、俺がこんなばかばかしいことで妹の力を羨んでいるなんて思いもしないだろう)

 

俺だって、三年前にこんなことを考えていると知ったら愚かだと思っただろう。

だが、こんな平和的な悩みを抱けるほど充実した生活を送れていることを知ったら、いくら感情の薄い過去の俺でも己に向けて怨嗟の念を抱くだろうなと思う。

こと深雪に関してだから余計に。

 

「さ、早く母さんのところに持っていこうか」

「!そうでした。行きましょうお兄様」

 

リビングの、母の写真立ての前にある一輪挿しに入れて。

 

「お母様、今年も綺麗に咲いてくれました。いかがです?可愛いでしょう」

 

お兄様がとげを取ってくださったんですよ、と語りかける深雪の表情は、生前の母に向けるのと同じだ。

柔らかい、慈愛ある笑みを浮かべて。

――この愛に、母も俺も絆されたのだ。

失ったはずのモノが芽吹き、育って、今がある。

 

「これからも見守っていてくださいね」

 

締めくくりの言葉の後、深雪は付き合ってくれてありがとう、との笑みを俺に向けてから、朝の準備に取り掛かる。

とはいっても食事はすでに用意できているので、後は身なりを整えるだけなのだが。

深雪から魔法の発動。二人を包んだ瞬間に、きれいさっぱり汚れは無くなっていた。

 

「ありがとう、深雪」

「庭から上がる前にやるべきでしたね」

 

うっかりしてました、と恥ずかしそうな深雪に、俺は今度こそ我慢せずに抱き寄せた。

 

「うっかりさんな深雪も可愛いよ」

「もう、揶揄わないでくださいませ・・・」

 

いつだって揶揄ってなんていないのに、深雪は恥ずかしがって受け取ってくれない。

 

「つれないな。俺はいつだって深雪が好きなのに」

「~~~っ、今日のお兄様はいじわるです」

 

遺憾である。だが、そうか。言われて気付く。

確かにいつもよりも深雪に構いたくなるのは、深雪が俺よりも周囲に気を配っていたからか。

バラをはじめ、母に取られたと、そう感じたのだ。

これはちょっと反省しなくては、と思う反面。

 

「意地悪な俺は嫌いかい?」

 

一言がどうしても欲しくて。

 

「分かっていて聞くなんて、本当にいじわるなお兄様」

 

小さく、好きよ、と腕の中で告げる妹から甘い香りがした。

――秋バラは小さくて、色が濃くて、香りが強い。

 

「今朝の深雪はバラの妖精だったのか」

 

まるで今の深雪そのものだ、と強く抱きこんで。

 

「お兄様、いつまでもこのままでいては遅刻してしまいます!」

 

良いんじゃないかな、たまには遅刻しても、と思わなくはなかったが生徒会役員の妹に、不出来な兄のせいで傷が付いたとあってはいけない。

 

「名残惜しいが、深雪を遅刻させるわけにはいかないからね」

 

解放すると、深雪はほっと安心したように肩の力を抜いた。だがまだ熱が引かないのか顔がほんのり赤い。

触れたくなるけれど、これ以上したら本当に遅刻させかねない。

意識を切り替えて、学校に行くことだけに専念しよう。

 

「早く着替えて朝ごはんを食べるとしようか」

「はい」

 

日常が戻ってくる。

さっとシャワーを浴びて部屋で着替えながら、今日は何事も無ければいいが、と心裡で呟く。

これほど朝から幸せだと皺寄せがありそうだな、と考えてしまうのは慎重にならざるを得ない環境の影響か、はたまた己の不幸体質の影響か。

深雪を妖精に例えたから、おとぎ話の影響かもしれない。あれは子供に教訓を伝えるものでもあったから。

幸せに浸っているととんでもない落とし穴がある。そんな童話が世界中にあった。つまりは世の常なのだ。

 

(不幸であろうが、深雪さえ傍にいればどんな地獄も天国に違いないんだが)

 

まずはそんな深雪を少しでも煩わせないためにも、深雪のルーティーンを崩させないよう準備をしなくては。

朝の支度を丁度終えるタイミングに合わせてダイニングへ。

 

「美味しそうだ」

 

並べられている食事を見て、最後にスープを運ぼうとする深雪からお盆を受け取って並べて席に着く。

 

「「いただきます」」

 

 

 

この日、不幸と呼べるようなことは起きなかった。

後日、大きいのが来るのかもしれないな。

 

 

 

 

 

 

 




前半の話、最後お兄様が上機嫌だったのは照れた妹の可愛らしさと、こんな細やかな命令をしてくれたことが嬉しかった模様。
普段滅多に命令してくれないことに不満ではないが妹の命令なら何でも遂行したいと思っている。

後半はずっと幸せであり続けることを信じられないお兄様(笑)
きっと経験則。
この後とんでもない事件が起こる。時期的に横浜騒乱かなと思うけど、その頃にこんな時間過ごせるかな?

お読みいただきありがとうございました。



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