妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします! 番外編 作:tom200
3月25日、司波深雪の誕生日。
つまり、私の誕生日ということなのだけれど、朝から私よりもご機嫌なお兄様が。
「おはよう深雪。一番にお前に祝える権利を貰っても?」
「おはようございますお兄様。それでしたら眠る前にも頂きましたでしょう?」
午前零時になると同時にお兄様からおめでとうとの言葉と共に頬にキスを贈っていただいたのに、お兄様はお忘れになっている――訳が無いのは承知しているけれど、それでも問いただしくなる。
「おめでたいことだからな。何度でも言いたいんだ」
優しい笑みを向けられ、甘い声でお願いされて断れる人がいるなら見てみたい。
「もう、お兄様ったら」
恥ずかしいけれど、お兄様からのお願いだから。
「頂戴してもよろしいですか」
左手を差し出して言えば、お兄様はその手を掬い上げるように持ち上げて、触れないキスを落とす。
「誕生日、おめでとう。お前が生まれてきてくれたことに感謝を」
「…ありがとうございます」
…抱きつき防止で手を差し出したのに、まさかキスされるとは。
羞恥心で顔が赤らむのがわかる。
「深雪も16か。立派なレディだな」
レディ扱いだからこれなの?お兄様にとってレディとはどういったものなのか問いたい。
お兄様と繋がったままの手をきゅっと掴んで。
「お手柔らかにお願いいたします」
11か月先にジェントルマンになったらしいお兄様に先達として教えを乞うたら、お兄様は少し驚いたような表情をしてからすぐに口角を釣り上げた。
あら、お目目も楽しそうに細められて。…心臓が衝撃を受けて悲鳴を上げています。
「さて、俺の指導はスパルタらしいからな。手加減ができなかったらすまんな」
…お兄様S属性でした。もう一つのSが発揮されないことを祈るばかりです。
困る私を愉しそうに眺めてからふっと笑ってお兄様は腕を下ろす。
「このままでは学校に行けなくなりそうだ」
「誕生日で浮かれて遅刻しました、は恥ずかしいですね」
おどけるお兄様に合わせてくすりと笑って、私たちは朝の支度を始めた。
卒業式は終わっても終業式まで在学生は普通に学校がある。
今日はその終業式の前日。明日から春休みとあって皆少しそわそわしている様子だった。
こういうところは普通の学生と何も変わらない。
学校の最寄り駅に到着するや否や桜の花びらが一枚、また一枚と通り過ぎていく。
まだ東京は開花宣言をされていないが、花屋には既に早咲きの桜の枝が並んでいる。とはいえ花屋は学校の近くだったはず。それがこの駅まで飛んでくるなんて。今日はそこまで風も強くないのだけれど。
「桜の花も、お前をお祝いに駆けつけたかな」
「兄さんったら…」
…今日は一瞬たりとも気を抜けないかもしれない。お兄様が甘々モードから戻りません。
誕生日が命日になりそう。気をしっかり持たねば。
そこへ駆け足で近寄ってくる一つの影。――エリカちゃんだ。
「おっはよー、達也くん。深雪!お誕生日おめでと。今日は放課後楽しみね」
「おはようエリカ」
「おはようエリカ。ありがとう。お友達に祝ってもらうの初めてだから何だか照れてしまうわね」
「え?!深雪さん、お誕生日パーティーしたことなかったんですか?」
「おはよう美月。西城くんも」
「おはよーさん」
おはよう、と挨拶を交わして歩き出す。
吉田くんはいないけれど、朝はこのメンバーと鉢合わせることが多い。
「そうなの。私たちが通っていた学校はその日の前に終業式になってしまって、学校帰りに寄り道して、なんて初めてだわ」
というよりそこまで親しいお友達がいなかった。
お話はするのだけれど、放課後遊ぶことは無かったから。
「あ~、確かに。ギリギリよね、深雪の誕生日って」
「家族以外で祝われるのは初めてだから私も浮かれているんだけど」
ちらり、とお兄様を見るといつもよりも割増の笑顔。…誰が見てもわかるよね。
「なんつーか、ご機嫌だな、達也」
「まあな」
「いや、そんな当然だろ、って顔されても。なんで誕生日迎えた本人より浮かれてるのよ」
そうだよね!おかしいよね?!もっと言ってエリカちゃん。
「可愛い妹の生まれた日を喜ぶことの何がおかしいんだ?」
「……どう考えたっておかしいわよ」
ウチの兄貴だってそこまでじゃない、とエリカちゃんが呟いているけれどそれはどのお兄様のことです?一番上かな⁇ちなみにどこまでなんだろうね。
美月ちゃんは喜んで頬を抑えて楽しそうだし、西城くんは達也だもんなぁ、で遠くを見ている。諦めの境地ですか。
でもお兄様の気持ちも少しはわかる。オタク、推しの誕生日は自分の誕生日以上に祝うから。懐かしいね。祭壇を用意したあの頃。
毎月誰かしらの誕生日があるからケーキをしょっちゅう買ってたっけ。特に五月と十月は重なって大変だったけれど祝えて楽しかったなぁ。
それでも今のお兄様ほどではない。一緒にはできない。朝から、というより昨日の夜からお兄様は上機嫌でお祝いしてくれた。おそらくだけれど、これが一日続くんだろうな。
去年はここまでではなかったと思うのだけど。
(昨年はお母様が亡くなられて初めての二人きりの誕生日だった)
嬉しいけれど寂しい誕生日でもあった。直接母に感謝できない誕生日。
今朝はちゃんと写真の前で伝えました。生んでくれて、慈しんでくれて、育ててくれて感謝を。お母様から教わった淑女教育はいつも大事な場面で私を助けてくれます。これからも精進して鍛え上げていく所存です。
校門近くまで行くとほのかちゃんと雫ちゃんがゆっくり歩いているのが見えた。
彼女たちもこちらに気付いて立ち止まって合流。
何故離れているのに気づくかって?周囲の生徒たちがプリンセスたちの登校だ!と周囲に伝播していったからですね。
発売から一か月。わが校で知らぬ者はいないくらい浸透しています。ブームって怖い。
「おはよう深雪」
「おはよ」
「「お誕生日おめでとう!」」
「ありがとう」
二人のユニゾンでのおめでとうに嬉しくなって笑顔で返すと、周囲がバタバタと漫画みたいに倒れていく。
「…」
「…」
「…だって、嬉しかったんだもの」
加減を間違えたことを注意する視線を向けられたけれど、誕生日なのだから許してほしい。
だめ?と特に視線を強く向けてきたお兄様と雫ちゃんを見つめると、二人は揃って肩を竦めた。
「…今日だけだぞ」
「私たちがいないところは絶対ダメ」
まさかのお兄様より雫ちゃんの方が厳しかった。でもそもそも皆の前でしかここまで無防備になりませんからね。問題ないはず。お兄様もそれがわかっていたから注意までしなかったのかな。
これ以上被害を増やすわけには、ということで校舎に避難。雫ちゃんに手を握られ、お兄様に背中を支えられ中に入った。…もしかしてだけれど支えられていたんじゃなく連行されてたのか。ふらふらどこか行くとでも思われたのかな。確かに嬉しさのあまりふわふわしていたから。
それから別れて教室に向かえばクラスメイトからもお祝いを貰った。
お昼休みには滅多に学食に来ない千秋ちゃんがおめでと、とぼそっと通りすがりに言ってくれたり、部長さんが薄い冊子を献本してくれた…のけど、これはここで読んではいけないよね。同人誌は個人でこっそり楽しみましょう。回し読みはあとですよ美月ちゃん。
知り合いとすれ違うたびにお祝いしてもらえて、こんなに嬉しい誕生日は初めてだ。
緩み過ぎないように筋肉を引き締めるけれど、困ったね。皆が傍に居ると上手く力が入らないみたい。
「…今日の達也くんもおかしいけど、深雪は危険物ね」
在校生だけで少ないはずの食堂がいつもより混んでいた。
「ほんと、深雪さんの影響力スゲーな」
「自慢の妹だ」
「…今日は達也も要因だと思うけどね」
吉田くんの意見に私も賛成です。
お兄様もずっと微笑まれてますからね。いつもの黄色い声とは違った色が混ざっています。色めき立つ女子高生たち、輝いてる。青春だね。
「じゃあ、放課後待ってるわ」
「ええ。生徒会が終わったらすぐに向かうわ」
と、あっという間に放課後となり、生徒会のお仕事を張り切って片付けようとしたのだけれど、明日が終業式ということもあり準備があると思っていたが、どうも思っていた感じではないらしい。
「生徒会役員は入学式の準備がありますから、年度の終業式にすることはあまりないんですよ」
大仕事は卒業式でほぼお終いです、と中条会長。
新年度に向けての発注系は既に終わっているし、年度末の備品の確認も済んでいる。
あとは今日生じた事務処理だけ。皆有能だから仕事がその日のうちに大抵片付いていたこともあって繰り越し分も無かった。
中条会長やっぱり仕事ができる。配分が上手。…だから来年の九校戦でその準備の良さが仇となってしまうのだけれど、どんまいです。必ずフォロー入れますから。一緒に頑張りましょうね。
思ったより早く終わることを皆に連絡して、文科系の部活の休日活動日程に不備があったので確認に立候補。
幾つか部室を訪ねた帰り道、ロボ研へと向かう。今日は活動日ではないのでガレージに人気は無かった。けれどそこには可愛いメイドさんの姿が。
「ピクシー、会いに来ちゃった。調子はどう?」
声を掛けるより早く、彼女は目を覚ましていた。表情の動きは機械らしくぎこちないけれど、うにうにと触手が元気に動く。
「深雪様・お誕生日・おめでとうございます。誕生日は・祝うものだと・データにありました。合っていましたか」
「!ええ。合ってるわ。知っていてくれたのね。とても嬉しい。ありがとう」
ピクシーちゃんが!自発的に学習して私のためにお祝いまでしてくれた。こんなに嬉しいことがあるだろうか。ほのかちゃんの子供はすくすくと育っておりますよ。いい子!
ここなら人目もないし、となでなでニコニコしていると、背後に人の気配が。でも怖いと思わない。だってこの気配は――私が一番安心する人のものだから。
「兄さん」
「早く終わると聞いて迎えに行こうとしたら生徒会室ではないところにいるようだったからな」
「確認作業の帰りにちょっとだけ寄り道をしていたの」
こうして時間を作ってはピクシーに会いに来ていることをお兄様は知っている。
「…まさか自主的に学習までするようになるとはな」
お兄様もピクシーが祝ってくれたことに驚いたらしい。成長が目覚ましいよね。いい子です。
「流石お兄様をマスターに選んだ子です」
「…俺のため、というよりお前に喜んでもらおうとしているように思うがな」
そう言いながらもお兄様はピクシーの頭を撫でた。お兄様的にも良い成長だと思われたんだろう。
ピクシーも嬉しそうです。よかったね。私が褒めるよりお兄様から褒められた方が反応が顕著。びったんびったん触手が跳ねてます。活きが良い。
そのままお兄様と一緒に生徒会室に戻って仕事は終了。解散となった。
喫茶店アイネブリーゼには本当に頭が下がる。
今日も貸し切りにしてくれて、マスターは私が紅茶党と知っているからと、特別の茶葉を用意してくれていた。素敵ですマスター。チップを多めに渡したいけれどその文化はない?残念。
「じゃ、達也くん、音頭をどうぞ」
エリカちゃんはそう言って、なぜか懐から色付き眼鏡、というかサングラスだね。それを取り出して掛けた。西城くんと吉田くんがずるい!と非難しているけれど、お兄様はそんな外野を気にすることなく紅茶のカップを持って私の方に体を向けると、真直ぐ私を見つめて微笑まれた。
甘く、蕩けそうになるほどの笑みに、お兄様の向かいに座っていたほのかちゃんが真っ赤になっているのが見えた。間接でもそれだもの。私の今の表情は一体どうなっているのだろう。頑張って引き締めているつもりだけれど、だらしなく緩んでないかしら。
「深雪、16歳の誕生日、おめでとう」
「「「「「「おめでとう!!」」」」」」
「ありがとう、皆。こんなに祝ってもらえて、私は幸せ者だわ」
祝われるってこんなに嬉しいことなんだね。ちょっと涙まで出そうです。
頑張っていた表情筋は休憩に行ってしまいました。今日は酷使しましたからね。もう隠すこともできない。
ほのかちゃんと美月ちゃんが顔を真っ赤にして覆い、西城くんは食事に目を向け、吉田くんは俯き、雫ちゃんはじーっと見つめられてますね。アレです。よくオタクにある網膜に焼き付ける、あれみたい。そして一人サングラスを掛けていたエリカちゃんはといえば、「効果無いじゃない!」と外してぽいっと西城くんに向けて放り投げていた。
二人の漫才が始まりそうだったのでそちらに注目しようとしたらお兄様の指が私に伸びていて、目元をなぞられた。
「兄さん?」
「泣いているかと思った」
「ふふ、泣きそうだったけれど、大丈夫」
涙を拭おうとしてくれたみたいだけれど、何とか堪えることができた。涙腺まで休憩したらもう顔面崩壊待ったなしだからね。それだけは阻止した。深雪ちゃんのお顔でそんなことはできない。
というか泣いて喜んでも深雪ちゃんの顔面が崩れることなんて無いだろうけどね。
「よかったな」
「!ええ」
「お前が嬉しそうだと、俺も嬉しい」
お兄様からの笑みに、私もほのかちゃんのようにくらっときてしまいそうになる。でもここは家ではないのでね。気をつけないと。
「ならずっとこのループは終わらないわね。兄さんが喜ぶと私も喜んでしまうから」
「お前が傍に居てくれるなら半永久的だな」
「ループキャストシステムみたい」
魔法力が続く限り半永久的に続く魔法。お兄様の開発した素晴らしい技術。
「俺では持続が難しいから深雪にばかり負担がかかりそうだな」
たとえ話だというのにお兄様ったら現実的。
「これくらい私には負担でも何でもないわ」
「おおーい!お二人さん。あんまり二人だけの世界にいかないでよねー。特に達也くんは主役を持っていかないで」
おっと、つい二人で話してたら周囲を忘れてしまってました。
「すまない。せっかく皆に祝ってもらってたのに俺が独り占めしてしまった」
「そうだよ、達也さん。達也さんは家で十分深雪を独り占めできるんだから私に譲って」
「雫個人じゃなくて、皆に、だがな」
お兄様と雫ちゃんの視線がバチバチと。ほのかちゃんが止めに動く――と思ったら雫ちゃんじゃなくてお兄様に行ったね。これは計画的に二手に分かれました?席が入れ替わって私が雫ちゃんの隣に、お兄様にはほのかちゃんが付いた。
まだまだ誕生会は始まったばかりだ。
と思ってたらもうおしまいの時間です。早いね。楽しい時間はあっという間。
今日は誕生日会だけれどプレゼントは無しと先にお願いしていた。学生の私たちにそんなに金銭の余裕は無いからね。一緒に食事ができただけ十分。
そう、伝えていたのだけど。
「深雪、これ私たちから」
「え?」
渡されたのは可愛らしい小さな封筒。ポチ袋サイズ。まさか現金じゃないだろうけれど。
「開けてみて」
促されるままに中身を取り出すと――あら、これは懐かしの。
「肩たたき券…じゃないわね。手助け券?」
古のアイテム肩たたき券と同じつくりの手助け券なるものが十枚連なっていた。
「お金かかったプレゼントが嫌だっていうなら労力でってね」
「深雪さんのことですからきっと来年度は生徒会長になるでしょうし、忙しくなるでしょうから」
「そん時に何か手を貸すことがあったら俺らでできることなら手を貸すぜ」
「もちろんそんな券が無くても手を貸すけどね」
やだ、さっき堪えた涙が溢れそう。皆が優しい。皆いい子過ぎるよ。
「あ、でも一番の使いどころは達也くんになると思う」
ん?どういうこと⁇エリカちゃんの言葉に首を傾げる。
それを受けてエリカちゃんはニヤリと笑って。
「達也くんに困らせられる時にも有効だから、それ」
「!!助けてくれるの?!」
本当に?!いつも遠巻きにして他人の振りとかされてたのに。
「…深雪?」
あ。背後にお兄様からの不穏な気配が。さっそく一枚切りたいところだけれど…
「…エリカ、十枚は少ないんじゃない?」
「そう思って人数分あるわよ」
「エリカ様!」
ありがとうエリカちゃん!救いの神!!
「ほっほっほ!崇めなさい!」
「エリカ、調子に乗り過ぎだよ」
吉田くんがたしなめるけれど、エリカちゃんは胸を反らして鼻高々。これの発案エリカちゃんだね。ありがとう。一番欲しいものです。
「ありがとう。大事に使わせてもらうわ」
「――つまりその券を使い切らせれば良いんだな?」
「え、エリカ、さっそく一枚お願いできる?」
ぴたりと背後にお兄様が。助けて。
「あ~、今日は営業を終了したからまた明日からね」
え!?これ有効時間とかあるの?!がっしりとお兄様に肩を掴まれました。逃げられない!
「…達也も、今日は深雪さんの誕生日なんだからほどほどにな?」
「ほどほども何も。俺が深雪の嫌がることをするわけないだろう?」
…嫌がることは確かにしないね。困ることはするけれど。
「達也さん、もう一つ深雪にこれを」
今度は雫ちゃんからぺらりと一枚の――優待券?有名ホテル名が書いてありますね。
「スイーツビュッフェの優待券。これなら金銭掛かってない」
皆で行こう、と。
皆、私のためにいろいろ知恵を絞ってくれたみたい。
「嬉しい。また一つ楽しみができたわ」
誕生日ってその日で終わりじゃないのね。その事実を知って今日一番の笑みがこぼれた。
その後、会はすぐお開きになった。
もうこの時期の日暮れは5時半くらいになっていた。ちょうど日が沈んでオレンジ色の空がきれいなグラデーションを描いている。
家までの帰り道、去年の春のようにお兄様と手を繋いで歩いていた。
「去年もこうして歩いていたね」
「お兄様も思い出されていましたか」
同じことを考えていたのだと嬉しくなってお兄様の腕に寄りかかるように頭を寄せた。
「あれからもう約1年か。長かったのか、早かったのか」
「色々とありましたからね」
怒涛の1年でした。ブランシュ事件から始まって、パラサイトまででしたからね。特に秋の横浜は大変でした。
たった1年に詰め込み過ぎです。胃もたれしちゃう濃厚さ。
「来年度はもう少し穏やかに過ごせると良いのですが」
「さて、どうだろうね」
無理だということは知っていても祈りたくもなる。
「なあ深雪。あの角で抱きしめていいか」
「あら、家まではもうすぐですよ」
「今、抱きしめたいんだ」
まるであの日の再来のよう。あの時と違って感極まってはいないけれど。
「お兄様が喜んでくださるなら、それは私の喜びにもなりますので」
「なら、たくさん喜ばせてあげないとな」
なんせ、今日はお前の誕生日だから、と抱きしめられた。強すぎず、けれど弱くもない絶妙な具合で。
家に着いてもハグをして。…いくら誕生日でもお兄様の過剰摂取だと思う。
夕食はいつも通り。
コーヒーを淹れてソファでまったりして恥ずかしくも幸せな気分でお兄様の腕の中に納まっていたのだけれど。
「俺からのプレゼントを受け取ってくれるか」
そう言ってお兄様が取り出したのは、細長い長方形の桐箱ですね。
開くと中には一本のかんざしが。桜の描かれた漆の蒔絵螺鈿だけれど、日常使いにもできそうなデザインだった。
とても可愛らしい一品だ。
思わず手に取って眺めていた。
「今年の桜はまだ咲いていないからね。ここで咲くのを見るのもいいかと思って」
あら、まあ。お兄様ったらどこでそんな文句を覚えてくるのでしょうね。
期待されたら応えないわけにはいかないので。
髪を纏めてくるんとかんざしに巻き付けて頭の形に添うように起こして差し込めば――
「いかがです?」
「ああ、とてもよく似合っている」
まとめ上げたので首元がいつもより涼しくなった。
そこにお兄様が腕を回して抱き寄せる。素肌にお兄様の手が触れただけで体に緊張が走った。
「お、お兄様っ」
「うん。黒髪に桜色が一輪というのも良いが、もう少し色が欲しいな」
そう言ってこめかみにちゅ、と音を立ててキスを一つ。
「っ~~~///お兄様!」
「やり過ぎたか?桜色より赤くなってしまったな」
お兄様確信犯!わかっててやりましたね。
体中の熱が顔に集まって熱いくらい。首元まで赤い気がする。
「綺麗だよ。俺だけの桜だと思うとより一層愛でたくなる」
「もう…あまり揶揄わないでくださいませ。悪戯が過ぎますよ」
「揶揄っているつもりはないんだが、まあ意地悪はしているな――エリカのプレゼントにあれだけ喜ばれると、ね」
…わあ。お兄様気にしてました?あれはあの場のノリとジョークだとわかっておいででしょうに。
「早く使い切るくらい、俺が深雪を構えばいいのだろう?」
「…できればプレゼントはそのまま保存したいので使わせないでくださると嬉しいのですが」
お兄様の恐ろしい宣言に、何とか回避を試みるけれど、お兄様は笑みを深くするばかり。
うう…再発行してくれるかな。
「冗談だよ。そもそもそんなに困るようなことを学校でするわけないだろう」
…それはどうでしょうね。結構困らされていたと思うのですけれど。
「期待されると応えたくなるな」
「期待などしてません!」
だからどうか静まってくださいませ!と懇願すると、お兄様はふっと笑って。
「慌てる深雪も可愛いね」
「…意地悪なお兄様も素敵ですけれど、一緒にいるならいつものお優しいお兄様が一番です」
「もう意地悪はしないよ」
そう言ってお兄様は肩を抱いていた腕をするりと外すと、身を起こして。
「改めて、誕生日おめでとう、深雪。これからの一年が幸せで溢れる一年であるように」
「ありがとうございます、お兄様」
きっとこの一年も騒々しい年になるでしょうけれど、お兄様と一緒であればきっとどんな時も幸せでしょうから。