妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします! 番外編 作:tom200
リクエストいただいた、結婚について語り合う二人のお話です。
当シリーズではそこまで描いておりませんが、設定としてこの二人は高校卒業し、妹の誕生日の次の日に籍を入れます。
お兄様が婚約者のままでは耐えられなかったので…。ですが、結婚式は大学卒後となります。
その頃には会社も軌道に乗り、世界情勢もある程度落ち着いているでしょう、表向き。
その設定を踏まえた上でお読みくださいませ。
結婚して、あっという間に三年の月日が流れた。
結婚してからもお兄様はお忙しいですからね。お仕事も世界情勢も波乱がありバタバタとしていたら本当にあっという間でした。
…一応ね、新婚さんらしいことはしましたし、こっそり新婚旅行でアメリカとか…これは仕事がらみか。でも宇宙とか行っちゃいましたしね!
こんな新婚旅行どこを探したってない。誰にも邪魔されず、幸せな時間を過ごせましたとも。
だけど、もう一つ、私たちは肝心なことをしていない。
籍こそ大学入学前に入れたけれど、結婚式はまだ挙げていなかった。
籍を入れたのに学業を修め終わるまでは、と期間を延ばしていたのには訳がある。
――お兄様が原作の通り魔王として君臨してしまったからだ。
おかげで世界は一時恐慌状態。大いに混乱した。
だが、日本国内に限って言えば実はそんなでもない。
お兄様が婚約者を何よりも大切にしていることが魔法師界隈では知られていて、その婚約者を戦争に巻き込まず平和な世の中にしたい、という目標を掲げ、人々の生活に貢献する研究を発表したことを知っているのだ。
そうなった経緯はここでは割愛する。割愛するったら割愛する。
…まさかここでもあの悪魔の書の影響があったなんて信じたくない…。どれだけ影響を及ぼすんだ、あの本は…。演劇部部長こそこの世界を陰から操るフィクサーなのでは⁇
と、まあそんなこんなで原作とは違う流れで、日本国内は大して荒れることはなく、平和が維持されていた。
当然派閥は健在、お兄様を危険視する組織も残っているものの、日本を守るという意思は一致し、連携に成功。
外界にはお兄様を必要悪として表に立たせることで日本も困っている、という体で「触らぬ神に祟りなし」の方向で進むことに合意。
この結論が世界に「日本っておかしい国!」と非難を集めたが、どこかの国がちょっかいを掛ける度その認識が正しかったと浸透して、ちょっかい掛けなければ大人しい魔王という認識に。
戦争を仕掛けても経済的に損失するばかり、という結果にしばらく大人しく暗躍メインに移行が密かに決定。
これには数年準備がかかるだろう、と表向き平和な時が続いた――、がこの三年間の世界情勢だった。
そう、「だった」なのである。
「学生にして今を時めく起業家でありながら十師族であり、世界一有名で優秀な魔法師であるお兄様の結婚式ですもの。結婚式の会場には日本トップが一堂に会することになって然るべきでした」
「俺の肩書よりも、この世で最も美しい花嫁を見に来客が集まると言われた方が正しい気がするがな。まあ、襲われることを恐れて祝電だけで済ませる者も多いようだが」
「逆に警備不行き届きで四葉の隙を突きたい人たちはこぞって参加するようですよ」
「全く、人の結婚式をなんだと思っているんだか」
本当、全くもってその通りである。
あの四葉が表立って大々的に式を挙げるということもあり、大注目を浴びているのだ。
関心を向けられることが悪いことだとは言わないが、思惑を巡らせられるのは迷惑だ。
出席者はすでに四葉の方で決められ、世間一般のニュースでも今世紀最大の結婚式と話題に取り上げられるほど。
おかげで結婚式の準備というより戦争を未然に防ぐ軍会議の有様になっていた。
「軍ではまるで暗殺者とスパイの見本市だと文句が四葉に寄せられたとか」
「その裏ではどうせ研究者が喜んでいるだろうさ」
貴重なサンプルが勝手にホイホイに飛び込んでくるわけですからね…うちのマッドな研究員も奇声を上げて喜んでいるんだとか。この国に無い
「まあ、『こちら』の結婚式は叔母上が四葉の威信にかけて何とかするだろうから任せるとして、『あちら』の方の準備は順調かい?そっちは深雪に任せてばかりだったからな」
『あちら』『こちら』とは、四葉による世間の為の結婚式と、内内で仲間内だけで行う結婚式のことである。
…これは、私の我侭をお兄様が察して叶えて下さったもので。
(責任ある家に生まれたからには、家の為に式を挙げるのが当然だと分かってはいるけど、そこに友人を気軽に呼ぶことなどできない。そうやって諦めていた幸せで笑顔あふれる結婚式を、お兄様が察して叔母様に交渉、親しい人だけを集めた結婚式を開く許可を取ってくれた――、私の、優しい旦那様)
「なんだい?」
「…いえ、私の旦那様は素敵な方だな、と改めて認識したところです」
「唐突だな。だか、それを言うなら俺の奥さんは日に日に美しくなっていくと実感するよ」
「それは、美容スタッフのおかげでしょう」
結婚式に向けてのブライダルエステで毎日施術されてますからね、と返せばそれだけじゃないだろう?、と肩を抱き寄せられて。
「いくらなんでもそれは謙遜が過ぎるんじゃないか?」
「…もし、そう見えるのでしたら、それは達也様との日々が幸せだから…なんて」
ええ、口にしてからとっても恥ずかしいことに気付いて尻すぼみになったのだけど、どうやらお兄様に誘導されていたらしい。
「そうなら嬉しいね。この結婚式が終わってしばらくすれば時間も取れるだろうから、二人きりでゆっくり過ごそう」
お兄様にまとまった時間が取れる事なんて滅多にないけれど、結婚式の後に休みが取れないなんてうちの会社の福利厚生が疑われてしまう。
…他国の暗躍を防ぐために駆り出される恐れもあったのだけどね、四葉全面協力で休暇を取らせてくれるということなので。
同様に軍からも、と言うより独立魔装大隊の方たちだけど、彼らからも面倒事はこちらに任せろと力強いお言葉を貰った。
全てが終わったら菓子折りを持っていこう。
お兄様は有言実行の人だから、きっとこう口にされたということは算段が付いたのだろう。
お兄様の肩に頭を預けながら話の軌道修正を図る。
「ご心配いただいた二回目の結婚式ですが、こちらも順調に準備が進んでおります。水波ちゃんやリーナが色々と相談にのってくれるので」
親しい人たちだけを招く結婚式は友人たちを中心に学校の先輩後輩を主に呼ぶことになっている。
本当はお世話になった人たち全員を呼びたいのだけれど、それは流石にできなかった。
九重先生は中立派の立ち位置だし、風間さんたち独立魔装大隊の方々にはむしろお仕事を頼んでいるので参加どころではない。…というか彼らには来てもらうより挨拶に向かわないといけない方々ですね。
親戚一同も軍の人たち同様お仕事で来られないので夕歌さんたちも招けない。
…それ以前に関係があります、なんて公表できないんでした。隠し事が多くて色々とめんどくさいね。
結婚式の様子を映像に残して一緒に鑑賞する約束をしております。
ちなみにこの結婚式では秘匿すべき存在の水波ちゃんと光宣君がパレードで姿を変えて参加する予定になっている。
それも、式場スタッフ側として。
水波ちゃんたっての希望でした。着替えももちろんのこと、給仕もやりたいんだって。
光宣君はお客様でもいいのでは、と思ったのだけど水波ちゃんに付き合うんだとか。
息子とその嫁として席を作りたかったのだけど、それを先に察知されたのかもしれない。
今はお空の上でウェイター修行中だそうです。頑張って光宣君。
「任せてばかりで悪いな」
「そうは仰いますが、お色直しにつきましては達也様の方が率先して選ばれていたではないですか」
任せてばかり、と何度も言われるが席次決めや招待状、料理のメニューなど色々と決めたのは私だけれど、お色直しに関しては回数からドレス、演出までお兄様の監修が入った。
…まさかの5回ですよ。信じられます?来客の多い本式の一回目の方でさえ2回なのに。
「せっかく好きにやっていいということだったからな。美しいパートナーを自慢したかったんだ」
アイドルもびっくりの早着替えが5回…。
アクセサリに至るまでお兄様が厳選してました。
…なので私も対抗してお兄様にお似合いになるだろうお召し物を用意させていただきましたけどね!幸せなひと時でした。当日が楽しみで仕方が無い。
「では、私も素敵な旦那様をたっぷり自慢しませんと」
「俺は添え物だからしっかりお前の引き立て役を熟そう」
「達也様が引き立て役…?こんなに存在感のある素敵な引き立て役など存在いたしませんよ」
「気配を消すのは得意な方だが?」
「もう、意地悪を仰らないでくださいませ」
お兄様が本気で気配を消したら私が一人で歩いて居るようにしか見えなくなってしまう。それは余りにも寂しいではないか、とお兄様の胸の辺りに人差し指を立てて不満を訴えれば悪かったよ、と頭にキスを落された。
もう、これで機嫌が良くなると思わないでください、とそっぽを向けば「すまない、悪ふざけが過ぎたな」と離れていこうとするのでそれを引き留めて恥ずかしながら頬にキスをする。
「意地悪のお返しです」
「……、このままベッドに流れ込むと怒られる、という罠に引っかかるところだったよ」
「…達也様はもう少しいちゃつく、ということを楽しまれてはいかがでしょう?」
すぐにベッドに行こうとするのは如何なものかと、と注意をすれば、努力する、といつもでは考えられないほど弱々しい声に噴き出してしまった。
結婚ももう四年となれば、これくらいのやり取りは慣れてくる。
でも余裕があるか、と言われるとそれはまだまだだ。今だって心臓はドキドキ高鳴るし、お兄様にキュンキュンする。
毎日が楽しく幸せな日々。
例えお兄様と一日すれ違ってしまう日であろうとも、お兄様のことを想い、ちょっとしたメッセージのやり取りをするだけでも幸せなのだ。
こんなこと、高校に入学する時には全く思い描けない未来だった。
(…こんなに、幸せでいいのだろうか…)
原作とはかけ離れていると言えない道に進んでいる。
トラブルは相変わらず大小やってくるが、大した被害を出すことなく解決することができている。
それも海外との摩擦をほとんど生まない形で収束していることから『平和主義の魔王』と呼ぶ人がちらほらと現れた。
そのまま一旦自国を豊かにすることに専念してくれれば一番平和的なのだけれど、…この世界はどうあってもお兄様を英雄にしたがるから。
出来るだけお兄様のお手を煩わせないよう周辺の組織、それこそ軍であったり他の十師族や魔法師協会にも注意を促したりして、実際に事件を未然に防いだり対処に当たってもらったりしているのだけれど、それでもお兄様の力が必要な時もある。
お兄様の平穏は、一体いつ訪れるのだろう?
(この結婚で、お兄様にいらぬ苦労を掛けさせているのではないかって、思わないでもない)
このところお兄様はお忙しく、大学に顔を出したと思えば会社やこっそり大使館に招かれたりと、帰宅しても寝るだけという生活が続いていた。
それもこれも来る結婚式のための調整だったり情報収集であったりするのだが、それにしてもお忙しい。
せめて式の内容に関しては私と四葉だけで調整し、お兄様には自身のことだけを考えていただきたかったのだけれど、残念ながらそうもいかないのが現状だった。
だから、今日のこの時間は久しぶりに取れた二人きりの時間で、できる事ならば何もせずにゆっくり休んでもらいたいと思うのだけど。
「今度は何を考えているのかな?」
お兄様に体を休めて欲しい、と考えているなどと言えばお兄様が「自分は大丈夫だ」と返すことくらい長年の付き合いで理解している。
「幸せ過ぎて怖いな、と思ったのです」
「…ああ、その気持ちは俺にもわかるよ」
俺もよくそう思う時があるから、と…。それはお兄様がこれまで経験してきたからお分かりになるのだろう。
主人公あるある、幸せの後には突き落とすような現実が待っている。この落差が物語を楽しませるエッセンスになるのだからそうなるのは自然の流れではあるけれど、もうそれもそろそろ変わってもいいはず――。
(…本当に…?)
物語を変えようと、神の掌から抜け出そうとあの手この手と尽くしてきた。
だが、現実お兄様は妹の私と結婚をし、大学生でありながら会社を立ち上げ、原作のトラブルにも巻き込まれていた。
これは果たして、未来を変えられたということになるのだろうか…?
「深雪のそれは、マリッジブルーというものか?」
「…え……あ、」
私の不安を察したのだろう。
優しく撫でられながら指摘され、マリッジブルー、と復唱してみる。
少し前まで楽しくて仕方なかったはずなのに、急にナーバスな思考に陥っていた。
これが、世に聞くマリッジブルーというものなのだろうか。
プレッシャーやストレスなどで起きるというマリッジブルーを知識としては知っていたが、これでもあらゆる――叔母様との圧迫面接とか、生死を掛けた戦場で緊張を強いられる等の――プレッシャーを浴びてきた自分が、平和なはずの結婚式で情緒不安定になることがあるだろうか、と高を括っていたのだが…どうやら私も普通の人だったようだ。
「……そう、なのでしょうか」
「さあ、俺にもわからないが、今の深雪はとても不安定に感情が揺れているように見える」
よく見るためか頬に手を当て、瞳を覗き込まれる。
それだけで心を見透かされた心地になって視線がさ迷う。
「ほら、よく見せて」
「…達也様、また揶揄っておりませんか?」
「久しぶりに深雪をたくさん見られる機会だからね」
「……もう」
視線をひた、と合わせると自然と唇が重なり合う。
「…式に不安はないのです」
「うん」
「どちらも準備は順調で、今は頭を悩ませることも無くなって」
引出物も納品が間に合う連絡も貰っている。予備もばっちり揃えられるそうだ。
心配は唯一警備体制だが、それに関しては自分にこれ以上できることは無い。
「ただ、そうですね。先ほどの話に繋がるのでしょうが、すべてが順調に行き過ぎて不安になったのかもしれません。何か見落としがあるのではないかと」
幸せ過ぎて不安になるのと同じ、順調すぎて落とし穴を見逃しているのではないかと不安になったのだ。
「あちらの結婚式は四葉が主導になっている。深雪が気負うことは無い。もし失敗したならそれはあちらの落ち度だ」
お兄様の力強い断言に、思わず目を開閉させてしまった。
その様が面白かったのか、今度は目元を緩めさせて。
「こちらの結婚式に関しては、親しい者たちばかり集めた気楽なものだ。何をしたって皆笑って許してくれるだろうさ」
これにはそうだろうか、なんて疑問は口から出ることは無かった。
確かに、友人たちも先輩後輩の人たちもそういう優しい人たちばかりだったから。
「そう、ですね」
「そうだとも。それにもし、そんなことで目くじらを立てるような輩がいたら、その時は」
そう言って人差し指を立てるお兄様に、そっとその指を包み込んで下ろす。
その危険な指は下ろしちゃいましょうね。
「だめか?」
「ふふ、せっかくのお祝いの席で達也様の手を汚すのはよろしくないかと」
「それもそうだな」
久しぶりのだめか、に心がほっこりと温かくなり、解れていく。
「…少しだけ、残念に思っていることがあるのです」
解れたから、しまっていた想いの紐も緩んだのだろう。気が付けば口を開いていた。
「私たちが結婚できたのは四葉の集大成ともいえる研究結果によるものでもありますが、もう一つ――お母様がお兄様の心を慈しんでくれたことのおかげなのだと思っております」
母が、命を削ってまでお兄様の心を残してくれたから――兄妹愛を残してくれたから、こうして私たちは愛し合って結婚するに至った。
だからこそ、思う。
「お母様にも、出席していただきたかった」
花嫁姿を見て欲しかった。
私たちの門出を祝って欲しかった。
貴女の子供は幸せだと、感謝を伝えたかった。
頬を流れる一筋の雫を、節くれだった指が拭う。
「きっと、見守ってくれているさ」
これまでのように、と胸に抱き寄せられた。
リアリストのお兄様らしからぬ言葉だが、それが私の為だけの言葉に聞こえなかったのは私の願望だろうか。
(だとしても、構わない)
「困ったな。お前を泣きやませてやりたかったのに」
「…これは、うれし涙ですから」
それは本当かな、と涙を舐めるお兄様にピタリ、と涙は止まった。
…そういえばお兄様は涙の味を見極められるようになったのでしたね。
「うん、嘘ではないようだ」
先ほどまでのシリアスは何処へ行ってしまったのでしょうね。
お兄様は冗談が苦手とおっしゃられるけれど、こういう天然なところは大変ユニークかと思います。
「ふふ、信じてもらえました?」
「ああ。疑って悪かったね。お詫びに不安を考えられなくするおまじないをさせてもらってもいいかな」
そう言ってお兄様の手が怪しく蠢きだす。
…ユニークでもあるけれど、お兄様はちょっと己の欲望に忠実でもありますよね――要は、ちょっと…というか大分えっち。
結婚してから…いえ、婚約した時からそんな気はしていましたけどね。お兄様、むっつりさんでした。
(忙しすぎてこのところこういった触れ合いもできない状態でしたからね)
それに、慰めようとしてくださっているのも事実なわけで。
「そうですね、寂しく思っていたから不安になっていたのかもしれません。…不安が吹き飛ぶほど愛してくださいますか?」
「もちろん。約束する」
あまりの即答に、笑いがこらえ切れず噴き出すと、お兄様にも移ったようで口元が吊り上がっていた。
結局結婚式に賊は押し入ろうとしましたが失敗。
四葉の鉄壁の守りを周知させ、他国に絶望を見せつけて終わりました。
雫と真由美は両方の式に出席していたが、深雪がキラキラしていて断然二回目の方がいいと絶賛。
こっちも襲撃者が来たけれど、こっちは余興扱いでむしろ警備側が通してあげた。
もちろん前もって打ち合わせ済み。敵が可哀想。エリカが豪快に吹っ飛ばし、レオはちょっぴりシャンデリアを壊した。後でお兄様がこそっと再生かけた。
式は続行して最後までやった。
ちなみに投げたブーケは趣旨をよく理解していないリーナが煽られ負けず嫌いを発揮してキャッチ。
「相手いないのに!」と正気に戻って崩れ落ちた。皆で笑って大団円。ハッピーな結婚式になりましたとさ。
リクエストいただきありがとうございました!
まさか結婚式のお題を頂くとは。
楽しく書かせていただきました!
リクエスト募集は明日までですが、上手く募集できなかったようで無念です。
期間が短すぎたのか、注文が細かすぎたのか。
明日の期限を待った後、ひとり反省会をしようと思います。