妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします! 番外編   作:tom200

70 / 119
深雪が風邪を引いた時のお話です。
色々ご都合主義満載です。この世界、風邪ってどう治すんでしょう?そもそも魔法ってどこまでできるのか。その辺の解釈はふんわり好き勝手書きました。
『再生』なら24時間前に戻せるから~とかは何も考えずにお読みください。
ほのぼの家族話。

頂いたお題
「深雪が風邪を引いたとき」
です。


風邪

 

 

深雪の不調に気づいたのは、一緒に寝ていた深夜だった。

ちりりん、と鳴るベルが、いつもより激しく振られた音に達也はノックもせずに部屋に飛び込んだ。

不安を掻き立てられる音を聞き入室前に深雪を視て、バイタルが異常だと気付いたためだ。

達也は後悔した。

本来であれば四六時中エレメンタル・サイトでチェックしていたいのだが、母である深夜からこの部屋にいる間は眼を向けなくても問題ないだろう、と位置の確認だけしかできないよう指示されていたのだ。

いくら兄妹とはいえプライベートな時間は大事だ、と。

達也もそのくらいの常識はあったので、しぶしぶではあるが、外敵の視線と位置情報だけにしていたのだが、それが今回徒となった。

 

「咳が、朝から止まらないようなの。熱もあるみたい」

 

落ち着いたような声に聞こえるが、相当動揺しているのだろう。そんなこと、俺が視ればすぐにわかるのに、と達也は思ったが口にはせず深雪をじっくりと見つめる。

瞳は熱で潤んでいる。赤い頬を見る限りかなり熱も高いようだ。吐息も熱っぽく、咳き込む様子は苦し気だ。意識はあるようだが目はうつろで、うわごとのように達也と深夜を呼んでいた。

そのことに達也と深夜は胸を締め付けられるような痛みを覚える。

怪我ではない病気に再生は効かない。己の無力さに達也はこぶしを握り締めた。

一旦四葉のかかりつけ医を呼んで診てもらい薬を処方してもらうべきだ。

達也は早速連絡して、一時的にも楽になるように氷嚢や濡れタオルを用意する、途中で気づいた。

(…いや、その前にすることがあった)、と達也は自身も動揺して正常な判断ができていないのだと反省する。

 

「深雪を自室に連れていきます」

「…ここではだめなの?」

「ここは母さんの部屋でしょう。一緒にいては風邪がうつる可能性もあります」

「風邪はうつした方が早く治ると聞いたことがあるわ」

「医学的根拠はありません。それに移すなら俺に移した方が母さんより治りは早いはずです」

「貴方はガーディアンでしょう。風邪を引かれたら困ります」

「それを言うなら母さんでしょう。貴女が風邪をこじらせでもしたら深雪が悲しみます」

「…」

「…」

 

不毛なにらみ合いはしばらく続くかと思いきや、深雪が咳き込んだことで中断した。

苦しそうな咳に二人の表情が他人の目から見てもほんのわずかに曇ったのが分かるほどだった。

 

「…どのみち、眠る時に一人の方がゆっくり休めるでしょう」

 

深雪の部屋に移動させるという達也に、深夜はそれ以上口を開くことをやめた。

 

 

 

抱き上げた深雪はパジャマ越しでも熱が分かるほど熱かった。

 

「おに、さま…」

「無理にしゃべってはだめだよ。のども痛いだろう?」

 

口を開かせのどを覗かなくてもひどく炎症を起こしていることはわかっていた。

こくり、と頷く深雪に達也は痛ましいと眉間にしわを寄せると、深雪の手がゆっくりと持ち上がり、達也の額に触れる。

 

「ここのしわは、いちどつくと、あとにのこっちゃいます、から」

 

苦しいだろうに笑って見せて安心させようとするいじらしい姿に、達也の胸は更に締め付けられた。

触れる手の熱さも、弱弱しさもすべて達也の心にダメージを与えていく。

どんな攻撃も無かったことにできる自動修復を持つ達也であってもこの痛みは一瞬では済まない痛みだった。

部屋に着き、ベッドに横たえて頭を撫でてやってから、氷嚢とタオルと水桶を取ってすぐ戻ると、息苦しそうに呼吸をする深雪の姿にベッドに駆け寄る。

 

「深雪…」

 

熱い吐息を漏らしながら、固く目を閉じて堪える様子に、俺が代わって上げられたらどれほどいいか、と無意味なことを考えながら達也は濡らしたタオルで汗を拭ってやる。

甲斐甲斐しく世話をしている間にようやく医者は到着した。

四葉の人間とわかっているが、警戒を怠ることなく達也はじっと傍に控えた。

医者と共に入室した深夜も傍で容態を聞く。

 

「熱は高いですが、薬を飲んで休めばすぐ良くなるでしょう。今の時期に流行っている風邪です」

 

その言葉に安堵した深夜だが、四葉の人間とはいえ外部の人間がいるのでそう、と素っ気なく返すだけの反応しか返せない。

どんな時でも誰であろうと隙を見せられないのだ。

たとえ娘が苦しんで咳き込んでも、その表情は崩れることはない。淑女の笑みを口元に浮かべながら礼を述べ、達也に後は任すと言ってすぐに部屋を後にした。

医者は深夜がいなくなると薬を渡し、服用の注意事項を述べて深雪に一礼してからさっさと帰っていった。

即効性のある注射を打ったので、一時的に容体が安定したようで深雪は眠っていた。

呼吸音はいつもと違っているものの、先ほどよりもずっといい。

達也は額に浮かんでいた汗を拭ってやってからいったん部屋を出ていった。

部屋の外には、戻ったはずの深夜が立っていた。

 

「…とりあえず、リビングへ行きましょう」

 

達也はため息を飲み込んで内心落ち着きのないだろう深夜を連れ立ってリビングに向かい、ソファに座らせる。

HARにお茶を用意させ、机に並べるも、深夜はそれを手に取るだけですぐに机に戻した。

見た目は悠然と構えているようなのにちぐはぐした行動に、彼女の動揺ぶりがうかがえる。

一方の達也といえば、薬も処方されたし容態も安定し始めている。バイタルはまだ脈が速いようだがこの様子では時期に落ち着くだろうとわかっているのに、どうにも座りが悪い心地がした。

すぐにでも深雪の傍に行きたい。行ったところで何もならないとわかっているのに、居ても立っても居られない状況に戸惑っていた。

重い沈黙がリビングに充満していた。きっとここに第三者がいれば逃げ出すだろう重苦しい空気だが、しかしここにいる二人はどちらも感情に欠陥を抱えているためそのことを気まずいと感じることも無かった。感じたとしてもそんな余裕はなかっただろうが。

 

「こういう時は傍に居てあげた方が良いのではなくて?」

「今は眠っています。下手に気配があると休めないかもしれません」

「…でも、目が覚めた時一人では、…寂しいのではないかしら」

「……」

 

達也にそのような過去は記憶を遡っても無いが、深夜には幼少期、熱を出して苦しんだ記憶があった。その時は片割れが手を握ってくれていたのが嬉しかったのを覚えている。

ぎゅっと握りしめた手は、当時の温もりを思い出しているのか。

達也は家族を知らない。だから調べる為に端末を操作した。

 

「――一般家庭では、風邪を引いた時果物を食べさせるようです。桃や…林檎が好まれるようですね」

「林檎、ああ。聞いたことがあるわ。林檎をウサギの形に切るんだとか」

「ここにもそのようにありますが…ウサギの形にする意味があるのですか?」

「貴方の言いたいことはわかるけれど、栄養価云々ではなく、特別感の演出ではなくて?」

 

深夜の指摘通り、達也が考えていたのは正にそのことだった。カットで栄養価が変わるという話は聞いたことがあるが、ウサギの形とやらに切ったところで変化があるとは思えなかった。むしろ摩り下ろした林檎ならば食べやすく、痛む喉にも滑りが良いだろう。

そう考えていたのだが。

 

「…喜ぶかしら」

 

その一言に、達也の指は画像を検索していた。

 

 

――

 

 

深雪ちゃんに成り代わってがむしゃらに突き進んでいた弊害が出たのか風邪を引いた。

しかも、久しぶりに病院から帰ってきた母と寝ている時という最悪のタイミングで。

自己管理はしっかりしていたはずなのに、と思ったけれど、昨日は滅多に外れることのない天気予報が外れ、季節外れのゲリラ豪雨が直撃したのだ。

本当に一瞬だった。冷たい風が頬を撫でたかと思うとどしゃーっと降り出したのだから。

だけど濡れたのは一瞬で、すぐに家の中に入ったし、魔法で水気も飛ばしたのだけれど、それでも、弱った体に雨は害だった模様。免疫力が弱っていたかな。

このところ食欲も落ちていたし、寝不足もあったかもしれない。久しぶりに母に会える、と浮かれて無理に課題を片付けたせいか。反省。

母は数ミリ単位で顔を顰めて不安そうに見つめていた。

駆けつけたお兄様も、心配と顔に書いてあるのが私の目からはよく見えた。

二人を心配させて申し訳ない気持ちでいっぱいだったけれど、悲しいかな。気持ちだけで熱は下がらない。

大丈夫だから、と声を掛けても無駄に心配をさせるだけ。申し訳ない。

お兄様に部屋を移動させてもらい、なんとなく頭を撫でられたりしたような気がするのだけど、朦朧としていてよく覚えていなかった。

医者に診てもらって注射を打たれている間も、お兄様が傍に居てくれるだけで心強く感じた。

それからすぐ眠くなり、意識を失うように眠った。

 

(早く良くなって、二人を安心させてあげなければ)

 

ふ、と寒さを覚えて意識が浮上した。

熱が上がりだしたのだ、と思い至る。

薬が切れたのかもしれない。

あまりの寒さに体を震わすと、手に温かなモノが触れて包まれた。

目を開けると、絶世の美女が眉を下げてこちらをのぞき込んでいるではないか。

 

(…ここは天国…?)

 

女神が迎えに来てくれたのかと思うほど、儚げ系美女のあまりの美しさに昇天しかけた。

 

「…あ、…か、さま」

 

女神ではなく母だったと気付き、手のぬくもりが母の手に包まれていたからだと知り胸が熱くなった。

ついでに脆い涙腺から雫が零れ落ちる。

すると、目の前の女神がおろおろとし出すので私は笑ってしまった。

 

「深雪?」

「ふ…ごめ、なさぃ…。ありがと、う、おかあさま…」

 

何とか言葉を紡ぐも、顔色は悪いのだろう、母は顔を苦しげにゆがめた。ああ、そんな顔をしてほしくないのに。今度は胸が苦しくなる。

でも、まずは想いを伝えなくては。

お兄様もだけれど、母も人の心を読むことはとても難しい。だからできるだけ言葉にして伝えなければ届かない。

 

「傍に、いてくださって、とても嬉しいです…だから、ありがと…ございます」

「無理に口を開かなくて結構よ。貴女には休息が必要なの」

「――失礼します」

 

入室してきたお兄様は手に毛布を抱えていた。

今、一番欲していたものだ。

 

「お兄様、ありがと――ゴホッ」

「無理に話さなくていい。お礼は治ってからまとめて聞くから」

 

優しく微笑まれて、やっぱりここは天国かな?と正常ではない頭がおかしか思考に流れていく。

あまりに幸せすぎてまた涙が零れたのを、今度はお兄様が掬い上げるように拭った。

 

「医者が言うにはもう一度熱が上がってから落ち着くんだそうだ。だから安心してお休み。起きたらご飯を食べて薬を飲もうな」

 

もう少し寝なさい、とお兄様に声を掛けられると頭に霞が掛かるように急に眠気が襲い掛かる。

二人ともう少し一緒にいたいという寂しさもあり、二人のことを呼んで眠りについた。

 

 

 

次に意識を浮上させた時には誰の姿も無くて、寂しさを抱いた。

弱ると人が恋しくなるというのは本当だった。

だが、それを口にするよりも早く、部屋の扉が開いた。お兄様だ。

 

「気分はどうだ?」

「大分、楽に…」

 

体を起こして楽になったと言いかけたところで咳が出て、お兄様が背中をさすろうとするのだけれど、

 

「あの、汗が、すごくて今は…」

 

出来れば触られたくない、と言いかけたところでお兄様が手にしていたのはタオルだった。

…イリュージョンです?どこからタオルが出てきたのだろう、と思ったら枕元に用意されていたのを手に取ったようだった。準備が良い。

そして着替えも用意されていた。

………

 

「服は脱げるか?難しいなら手伝うから言ってくれ」

 

お、お兄様に着替えを手伝わせる!?そんなことできるわけがない。

風邪とは違う熱でカッと体が熱くなった。

 

「あ、の…自分で…」

「だが、汗はぬぐえないだろう」

「魔法で…」

「この状態で魔法を使うことは許可できない」

 

Oh…困った。お兄様が引いてはくださらない。

でもこちらも思春期の女の子なのです!心はとっくにアレですけども、というかむしろ余計にさせるわけにはいかないといいますか!

 

「…達也、貴方は外に出ていなさい」

「お母様!」

 

救世の女神が現れた!

お兄様がタオルを持って詰め寄っている姿に、来たばかりの母は状況を一瞬で理解したらしい。

 

「奥様にそのようなことはさせられません」

 

お兄様はいつの間にかガーディアンモードになっていたらしい。

 

「では母として、娘を辱めるのを傍観できないわね」

「……」

「……」

 

にらみ合う母とお兄様。

どちらが世話をするかで互いが譲り合わないこの状況。…私の為に争わないで、って言ってもいい?

しかしこのにらみ合いは、お兄様が目を閉じたことで勝敗が付いた。

 

「ドアの前におりますので」

 

タオルを渡して去っていく背中は少し丸くなっているように見えた。

なんだか申し訳ない気がしてその背を見つめていたのだけれど。

 

「同情する必要はないわ。あの子は淑女に対する配慮に欠けています」

 

…それはそうだ。

あのまま拭われていたら、私はしばらく立ち直れなかった。

かといって、

 

「お母様にこんなことをさせるなど…」

「こんな時くらい、母親らしいことをさせなさい」

「!!…お、お願いします」

 

私は今、どんな顔をしているのだろう。情けない顔をしているのではないだろうか。

母はそれを咎めることなく微笑むと、私のボタンに手を掛けた。

…美女に脱がせてもらうって、ヤバいね。ちょっと変な気分に――ってそうじゃない!

 

「ひ、一人で脱げます!」

「深雪」

「ひゃい!」

「良い子だから、動かないの」

「!!…はぃ///」

 

中学生なのに幼子に言い聞かせるように言われてしまい、羞恥と喜びで心の中が大変なことになっていた。

…これが赤ちゃんプレイ、とか邪なことは考えていない。

かちんこちんに固まっているのを、そんなに緊張しなくていいのよ、と笑いながら脱がせていく母に心臓は鼓動を早める。

このままでは倒れてしまうのではないかと言うほどの緊張感。上半身を脱がせてもらい、タオルで優しく拭われる。

届かない背だけお願いして、前は自分で拭わせてもらった。そして新しい服を身に着けてようやくほっとしたところで、ノック音が。

母がわずかに顔を顰めた。

美女が顔を顰めるときゅっと心臓が握られたような心地になるね。

お兄様が入ると同時に良い匂いが。

時計を見るとお昼を回っていた。

 

「食欲はないようだけれど、少しでも食べないとね」

「…はい」

「あとは私がやるわ」

「母さんにこのお盆は重いでしょうから」

「これくらい、大丈夫よ」

「…」

「…」

 

このにらみ合い、この後何度あります?

とはいえ母の方が立場が上なので最終的に押し切られたらお兄様は引き下がるしかないのだけれど。

というより不毛な争いはやめて私の体調を優先にした結果なのだろうね。

無言で引き下がるお兄様に、勝利の笑みを浮かべつつ、レンゲにおかゆを乗せてあーん…美女のあーん、の威力よ。

もうドッキドキだよね。それを表情に出さないように頑張ってるのを誰か褒めてほしい。

本当に、なんだってこんな体調の悪い時にこんなに頑張っているのだろう…。

でも、いくら美女パワーがあっても食欲はごまかせない。

ある程度食べ勧めたところでぴたりと口が開かなくなった。

母を悲しませることに心が苦しくなるけれど、三分の二も残したのに頑張ったわね、と頭を撫でられて照れて俯くしかできなかった。

そして場所を交代するようにお兄様が薬を用意してコップを渡してくれる。

本当に至れり尽くせりで、恐縮しそうになるけれど、病人なのだから、とこれまた頭を撫でられて何も言えなくなる。

咳は出るけどね。

薬は吸収を早める為か錠剤ではなく粉だった。おかげでとても苦い。口の中に苦みが残り、思わず顔を顰めたのを、お兄様が苦笑しながらよく頑張ったねと褒め、おかゆの横にあった容器を手にして開けて見せた。

 

「苦いのを我慢したからね。ご褒美にデザートはどうだ」

 

…お兄様、何時の間に飴と鞭を使い分けられるようにおなりで⁇

しかも――

 

「うさぎさんっ…」

 

ピックに刺さっているのは何とリンゴのウサギさんで。

これはHARにこんな装飾の機能は無かったはずだ。

つまりこれはお兄様か、母がカットしたということで…。

 

「お腹いっぱいだろうが、食べられそうか?」

 

心配そうなお顔のお兄様に力いっぱいコクコク頷いたらちょっと気持ち悪くなった。

でも、そんなことも気にならないくらい、私の胸は幸せでいっぱいだった。

それが表情にも表れたのだろう。ずっと心配そうであった雰囲気の二人の空気が和らいだ。

首を伸ばさなくても口元に運ばれたウサギをしゃくり、と音を立ててかぶりつく。

味は、正直熱でよくわからない。

それでもこのリンゴが世界一美味しいということは分かった。

 

「美味しいです…今まで食べたリンゴの中で、一番おいしい…」

「それは良かった。元気になったらいっぱい食べられるからな」

「…その時は、ウサギさんはありますか?」

「お前が望むなら」

 

いくらでも用意するよ、と微笑まれて、偶には風邪を引くのも悪いことじゃないな、と甘えたことを考えてしまうのは中学生女子として年相応の発想に思えて笑ってしまった。

 

「さ、もう寝なさい。次に起きたらもっと気分は良くなっているはずだ」

「はい、お兄様。お母様も。おやすみなさい」

「「おやすみ」」

 

初めて二人のユニゾンの声を聴いた。

まだ低くないお兄様の声と、落ち着いた母の声のハーモニーは天上の歌にも勝るものだった。

 

 

 

 

5年後――

 

「お兄様、今日は食後にリンゴでもいかがです?」

「わかった」

 

水波は初めて達也が食材を持ってキッチンに立つ姿を見た。

そして器用に果物ナイフを操ってリンゴを切るのだけれど――

 

「…え?」

「ふふ、水波ちゃんは初めてよね」

 

主人である深雪がとてもご機嫌な声で水波の肩に手を置いてその姿を見つめている。

それはそれは、嬉しそうに頬を緩ませて。

あまりの美しさに水波は見惚れながら耳を傾けた。

 

「リンゴはお兄様担当なの」

「とはいっても、俺はこれしかできないがな」

 

そう言ってお皿に並べられたのは、可愛らしい、赤い耳のリンゴのウサギ。

そして、一羽だけ小皿に移されて、深雪が写真立ての前に置く。

 

「さ、夕食をいただきましょうか」

 

水波は、今後リンゴだけは自分で調理してはならない、と心にしっかりとメモをした。

 

 

 

 





中学時代、まだ『家族』になりたての三人のお話でした。
がむしゃらに努力してぶっ倒れた妹はこれから自己管理も徹底することでしょう。もう二人を心配なんてさせない!悲しませない!!
お兄様と深夜様の妹(娘)の取り合いはガーディアンの立場に縛られて、まだ家族というものに戸惑っているお兄様の方が分が悪い。
リンゴの失敗作(第一号)は深夜様が文句を言いながら食べました。つんつん。お兄様は文句を言うなら食べなければいいのに、と釈然としていないけど余計な口は開かない。ここに妹がいればきっと大喜びだった。
家族にとってリンゴが特別なものになった。
お兄様がウサギさんカットしてるところが見たいですね。

家族のお話が書けてとても楽しかったです。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。