妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします! 番外編   作:tom200

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今年一月に上げた小話3本セットです。
ひとつ冬の小ネタではなく時事ネタが入ってます。
この世界にもSNSのトレンドがあるということで一つ。

よろしければお読みくださいませ。


冬の小話 1月

『おちおち風邪もひけない』

 

 

くしゅん、とくしゃみが出た。

気温が急激に下がったからかな。一度くしゃみが出ると続けてくしゃみが。

 

「くしゅん、っくしゅ」

 

両手で押さえて体を丸めてもう一度、

 

「っくしゅん!」

「…深雪ってくしゃみも可愛いとか反則じゃない?」

 

皆との帰り道だったので皆に振り向かれて少し恥ずかしい。

 

「何を言ってるのよエリ――くしゅん!」

 

ううう、文句を言いたいのにくしゃみが止まらない。寒気とか無いのだけど、鼻がむずむずする。

エリカちゃん達が心配してくれるけど、くしゃみが止まらない。

参ったね。なんでこんなに止まらないのだろう。

 

「寒い?」

「今日は急に冷えたもんね。温度差にやられちゃった?」

 

ほのかちゃんと雫ちゃんも、優しいね。

 

「そうかも。朝から寒かったわよね」

 

今年一番の冷え込みです、ってお天気キャスターも言ってたもの。

だから手袋もマフラーもしているのだけど、

 

「くしゅっ」

 

しゃっくりじゃないけど止まらない。

すると、マフラーの上からマフラーが。…お兄様のだ。さっきから無言だな、と思っていたけど難しいお顔してるね。

 

「兄さん?」

「悪いが先に帰る」

「え?」

 

お兄様がそう宣言すると、ふわっと体が宙に浮いたかと思うと抱き上げられて走り始めた。なお魔法は使っていない模様。

 

「え!?お、兄さん?!」

「じゃあね~」

「気をつけて帰れよー」

「お大事に」

 

友人たちの挨拶が遠ざかっていく。さらにスピード上げますかお兄様。

 

「お、お兄様!だ、大丈夫ですので下ろしてくださいませ!熱もありませんし」

「だが、そのくしゃみの回数は異常だ。これから熱が出るかもしれないだろう」

 

わあ、こんなスピードで走っているのに途切れることなく流暢にしゃべりますねお兄様。流石です。

パニクってよくわからない賛辞を述べてしまう。

駅まで物の数分で着き、大した待ち時間もなくキャビネットに乗った。もしやスピードアップしたのはこのためですか。

ゆっくりと下ろされて額に手を添えられる。

 

「熱は、まだないみたいだな」

「は――くしゅっ」

 

うう、そうだ、と答えようとしたのにくしゃみが。

手で押さえたのだけど、お兄様至近距離にいたから。

 

「お兄様、離れて下さいませ。もし風邪ならお兄様に移ったりしたら大事です」

「俺に移してお前が良くなるなら貰ってやりたいが、そういうわけにもいかないからな」

 

風邪は人に移して早く治る、は迷信ですからね。

あと、オタクとしては美味しい展開の一つではあるけれど、あれはネタだからいいのであってリアルであったらたまらない。うちには二人しか家族がいないのだから二人倒れるわけにはいかない。…というか、お兄様が風邪に倒れるなんてこと無いのだけどね。

でもだからってこんなに近いと心配にもなるので。

 

「お兄様、」

「寒くはないかい」

「はい。それは大丈夫なので――くしゅん!」

 

あー、だめだ。会話もままならない。

寒くはない。ただ鼻がむずむずするだけ、なのだけど。

隣に腰かけたお兄様が体を密着させてきた。

 

「お、兄様――はくちっ」

 

///今、すっごく恥ずかしいくしゃみが出た!

お兄様が近すぎて堪えようとしたら変になってしまった。

あまりの恥ずかしさに俯いたのだけど、お兄様の抱き寄せる腕の力が強まった。

 

「…困ったな。深雪の体調が悪いとわかっていてもあまりの可愛さに理性が飛びそうになる」

 

お止めください。これで熱まで上げられたら本当に風邪のようになってしまいます。

 

「お兄様…」

「…冗談、だったらよかったんだがな」

 

そこは冗談だよ、というところでしょう。

もしや熱を上げて風邪菌を倒そうと、そういう作戦?

まだ風邪と決まったわけじゃないけど。

 

「はっくしゅ」

 

…効果無いようですよ。

それからもくしゃみは止まらず、その度にお兄様がぎゅっと抱きしめ可愛いとこぼす謎のループに入ってしまった。

それはコミューターの中でも変わらず、おかげで体温は上昇するばかり。

 

「お兄様、もうその辺で」

 

勘弁してください。可愛いbotから戻ってください。

頭を撫でない、抱きしめない。ぬいぐるみじゃないのです。妹、生身の妹だから。

 

「っくしゅ!」

「可愛いなぁ」

 

頬擦りしながら愛でない!!

 

 

 

 

疲労困憊で帰宅した。

今日はもうハグはしない。もうずっと抱きかかえられてますからね。必要ない。

部屋まで運ばれ、着替えを手伝われそうになって、温かい飲み物が欲しいですとわがままを言って部屋から出ていってもらってパジャマに着替える。

流石に私もこれは異常だと思うから今日は大人しくこのままベッドで休むことに。

一応熱を測ってみるけど、やっぱり微熱を超えることはなかった。

身体もそんなにだるくなく、ただくしゃみが出るだけ。

はくしゅん!っくしゅん!

この分だとくしゃみのし過ぎで腹筋が鍛えられそう。

ベッドで横になりながらそんなことを考えていると、ドアがノックされた。

どうぞ、と返すとお兄様がお盆にマグカップを乗せてやってきた。

ミルクたっぷりのホットココアだ。

 

「…おいしい」

「それはよかった」

 

体を起こしたタイミングで背中にカーディガンがかけられ、マグカップを手渡されて。至れり尽くせり。その上ココアは程よい甘さで美味しかった。

ほっとする味に、私が頬を緩ませると、お兄様も同様に頬を緩ませた。

 

「寒さに加え、日ごろの疲れも出たんだろう。深雪はいつも頑張り屋さんだから」

 

そう言って頭を撫でるお兄様は、とてもやさしい顔をされていて、お兄様もお兄ちゃんなんだな、と当たり前なのだけど、改めて思った、というか。そんな不思議な感じだ。ふわふわして思考が纏まらない。

これは、確かに風邪の症状かもしれない。

 

「申し訳ございません」

 

自己管理を怠ったつもりはないけれど体調を崩すなんて、と落ち込むと、お兄様は謝る必要なんてない、と慰めてくれる。

 

「一眠りして、また起きた頃にご飯を食べて薬を飲もう。今日は特に予定は無いからね。つきっきりで看病できるよ」

「…お兄様、風邪は空気感染で移るのです。つきっきりで看病なんてしてはいけませんよ。たとえお兄様が大丈夫だと言っても、それでは私が休まりません」

「……だめか?」

 

お兄様、何でそんなに残念そうなんですか。

 

「お兄様」

「……寝ているところを様子見くらいはさせてほしい」

 

ううん…お兄様も心配だろうし、私が寝ている時くらいなら、気にならないだろうから…

 

「っくしゅ。…寝てる間でしたら」

 

そう答えるとほっとしたようにお兄様は胸を撫でおろした。

お兄様がそれで安心できるというのなら、寝顔を晒すくらいどうってこと…ないこともないけど、我慢できる、と思う。記憶にないからね。見てないものはわからないから。

 

「さ、もうココアも飲み終わっただろう。横になって眠ると良い。俺はこれを置いてくるから」

 

温かい飲み物はすぐに体を温めてくれる。さっきまでなかった眠気が近くなった気配にくしゃみだけでなくあくびも出た。

 

「ゆっくりお休み」

 

横になって、お兄様に頭を撫でられ目を閉じる。

 

「おやすみなさいませ…」

 

そこから扉が閉まる音が微かに聞こえたような気がするが、そこからの記憶はない。

だからお兄様がそのまま部屋を出ずに、マグカップを乗せたお盆を廊下に置くだけおいて部屋に留まっていたことも、寝ている間つきっきりでいたことも知る由も無かった。

 

 

――

 

 

『小さき命を大切に』

 

 

朝一のニュースをチェックしていたら、目に入ってくる文字にふふっと笑ってしまった。

お兄様はまだ朝の訓練から戻っていない。

朝食も準備できているし、と端末の続きをチェック…するのだけど、気が付けばその画面しか見ていなかった。

 

(…かわいい~。雪の妖精の名前はホントにぴったり過ぎて名づけた人称賛されるべき!)

 

意味のない賛辞を贈りながら画面を眺める。

ふくふくのふわふわ。

こんなちっちゃい妖精さんはその魅力的なぼでぃで見る者全てをほっこりさせてくれる。

ボディじゃないの。ぼでぃ。フォルムじゃなくてふぉるむ。そう言いたくなる可愛さ。

ぷりちぃ。

いつまでも愛でられるね。可愛い。

 

「っと、そろそろお帰りになる頃だわ」

 

うっとり見惚れていたけれど、お兄様のことを忘れることはない。

きちんとお出迎えをしなくては。

玄関に向かうとちょうど外の冷気を連れて入ってきたお兄様が。

 

「おかえりなさいませお兄様。本日もお疲れ様です」

「ああ、ただいま」

 

ベストタイミングでしたね。ハグをするかな、と思ったけれどお兄様はすぐに靴を脱いであがるとじっと見つめられた。

 

「あ、あの、お兄様?」

 

じっと見つめられて何かついているかなと顔に触れたり全身を見るのだけれど、特におかしなところは感じられない。

不安になってお兄様を見つめ返すと、お兄様がはっとなってすまない、と口にした。

 

「いつも深雪は美しいけれど、今日は一段と輝いていたから見惚れてしまった」

 

っ!…お兄様ったら朝からフルスロットル。

手を伸ばしかけるけれど、その手も途中で止まる。どうされたのだろう?

 

「外は冷えていたからね。今触れると冷やしてしまうだろうからすぐにシャワーを浴びてくる」

「まぁ。そんなことお気になさらずともよろしいのに」

 

お兄様の気遣いが凄い。

気にしなくても、たとえ冷たくてもすぐに温まるのに、と考えたけど、…それってちょっと破廉恥な考えなんじゃ?と気づいて慌てて頬を抑えた。

 

「…いったい何を考えたのか気になるところだけれど、このままでは生殺しだからね。急いで入ってくるとしよう」

 

生殺しって…、うん、まあ恥じらった深雪ちゃんの破壊力は見た者を骨抜きにしてしまうからね。如何なお兄様とて無傷ではいられませんでしたか。

…なんて調子に乗った考えだけどそうやってふざけてないとこの目の前のお色気たっぷりのお兄様に耐えられないので許してください。

ごゆっくり、とも言えなくて風呂場に移動するお兄様の背中を見送るだけで精いっぱいだった。

 

 

 

 

お兄様が戻るまでに制服へと着替えて朝の支度を整えて。

戻って朝食を机に並べ終えるより早く、お兄様は戻ってきた。え、早い。いつもより確実に早い。

そして真直ぐ私の元に向かってきたと思うとぎゅっとハグをされる。

…うん。ちゃんと温かいですね。あったまってきてくれたようで安心だけど、抱き込まれている時点で動悸が早まるので落ち着かなくなってしまう。表面は取り繕ってますけどね。

でも最近思ったのだけどこれ取り繕はないで気づいてもらった方が良いのでは?と思うのだけど、恥ずかしくて言うに言えない。タイミングが難しい。

大人しくお兄様に抱きしめられていたけれど、そろそろお時間が、ですね。

もぞりと私が動くとお兄様が腕を弛めてくれた。

 

「せっかく用意してくれた朝食が冷めてしまうな。食べようか」

「はい」

 

食べながら話は朝の様子について、なのだけど正直お兄様に私がどう見えていたのかなんてわからない。

いつもと変わったことなんて――あ。

 

「何か心当たりがあったのか?」

「気分が上がるモノは見ていましたね。――お兄様は雪の妖精はご存じですか?」

 

お兄様はちょっと考えてから口を開く。

 

「女神も天使も天女も妖精も一人しか知らないな」

 

真直ぐとした目でこちらを見られているけれど、これ、なんて返答するのが正解です?

 

「もう、お兄様ったら。――今日はシマエナガの日なんだそうですよ。二十四節気の大寒にちなんで制定された、冬にしか見られない姿の可愛い鳥です」

 

こういうのです、とお兄様に見せるとお兄様はへぇ、と知識の一つとして認識した。

 

「深雪の好きそうな鳥だ」

「ええ。そうなのです。とても可愛らしいですよね。飛んでいる姿も落下しているように見えて大変愛らしいのですよ」

「…落ちているのが可愛いのか?」

 

見れば伝わるはず、とお兄様の隣に座って端末を操作して一緒に見る。

お兄様に身を寄せてモニターを見れば、飛んでいる、というより落下して得物を捉える姿が。うん。文句なしに可愛い。

あのほよん、としたフォルムが弾丸のように放物線を描いて落下する様は何度見ても素晴らしい。

イキモノの神秘。

 

「可愛いでしょう?」

「…ああ、可愛いね」

 

おお。お兄様にも通じたようでなによりです!と、思ったのだけどね。

 

「今朝の深雪はこうして輝いていたのか。瞳をこんなに潤ませて、頬を染めて見ていたんだね」

 

するっ、と頬を撫でられて、お兄様が見ていたのがシマエナガの映るモニターではなく私であったことが判明。

 

「お兄様」

「そんな不満そうな顔をしないでくれ。俺にとってはお前ほど愛らしい存在は他にないんだ」

 

…あのですね、お兄様の唯一残された感情だからとはいえ、これは流石に無いですよ。妹相手に言うことでもすることでもないですから!

その手を、離してくださいませ!そっと抱きしめようとしない!!

 

「~~~、お兄様、これ以上は恥ずかしいのでお止めくださいませ」

「深雪は恥ずかしがり屋だね。もう何度も言っているのにいつまでも慣れないのか」

「無理です…慣れるはずありません」

 

お兄様からの甘い囁きに慣れることのできる人がいるなら見てみたい。

お兄様も私の弱点だとわかっているからこそ、いつもより低めのお声で攻めているのでしょう?

くすくすと笑われぽんぽんと背を撫でられて。

 

「さて、このまま二人で過ごしていたいけれど、どうする?」

「どうする、なんて聞くこともないでしょう。制服に着替えているのですから」

 

休む理由をなんというつもりです?シマエナガの日だから休みます、なんて聞いたこともない。前代未聞のずる休みだ。

 

「深雪は真面目だね」

「真面目ではなく普通なのです」

 

離れていくお兄様をわざとらしく睨みつければ、お兄様は愉しそうに笑って悪かった、と軽く謝ってから一緒に食器を片付ける。

冗談だとわかっていてもちょっとほっとする。

お兄様、妹のこととなると時たまとんでもなくネジが外れることがあるから。

 

 

 

 

そんな今朝の会話も学校が終わる頃にはすっかり忘れていて。

家に帰ってハグをして、あれ?今日はハグをすでにしたような?と思い返して連鎖のように思い出した。

朝のハグは基本的に制服ですることなんて無かったのでデジャヴのように感じたらしい。

お互い着替えるために部屋に入ってから、今日は何を着ようかとクローゼットを開くのだけど、今日はせっかくシマエナガの日だし、何かそれっぽいものを、と全身白コーデにしてみた。

もこもこセーターがふんわりしていて冬毛のシマエナガっぽい?黒髪を後ろに流せば、うん、よりそれっぽくなったかな。

スカートはギャザーのロングスカートなのだけど裾のところが透けているものをチョイス。雪の妖精らしくていいかな、と。

部屋着にしてはちょっと気合が入っているような恰好になってしまったけれど、シマエナガ気分を味わいたかった、ということで。

今日のエプロンはシンプルな柄のない水色のエプロンで。

今夜は冷えるので体が温まるシチューにしよう。

洋服一つで、と思うかもしれないが気分が上がり、かなりテンション高く料理を作っていた。途中クルリ、と回ったりいらない動作をしながらウキウキ作っていたのだけれど――…

 

「…お兄様、いつからそちらにいらっしゃいました?」

「初めから見られなくて残念だよ」

 

リビング入り口にお兄様が立っていたのに終盤で気づきました。

そして具体的にいつからとは教えてくれない。

…知ったところで記憶を消去なんてできないから、意味は無いのだけどね。

 

「見なかったことにしてくださいませ」

「深雪が望むなら触れないようにしよう」

 

真っ赤になってお願いすると、今日は情けを掛けてくれるらしい。ありがたい。お兄様の情けに感謝。

シチュー大盛にしますね。

 

「ところで、今日はどうしたんだ?いつも可愛いけれど、いつもよりも気合が入っているような――あれだ、今朝見せてもらった鳥に似ているね」

「!流石お兄様です!」

 

そうなのですよ。シマエナガをイメージしたコーデなのです!と嬉しくなってお兄様の元へ駆け寄ってしまった。

コンセプトをわかってもらえるって嬉しいね。

今の私はご主人様に褒めてもらっているわんこのごとく尻尾をぶんぶん振っている気分です。

お兄様は私の様子に苦笑しつつ、頭を撫でてくれた。

 

「いつも以上にふわふわしているように見えたから。うん。確かにコレは可愛いね。深雪が冬毛になるとこうなるのか」

 

…お兄様、人間に冬毛は無いですよ。なんて無粋なツッコミはしない。もこもこセーターは人間の冬毛。間違いない。

シマエナガとお揃いと言われたようでテンションのあがっている私に正常なツッコミなどできるわけがなかった。

 

「だが、お前が雪の中に埋もれていても、この美しい艶やかな黒髪と染まりやすい頬のお陰ですぐに見つけられそうだ」

 

言いながら、お兄様は髪を撫で、頬を撫でる。

…手つきが危ないですよお兄様。ちょっとお色気モード入ってますね。

 

「もう。料理中のおいたはダメですよ」

 

ちょっかい禁止です、と忠告するとお兄様は残念そうな顔をして大人しく引き下がった。

 

「こんなに美味しそうなモノを前にして食べられないとは」

「シチューはすぐ出来上がりますのでもうしばらくお座りになってお待ちください」

 

出来上がり直前の匂いは空腹を直撃するからね。お兄様も逆らえないらしい。

そのことが嬉しくなって微笑んで返すと、お兄様は名残惜しそうに見つめてからテーブルに向かわれた。

…そんなに食べたかった?お兄様も食べ盛りの男子高校生ですからね。味見くらいさせてあげればよかった。

うん、いい匂いだ。

パンは温めて、サラダとオムレツ、シチューをよそえば完成。

シチューとパンはおかわり結構ありますからね。たくさんお食べ下さい。

 

 

 

 

と思っていたのだけど、お兄様はぺろりと全部召し上がられた。結構量あったと思うのだけど。流石食べ盛り。

食後のコーヒーを入れながら横で食器を片付けてくれるお兄様を見る。

一体あれだけのご飯がどこに収まったというのか。いつものすらっとしたお姿はどこも膨らんではいない。

 

「ふっ、深雪は一体何が気になっているのかな」

「お兄様の身体のどこにあれだけの食事が入っていったのかと思いまして」

「別に俺の胃はブラックホールになんて繋がってないぞ」

 

当然分解なんてしていない、とはお兄様なりのマジックジョークなのだろうか。

 

「それにしては膨らんでないですね」

「そう言う深雪だって。今日はいつも以上にふわふわしているから――」

「まあ、太って見えるとおっしゃりたいのですか?」

「いいや、軽そうに見える。ちゃんと食べたのは不安になるくらい」

「食べていたのは目の前のお兄様がよくご存じでしょう?食べた分、きちんと増えていますとも」

「――本当か?」

 

そう言うとお兄様は食器を置いて私の元へとやってきたかと思うと手に持っていたポットを机に置いて私を抱き上げた。

 

「きゃ!お、お兄様?!」

「やっぱり軽いな」

「そ、そんなはずございませんでしょう!」

「それに、うん。ふわふわだ」

 

お兄様が!セーターに頬ずりしてる!!

触り心地は抜群ですよ!それは間違いない。厳選に厳選を重ねて選んだふわもこセーターですから。

だけどお兄様、そこは私の鎖骨です!少しでも下がったらアウトですよ!!

脳内がパニックで体が硬直して動けない。

 

(いま、なにが、おきている⁇)

 

漢字変換もできない。

 

「深雪があの鳥を可愛いと思う気持ちがわかった気がするよ。確かに、これは愛でたくなる」

 

目下ではお兄様がもこもこセーターに顔を埋めている姿。

…お気に入りのぬいぐるみを抱きしめているように見えなくもない。

触れる感触を忘れれば、だけれども。

 

「お、お兄様、下ろしてくださいませ。まだコーヒーが」

「離したくないな」

「お兄様!」

「…だめか?」

「…せっかくのコーヒーが、苦みが出てしまいます」

「淹れ終わったら続き、いいか?」

 

……続きって何ですかね?また抱きしめられるのだろうか。

でもまずいコーヒーをお出しするのは矜持が許さないので。

 

「お兄様」

「…わかったよ」

 

お兄様にも本気が伝わったようでなにより。

ゆっくり下ろされて解放されて、作業を再開。お兄様はその間もずっと隣で待機していた。

コーヒーを淹れ終わると、すぐさまお兄様が用意していたトレイに乗せてソファへ。

その際私も腰に手を添えられてエスコートされる形で連れてこられた。

 

「…お兄様、このセーターの手触りそんなに気に入られました?」

「ああ。これはいいな。触り心地もだが、見た目も」

 

可愛い、と耳元に直接吹き込むように囁かれると、耳だけでなく顔まで熱くなる。

本当、私の弱点を知り尽くしているお兄様だ。

動けなくなった私をぬいぐるみよろしく愛でまくったお兄様が満足した頃には私はぐったりになってしまった。

 

「すまない、やり過ぎた」

 

本当ですよ。妹をあまり撫でまくらないでいただきたい。呼吸もままならない。心臓も苦しい。

この冬お気に入りのセーターだが、これはもうお兄様の前で着るのは封印だ。私の命が危ない。

雪の妖精は寒さに強いけれど、熱には弱いのです。

身も心もシマエナガの気持ちを知った日になった。

 

 

――

 

 

『寒くて温かい非日常』

 

 

たとえ科学が発展しようとも自然災害には敵わないわけで。

 

「東京で大雪の予報なんて、初めてですね」

「ああ。十数年ぶりだとニュースでも言っていたな」

 

学校にはいつも通り登校したものの、午後からは雪が降る予報のため授業は午前中のみだった。

昨日のうちに通達はあったので学食もお休み。

生徒たちはいつもと違う時間の帰宅にテンションが上がっていた。

生徒の中にはこのままどこかに遊びに行こうか、と話す者もいたにはいたが、雪の中の外出は交通機関のマヒも考えられるのでリモート飲みならぬ、個々の家で映像電話パーティーをすることになったらしい。

時代は変わってもやることは変わらないんだな、とクスッと笑ってしまった。

 

「深雪?」

「いえ、いつもと違うことが起こるとあんなにも人の心を浮足立たせるのかと」

 

学校での会話を思い出した、と話せば確かに学校全体が浮かれた空気だったなとお兄様も賛同した。

エリカちゃん達は雪にテンションが上がるかと思いきや、どちらかと言うと家に籠っていたいタイプだったよう。

まあ、もう高校生ですしね。雪でははしゃぐ年齢ではないのか。

 

「他人事のようだが、俺にはお前が一番浮足立っているように見えるんだがな」

 

クッと笑いを堪えるようにお兄様は横を歩く私の髪を撫でつける。

それでも声は抑えても顔は笑っていた。

その原因は私だと考えずともわかった。

 

「そうですね」

 

いつもならコミューターに乗って帰宅する道をお兄様と歩いて帰っていた。

寒い中付き合ってくれるお兄様には感謝だ。

 

「一番に降る雪を捕まえたい、なんて可愛らしいことを言われたら兄として叶えてやりたいじゃないか」

「…ちょっと舞い上がって言ってしまったことを実現しようとしなくてもよかったのですよ」

 

ついにお兄様は笑いが堪え切れず噴出していたが、私はわざとらしく唇を尖らせ照れるものの、その戯言に付き合ってくれるお兄様の優しさに甘えてしまう。

雪が珍しいわけでもない。

四葉の近くで暮らしていた三年間では見る頻度は多かった。

それでも雪を見るとテンションが上がってしまうのは、雷や台風にも似た上がり方をすることからもわかるように、単に非日常感を感じられて楽しくなってしまう性質なのだ。…庭先で走り回るわんこと一緒だね。

白くてふわふわ!なんだこれ?!冷たい!楽しい!!と毎回記憶がリセットされて庭駆けまわるわんこの気持ち。

雪はそれだけで童心を思い起こさせる。そういうことだ。

 

「寒くはないか?」

「防寒はばっちりですので」

 

手袋もマフラーも。足元は寒いけれど、この防寒タイツは前世とは比べ物にならないくらい温かい。

 

「だが、頬は赤くなっているよ」

 

お兄様が手袋をした手で触れようとしてその手を下ろした。

…多分手袋だとチクチクすると言ったことを思い出したんだろうね。少し宙をさ迷った後肩に回された。

そのまま下ろすという選択はお兄様になかった模様。

 

「お兄様はどうです」

「俺はお前がいればどこでも温かい」

 

こうしてくっつけるからな、と更に身を寄せる。

こんな天気だから元々出歩いている人などいない。人目が無いからと言ってこんなにくっついて歩いていいわけではないのだけど、いつもよりも周囲を気にしない大胆な動きに羞恥が襲う。

 

「お兄様!」

「誰も見ていない」

 

お兄様がそう言うのなら半径何メートル範囲で誰も見ていないのだろうけれど、誰も見ていなくても恥ずかしいものは恥ずかしいですからね!?

 

「こうすると寒さを忘れるだろう?」

 

お兄様流の寒さ対策だった。…確かにね、寒くはないよ。忘れるくらい羞恥で顔に熱が集まってる。心臓もどんどこお祭り騒ぎですとも。

 

「…もう、お兄様――あ」

 

笑っているだろうお兄様を嗜めようと視線を向けた時だった。お兄様の背後に白い、ふわりとしたものが。

手を伸ばすと手袋の上に乗った。

 

「お兄様!」

 

先ほど咎めるように呼んだ名を、今度は喜色満面で呼ぶと、お兄様は困ったような笑みを浮かべていた。

 

「お兄様?」

「…ああ、すまない。お前の感動の邪魔をしてはいけないと思って堪えていたんだが」

「?」

 

何を?と思っていたのだけどお兄様がもういいな?と立ち止まってぎゅっと抱きしめられた。

 

「え!?お、お兄様?!」

「さ、もう帰ろう。防寒対策をしていると言ってもお前の身体は冷えている」

 

そう言うなりお兄様は私の身体を抱き上げて、周囲に人の気配もなく、魔法感知システムも作動しないギリギリのラインを見極め走り出した。

チラチラと雪が舞っているのを視界に収めながらお兄様が猛スピードで掛けていく。

って、眺めている場合じゃない。慌てて私たちの周りの空気抵抗を和らげ寒くないよう空調を整えた。

全力疾走は肌に痛い風を浴びせてくるからね。

というか急に走り出すほど体冷やしていたかな。テンション上がり過ぎて気づいていなかった。

前に風邪も引いちゃったし、お兄様に大人しく従うしかなかった。

 

 

――

 

 

あっという間に家に着き、玄関まで運ばれた。

 

「あの、お兄様申し訳ございません。私がわがままを言ったばっかりに」

「…ん?…ああ、気にしなくていい。お前の体調も心配だが、早く帰りたかった理由は別だから」

 

ん?別とは⁇

 

「誰も見ていないことは俺が誰よりもわかってはいたんだがな。あのまま外でお前を愛でるのは良くないと気付いてな」

 

…つまり?

 

「あまりのお前の可愛さに耐えられなかった」

 

ぎゅっと抱きしめられました。…確かに外でこのようなことをされたら困っただろうけど、家の中だから大丈夫なんてことないですからね?

 

「さて。雪がたっぷり見られるようにソファの位置を変えようか。それとも夏のようにあの部屋を整えて庭を眺めるのもいいね」

 

それは、とっても魅力的なお誘いなのですけれど、この提案は抱きしめて耳元で囁かないと出来ない提案でしたかね?

心臓がですね、フィナーレを迎えようとしているのですけれど。すごい盛り上がり。お祭りも最高潮ですか。でもそのお祭り終わったら止まっちゃいそうなので静かにゆっくりテンションを下げて通常運転に戻って。

 

「…お兄様もテンションが高いですね」

「深雪につられてだろう」

 

何と言うか、お兄様がやる気に満ちている。生き生きしてます。

 

「今日は急いでしなければならないこともないからな。ゆっくり二人で過ごせる」

 

お兄様にとっては降ってわいたような休日扱いみたい。それはテンションが上がってもしょうがない、のか?

 

(お兄様にも休暇を楽しむという、気持ちが生まれたのね…)

 

いつも何かしら作業を見つけては忙しそうなお兄様が自主的にゆっくりした時間を過ごそうとする。

これは今までにない動きだ。率先して休もうとするお兄様に感動し、お兄様の望むように過ごそうではないか!という気持ちに切り替わるのはすぐだった。

 

「それではお兄様、部屋を整えていただけますか?私はお茶を用意します」

「わかった」

 

一旦部屋に戻って着替えてからキッチンへ。

今日は寒いので何か温まる飲み物を、とこのところ自分用にはちょくちょく出番の増えたココアを取り出した。鍋にミルクを入れてココアをたっぷりと。

私のマグカップには砂糖を少な目に。お兄様には無糖で。

ココアを淹れるならおやつにはマシュマロは外せない。マシュマロココアは可愛くて甘くておいしいからね。

クッキーを温めて焼き立ての状態に。

 

「いい香りだね」

 

もう準備が整ったらしい。振り返ると全身真っ黒なお兄様が。

お兄様は冬でも恰好はほとんど変わらない。インナーが冬用になり、上には黒いセーターを羽織っているのは私がプレゼントしたから。…お兄様色は気になるみたいだけど見た目の寒さを気にしないので、贈らなかったら春と変わらない恰好だったんじゃないかというくらい関心がない。

室内の気温は調整でいるとはいえ冬は寒いのだけど、男性はあまり気にならないのかな。…西城くんたちはどうなんだろう。他の男性を知らないのでお兄様みたいにオールシーズンルームウェアを変えないのが当たり前なのかがわからない。

ドラマとかでもその辺あまり描かれてない気がする。

恋愛するのは大抵家じゃなくて外だからね。家の中のシーンでも会社帰りとかで普段着が映る場面なんてそうそうないし。

 

「他に何か摘まみたいものはございますか?」

「それだと夕飯が入らなくなってしまいそうだからこれくらいでちょうどいいんじゃないか」

 

そう言ってお兄様はお盆を持って部屋へ向かう。

 

「ココアを呑むのは久しぶりだな」

「つい、寒い日には入れたくなりますよね」

 

寒い日はココアかコーンポタージュ。自販機のこの伝統は今も変わりない。100年経っても残ってるってすごくない?お汁粉は周辺で見当たらないけど多分地方のどこかでは生きている気がする。信じてる。

 

「あら、まぁ。ここにソファを持ってきたのですか?」

「離れて座るより、くっついた方が温かいだろう」

 

わざわざここにある椅子ではなくソファを持ってきたらしい。

ブランケットも一人用ではなく二人でも余裕な大きいサイズ。二人で包まるんですか。そうですか。

まさかこんな準備をされているとは思わなかった。びっくりが大きすぎて脳内がパニック中。冷静に努めようとしてバグってます。

 

「…贅沢な時間が過ごせそうですね」

 

ぬくぬくと温かいところから雪を鑑賞しながら美味しいココアを呑み、お菓子を摘まみながら大好きなお兄様と共にいられるなんて。

幸せ過ぎてこの後悪いことが一気に押し寄せるのではないかと不安になる。

その不安な気持ちを察したのか、机にお盆を乗せて私の肩を抱いたお兄様が少し屈んで顔を覗きこむ。

 

「何か不満か」

「いいえ。ただ幸せ過ぎて」

「…幸せ過ぎてはいけないか?」

「いけなくは、無いのでしょうけれど、不安になります。こんなに幸せばかりだとその、反動がありそうで」

 

この言葉にお兄様は少し目を見開いてからクスッと笑って。

 

「きゃっ」

 

上げそうになった悲鳴を手で抑え込んで止めたけれど、お兄様はそれを微笑ましく笑うだけでそのままふわりと抱き上げられてソファの上に下ろされた。

 

「今はこの幸せを享受して、あとのことはその時に考えればいい」

 

――何があってもお前だけは俺が守るから――

 

との言葉を耳に直接吹き込まれ、頭はさらに混沌へと堕とされた。

多分古典的にぷしゅ~と煙が出てる。だってお兄様笑ってるもの。

恐ろしいお兄様だ。血のつながった妹さえも恋愛脳に堕としてしまうラノベ主人公。その破壊力は抜群だ。

しばらくお兄様の腕の中でくすくすと笑われながら包まれていたのだけれど、ゆっくりと解放される。

 

「ほら、お前が見たがっていた雪が結構積もってきたぞ。この短時間でこれだけ積もるなら、明日は雪かきが必要になるかもな」

 

そう言われて窓の外を見れば、そこには椿の葉に積もり始めた雪が。

雪もボタン雪へと変わっていた。お兄様が言うようにこれは道路にも雪が積もりそうだ。

 

「気分が浮上したな」

「…しました」

 

お兄様のせいで余裕もなくなっていた心が再び雪を見たことで気持ちが上がったことを見透かされてしまい、恥ずかしくなる。

けれど、先ほどとは違い取り乱すこともない。ココアに口を付けるとちょうど飲み頃になっていた。…冷えたところで温めればいいだけなのだけどね。魔法って便利。

お兄様はそれを見て自分もマグカップに口を付けてから窓の外を見た。

 

「この様子だと明日は九重寺には行けないかもな」

「そうなのですか?」

「恐らく町内の雪かきに回るだろうから」

 

地域密着のお寺らしく、何か困りごとがあれば真っ先に動く。…歴史は浅くとも、こういった地道な活動が彼らを根付かせているのだろう。

 

「では、明日の朝はゆっくりできるのですね」

「そうだな。俺も軽く走る程度にするつもりだ」

 

明日の天気予報では朝も降るということだったので授業は午後からだ。つまり午前中もまたゆっくりできる。

その分の課題は出されているけれど、私たちにとっては片手間で終わる程度。

休日だからとゆっくり起きるという習慣のない私たちは、いつも通りに起きてどのように有効に時間を使うかが重要だ。

はたしてそのゆっくりに、軽く走るが範疇に収まるかは疑問だがお兄様にとっては入る、ということだろう。

 

 

――

 

 

「――もうあれは着ないのか?」

「え?」

「この間のセーター。とても似合っていたのに」

 

この間の、と言われて思い当たるのが一点。

以前シマエナガの日に着たもこもこセーターですね。…お兄様あれそんなに気に入りました?私も好きですよ。触り心地も抜群でしたし、何より温かかったので。

でもね、アレを着るとお兄様が変貌してしまうことを知ってしまったから封印したのだけれど。

 

「…アレを着たらお兄様どうなさいます?」

「抱きしめる」

 

即答だった。そして真顔だった。…おかしいな。お兄様は別に可愛いモノ好きではなかったと思うのだけど。

 

「深雪はそのままでも十分に可憐で可愛らしいが、アレを着ると相乗効果で魅力がアップするからな」

 

あのすっぽり収まっている感じも可愛い、指が少し出ていない袖がまたいい、とは…お兄様萌え袖ヒットでした⁇

意外とお兄様あざとい系お好みなのかな。原作では絶対領域とかにもふらつくこともなかったあのお兄様が。首回りが開いた服も、開放的な服を好む妹だなぁ、で完結させたあのお兄様が。

…正確には妹に性的なものを感じることは悪いことだと無意識にシャットアウトしてたみたいだけどね。

 

「あの服は私も好きですが、その…あんなに撫でられたり抱きしめられてばかりはちょっと…」

 

お兄様が喜ぶならば着るのはやぶさかではないが、問題はその後である。

さっきもお兄様が宣言した通り抱きしめられるのだろう。そして撫で繰り回される。そうなると、私の息の根がね、止まっちゃうわけで。

ずっと抱きしめられるのは嫌だとそれとなく伝えると、お兄様は悩ましいお顔に。

いや、実際どうなの?妹をずっと抱きしめているお兄様って。妹はぬいぐるみじゃないですよ。

 

「いっそのこと大きなぬいぐるみを買って着てもらいましょうか」

「深雪でなければ意味がない」

 

はい、すみませんでした。…別のぬいぐるみじゃダメなんだって。そっかぁ。

言葉の意味は深く考えないようにします。

 

「今日は雪を鑑賞してゆっくり過ごしましょう」

「……そうだな」

 

お兄様の謎の葛藤の時間は終わり、大人しくこのまま雪見ティータイムを過ごすことに。これでも十分癒しのひと時ですので。

何を話すわけでもなく、窓の外を眺めては自然の作りだす白銀の世界に目を奪われたり、時折お兄様が気を利かせて体が冷えないようにひざ掛けを掛けたり肩を抱き寄せたりと甲斐甲斐しくお世話をされた。

女の子の身体は冷やしちゃダメだからね、との言葉はわかるのだけど抱き上げて抱えようとまでしなくて大丈夫です。そんなことされたら雪見どころじゃないでしょう。

ぺしぺし、と注意するように叩くのに、お兄様は悪かったと心の伴ってない笑顔で。

これもじゃれ合いなんだろうけど、…傍目ではバカップルに見えるのではないだろうかというやり取りに思えなくもない。傍目無いから判断できないけど。

 

(お母様的にはいかがです?)

 

心の中で問い掛ける。イマジナリーお母様の判定は――わぁ。そんなことも解らないの?と冷めたお目目。美女の冷え切った眼差しは我々の業界ではご褒美です…けどその目をされるってことはアウト判定ですね。

やっぱりそうだよね。兄妹のじゃれ合いじゃないよね。お兄様の教育係としてここはビシッと指導しなければ。

 

「もう、お兄様。こういったことはカップルですることですよ。妹相手にしないでくださいませ」

「別にカップルでなければしてはいけないことではないだろう」

 

…お兄様、そんな何がいけないんだという顔をされましても。

確かにハグなら家族でもおかしくはない。肩を抱き寄せるも、寒いだろうと気遣ってくれたということも理解できるけれど。

 

(…これって意識している私がおかしいって話?)

 

いやだってお兄様が微笑みながら甲斐甲斐しく世話なんてして来たらはずかしくない?申し訳なさももちろんあるけど、好きでしているのだからと言われてしまえばその手を止めることはできなくて。

 

「深雪が可愛い反応をするからつい揶揄いすぎたのは、まあ反省するにしても、だからといってしてはならないことでもないと思うが。ここに周囲の目もないから誰に迷惑を掛けているわけでもないしな」

「…人がいなくとも節度は大事でしょう」

「度を越えた触れ合いをしているつもりはないぞ」

 

…ないの?本当ですか⁇お兄様にとってこれくらいはセーフと思われている?…どうしましょうお母様。兄妹の節度ってどこかにマニュアルありませんかね?

 

「一度エリカに確認をした方がよろしいかと思います」

「エリカのところは腹違いの兄妹だからな。また扱いが違うだろう」

「西城くんのところもお姉さんが居ましたよね?」

「ウチのように仲は良くなさそうだったがな」

「…雫は」

「年齢が離れている」

 

…近くの人は参考にならないそうです。

 

「あ、一条さんも確かご兄妹が」

「連絡先を知っているか?」

「…知りませんね」

 

七草先輩もエリカちゃんと同じ理由で却下だろうし…身近にいい例がいない。

唯一一条くんがお兄様と同じ立場では!と思ったのにお話を聞くこともできない。残念だ。

 

「ちなみに、深雪にとって度を超すというのはどのラインだ?」

「えっ、と…それは…その…」

「どのあたりが兄妹らしくないと言う?」

 

え、スキンシップ全般?と返せればよかったのだけど、ハグをするように促したのは私だ。家族の触れ合いとして浸透させ、家族愛を育むきっかけとした。

それは成功し、お兄様は原作よりも柔らかくなったし、人の感情の機微にも気付けるし、自分の心の動きにも多少変化があったように思う。

だから今更止めるというのも難しかったりするのだが、この年齢の兄妹がハグをするのっておかしくない?シスコンブラコンであっても私たちの場合スキンシップが激しいと思うのだけど。

頭を撫でるはOKでも頬を撫でるはちょっと怪しいと思うし、抱きしめるにしても腰を引き寄せるのはえっちだと思う。

というかお兄様が色男モードの時は全部アウトだ。…そう、言えればいいのだけど…。

 

「――確かに、深雪ももう年頃だものな。兄とべったりでは、恥ずかしくも思うか」

 

!お兄様が、自ら正解にたどり着いている!!そうです。そうなんですよ。

そう思って首を縦に振ると、お兄様は苦笑して。

 

「そんなに首を振らなくても。…わかっては、いるんだがなぁ」

 

そう言いながら、お兄様は私をそっと抱きしめる。

お色気モードでも揶揄いモードでもない、兄としての包容力あるモードで。このモードになられると抵抗をする気にならない。世界一安全な場所だから。

 

「妹離れができない兄貴ですまないな。まだ俺の腕の中でいてほしいとの願望が溢れてしまうんだ。――幸い深雪にまだ好きな男がいないことだしな。まだ俺の妹だ、と手元に置いておきたいというか」

 

手放したくないのだ、と。

…そうだね、お兄様の幸せが最優先なので私に好きな人ができるなんて、想像できないのだけど。

 

「お兄様の方が先に恋人を見つけられるのでは?」

 

候補はたくさんいるわけですし、と見つめて返すとお兄様は目を開閉させて。

 

「俺が深雪以外に目を向けられると思うか?」

 

……それは、確かに難しい質問だけども。

 

「兄妹愛と恋愛は別物でしょう」

 

妹に眼を向けてしまうのはお兄様の性質上仕方のないことだ。お兄様のトラウマは相当なものだからね。一度失いかけたモノから目を離すことなどできないだろう。

でもお兄様にも恋愛はしてもらいたいのだけど。その先の幸せな家庭のためにも。

 

「深雪にはできるのか?」

 

あらま。逆にこっちに質問が。

私が恋愛できるかと問われれば――

 

「…お兄様より素敵な、憧れられる男性、いると思います?」

「……お前の発言も、相当なブラコンだと思うぞ」

 

私の発言にお兄様は目を丸くして噴出した。

結局お互いシスコンでブラコンだから恋愛は難しいというオチが付いてうやむやになった。

マシュマロココアの甘さが予想より甘くて少し辛かった。

 

 

――

 

 

おまけ

 

 

次の日、いつものように起きて、お兄様に特製ドリンクをお渡ししてお見送りしてから庭先へ。踏まれていない真白な雪はふんわりしていて手で掬い上げると柔らかかった。凍ってもいないらしい。我が庭にはおあつらえ向きに南天もある。

――作るものは一つしかなかった。

 

 

 

「可愛らしい雪うさぎだな」

「おかえりなさいませ、お兄様」

 

熱中していたらしい。お兄様を玄関に迎えに行くこともできず、お兄様の方からただいまを言いに来てくださった。

 

「それが最後か」

「はい。三匹作って完成です」

 

黒塗りの漆のお盆にちょこんと三匹の雪うさぎが乗っている。

我ながらよくできたと自負してお兄様に見せると、お兄様はしょうがない子だ、というようなお顔で自身の首にかけていたタオルを私の首元にかけるようにして。

 

「いくら魔法を使っているとはいえ、寒そうだ。真っ赤になってしまっている手には魔法も使っていないね」

「使ったら溶けてしまいますもの」

 

真っ赤になった手を取って両手に包み込むと、お兄様はその手を自身の口元に持って行って息を吹きかける。

温かい空気が手を包むようだけれど、指先が温まるよりも早く頭がカッと熱くなった。

 

「お兄様!」

「こんなに冷やして。――いっそのこと一緒に風呂に入るか」

「え…ええ!?」

 

お兄様からそんなジョークが飛び出すなんて、と驚くと、お兄様はにやりと笑って。

 

「今日は風呂の日らしいからな。一緒にあったまるか」

 

呆気に取られている間に私の身体はお兄様に抱き上げられすたすたとお風呂場へと連行させられて――

 

「はっ!だ、ダメですよ!」

「そうか、それは残念だ。――ゆっくりあったまるようにな。時間はたっぷりあるのだから」

 

お兄様の方がランニングをして体を冷やしているというのに!と気づいたのはお兄様にお風呂に放り込まれてあったまった後だった。

 

 





『おちおち風邪もひけない』は深雪成主が体調を崩そうものならお兄様付きっ切りで看病したいだろうな、と書いたネタです。でもお兄様に付きっ切りで看病されたら熱も下がらないよねっていう。

『小さき命を大切に』はシマエナガの日でしたのでそういったお話を。
と思って書いたのですが、お兄様が暴走を。
お兄様は深雪成主の心臓をもう少し労わるべきです。

『寒くて温かい非日常』は東京で雪が降った日の話。きっとこの世界でも交通機関が麻痺するんじゃないかな、と。
最初に浮かんだのはおまけのお話だったのですが気付けば兄妹とは何ぞや?の話になっていて書いてる本人がびっくりしたお話でもありました。
そして深雪成主は気づいて欲しい。お兄様が兄として傍に居たい、ではなく囲いたいと言っていることに。
それは多分流していい言葉じゃなかったはず。イマジナリーお母様の嘆きが聞こえなかった模様。

以上、冬の小話の一月分でした。
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