妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします! 番外編 作:tom200
前半はお兄様視点、後半は妹視点となります。
番外編らしいお話かと。
『狂おしいほどの罰を』
頬を染めて、恥ずかしがるほのかから手紙を受け取った時点で、悪い予感はしていた。
クラスメイトからは、古典的だ!ラブレターだ!と囃す者もいたけれど、そんな雑音に耳を傾けることなく手紙を開く。冒頭には予想通り兄さんへ、の文字が。
誰に見られてもいいように書かれている文章には、学校を離れ、平河千秋の入院している大学付属病院に行く旨が記されていた。
――昨日襲撃されたばかりの現場に、深雪が、単身で向かったと。
授業中の深雪の移動にしてはおかしな動きがあることはわかっていた。そしてすでに校舎を出ようとしているところだということも解る。
今なら走れば十分に追いつくのだが、学校で待機していてもらいたい、との文字が。
そして何かあれば自分の代わりに向かってほしいと。・・・これは彼女の中ではすでに何かがあるといっているようなものだ。
深雪には俺の知らない情報網があるし、勘も鋭い。こういった時の予測を外したところを見たことが無い。・・・他では時折とんでもない思い違いをしていることはあるが、そこは深雪の可愛いくも困ったところだが、今はそのことはいい。
つまり、待機は絶対ということ。
(できるなら今すぐ追いかけて傍に行きたいが、これはお願いという名の命令だな)
逆らうことなどできそうにない。
苦しくなるほど辛い。これが断腸の思いというものなのだろうな、とまた知りたくもない感情を知る。
深雪にはわからないだろう。俺がどれほど気を揉んでいるかなど。
軍での待機命令ならなんとも思わずに遂行できても、深雪からの待機は、九校戦の時のように俺から自制を奪う。いくら遠く離れていても守護ができると言っても、深雪に何かあるかもしれないと思うだけで不安に駆られるのだ。
だが、あの時の二の舞だけは避けねばならない。
深雪に何かが起こればわかる、起こる前にも察知できる。――だから大丈夫だ、と己に言い聞かせ、体が勝手をしないよう意識をしてこの場に留まった。
待機中、駆けつけそうになるほど深雪のサイオンが膨れ上がった場面があったが、深雪自身に危機感を抱いた様子がない。深雪のバイタルもほぼ正常。・・・しかし、視ているだけで待機というのは心臓に負荷がかかるな。戻ってきたら文句の一つでも言わせてもらおうか、とそれくらいの気持ちでいたのだ、この時までは。
――
確かに深雪の予感は正しく、その後七草会長(元、だが印象が強くてそのまま定着してしまっている)に連れられて鑑別所まで向かうことになり、呂と対峙し、捕えることに成功したのだが、現状を報告した際に中条先輩から、深雪についての軽い報告を受けた。――曰く、再度平河千秋が不審な男に狙われ、深雪が退けたと。深雪に怪我はなく二人とも無事だとも。
(病室には深雪ともう一人しか感知できなかった。この眼でも視えない敵がいたということ)
やはり付いていくべきだったと後悔が圧し掛かる。
深雪が退けたかなど関係ない。そんな相手と相対していることが問題なのだ。
もし、その男が深雪に手を出していたのなら、俺にはどうすることもできなかった。深雪が倒れるまで気付けなかったはずだ。――そんな恐怖は二度と味わいたくないというのに、まさに今その脅威に晒されていたとは。
「・・・流石深雪さんね。こうなることを予期してたのかしらってくらいすごい采配」
「達也くんを置いていったのは偶然じゃないと?」
「さあ?実際どうかわからないけれど、深雪さん、お兄ちゃんに隠れて病院に行きたかったみたいだし?」
意味ありげに視線を向ける七草会長の言葉にわかっていても否応なしに反応させられる。
「・・・どういうことです?」
「それは、・・・私の口からはちょっと」
「なんだ?兄に隠したいって、まさか男の存在を知っていて逢引しに行った、と?」
こちらも真面目くさった表情の割に揶揄い口調であることは理解していたが、心が波立つのは避けられなかった。
違う。わかっている。深雪の意図はきっと別にある。
そんな浮ついたものではないことくらい俺が一番わかっているのに、さっき考えていた脅威のことも有りどうにも落ち着かない。
表に一切出すことはないが、内心ぐるぐると腹に渦を巻く負の感情があった。
俺が反応しなくなると、先輩たちは何も言わなくなり、七草家の権力をもってその場を早々に引き上げ学校に戻った。
先輩たちを差し置いて生徒会室に入れば、少し困ったような笑みで出迎える深雪の姿が。申し訳なさそうな、それでいて、こちらを心配しているような、・・・複雑すぎて俺にはすべてを読み取れない。それに、読み取る余裕などなかった。
「一人で乗り込むなんて危ないじゃないか。俺じゃ頼りなかったかい?」
「兄さんは今忙しいでしょう?ただの安全確認だもの、一人でも問題ないと思ったの」
「男だったそうだね?何もおかしなことはなかった?」
「気配を全く感知できなかったわ。目で見ただけだったら、きっと最後まで認識できなかった」
口を動かしながら眼でチェック。身体に異常は無し。
しかし――深雪が誤魔化しているのはわかった。
ただの安全確認ではない、何か目的があったのだ。中条先輩には言えて、俺には言えない何かが。
ありえないとわかっていて、男のことを聞き出そうとしたら、――深雪が感知できない存在がいたと?いくら力が制限されているからといって、深雪の察知能力は高いはず。肌で感じることもできないような輩が、あの時傍にいたのか――。
激しい感情に震えそうになる体を押さえつける為、深雪を抱きしめる。
深雪が腕の中にいる安心感は、自身に向く怒りすらも宥められた。
「ごめんね」
心配をかけたと謝る深雪に、俺は内心すまないと詫びた。
(それだけじゃないんだ。俺は今、お前を利用して怒りを鎮めたに過ぎない)
「無事でよかった」
これも本心だ。お前が無事であることが何よりだ。
抱き込んだ体を己が体温と混じるほど抱き合っていると、非難の視線を感じ、深雪が身じろぎしたのでしぶしぶ離す。
貴方たちが煽ったせいだろうに、とは言わない。藪を突くよりも、早く帰って深雪から事情を聴いた方がいい。
何よりも深雪と早く二人きりになりたかった。
――
その願いが通じたか、生徒会はこのまま解散となり、いつもより早い時間に帰宅することができた。
夕食も済み、淹れてもらったコーヒーを飲みながら、今日のことを振り返る。
話を聞きだすと、落ち着いていた腹の中の渦がまたぐるぐると回りだした。
千秋、と親し気に呼ぶ深雪に酷く違和感を覚え、周という男の存在に深雪が気づけなかったということに警戒が向く。
深雪の話だと大変見目がいい男だったらしい。年の頃は二十代半ばで知的な風に見えたのだとか。目立つ容姿の割に、視界に映らないというのは油断がならない、と深雪は言う。
確かに油断ならない相手のようだ。師匠の言っていた方位に気をつけろ、というのはそのことだったのだろうか?
俺はまだ相対したことはないが、深雪の周囲にいたにもかかわらず視ることができず、深雪に向けられていただろう視線にも気づけなかった相手。
深雪でさえ自分のテリトリーに入れても気づきにくいと言わしめるなど、相当の手練れとみて間違いはない。
それから深雪は俺の気付かぬところで四葉の者と接触し、情報を得ていたこと。四葉の手を借り、平河千秋の周辺を警戒していたことを知る。
・・・深雪の成長は嬉しい。自身で考え、行動し、結果を残す。今回は完璧に近い成果を残したと思うのに、俺は素直にそれを褒められない。認めたくないとさえ思ってしまった。
深雪が自ら動かなくても、命令してくれれば――。
だが、この優しい妹は忙しい俺を心配し、自分で行動させてしまった。
そう思わせてしまったことがなんとも情けなく不甲斐無いことか。その上――くだらない嫉妬までして。
けれどこの健気で可愛い妹は、そんな俺の考えなど知らず、今後取るべきことで頭がいっぱいのようだ。
確かに、これからのことを思うと先を読まねばならないだろうが、――今日のようなことだけは、深雪が一人で行動することだけは注意しなければならない。
これから先、俺が傍にいられないこともあるだろう。
だが、それでも情報共有はあってほしい。
いくら常に眼を向けられていることを知っているからといっても、俺に知らされないままで危ない目にだけは遭ってほしくない。
それだけは、伝えなくては。
「全く。高校に入ってから事件ばかりだな」
ここで切り上げだと言外に含んでいえば、深雪もお疲れ様です、と微笑んで返す。
俺を想っての優しい笑みに絆されそうになるが、ここは兄として、ガーディアンとして心を鬼にしなければならない。
「ところで、お仕置きがまだだったね」
――
――深雪にはちょっと変わった弱点があった。
今日はそこを重点的に突いて、危険な単独行動は控えるようその身に教え込まなければ。
まず一点。
深雪は擽られるのに弱い。肌が敏感なのか感じやすいようだ。
頬をなぞる様に触れれば、ぎゅっと固く目を閉じてやり過ごそうとするが、体が震えてしまっているので隠しきれてはいない。
続いてもう一点。
恐るおそる目を開く頃に顔を近づけると、顔を赤らめる。兄とは言え男にこれほど顔を近づけられることはないからな。免疫のない深雪には刺激になるのかもしれない。
最後に、耳元で話しかける。
これが一番、効果がある。耳が弱いのかもしれない。びくびくと震えているが耳が真っ赤に染まっていて、恐怖だけではないことは一目瞭然だった。
「深雪はいけない子だね」
――頬から顎にかけて指の背で撫でながら、
「学校を抜け出すなんて」
――耳に唇が付くほど顔を近づけて、
「だけど、何が一番いけなかったか、わかるかい?」
――吹き込むように囁いて。
深雪はそのたびに体を震わせ、
涙を溜めて、
いやいやと首を振る。
・・・違うな、最後のはわからないという代わりに首を振ったのか。
しかし、これは深雪にわからせるためとはいえ、これは俺にも忍耐が必要であり、幾度となく思考をシャットアウト、切り替えする作業に追われる。
妹とは言え、15歳とは言え、まだ少女だということなど言い訳にできないほど魅力的で、一つ一つの仕草が色香を放って惑わせてくる。
意識的ではないからこそ、余計にこちらも防ぎようがない。
「わからないか?」
再度聞くが、びくり、と震えてから首を先ほどより大きく振って答えるが先ほどからアクションだけで深雪の声を聞いていない。一度意識してしまうと不思議なもので声が聞きたくなるな。
「俺に言わなかったのはどうしてだ?止められると思ったからか?」
首を振る。否定。
「知られたくなかった?」
首を振る。否定。手紙で伝えたのだからそれもないか。
「なら、俺を連れて行きたくなかった?」
首を竦めて縮こまる深雪。嘘がつけないところがまた愛おしくなるのだが、今は追及が先だな。
「どうして?」
なるべく優しい声で訊ねるが、残念ながら声はまだ聞こえない。頑なに口を閉ざしていた。
「俺が行くと不都合だった?」
竦められたままの首は攻められないので顎を指で撫でる。
肩を震わせる深雪から否定もない。
「俺に見られたくないものがあった?」
耐えるように時折漏れる声が煽情的に聞こえて、一瞬手が止まりそうになるが、ここで止まるのは不自然だろうからそのまま頬の方に滑らせて、頬に手を当てる。
擽られなくなったからか、深雪はゆっくりと目を開けた。
潤んだ瞳がまた欲を掻き立てる色を滲ませているが、これが無意識だというのだから恐ろしいな。
引き込まれそうになる。
「・・・もう、お許しくださいお兄様・・・」
意識が奪われかけたその時、待ちに待った深雪の声が。
可哀想なほど震えた声に憐憫も覚えるが、それ以上に仄暗い喜びが湧き起こりそうで――思考を切り替えた。
「いったい何が見られたくなかった?例えば――男と会うことか?」
深雪の目を見ると・・・その答えは違ったらしい。
違うことはわかっていたが安堵する。しかしそうなるともうお手上げだった。いったい深雪は何を見られたくないというのだ?
「平河千秋か?」
揺れる瞳に、ここに謎が隠されているらしいことはわかるのだが。
(――深雪は確か彼女に怒りを抱いていたんだったな。姉を傷つける行動を取った彼女が許せないのだったか)
・・・攻め方を変えるか。
頬からまた手を滑らせて後頭部から項をたどって首へ――喉元の急所に指を這わせる。
「今後も俺が傍にいられないという場面は出てくるだろう。深雪の危機には駆けつけられるつもりだけれど、それでも前もって情報があるのとないのでは違う」
擽ったいのを堪えつつ、俺の言葉を必死に理解しようとする深雪の健気さに全てを許してあげたくなってしまうけれど、ここはぐっと堪える。
「だから、深雪がいけなかったのは俺への連絡を絶ったこと。何をするつもりか事前に伝えなかったこと。もちろん学校をサボることも褒められたことじゃないけどね。それだけならここまで注意することでもなかった」
「・・・・・・ごめんなさい」
深雪は素直だからこういう戦術が一番効果的か。
「深雪は素直でいい子だ。・・・二度は無いことを願うよ」
真直ぐ見つめて言えば、深雪にはもう黙っていることなどできないと、告白する。
「傷ついている女の子に、手を上げたのです・・・んっ、」
・・・しまった。手を動かすタイミングを間違えた。指が首を掠めてしまった。
「そうか」
謝るのも変なのでそのまま流したが、――手を上げた、ね。
深雪はとんでもないことをしたとばかりに告白したが、・・・深雪は優しいな、という感想しか抱かなかったんだが。
深雪は許せない相手に、身動き取れない相手に手を上げたことが、とてつもない罪悪のように思ったのだろう。
(この様子だとこれが一番隠していたかったことのようだな)
「深雪」
隠したことが無くなったことで気が緩んだのか、目が潤んで、というより蕩けたようになってなっていて――
「深雪?」
「・・・はい」
これは・・・少々やり過ぎたか?朦朧としているな。
「もうしないか?」
かろうじて頷く深雪だが、本当にわかっているかは微妙な反応だ。
手を離し、耳元にだけ集中させて、
「本当に?」
と囁けば、体を守るように丸めて堪えるような声が漏れる。
唇と固く結んで漏らさないようにしているようだが、そこがほどけたら、どんな声が聞こえるのか。
唇に手を伸ばしかけるが、その前に小さなその口がうっすらと開いて、息も絶え絶えの声が零れた。
「・・・おに、さま・・・も、だめ・・・」
そして糸が切れたように深雪は体から力が抜けて眠ってしまった。
・・・気を失った、と言った方が正しいのか。
やはりやり過ぎたらしい。
深雪の首筋に手を当てるとのぼせた時のように熱くなっていた。まだ体が敏感のままなのかわずかに震えが伝わってくる。
横に寝かせてあげようと抱き上げる為わき腹に触れると、熱に浮かされたような吐息が聞こえ、今度こそ動きが止まってしまった。
落ち着け、と言い聞かせてゆっくり深雪の体を持ち上げて――動かす度に艶めかしい声が耳元で俺の鼓膜をくすぐる。
・・・確かにコレはキツい。深雪の耳が特別弱いのではないのだと知った。
だが、有効性も身をもって知れた、とも言うか。
やっとの思いで横に寝かせてから頬を撫でて、寝息を立てて聞こえていない深雪に語り掛ける。
「もう二度とこんなお仕置きが無いと良いな」
今度はもう少しうまくできる気がする、ともし次があったならこうしようと脳内でプランを立てつつ、しばらく傍で深雪が目覚めるのを待った。
――
「お目覚めかな?途中で気を失ってしまったようだけど、もし覚えていないのなら一からやり直そうか」
「お兄様に黙って学校を抜け出したりしないからもう許してくださいませ!!」
真っ赤な顔を覆い隠して俯いてしまった深雪に苦笑するだけの余裕を取り戻した俺は、深雪の頭を軽く撫でてから身をかがめて残念だ、と耳に吹き込んだ。
お兄様!と怒る深雪としばしじゃれあって、ようやく留飲を下げた。
――
『ハッピーハロウィン』
「しかし、この耳もよくできているな」
お兄様が自身の頭についている耳をふにふにといじっている。
カチューシャを外して触るのではなく、頭に伸ばして触る姿に、胸のキュンキュンが止まりません。首を傾げているようにも見えてとってもグッド。
可愛いがすぎる。お兄様今日はまだお疲れなのかな?普段取らない行動ばかり。
「この耳とお前の耳はまた触り心地が違うのか?」
「ええ。どちらも本物を触ったことはありませんが、イメージで作りました」
日本のオオカミはとっくに絶滅しているし、イヌは今世で触れる機会などなかった。好きだけどね。
動物一般毛皮くらいしか触ったことはありません。狐さんとかミンクさんとかアンゴラウサギさんとかね。生きている子は触ったことが無い。
前世との逆転現象。前世は動物触れたけれど、ミンクさんなんて触れる機会はない。
・・・まあその話は置いておくとして。
オオカミの耳はちょっとしっかり目に。イヌの耳ははんぺんを基準に。ええ、はんぺんの弾力と柔らかさ。
妥協はしません。おかげでちょっと大変だったけどね。いいの。趣味で大変な分には苦労の先に幸せが必ず待っててくるから。
「・・・触ってみますか?」
お兄様の目がね、ずっと私の頭上をロックオンしているのですよ。
でもテーブル越しは遠いのでソファに移動しようかと思ったのだけど――
「ソファではせっかく深雪が作った尾の部分がつぶれてしまうだろう?」
ということでお兄様の座るひざの上に座ることに。・・・なんでそうなる?
「うん、こちらの方が柔らかいね。あと手触りがいい。・・・毛並みがいいと言った方がいいのか?」
ふにふにふにふに。
気に入りましたかお兄様。ストレス発散グッズにスクイーズって流行ったけど、お兄様もこういったものが好きなのかな。
揉むように触れるだけでなく撫でるようにも触れられているようだ。
感触が伝わらなくてよかった。・・・ほら、漫画的展開であるじゃない。なんやかんや不思議なぱわーが働いて本物のイヌ耳が生えたり、感覚が繋がってしまってパニックになったり、みたいな。
そんなことになったら――いや、いくらお兄様がラッキースケベの呪いがあったとしても本人が手を離せば問題ないのだ。・・・だけど、このお兄様手放してくれるかな・・・?研究気質が働いてイロイロいじくりまわされそうで怖い。
も、妄想だから。そんなことにはならないから!
ここはちゃんとしたロジックが無いと魔法が成立しない世界。なんやかんやの不思議なぱわーなど存在しない。
「ほう、尻尾はまた素材が違うな。耳と比べて軽いか?」
いつの間にか耳から尻尾に触れられてました。お腹のベルトが引っ張られてる感触があるね。気づかなかった。
「色はなるべく近いもので選んだのですが、よく気づきましたね」
撫でるように触れたり掴んで滑らせたり、感触を楽しまれている様子。
でもなんか腰回りでごそごそされるのって気まずいね。お兄様が変なことをするはずないとわかっていてもドッキリが待っているような緊張感がひしひしと。
背から腰あたりを支えられ、もう片方のお腹に回されている腕で尻尾に触れられているので余計に気まずさが。抱きしめられているわけじゃないのだけど、近い。肩越しにのぞきこまれてるから顔も近い。
「そんなに触れたいのでしたら外してから触れたらどうです?」
その方が絶対触りやすいと提案すればお兄様は動きを止めた。
ビタっと。・・・うん?
「・・・そう、だな」
・・・・・・まさか思い至っていなかった、と。
お兄様が尻尾から手を離して口元を覆った。顔がちょっと赤い?え!?お兄様の顔が赤い!?!?
「すまない。完全に抜けてた」
思いつきもしなかった、と。
・・・しょうがないよ、疲れてたんだよお兄様は。
あまりのお兄様の照れ顔の破壊力にヤラレた私はお兄様の胸に凭れて顔を伏せた。
お兄様の心音が速く聞こえる気がするけど、私のスピードも速いのでよくわからない。
「トリックオアトリートではなくトリックアンドトリートになってしまいましたね」
「うん?」
「私はお菓子を差し上げたのに、いたずらされてしまいました」
「・・・・・・・・・悪かったから、追い打ちは勘弁してくれ」
気まずくて何か話題を、とハロウィンネタを言ったらお兄様から白旗を上げる声が。
よくわからないけど謝られました。追い打ちをしたつもりはないのだけど。
でも謝罪と共に抱き込まれたのはなんで?
何かしでかさないように拘束されてる気分。
「お兄様?」
「・・・俺はお前にやれるお菓子は持っていない」
おや。自己申告しますか。
でもお兄様にお菓子をねだることもいたずらする予定も無かったのだけど。これは期待されてる?
困った。お兄様にいたずらなんて考えてもみなかったから、どんなことをすればいいのか。
私のハロウィンの知識は実用性のない創作の世界のものくらいなので使えるわけもないし・・・あれはいちゃつくための口実だしね。
うーん?
・・・
「あ!でしたら」
「やっぱり同じ耳でも違いますね!可愛いですお兄様」
「・・・可愛いのはお前だよ。まさか思いついたいたずらが互いの物を交換とはな」
苦笑するお兄様の頭には先ほど私が付けていたイヌ耳が。
同じ耳でも種類が違うだけでこんなに印象が変わるんだね。可愛いですお兄様!
「まあ、お前が喜んでいるならよかった」
「はい!嬉しいです。可愛いです!」
「・・・そうか」
複雑そうだけれど、私が喜んでいるからいいか、と受け入れるお兄様は、けれど意外と楽しんでいるようで。
交換したオオカミ尻尾を撫でている。さっきは外して撫でればいいなんて言ってたけどね。もう気にならなくなりましたか。
「イヌもいいがオオカミな深雪も有りだな」
出ましたお兄様のゆるゆる判定。妹のすることならなんでも肯定派ですからね。
「がう!」
せっかくのオオカミさんですからね。一鳴きしたら、また抱き込まれました。
「首輪はイヌ用より太めにしよう」
「イヌ用もオオカミ用もウチには要りませんよ」
具体的に想像しないで。首を撫でてこれくらいの、なんてしなくていいです。
「お兄様のいたずらのターンは終了したでしょう!」
「いたずらじゃなくて本気なんだが」
「猶更だめです!」
賑やかなハロウィンは、これから訪れるだろう災厄を忘れさせてくれる一夜となった。
本編よりもお兄様の箍が緩んでますね。大変危険。そんなお話でした。