妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします! 番外編   作:tom200

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前回の話の続きです。
お兄様と映画鑑賞。おうちデート第二弾です。
時間軸としては一年の冬から春にかけての間なのにパラサイトは倒しちゃっている時間軸。気にしない方向でお願いします!




神秘の宿るモノ 3(本編絡みあり)

 

帰宅してハグをして、互いを労い合ってから離れて。

いつもの流れであり、この後互いに自室で着替えてそれぞれの予定通りに過ごすのだが、今日の予定は今朝のお兄様からの希望により二人の予定に変更になった。

 

「じゃあ、後でな」

「はい」

 

自室に入る手前でお兄様に頭を撫でられ、はにかみつつ頬を赤く染めてしまったのは仕方がないだろう。

お兄様と一緒に過ごせるというだけでも嬉しいのだが、こうして甘い笑みを浮かべられての撫で撫でには一等弱いのだ。

兄妹であろうと関係ない。ファンサに照れないファンはいない!そういうことだ。

部屋に戻ってドアにしばし凭れ掛かる。

 

(今日はなんて良い一日なんだろう!朝一でお兄様の鬼気迫る修行姿を見られて、先生の鮮烈な赤を一瞬でも拝見させてもらえて、その上これからお兄様と映画鑑賞だなんて!)

 

私は何か素晴らしい善行でも行っただろうか?まったくもって記憶にない。

ということはいつかこの借りを返せと神様に取り立てられる日が来るのだろうか…。返せる気がしない借金に体を震わせながら、クローゼットの前に立つ。

お兄様との映画鑑賞、つまり以前のおうちデートのようなもの。…いつもの服じゃだめよね。

ってことで冬なので露出こそないが可愛らしいコーデで決めよう、と服選び。

お兄様はもこもこセーターを気に入っていらしたから、それ系かしらと思いつつも、しかし冬ももう終わりかけにもこもこセーターは見た目的にアウトかと候補から外す。

うーん、と悩んで少し大人っぽいが、ワインレッドのセーターワンピースをチョイス。お兄様からいただいたネックレスを付けるだけではちぐはぐになってしまうが、髪を緩く三つ編みにして大きめのリボンを結べばちょっと背伸びした恰好に憧れた女子高生に見えなくもない。

鏡の前でチェックをして、深雪ちゃんの美しさに改めて惚れ惚れとする。

 

(うむ、今日も深雪様はパーフェクトに美しい!私は良い仕事をしている)

 

これは他人に見られたらなんて自意識過剰な、と思われるのかもしれないが、私にとっては重要なミッション。全てを超越せし深雪様の美を常に保たねばならない。私の怠惰なライフスタイルなどで崩すようなことはあってはならないのだ。

美とはただ生まれ持ったものではなく、その後のケアや食生活、姿勢、品位、そして知性等々による総合力。

見かけが美しければいいだけではない。内外共にバランスよく美しくあることが求められる――と私は思っている。

だからただのナルティシズムではないのだ、と主張はしたい。

もう一度くるんと回ってベルトの位置も確認してからリビングに向かった。

すでにお兄様はソファに腰掛けられてお待ちになっておられたのだけど――…

 

「お兄様…、」

 

かっこよっ…!!やっっっばい!

語彙力が昇天してしまったけどそれも無理はない。

 

(お兄様が、私服でベストを着用なされているっ!!)

 

制服とは違うタイプでウエストが絞られているロングベスト。――そう、ロングベストである。そこからすらりと伸びる足を組んで端末を操作されていたのだ。

背筋を伸ばしているのではなく足を組むというリラックスした状態で迎え入れられているというだけでもポイントが高いのに、普段の部屋着ではなくお兄様もおうちデートを意識してくださったなんて!!

素敵です、かっこいいです、と声を掛けたいのにあまりの興奮で口元を手で覆うだけで音が出なかった。

目はお兄様に釘付けで、何ならハートマークが本当に浮かんでいるのではないかというくらいの熱視線をお兄様に向けてしまっている気がする。

端末をソファに放り出し、足を崩して立ち上がるその一つ一つの仕草が溜まらずツボを突いてきて、呼吸もままならない。今ならお兄様の素敵なポイントをノンブレスで一分間で20は言える。しかしその後酸欠で倒れるだろうけど。

 

「随分と今日はエレガントな恰好だね。あまりの美しさに触れるのを躊躇ってしまうな」

 

そう言いながら自然と距離を詰めて肩に流している三つ編みを撫でるように滑らせ、その流れでネックレスに触れる。

 

「つけてくれたのか」

「…気に入っておりますので」

 

普段は実習の無い日に制服の下にこっそりつけていたりもするのだけれど、せっかくですからね。今日は堂々と。

 

「お兄様も、とても素敵です。あまりの格好良さに目が離れません…」

「そう言ってもらえたならやった甲斐もある、と言いたいが、本当に離せないみたいだな」

 

くすくすと笑われてしまったけれど、この間ずっと離せませんでしたからね。流石のお兄様もこれにはちょっと困惑気味。ごめんなさい。でも本当にお兄様が素敵すぎて取り繕うこともできないのです。

 

「喜んでもらえたか」

「それはもう!…すみません、はしたなかったですね」

 

熱が入りすぎて断言してしまったことで羞恥心を思い出し、ようやく正常な思考が戻ってきた。

ずっと見つめ続けるなんて、淑女としてよろしくないことだ。無理やり引き剥がすように視線を落とすのだけど、そこにはプレゼントしたネクタイピンが。録画はされていないだろうけれど、制服からわざわざ付け直してくれたのか。

互いに相手からもらったプレゼントを身に着けてくるなんて、考えることが一緒だったことに二人して照れ笑い。

 

「まあ、なんだ。こういうのもたまには悪くないな」

「そうですね」

 

兄妹で一体何をやっているんだ、という考えも浮かばないでもないのだけど、まあ、これもいつかの為の予行練習と思えばいいのではないかな。

お兄様素敵彼氏計画。うんうん。お兄様すでにエスコートは完璧ですからね。後は情緒と…察する気持ち、だろうか。女心は難しいですからね。

 

「映画を見るなら飲み物と軽食ですね。何か希望はございますか?」

「そうだな。和風っぽいもの、だと何かあるか?」

 

あら珍しい。映画に合わせてだろうか。時代劇系かな。ならば。

 

「緑茶やほうじ茶、軽食でしたら串物ならほとんど手を汚さずに食べられるかと」

 

ということでさっそく準備、なのだけどお兄様が一緒にキッチンに。

 

「串を打つなら俺も手伝えるんじゃないか?」

 

…お兄様にはもう教える事なんて何もないのでは?お兄様の彼氏レベル高すぎ。

これは一緒にいたいと傍を離れられないラブラブカップルに当てはまる行動に見えなくもない。

お兄様の場合、時短の為、効率の為等考えられてのことなのだろうけど、彼女としては勘違いすること間違いなし。この優しさにメロメロになりますとも。

流石お兄様!と心の中で称えながら材料を切ってお兄様に刺してもらう。

焼きと揚げの二種類。

お兄様は自分の手が離れてからも興味深そうに見学していた。

二回目にしてお兄様はおうちデートがいかなるものか理解されたというのか。前回の戸惑った感じの初々しさもよかったが、今回は肩の力を抜いたオフの感じがたまらない。

 

(もし私のポジが七草先輩だったなら、いたずら心を発揮して「はいあ~ん」なんてしちゃうんだろうか。それでここでいちゃいちゃしちゃったり?きゃー!

ほのかちゃんだったらガッチガチに緊張しちゃって失敗したところを、そんなところも可愛いと微笑まれちゃったり抱きしめられちゃったり⁇ふふふ!素敵!!)

 

お兄様のデートの妄想が止まりませんね。

 

「深雪はいつも楽しそうに料理をするな」

「楽しいですもの」

 

お兄様に美味しく食べてもらうことを考えるのも、シチュエーションを考えるのも両方楽しい。…後者はけしてお兄様には口が裂けても言えないけれど。

お兄様のラブラブデートを妄想してました、なんてことバレたらお兄様だって気まずいだろう。

料理の盛り付けをお兄様が引き受けてくれたのでお茶を淹れに。今日はほうじ茶かな。香ばしい香りが立ち上る。

それをリビングまで持っていき、飲み物と軽食の準備は万端。

さて、どんな時代劇を見るのだろう。

勧善懲悪ものなのか、ドタバタコメディーもいいよね。復讐者も手に汗握るし――と期待に胸を弾ませていると、お兄様が申し訳なさそうに眉を下げてこちらを見ているではないか。

 

(んん?なぜそのようなお顔をされるのです?)

 

「すまん。用意したのはこれなんだ」

 

そう言ってお兄様が見せてくれた端末には――

 

「……お兄様、今は、冬ですよ」

「そうだな」

「……なにゆえに、これを?」

 

お兄様のセレクトした作品の見出しにはこうあった。

『――この夏、あなたは身も凍り付くような体験をする――』

そう、ホラーである。しかも、ジャパニーズホラーだ。

 

「以前、深雪が苦手だと言っていただろう?」

 

だから、どんなものか見てみたくなった、と。…お兄様ドSです?苦手なものを一緒に、だなんて。

 

「俺一人で怖がっても面白くないだろう」

「…お兄様が、怖がるのですか?」

 

ホラー映画を見て怖がるお兄様…?想像がつかない…。せいぜいお顔を顰めるくらいでは?

 

「見たことが無いからわからん」

 

あら、まあ。お兄様の初体験ですか。それは大変興味深いですが…

 

「私、いります?」

「いる」

 

お兄様の返答が早いぃ…。

 

(うーん、でも私も深雪ちゃんになって初めてホラー映画を見る。もしかしたらホラー耐性持ってるかもしれない)

 

何せお兄様以外に興味の無い深雪ちゃんだから、たとえホラー映画中でも、今ならお兄様に触れられるチャンス?!くらい余裕があるかもしれない。

それにこの時代のホラーが私の知っている時代より怖くないかもしれないという希望も捨てきれない。

…などと現実逃避していたこの時の私はパラサイト事件の際、夜の校舎で怯えていたことをすっかり忘れていた。

パッと部屋の明かりが暗くなる。

お兄様がシアターモードに変えられたのだが、もうすでにこの時点でビクッと震えてしまう。

 

「まだ始まってもいないんだが」

「うう…怖いものを見る、というだけでももう恐ろしいのです」

 

深雪ちゃんなら余裕かも?と思ったのは一瞬。心が私の時点で耐性など無に等しいらしい。

 

「おいで」

 

お兄様がソファの背もたれに手をかけて横のスペースを空けてくれている。

羞恥心と恐怖心を天秤にかけた瞬間恐怖側にめり込む勢いで傾いたのでさっとお兄様のお隣に身を滑らせた。

流石にお兄様もこの俊敏な動きに驚いたのか、一瞬体を強張らせる。申し訳ない。でも怖いものは苦手なんです。

 

「…そんなに怖いならやめるか」

「……いえ、これはお兄様へのご褒美ですもの」

 

お兄様が一緒に見たいというのなら、たとえそれがホラーであっても、叶えて差し上げるのが妹の役目。

あの先生に本気の一撃を当てられそうになるくらいお兄様は肉薄されたのだ。その努力に報いず何が妹か!

見るのを躊躇われるお兄様の持つ操作リモコンに己の手を重ねて再生ボタンを押した。

モニターに映る配給会社は知らない名前だった。…これはB級映画の予感!

早まった、と気づいたが、体が強張ったことに密着しているお兄様が気付かぬはずも無く、リモコンから手を放して私の手をぎゅっと握って腿の上へ。

お兄様の体温は私より高めなのでそれだけで少し体のこわばりが解ける。

 

「無理はしないようにな」

 

正直もうすでに無理です、と言いたかったけれどお兄様が傍に居てくれるなら怖いものなどないのだ、という証明でもあるような気がして、私は気合を入れ直して頷いた。

靄のかかった深い森、湖、そして洋館。…オープニングだけで嫌な予感しかしない、ホラー映画のありきたりな演出。

しっとりとした空気間が画面からこちらに届いているかのような気分にさせられる。

この時点で、私は映画に没入し始めていたのだろう。

すでにお兄様の素敵ベストに皴を作るほどしがみ付いていたことに気付かなかった――

 

 

 

 

何故私はニコニコと微笑まれているお兄様に抱っこされてあやされているんでしょうね?

恐怖でガタガタ震えてしがみ付いて離れないからでしょうね!

怖かった!めっちゃ怖かった!!深雪ちゃん要素がすべて家出するぐらい怖くてたまらなかった。

何で!助かったと思ったのに!!ようやく外に出られたと思ったのに引きずり込まれるとか!!!

 

「て…いっぱい…」

「怖かったな。もう大丈夫だぞ」

 

背中とんとんされるけど一向に落ち着ける気がしない。

 

「深雪ならああいった不定形の敵だろうと凍らせてしまえると思うんだが」

「…こればっかりはそういう問題ではないのです…」

 

確かに深雪ちゃんならばそういった類のものにも干渉できる可能性が高い。パラサイトだってどうにかできちゃいましたしね。

だけどそれとこれは話が違う。

そしてわかっていたけどお兄様全く怖がるどころか途中から映画よりも私を落ち着かせようと抱きしめてくれてましたね。いつの間にか抱っこされててびっくり。本当にいつの間に??しがみ付いた時かな?途中お兄様の心音が聞こえるようになって落ち着けたと思ったのだけど、やっぱりバーン!って出てきたらもう無理だよね。

怖すぎて顔を背けても音が聞こえるとどうしても気になって見てしまって~の無限ループ。

ずっと怖いが続いてた。というか今も終わってない。多分ドアの隙間とかから指が覗いて――

 

「想像力が豊かだとどこにでも恐怖を覚えてしまうのか。難儀だな」

 

申し訳ありません。私の妄想力が高いばっかりに…。

鏡とかもうしばらく見たくない。だって覗かれてたらと思うと…っ!

 

「…どうしたものか…」

「…なにが、です?」

 

怖がってしがみ付いていたらお兄様が天を仰いでいた。

何かお困りのようだけれど…あ、この状況か。もしかしてお兄様おトイレ行きたい?

 

「怯えて可哀想に、と思うのにひどく可愛くも思えてな。慰めるべきだとわかっているのに抱きしめたくなるというか」

「…はあ」

 

トイレではなかった模様。よかった。正直今離れられるのは嫌だったので。アレです。トイレの前まで付いていきそうな勢い。羞恥心?恐怖心と比べたら恐怖の方が圧倒的勝る!…でもお兄様に迷惑が、と思うと…ちょっと恐怖が下がる、かな。2分なら待てる。3分だと多分泣く。…それくらいホラー系弱弱でした。

 

「これもギャップなのだろうか。今日はこんな落ち着いた大人びた格好をしているのに、涙目で怯えた表情をされると庇護欲をそそられる、と言えばいいのか。不思議だな。中身は深雪なのに見た目が変わっただけで抱く印象も変わる」

 

すん、と鼻を鳴らしながらお兄様を見上げると、困ったような苦笑をされていた。

…確かに、いつもと撫で方が違う?添えられてから撫でるような。

急に恥ずかしさが勝って視線を下ろしたのだけど、そうしたら握りしめていたのはお兄様の素敵なお洋服でしてですね!

 

「も、申し訳ございません!お兄様の服に皴がっ」

「構わないよ。それだけお前が俺を頼ってくれたんだろう。むしろ勲章だな」

 

いえいえいえいえ!何をおっしゃいます?!

っていうかそうだよ!お兄様がわざわざこの時間の為に着替えてくださっていたのに私ったら!

 

「逃がすと思うか?」

 

いつまでお兄様の膝の上に乗っかっているのだと慌てて降りようとしたのだけれど、お兄様の腕が腰から離れないがっちりロックされてます!ジェットコースターの安全バーくらいの強度。固い。でも安全に感じません!危険ですお兄様。何でそんなお色気あふれてそんな意地悪なことをおっしゃる?!

低いお声が鼓膜を震わし心臓へダイレクトアタックをかましましたよ!?

 

「うん。大分血の気が顔に戻ってきたな」

「……お兄様…」

 

恐怖を打ち消すのはときめきですか?そうですか。

一気に血液が循環しましたからね。お兄様の魅惑のボイスとお色気あふれる雰囲気はとんでもない特効薬でした。いつもと違う服も一役買ってます。

 

「怖いなら一緒にいよう。これは俺の責任でもある」

「いいえ、お兄様だけのせいではありません。最終的に私が選んだのですから」

 

全くない、とは言いません。言い出しっぺはお兄様でしたから。

でも、一緒に見ると決めたのは私自身。全ての責任をお兄様に押し付けるような真似はできない。

お兄様は再度苦笑されるけれど、私にとってはそれが真実。

 

「兄に譲ってはくれないのか」

 

欲しいですか?責任なんて。お兄様ただでさえ背負うものが多いのに。

 

「ですが、一緒にいて下さるというのならしばらくお願いします」

 

でも前者の申し出はありがたかった。…本当、しばらくきっと夢に見るから。一人でいるとあれらが来ちゃうから!!

 

「ふっ、わかったよ。お前の望むままに」

 

ふんわりと腕の中に抱きしめられて身を預ける。

トクトクと、早いスピードで流れ出した血液は体を巡り、頬へと集中する。

そのおかげで恐怖心は更に和らいだけど、その分羞恥心がね?

 

「お兄様のご褒美のはずでしたのに、私が願いを叶えてもらうなんて」

「これも十分おれにとってはご褒美だからいいんじゃないか?深雪に甘えてもらえるなんて、兄冥利に尽きるというものだ」

「お兄様は私を甘やかせすぎです…。私を喜ばせて、どうするおつもりなんです?」

 

確かに怖い思いはさせられたけれど、その前後が甘すぎる。

私の為にいつもと違う装いをしてくれて、一緒に料理も用意して、こうして怯える私を介抱して。

それなのに嫌な顔一つせず妹をどこまでも甘やかす。これではいつまでたっても兄離れなんてできそうにない。もう来年には一人家族が増えるんですよ?せめて一般の家族並みの兄妹の距離にしたいけど…間に合う気がしない。お兄様の沼から抜け出せない。

 

「どうするも何も、お前はそのままでいてくれればそれで十分なんだが」

「付け上がって困るのはお兄様でしょうに」

「深雪が付け上がるのか?さて、それは見てみたいものだな」

 

ダメだ。甘やかしモードに入ったお兄様には何を言ってもすべてお兄様の好きなように変換されてしまう。

 

「無理をさせてしまったからね。深雪の指示に従うよ」

「…では、そうですね。少し早いですがせっかく焼いた串も冷めてしまいましたし、温め直してそのまま夕食にでもしましょうか」

 

焼いたはいいものの食べる暇がありませんでしたからね。

 

「仰せのままに」

 

私をソファに座らせて前に立ったお兄様が恭しく頭を下げた。芝居がかったその仕草は服と相まって執事のようにも見えた。…お兄様の執事服、いいね。今度のぬいはそれにしようか。深雪ぬいはメイドさんか、はたまた女主人か。

お兄様のおかげで他所のことを考える余裕ができ、もう一度キッチンに並んで立つのだが、冷蔵庫の扉を開けるのに躊躇してしまうのがばれて、お兄様の過保護のような手厚いフォローが入るようになった。

冷蔵庫、映画でも出てきましたのでね…お肉と目が合うとか猟奇的過ぎる…。

 

(うう…思い出しただけで寒気が)

 

これはしばらく尾を引きそうだ。

 

「深雪、大丈夫だ。傍に居るから」

 

…お兄様、ありがたいお言葉ですが、それはホラー界ではフラグというのです…、とは言えず曖昧に微笑んで返すのが精いっぱいだった。

 

 

 





お兄様、妹の尋常ではない怯えっぷりに何かが芽生えてしまった。庇護欲だけだと良いね。それは元からあったけど、妹が怯えることはほとんどなかったので新鮮。パラサイトの時にちょろっと見たぐらい。妹はお兄様と別れる恐怖なんてなかったから怯える姿を見せることが無かった。(むしろお兄様に迫られて怯えた姿なら…)
この度最大の弱点をお兄様に握られてしまう。
この後一人で眠れなくて、お兄様からの提案もあって寝付くまで傍に居てもらう。
クローゼットとか隙間が気になって仕方が無かった。鏡台にも布を掛ける徹底ぶり。お兄様はそんな妹が可愛い。こんなに素直に甘えてくれるのも嬉しい。しばらく引っ付き虫になる妹にお兄様はご機嫌。エリカちゃんたちに疑われた。
師匠には「人をあまり出しに使わないように」と少し厳しめに稽古をつけられた。この後しばらく赤いお目目は見られない。

お兄様の服はベストなのかジレなのか…とりあえず妹にワインレッドのセーター?ニット?ワンピを着てもらいたかった。深雪様絶対似合う。胸、腰、腿の曲線はきっと美しい…。お兄様も目のやり場に困ったことでしょう。でもネックレスがあったのでね。後三つ編みのおリボンが可愛らしいアクセントに。
お兄様のモノトーンコーデに妹はとても弱いと良いな。ちなみに何故お兄様がそんな服を用意できたかと言えば、単純。妹とウィンドウショッピングに行く際、女性物のフロア前に男性用の店の前を通り過ぎる時の妹の反応を観察して、目に留まったものの中でセレクト。お兄様の瞬間記憶と観察眼はこういう時の為にある(違う)。


↓ 以下もったいなくて捨てられなかったお兄様ver.の入り口。これ以上書くとお兄様がおかしくなっていってしまいそうだったのでストップ。
そっちに目覚めたら本編のエンディングと違う道に行ってしまうので。



震えを止めてあげる方法は簡単だ。
映画を止めて明かりをつけてあげればいい。
ただそれだけの簡単な方法を取って上げられないのは、深雪が必死に堪えているから。
いや、これはもう堪えられていないのだろう。モニターに対しているのは深雪の黒髪。彼女の顔は俺の胸元に押し付けられている。
ぎゅう、と固く目を閉じ、その目には涙が今にも溢れそうになっていた。震える振動で零れ落ちるかもしれない。
時折、主人公が安堵するタイミングでちらり、と画面を見ては続いて襲い来る敵に主人公が恐怖する場面で体を震わせまた俺の胸に戻ってくる、を繰り返しているのがどうにも可愛らしすぎた。
深雪は恐らく今俺の上に座っていることに気付いていないだろう。
当然だが、彼女が乗っかってきたのではなく俺が乗せたのだ。肩を抱きしめているだけでは彼女の怯えは収まりそうになかったからだったのだが、夢中になりすぎている深雪にはたいして効果は無かったかもしれない。
怖がっているのに夢中になっている――ホラー映画製作に携わっている人間に取ってこれほどいい客はいないだろう。
音響でじわじわと恐怖をあおり、安堵させておいてからの、というのがひたすらに繰り返されているのに、深雪はそのタイミングに振り返り、恐怖し怯えている。
その姿は好奇心旺盛な子猫を思い出させた。危ないとわかっていても前足を伸ばすのと同じ。
それがとても可愛らしい。これは確かに家デートの定番に選ばれるわけだ。
このように堂々と密着できることも良いポイントなのだろう。
映画の内容は、大学のサークルメンバーで旅行中突然の雨で道を間違え洋館にたどり着いたのだがそこで不可解な現象に巻き込まれていくというストーリー。この様子だと誰も生きて帰れないで終わりそうだ。この監督の意図は俺にでも読みやすい、わかりやすい作りだった。俺で分かるのだから深雪にだってわかるはずだろうに、なんだって来るとわかるタイミングでこんなに怯えるのか。
肉体を持たぬパラサイトでさえ凍り付けることのできる深雪には、幽霊など恐るるに足らずと言っても過言でもないだろうにこのような作り物に怯えるところが――こんなにも可愛らしい。
深雪が子猫を好きになる理由が分かった気がした。ちらっと見ては怯える姿がそれに重なる。これは、可愛い。




と、ここでぶっちぎりました。続きません。これ以上書くとお兄様が変質してしまいそうだったので。怯える妹に愉悦なんて覚えちゃいけない。
とりあえず妹はそんな邪な思いを抱いて子猫を可愛がっておりませんよー。

お粗末様でした。


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