妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします! 番外編   作:tom200

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本編師族会議読了後にお読みください。
一条君の日記風の、彼サイドから見た事件とその後のお話です。
原作との違いをお楽しみいただければ、と思います。

本編に上げるか悩んだのですが、一応番外編に置いておきます。
もしこの内容なら本編では?とのお声をいただいたら本編の方に移動しようかと思います。


番外「一条日記」(本編絡みあり)

 

2月10日(日)

 

俺は今、東京でこの日記を書いている。

 

との書き出しから、俺はここに来てからの記録として日記を付け始めた。

今月5日に起きた爆弾テロ事件を解決するため主犯捜索の任を与えられた。

日本魔法師界のトップの実力を誇る十師族が集結する会議を狙った前代未聞の爆発テロ。

民間人に怪我人は出なかったものの、郊外の一部やホテル周辺、ホテル内の一部も爆発の影響で破壊された。

だが、このテロの恐ろしいところは死体を使って爆弾を運ばせたパペットテロであったこと。

その死体は、その全員が日本人で、非魔法師だった。

この日の死者こそ出なかったが、このパペットにさせられた人数は多く、死後そんなに経っていないことから殺されたことは明白だった。

この凶悪事件の早期解決の為、十師族は警察と連携を取りつつ独自に捜索するチームを作った。

十文字家の新当主、十文字克人さんをリーダーとし、七草家の長男・七草智一さんをサブリーダーとして捜査を進める。俺は十文字さんの下で任に当たることになっていた。

そんな重大な任務を任されて気が引き締まる思いと同時に――俺の胸にはもう一つ、心躍る展開が待ち受けていた。

…不謹慎かもしれない。だが、ここでなら、胸の内を明かしても良いだろう。

明日から俺は三高生でありながら一高に一月間通うことになった。前田校長の計らいらしい。

どんな事情があるにせよ、あの人と――俺の憧れの人と共に学校に通えるなんて、夢のようだ!

たかが一か月、されど一か月。どんな日々が送れるのか、楽しみで仕方がない。

 

「ふぅ」

 

…少し浮かれすぎたか?と思ったが、これは自分しか読まない日記だ。心を吐露する唯一の場所。

 

「…同じクラスになれたりして」

 

それで、隣同士の席で、一緒に授業を受けられたらどれだけ楽しいだろう。そんなことになったら授業なんて身にならないかもしれない。

彼女の前で格好悪い所なんて見せられないと思いつつも、きっと見惚れて授業にならないんだろうな、と謎の確信があった。

その晩見た夢は、本当に夢のような事ばかり起きて、これが現実になればいいのに、と目覚めたことを後悔するほど素晴らしい内容だった。…教科書を二人で一緒に見る、なんて旧時代にもほどがあるだろ、俺。

 

 

2月11日(月)

 

…正夢って本当にあるんだな。

いや、教科書の見せっこなんて無かったし、隣の席でも何でもなかったけど同じクラスになることができた。

このクラスにやつはいない。俺たち二人――というわけでもないが、とてつもない優越感があった。

四葉の次期当主として発表された彼女――司波深雪さん。

十師族の四葉家の人間であることは驚いたが、実力を見るにおかしいとは思わなかった。

九校戦でのとびぬけた実力、そして生徒会長に選ばれる才色兼備の美少女魔法師。

 

彼女は、俺の女神だ。

 

神を信仰もしていないのに女神だなんて、おかしな話かと思うが、俺はそれ以上の表現を知らなかった。

彼女自身に感じた神秘的な雰囲気と、美しいモノのトップが女神だと言われているからそう表現しているだけに過ぎない。

人とは一線を画した美貌に俺はたちまち虜になった。

一目惚れだった。

この人の隣に立ちたい。恐れ多くも俺はそんなことを願っていた。

恥ずかしながらこの時自分は十師族の子息ということも頭にあったんだと思う。彼女ほどの才能があれば、どこかの家が囲った方がいいのでは、と。その候補に俺が立候補したい。…実に傲慢な考えだが、彼女ほどの実力があれば魔法の相性云々よりも、その魔法力を他に奪われない、理不尽に利用されないためにも責任を持てる家が囲わなければならないと思ったんだ。

…もちろんそれは後付けに過ぎない。だって、俺は一目見ただけで恋に落ちてしまっていたのだから。

だが、彼女は一般家庭の出ではなかった。どのような事情があったにせよ、ずっと四葉ということを隠しながら生きてきた彼女を思うと――胸が苦しくなった。

四葉ははっきり言えばあまりいい印象の無い一族だ。アンタッチャブル。そう呼ばれている。

だが、だとしても素性を隠して生きるなんて、きっと大変だったに違いない。

同じ次期当主。普通なら結ばれない立場だと思うが、親父が俺を次期当主から外してでも恋に生きて良いと――…違った、彼女の家に婿に行ってもいいと許可を出してくれた。

一体親父が何を考えているかはわからない。親父のことだからきっと息子の恋を応援なんてことだけではない筈だ。

しかし、俺には最大のチャンスだった。

絶対このチャンスをものにして、あの人とけ、結婚してみせる!

……もちろん、任務が最優先だが、俺にとってはそれと同じくらいこちらも重要だって話だ。

だが、あのテロの日以来に見るあの人は――やはりとびぬけて美しい。キラキラ輝いて見える。

彼女と視線が合う。それだけで血が沸騰するようにカッと熱くなった。慌てて魔法で己の体液をコントロールして鼻血なんて出さないようにした。もしそんな格好悪い姿を見られでもしたら、俺は生きていけない。マジで。

それくらい俺は臆病になっていた。

だめだ。こんなことでは。俺は彼女の横に立つ男。こんなことくらいで負けられない。…徐々に慣れていこう。

しかし、なんだろうな。クラスメイトから不思議な視線、を向けられている、気がする。

正直一高と三高はライバル校。変に意識されることはあるかもしれないと危惧していたが、彼らの視線はそういった類のものでは無かった。…何だろうな、言うなれば、憐み?生ぬるい視線というか…あれか?任務でわざわざ転校(ではないが説明が面倒なのでそういうことにしておく)してきたことに対する同情か?一高って結構優しい奴が多いんだな。

本当はもっとあの人とお近づきになりたかったが、流石に初日でぐいぐい行くのも気が引けた。…校内の案内とか、お願いしてみたかったが、それは厚かまし過ぎるだろう、と自重した。…そう、自重したのであって勇気がなかったわけではない。いきなりそんなことを頼まれたら彼女だって戸惑うだろう。

それに一月ここに通うんだ。クラスメイトの印象をただのナンパ男になんてしたら最悪だろ。

ということで今日はこのクラスの男子のリーダーである森崎のグループに混ぜてもらった。

気さくな良い奴だ。説明も端的でわかりやすい上に、慕われているようで一緒にいる俺まで声を掛けてもらった。

ただ、彼らからの「頑張れよ」との応援は、任務に対してなのか?彼らは言葉が足りないのかもしれない。が、その応援しかと受け取った。

それから一高で過ごすために覚えておいた方がいいこと、というのを教わった。

一高はここ数年女性が生徒会長の為か、女性の立場が強いらしい。女子に目を付けられないよう注意された。もともと目立つ容姿だから気を付けた方がいいかもしれない。…自惚れじゃないぞ。三高でも時折あるんだ。

そして二年生の主な実力者として、司波さんをはじめ同じクラスの北山さん、B組の明智さん、D組の里見さん。F組の千葉さんの名が挙がった。

本当に女子ばかりなんだな。だが、影の風紀委員ってなんだ?俺も風紀委員だが、そんな存在うちの学校にはいない。

 

「この学校で一番の曲者と言ったら、E組の司波だな」

 

ようやく出た男子の名がアイツだった。

説明してくれた森崎は苦虫を嚙み潰したような顔をして吐き捨てた。彼はアイツを嫌っているようだ。詳しく話を聞くと、アイツはうちの学校で言うところの普通科に在籍していたらしい。

一年の頃には俺を負かす実力のあるアイツが、だぜ?…もしかしてアイツも四葉であることを隠すため実力をセーブしていた、とか?と思ったら普通に魔法力が低いらしい。学力は常にトップなんだそうだ。それを聞いて俺は――余計に油断ならない相手だと背筋が冷たくなった。

一体、どんな教育を受ければ入学ギリギリの低い魔法力で俺と遣り合えるだけの実力と、ジョージを凌駕する知識力を身に付けられるというのか。

放課後、森崎たちと話している時に廊下で歓声のようなものが上がった。一体何が、とのぞき込もうとしたら、森崎たちがなんとも言えない顔で、そういえば、とグラウンドで活動している部活の説明をし出した。いや、俺は廊下が気になるんだが、と思ったが好意で言ってくれているのを止めるのも気が引けた。大人しく説明を受けるのだが、いつの間にかあの人が居なくなっている。もしや彼女関連で何かあったんじゃないか、とのぞき込もうとしたところで、森崎グループの一人が廊下から戻ってきて、やっぱり例のあれだった、と報告。全員がうんざりしたような顔でまたか、と肩を落としていた。

あれってなんだ?

尋ねようとする前に、他の男子生徒からそういえば、と何か慌てた様子で何かまくしたてられたが、今度は歓声だけでなくざわめきが。さっきより声が多い。人が増えたんじゃないか?流石に無視できないだろう。

 

「廊下で何かあったんじゃないのか?」

 

彼らから抜け出て見に行くか、と思ったその時だ。空いたままのドアからあの人が廊下からこちらに向かってくるのが見えた。

そして声を掛けられ一気に緊張が全身に駆け巡る。だって、声を掛けてもらえるなんて思わなかったから!

 

「、司波さん、何か御用ですか?」

 

気を取り直してなんでもない風を装いそう訊ねると、少し困ったように微笑まれて、「呼んできてほしいと頼まれまして」と。誰だ!司波さんにそんな雑用を頼んだ奴は!と思ったらアイツだった。

しかもなんだ!アイツ、出入り口を封鎖するように待ち構えやがって。

司波さんに案内される形で向かうと、彼女に笑いかけながらお礼を言ったんだ。コイツ、彼女にしか笑いかけてないんじゃないか?後れを取ってなるものかと俺も彼女にお礼を言って用件を聞く。

十文字、七草とミーティングを毎日しているらしく、参加しないか、という内容だった。

それは参加した方がいいだろう。二つ返事で頷くと、コイツは土地勘も無い俺に対し、地図を転送するから、と。

別に案内しろなんて言うつもりはないが、コイツに配慮ってもんはないのか!?

東京は人との繋がりの薄いところだ、なんて聞いてはいたが、コイツのそれは薄いどころか全くないように思う。

すると、

 

「一緒に行かれないのですか?」

 

と鈴を転がしたような天女の声が。流石は司波さんだ。その一言だけで十分思いやりの心が伝わってくる。

それをコイツはその発想はなかった、だと!?…コイツ、人付き合いってものを知らないのか?一応コイツなりに俺の手間を考えてくれていたらしいが、本当か?何を考えているかわからないやつだから全てが疑わしい。

だが、司波さんもそう言っていることだしそういうことにしておいてやる。俺は寛大な男だからな。

しかし、

 

「深雪、行こうか」

「はい。では一条さん、失礼します」

 

二人してどこかに行こうというのには思わず引き留めてしまった。

実力者の話を教えてもらった時に、彼らが生徒会役員だと教わっていたのに不覚である。

だが、急に二人きりでどこかに消えていくのが耐えられなかったのだ。

俺は仕事を頑張ってくださいと言う凡庸な答えしか返せなかった。

それに対し、司波さんは微笑んで一礼してくれた。

 

(め、女神っ!)

 

やっぱり彼女は素敵だ!二人して歩く姿に胸が苦しいが、少しでも彼女をこの目に焼き付けたくて未練がましく見つめてしまった。これが今日、最後に見た彼女の姿だった。

18時、アイツに教わった店に到着。これまでの捜索状況を教えてもらった。それなりに捜査は進展しているようで、鎌倉の話は全く知らない情報だった。

このミーティングに意味を見出したところで夕食を一緒にどうかと誘われた。それをアイツはあっさりと断りやがった。先輩からの誘いを、だぞ?しかも今は共に調査をする仲間だろう?…コイツ、人情的に何か欠落しているんじゃないか?

絶対にアイツがあの人の婚約者なんて間違っている!

俺はこの任務で必ずいいところを見せて、あの人に振り向いてもらおうと気合を入れ直した。

 

(…あと、これは勘違いじゃないと思うんだが)

 

七草家長女の真由美さんは、もしかしなくてもアイツのことが好きなんだろうか。

俺にもちょっかいを掛けてきたので揶揄うのが好きなタイプなんだということはすぐに分かったが、俺とアイツでは態度が違った。元々の関係性もあるんだろうがなんというか、構って欲しい?みたいな?…こんなことを言うのは失礼かもしれないが、趣味が悪いというか…これが駄目な男に引っかかるという典型的な例なのでは、と思った。

あの人が心配だ。ああいう完璧な女性ほどこういう悪い男に引っかかりやすいという。

あの人のことは俺が守らなくては。

 

…ところで要注意と忠告を貰った影の風紀委員と呼ばれる北山さんだが、彼女はその、あの人とかなり仲が良いようだが…女子同士の友情は男にはわからないって奴だろうか?随分、距離が近いように見えた。明日それとなくチェックしてみるか。

 

 

2月12日(火)

 

魔法実習で俺は彼女に誘ってもらった。夢かな?!夢じゃなかった!

嬉しすぎて爆発するんじゃないかと思うくらい舞い上がっていたが、すぐに彼女の前だと気を持ち直す。

彼女の魔法はとても正確だった。ジャスト30秒。お手本のように綺麗な魔法に惚れ惚れした。だが、同時に自分の体たらくに落ち込む。

三高ではこのような実習をしてこなかったとはいえ、そんなことができない理由にはならない。いや、タイムが決して悪いわけではないのだ、司波さんもそう慰めてくれていたけれど、もっとできたはずだ。

何とか授業中に結果は出せたが、不甲斐ない。

だが、そんな俺に彼女は何処までも優しかった。

昼食を共にしようと誘ってくれたのだ。実際声を掛けてくれたのは光井さんだが、彼女も歓迎してくれた。

しかし、その道中司波さんの話には驚かされた。

なんとあの実習中にボールの色をグラデーションで変化させられないかと試していたというのだ。

授業内容とは違うことにまで挑戦するなんて、なんて向上心に溢れているのだろう。

しかもただ色を変えるだけでなく色を綺麗に変化させていくなんて、どのようにすればそんな変化をさせることができるのか見当もつかない。既存の枠にとらわれない自由な発想。

俺の女神は勤勉で努力家で、それでいて謙虚であり慈悲深さもあるらしい。

彼女は授業内容と別のことに集中していたことを反省してから、また俺を褒める言葉と励ましの言葉を掛けてくれた。これを信仰せずにいられるだろうか?いや、ない!

だが、それをプライドの問題だから、と一蹴するのはやめてくれ。間違ってはいないんだが、と困っていると話題を変えてくれた。

なんて優しいんだ。喜びのあまり、俺は饒舌になって三高の実習内容をしゃべっていたらあっという間に食堂に着いた。

すると昨日森崎たちと使用した時よりも視線が集中した。それを彼女が三高のエースでもあり、今一番話題の人だから、と言ってくれたけど、この視線、本当にそれだけか?もしかして俺たちが並んでいることに嫉妬して、とか羨んで、とか?よくわからん。

とりあえず注目されているのは慣れているから気にしないでほしい、と伝えると彼女はホッとした様子だった。

…たったそれだけのことなのにめちゃくちゃ嬉しい。

真っ直ぐ向かったのは、…まあ、予想していたがアイツを中心とした、京都でも一緒になったメンバーだった。もう一人は司波のクラスメイトの柴田さんというらしい。…その、アレだな。司波の周りには大きい人間が多いように思う。どこ、とは言わないが。

その流れでつい、あの人にも目を向けたが俺はそんな邪な想いで見たわけじゃない!彼女にはいつでも視線を吸い寄せられてしまうからな!うん。

彼女の案内で食事を取りに行く。

俺はがっつり肉料理のある定食を選んだが、彼女は魚の定食を選んでいた。肉より魚派なんだろうか。うちの地方は魚が有名だから、食べに誘ってみようか。…いや、流石に地元に誘うのはまだ早すぎるな。

そしてテーブルに戻ると、席が微妙に変わっていた。アイツの隣が空いていて、その正面と斜め向かいが空いた状態。

…これは何処に座るのが正解だ?と思ったら司波さんからこちらにしましょうか、と隣同士で座ることを提案された!こんなことがあっていいのか?!正面がアイツになったがそんなことはどうでもいい!

俺は舞い上がっていたが、周囲はしん、となった。というか何故この流れで吉田は席を北山さんと代わったんだ?

疑問に思ったが、それはすぐに消えた。隣の司波さんが不思議なことを言ったからだ。

 

「リーナの時にこのように座りましたので、同じようにしてみたのですが」

 

リーナとは誰のことか、それはすぐに一時的にA組に来た交換留学生らしいことが判明した。そういえばうちにも一年の三学期に来たな。

しかし、その後の流れがおかしかった。

 

「…結局また『リーナ』」

 

表情の変わらない北山さんだが、これは不機嫌だとわかる声だった。

その言葉に対し、あの人は慌てたように返す。

 

「違うのよ雫、私は別に」

「深雪の浮気者」

「!!そ、そんなっ、誤解よ」

 

…何だ、その会話は。

え?二人共女の子同士だよな?まるで恋人同士の修羅場のような会話だ。

 

(…何だろう、胸がドキドキする…動悸か?)

 

「はいはい、そっちは二人で遊ばないの。一条君困ってんでしょ」

 

一応違うとわかってはいるんだが、俺は尋ねてしまった。

 

「あ、あの、お二人は友人…」

 

すると答えはすぐに親友だと返ってきた。

だが、北山さんの返事には「まだ」、という言葉がついていて、それが心を落ち着かなくさせた。

 

(確かに、彼女は魅力的で、男女関係なく愛さずにはいられない美貌ではあるが)

 

動揺しながらも、周囲に合わせて昼飯を食べ始めるのだが、そのタイミングで千葉さんから捜査の進展について聞かれた。

こんなところで話せるわけがないだろう!と怒鳴りたいが、彼女の横でそんな紳士的でない態度は取れない。

何とか咀嚼し終えてから反論しようとしたら、アイツがフォローを入れていた。…頼んでないが感謝はしておく。もちろん心の中で、だが。

続けて司波さんもフォローを入れてくれて、しかも俺に仲間の分の謝罪までしてくれた!なんて優しいんだ!

だが、続く言葉には驚いた。

彼女が、俺を羨ましいという。

一体どこにそんな要素があった?と思ったら、つい先ほどのアイツからのフォローの言葉で。

アイツが「飛びぬけて優秀」なんて誉め言葉を言うことは少ないんだそうだ。

俺としては自分を負かした相手の賛辞など、ばかにしてるのかと思ったくらいなのに、彼女はとても純粋に額面通りに言葉を受け取ったらしい。素直な彼女に心が洗われるようだ。

こういうのをなんというのかな。…尊い?

しかし、司波の奴、普段から彼女の優秀さを褒めてないとでも言うのか?俺だったら毎日でも絶賛するのに、と思っていたらそうでもないらしい。

 

「俺は深雪も十分褒めているつもりだが?」

「その言葉の後には「自覚しなさい」、とつくことが多いではないですか」

 

その言葉に周囲は納得の声を上げていた。

俺もこれまで数日しか付き合いがないが、彼女はとても奥ゆかしいというか、謙虚な人らしい。…ますます好みだ。さらに惚れてしまう。

 

「司波さんは好奇心と向上心に溢れているということでしょう!」

 

素敵だ!と伝えればはにかむようにお礼を言われ、その可憐さに心が奪われる。

俺はちゃんと言葉を返せていただろうか。

しかし、ここでまたしても不思議な光景が。光井さんはどうやら司波のことが好きらしい。熱心に話しかけていた。

…何だってこんな奴が。もしかしてだが彼女はこの光景に胸を痛めているのではないか、と不安に思いながら目を向けると、あの人は眉を下げつつも微笑んでいた。そこに嫉妬や悲しみの色はない。だが、その笑みがアイツのことを思ってのものだと直感した。

そんなことを考えていたからだろう、彼女が話しかけてくれたのに反応が遅れた。

 

「魔法力がない分、精密な操作は得意分野ですから。比べますと残念ながら私も足元にも及びません。なかったからこそ磨かれてきた技術。…ないものねだりで終わらなかった結果ですね」

「え…ないものねだり、ですか?」

 

その後の説明は俺にとって目から鱗が落ちるものだった。

…ないものねだりで終わらなかった結果。そんなこと考えもしなかった。

一つ一つの能力で見れば、俺は魔法のコントロールと知識以外でアイツに劣っているところは無い、と思う。だが、九校戦や京都で共闘した時も、俺はアイツより劣っている部分があることを認めざるを得なかった。

これまでアイツが研鑽を積んでいたということに他ならない。それを、彼女は間近で見てきたのだ。

隣同士で座っているのは俺のはずなのに、彼女との距離が遠く感じた。

――それはこの後の北山さんとのやり取りが原因ではない、と思う。

 

(親友ってあ~ん、をし合う仲だったか?!羨ましい!!)

 

一瞬婚約者よりも親友の方が、距離が近付くんじゃないかと迷走しそうになった。

 

 

2月13日(水)

 

俺は自分が浮かれすぎていたことに気付かされた。

あの人と同じ教室に居られること、話し掛けてもらえることに満足して任務に対して真剣みが足りなかったように思う。

アイツからの報告で、俺が見当違いのところを探している間に首謀者と肉薄していたというのだ。

そういう時くらい呼べよ!何のための合同調査だ、と思わなくもないが、アイツもそこまでの確証はなかったらしい。

アイツを責めそうになった自分が恥ずかしい。

まだこちらに来て三日だから、土地勘が無いからという言い訳などできるはずも無い。俺は、ここに重大な使命を持ってきているんだ。親父からも一条家の者を使っていいと許可も得ている。

…本当は学校を休んででも調査に奔走すべきなのだろう。というか、居てもたってもいられず俺も一日中捜査に参加したい。報告を待っているだけ、というのはどうにも性に合わなかった。

とりあえず明日は現場に向かおう。もうすでに調べ尽くした後だろうが、自分が足を運ぶことで見えなかったものが見えてくるかもしれない。

 

 

2月14日(木)

 

これ以上浮かれてなんていられない、と断腸の思いであの人からお昼を誘われないために急いで席を立ったのだが、俺の前に立ちふさがったのは思ってもいなかった人たちだった。

誰だかを思い出す前に彼女たちは俺にリボンのかかった小箱を押し付けて去っていく。…正直何が起きたのかさっぱりだった。この箱の意味も、彼女たちの行動も。

唖然としていたら。続けざまに他の女子たちからも同様に箱を渡され合計7個になったところであの人から声を掛けられた。

 

「一条さん、大丈夫ですか?」

 

混乱している俺を心配してくれるこの人はきっと天使に違いない。

何が何だかわからない、と素直に答えると、北山さんから切れ味鋭い回答が。

 

「今日はバレンタイン」

 

キョウハ バレンタイン…?

バレンタイン!?

ということは手の物はチョコレートか!

今更になって今日が何の日か気付き、手に持っているものの正体を知って体中から変な汗が噴き出した。

違うんです!これは浮気とかそんなんじゃなく!

内心浮気男の言い訳じみた言葉が浮かぶ。俺は別に彼女の彼氏でもないが、だからといって好きな女性の前でチョコレートを受け取ることの気まずさったらない。

俺は貴女一筋なんです!こう叫べたらどれほどいいか。

気が付けば彼女から昼食を誘われ、断るつもりだったのに光井さんからでなく彼女から誘ってもらえたことに条件反射でYESと答えていた。

手の中のチョコをどうしようと思っていたら肩を叩かれ、紙袋を渡された。鞄なんて持ってきてなかったからとても助かる。急いで紙袋にしまって机の横にかけて食堂に向かうのだが。

 

「一条さん、捜索する際にしてはいけないことをご存じですか?」

 

捜索の任務なんて初めてで、何から手を付けていいのかもわからない俺に、彼女は素晴らしい助言を与えてくれた。

睡眠時間を削っては捜索の効率が下がること。集中力が低下している状態では見つかるものも見つからないから、と。やみくもに捜索することも稀にヒットすることが無いとも言い切れないが、土地勘が無い状態でもし敵とバッティングした際、地理的にも不利な状況になることもあること。

現状魔法師というだけで周囲の目が冷たいこの時期に標的が人込みに紛れたところで魔法を発動なんてされたら魔法師への目は更に厳しくなること。

…今の俺では考えつかなかったことばかりだ。

だが、最後の一言に彼女が悲しい表情を浮かべた。彼女は魔法師の肩身が狭くなった原因が自分にあることを責めている!

あの時の彼女の判断は間違っていなかった。親父も彼女の魔法に感心していたというのに、あの映像が流れたことで世間の魔法師に対する目は厳しくなり、そのことであの人は苦しんでいるのだ。

警察があの対応は適切なものであったと公表していたにもかかわらず、あの非道な魔法師と印象付けたテレビ局は謝罪の一つも出さずに魔法師の危険性ばかりを説いていた。昔からその風潮が強いテレビ局ではあったが、アレは流石に一方的過ぎた。

俺の慰めの言葉は最後まで言い切ることができなかったが、彼女はそれでも嬉しいと、感謝を述べてくれた。

どこまで優しいのだろう。そんな彼女が傷つけられる世界なんて間違ってる!

その後、もう一つ助言として、土地勘のない人間が動き回るより、地元に詳しい人間にローラー作戦を任せて、上がってきた情報を元に選別し、重点的に捜索した方が効率的ではないかと提案してくれた。これも役割分担だ、と。

確かに無暗に探すよりも自分が知っている情報に的を絞って探ったりした方が良いかもしれない、と。

やっぱり司波さんはすごい。俺一人では思いつかないことだった。

焦っていた心に、光明が差し込んだ気分で捜索に進展が期待できたところで挨拶もそこそこに水を差してきたのは千葉さんだった。

貰ったチョコの数を聞いてきたのだ。

蒸し返してくれるな!こっちは忘れようとしていたというのに。

今日はあの人の隣ではなく向かい合わせになる席に座った。肝心の彼女の隣にはアイツが座っていた。どうやら初日は俺に譲ってくれたが、普段はアイツが隣らしい。

…まあ、そうだろうな。俺だって彼女と同じ学校に通っていたらずっと隣をキープし続けただろう。

三高と一高ではバレンタインのノリも違うだろう、と尋ねられたが、どうだったか。いつもはジョージが袋を用意してくれて纏めてくれていたからな。あ、もちろんジョージも貰っていたぞ。

 

「三高の女子生徒は華やかな子が多かったですよね」

 

そうあの人が目を輝かせて言う。華やか、と言われて思い出すのは髪の色が鮮やかな一色達。あの人が知る三高の生徒と言えば九校戦と論文コンペで見かけた生徒くらいだろうから。その中で目立つ生徒と言えばやはり彼女たちだろう。

知らなかった。彼女たちとも交流があったらしい。

そして千葉さんが俺のチョコの数で賭け事をしていることを知ったあの人が窘めるように彼女を見つめるのだけれど、その笑みがまた美しかった。

背筋がぞくりとするような笑み。にこやかなのに咎めるような。優しさの中に厳しさのある、そんな思いやりのある笑みで。冷ややかな雰囲気もまた、あの人を綺麗にする。

九校戦での彼女の雄姿は今も目に焼き付いている。あの孤高の女王然とした姿は素敵だった。今でも時折映像を繰り返し見る。もう見なくてもどの場面も思い出せるがな。

しかし、話は逸らせたにもかかわらず、結局チョコの個数はばらされてしまった。

…自意識過剰だとはわかっている。あの人が、俺のチョコの数を気にしていないことくらい。だが、それでも彼女の顔が見られなかった。

しかし、西城はやるな。手作りチョコなんて、所謂本命だろ?部活はともかく朝に一つ貰っているなんて。まあ、コイツは司波に比べて気さくで良い奴っぽいからな。

それにしても彼と千葉さんのやり取りは遠慮が無さ過ぎて本気で喧嘩しているようで見ていてハラハラする。

喧嘩するほど仲が良い関係というのを初めて見た気がした。

母親に妹と口喧嘩をしていると偶に言われることがあったが、これを見てしまうと俺たちはまだまだだな、と思った。同じ遠慮のないやり取りと言っても種類が違う。

この日の捜索は、捜索がメインというより荒んだ気分を吹っ飛ばすためバイクを走らせに行ったようなものだった。

…彼女から義理でもチョコを貰えなかったことが残念だが、まだクラスメイトになって四日で貰えるなんて流石におこがましかった。

チョコをくれた他の女子たちのことは棚に上げた。

 

 

2月15日(金)

 

恐れていたことが現実になった。

魔法大学が反魔法師運動のデモ活動で襲われたのだ。

迅速な警備員と警察の働きにより、襲撃犯たちに怪我人はほとんど出ていなかったらしいが、それにしても胸糞の悪くなる光景だ。魔法が使えないから金属のプラカードで殴り掛かるなんて正気の沙汰とは思えない。

もしここが三高であれば、デモ隊が襲ってきたら返り討ちにしてやろうぜ!という話になるだろうが、一高では襲ってきたら逃げるように、という考えが浸透しているらしい。

随分消極的な考えだが、それも一つの身を守る手段、ということなのだろう。三高では考えられないが。

しかし、まさかこんなタイミングで彼女のタイプの男性の話が聞けるとは思わなかった。

千葉さんのお兄さんがタイプ!?どれだ?!

普段冴えない人がいざと言う時に煌めく⁇…俺も普段はだらしなくした方がいいんだろうか?いやでも彼女には常にカッコいいと思っていて欲しいし…。

ギャップに弱いという話になった時は一同の視線があの人に集中した。どうやら彼女は普段しっかりしているのに時折無防備になる時があるらしい。…それは是非見てみたいものだ。

だが、アイツ!ここぞとばかりに俺は知っているがな、と自慢してきやがった。しかも彼女のことを撫でただと?!羨ましい!俺もあの人のその、さらさらとしていそうなのに艶やかな流れる黒髪に触れてみたい!

 

この晩、ジョージに初めて連絡を取った。三高が懐かしくなったのだ。

ニュースを見た彼らの反応はやっぱり予想通りで、血気盛んなアイツらは張り切って部活動で怪我人が多く出たらしい。そうだよな。これが三高だ。

ヴィジホンで連絡を取っていたため俺が疲労しているのを目ざとく見つけられ、心配をされてしまった。俺の相棒の目は誤魔化せないな。

現状を話して、打開策を相談したら、張り合わない方がいいとのアドバイスが。それは奇しくもあの人と似た内容であった。土地勘が無いのだから同じ土俵で戦えるはずが無いんだ。

俺の出番は標的が見つかってからだとジョージは言う。それは俺の妙な焦りを見透かした言葉だったのだろう。

俺は肩の力が抜けた心地だった。

流石俺の参謀だ。

 

 

2月16日(土)

 

今度は二高が襲撃された。それを知ったのはミーティングの会だった。

大学が狙われた直後に襲われることなんて無いだろう、と思っていた。なぜなら明らかに大学でのデモ活動は失敗に終わっていたし、世間の目も冷めたものだったから。

だが、現実に二高は襲われた。この事実に、今まで以上の焦りを抱いた。

ミーティングの席で七草さんは一高の生徒会長をしていたこともあってかとても心配しているようだった。

確かに、関東の一高が狙われる可能性は高い。何より、一高にはあの箱根のテロで魔法を使った映像が流れた司波さんがいる。はっきりと魔法を使った人の顔こそ映っていなかったが、あの制服の配色と長い黒髪は彼女をすぐに連想させた。

狙われる確率はかなり高いと思われた。…心配だ。

だが、それと同時に俺の地元である三高も心配だった。親父が居ればきっと酷いことにはならない、と思っていてもそこはそれ。心配にはなる。

大丈夫だよな…。

 

 

2月17日(日)

 

今日は情報の分析をメインで行った。

敵の逃走ルートを予測する。空路か海路か。どちらにしても奴は追い詰められれば日本を出るだろう。

それなりに予測は経つが、どれも決定打に欠ける。これだけの場所に監視は置けない。結局のところ七草や十文字がターゲットの居場所を絞り込むのを待つしかない、という結論に至り、俺はやきもきした。

待つだけしかできないなんて、なんて苦痛だろうか。

とりあえず今回有力な逃走ルートとなった石廊崎から犬吠埼迄をバイクで走ってみた。海岸沿いを走るのは気持ちがいい。何か見つけられたわけではないが土地勘は身に付いた気がする。気分が晴れた。

その後、どうしても打つべき手段が欲しかった俺は、あまり家の事情に巻き込みたくはないのだがジョージを頼った。

そして、授けられた知恵は――囮作戦。だが、その囮の候補が良くなかった。七草さんに妹さん、そしてあの人が適任だという。

確かに卑劣な奴ほどか弱い女性を狙うものだ。その理屈は分かる。だが、あの人をそんな危険な目に遭わせるなんて許可できるはずがない。俺が囮になる、と言ったが、それは危険だという。

俺が危険なら彼女たちはもっと危険なはずだろう?危険じゃない囮捜査なんてない。

俺が本気だとわかるとジョージは他の案を考えて見る、と下がってくれた。頼りにしてるぜ、参謀殿。

 

 

2月18日(月)

 

まさか!あの人が本当に狙われるなんて!

冗談抜きで心臓が止まる思いがした。

特に、あんな作戦を話した後だからなおさらだ。

教えてくれたのは七草さん。場所は学校近く。七草さんの妹も一緒に襲われたらしい。

今日のミーティングに彼女も来るよう誘ったらしい。彼女の無事を目の前で見られるまでいくら怪我はないとか事件の概要を聞いても落ち着かなかった。

待つこと暫し。あの人はアイツにエスコートされて現れた。元気な姿を見られたことは嬉しいのに、アイツの隣にいる状態にチクリと胸が痛む。

…俺も、あそこに立ちたい。彼女を何者からも守れる立場が欲しい。

醜い嫉妬心を隠すように立ちあがって彼女の安否を尋ねる。もちろん心配する気持ちは本物だ。

その誠意が伝わったのか彼女は安心させるよう微笑んで無事を伝えてくれた。

ホッと身体から力が抜けた。

だが、彼女のピンチに司波は駆けつけられて、俺はその事実にさえ気づかなかったこの差が俺の心をかき乱す。

司波が首謀者の情報を掴むたび、酷い嫉妬心や四葉には俺の知らない技術があるらしいからアイツの力じゃない、と心を慰める始末。どんどん己が情けなく感じた。

だが、そんな負の感情に囚われていたのをまたも救い出してくれたのはあの人だった。

彼女は俺たちの知らない情報を提供してくれたのだ。

認識のずれがある、と、情報のすり合わせをしてくれた。そのことで俺はまた衝撃の事実を知ることになる。

まさか、ここでもまたあの周が関連してくるなんて。

ブランシュという組織の話は知っていたが、その組織も裏には今回の首謀者が繋がっていて、横浜のあの一件にも絡んでいるのではないかというのだ。いよいよ今回の首謀者が只者ではないと判明する。

四葉が古式魔法師の情報を持ってくればまた事態は進展するだろう、ということで続報を待つことになった。

また待ちか。だが、今日の情報で周が関係していることを知った。そこを糸口に何か見つけられないだろうか。

そんなことを考えていたら、七草さんがあの人に今日のことは心配した、と声を掛けているところだった。

そして、彼女が狙われていたのではないかと鋭く指摘する。

彼女が危ない。一度狙われたからと言ってこれからも狙われないという保証はない。そう、思っていたのだが、七草さんが護衛を付けることを提案したその時、アイツが切りこんできた。

 

「それは、深雪を襲いに来た相手を捕まえるためですか?――一条、深雪を囮に使うつもりか?」

「違う!」

 

即座に否定した。囮には俺になると訴えたのだが、プランを否定しなかったことを突かれた。

しかも、その提案をしたのもジョージだとバレた。ひとつの言葉の選択ミスで芋ずる式に導き出される答えに、コイツの頭の中は一体どうなっていやがる!と叫びたい気持ちだった。

歯をくいしばって耐えていると、弁護してくれたのは十文字さんだ。

俺が囮になる提案をしていたこと、七草さんが自分の家から護衛を派遣してはどうか、という意見を出していたことを述べたのだが、――ここで俺は衝撃の事実を知ることになる。

俺だけじゃない、これは七草先輩と十文字先輩も初めて知る事実だった。

 

――彼女はとっくに、囮になっていたのだと。

 

箱根のテロで表立ってしまった時点で、四葉は彼女を囮にして動いていたのだと。

コイツ!そんなことを許してたのか!!

真っ先に思い切り司波を睨みつけたが、全くの無反応。やっぱりコイツは気に喰わない!何でこんな奴が司波さんの婚約者に選ばれるんだ!?

その話を踏まえた上で再度七草さんが護衛の件を申し出たのだが、あの人の表情は晴れなかった。

あの人が指摘したのは、なんと七草家の護衛の実力について。

どうやら彼女は自分の家の護衛は信用しているが、そのほかは未知数で頼れるかが不安だという。

流石にあの桜井さんという女の子が十文字家に匹敵する、というのは盛っていると思うが、あの人自身の強さは本物だ。九校戦で見せた魔法力が証明している。確かに彼女一人くらい守りながら逃げることは可能なのだろう。

それに被せるようにアイツも七草さんは家の実力を理解していて護衛を進めているのかと指摘し、彼女は沈黙してしまった。

家の実力を把握できているかは、戦場で重要なポイントだ。指揮官となる俺はこれでも戦術に関してなら把握しているつもりだ。

伊達に共に訓練はしていない。

だが、七草さんは次期当主ではない。知らなくても無理はないように思えた。うちも茜たちは知らないからな。

それから話は、狙われるのは何も彼女だけでなく十師族の子息子女も可能性があることを指摘した。…ウチの妹たちだって考えれば狙われてもおかしくないんじゃないか?

今更ながらその可能性に気付いて後で親父に連絡しようと思った。

その後これ以上有益な情報交換は出ないということで話は終わり、食事を皆で取るのだが、そこで七草さんが語るのは妹さんから聞いた彼女の今日の武勇伝だった。

なんと彼女はほとんど一人で襲撃者と対峙し、屈強な男たちを地に伏したとのことだ。真偽のほどは分からないが、魔法を使わずに一体どのようにして彼女が倒したというのだろう。その細腕は握ったら折れそうなのに、と思わず腕を見つめてしまった。

それと、昼食の時も思ったが、あの人は所作が綺麗なことはもちろん、食事を美味しそうに食べる。その様子がとても可愛らしくていつまでも見ていたい気持ちになる。

これからも毎日彼女と食事ができたらと妄想している中、司波がとんでもない発言をした。なんでも今日七草さんの妹からプロポーズをされたのだとか。

信じられるか?この男が、だぞ?不愛想で、気遣いもできないコイツが、なんだってそんなにモテる?

俺だって告白されたことはあるが、プロポーズなんてされたことも無い。

一体コイツのどこに惹かれるというんだ、と呟いたら、

 

「言っておくが彼女の目的は俺ではないぞ」

「なに?」

「泉美は深雪を――深雪の妹の座を狙っている」

 

……コイツは何を言っているんだ?妹の座とは⁇さっぱり理解ができなかった。とりあえずコイツがモテるのは間違っていると俺は思う。

その後、七草さんよりこちらの十文字さんがあの人にプロポーズをしていたことが発覚!まさか、こんな身近にライバルが!?と思ったが、彼は彼女が四葉家次期当主と発表されたことでその話は無くなったと割り切ったらしい。…すごいな。俺だったらそれでも諦められないと思うのに。

しかし、やっぱりあの人を手に入れるためにはコイツと直接遣り合わなければならないらしい。ジョージとしょっちゅう作戦を立ててきたが、まだ決定的な打開策はない。コイツの戦っている姿を見れば見るほどわからないんだよなぁ。どんどん実力の差が広がっていくというか。

四葉はとにかく、隠し事が多い。手の内を明かさなすぎる。

今回共闘することがあれば、弱点も一緒に見つけたいところだ。

 

 

2月19日(火)

 

すべてに決着がついた。首謀者を目の前で殺されるという最悪の形で。

報告は書類にまとめたからこちらでは書かない。というか今日は疲れて書きたくない。

やりきれない気持ちでいっぱいだ。

 

 

2月20日(水)

 

少し寝て頭がマシになってきた。

まずは昨日のことを振り返ろう。

午前中、俺は休校となっている一高で一人ぽつんと三高の授業を受けていた。三高は明日から休校なので今日は授業があるのだ。とはいえ授業は午前中だけにして、午後は休むつもりだった。

ほぼ惰性で授業を受けていたのだが、そこに女神が現れたことで冬の教室が常春の楽園に変わったようだった。アイツもいたが、今は気にならなかった。

この寂しい教室で、会えないと思っていた彼女に会えたことが相当嬉しかったらしい。すぐに帰ってしまったが、おかげでやる気が出た。

午後になり、宣言した通り授業を休み、別宅に帰宅して三高も午後から休校となり授業が打ち切られたらしいのでジョージに連絡を取ってみたが留守だった。折り返しを待つとしよう。

端末に着信が来たのは二時を回った頃。しかも相手はジョージではなくアイツだった。

苛立ちながら電話に出ると、なんとテロリストの居場所を特定、捕縛作戦を実行したい、というものだった。

参加の有無は問われず、実行日時と場所を教えられた。

それで十分だ。不参加なんてありえない。

 

(しかし、四葉か…)

 

あちらとてうちと条件は同じでこちらが地元でもない。なのに敵を特定するなんて。

十師族の中でも別格視される「アンタッチャブル」四葉――その一端を垣間見た気がした。

その後のことは報告書にまとめた。ここに詳しく書くつもりはない。

ただ、何故、あそこにUSNA軍が居て、分子ディバイダーで顧傑は殺されたのか。初めから狙っていたのだろうか。

その前の浜辺の襲撃もわからない。恐らく武器などを見るに、こちらもUSNA軍が絡んでいると俺は睨んでいる。

 

一晩寝てもすっきりしない頭で考えても答えなんかでるはずもない。あの人も言っていたじゃないか。集中力がかけた頭でいい案など出るはずも無いのだ。

九時まで惰眠を貪っても徒労感は抜けないまま。

…被疑者死亡でしかも死体が見つからない状態。状況証拠はあっても決定打が何もない。これでは世論は納得しないだろう。

俺は、任務に失敗したのだ。

 

夕方親父から連絡があった。

まだ後始末があるかもしれないから帰ってくるな、ということだった。俺に処理をしろと言うのか!

無茶言うな!

親父がこっちに来ればいいのに。

学校はどうすると尋ねれば、予定通り三月上旬までこちらで過ごせと言う。…親父は一体何を考えているんだ?

俺に、何を求めている?

…わからない。とりあえず詳しい事情は明日聞こう。

 

 

2月21日(木)

 

後回しにした付けが回ってきた。親父はもう決定事項だの一点張り。こうなればてこでも動かない。

しかも土曜日に茜がこっちに遊びに来る?日曜には観光に連れてってやれ?

親父は俺をなんだと思ってるんだ!

こっちは任務で来ていたんだぞ?!観光名所なんて知らねぇよ!

…一瞬これを機にあの人に案内してもらって観光名所デートができるのでは、と考えたが、いきなりそんなことをお願いできるはずも無い。

しかし、どうしたものか。

 

と、個人的なことを愚痴ったが、事件のことでも大きな進展があった。警察が会見を開き公表した内容は、世論の風向きが一気に変わるほどの発表だった。

俺はてっきりこれでは被疑者死亡で事件は闇の中、という展開になるかと思っていた。

だが、警察からの発表は驚くべきもので。

なんと首謀者は世界的犯罪を目論む大悪党で、USNA軍がその凶悪犯を陰で追っていたのだという話になっていた。

…それにしてはUSNA軍は証拠隠滅などを図っていたから恐らくだが、この事件には裏があるのではと疑っている。

だが、この情報が開示されたことにより、反魔法運動は魔法師を排除させて弱体化を図り、弱ったところで戦争を仕掛けようとした疑惑があったこと。反魔法運動の裏でこの男が暗躍していた可能性を指摘した。

まさか戦争の為に軍力の弱体化を図っての計略だったとは、とこの憶測が真実味を帯びたのはUSNA軍が直接手を下したことが決定打となっているらしかった。

他国が動いていた、ということがこの国の国民には響くらしい。俺たちだって頑張ったのに。

しかしもちろん外国だけでなく、警察と魔法師が協力して事件が解決したということも流れたことで、しばらくは反魔法運動に巻き込まれる危険は無くなっただろう。

そして夜、もっと俺を驚かせるニュースが飛び込む。

あの人の冤罪が晴れたのだ!

いや、あの人はもちろん犯罪なんてやっていないし、魔法を行使したのにも理由があったことももちろんわかっていたけれど、あの醜悪な魔法師を悪とする放送を繰り返したテレビ局は何とあの首謀者が裏で糸を引いていて、反魔法感情を煽っていたというのだ。

そして、彼女が泣きながらあの魔法を行使していたこと、パペットにされてしまった被害者たちを悼み、傷を付けずに保護していたこと、このような事態になっていたことに心を痛めていたことが白日の下にさらされた。

もちろん、俺は分かっていたがな!

あの人が心清らかな女神であることを!!

…このスクープ記事をどうにか形に残すことはできないかな。毎日眺める用と大事に保存する用が欲しい。

 

 

2月22日(金)

 

明日には茜が来る。

俺たち兄妹は仲はあまり良いとは言えない。俺としては生意気な妹で、あちらからしたら口うるさい兄なのだろう。

学校に行けば人気者の俺も、妹からしてみればウザい兄貴なのだ。

…正直、俺は司波が羨ましかった。あの人に「兄さん」と話しかけられ、頼られ、仲が良さそうなのがずるいと思った。

俺もあの人に慕われたい。…まあ、もちろん兄妹としてではなく恋人でありたいと思うが、そこはそれ。妄想の自由だろう。

もしあの人が妹だったなら、俺は溺愛する自信しかない。

何でもしてあげてしまうダメ兄貴になるかもしれない。でも、あの人にはそれだけの魅力がある。

ジョージに言わせるとウチは仲の良い兄妹らしいが、あの二人を見てしまうと、とてもそうは思えない。アレはある意味俺の理想でもあるのだろう。

明日はその面倒くさい妹が来る。今からだるい。

だが、もしこれで案内を放棄すれば放棄したで面倒なことになるのは目に見えている。

しぶしぶ調べることにしたのだが、どこから手を付けて良いものか。

さっきも述べたがこんなことであの人の手を煩わすことは気が引ける。かといってアイツになんかこんなことで借りを作りたくはない。

なら西城か吉田にでも、と思ったがアイツらに女子中学生の喜ぶ定番コースが分かるとも思えない。

ここは無難に七草さんを頼るか――などと頼った己がバカだった。

 

面倒なので三行にまとめるが、俺は相談したことを後悔している。

確かに観光名所を教えてもらったが、まさか家まで行って体感型の「ヴァーチャル・デート」を使い名所を巡りながらダメ出しをされまくるとは思わなかった。女兄弟という理不尽な存在を知っているからわかる。これは弄ばれたのだと。

まあ、当主の七草弘一殿に挨拶できたことは良しとしよう。それだけでも赴いた価値はある。

だが、彼女の妹たちの双子からの視線が気になった。何故俺は値踏みをされたのだろう?

 

 

2月23日(土)

 

まさかジョージも来てくれるなんて!茜がわがまま言わなかっただろうな?コイツ、ジョージのことになると強引にアタックするところがあるから。

無理やりじゃないと良いが、と思ったがジョージは俺に会いたかったから、と言ってくれた。ジョージ、なんて良い奴なんだ。

そしてお決まりのように不潔、と詰る妹よ。その悪口ジョージにも聞かれていることをいい加減気付け。

夕食に予約したすき焼き店へ。値段に見合ってとても美味しかった。いつかあの人と行ってみたいものだ。きっと喜ぶに違いない。

 

 

2月24日(日)

 

今日は朝から最悪で、一日妹に振り回されて最悪の日になる――そう思っていたが、こんなビッグサプライズが待っていただなんて。

もう茜の作った大して美味しくないカレーとかどうでもいい。

観光名所調べも、自分の好きなところに友人と行くからいらないと言われしまい七草姉妹に弄られたことも無駄にされ、なら何がしたいのかと尋ねれば、まさかのあの人に会いたいというリクエスト。なんだってお前があの人に会いたがる!?

だが理由を言わずに電話も掛けられないヘタレと暴言を吐かれては売り言葉に買い言葉で掛けるしかなくなった。

電話をすると、出たのはメイド服の少女…確か名前は桜井さんだったか?京都で挨拶をした覚えが…じゃない!アイツっ!まさか家でコスプレごっこなんてさせているんじゃないだろうな!?と思ったが、流石に言いがかりだと気付く。

四葉家の次期当主と当主の息子の家に、メイドが居ても何らおかしな話ではなかった。…あの人のメイド服姿もきっと素敵だろう。その姿で『ご主人様』と呼ばれてみたい――と、雑念が入った。

電話を代わってもらい、彼女の声がスピーカーから流れる。

残念なことに映像は無く音声だけの電話に切り替わっていた。それも仕方ない。女性は部屋着姿を見られることを嫌がることが多いという。無理強いは良くない。あの人であればたとえジャージ姿でも可愛らしいと思うのだが、それはまたいつかの為に取っておこう。

俺と最後に会った日からの日数を覚えてくれたことに感動しつつ、妹が会いたがっていることを伝え、もしご都合よろしければ付き合ってもらえないかとおこがましくお願いしたところ、あの人はアイツを連れて行ってもいいのならと快諾してくれた!こんな急なお願いだというのに!なんて寛大なんだ。

時間と場所を決め、学校近くのカフェで落ち合うことになった。

そうと決まれば何を着ていこう?そわそわしたら妹に気持ち悪い、といつもならキモいという三文字に集約されていた言葉を略さずに言われた。

お前、俺のことをサンドバッグと思っているようだがちゃんと傷つくんだからな?

そして待ちに待った彼女が来店した姿に俺は見惚れてしまう。何度見ても彼女は美しい。眩しくてキラキラと輝いて、世界に光が差し込むよう。

茜も彼女のあまりの美しさに驚いて声も出ていなかった。無理もない。俺も初めて彼女に会った時は同じ反応だった。

そんな妹に彼女は優しく話しかけ、何かと世話を焼いてくれた。

正直言って羨ましい。ケーキのシェア?俺もしてほしい!甘いモノは別に好きでもないが、彼女とならばいくらでも食べられる。

しかし、茜があの人に会いたがっていた理由を知った時は驚いた。

まさか、そんなことを考えていたとは。俺はあの人を知っていたから彼女を悪く思うなんてことは全くなかった。

正しい理由があって起きたことであり、それを非難することは間違っている、と。ニュースに腹を立てたくらいだ。

だが、茜は彼女を知らない。

だからあの人に理不尽な怒りを抱いたんだ。勝手に幻滅して、この人のせいで、と。

だが、つい先日の真実の報道により状況は一変。魔法は悪いモノなんかじゃない、使う人の使い方一つなんだという方向に話は流れた。ナイフやはさみと一緒で、使い方一つで武器にもなれば便利な道具にもなる。そういうものなのだと。

茜は自分勝手な考えで司波さんを恨んだことを謝罪した。

…こいつはちゃんと悪いことは悪いと認められるヤツなんだよな。身内には雑になるけど、根は良い子なんだ。

司波さんは茜のことをちゃんとわかってくれて、受け入れてくれた。あの人の慈悲深さはマリアナ海溝より深いな!

だからだろう。普段は素直に言えないことも言えてしまえるのは。あの人の前で嘘は付けない。

茜は俺の、自慢の妹だ。

そう褒めてやったのに!何でこいつは人の足を踏んづける?!脛まで蹴りやがって!

茜は謝罪したことで胸のつかえがとれたのか緊張が解けてきたようでたくさん喋り出した。

料理を勉強中?あの腕前じゃ駆け出しもいいところだろう。お袋の手伝いったって皿をキッチンに持っていくくらいだろ?

しかも司波の奴、彼女の手料理を毎日食べていただって!?羨ましすぎるだろ!!

兄妹だからって!…兄妹だったからって……。この二人、兄妹だったんだよな?

隣の茜を見る。

もし、茜が実の妹ではなくいきなり婚約者だと言われたら俺はどうするだろう?…猛反発するかもしれない。もし俺に司波さんという想い人が居なかったとしても、俺は茜と結婚なんて考えられない。妹として育った茜を今更異性として見ることなんてできない。

だがもし――もし、相手が彼女だったならどうなんだろう?実の妹として暮らして――

 

(その段階で想像がつかん…)

 

いや、あの人が俺の妹だったなら。この妄想自体はしたことはあるのだ。

兄さん、おはようと笑顔で朝の挨拶をしてもらい、一緒に登校。帰りも一緒でただいま、と彼女は微笑むのだ。

それから一緒にご飯と食べて、お風呂でばったり出くわしちゃったりなんかして――、それをアイツはやっていたのかと思うと腹立た羨ましい!!造語だが、通じるだろう?!腹立たしい上に羨ましすぎるんだよ!

しかもなんだよ!本当は敬語でお兄様呼びだと!?

全世界の兄たちの理想を実現させやがって!!

何であの人はコイツをそんなに尊敬しているんだ!コイツのどこがいい!?

弱点を探ろうとそれなりに観察していたつもりだが、いいとこなんて頭いいところくらいしかわからなかったぞ!?

納得いかないままお茶会は終わった。

別れ際茜が貰ったクッキーが羨ましすぎて一枚でいいからくれ、と頭を下げたが、茜は蔑んだ瞳で俺を見つめて絶対いや、と切り捨てた。

…司波さんが妹だったなら、と心の中で涙を流したが、そうじゃないだろ俺!

俺は彼女に、恋人に、そしてゆくゆくはお、奥さんになってもらいたいんだ!妹で満足する男じゃない!!

 

 

2月25日(月)

 

あの人に誘われて朝の集会に参加した。

彼女のカリスマ性はすごいな!皆あの人に心酔する勢いで注目していた。

だが、その気持ちはよくわかる。

生徒に親身に寄り添う生徒会長。うちの学校とはまた違う纏め方だが、これは彼女だからこそできる統率だな。普通じゃこうはならない。流石だ。

だが、任務が終わった今、放課後をどう過ごすか。

昼に相談を持ち掛けてみよう。昼食のメンバーって考えて見れば生徒会に風紀委員まで揃って学校のトップのグループなんだよな。司波は成績トップらしいし。総合ではあの人が一位だそうだ。司波さんに欠点は無いのか!素敵だ。

無駄に遊んで過ごすのも、と思い部活や委員会を見学させてもらう旨を伝えたら了承してもらえた。

…本当は彼女にその案内を頼んで、とも考えたが、それは彼女の邪魔になってしまうものな。…だが、少しだけ…いやいや。うん。やっぱりやめておこう。

食事を再開したのだが、俺の目の前は定位置のようにあの人が座っていて、どんな時も視界に入るのだが、彼女がふわり、と急に微笑んで目を奪われてしまった。

何を思っているのだろう、もしかして彼女も俺と校内を散策することを?!と妄想していたら突然千葉さんが、

 

「なぁに、思い出し笑いはエロいこと考えてる証拠らしいわよ」

 

なんて!

か、彼女がそ、そんなこと考えるわけないだろ?!一体何を、思っていたら司波の奴!隣だからって人前だというのに彼女の頬に触れて「そうなのかい?」なんて確認しやがって!そしたら周囲でいきなり悲鳴が上がって一体何が起きたというんだ?!非難の声かと思ったらそうでもないようだし、…一高は分からん。

 

放課後、約束通り見学させてもらっていたのだが風紀委員と言うのは何処でも荒事を片付ける仕事がメインらしい。一高にも血の気の多い生徒はいるんだな。だが――

 

「プリンスはヘタレだが権力がある!その力で団長から奪おうとするんだよ!」

「あのヘタレにそんなことできるわけないだろ!せいぜいがやけくそになって正々堂々勝負して負けるんだよ!」

 

なんだと!?なにを?!と言い合いから魔法での争いに発展していったが、彼らは何の喧嘩をしているんだ?団長…?そういえば集会でそんな単語を聞いたような…?しかし、プリンスがヘタレって、どんな物語だよ。ソイツ可哀想すぎるだろ。

 

 

2月26日(火)

 

今日は生徒会の仕事を見学。

あの人とアイツが一緒に仕事をしていることに胸が焼け付く思いだが、彼女は俺を気遣い、たびたび声を掛けてくれた。

あの人から頼りにされるのは嬉しいものだ。俺は過去にあった三高の卒業式の出し物を覚えている限り伝えた。少しでも参考になればいいが。

ところで何で生徒会室に3Hがあるんだ?九校戦の時にも一高が持ち込んでいたとか噂になっていたが。まるで監視されているように見つめられている気が…俺の被害妄想か?それに七草さんの妹である泉美ちゃんには睨みつけられるように見られている。何かしただろうか?むしろ俺が何かされた側だと思うのだが。

その後双子の片割れの香澄ちゃんも現れ、またしても見つめられるが、こっちはすぐに外された。…何なんだ、一体。

それからお昼のメンバーたちと共に日曜日に訪れた喫茶店へ。彼女たちはここの常連らしい。

席はあの人の真ん前をキープ。隣も捨てがたかったが、あまり近すぎても緊張してしまうからな。…もうこうして会えるのも終盤だというのに、未だに彼女の美貌に慣れない。美人は三日で飽きると言うが、彼女はきっと美人以上の存在なんだろうな。人を超越した美…美女神?

 

 

2月27日(水)

 

俺の転校期間も残すところあとわずか。休日は今週しかない。このままでいいのか?

任務はとっくに終わっている。このまま金沢に帰っても問題ないはずなのに俺はここに留まっている。

別に親父は俺に後始末を頼んだだけで後は何をしろ、とも言われていない。

あのテロのあった日、会議の雑談中、俺の婚約申し込みについて話を聞く機会があったらしい。四葉当主からは結んだ婚約を破棄するつもりはないが、本人を振り向かせることができたら考えなくも無いとアタックする許可が出たとだけ伝えられた。

親父は頑張れ、とも考えなおせ、とも言わなかった。

この降って湧いたチャンスを、俺は逃していいはずがない。

まるでその覚悟を聞き届けたかのように、今日のランチ中休日の過ごし方の話になった。

彼女はショッピングや映画に行くらしい。

ショッピングは…ウチは小遣い制だから彼女に似合う物をプレゼントすることはできない。なら、誘うなら映画だろう。

買え、買うんだ。

チケットを買えば後戻りはできない。

――買って、しまった…。後は、誘うだけ。…そのハードルが一番高いんだよな。…弱音を吐けるのはここだけだから吐いておく。

とりあえずデートの誘い方を検索してから寝よう。

 

 

2月28日(木)

 

俺は清水の舞台から飛び降りる覚悟で生徒会に向かうあの人を引き留めた。

隣には彼女を毎日迎えに来ているアイツの姿もある。

一人のところを呼び止めて、というのも考えたが、それは卑怯な気がして、俺は直接対決する気持ちで声を掛けた。

周囲にもたくさん人がいる。これは宣戦布告の意味もあるんだ、と己を鼓舞しながら彼女を映画に誘った。

俺の前で、初めて彼女の瞳が揺れた。

ふと過る嫌な予感に、しかし思わぬ手が差し伸べられた。

 

「一条、それはデートの誘いか?」

「そうだ」

 

この時の境地は、あれだ――やけくそだ。聞くな!デートの誘いに決まっているだろ!

彼女が口を開く前に、「二人きりにはさせられない」という。…まあ、コイツの立場を考えればそう言うだろうな。

だが、コイツは予想だにしないことを言ってきた。桜井さんを連れてなら構わないという。

何故コイツは許可をした?

反射的にでは!と司波さんを誘えば、彼女は少し驚いたように目を見開いてから、了承の笑みを持って頷いてくれた。

そのことに浮かれすぎてこの時はそのままスルーしてしまったが、意外にも司波は付いてこないつもりらしい。

…コイツ、何を考えてるんだ?余裕を見せている、のだろうか。

だったとしたらこの勝負負けられない。負けたくない!

 

 

3月1日(金)

 

もう三月だ。月日が経つのは早い。

今日の昼の話題は進路だった。卒業シーズンで、来月から俺たちも最高学年だからな。自然とこういう話になるだろう。

俺は魔法大学に進むつもりだ。

ここにいる皆も同様だった。西城は意外とも思えたが、警察で機動隊員になりたいらしい。思ったよりはっきりしたビジョンを持っていたことに驚いた。というのは失礼だな。

だが、無事進学できれば司波さんと四年間も同じキャンパスに通える。

それは期待する半面、絶望することになるのかもしれない。彼女は未だ他の男の婚約者。

だとしても――

 

(こうして彼女を見ることができるのなら、それだけでも――)

 

彼女との四年間を想像する。それだけで俺のキャンパスライフはバラ色に染まっていた。

今はその夢に浸っていたい。

 

 

3月2日(土)

 

明日がデートだと思うと何も手につかなかった。

情けない。女の子とのデートが初めてというわけでもないのに、好きな人とのデートがこんなにも緊張するものだったなんて。

先週も思ったが、服は何を着ていこう?彼女に並び立っておかしくない服?そんな服あるか?

そもそも彼女はどんな服で来るのだろう?

ああ、楽しみだ。

そして絶対に失敗は許されないぞ。頑張れ、俺!

 

 

3月3日(日)

 

結論から言おう。楽しかった。…が、これじゃない感がすごかった。

待ち合わせ場所に余裕で間に合い、彼女を待つ間、ずっと脳内で今日のシミュレーションをしていた。彼女にどうしたら楽しんでもらえるだろう?

今日という一日が彼女にあっても記念の一日になってくれたらいい。そんなことを思いながら待っていると、彼女は現れた。――静寂を伴って。

先ほどまでざわめきとナンパで声を掛けられたりしていたのだが、それが次第になくなっていった。

皆、あの人に釘付けになって口を開くことどころか動くこともできないでいるのだ。

それは俺も例には漏れず。

 

「お待たせしました」

 

いいえ、全然と答えるつもりも口が縫い付けられたように動かず、首を振って伝えるしかできなかった。なんて子供っぽい仕草だろう。

それをクスッと笑ってくれたことが嬉しくて、もう何もかもがどうでも良くなった。

彼女が笑ってくれるなら俺は道化師にだってなってやる。

今日の彼女の恰好はドキッとする大人な雰囲気を匂わせるものだった。

ベージュのロングコートの裾から上品なグレーのスカートが裾をのぞかせていた。

厚手のタイツに包まれた足が、軽快にパンプスのヒールを鳴らしていた。

カシミヤのマフラーとコートの色に合わせたベージュの手袋。全体的に大人っぽいコーディネイトの中で、ふわふわのイヤーマフが可愛い感じのアクセントになっていた。

 

(ああ。夢にまで見たあの人と、こうして歩けるなんて)

 

手を繋いだり腕を組んだりはできないけれど隣を歩けていることだけでもう十分幸せだった。

もう一人、桜井さんは俺たちの少し後ろを歩いた。…なんというか、彼女はボーイッシュというか…動きやすそうな格好ではあるな。…もしや誰かに狙われている…?護衛を意識した恰好にも見えた。

唯一可愛らしいポイントがあるとすれば髪のリボンか?…あ、これ彼女の編み込みのリボンと一緒だ。

え、お揃い?彼女はただの護衛って関係では無さそうだ。

彼女は護衛とも仲の良い関係を気付けているのかもしれない。…先日の食事会の際も自慢していたっけ。なんか、そういう関係性も良いな。

席はすでに予約済み、飲み物だけ買って時間ギリギリに中に入る。

一応デートだからラブストーリーを選んだが、アクションも有り、飽きることなく見られたのは良かった。…こういう時バケットシートは困るな。隣を見ることができない。だからちょっとだけ集中しそうな場面で体を起こして覗き込んだ。映画のわずかな光に照らされる彼女の横顔は神秘的でもあり、盗み見るような真似をしたことで彼女のプライベートを覗き見したような高揚感があった。

映画の内容も面白かった。よくある設定と思っていたが、世界的ヒットと謳うだけあって見応えがあった。

彼女も喜んでくれたようで、「面白かったですね」との言葉を頂戴した。

良かった。楽しんでもらえたなら何よりだ。

次はここから少し移動をして――と思っていたら、映画館の出口で最悪な展開が待っていた。

 

「…お兄様」

 

どうやら彼女も知らなかったらしい。

アイツ含め昼食のメンバーと七草家の双子も揃っていた。

思わず俺は隣にあの人がいるにもかかわらず、何をしているんだ!と怒鳴ってしまった。

いくら映画を口実に誘ったからってデートなんだぞ?映画を観るだけで終わるわけが無いだろう!

なのにアイツはいけしゃあしゃあと迎えに来たと、映画を観ることしか許可していないと言ってのけた。

この後のプランはすべて台無し。

だが、このまま解散とはならず皆で遊びに行くことになった。

…デートでないのは残念ではあるが一緒にまだいられることは嬉しい。

彼らに付き合うことを選んだ。…もし強引にデートを続行しようものなら、彼女は帰る、と断られる気がして言えなかった。

が、その後のリクエストでファッションショー対決をするとは思わなかった。

というかなんだそれは?元はあの人の、男性の服をどこで買うのかわからない、という話が発端だった。

彼女が誰の服の話をしているのか考えなくともわかったが、女子たちがそれを面白がってどうせなら誰のファッションセンスがいいか見てみよう、ということになったのだ。

これがもし俺たち男子が選ぶだけなら正直乗り気はしなかった。ファッションセンスなんてものに自信は無い。まあ、だからといって司波に負けるとも思えないが、ただ純粋にやる気がなかった。

しかし、対決するのは女子たちだという。つまり、あの人に服を選んでもらえるチャンスだ。

公平性を期すため、モデルは店ごとにチェンジすることになった。女子の人数は多いので二人一組のタッグ戦。

普段選ばない服を着させられて不思議な感じだったが、皆真剣に選んでくれている上、褒めてくれるので悪い気はしない。

俺が彼女のモデルに選ばれた時には、一条さんは何を着ても画になりますね、と褒めてもらった。

あの時着た服はまだ購入していない。ネットで注文しておかねば。それで大学生になった時着て、あの時の、と気づいてもらえたら嬉しい…。って、なんだか女々しいな。だが、人には見せられないが、こういうのも悪くないもんだな。

 

だが、これだけは言わせてくれ。

アイツら、皆揃って性格が悪い!彼女に変な悪影響が無ければいいが。

 

 

3月9日(土)

 

今日で俺の一高生活が終わる。

正直、デートの後は燃え尽き症候群のように書く気力が無かった。

この一週間も悪くなかったよ。彼女が元気のない俺を励ましてくれたり、千葉さんに揶揄われたのを叱ってくれたり。…構ってもらえていたことが嬉しかったことは事実だが、なんだろうな。俺って、こんなに格好悪い奴だったか?

今日は昼食メンバーが送別会を開いてくれると言うので一旦帰って私服に着替えて出かけた。

彼女はデートの時とは違い、遊ぶためかパンツルックだった。丈の長いウールニットのセーターにより、どことは言わないが隠れているところが彼女らしい。

自信が無いわけではない。彼女のスタイルは非の打ち所がないから。ただ、そういう清楚なところがまた素敵だ。

遊びに来たのはボーリング場。こういう娯楽は初めてだ。

皆はやったことがあるらしく、まずは手本と言わんばかりにやり方を見せてくれた。

その中であの人がガーターという、レーンを外してしまったことで恥ずかしそうに笑う姿が可愛らしすぎて、何故ここにカメラが無いのか、端末内蔵という素人カメラでいいから撮らせてもらえないだろうかとかなり葛藤したが、流石にそれは駄目だろうと自重した。隠し撮りは駄目だ。…かといって正面切って頼むのもあの人が戸惑ってしまうだろう。泣く泣くあきらめた。

しかし、司波の奴!俺の送別会だというのに花を持たせるということを知らんのか!ストライクばかり出して彼女以外の全員がドン引きしていた。

…魔法だけでなくこれも練習するか。

あの人にあんなキラキラした目で見てもらえるなら、目指すのも良いかもしれない。パーフェクトってやつを!

その後、カラオケに行き歌を選ぶのだが、まさかあの人がノリノリで少女向けのアニメを振り付け有りで歌い上げるだなんて!最っ高に可愛らしかった。ああ、これは是非映像が欲しい!何故俺はカメラを持っていないんだ!!

彼女は盛り上げるのも上手く、俺の歌に揺れながらノってくれた。…これでもし、愛のバラードなんて歌ったらどんな表情を見せてくれるんだろうか…なんて、まだ恋人にもなってないのにそれじゃ戸惑わせるだけだよな。

アイツは歌が得意じゃなかったらしい。得点は俺の方が上だった。

これで一つアイツに勝てるものが見つかった。それだけでも今回来た収穫になる。

と、思っていたのだが、最後の最後にあの人は俺にプレゼントを用意してくれていた。

手作りクッキーだ。透明な袋に赤いリボンのついた、シンプルだがそれがさらに手作り感があっていい。

茜の物とは違い、猫さ――こほん、猫を象ったものでは無かったが男にあれは似合わないからな。

…食べてしまうのがもったいないが、腐らせてしまうわけにもいかない。あっちに帰ったら一枚に時間をかけて文字通り噛みしめながら頂こう。

それに、もしかしてこの赤いリボン、俺たちの運命の「赤い糸」だったりして。なんてな。そこまでは期待しない。…期待のし過ぎは違った時に受ける衝撃が半端ないからな。

だが、これは大事に取っておこう。

 

 

3月10日(日)

 

今日俺は実家に帰る。

その前に魔法協会に顔を出しに行った。その、帰りの最寄り駅。

思い付きの予定で誰にも言っていなかったのに、こんなところであの人に会えるだなんて!やっぱり運命!?と浮かれそうになったが、今回の事件で俺は学んだことがある。

四葉の調査能力は恐ろしいほどに高かった。俺はもう油断なんてしない。

かもしれない、とすべてを疑ってかかるくらい慎重な男になるんだ。――別に、司波を意識してのことではないぞ。

だが、見た目は冷静を装っても、中身はまだ追い付いていないのでお一人ですか?と尋ねてしまった。そんなわけないのにな。

彼女が苦笑しながら振り返る先には、アイツが柱に背を預けている姿があった。

けっ!格好つけやがって!

僅かな時間でも、彼女にこうして会えたことは嬉しい。

俺はこの一か月間の幸福だった時間に感謝し、彼女に感謝を述べた。

すると彼女も、

 

「私も楽しかったです。機会があればまたご一緒したいですね」

 

と笑顔で返してくれた。

それはこれまで見た笑顔の中でも一番輝いていた。最高のプレゼントは昨日のクッキーなんかじゃない。この笑顔だ。

しばらく見惚れてしまう醜態をさらしてしまったが、何とか魔法を駆使して顔色を取り戻し、身体をコントロールするが上手くいかず、ぎこちない動きになってしまった。

最後まで格好つかないな、俺。

絶対にこの一年で男を磨き上げてやる!

そしてあの男に勝って、彼女に笑顔を向けてもらうんだ!

目指せ!幸せなキャンパスライフ!

 

 

 




果たして一条君に幸せなキャンパスライフはやってくるのか!?

…ちなみにこのお兄様は高校卒業と同時に籍を入れるので大学入学時点で妹成主は人妻になってます。
…人妻に横恋慕っていいよね…。
一条君にそんな癖がないことを祈ります。

原作の一条君は恋をしているか微妙なところでしたが、こちらでは一応好意があるように書かせていただきました。お兄様に対抗して、等が全くないとは言いませんが、成主は原作ファンなので一条君に対し他人行儀になり切れず、好感も持っていたことで当たりが柔らかかったのではないかと。
とはいえ脈があるようには誰にも見えてなかったですけどね。
というか、誰もお兄様を超えられるとは思っていない。完全アウェーでした(笑)
だから周囲は安心して見守れていたのです。もしこれが本当にライバルになり得る存在なのならば恐らく親衛隊()が動いてた。
完全な当て馬扱い。可哀想(笑)。

一条君には幸せになってもらいたいものですね。
お読みいただきありがとうございました!
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