妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします! 番外編 作:tom200
早朝、お兄様がテントに向かわれている間、作業車に向かったのはピクシーからメールをもらったから。
水波ちゃんを連れて二人で乗り込み、水波ちゃんには遮音フィールドを展開してもらった。
「それでピクシー、お兄様に何かあったの?」
ピクシーはお兄様をマスターとし、本来であればお兄様からの命令しか受け付けない。それはパラサイトの寄生対象が3Hのボディだからというわけではなく、ほのかちゃんのお兄様のお役に立ちたい、という祈りを受けていることもあってお兄様に従事している。
このお兄様の役に立つ、というのがただ従事するだけではなく、サポート面にも特化したいという『願望』が混ざることでお兄様の命令とは別に独断で本人には内緒、または事後報告で『自発的』に行動を起こすことが可能になっていた。
それはマスターにより良く使える為であり、マスターを知る上で必要なことでもあった。学習して日々役に立つことを模索しているのだ。
勉強熱心ないい子である。
そんな自主学習もできちゃうピクシーだけれど、いくら学習能力が高い上に機械のボディだから記憶力も容量が許す限り抜群の彼女であっても、人間関係は複雑でわかりづらいようで、こうして時折解説役として私を頼ることがある。
(…というか、ここは軍の演習場、軍の施設なのだから簡単にハッキングはできないし、去年のこともあって警戒もしているはずだからあらゆる面で危険では?)
そう思ったのだけれど、ピクシーがモニターに映し出した画面によって、この映像なら大丈夫か、とこっそり胸を撫でおろした。
ピクシーが映していたのは、お兄様への誕生日プレゼントのネクタイピンからの映像だ。私がネックレスを付けているのと同様にお兄様もこっそり襟元につけてくれている。互いに指摘し合ってちょっと照れ笑いを浮かべ合ったよね。
お兄様も付けてくださってるのが嬉しかったのだけど、立ち上がった拍子に作動しちゃったのかな。
転送先の端末にハッキングをかけているのか、お兄様から直通でピクシーに映像が回っているのか。
後で確認しなければ。
「一条家ご子息ですか」
映像には真剣な表情の一条さんちの将輝君が映っていた。全身が映っているからそれなりに距離があいているのだろう。
話している内容は軍部が関連している、という内容。
一条家で調べた結果の報告シーンでした。
ということは原作のままであればお兄様がマテリアルバーストぶっぱなしちゃおっかなー、と物騒な発想をしてしまうあのシーンか。
「この方はマスターと現在敵対しているはずですが」
ああ、ピクシーが気になっているのは三高の生徒が一高のお兄様を呼び出して話しかけている点なのか。
「お兄様もそうだけれど、こちらの一条さんはこの大会の競技が変更になったことに疑念を持って、相談を持ち掛けられていたの。それに対し、お兄様がアドバイスなされて。おそらくその結果報告だと思うから心配はいらないわ」
『――聞いているのか!』
『ああ』
突然の大きな声に心がぴゃっと跳ねたけれど、表には一切出さない。ピクシーがこちらに視線を向けたけれど、なんともないですよ、と気づかぬふりでやり過ごす。
しかし…お兄様、やっぱりお疲れなんだ。普段であればいくら思考していたからって相槌くらい打てるのに。
って!
(ちかいちかいちかいちかい!)
一条君のドアップ!というか口元から上が見えてないってどれだけ至近距離に立たれているの?!
それに対してお兄様動揺もしておられない様子。身動きすらしていない。
二人とも相当至近距離なのに。パーソナルスペース狂ってない⁇
「そういえば、あの時もそうだったわね」
「深雪様?」
「二人の距離が近すぎるな、て」
「…確かに。詰め寄るにしても近すぎますね」
水波ちゃんでもそう思うんだ。
「前夜祭の時も、距離が近かったのよね」
思い出したのは、亜夜子ちゃんたちから挨拶したいと四高先輩経由で持ち掛けられた話を、お兄様に伝えるべく向かった時のこと。
あの時すでに一条君はお兄様にスティープルチェースの異様さについて疑問を呈していた。話が話なのでこそこそする必要があったのかもしれないけれど、…ちょっと、お兄様との距離が近すぎるんじゃないかしら、と思ったのだ。
いくら秘密のお話をしていると言っても、ね。
(あれがアニメ画面越しなら画角的にこの方が画になると思うのだけど、こうして見ると――吉田くんたちもそうだけどこの世界の男子たち、距離が近いよね)
どこ層に向けてます?なんてのはメタ的発言だろうが。
私も大好物だったけど、今はそこまでではない。お兄様が望む世界ならば応援もやぶさかではないが、二人が並んでいるから薔薇が美しくて白米が美味しい、とは思わない。
お兄様がただの一キャラクターではなく、自身の兄であることも要因かもしれない。
というよりなにより疲れ切っているお兄様の脳裏にそういった心が芽生える余裕がなさそうだし、何より一条君に他意が無いことは明白。芽生えるものなど何もない。
分かってはいる。
いるのだけど、とあの時のことを回想する。
(今行ったらお邪魔じゃないかしら)
と思ったのは、三人で話しているはずなのに、吉祥寺君は背筋がピンと伸びているのに対し、お兄様と一条君が体を傾けて顔を寄せ合っていたから。
これは妄想するなと言う方が無理なのではないかな、と。
一条君顔が良いから。そしてお兄様はタイプが違う良い男(妹視点)なわけで。
違うとはわかっていても顔の良い二人が並んでいるだけで目の保養にはなる。
しないけどね!その妄想をお兄様相手には!
(…なんとなくだけど、しちゃいけない気がひしひしと)
私に直感力なんてない。ない、はずだけどぶるり、と体が震え頭を振って描きかけた妄想を振り払った。
これは一体何だろう、とイマジナリーお母様に問いかけると、お母様は考える必要はない、と目を伏せられた。考えなくていいけれど、妄想しない判断は間違っていないそうです。
開かなくていいパンドラの箱には触れない。お母様の助言に従いスルーの方向で。
お兄様の許にそろそろ辿り着くな、という頃、お兄様から視線は向けられていないものの、気付かれていたのかお兄様の姿勢が前傾から徐々に起こされていく。それに合わせて会話も終盤を迎えたようだった。
ちらり、とお兄様の視線がこちらに向けられる。
私を待たせずにタイミング良く入れるように調整してくれているのだ、と気づいたのは声を掛けた後だったけれど。
気配を消していたわけでもないのに一条君も吉祥寺君も気付いていなかったのは、お兄様がこの直前一条家で調べた方が良いと助言をし、それをするだけの裏がこの九交戦にあるのか、と思案していたからか。
だけどそれも私が声を掛けたことで思考を奪ってしまったのは申し訳ない。
一条君からの熱視線を感じつつもお兄様に用件を伝える。
先ほどまでの真剣な表情とは打って変わり、私に向けて浮かべられる優しい笑みに嬉しさを滲ませながら返してしまうのはもう癖だ。
妹に甘いお兄様に頬を緩ませずにいられようか。
私には無理だった。
ということでニコニコしていると、お兄様が頭に手をポンと置いて遠くで待っている亜夜子ちゃんたちを確認。
彼らが、と指し示したことで一条君たちもつられて見れば四高の生徒だということで納得顔。もしかしたら吉祥寺君のもとにもこうして他校の生徒が挨拶をするのはよくあることなのかもしれない。
不自然に思われていないのなら何よりだ。
一応三人の歓談(?)の邪魔をしてしまうのだからと断りを入れたのだけど、一条君に話しかけるとどうしてもしどろもどろになってしまう。
確か原作では一条君にとって一目惚れではあっても、ある種偶像崇拝のような想いだったはず。
それこそ画面越しであれば恋だと勘違いすることはなかったかもしれない。それも、こうして出会ってしまってから考えても詮無いことなのだろうが。
(お兄様にはあれほど大胆に近づけても、私には腰が引けてしまうんだね)
男女の差、と言われてしまえばそれまでだけど、なんだかなぁ、とちょっと複雑に思いつつ、お兄様にエスコートされる形でその場を離れた。
「何を考えている?」
亜夜子ちゃんたちの下へ向かう間、周囲にも聞こえない程度に声を掛けられ、お兄様に隠し事はできないな、と少し顔を寄せて口元もほとんど動かさないように返答する。
聞かれて困るような話でもないのだけれど、お兄様につられる形で声を潜めて端的に。
「一条さんの態度が気になって」
「態度?」
お兄様への距離はあんなに近かったのに、私には腰が引けてしまっていたことを指摘すると、それはそうだろう、と少し呆れ気味に答えが返ってきた。
なんだ、そんなことか、と態度に出して小声も解除して。
簡単な問題に躓いたのを見つかったような心地がして叱られているわけでもないのに肩を丸めると、宥めるように腰に回されていた手をポンポンと叩かれた。
横腹はくすぐったいですお兄様、とちょっと身を捩ると、すまん、と口にしながらご機嫌そうな声が。
見上げると口角もわずかに上がっていた。
「路傍の石と絶世の美少女では、それは態度も変わるだろうよ」
「路傍の、って…」
「あいつにとってはそんなものだろう。うっかり躓いた石に注意や警戒はしても恐れる必要などない。だが、お前のように美しい宝石というのは触れるのも躊躇われる。そういうことだ」
美しいと言われると同時にお兄様が微笑まれたことで心拍数が一気に上昇。顔に熱が集中するのが分かった。
「…もう、兄さんったら」
「こうして美しい宝石に触れさせてもらえる俺は果報者だ」
お兄様が、追い打ちをかけてくるぅ!亜夜子ちゃんたちのところにはもう到着してしまうのに。淑女の仮面を被らせないつもりです??
すぐに仮面は取り付けられたけどしばらくは心臓がバクバクだった。
お兄様への魅了耐性なんていつまでたっても身につかない。
そのことに気を取られて一条君のことなんてすっぽりとどこかへ抜け落ちてしまっていた。
その後、お兄様が亜夜子ちゃんたちに私を紹介するというおかしな流れになってきれいさっぱり忘れてしまうのだった。
「二人にとってあの距離感は忌避するものじゃない、ということ?」
「…達也様の場合、この距離なら対処できるから問題ない、とか思われているのかもしれませんね」
それは有り得るかも。
お兄様そういうところ無頓着だったりするから。
「一条さんはお兄様をライバル視されているから、もしかしたら至近距離で睨まれているのかもしれないわね」
画面が切れてるからわからないけど、メンチ切ってる可能性が。
真剣なお話してるのに上の空になられたら不快になっておかしくないから。
「警戒対象、ですか?」
「いいえ。一条君は正々堂々挑むタイプだから不意打ちや闇討ちを警戒する必要はないわ。彼の実力は十分あるけれど、お兄様が彼に後れを取ることなどないから」
ルールの定められたフィールドでは難しいかもしれないけれど、ルール無用の戦闘でお兄様が負けるはずも無い。
ピクシーに答えると彼女はもう一度画面の一条君を見つめた。
一歩下がったのか、相変わらず顔がドアップだけれど顔がよく見えた。
整った爽やかキラキラ王子様だね。
「水波ちゃんは、一条さんの見た目に惹かれたりはしないの?」
同じ王子系の光宣君に一目惚れしていた――というかあそこまでの容姿は誰だって惹きつけられる――から一条君はどうなのだろう、と訊ねると、
「顔は整っていらっしゃいますが」
どうやら好みのタイプではない様子。
水波ちゃんは生命力あふれた光属性の王子様より儚げな王子様がお好み、と。
「あの…深雪様は」
あら、水波ちゃん恋バナ意外といける派?と思ったけれど、そうじゃないね。私の好みチェックかな。使用人ごときがこのようなことを聞くのはおこがましいのですが、と顔に書いてあるかのよう。
「彼とお兄様が並んだら真っ先にお兄様に目が向くわね」
「…そう、なのですか」
一条君もかっこいいけどお兄様が一番なので。
比べるとかではなく、私にとってカッコよくて素敵なのはお兄様。そこはどうあっても揺るがない。
そう答えると、水波ちゃんは緊張を失って目を閉じた。
ピクシーは一条君がお兄様の害になることはないと認識を改め、少しだけピクシーの髪を撫でつけ可愛がってから会場へと向かった。
アニメでのお兄様と一条君の距離ってやたらと近いよねっていう。
ちなみにイマジナリーお母様の忠告を守らず妄想していたらお兄様が暴走していた可能性が。
「以前、深雪にはノーマルだと伝えていたはずだが?――ほら」
そう言って顔がくっつくほど近寄せてから妹の手を取って自身の胸に当てて。
「早いだろう?」
真っ赤な顔でコクコク頷く妹だけれど、お兄様、妹相手はノーマルじゃない!と言い返したいけれど口を開くと変な声が出そうで突っ込めない妹。
お兄様お疲れだから…。
しかし、次でスティープルチェース編おしまいです?駆け足過ぎません⁇試合がダイジェスト。
あと7話で気になった場面は亜夜子ちゃんの涙目と先生開眼ですかねー。
そして何より深雪ちゃんの涙の説得シーン!
あれ、妹がそのままやると監禁エンドに発展する気が…
(原作のセリフを踏襲しよう)
「お兄様は私だけを守ってくだされば良いのです!」
頭が真っ白になり、言う予定の無かった傲慢ともとれるセリフを口にする深雪。
しかしそれは疲労した兄を思ってのセリフである。それを間違えて受け取る兄ではないのだが――
「――いいのか」
「…ぇ?」
「深雪だけを、守って、良いのか」
涙を流す深雪にショックを受けていた達也だったが、続けられた深雪の言葉に天啓を受けたような心地がした。
深雪だけを守る、それを許された――深雪本人の口から。
それがどれだけ達也の心を揺さぶったか、深雪は気づいていない。
深雪はいつだって深雪だけを守ろうとすることを許してはくれなかった。
それが達也の為になるのだと深雪が思っているのだとわかっている。
けれどいつだって達也が守りたいのは深雪ただ一人だった。そのほかなどはただのおまけ。生活をしやすくさせるため助けておくか、という程度。
これをしておくと、深雪が褒めてくれたり喜んでくれたりするので悪くはなかったのだが。
(それを――深雪が許してくれた。深雪だけを守って良いと)
達也は吊り上がる口角を手で覆い隠したけれど、喜びを映した瞳は隠せなかった――。
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この後パラサイドールを利用して暴れさせ、素性隠さず解決し、なんやかんやあって狙われた原因を十師族の四葉であることを隠した自分たち兄妹だと告白、学校を中退。監禁エンドへ――。
学校通わなければ事件起きないものね。
このお兄様に自分だけを守れ、は言ってはいけない。お兄様喜んで囲う。四葉に縛り付けられようとも二人で幸せになれるなら構わない。
ストーリーが進まないで完結。よくない。
でもこんなバッドエンドがゴロゴロ転がってる。妹、頑張れ。バッドエンドを避け続けてほしい。