妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします! 番外編 作:tom200
誰が誰とは言わないけれど、ずっと違いに戸惑い(困惑し)そうですよね。
実習では様子見の為いつもより少しゆっくり目に発動したつもりなのだけど、どうやら最高記録を更新してしまったらしい。
調子がよかったことにして、次は前回の記録を目指して速度を微調整した。
これでさっきのはまぐれですってことで一つよろしくお願いします。
授業も終わりようやく放課後。
七草会長たちとお仕事をいつも通りに終わらせて(任されている仕事も一緒だった)、風紀委員の見回りを終えたお兄様を待つ。
端末に連絡が来るんだね。
私の場合、終わる頃にお兄様がいつも迎えに来てくれていたので連絡を貰ったことは滅多になかった。
そして連絡を貰った通りの時刻にお兄様は現れた。渡辺先輩を連れて。
これもいつものことなのかな。渡辺先輩から意味ありげにちらっと私に視線を向けられたけど、どう返すのが正しい反応かわからないのでニコリ、と笑っておく。何も知らない後輩をいじめないでください。
私の反応は悪くなかったのか、肩をすくめて先輩は下がった。
「お待たせ」
お兄様が迎えに来たことで生徒会も解散。
待ちに待ったお兄様との帰り道。生徒たちの視線のある駅までの下校中は、嫌な視線を向けられることもあり距離を空けて歩こうとしたのだけど、お兄様はその反応も違和感だったんだろうね。
もう一度心配の声を掛けられてしまった。
そうだよね、こういう時の深雪ちゃんって周囲に向かって見せつけるようにお兄様にくっついたりしそう。私がしたくてやっているのです、と。
でもね、それをしてもお兄様に悪感情が向けられると思うとそれもできないわけで。
「ここではちょっと話せないので」
でもこれ以上濁すこともできなくて、あとで話したいと伝えるとお兄様は頷いてくれた。
私の元居たところとのカルチャーショックを感じながらようやく二人きりになれたキャビネットの中。
私は重い口を開いた。
「お兄様、深雪のことを視ていただけますか?」
「…どこかに異常があるということか」
お兄様はすぐさま視線を、眼を向ける。
「…おかしな箇所はなさそうだが、目測になるが少しサイオンの量が多い気がするな」
え、そうなの?…見比べようもないので違いが判らないけれど、お兄様がそうおっしゃるならそうなのだろう。
「それ以外、違いはありませんか?」
「視たところはない。が、いつもと違うのはわかるよ。――深雪、何故そんなに緊張をしている?昼頃からずっと変に緊張しているように見えた」
「!」
やっぱり、流石はお兄様だ。私の小さな異変にも気づいてくれる。
嬉しくて思わず笑みがこぼれた。
その笑みに、お兄様は驚いたように目を見張ったけれど、それは一瞬ですぐに表情が引き締まった。
「お兄様は、何処にいてもお兄様なのですね。深雪は嬉しく思います」
正直これから話すことを信じてもらえるかなんてわからない。お兄様に疑われることが怖い。
けれど私ひとりで隠すのはきっと良いことにはならないから。
何より、私にお兄様をだまし続けるなんてできないから。
「お兄様。荒唐無稽なことを話します。信じるも信じないもお兄様次第です。ですが誓って、嘘は申しません」
「――教えてくれ。深雪は今、どんな問題を抱えている?」
真剣な眼差しに、心配する気持ちが見えて強張っていた肩の力が抜けた。
――
私は語る。
自分がお兄様の『深雪』ではないことを。『私』は別の平衡世界から来た深雪であると。
なぜこんなことになっているのかわからないこと、いつ元に戻るかわからないこと。
お兄様は黙って聞いてくれた。
全てを話し終えて、私は最後に謝罪した。
「偽るつもりは無かったのですが、お兄様の前で『深雪さん』を演じたこと、申し訳ありませんでした」
全てと言っても前世のことは話していない。
けれど、お兄様から深雪ちゃんを失わせてしまった原因は恐らく私だから謝罪しなければ、と思ったのだ。
それと、言葉通り、お兄様の前で『深雪ちゃん』を演じたこと。それは一時的混乱を招かないためとはいえお兄様を偽ったことになるから。
誠意を込めて頭を下げる。
「深雪の話は分かった」
その言葉に顔を上げると、お兄様は少し難しい顔をされていた。お兄様も複雑なのだろう。
「正直言えば信じがたい。俺の眼には深雪本人にしか見えない。けれど、それだと目算でしかないがサイオン量の多さがわからない。成長するにも急すぎる」
…そうなんだ。さっきも思ったけど差なんてないと思っていた。あったとしても誤差くらい?思ったより特訓の成果があるようだ。鍛えていてよかった。
「帰ったら測定させてくれるか?」
「はい」
むしろ私からお願いしたい。この体が私のものなのか、入れ替わっているのかがわかっていない。
…しかし本人同士が入れ替わりとなると、何処で見分ければいいのだろう。体に傷なんてないし、肉体の成長の差はなさそうなのだけど。
「うん。雰囲気が、違うな」
「そう、でしょうか」
「俺を揶揄うにしては深雪らしくない設定でもあるしな」
それはそう。
お兄様を揶揄うなんて普段からあまりしないけれど、それにしてもこんな性格を変えて私は誰でしょう?なんてお兄様を困らせるような悪戯はしない。
それから違和感はないかなどの話になったけれど、身体について違和感はないものの、学校内の接し方の差や他の生徒とお兄様たちとの関係が違うことを述べると、そんなに違うのかとお兄様は驚いていた。
「一科と二科がいがみ合っていない世界線があるのか」
それは確かに別世界だな、とお兄様の中で私の世界が全くの別物だと区別がついたそう。基準そこでいいんだ。
「私のいたところでは、お兄様は英雄扱いでしたよ。本人は迷惑そうでしたが」
「英雄とは、それはまた…だが、もしそんな扱いを受けているなら確かに迷惑に思うだろうな」
想像だけでも嫌そうなお顔です。原作のお兄様も思っていたより表情に出るんだね。
それとも深雪ちゃん相手だからかな。
前世からのファンとしてこうして原作のお兄様と触れ合えるチャンスが来るなんて感激である。いえ、あちらのお兄様もお兄様なのだけど、…ほら、だいぶいろいろと変わられてしまいましたから、ね?
「どうかしたか?」
「いえ、そういうところはやっぱりお兄様なんだな、と」
「…複雑だな。俺であって俺とは違う俺がいるのか」
言葉にされるとちょっと面白い。ふふ、と声が漏れてしまった。
「私も深雪ではありますが、お兄様と共に歩んできた深雪ではないですから。どこかしら違うでしょうね」
間違っては無いけれど、間違い探しみたいにそっくりだけど違う部分はたくさんあるはずだ。
「どれくらいの滞在になるかわかりませんが、しばらくの間よろしくお願いいたします、お兄様」
改めて挨拶すると、お兄様はよろしく、と返してくれた。
こうして私たちの不思議な共同生活が始まるのだけれど――
――
「深雪?」
「…あ、そうでした」
さっそく違いがありましたね。
玄関入ってすぐ、ハグがあるかと待機していたらお兄様が既に靴を脱いでいた。うっかり。つい癖で。
「…何か習慣でもあったのか」
「はい。ですがお気になさらないでくださいませ」
「ちなみにいつもなら何をしていたんだ?」
お兄様、そこ聞いちゃいますか。こちらのお兄様も好奇心旺盛。というより知識欲かな。興味の向くものに対してはどんなことでも知っておきたいタイプ。
でもこのお兄様にはちょっと言い辛いのだけど…大丈夫かな。
そう思いつつも、お兄様に聞かれて答えないという選択肢なんてないのだけどね。
「30秒のハグはストレス軽減にとても効果があるのです」
理由を添えて言えば衝撃は少なくて済むかな、とすまし顔で努めて冷静に、端的に伝えてみたのだけど、うん。固まってますね。
今のうちに私も靴を脱ごう。
「…それは、俺が言い出したのか?」
「いいえ、中学生の時に私の方から提案をさせていただきました。あの頃からお兄様はストレスを多大に抱えていらしたので」
気になったのはそこでしたか。でもどちらが言い出したかは大事なポイントですよね。
お兄様、分かりづらいですけれど今こっそり安堵しましたね。
安心してください。大抵の原因は私です。…その後はお兄様の自己責任ですが。
「…深雪は大丈夫なのか」
これは、私のストレスを心配してくださっているらしい。
お兄様、どの世界線でも妹に優しい。優しすぎる。これは好きになる。というより好きはとっくに天元突破しているのだけどまだ積み重ねてきますか。
「心配してくださってありがとうございます。現在の状況は不安も少々ありますが、楽しんでもおりますのでストレスは感じていないのです」
「楽しいのかい?」
「ええ」
そこで一旦区切って玄関から上がってお兄様と同じ高さになってから。
「急に知らないような土地に飛ばされても、お兄様がいてくれさえすればそれだけで私は安心できます。安心できる場所があれば余裕も生まれ、周囲を見渡すこともできるようになるみたいです。
それに何より大好きなお兄様が、私の知っているお兄様と違っていて新鮮で。新しいお兄様を発見できているみたいでちょっぴりウキウキもしています」
私にとってここは夢の世界。誰のご都合主義が働いてこうなっているのかわからないけれど、トリップ夢は基本誰かが満足したり何かが解決したら帰れるはずだから。もしくは時間ね。寝たりとか、扉を開けたりとか。
今回トリップしたタイミングも急な眠気が原因だった。だからきっと似たタイミングで帰るのだろうな、と思うわけで。
なので正直焦っていない。こういうものはなるようになるものだと割り切って楽しんだ者勝ちだとオタクは知っているのです。
だから私はこうして笑えるのだと、お兄様に笑みを浮かべれば、お兄様は驚きから徐々に和らぎ笑みに変わる。
「俺がお前に安心を与えられているのなら、それは良いことなのだろう。――わかった。別の世界の深雪でも俺にとってお前は大事な妹だ。ここにいる間、お前のことは俺が守るよ」
「お兄様…!」
どうしてお兄様ってこうして欲しい言葉をするっと言ってくれるんだろうね!もう好き。大好きです。
抱きつきにいけないのが残念だけど、節度。節度が大事です。お兄様であってお兄様ではないのですから気をつけねば。
ぎゅっと手を胸の前で固く結んで堪える。
するとお兄様が、頬を掻きながら。
「…もし何かを我慢しているのなら、俺でよければ付き合うから、我慢はしなくていいよ」
「え…」
「俺はお前と共に歩んできた兄貴ではないけれど、お前の兄には変わりないのだから。…好きにしていいんだ」
……お兄様、優しすぎない?どこの世界線でもお兄様の妹への甘やかしが凄いのですけど。
これで遠慮したらお兄様が悲しまれる。…でもいいのかな、と不安も過るのだけど変に間を空けるのもおかしくなってしまうので、ここはお兄様のお言葉に甘えることにした。
おずおずとお兄様に近寄って失礼します、とお兄様の胸に体を預ける。――温かい、知っている体温に体の力が抜けるのがわかった。
そこにお兄様が腕を回して抱きしめてくれた。その腕はいつもとは違って迷いのある腕だけれど、『お兄様』と同じ腕の中。それだけで安堵感に満ちた。
(ああ、お兄様だ)
少し泣きたくなった。思っていたより不安だったらしい。
「ありがとうございます」
すっと身を起こすと、お兄様の腕はするりと外された。…うん、こういうところも違うね。うちのお兄様じゃなかなか外れないもの。
でも、変わらない温かさと優しさを感じられた。
「じゃあ着替えたら一旦リビングへ」
「わかりました」
別れ際、するりと頭を撫でられた手と笑みに、胸を撃ち抜かれて重傷を負う中、笑顔を保ちつつ部屋へ入るのだった。
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