妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします! 番外編   作:tom200

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リクエストいただきました、親子(+未来の嫁)でお出かけするお話です

多分高校二年生くらいの謎時空になるかと思います。



一周年記念リクエスト小話②

 

 

秋の連休を目前に、その連絡は唐突にかかってきた。

 

「今度の連休、もしよければ皆さんの家にお邪魔してもよろしいでしょうか?」

 

ご予定があるのならそれを優先して貰っても構いません!と表情からも必死に伝えてくるのは光宣君。

このところ調子がいいから家族で過ごしてみたい、って思ったんだって。

…私たちの息子、健気すぎない?

この連休、忙しいのは例によってお兄様だが、

 

「調整すれば中一日くらいなら空けられるが」

「それでしたら、私たちのお出かけ予定を変更すればもう少し余裕があるのではないでしょうか」

 

連休最終日にはお兄様が私との時間として作ってくれていた時間がある。

その日はいつものようにファッションビルでお買い物の予定だったが、私たちは行こうと思えばいつでもいけるのだ。

息子を優先してあげたいと伝えればお兄様も苦笑をされてそうだな、と同意してくださった。

 

「お前との時間は何も外だけでなくとも一緒に居られればそれで十分だからね」

 

するっと腰に腕を回し、更に密着する。斜め背後から鋭い視線が突き刺さった。

……言って気付いたけど、この話は二人になってからすればよかったのでは、と正面からの温かい視線を受けて気まずくなった。

 

「お父さんたちが仲良しで僕は嬉しいです!」とお顔にはっきり書かれている。…恥ずかしい所を見せてしまった。

 

「日中俺は外出してしまうが、朝晩は家に居る。家族だんらんの時間くらいは確保できるだろう」

 

それでよければ、と言えば光宣君はそれはもう尻尾が引きちぎれんばかりにぶんぶんと――と、これは幻覚ですね。でもみんな同じ幻覚を見ているみたいに視線がそこに集中していた。

魔法は使っていないはずなのにね。でも見えるんだもの。光宣君は犬属性。

 

(異論は認める…けど、他に何か似合う動物いるかな)

 

ということで連休、息子が帰ってくることが決定しました。何をして過ごしましょうかねぇ?

 

 

そして数日後やってきた光宣君は、すぐにうちに馴染んだ。

ずっと交換日記等で交流してきた甲斐があった。

日中はうちでまったり過ごしながら、夕飯直前お兄様がご帰宅。

息子と揃ってお出迎えにお兄様もご満悦。疲れが吹っ飛んだそう。お疲れ様です。

そして着替えてすぐにダイニングへ。

今夜は光宣君もお手伝いして作ったハンバーグです。

形はちょっと崩れているのはご愛敬。

 

「色々考えたんだが、せっかく天気もいいんだ。ずっと家に居るのもなんだからちょっと遠出をしてピクニックにでも行かないか?」

「ぴくにっく…え、ピクニックですか!?」

 

ぱあ!と夕食の食卓が明るくなりました。

どうやらお兄様の都合が何とかついたようで一日休みを作ることができたらしい。

本当にできるかは直前までわかりませんでしたからね、あまり期待をさせてしまってから断ることになったら光宣君は落ち込むだろうから、と決定するまでは言えなかったのだけど、この結果に一安心です。

喜んでもらえてよかったですね、とお兄様に微笑みかければお兄様もにっこり。

それを見て光宣君は更に嬉しそうに水波ちゃんに報告しては、彼女は顔を真っ赤にしてオーバー気味に頷いて返していた。…ここの関係も進んでいいと思うんですけどねぇ。

日記や画面越しであれば普通に会話できるのだけど、食卓は物理的に距離が近いものね。

遠出する場所はお兄様所有のあのお山です。

ピクニックなら近くの自然公園でもと思ったのだけど、光宣君と私が揃うとその注目度は跳ね上がりますからねぇ…。

二人ならバイクで、だけど四人だからファミリータイプの車をレンタルしたみたい。

キャビネットやコミューターよりも自由度が利くのでね。運転は手動にも切り替えられるタイプ。…いつ襲われても対応できるようにですね、分かります。

というか、お兄様と光宣君という最強の布陣で襲われなんてしたら――それは襲った人の国ごと滅びそうですね。冗談ではなく、まじで。

皆さん、せっかくの連休なんですから働かないでくださいね。ピクニックに行ったら国が滅亡していた、なんてニュースを帰宅後聞くなんて嫌ですからね。

 

「お弁当、たくさん作るから楽しみにしていてね」

「あ、あの!ピクニックって何をするんですか?僕は何を用意すれば…」

 

あらあら、まあまあ。

お弁当、と聞いてお目目をキラキラさせたと思ったら、ハッとして今度はおろおろ。忙しいねぇ。母性が擽られて仕方が無い。

 

「ピクニックに決まりはないが、そうだな。レジャーシートを敷いて、その上で適当に過ごして弁当を食べればそれでピクニックになるんじゃないか?なあ、お母さん」

「お父さん、それは余りに説明不足ですよ。でもそうね。ピクニックにお作法や決まりごとは特にないから…現地に行って何をするか決めても楽しいと思うわ。あそこは自然豊かで色々とできる場所だから」

 

お兄様は光宣君のためのサービスか、やたらとお母さん呼び。おままごとに年齢は関係ないね。恥ずかしさもあるけれど楽しい。

しかし、ピクニックで何をする、か。

ボール遊びやバドミントン、と道具持ち込みで遊ぶのもいいけど、あそこは湖も原っぱもあって、何も持っていかなくともいくらでも時間を過ごす方法がある。

それこそ何もしないでご飯を食べてごろ寝したってピクニックを楽しんだことになると思うけど。

 

「光宣君は何かしたいことはある?」

「…わかりません。僕は皆といられるだけで胸がいっぱいなので」

 

こうした時間も楽しくて…と頬を染める美少年の美しさよ…。水波ちゃんが天を仰いでます。分かる。尊いよね。

 

「これが最後でもないのだから、今回は様子見もいいんじゃないかしら。家でゆっくりするのとはまた違った時間を過ごせると思うわ」

 

そう伝えれば、光宣君はお目目ぱちくり。

 

「…また、連れて行ってもらえるんですか?」

 

チラリ、とお兄様を見れば――ふふ、同じことを思っていたみたい。

 

「「もちろん」」

「当たり前だろう?」

「家族ですもの」

 

顔を見合わせ、二人して光宣君に微笑んで返した。

光宣君は瞳を潤ませ、頬を紅潮させる。…うぅん、美少年の(以下略!

まあね、実際このメンバーでお出かけはそれほど簡単なことではないかもしれない。

お兄様はただでさえ忙しく今回だって身を削って時間をひねり出している状態だ。

そして光宣君の体調も、以前より体調が良くなったといっても一年の半分近くは学校に通えていない。

でもね、これきりなんて、それは余りに寂しい。

叶わないかもしれないが、それでもここに貴方を想い、帰る場所はあるのだと伝えたい。

その気持ちが届いたように、光宣君はありがとうございます、と涙を讃えながら微笑んだ。

 

「水波ちゃんも、一緒よ」

「え、……はぃ」

 

うん、さっきから空気になろうとしていましたけど、貴女も『家族』ですからね。ポジションは当然将来の息子の嫁ですとも!

ふふ、可愛いね。二人して頬が赤くなっちゃって。

ということで、明日はお弁当を持ってピクニックに行くことに決定!

水波ちゃんとこれからすぐにでも下ごしらえに取り掛かることに。

お兄様は、光宣君を連れて…地下へ行くのかな?体調チェックもかねて調整をするのかも。

大きなバスケットやお重を取り出して、明日のメニューをアレコレ考え、夜はあっという間に更けていった。

 

 

 

 

ドライブはほぼ自動運転で、お兄様たちと向き合って外の景色を楽しみながらこれから行く山のお話を。

 

「…買ったんですか、山を」

「まあな。私有地なら誰も邪魔できないだろう」

 

もしするようなら排除するだけの理由になる、と聞こえたのは気のせいだろうか。うん、気のせいだね。口は動いていなかったもの。

ご実家にお金に不自由ないどころか掃いて捨てるほどある光宣君でも驚くんだね。

まあ、それはそうか。ただ紅葉を見に行くってだけで普通山は買わない。ちょっと浮かれすぎていたからといって、ポン、と買ったりしない。

良かった。私の息子はちゃんと普通の感覚を持っている子でした。

水波ちゃんも心なしかホッとしている様子。…うんうん、これで常識のずれの心配事が一つ減ったね。

 

「アレはなかなかいい買い物だったぞ。手入れは多少必要だが大して荒れていないし、地盤も頑丈。湖もあり夏は泳ぐこともできるし、すぐ近くには温泉も湧いている。何より前地主の影響で魔法感知装置の類が周辺に一切ないからな」

「あれって確か義務付けられていたと思ったのですが」

「地方では施行されて間もない頃、目を掻い潜ることができたみたいだな。趣味人でもあった持ち主は景観重視でのらりくらりとかわして有耶無耶にしたらしい」

「じゃあ、その方は特に魔法師ではなく」

「ああ、その辺はちゃんと調べたよ。親族に至るまで非魔法師の家系だった。特に魔法師と目立ったトラブルも見当たらなかった」

 

へぇ、と軽く聞き流してますけど光宣君、その情報は普通一般手に入らない情報ですからね。お兄様も、一体どのようにして調べ上げたのか。

と、そんなことを話している間にバイクで移動するよりも早く目的地が見えてきました。

 

「あの山だ」

 

トンネルを抜けると、まだ色づいていないものの、夏から秋に変わりつつある空とわずかに開けた窓から入ってくる涼しい空気が出迎えてくれた。

わぁ、と目を輝かせる二人の初々しい反応に、お兄様と二人こっそりと微笑みあった。

 

 

 

到着しました。

いい空気に思わず深呼吸してしまう。

水波ちゃんも続いて、それを見た光宣君も真似て深呼吸しているのがまた微笑ましいね。

もう付き合っちゃいなYO!と口走りそうなのを手で押さえつつ、お兄様とにっこり。

家族ごっこのせいかずっと保護者ムーヴが留まることを知らない。

お兄様も、兄でいる時よりもその傾向が強いみたい。

うーん、その温かみのある優しい笑みも素敵。…とと、見惚れている場合ではなかった。

まずはこの場を綺麗に整備しないとね。

ってことで魔法をぱぱっと発動。草を刈って風を起こし石や枝も纏めていくつも小山を形成。

それをお兄様が分解する簡単なお仕事です。

 

「…すごい、繊細な魔法ですね。魔法式こそ単純なものではあるけれど、それを複数同時に展開して…それにこの規模をこんな短時間で…やっぱりお母さんも、それを実現可能にしたCAD調整をしたお父さんもお見事です」

 

そうでしょうそうでしょう!お兄様はすごいのです。さすおに!!

 

「…深雪様も褒められているのですが」

「あの子はこれくらいできて当たり前だと思っている節があるからな」

 

お父さん凄いでしょ、カッコいいでしょ、と光宣君と話に花を咲かせている後ろで、水波ちゃんとお兄様がやれやれ、と肩を落としていることは気付かなかった。

到着して、場を整えたのはお昼前。今日は少し早く出てきましたからね。

このままお昼ではいくらなんでも早すぎるかも、と思っていたらお兄様から提案が。

 

「軽く散策してみるか」

 

ずっと車で移動していましたからね、身体を動かしたくもなるというもの。

ベースだけ作ってさっそく散策に出かけることになった。

木漏れ日の下、いい空気を吸いながら元々道であっただろう痕跡を辿っていく。

人が遠のけば道も自然となくなっていってしまうからね。こうして時折訪れては道を作っていかないと。

時折引っかかりそうな枝や石は先頭を歩くお兄様が適当に拾った棒や足で避けてくれるので全員危なげなく歩けた。

 

「風が気持ちいいって、こういうことを言うんですね」

 

ほとんどをベッドの上で過ごしていたからか、こういった発言がぽろっと飛び出すが、光宣君の近所には神社仏閣が多いはず。都会より緑は多いのでは、と思ったのだけどそことはまた空気が違うらしい。

 

「あちらはどちらかというと、場を作っているといいますか…清浄な気ではあるんですが、かえって綺麗すぎるといいますか」

 

なんとなく、言いたいことは伝わってきた。

こちらは手入れをされていない自然さが感じられるらしい。

それから、ここから先は道が舗装されていないから深く入るのは危険だ、と注意され念のための目印に魔法で近くの岩にバツ印を描いたり、そのまま湖の近くまで出て外周を歩きながらベースに戻った。

それだけで結構な距離を歩いたのだけど、光宣君、元気だね。

まあ、病弱ってわけではないと分かっていても、ベッドの上で過ごすことが多いと体力面が心配だった。

だけど――

 

「体調がいい時にはそれなりに鍛えるようにしているので」

 

筋肉こそそんなについていませんが、日常生活についていけるくらいには運動はしているのだ、と。

九島のお家には光宣君専用のトレーニングルームがあるらしい。

 

「別に僕専用で作られたわけではないのですが、うちの人たちは魔法の技術は鍛えることはあっても体力は並程度あればいいと思っているみたいで」

 

僕はその並を維持するために鍛えないといけないわけですが――、とちょろっと闇の光宣君が覗く。

ううん…時折感じる時があるけれど、光宣君ご家族との距離がね、お爺様とその他、で区分されちゃっているというか。

 

「魔法師はフィジカルも重要な要素だと思うが」

「僕もそう思います」

 

近接攻撃に弱いと、というだけではなく魔法を使うには瞬発力や反射神経も必要なわけで、そうなると肉体を鍛えることは案外重要だったりするのだけど…古くから続く魔法師一族にはそこが結びついていないのかもしれない。

九島家は十師族でもあり魔法師としても名家なのだから率先して導くべきだというのに、という不満が光宣君の中でもあるのかな。

本当、光宣君がこの家の長子で健康体であったなら、十師族のトップに君臨していておかしくなかった。

四葉はほら、表舞台は似合わないので陰で支える側で。

九島の光宣君に一条君、それに四葉は私で十文字先輩…これがトップに並んでいたらどこの国が日本を攻められようか。

この代、歴代最強では⁇

なんて、考えたところで夢は夢でしかないのだけど。

と、こんなところまできてこんな魔法師の未来のお話に思いを馳せる必要性は無いわけで。

 

「お父さん、光宣君もせっかく遊びに来ているのですから難しいお話はおしまいにして、楽しいお話をしましょう?」

「…そうだな。悪かった」

「すみませんでした」

「ふふ、分かってもらえればいいのです」

 

ちょっとわざとらしく頷けば、空気がほんわかに戻りました。うんうん、せっかく綺麗な湖と澄んだ空気に包まれているのですからどんよりするお話は無しだ。

 

「ってことで水波ちゃん、何か面白いお話を一つお願いしようかしら」

「え!?私ですか?!」

 

ぴょこん!と三つ編みが跳ねるの可愛いね。

慌てる美少女は空気を和らげる清涼剤です。みんな笑顔になりました。

悩む水波ちゃんを眺めつつお茶を用意していたら、仕事を取られたことに気付いて慌てて一緒に準備に取り掛かる。

いちいち仕草が可愛いったら。

 

「…酷いです、深雪様」

 

だけど水波ちゃんが拗ねてしまいました。揶揄い過ぎたね。

 

「ごめんなさいね、つい可愛くて」

「深雪様っ!」

 

これは揶揄いでもない素直な感想なのだけど、今は何を言ってもダメみたい。

隣にいるとちょっかい掛けちゃいそうなのでお兄様の隣に移動。

お兄様にも構い過ぎたな、と注意されました。反省。

 

「水波、深雪は俺が抑えておくから光宣の世話は頼む」

「……いえ、皆様のお世話をするのは私の役目です」

「今日は家族でのお出かけだぞ?お前の立場はメイドではなく光宣の――」

「僭越ながらご友人枠ですよね!誠心誠意お役目を果たさせていただきます!!」

 

水波ちゃん、食い気味に『友人』役を主張しました。

幼馴染役でもクラスメイト役でもありだと思いますけどね。もちろん行きつく先はすべて恋人~嫁ですが。

光宣君は隣に水波ちゃんが来てくれたことににっこにこ。友人ってだけでも嬉しいものね。

水波ちゃん大丈夫かな?頑張って乗り切ってほしい。

…でもね?

 

「二人で来るのもいいが、こうして家族で来るのも良いな」

 

そう言って肩を引き寄せ密着する。

 

「……子供たちの前ですよ?」

「湖を見ているじゃないか」

 

見られていないからいいだろう、ってことらしい。

よろしくないですよ。分かっていて婉曲に遠慮したいというのを伝えているとわかっているでしょうに。

その証拠に口角が上がっていますよ。ちょっと意地悪なお兄様が見え隠れ…いや、隠れてないね。隠す気も無いのかお手手が腰に回ってきました。

 

「頑張ったご褒美をくれないか?」

 

注意をしようとしたら耳元で囁かれるのだけど、その言葉の破壊力と攻撃力よ…。

お兄様からのおねだりにとっても弱い上に、擽るように吐息を掛けられるともうノックアウト寸前、ダウンしそう。

それがわかっていての腰の支えです?何手先までお読みなのだろうか。

でも、この時間を確保するためにお兄様が無理をしたのは事実。

 

「……何が欲しいのです?」

「労いのキスを」

 

(……水波ちゃん、私たち、生きて帰れるかしら?)

 

チラリと二人を見れば水辺まで行って、しゃがんで水の冷たさを確認している。

いつもより距離が近いからか、水波ちゃんの背中に救援の文字が見えるようですが、こちらも助けてほしいくらいなので無理です。

 

「お兄様…」

「今は二人きりだからね、(それ)でもいいが」

 

くすくすと耳元で笑われるとですね、とってもぞくぞくしてしまうと言いますか。

 

「もう、悪戯しないでください」

 

これ以上何かされてはかなわない、とお兄様の両頬を挟んでちらっと彼らがこちらを向いていないことを確認してから――ちぅ、と柔らかいそこを軽く啄む。

 

「……今は、これが精いっぱいです」

 

真っ赤になった顔を見られたくなくて俯いてしばらく、

 

「きゃっ」

 

ぎゅっと抱きしめられた。

 

「これで我慢するから、しばらくこのままでいてくれ」

「……はい」

 

深い溜息と共に低い声での懇願に、震え出さないよう堪えて大人しく腕の中に納まっていた。

 

 

 

 

「よかった」

「……光宣様?」

 

光宣は、ちらっと見えた二人の仲睦まじい様子にほっと胸を撫で下ろした。

まだ顔に赤みがさしたままに水波に、心のくすぐったさを感じながら、彼女の疑問に答える。

 

「僕の我侭のせいでお二人のデートを邪魔してしまったから、心苦しさもあったけど」

「……達也様は深雪様といられるならどこでも構わないと思います」

 

心温まる光宣とは反対に水波は冷ややかな視線を片方にだけ向ける。

…彼女も分かってはいるのだ。自分の主が嫌がっていないことは。

困ってはいても、ちゃんと受け入れていることを、水波はちゃんと理解していた。

それでも、面白くないと思うのは、彼が自分と同じガーディアンだったからか、それとも――

 

「水波さんは本当に深雪さんが好きなんですね」

「敬愛する主です」

「うん、そうなんだね」

「……とても、大事な方です」

「わかるよ」

 

光宣は人懐っこいように見えて、簡単に人を受け入れられるような性格ではない。

それは、これまでの経験がそうさせたのか、元からなのかは彼自身にはわからない。

祖父の話を信じるならば、幼い頃から誰にでも心を寄せられる優しい子だったらしいが、今の自分が人をカテゴライズして見る人間だということを知っている。

誰にでも優しくできるようないい子ではない、と理解している。

そんな自分が、長く面倒を見てくれた祖父よりもたった一年にも満たない付き合いの彼らに心を開き、預けている。

 

(彼らは、『僕』を見てくれる。どんな僕でも受け入れてくれる)

 

それがどれほど貴重なことか。

一度知ってしまえば離れることなど考えられないほど彼らの傍は居心地が良かった。

だからこそ、水波の気持ちが分かった。

自分の立場を弁えている彼女だが、仕えることをただの仕事としているのではなく、主の支えになりたいから仕えている様子は数日過ごして見ていたからわかる。

その関係性がとても素敵だと思ったから。

 

「やっぱり、僕もここで生活したいな」

 

本当に、彼らの子供になれたらよかったのに。ずっと、一緒に居られたら――そんな詮無いことを願ってしまう。

 

「…光宣様…」

「だめだね、さっきお母さんから楽しい話をしなさいって言われたばかりなのに」

 

楽しいのに、この時間には終わりがあるのだと、ついその後を考え嘆いてしまう。

 

「あの!お帰りになってしまっても、余韻が残るように…何か思い出を持ち帰りませんか?えっと、海ではないので貝殻は無いかもしれませんが、綺麗な石とか、何かこう、形に残るものを」

「形に…それは、いいね」

 

正直に言えば、光宣に物欲は無い。せいぜい性能のいいCADは欲しいと思うが、実益を兼ねたものばかりを欲する傾向にある。

だが、水波が必死に励まそうとしているその気持ちが嬉しかった。

その『思い出』が形に残るのだとしたら、たとえどこにでも転がる小石であろうが欲しくなった。

 

「いくつか見繕って、一番いいものを選びましょう」

「宝探しみたいだ」

 

小さな頃、絵本で読んだ冒険みたいだな、と心も弾む。

やることが決まれば二人は立ち上がってさっそく周囲を探し始めた。

だが、そこで光宣は足元が舗装されていないことを思い出し、危ないからと手を繋いで探すことを提案。

またも水波が緊張する羽目になったが、光宣はそんな水波も可愛いな、と思いながら宝探しの冒険を開始した。

 

 

 

「…ふふ、初々しいですね」

「緊張しているのは水波だけのようだが」

「そうでもなさそうですよ?」

 

落ち着いたころ、二人にも動きがあったと湖に目を向ければ仲良く手を繋いで地面を見ながら何か探している様子が見て取れた。

水波ちゃんは体が固くなっていて遠目で見ても緊張が伝わってくるが、光宣君は夢中で地面を見ている――ように見える。

そこがポイントだ。

 

「光宣君は紳士ですから、水波ちゃんを放って探し物に夢中になるとは思えません」

「…光宣も光宣で緊張を隠しているのか」

 

実に微笑ましい光景にお兄様の肩に寄り添いながら見守る。

 

「もうお昼を回りましたが、呼び戻すのはもう少し後にしましょうか」

「それまではもう少し、二人きりの時間を楽しむとしよう」

「…少しだけ、ですよ?」

 

見守っていられたのはわずかな時間だけで、あっという間にお兄様のことで頭も視界も埋め尽くされてしまった。

 

 

 

小一時間ほどで戻ってきた二人の汚れを落としてピクニックのメインイベント、お弁当のお時間です。

 

「へえ、土産探しか。いいものは見つかりそうか?」

「まだこれ、というものは。形のいい小石や綺麗に色づいた葉は見つけたのですが」

 

二人してなんとも可愛らしいことをしていた。

思い出のお土産選びなんて聞くだけで胸がキュンキュンしますね。

 

「それにしても、このお弁当どれを食べてもとっても美味しいです!」

「外で食べるとまた一段と美味しく感じるでしょう?」

「はい!」

 

ぶおんぶおん尻尾が振られているのが見えます。ご機嫌なのが誰の目にもまるわかり状態。可愛い息子です。

 

「その肉巻き握りは俺のおすすめだ」

「ふふ、お父さんの好物ですものね」

「じゃあ、次はそれにします」

「では取り分けますね」

「ありがとう、水波さん」

 

たくさん作ったお弁当は米粒一つも残りませんでした。いい食べっぷりに水波ちゃんとにっこり。残さず食べてもらえるって嬉しいね。

午後も二人は探し物の続きをすると言って今度は森に向かっていった。

残った私たちは、と言うと、

 

「こんなゆっくりした時間を過ごすのも良いな」

「雲がこんなにゆっくり流れるのを眺めているだけでもいいものですね」

 

シートの上でゴロンと横になっていた。

薄いシートの上、いくら多少草のクッションがあるとはいえ背中は固いが、私にはお兄様の腕枕があった。

 

「…思い出作り、か」

「お兄様もご興味が?」

「そうだな。…俺には必要の無いものだと思っていたが、光宣たちを見て少し羨ましくなった」

 

絶対記憶をお持ちのお兄様はどんな記憶も脳裏に刻まれ続けていく。

それはいい思い出ばかりではなくあらゆる全ての記憶を記録し続けている状態であって、それは時にお兄様を苦しめるものでもある。

例え自身にそこまで感情が働かなくとも心が無いわけではない。精神的負荷を無視することはできても完全に無かったことにできるものでもないのだと、お兄様にも最近分かったことなんだそう。

 

(…まあ、高校に入ってからいろんな事件が起きましたからね。ストレスを溜め込みおかしくなったこと数度、お兄様も認めざるを得なかったのでしょう)

 

記憶がしっかり残るから思い出作りなどという発想も無かったお兄様だが、彼らの様子に羨ましく思った、と。

それは、とても素敵なこと。お兄様の御心が、また成長されたのだ。

 

「…私たちも、何か探しに行きますか?」

「うん、それも考えたんだが…俺には深雪に関するもの以外で思い出に残したいものが考えつかなくてな」

 

…それは、困りましたねぇ。

探しに行かずに思い出に残る何かが欲しい、とは。

 

「深雪のものなら髪の毛一本でも欲しいものだが」

 

あまりその、猟奇的な方向には行ってほしくないのだけれどお兄様の発想がちょっと危ない方向へ行きそうなのを、ちょっと修正しないとまずいことになりそうなので頭を必死に働かせる。

 

「どうせなら、この場所に縁ある思い出の方がいいでしょうから――そういえば、あのあたりの草を刈った時、シロツメクサがあったような」

 

安直ではあるが、四葉のクローバーをお土産にしたらどうだろう?できれば、人数分。

…難しいかな、とお兄様に提案すれば一度目を閉じしばし考えてからとりあえず探してみようか、と抱き起される。

この時にはすでにお兄様は四葉のクローバーの在処をその眼で確認していたのかもしれない。

シロツメクサのあった辺りを捜索すると、お兄様からこの辺りはどうかな、と誘導が。

 

「ありました!お兄様、見つかりましたよ」

「こっちにも一つ、見つけたよ」

 

その後しばらく見つけられなかったが、もう二つ何とか見つけることができた。

 

「それで、お次はどうするんだい?」

 

あら、お兄様はこれでおしまいではないといつから気付かれていたのか。

 

「深雪のことだからね、きっと何か面白いことを考えているんだろう?」

「そんなに期待していただけるのでしたら、張り切らねばなりませんね」

 

実は、こういうものを考えているのですが――と誰もいないのに耳打ちをするのには訳があった。

そしてその言葉を聞いてお兄様は――

 

「それは深雪にしか作れないものだな。――問題なく誤魔化せると思うが、まずは作って()ないことには」

 

ということで場所を湖に移してレッツチャレンジ!

成功するといいのだけど。

 

 

 

光宣君たちが戻ってきました。やり切った、とばかりにいい笑顔。

じゃん!と効果音が幻聴で聞こえるくらいにご機嫌な様子で見せてもらったのは――ペアの黒曜石だ。

…ここ周辺、火山ありました?

ああ、でも温泉があるのだからその可能性はあったか。

 

「魔法で加工したのか、見事だな」

「原石のままも良いですが、大きさ的にもカットした方がいいかと思ったので」

 

先程の魔法はこれだったのか、と魔法を使ったのを感知していたらしいお兄様はしげしげとカットされた石を見ていた。

ええ、とても綺麗にカットされていて六角水晶の形になっている。小ぶりだがペンダントトップとしても使えそうだ。

 

「丸の形もいいかと思ったのですがどこかに転がっていってしまいそうで」

「デザインも素敵ね」

「ありがとうございます」

 

水波さんと一緒に考えたんです、と自分だけの成果じゃない、と報告するのも微笑ましい。

楽しかったようで何よりです。

 

「そんな二人に私たちからも」

「やっぱり親子だな。魔法を使って加工するところまでそっくりなんて」

 

ハンカチを広げて中のものを取り出して二人の手の上に。

 

「……これは…氷、ではありませんね…水晶でもないでしょうし…」

「ただの水だ」

「…え、ですが…」

「世界にたった四つしかない四葉のクローバーを湖の水で永遠に閉じ込めた、特別な代物だ」

「お父さんにアドバイスを貰って作ったんですよ」

 

ええ、アドバイスというよりかなり無茶な要望を言って、調整してもらってコキュっとしました。

こんな小さなものをコキュッとしたのは初めてだったのでお兄様の知恵と視界をお借りして、精密に範囲を絞って、ひも状のものを通せるよう穴も作って。

…大変苦戦いたしましたとも。

お兄様にはその後も出来上がったものを見て、特殊な魔法(コキュートス)か分析されてしまう可能性を確認したところ、これを読み解ける魔法師は存在を知っている四葉以外無いだろう、とお墨付きを頂きました。

 

「水…」

 

ええ、永遠に時を止められて形を変えることのできなくなった水です。

だからただのコキュートスってわけでもないのだけど、そこはお兄様と私だけの秘密だ。

 

「言っては何だが、これほどの魔法技術は何処を探したってないだろうな」

「……お父さんがそこまで言うなんて…」

「お父さんはちょっぴり大げさなんですよ」

 

額面通り受け取らないで、と光宣君に忠告するのだけど、首を傾けたまま戻りませんね。

そんな彼も可愛いですが。

 

「…そんな、貴重なものを…」

「水波ちゃん、貴重といってもあのあたりに生えていたクローバーと湖の水が原材料なんだからただも同然の代物よ」

 

水波ちゃんは私の固有魔法が使われたことが分かったみたいで青ざめているけど、気にしたら負けです。見た目はレジンで固めたお土産屋さんでよく見かけるクローバーのキーホルダーだから。黒曜石のペンダントトップの方がお高そうに見えるよ。

それに魔法に関してはお兄様が大丈夫と言っているのだから怪しまれることも無いでしょう。記念に貰ってください。

 

「家族でお揃いのものを持つって夢だったの」

 

だから貰って、と念押しすれば、大事そうに受け取ってくれた。よかった。

 

「お揃い…家族の証、みたいで嬉しいです」

 

光宣君の言葉でうまくまとまりましたね。ほんわか空気リターンズ。

いい思い出になったようで何よりです。

 

「さて、帰るまでがピクニックよ」

「忘れ物は無いか?」

 

お決まりの言葉に光宣君は喜んではい!と元気よくお返事。

こういった定番ができるって嬉しいよね。

水波ちゃんはそれを微笑ましく見守っている。…これはもう後方彼女さんってやつでは⁇なんて茶化したらまた拗ねちゃうのでお口チャック。

その後の車の中で何を見つけた、楽しかったと報告する息子を愛でながら帰宅。

夕食後、うとうとする息子を抱き上げて運ぶ姿に――ときめくと同時にお兄様の筋力っていったい…と慄いたのは別の話。

 

 

 





少々長くなってしまいました。
リクエストいただきありがとうございました!
この家族は書いていて楽しくてついつい文章が長くなっていってしまいます。
原作ではありえないほのぼのさと、らぶらぶさが表現できていればいいな、と思います。


お読みいただきありがとうございました。


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