妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします! 番外編 作:tom200
スティープルチェース編前編最後の方の偵察時のお話。
お兄様が気配を消して黒羽姉弟を驚かせたシーンが可愛すぎましたので気付いたら書いてました。
偵察から戻られたお兄様をお出迎えして、軽くハグを。
目的は偵察だけであってやり合ってきたわけでもないので特に疲労もしていない様子に、原作を知っていても安堵した。
心配をかけたことにか、お兄様が頭を撫でてくれる。優しい。思わず口元が綻んだ。
だけど、何時までもハグをしているわけにもいかないのですり、とお兄様に頭をこすりつけてから離れる。
お兄様が名残惜しそうに見つめるのに胸が締め付けられるけれど、何時までも兄妹が抱き合っているのはおかしなことですからね。
それに、まだ報告を受けていないですよ、と視線で訴えればお兄様は仕方ないと表情を切り替えた。
「厳重な警備が敷かれていた。賊を侵入させた昨年のようなへまをしないため、とも取れなくもないが、守っているのが仕掛けられると思われるスティープルチェースクロスカントリーのコースだからな」
その他の会場も厳重に警備をされていたようだったが、侵入もできないと思えたのはそのコース会場の周辺だけだったそう。
何かがある、と思われてもしょうがないほど厳重だったらしい。…というかで他の会場も視てこの時間に戻られてるのですか?お兄様初日からフルスロットルで働いてますね。
「それくらい、なんともないさ。行く道々で視たくらいだからね。実際に侵入したわけじゃない」
そうお兄様は簡単に言うけれど、それってそんなに簡単なお話ではないですからね。
大丈夫だよ、と髪を梳くように撫でられる。
よく梳いておいたので引っかかることはない、自慢の深雪ちゃんの髪です。キューティクルが眩しい。極上の滑らかな手触りでお兄様の疲れが癒えるといいのだけど。アニマルセラピーならぬ妹セラピー。
「それにしても、お兄様をもってしても侵入を警戒するほどの警備だったのですね」
「俺を高く評価してくれるのは嬉しいがな。今日は元々様子見で戻る予定だったから深く入り込むつもりも無かったんだが、俺よりもスペシャリストが入りあぐねていたからな」
苦笑しながら答えるお兄様は、道中亜夜子ちゃんたち姉弟に出会ったことを語った。
それにしてもスペシャリストとは。年下でも実力を認められ尊敬なさるお兄様、素敵です。
「二人も偵察に来ていたようでな。声を掛けたんだが驚かせてしまった」
「まあ。あの二人がびっくりするような近づき方をなさったのですか?」
「不可抗力だ。だが、二人には悪いことをしたな。文弥もひどく驚いた様子だったが、亜夜子には怒られてしまった」
「亜夜子さんが?お兄様に怒ったのですか⁇」
それは、ちょっと驚きだ。
お兄様大好きな亜夜子ちゃんがお兄様に怒るだなんて。
冗談で怒って見せた、にしてはお兄様が申し訳なさそうな…?
「ああ、涙目で驚かせるなと怒られてしまったよ」
「!!」
あ、あの亜夜子ちゃんが涙目に!?
ちょ、ちょっとそれは大変気になるのですが!お兄様も心なしか表情が和らいで見える。こ、これは進展があったと、そういうことです?!
「お兄様、亜夜子さんを泣かせてしまったのですか?」
「泣かせた、と言うほどでもないんだが」
どうやらお兄様もそんなつもりはなかったのか少し困り顔。でもその中にも親愛の情が浮かんで見えるのは気のせいではないと思う。
お兄様がつらい孤独の時期、あの二人はお兄様の傍に居た。お兄様を慕い、お兄様の癒しとなっていたはずだ。
お兄様にとっても友人たちとは別に二人は特別な存在なのだろうと窺わせるには十分な表情だった。
(亜夜子ちゃんならお兄様を任せられる!お兄様のことが大好きだし、事情は分かってるはずだし、可愛いのに大人びていて、年下とは思えない色気さえ漂わせて――ただでさえ十分魅力がありすぎるのに、更に涙目で怒るだなんて、ツンデレ要素までお持ちです!?恥ずかしがって、という様子ではなさそうだけど、いつもちゃんとしてる子の涙目なんて、ギャップに撃ち抜かれてもおかしくない!)
亜夜子ちゃん涙目事件に心が浮足立っていた。というか踊り出していた。
「深雪?」
「ふふ、しっかり者の亜夜子さんがそこまで慌てるなんて。きっと可愛らしかったのでしょうね」
「…慌てるのが、可愛いのか?」
おや?お兄様、ご自身が微笑んでいたことに気付いてないご様子で?
「いつもと違う姿を見ると心が温かくなって微笑ましくなったりしませんか?」
それを人はギャップ萌えと呼びます。…オタクは微笑ましいどころか荒ぶるのですがね。
涙目の亜夜子ちゃん絶対可愛いもの!ぜひこの目で見たかった!!…でも私の前だとライバル視されてるから見せてもらえない気がするけれど。
残念がっているのを隠しつつお兄様を観察すると、お兄様はしばし考えてから――あれ、何故に色男モードになられましたか?
「そうだね。確かにいつもと違う様子というのは可愛らしく思うものだ」
「!お兄様にもお分かりになります?」
一瞬漂う色香を忘れてお兄様にもギャップ萌えの心がおありでしたか!と嬉しくなったのもつかの間、伸ばされて頬に添えられた手に目を開閉させているとお兄様の顔が近づいてきて――。
「普段は淑女然としているのに、俺の前で慌てふためく様子は可愛いと思うからな」
ボンっと顔が音を立てて真っ赤になった気がした。
きっと、表面では顔が強張って固まっただけだと思うのだけど、赤くなるのは止められない。
お兄様の表情がからかうように口角を上げる。
「うん、可愛いね。いつも可愛いけれど、これはまた別の良さがある。もっと違う深雪を見てみたくなるような――」
「お、お兄様!揶揄わないでくださいませ!」
「揶揄ってなどいないさ。深雪が教えてくれたんだろう?だから改めて確認しているだけだ」
くすくすと笑いながら顔を近づけられているけれど、それ以上は止めてほしい。息ができなくなってしまう!
「意地悪をなさらないでください…」
ギブアップだと訴えれば、お兄様は悪かった、とそっと抱きしめて背中をポンポンと叩いて離れた。
…いつもよりスムーズに離れたな、と疑問に思ったけれど、続けられた言葉に納得した。
「と、ふざけるのもここまでにして。話が途中だったな。文弥たちと話していたら師匠も現れて――」
報告が途中だったね。
ってことで八雲先生がコースに入って見てきたことを聞いて、今この場所にこだわる必要性が無いと判断。
大した収穫も無かったのだということと、次回のお菓子のリクエストがあったということ。
短い時間の中でも色々とあったのね。お疲れ様ですお兄様。
シャワーの準備ができていると告げるとありがとう、と短くお礼を言ってシャワールームに消えていった。
その後ろ姿を見送ってから、ベッドに腰を下ろして顔を覆う。
(亜夜子ちゃんにギャップ萌えしたのかと聞きたかったのに!お兄様ったらすぐ揶揄うのだから)
困ったお兄様だ、と文句を言いながら、心と心臓を落ち着かせるのだった。
涙目で怒る亜夜子ちゃんとても可愛い…。お兄様の登場に目を輝かせる文弥君も可愛かったです。黒羽姉弟最高!
深雪成主は叔父さんの手前二人を可愛がれないのでほとんど接触無し。遠目で愛でるのみ。つらたん。
それを知っているお兄様は陰ながら見守っていた。二人を可愛がれない分俺がお前を可愛がるから寂しくはさせない、と構うお兄様が見られる。いつも以上に甘えてくれる深雪成主にお兄様はハッピー。
意地悪しないで、の言葉と本人無自覚で潤む瞳に見つめられてぐらついた理性に、お兄様はこれはいけない、と節度を思い出した。
自分が注意しておいて流されかけるとは何事だ。というか流されるとは何だ?!とプチパニックしてたのが全く表に出ていないのはずるいと思う。
すぐに冷静を装って適度な(・・・)距離を保って要件を済ませてそそくさと離れた。心頭滅却。恐らくシャワーは初め冷たい水だった。
疲労で箍が緩んでいた模様。大丈夫、この後ガッタガタになるけど外れはしないから。お兄様の理性は妹を守る為頑張っていました。