妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします! 番外編   作:tom200

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頂いた感想で妄想が膨らんでしまったので消化を。

お兄様が『弟』の姉弟IFで、九校戦で『姉』が一条君に一目惚れされたら弟なお兄様はどのような反応をするか。
大変気になりましたので、当家シリーズの成主妹の精神のまま『姉』になった深雪と、その姉に育てられた『弟』のお兄様のお話で妄想させてもらいました。
設定的には『もしもお兄様が弟だったら』のあとがきに書いた話や『弟なお兄様ネタ』の二本目を主軸にネタを構築。

…したらこんな話になりました。
ややこしいお話ですが、よろしければどうぞ。


弟なお兄様で九校戦

 

以下二本の分岐でそれぞれ別の話になります。

 

・まだ姉に片思いのまま一線を越えておらず姉弟として入学

・関係を隠さなければならない理由があって姉弟のまま入学

 

…もし弟なお兄様の場合、原作前(高校上がる前)に手を出していたのでは?の発想から勢いで書いていたのでうちの本シリーズのお兄様とは異なり、更にぐいぐい来る攻め攻めなお兄様がおります。

 

上記二本の共通ルートとして、

 

真夜の計画により、四葉の後継者として完璧な世継ぎとして完全調整体で深雪が生まれる。

この時、精神干渉系魔法が使えるかランダムであったが、無事コキュートスを引き当てる。

彼女が生まれたことで四葉は安泰だ、と分家は落ち着いていたが、真夜には野望があった。

世界を滅ぼすだけの力、もしくは世界の運命(ルール)に負けず愛を貫く力を欲し、四葉を絶対的な力で守護してくれる子が必要だという名目で深夜にもう一人子供を作らせる。

そして誕生したのが達也。(深雪が四月に生まれ、達也が三月なので同学年の姉弟となる)

分家は恐ろしい力を持って生まれた達也を危険だと殺すことを打診したが、現当主がそれを拒否。この力は四葉を守るために使えばいい、と厳しく育てることに。

6歳の手術を受けるまでは家族とはほとんど接触は禁じられていた。

深雪はこの時まで分家より、出来の悪い弟がいると聞かされて育つが、会うことのできない弟に思いを募らせていた。

嫌悪感を植え付けさせようとする作戦は初めから破綻していた。

当主と母が会わせられないと言ったから我慢していた。素直な箱入り娘。

手術を終え、深雪のガーディアンとなる弟だ、と会わせてもらえるようになってから生活は変わる。

深雪には弟が、『可哀想』に見えた。そして庇護欲を刺激され、姉として守らねば、と思うように。

この時まだ前世の記憶は取り戻していないのだが、姉としての責任感が芽生えたことで視野が広がり、大人たちの目を掻い潜って弟を可愛がるように。

母が何かを危惧して離そうとするのをなんとなく察して母の前では距離を取るが、こっそり交流は取っていた。

そして運命の沖縄で記憶が蘇り、

「(え!?深雪ちゃんが『姉』⁇どゆこと?原作破綻してますけど?!)」

混乱しつつもお兄様である弟が感情露わに名を呼ぶので『(この弟なお兄様絶対幸せにする!)』と誓い、ハッピー家族計画を立てる。

やることは『妹転生』と変わらない。ただし、本人が姉であること、そしてお兄様が弟であることが物語に更なる歪を与えた。

「弟は姉に甘えるものよ」

「流石は達也さんね」

「欠陥だなんて言わないで。達也さんは私の自慢の弟なんだから」

愛され、褒められ、大事に慈しまれて成長し、次第にこの愛を一身に受けることに慣れていき、更に独占したいと思うようになる。

兄ではなく、弟として生まれたことによる変化。

姉から与えられるモノは俺のモノがやがて→姉のモノは俺のモノに。そして俺のモノは俺のモノ。これ以上奪わせない。

…流石にそこまで傲慢ではないけれど、はっきり意識していないだけで似たような感情が芽生える。兄の時とは違い闇色をしたもやもやを抱える弟。

兄の時より素直になったことで不満を抱きやすくなった。

姉になってしまった元妹はとんでもないモンスターを生み出しました…

しかし、姉にも言い分がある。

「(『お兄様』は世界の不幸を詰め込んだような生を受け、神にありとあらゆる試練を強制的に受けさせられるんだもの。その負担を少しでも減らしてあげたい!労ってあげたい。そしてもっと幸せになってほしい!)」

原作知識によって不幸な主人公の印象が強く、現実でも幼少期から過酷な訓練という名の虐待を受けてきたのを知っているので自分だけでも甘やかしたいと愛を注いだ。

その結果が、姉弟愛だけ残され衝動を抱ける相手にトンデモ執着を内包するようになった弟の誕生である。

…自業自得ですね。

しかし、弟はそれをうまく隠しているため姉は気づきません。

弟もこの甘やかな関係を壊したくはないので想いを秘めていた。

いくら弟に甘く、押しに弱い姉であっても姉弟で異性として愛し合うなど受け入れられるか――自称常識人の姉には倫理的に受け入れがたいだろうと判断。

姉の好きな『可愛いけれど少し生意気な弟』をしながら徐々に姉の意識を変えていく作戦にシフト。

少しずつ慣れさせて現時点で姉を抱きかかえてソファで過ごすのが通常運転になるまで漕ぎつけた。

どこまで許されるかを日々探りながらスキンシップを増やしていく弟に、姉は呑気にまだまだ甘えたい盛りかな?と絆され好きなようにさせてしまう。弟に甘えられることが嬉しいからちょっときわどい触れ合いに戸惑いつつも許してしまう。

だが、

「(自然に抱きかかえられたけど、む、胸が腕に当たっちゃってる!…気付いて、ない…?なら、気付かないふりをした方がいいのかな…それとも姉としてちゃんと注意した方が…?うぅ、恥ずかしいけど)達也さん、その、腕が」

「腕?」

「(あ、気付いてない?)その…少しずらしてくれないと、困るの」

「困る?…あ、ごめん」

「(やっぱり気付いてなかったのね)私は大丈夫だから。でもほら、他の女の子にする時には、ね?」

「…ん。じゃあ他は気を付ける」

「……」

「……」

「…あの、達也さん?(納得したのに変化がないのはどうして?)」

「?姉さんは大丈夫なんだろう?」

「(そ、そっちの意味で取っちゃった!?)…この姿勢では落ち着けないわ」

「…だめ?」

「姉弟でも節度は大切だと思うの」

「安心して。外ではしない」

「(そういう問題じゃないんだけど…どう伝えたら)」

「それに、こうして腕の中で姉さんを感じていると生きてるって感じが伝わってきて、安心する」

「!(…やっぱり沖縄でのことを引きずって――)」

「でも、姉さんが嫌なら我慢する」

「……嫌、ではないの。ただ恥ずかしいから…」

「なら、偶にならいいか?テストでいい成績を取った時や、製品を完成させた時とか」

「(それなら回数はそんなに多くも無いけど)ご褒美ならもっといい物にした方が」

「俺はこれが良い。これが一番ほっとする」

「……もう、仕方ないわね」

 

ちょっとエッチな触れ合いもこうして丸め込まれていくダメ姉。弟は打算と欲塗れなのに可愛いおねだり(姉視点)に絆されてしまう。

 

こんな虎視眈々と姉を狙っている弟です。

それを踏まえた上で、2パターンの九校戦編での一条君とのシーンへ。

 

 

 

・まだ姉に片思いのまま一線を越えておらず姉弟として入学した弟の場合

 

 

入学編のイベントを終えて一息ついたら九校戦編が始まった。

だけど一息つけたのは私だけ。達也さんはFLTで飛行魔法を完成させるのに忙しかったはずだから。

時折疲れた、と膝枕を頼まれたりして二人で過ごす時間もあったが、あれはきっと私を一人寂しくさせないために甘えてくれたんだろうな、と思うと嬉しいような、気を使われて姉として情けないような。

でも、そうやって気遣ってくれる弟にときめいてしまう悪い姉です。

 

(仕方ないじゃない。だって、前世の推しでもあるんだもの)

 

なぜか『お兄様』が『弟』にクラスチェンジしているけれど、お兄様と辿る運命自体に大差はない。どうあっても『司波達也』は厄介ごとに巻き込まれる主人公だった。

ただ、すべて同じというわけではない。本人の性格も異なっていた。

この兄と弟の違いが作用したのか、成長していくにつれ原作ではありえないほど自己主張ができるようになったのだ。

まだ姉の私にしか心を許していないが、いつか育った感情が自分以外の誰かに向けることができるようになるのではないか、と希望を抱いている。

 

(兄妹愛しか残されていないとされていた彼が、母の死を共に悲しむことができたから)

 

悲しいことに、この運命も変えられなかった。私が記憶を取り戻したのが遅かったからか、それとも強制力が働いたからか。

だが、運命は変えられずともそこに描かれるストーリーはだいぶ変わった。

詳しくは省くが、母と達也さんは初めこそ他人行儀であったが二人の間を取り持つうちに打ち解けて、最終的には軽口を叩ける間柄にまでなっていた。

そして亡くなった夜には二人して布団にくるまって眠った。達也さんは自分も悲しかっただろうにずっと私を慰めてくれて。

弟であってもガーディアンな彼は私を心身ともに守ろうとしてくれる。

だけどここでは私は姉なのだ。私も守りたい、と主張すれば最終的に「なら一緒に守り合おう」と妥協してくれて――

 

(私の方が譲ってもらって…恥ずかしいやら情けないやら)

 

でも、姉なのだ。弟の幸せは私が守る!絶対幸せにしてみせる!とこれまでやってきた。

おかげで入学編、ブランシュやエガリテといった組織が暗躍していたのを早い段階で収束させたり、二科生と一科生の壁もぶち壊すことに成功。

まだ蟠りが全部溶けたわけではないが、一年生はその問題の影響を受ける前だったこともあり、打ち解ける生徒も多かった。

達也さんは原作のように目の敵にされることも無く、平穏に過ごしている――とはなかなか言えないが、それでも悪意ある視線にさらされるようなことはないようだ。

それなりに賑やかな毎日を過ごし、やってきた九校戦。

達也さんは順調にほのかちゃんから好意を寄せられているようだけど、この頃はまだ気づいていないのかな?それとも事なかれで気付いてないふりをしているのか。

この九校戦は『お兄様』の恋模様が動き出すイベントでもある。

ここには魔法科高校の九校の優秀な生徒が揃っていることもあり、いろんな可能性の為他校の生徒たちにもこっそり達也さんの良い所を売り込めたら、と思っているのだけど――

 

「達也さん?」

 

懇親会が終わり、各々部屋に戻るところで少し強引に腕を引っ張られ人気のない物陰に連れ込まれる。

もしやすでに何か動きが?と警戒を見せると急にぎゅっと抱きしめられた。

 

「どうかした?」

 

驚きを出さないように心がけるけれど、大きく飛び跳ねた心音が聞かれてもおかしくない密着度だ。

弟に抱き付かれたくらいで、と思われるかもしれないが、この弟はカッコいい上に可愛さもある最高に素敵な弟なのだ。ときめくな、という方が無理だと思う。

姉の威厳にも関わるので隠しているけど、時折バレているんじゃないかな、と思わなくもない。

って、今それは置いておいて。

 

「…やっぱり傍にいるべきだった」

「会場に何か仕掛けが?」

 

落胆を含ませた苦い声色に、私の気付かなかった仕掛けでもあったのか、と緊張したらそうじゃない、とすぐさま否定が。

 

「違うよ。そういうことじゃない。…姉さんがあまりに綺麗だから。全校の男子が姉さんを見てた」

 

…あ~、そっちか。と納得する。

自慢して言うが、司波深雪という少女は神がそうあれと創り給うた美少女だ。

男子のみならず会場の視線を奪った記憶はしっかりとあります。恐らくいくつか恋心も盗んだんじゃないかな、と思うくらいには熱を帯びた視線もいくつか受けた。流石は深雪ちゃんボディ。

その中に一条君のがあったかまでは確認していない。私は別にお兄様のような眼を持っているわけでも読み取る力があるわけでもない。ただ、これまでの経験則から感じ取れる、くらいだ。

もしかして守護者として警戒した、とか?

恋に狂った人は何をしでかすかわからないから、というのもわからなく無いけど流石に九校戦を前にそんな行動を起こす生徒はいない筈。原作でもそんなことなかったから大丈夫なはずだけど…とは楽観視しすぎか。

 

「――気に入らない」

「…え?」

「俺の、姉さんなのに」

「!!」

 

(こ、これは!嫉妬…というものになるのかしら?!どうしよう、胸が、苦しい!)

 

弟が見せる独占欲に胸が締め付けられるほどときめいた。

 

「ふふ、おかしな達也さん」

「…姉さんは、俺の姉さんだよね」

「そうよ。達也さんが一番の、貴方の姉よ」

「…心配なんだ」

 

心配することなんて何もないのに、というのは簡単だ。でもそれで納得してくれる達也さんじゃないこともわかっている。

 

「なら、守ってくれる?」

「!ああ、俺が姉さんを守るよ」

 

うーん、締め付けが凄い。ちょっと苦しいけれど、これくらい我慢できずに何が姉か。

そっと背中に手を回し、ぽんぽん、と宥めて。

 

「頼りにしてるわ」

「任せて。必ず姉さんを守るから」

 

 

~~アイスピラーズに向かう前の顔見せの場面

 

 

「三高の一条将輝だ」

「同じく、吉祥寺真紅郎です」

「一高の司波達也だ」

 

一触即発の自己紹介に空気が重苦しくなるが、私が口を開くより達也さんが私に向けて声を潜めて耳元で先に控室へ行くように伝えてきた。

…わざわざ内緒話にして伝えられ、原作との違いに内心首を傾げながらもこちらからも了承の旨を耳に手を当て返して伝え、軽く目礼をして彼らの横を通り過ぎて控室へ。

その時一対の強い視線が突き刺さって追いかけてくるのが分かったけれど、振り返りはしなかった。

待つこと暫し、ノックの後達也さんが入室。

 

「何だったの?」

「ただの挨拶だ。――姉さん」

 

面白くなさそうな声に、何を考えているか思い当たってくすりと笑う。

 

「あからさまだったわね」

「…気になったか?」

「実は初日、皆から彼が熱視線を送っていたとは聞いていたの。気付かなかったし、どうでもよかったからそのまま伝えたらなんて言われたと思う?」

「なんて言われたんだ?」

「『深雪は弟に夢中だものね』ですって。その通りだわって返したわ」

 

ちなみにその時恋愛的な意味で?と冗談半分で聞かれた。もちろん否定したけどね。そんなこと言って達也さんのチャンスを潰したくないから。

でもその話は割愛する。

達也さんはその言葉にわかりづらいけれど口元を緩めたように見えた。

 

「…そうか」

「そもそも一条家の次期当主でしょう?あんなにわかりやすい態度で大丈夫かしら」

 

少し呆れを含ませて言えば、いいんじゃないか、と言った後、

 

「どうでも」

 

とそっぽを向いたのが可愛らしくて思わずぎゅっと抱きしめた。

達也さんは振りほどくでもなく腕の中に納まって、くれるサイズではないけれど大人しくされるがままになっていた。

 

「達也さんはもう少しわかりやすくなってくれてもいいのよ?」

「姉さんには全てお見通しだろ?」

「ふふ、それはお姉ちゃんだもの」

「…なら十分だ」

 

まだ、兄妹愛しか残されていないからこの繋がりに縋りたいのかもしれない。

そう思うと胸が苦しくなるが、今は安心させてあげる方が先だ。

 

「大丈夫。私はいつまでも貴方の姉だから。それはずっと変わりのない真実よ」

「……そうだな」

 

肩のあたりに顔を埋めた達也さんはしばらくそのまま動かなかった。

私も試合の準備があったがしばらく付き合うのだった。

 

 

~~閉幕式後、後夜祭合同パーティーにて

 

 

流石魔法師の卵の見本市、青田買いする大人たちに囲まれて大変だったが、勧誘の時間が決まっているのか自然と音楽が鳴りだしたタイミングで大人たちがはけていった。

そうすると学生の時間だ。

あっという間に知らない他校生に囲まれおめでとうと祝いの言葉を貰うが、しばらくするとスッと一条君が現れ面白いくらいに人が割れて道ができた。

大会ではあれだけ堂々としていて、先ほどもちらっと見ただけだが大人たちに囲まれても物おじせずに対応していた様子だったのに、一歩一歩近づくにつれ、次第に視線が不安定に揺れ、顔に緊張が走っている。

…遠くで一高女子が色めき立っているのが見えるね。楽しそう。

でも当事者の私はというと、

 

(これは後で達也さんの機嫌を取ることになりそう)

 

このところ独占欲を滲ませる弟のことを考えていた。

こうして10日間も離れて生活する(とはいえ食事時は一緒だが)のは初めてだ。

いつもと違う生活で鬱憤も溜まっていることだろう。それに――

 

(結局モノリス・コードも、無頭竜殲滅も避けられなかった)

 

原作のような悪目立ちはしなかったが、それでも目立つことになってしまったのは不可抗力とはいえ立場上あまりよろしくない。

 

(とはいえ叔母様は愉しんだでしょうけどね)

 

問題は分家を刺激したことか。まあ、そこは叔母様に抑えていただくとして。

やっと目の前までやってきた彼はお祝いの言葉を送ってくれたので、これまで受けてきたのと代わり映えのない返答をしたことで周囲はこの温度差を感じ取ったようだけれど、言葉を受けた一条君だけが舞い上がっていた。

…うん、もう少し周囲が見られればいいんだけどね。

そこへ先ほどまで企業のお偉方に囲まれていた達也さんが自然に割り込む。

 

「二日ぶりだな、一条将輝」

「司波、達也っ!」

 

…おや?なんというか…達也さんのセリフは原作と同じなのに、雰囲気が挑発的?

それに煽られる形で憎々しげに一条君が睨みつけている。

だが、挑発的だったのはそれまでですっと表情を普段の無表情に戻してこれまた自然に私の腰に腕を回した。見上げるとその表情は微笑みに変わる。

 

「キ、サマ!何を――」

「将輝、落ち着いて」

 

興奮する一条君に待ったをかけたのは、これまた大人たちに囲まれていたはずの吉祥寺君だ。

 

「――随分仲が良いんだね。姉弟には見えないよ」

「うちではこれが普通だ。他と比べられてもな」

 

あら、こちらでも火花がばちっと。達也さんったら好戦的。試合は消化不良でしたものね。ルールに縛られて苦戦を強いられて。仕方のないこととはいえやり辛かったでしょうに。

多少のずるくらいは許されても良いと思う。

勝った者が正義なのです!

と、思考が逸れていたら素っ頓狂な声が上がって引き戻された。

 

「……きょうだい…姉弟!?」

「名字で気付くだろう」

 

達也さんが眉間にしわを寄せてツッコむが、一条君は分かるか!と魂のツッコミ返し。

元気ですね。大変声が大きくて会場に響いた。

うぅん、これじゃあ一条家の名に泥を塗っちゃいますよー。

ってことで軋轢を生まないためにも間に入りますか。

 

「ふふ、一条さんには私たちが姉弟には見えなかったのですね」

「えっ…あ、はい…」

 

うんうん、急に縮みましたね。…もしやフォローになるどころか更に小者臭を漂わせてしまったかな。失敗失敗。

でも長年フォローしている吉城寺君がすかさずフォローに。

 

「将輝も女兄妹がいるからね。兄弟というものを知っているだけに君たちの距離感が信じられなかったんだよ」

「そういうものか」

 

あっさり納得を返すが、だからといって腰の腕は外さない。まあ、指摘されたからとわざわざ変えることもない、のかな。…お姉ちゃんとしては恥ずかしいけど、弟の勝負(何のかわからないけど)を邪魔してはいけない。

さて、この後の流れは一条君と踊るんだっけね。

 

(でも、どうしてそういう流れになったんだっけ)

 

確か、と思い出す前に体がぐらっと。達也さんにぐるっと反転させられたのだ。もちろんちゃんと支えられているので転ぶようなことは無いのだけど――正面で抱き合う形になってますね。

遠くでキャー!と悲鳴が聞こえます。あと、とっても近くで息をのむような音も。

 

「…あまりに不躾に視線を向けすぎじゃないか?」

「んな!?そ、そんなつもりは…」

「そんなに見つめられれば困らせることもわからないか?」

「!」

「一応交流の場だ。踊るくらいは許そうと思っていたが、失礼な男に姉を預けるわけにはいかない」

 

え、あれ?

なんだか展開がおかしなことになってますよ?

 

「くっ…お、お前に一体何の権利が、」

「権利も何も、弟として姉が嫌がる姿は見過ごせない。――出直してこい」

 

見えないところでなにやら勝敗がついた模様。

嫌がった、というより大きな音に眉をひそめただけなんですけどね。

一条君はすごすごと去っていった。

そして私たちはというと――騒ぎを起こしたことで落ち着かせるために会場をしばし離れるよう会長に言い渡された。

 

「こんなに簡単に二人きりになれるならさっさと問題を起こせばよかった」

「こら、そんなことを言ってはだめよ」

 

と、形だけ怒ったけれど、心がこもっていないのがわかっている達也さんも笑いながら「ごめん、姉さん」と返した。

くすくす、と月の下で笑い合っていると、会場から聞こえる音楽が変わった。

 

「姉さん、俺と踊ってくれませんか?」

 

跪いて乞う達也さんに、ドキッと胸が高鳴ったのを抑えることで隠して威厳を見せつけるように優雅な笑みを作る。

 

「喜んで」

 

 

その晩結局九校戦でほのかちゃんや会長と踊らせることもできなかったことに気付き、駄目な姉ぶりに落ち込むのだが、次の日達也さんのご機嫌な様子にまあいいか、と次に向けて新たに作戦を練るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

・関係を隠さなければならない理由があって姉弟のまま入学することになった弟の場合

(すでに高校入学前にぺろりと頂かれ、四葉内でのみ婚約者と決まり、外部にはまだ司波姉弟として過ごすことを命じられている二人という設定です)

 

 

「た、達也さん、待って!」

「もう少し。我慢して」

 

いつもなら姉の歩調に合わせて歩くが、今はそれもできそうになかった。

九校戦の前夜祭とも言える懇親会。

わかっていたが会場に入った途端姉、深雪に視線は集中した。

当然だ。これほど美しい少女は類を見ない。誰もが彼女を目にした途端目を奪われていた。

それは、まあいい。姉程容姿の優れた人間を前にすれば誰だろうと一度はそうなる。

そして好意を向けられるのも、無理もない。

中には行き過ぎた視線もあり、心の中だけで雲散霧消を唱えることで済ませている寛大な心を持っている自分に感謝してもらいたいほどだが、実際のところそんなことをすればただでは済まないと理解しているので何もできないだけなこともわかっている。

この立場が歯がゆいが、姉に恋慕を向けられただけで分解していれば地球上から半数近くの人を消し去らねばならない。

そんなことを姉は望まないと己を納得させ、黙っていられたのはその視線を見つけるまでだった。

人一倍、強い感情が姉に向けられた。その顔は魔法師の間では有名で、一般的に整った顔を惚けさせ姉に魅入った姿に――気が付けば俺は姉の手を握って会場を後にしていた。

姉の、深雪の驚いた表情、制止する声も聞こえていたが、それでも止まれない。

人気のない、柱の陰に隠れるように身を滑らせるとふらつく体を抱き留め息つく間もなくその唇を塞いだ。

あまりに性急すぎるキスに目も閉じることを忘れた深雪はされるがまま翻弄されていたが、ハッと気づいてどんどん、と痛くもない力で胸を叩く。

このまま強引にもできただろうが、名残り惜しむようにして開放すると息苦しさだけではないだろう涙目になって恨めし気に見つめられるが、まだ呼吸が整っていないので言葉にはならないようだ。

だから先手を打ってこちらから謝罪した。

 

「すまない。余裕が無かった」

「…いきなり、どうしたの…?」

 

深雪の凄い所は、こんな場面であっても一方的に叱りつけるでもなく原因を探ろうとするところだ。

本来なら怒っていいのに、『姉』であろうとする――、婚約者になっても、恋人になってもここだけは変わらない。そこもまた、愛おしい。

甘えるように頭をこすりつければ優しく包み込んで、自身の抱いた疑念も追いやって俺のことだけを考える、そんな姉だから、よりこうなってしまうのだろうとも思う。

 

「アイツが、見てた」

「…あいつ…?」

 

深雪は全く心当たりが無い様だった。そのことに少しだけ溜飲が下がる。

 

「一条家の長男だ。一条将輝」

「…見てたって言うのは、もしかして」

 

体を強張らせた深雪に、そういう捉え方もあるか、と即座に否定する。

 

「違う。四葉と疑われたわけじゃない。――見惚れられていた。一目惚れしたんだと思う」

「……見間違い…なわけはないのよね、達也さんだもの」

「ああ、深雪に向けられたモノは間違えない」

 

俺の眼の特殊性を理解している深雪はありえない、と否定しなかった。

ただ、どうして…と不思議そうだが、それこそ疑問にもならない。

相手は深雪だ。それで理由は十分だ。

 

「…でも、こんなことを言うのもあれだけど、そんなに珍しいことでもないでしょう?」

 

俺が嫉妬で行動を起こしたことまでを理解した深雪だが、キスまでしたことはやりすぎのように思ったのか不服そうに見つめられる。

確かに、かなり衝動的に動いてしまった自覚もあった。

 

「アイツは、他の男たちとは違うから」

「それは、十師族のご子息だから、ということ?」

「……そうだ」

 

他の男共に見惚れられたとしても、四葉は相手にもしない。だが、相手が十師族の、それも能力が高く実力も戦場での華々しい実績もあり折り紙付きとなれば分家の連中はそちらを勧める可能性だってある。

そんな不安を見透かすようにじっと見つめられ居心地が悪くなるが、両頬に手を添えられてしまい、逸らすことができなかった。

 

「おばかさんね」

 

聞き慣れない言葉と、額に押し当てられた優しい口付けに俺は魔法をかけられたように動けなくなる。

ただただ、優しく微笑む姉の顔に見惚れることしかできない。

 

「達也さんはとっても賢いのに、私のこととなると時におばかさんになるところも、好きよ」

 

いつもは照れて目を見ながらなんて言えないのに、まっすぐと射貫かれながら告白を受けた。

 

「まだ公開していないとはいえ、私の婚約者を達也さんと指名した時点で、もうこれは決定事項よ。いくら分家が騒ぎ立てても変えようがない」

「だが、」

「それに、私たちの想いは変えられない。そうでしょう?」

「!!」

「達也さんは私を手放せる?」

「いや、だ。絶対離さない」

「でしょう?――私も、」

 

そう言いながら腕を首の後ろに回して顔を寄せる。唇が触れていないのが不思議なほどの距離だ。

 

「もう『姉』だけで満足できないの」

 

だから、と言葉にしようとするのを物理的に止めた。

もう、その言葉だけで十分だ。これ以上貰ったら――衝動を堪えきれない。

 

「…ごめん、『姉さん』」

「ん…もう、大丈夫ね?」

 

ここは、いつ誰に見られてもおかしくない『外』で、俺たちの関係は一般家庭の『司波姉弟』。弟に甘い姉と、嫉妬深い弟の、仲が良すぎる『姉弟』。

 

「会場に戻りましょうか。会長たちに迷惑が掛かっていないと良いけど」

「どうせ皆には俺が嫉妬して我慢ならなかったんだとわかってるんじゃないか?」

「…それはそれで問題だと思うけど…、そうね。とりあえず反省した雰囲気で戻れば面目は立つかしら」

 

今度は姉に手を引かれる形で会場に逆戻りすることに。

 

「このまま恋人のフリでもしようか」

 

まだ人目が無いことを良いことに恋人繋ぎをすると、調子に乗らないの、とぎゅっと握り返してから元の形に戻された。

 

「…私はそこまで演技が得意じゃないもの」

 

早歩きをしていることで黒髪から時折覗く形のいい耳がいつもより赤らんでいるのが見える。

…ああ、できる事ならこのままUターンして部屋に戻って食べてしまいたい。

だが、そんなことをすれば姉を困らせてしまうことは明白。

 

「これから10日間我慢したら、ご褒美が欲しいな」

「…いい子にしていたら、ね」

「うん、約束」

 

今度は姉の方から小指に小指を絡められた。

そしてするっと離れて会場に戻れば、デジャヴのようにまた視線が殺到したが、ものともせずに一高の集団へと真っ直ぐ向かう。頭を下げる姉に合わせて頭を下げれば、会長からの小言の雨が降ってきたが、俺の頭は褒美に何を貰うかでいっぱいだった為聞き流した。

 

(――まただ。また一条の視線が、感情が深雪に向けられている)

 

非常に面白くない。

これまでの男とは違い、わずかでも可能性のある好意的な視線。ひときわ強い視線だ、深雪も気付かないわけではないはずだが、友人たちと軽食を摘まんで楽しんでいる姿に、心が落ち着いていく。

姉に誰よりも愛されている自信はある。無理やりではあったが振り向いてもらって恋人にもなれたのにこうして不安になるのは、俺とは違い、彼女には誰かほかの男を愛することができる可能性があるから。

もし、自分のような欠陥品より、完璧でいい男が現れたら――それこそ、深雪と並び立っても見劣りしない男が現れたら。

 

(俺は、深雪を傷つけても閉じ込めて独り占めしようとするだろう)

 

誰にも奪われたくないと。もう何者にも邪魔はさせない、と。

 

「達也さん」

 

軽食を乗せた皿を差し出す姉は、顰めた顔を作って「反省はもういいからちゃんと食べて?」とストーリーを添えて周囲への説明も兼ねているのだろう。

周りも、姉に叱られて大人しくなったのだとホッとした様子を見せていた。

なんだかんだ俺たち姉弟が仲違いしているのも彼らにとって具合が悪いことだったのかもしれない。

仲違いなどするはずもないが。

 

「姉さんはどれが美味かった?」

「そうね、このサーモンのマリネは真似てみたいと思ったわ」

 

この広い会場で姉を独り占めしている時間を用意してくれたんだ。しばらくはこの視線も我慢できる。

 

「美味しいでしょう?」

「美味いと思うけど、姉さんのも食べたい」

「ふふ、帰ったら楽しみにしてて」

 

(ああ、楽しみにしている。美味しいご褒美を)

 

 

だが、この後巻き込まれる騒動によって『いい子』ではいられなくなるのだが、浮かれ切っていた俺はその予感を感じることはできなかった。

 

 

 

~~アイスピラーズに向かう前の顔見せの場面

 

 

「三高の一条将輝だ」

 

鋭い視線を向けられ喧嘩を売りに来たらしい、と即座に悟ったので姉をこの場から一旦遠ざけることにした。

 

「『深雪』、先に待ってて」

 

姉はわざわざ名前で呼んだことに、しょうがない子ね、と苦笑交じりの笑みで返し一条たちに一礼だけして控室に入っていった。

その姿を視線どころか顔ごとで追いかける一条は、自身がどう見られているかも頭にないらしい。一条家直系の息子がそれで大丈夫か?と心配したのは、将来的にこれが四葉と並ぶ十師族の一柱になると思われるからだ。次期当主候補の姉にだけ負担がかからないと良いが。

 

「…確か君たちは姉弟だと聞いたけど」

 

吉祥寺からは自己紹介もそこそこに疑問を投げかけられた。

その確認は相棒を復活させるためでもあるのだろう。

 

「そうだが、姉弟と言っても一年も離れていないからな」

 

姉弟であっても名前で呼ぼうがおかしなことではない、と言外に伝えると…一条の顔がおかしなことになっていた。

深雪を追い出すのが早かったか?これを見せれば百年の恋も冷めそうなものだが。――いや、姉の感性は少しおかしなところがあるからこれでよかったんだろう。

 

「それで、用件があったんじゃないのか?」

 

わざわざ自己紹介のために来たわけではあるまい、と声を掛ければハッとなって表情が引き締まるり、まともになったが、男の顔を眺める趣味はない。さっさと終わらせようと無駄口を開かず話を聞けば、裏方の俺にまで宣戦布告しに来るとは。

直接遣り合うわけでもないのに暇なことだ。

 

(――もしや、深雪を見に来るために来ていたんじゃないか?)

 

そう勘繰りたくもなるが、それにしては挨拶もできずに素通りさせるというのもおかしな話だ。

言うだけ言って満足したのか彼らはすんなり去っていった。

 

「結局用件は何だったのか聞いてもいい?」

「表向きは宣戦布告のようだったが…よくわからなかった。なんだか気味が悪いな」

「あらあら、友情が芽生える日は遠いかしら?」

「なんだそれ」

「よくあるじゃない、戦ってライバルになって友情が芽生える、みたいな」

「本の中の物語だけだよ」

「ふふ、残念。達也さんのお友達ができるかと思ったのに」

「俺が、姉さんに近づこうとする男と?ありえないな」

「…近づこうとするかはわからないけれど、だとしても達也さんが守ってくれるでしょう?」

 

もちろん、私も隙を見せるつもりはないけれど、と微笑む姉を背後から抱きしめて。

 

「姉さんは誰にも奪わせない」

「なら、安心ね」

 

 

 

~~閉幕式後、後夜祭合同パーティーにて

 

 

学生だけの時間になると、姉は一気に学生に囲まれた。

最後の思い出作りに動き出した、といったところか。そこかしこで似たように囲まれている先輩もいた。

姉は表舞台にこそ立ってこなかったが人のあしらいについて経験が無いわけではない。

それに、姉のあまりの美しさもあって男たちも緊張して一定の距離以降縮められないでいた。

美しさとは人を寄せ付けるが、触れることは躊躇わせるのだ。

だが、その中に割り入ろうとする勇者が現れた。――一条だ。

適当に周囲の話を切り上げて、音と気配を抑えて姉の傍に移動する。

――ここで、自分のものだと叫べればどれだけ楽か。

だが、今それをしても一時的にすっきりするだけで誰も幸せにはなれない。

 

(姉も、喜ばない)

 

そんな無益なことをするくらいなら、弟として主張できる範囲で牽制する。それがこの場の最適解だ。

 

「二日ぶりだな、一条将輝」

「っ、司波達也!」

 

予期せぬモノリス・コードの対決で勝敗を喫したことにより恨みも買ったか。俺に向く分には構わないが。

…いや、違うな。視線は姉の腰――に添えている俺の手に向けられている。

 

「お前、弟だからと少しべたべたしすぎじゃないか?」

「よくわからん主張だな。家族で仲良くして何が悪い?」

 

それに、これしきの事でべたべたと表現されるのも納得いかない。膝に抱き上げているわけでも抱きしめているわけでもないのに。

とはいえ、学校内でもこういった触れ合いはしていない。牽制する相手がいない、というのもあるが、知人のいる外でのこのような触れ合いは姉が恥ずかしがるのだ。

そういうところも愛らしいが、外でできない分は家で触れ合えるので我慢も苦にならない。

 

「申し訳ありません、姉である私が甘やかしすぎているからでしょうね。ですが、この場では多少目を瞑っていただけると助かります。弟も一高三連覇貢献の立役者でもありますので」

「それを言うなら姉さんは新人戦じゃなく本線で優勝したじゃないか」

「それも達也さんの協力あってのことでしょう?」

「姉さんが頑張ったんだよ」

 

こういう場面だとやんわり引き離しつつ手を繋ぐくらいは許してくれるのが常だったが、今日は乗ってくれるらしい。周囲より自分を優先してくれたことにいつも以上に満たされる心地だ。

それを隠す様子もなく歯噛みして見ている一条は、やはり周囲が見えていないのだろうか。

そこへ、助け舟を出すように吉祥寺がやってきた。

友人やライバルになるとしたら吉祥寺の方が可能性がありそうだが、と思わなくもないが、それでも吉祥寺も一条の相棒だからな。

そして相棒らしく俺の相手を引き受け、せめてちゃんと挨拶くらいさせてあげようと誘導してみせるのは流石だ。

何とか立て直した一条がしどろもどろに姉を褒めたり祝いの言葉を掛けるが、それ以上の進展は無さそうだ。

会場の音楽が変わり、タイミングもあったのにダンスも誘えないヘタレらしい。

吉祥寺の目が座っている。流石にここまで動けないとは思わなかったみたいだ。

 

「先に作戦を立ててから行動するべきだったな」

「…そのようだね」

 

姉も経験は豊富とは言えないが会話術には優れている方だ。

何とか話を続けようとボールを投げるも、ラリーが続かず困ってしまっている。この辺りが潮時のようだ。

 

「来年は、負けないよ」

 

一条は吉祥寺に引っ張られて去っていった。

最後の最後まで姉を見つめながら。

それを姉は目礼して断ち切ると、困ったものね、と苦笑していた。

 

「踊りたかったか?」

 

周囲はすでにダンスパーティーを楽しんでいる。

一条と踊ることは姉にとって一種のステータスになったのでは、と思ったのだが姉は不思議そうに首を傾げるだけで。

 

「誘われたら踊ったでしょうけど、あのまま踊っていたらどちらか怪我をしていたかもしれないわね」

 

その怪我は物理的なモノか、はたまた精神的なモノか。

ニコリと微笑んだ姉は、ちらりと扉に目を向けた。

 

「少し疲れたわね。目立ってしまったようだし、外に出ましょうか」

 

その誘いは願っても無いもので、即座に行動に移した。

あまりに素早く動いたことが面白かったのか、姉はご機嫌に笑っていて、それがとても嬉しかった。

 

(この笑みをずっと見ていたい。――ずっと、俺だけのものであって欲しい)

 

外に出ると日は落ちて、月明かりが煌々と中庭を照らしていた。

 

「月が綺麗ね」

「…ああ、月が綺麗だ」

 

それが愛を告げる言葉なのだと教えてくれたのは姉だった。

直接的には言えないけれど、この言葉なら、と。

それがなんとも姉らしくて、愛おしくて、堪らなかった。

奥ゆかしさの中に、情熱はちゃんとあって。

 

「――俺と、踊っていただけますか」

 

儀式めいた動きと弟らしからぬ誘い文句に、姉は意図を悟ってくれた。

 

「ええ、喜んで」

 

月の下で、二人きり。

くるり、くるりと回っていく。

 

「お疲れ様」

「姉さんも」

 

こうして、長かった10日間は終わった。

 

 

 

~~おまけ、帰宅後

 

 

「おかえりなさい。大層な活躍だったそうね」

「お母様!体調はよろしいのですか?教えて下さればよかったのに」

 

姉は驚きと喜びに満ちて母の出迎えに感激していた。

どうやら九校戦の活躍を労うためわざわざ病院から戻ってきたらしい。

 

「こういう時はケーキを勝って祝うのでしょう?私が選んだの」

「!嬉しいです、ありがとうございますっ」

「これしきの事で泣くなんて、感情のコントロールがなっていませんよ」

「はい、先生。…ふふ」

 

電動車いすに乗る母に抱き着く姉からは見えない角度で母が不敵に微笑む。

…やってくれる。

本当ならこのままご褒美と称して姉を堪能するつもりだったのに。

 

「達也さんも随分と活躍されたそうだけど…随分派手にお片付けしたようね?」

「そちらは軍からの指示でもありましたので」

 

暫しにらみ合いの状態が続いたが、それを壊すのはいつも姉の役割だった。

 

「そういったお話は中で致しましょう。ケーキは一体どんなものなのです?飲み物はコーヒーと紅茶、どちらにしましょう?」

「貴女にお任せするわ」

「久しぶりの姉さんのお茶だ」

 

ようやく帰ってきた実感がわいた。

それは姉も同じだったのか、笑みが深くなった。

 

「そういえば、言い忘れてたわね」

「「ただいま」」

 

 

 






シーンだけピックアップして書こうとしたのですが、思ったより長くなってしまいました…

一条君が思ったより空気に(笑)
弟相手だと踊らせてももらえない、余裕など全くない弟になってしまいました。
前半のお話は姉視点だったので、弟の嫉妬があまり強く感じませんが、めっちゃ嫉妬してます。弟として甘えて可愛く見せていますがドロドロです(笑)
そしてキュンキュンしている姉は騙されています。…が、全く気付いてないかというとそうでも無かったり。恋愛だとは気づきませんが、弟が独占欲強いのは察していたり。それを知らないふりする姉は悪女です。ちゃんと強か。

後半の話はもう全開ですね。
途中『深雪』だったのが『姉』に変わっていたりするのは仕様です。心の中でも『姉』にしていないともっと欲が出てしまうから。意識から変えておかないと。
感想で頂いて、深夜様が生存バージョンをおまけで付け加えてみました。
ほとんど療養所か病院だけど、偶に体調が良くなると家に帰ってくる。本当は生きているのもギリギリだけど、精神力だけで耐えてる。生まれてくるだろう孫を見るまでは死ねない。でも18になるまでは子供は作らせないわよ、とお母様。あと5年は生きるつもり。意地でも頑張る。
ここのお兄様(弟)の永遠のライバル。多分母が居る時は完勝できない。きっとこの夜もキスくらいまでは許してもらえたけどその先はだめだった。ご褒美はまた後日へ…。

どちらも、男らしくありたいと思うけれど、姉に可愛がってもらえるのも好きなので言葉遣いが柔らかい。
姉がいないところではドライ&クール。お兄様ですからね、そんなもんです。
一応お外メインなのでえっちなのは極力減らしました。が、後半冒頭はがっつりちゅーしてましたね。失敗失敗。でもこんな感じです。お兄様の時のような余裕はありません。弟なので。

一条君自身は空気でしたが、弟なお兄様への刺激にはなっていたようです。
…こんな感じでよろしかったでしょうか?

感想頂きありがとうございました!

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