妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします! 番外編 作:tom200
九島家のお話です。光宣君がすでに二人の息子になった時間軸。
九島烈は当主を引退してもほとんどスケジュールに空きの無い生活を送っている。
もちろん年齢には勝てない部分はあるので昔ほど精力的に活動はできていないが、それでも同年代と比べれば倍以上働いている自負があった。
それもすべては未来の子供たちの為、引いては孫の光宣の為。
老骨に鞭を打って働いていた。
「何か変わったことは?」
しばらく家を離れていたのでいつもの流れで確認してみるものの、何か緊急事態でもあれば連絡が来るし、また息子たちが何か影でやらかせば即時連絡が来るようになっている。
大した変化はないだろう、と高を括っていたのだが。
「それなのですが、光宣様のことで」
「光宣に何かあったのか」
烈の問いに、家令は心配することではございませんと前置きをしてから再度口を開く。
「このところ、調子がよろしいようでして」
「ほう」
なんでも休むことがあっても常であれば拗らせて三日ほど寝付くのだが、このところ一日ほど休めば回復するのだとか。
それはかなりの進歩と言えた。
「本日もお昼過ぎまで学校に通われていたのですが、途中熱が出てしまい」
昨日までで最多の三日連続で授業を受けられたのだとか。
四日目も順調かと思ったのだが、残念なことに疲れが出始めてしまったようだ、との報告だが、なんとも喜ばしい報告だった。
「今は寝ている時間か?」
「いえ…その件でもう一つお耳に入れたいことがありまして」
烈ははやる気持ちを抑えつつ孫の部屋へと向かった。
――休まれているはずの光宣様のお部屋から時折話し声が聞こえるのです――
若い女性のモノの時もあれば男性のモノもあり、それに光宣が時折笑い声を上げているのを聞いたというのだ。
友人がいればそういった電話をすることもあるだろうが、通話履歴を辿ろうとしても通話すらしていないという結果が出て、この先探るべきかを主に確認をしてからと思い、実行には移していないとのことだった。
その判断は正しい。
光宣に不用意に不信感を与えるような真似はストレスにもつながる。
烈には自分が訊ねればきっと答えてくれるだろう、という自信があった。
部屋の前に立つと、確かに若い女性の声(恐らく光宣と同い年くらいだろうか)がかすかに聞こえた。
何を話しているかまでは聞こえないが、こんなことを言うものおかしな話だが、綺麗な声だと思った。鈴を転がしたような、可愛らしいと思える声。
その声が途切れた。
誰かが近くにいることを察したのか、それとも――
「(会いたいなぁ…。早く、元気にならないと)」
独り言だった。光宣の、久しく聞いたことのなかった前向きな言葉に胸が震えた。
烈は覚悟を決めてドアをノックした。
「光宣、私だ。入ってもいいかね」
「お爺様。どうぞ」
入ればいつもと変わらないあまり物の置かれていない部屋に大きめのベッドがあり、そこに大人しく横になっている孫の姿が一番に目に入る。サイドテーブルには端末が置かれ、当然のように中に他の人はいなかった。
「はて、何やら話し声が聞こえた気がしたのだが」
「ああ、それならこれですよ」
そう言って光宣が触れたのは横に置かれていた端末だった。
「これで映像を再生していたのです」
いつにも増して輝かんばかりの笑みに、光宣の元気の理由がそこにあるのだと察した。
「このところ調子が良いそうだが、その理由もそれにあるのか?」
「こればかりではないですが、そうですね。お爺様にもお見せはできませんが、今の僕にとっては一番の特効薬です」
特効薬、の言葉とその誇らしげな姿にぜひとも端末の中身が知りたかったが、彼には珍しく前もって見せられないと牽制してきた。これは踏み込んできてほしくない、ということなのだろう。
「お爺様も出張お疲れさまでした。おかえりなさい」
烈は驚いた。
光宣からのおかえりなさい、の言葉など記憶している限り聞いた覚えがほとんどなかった。
いつだって、ここへ来るときは光宣の見舞い目的だったから。
だから、
「…ああ、ただいま」
この言葉も言うのはどのくらいぶりだろうか。
この子は元々優しい子ではあったが、子は見ないうちに育つというが良い成長をしているようだ。
それもその端末の中身のおかげなのだろうか、と気になったが、光宣もそれに気づいたのか、
「いくらお爺様でもこの中身は秘密です」
「それは残念だ」
それから光宣にこのところの好調ぶりや、変わったことなどを聞き、家令から聞いた通りの内容ではあったが、光宣本人から聞くとまた一段と嬉しく思った。
この子がこのまま健やかであれば、きっと世界最高峰の魔法師として君臨できるだろうに。
だが、それは戦闘魔法師としてではない。必ず魔法師が争いに巻き込まれないように、運命を捻じ曲げて生まれてこない世の中にしなくては。
今一度烈の覚悟は固く誓う。
パラサイドールの実験は最悪の結果をもたらしたがアプローチが悪かったとは思わない。
何かしら、方法はあるはずだ。
隠居はしても志までは折れていない。その火は今もなお勢いは衰えていなかった。
「休んでいるところ邪魔をしたね。ゆっくり休みなさい」
「はい。お爺様も長旅で疲れたでしょうに、顔を見せてくださってありがとうございました。おやすみなさい」
…ああ、悔やまれる。
こんなにいい子が人生の大半をベッドの上で過ごさねばならないという現実が。
これほど優れた魔法師が世間に評価もされずにくすぶってしまっていることが。
あの子なら、論文コンペティションの時のように称賛を浴びることが当たり前のはずなのに。
――だが、いつもは儚げに笑っていたあの子が、あんな優しく幸せそうに笑うことがあるなんて。
それが烈にはとても眩しく見えた。
(あの端末にはいったいどのような映像が収められているというのか)
気になるが、あの子にはただでさえ九島当主のしでかした負債も背負わせてしまっている現在、これ以上信頼を失墜させるわけにもいかなかった。
今はただ、孫が心穏やかに過ごせていることだけを喜ぶとしよう、と今夜は秘蔵の酒を少しだけ嗜むことを決めた。
「深雪、交換日記とは別にお前宛の手紙だ」
「あら、何でしょう」
お兄様から郵便物を受け取って中を検めると――あらあら。
「一体何と書いてあったんだ?」
「先日私たちの勉強風景やお兄様のお仕事している音声など録画や録音をさせていただきましたでしょう?そのお礼です」
前世で某動画サイトで一緒に勉強したような気になる動画や、作業用BGMというのが人気コンテンツだったことを思い出し、ずっと寝てるのも暇だろうからとにぎやかしに映像を用意してみたのだ。
お兄様にはわざわざ打ち込みの音が聞こえるようなキーボードを使用してもらって参加してもらった。
水波ちゃんには――正直彼女は撮影すると前もって言ってしまえばがちがちになってしまうことは目に見えていたので置時計にカメラを仕込ませてもらった。
一応事後承諾は取りましたよ。何も言わずに送るのは流石によろしくないからね。抵抗されるより早く言いくるめましたとも!病気で気落ちしている彼に少しでも気分が明るくなるようにって。
変に語り掛けるより日常で寄り添い系にしたのは寂しくならないように。構いすぎは良くないから。
「どれ」
お兄様がのぞき込もうと頭を寄せてくるので慌てて手紙を胸に引き寄せて隠す。
「…深雪」
「や、やましいことが書かれているわけではないのです!ただ、第二弾のリクエストがありまして」
「一体どんなリクエストがあったんだい?――そんなに顔を赤らめるなんて、いろいろと想像してしまうな」
「ちょ、か、顔が近いですお兄様!あまり抱き寄せないでくださいませ!!」
「息子と二人きりの秘密か?俺も混ぜてはもらえないのか?」
お兄様が密着して迫って耳元で攻めてきて陥落しそうだけれど、これを見せるわけにはいかない。
『映像、とても楽しませてもらいました。一緒に勉強している空気を楽しめたり、傍で仕事をしてくれるお父さんの気配を感じられて寝ていてもちっとも寂しくありませんでした。
お母さんたちが勉強している映像は、もしかして僕用に控えめにしているのでしょうか。それなら僕は仲の良い両親が好きなので、遠慮せずいつものお二人の映像を収めてください。仲の良い両親の姿は僕にとって元気の源ですから。
もちろん水波さんと深雪さんの勉強もとても癒されます。時折時計を確認するように視線を向けて微笑んでくれたり手を伸ばしてくれるおかげで僕も褒められた気分になりました。
また新しい映像お待ちしています。
追伸:お父さんの微笑む表情も良いですが、偶には驚いた表情や喜んだ表情が見てみたいです。今度ほっぺにキスでも送ったらいかがでしょう?』
…いかがでしょう、じゃないんだよ、光宣君。
「…どうして光宣君はこんなにお兄様がお好きなんでしょう」
「唐突になんだ?」
「いえ、お兄様にはたくさんいい所がありますので好きになるのはわかるのですけど」
「…深雪さん?俺の声は聞こえているかい?」
「だからって、お兄様に私から――///」
この時、私は自分が全部口に出していることに気づいておらず、光宣君から何かを頼まれたらしいことを察したお兄様が手紙を奪い取ろうと手を伸ばされて、それに気づいた私との激しい攻防が繰り広げられ、ご飯ができたと知らせに来た水波ちゃんに叱られるのはそれからすぐのことだった――。
笑いは免疫力を高めるそうですよ。
幸せ成分も同じく。
アニメ冒頭部分を見て、思いついたネタでした。まさか老師視点で書くと思わなかった。