妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします! 番外編 作:tom200
古都内乱編中~継承編前の間くらいの話ですが、夏という摩訶不思議なことになってます。謎時空。
幼児化はファンタジー☆を合言葉にふわふわご都合主義設定ですのでご注意ください。
頂いたお題
『深雪が幼児化』
です。
目が覚めたら幼女になっていた。
「…おーけぃ、よくあるてんかいってやつ」
幼女、知ってる。じゃなかった。オタクは知っている。
これはよくある幼児化展開。支部で見た!ってやつです。
というか、この世界でよくその不思議な力が働いたね。お兄様が私を害される『何か』をされて気付かないとかそんなことある?まあ、これどう考えても人為的な魔法じゃないものね。サイオンもプシオンも関係ない。
小さくなっているだけで異常らしい異常は見当たらない。
(…しかし、これは…)
己の手をじっと見つめる。
グーパーして、感触を確かめて。
「ちいさなおててだこと…」
モミジのような手、とはよく言ったものだ。でも丸みを持っているからむしろそれよりもクリームパンの方が近いかもしれない。
思っている以上の幼女の気配に不安を覚えつつ、このままではどうしようもない、と端末に手を――、手が届かない。
(え?嘘でしょう⁇サイドテーブルに手が届かないって…て、ベッド高い!こわい!!)
ふえ、と自分から幼女の声がする。涙腺もゆるゆる。
どうやら感情まで外見に引っ張られているようだ。
つまり、この後の展開はとても分かりやすい。
「ふぇえええええん!」
まあ、泣くよね。
ドアがノックされる音にびくぅっとなって布団を抱き寄せふるふるしてしまう美幼女(推定)、深雪ちゃんです。多分3歳。
頭ではお兄様だ!とわかっていても大きな音が怖くてたまらない。
涙がぽろぽろ流れる。
「深雪?起きているか?」
やっぱりお兄様だ!
嬉しいのに口からはひっくひっくとしか音にならない。
「う、うう~~」
何とか音に出したけれど、言葉にはならない。これが精いっぱい。
伝われー!と念を送ってみると「入るよ」との声が。
流石お兄様!妹のピンチに気づいてくれる!
そして入ってきたお兄様はベッドの上の私に視線を向けて目を見開いて固まられた。
私もまた、シンクロするようにびたっと固まった。
しばし見つめ合う17歳と推定3歳児。
先に動いたのは私の方だった。
「…にぃーしゃ」
……弁明させてほしい。
泣き疲れた幼女の活舌は大変悪くなる。自分としてはお兄様、と呼んだつもりなのに。『お』はどこに行ったんだろうね?
手を伸ばしてお兄様を呼んだのだけど反応が無い。
もしかして聞こえなかったのだろうか。
「ぉにーしゃ、…う~」
もう一度、と頑張ってみたのだけどうまく言えなくて悔しさに涙が滲む。幼女の涙腺は壊れた水道の蛇口並みに緩い。
泣きかけたところでお兄様が動いた。
すべるようにベッドに駆け寄るとじっと私を見つめてから天を仰ぎ、ふぇ、と泣きかけの声に慌てて見下ろして中腰になって顔の高さを私に合わせると、恐る恐る手を伸ばして頭に触れる。
とても大きな手だった。それがとても軽いのはお兄様が力を入れないようにしてくれているからだろう。
「深雪、だな。この反応、DNAもすべてが深雪であることを示している」
こくん、と頷くと、お兄様は少し安堵したように肩から力を抜いた。
「俺の言葉が分かるんだね?つまり、意識は高校生の深雪で間違いないか?」
またもこくんと頷いて返す。お兄様、流石の分析力。助かります。
そうか、と今度は目を細めて口元を緩ませた。
「どこか痛い所やおかしなところは無いか?…小さくなっている以外のことで」
ふるふる、と今度は首を横に振るとお兄様は頭の手をどけて、
「かなり泣いたようだね。顔を拭おうか」
そう言って大きな手で頬を拭う。
親指をスライドさせるだけでほとんどの痕が無くなった。
「ぉにいさ、て、おっき!」
『さ』が言えた!と嬉しくなるけど他が全く言えてない…。
お兄様手が大きいですねと言いたかったのに。でもなんとなくニュアンスは伝わるよね。
「そうだな。だけど俺が大きいんじゃなくて深雪が小さくなった、が正しいだろう」
そうですね。言葉が通じるだけでにっこりしてしまうと、お兄様が硬く目を瞑って俯かれてしまった。
心なしか、震えているように見える。
「にぃしゃ、どー?」
ああ…さ行の難しさよ…。どうしました?ってとっても難しい言葉だったんだね。
てちてち、とお兄様の添えられた手を叩くのだけど、更にお兄様の震えが大きくなるばかり。
お兄様どうしました?もしやお加減が悪くなられたのでは?!と不安になっていると、お兄様はとてもか細い声で違うんだ、と言った。
…こんなお兄様の声聞いたことが無い。
一体どうしたというのか。不安でもう片方の手で布団を握りしめると、お兄様の手が重ねられた。
とても大きくて何倍もある手が包み込むように形を変える。
「すまない、不安にさせたな。俺は大丈夫だ。ただ――深雪が可愛すぎてな」
……んん?
「あまりの深雪の愛らしさにどうしていいかわからなくなった」
…おおう…なんということでしょう。
お兄様が幼女にノックアウトされてました。
…正直鏡が見れないのでどのような恰好をしていて、どのような幼女なのかもわからない。
「うー…」
「すまない。お前だって混乱しているだろうに。とりあえず服が必要だな。しばらくここで待っていてくれるか?とりあえず水波を連れてくる」
言われて自分の恰好に目を向ける。夏ですからね。珍しくワンピース型の半袖のパジャマを着ていたことが幸いした。半袖が長袖のようになっていたけれど、何とか肩に引っかかっていたのでお兄様のラッキースケベにはならずに済んだようだ。…幼女相手には発動しないってことかな。とりあえずお兄様に汚名が着せられなくてよかった。
あ、でも。
「みぃちゃ、まだおき、ない」
…あああ…水波ちゃんって言い辛いぃ!まだ起きてないと思います、と言いたかったのに。
「…そうか、まだ起きてないか。確かにまだ起床時間ではないな」
お兄様がサイドテーブルの上の時計を見るけれど、残念なことに私にはそれが見えない。幼児とはこんなに小さなものだっただろうか。小人になった気分だ。
…しかし、ここで大問題が発生した。
幼児の体は素直だ。泣きたい時に泣き、欲しいと思ったら何が何でも欲しくなる、らしい。
そして――朝、寝起きにしたいことと言えばただ一つ。
くいっとお兄様を引っ張る。
「ぉにぃしゃ、みぃちゃ、あいたい」
「……俺じゃダメか?」
お兄様が悲しい顔をされてしまった!でもここで私が折れるわけにはいかない。
…もう限界が近いのだ。
うるうるお目目も潤みだす。
「…おとぃれ、いきた――」
「水波を起こそう」
お兄様は私を抱きかかえて即部屋を出て水波ちゃんの部屋の前で強めに叩いて声を掛けた。
「水波、起きてくれ!」
こんなお兄様の必死な声は滅多に聞けない。
水波ちゃんは着の身着のまま部屋を飛び出してお兄様に抱えられている私を見て固まるところで、
「時間が無い、水波。深雪を――この子をトイレに連れてってやってほしい」
切実なお願いは、水波ちゃんに届く。
彼女は何も言わずに差し出された私を受け取り、ひどく混乱しているだろうに言われるままにトイレに連れて行ってくれた。
出来るメイドは、講習を受けたことがあるのか、たどたどしい手つきながらも一生懸命お世話をしてくれました、まる。
「ど、どど、どういうことです達也様!?」
トイレが終わり、綺麗にしてもらって抱き上げられて、水波ちゃんはリビングでお兄様の姿を確認するなり悲鳴を上げた。
その声にびくり、と身体を震わせてしまい、水波ちゃんが慌ててすみません、と謝るけれど、わかるよ。混乱もするよね。
寝起きに急に幼女の世話を頼まれるなんて。
「みぃちゃ、めんね?」
潤む瞳で謝ると、水波ちゃんはうっ、と息を詰まらせて顔を逸らす。…うん。なんか、ごめん。
でもね、私にも何が何だかわからないんだよ。目が覚めたら幼女になっていたわけだからね。
一瞬某名探偵がよぎったけれど、別に怪しい男の取引なんて見ていないし、薬も飲まされていない。
そんな形跡があればお兄様が気付かないわけがない。
そして当然魔法の形跡もない。当然、身体を縮めるような魔法など知る限り無い。…だけど知っている。直感で分かる。これはインスタント幼女!一時的に幼女にされてしまう、オタクの願望の具現だ。
だから元に戻らないとかそんなことはないと知っている。これはもうさんざん擦り倒されているご都合主義の王道展開だから!
だから、乗るしかない。このビッグウェーブに!
「にーしゃ、みぃちゃ」
こんなものはノリで乗り切ってしまう!これに限る。割り切るのだ。今の私は幼女!つまり何をしても許される存在である、と!幼女ムーブを全力で楽しもうではないか!
「こぇ、きょ、だけだぁら、だいじょーぶ」
んしょ、んしょ、と一生懸命口と手を動かして伝えると、お兄様はじっと無表情でこちらを見つめ、水波ちゃんは困ったように見つめ。何とか言葉を理解する。
「今日だけ、と。深雪はそう思うのだな?根拠を聞きたいところだが、今の深雪に説明は難しいだろう」
こくこく、と頷くと、お兄様は水波ちゃんを呼んだ。
水波ちゃんが私を抱く手にわずかに力が籠められる。
「達也様、本気でこのお子様が深雪様だと――」
「深雪であることは間違いない」
「…ありえないでしょうが、深雪様のお子様という線は」
「絶対にない」
お兄様の眼のことを水波ちゃんは知らないので、あらゆる可能性を考えたんだろうね。
でも流石に私の子供ってことは――ああ、調整体…四葉の闇のせいでした。
「みいちゃ、にっき、みんなのひみちゅ」
「!!」
とりあえず本人であることを伝えるために私たちの秘密を暴露してみる。
「本当に…深雪様なのですか?」
驚愕を張り付けたような顔に、とても悪いことをしてしまったような気がして涙腺が開く。
「めんねぇ…っく、」
「も!申し訳ございません深雪様!疑ったわけではないのです!!ただ…とても信じられることではなくて、現実逃避をしてしまいした!」
「んーん、みぃちゃ、わるぅない」
小さなおててを必死に伸ばして水波ちゃんの頭をポンポンする。
だけど悲しいかな、力加減がうまくいかずぺちぺち叩いている感覚。痛くはないだろうけど、なんだか申し訳ない。
しかし、泣きながら頭を撫でられるって、水波ちゃんも困っちゃうよね。
案の定真っ赤な顔をしておろおろしていた。うん。幼女が申し訳ない。
「水波」
困っている水波ちゃんに、お兄様が救いの手を伸ばす。
「俺が預かっている間、深雪の服を頼めないか?ぶかぶかで、風邪を引いたら大変だ」
「!わかりました!…けどこんな朝早く子供服を注文しても届きませんよね…」
この世界は魔法のある世界だというのにビ〇デバビデブーが使えない。妖精の仕立て屋さんはいないのだ。残念。
「みぃちゃ、きゃみ!りぼ、でわんぴーしゅ、なる!すとーる、まく」
「キャミソールをワンピースに、ですね!わかりました」
流石スーパーエリートメイド!主の願いを読み取るのが上手い。なんとなくイメージは伝わったみたいで一安心です。
そして水波ちゃんからお兄様に渡されるのだけど…お兄様って小さな子、抱っこしたことありませんね。さっきは腕に乗せていたので私がお兄様にしがみついてバランスを取っていたけれど、わき腹を持つのにとても恐々と触れられた。握りつぶしちゃうのでは、とか心配してそう。眉間に皴が。
「にーしゃ、だいじょぶ」
確かにお兄様の握力で強く握られたら危険だろうけれど、触れるくらいでは折れたりしない。
水波ちゃんもちょっと不安そう。
うーん…そうだ!
「そは!」
「そは?…ソファか」
流石に伝わらなくてソファを指さしたらお兄様が察してくれた。
「そうだな。座って支えるなら俺にもできそうだ」
ということでソファに移動。
水波ちゃんは服を取りに行った。
だけど、もしかして、コレ三歳にも満たないんじゃ…思ったより喋りづらい。寝起きは結構流ちょうに喋れてたのに。あれかな。興奮状態だと舌ったらずになるっていう。落ち着けば喋れそうだけど…これはこれでいいか?幼女っぽいし。
言葉は良いとしても、頭も重いしバランスがとりづらくてしょうがない。三歳ってもう少し動き回ってるイメージなのだけど。
一応立てそうだけどね。とりあえず服を着るまで動き回らない方が良さそうだ。
今はずるずる引きずっている状態だからね。
ということでソファに移動してきたのだけれど、お兄様のお膝の上に乗せられましたね。
「にーしゃま?」
「こちらの方がバランスが取りやすいだろう」
すぐに支えてやりやすい、と言われればここが一番いいのは確かだ。
お兄様の好意に甘えるとしよう。
「ありがと!」
「…どういたしまして」
幼女の笑みに、お兄様は少し困惑気味に微笑まれている。…お兄様、幼女苦手?というか戸惑ってるね。
朝一は可愛いと言ってくれたけど、アレ以来お兄様はずっとこんな感じだ。
「ぉにーさま、こまりゅ?」
…うう、一つ成功すると一つミスるシステムです?口を手で押さえて俯くと、お兄様はすまん、と謝って頭に手を置いて、ゆっくりと手を動かした。
「…俺は五歳以前の記憶が曖昧なんだ。全くないわけではないんだが、夢と区別がつかない朧げな記憶しかない。だから深雪がこれくらい小さな頃に会ったかも曖昧でな」
お兄様は人造魔法師実験の手術により術後以降の出来事はすべて覚えている。6歳以降の記憶はすべてあるということだ。だが、それ以前となると曖昧で――と言うけれどそれが普通だ。しかも私が3つくらいなのだとしたらお兄様は4つ。覚えている方がごく少数だ。
「ああ、別に悲しい話じゃないんだ。すまないな。説明が難しいんだが…そうだな。簡単に言えば、この頃の深雪はこんなに愛らしかったのかと思うと、覚えていないことが悔やまれると思っただけなんだ」
んー、お兄様、途中で何か端折りました?たぶん何かあったよね。言いたくないならそれでもいいのだけど。それにしても愛らしい、だって!
きゃー!と両頬を挟んで喜びのゆらゆら。
「こら、危ないぞ」
嬉しさのあまりお兄様の膝の上だということを忘れてました。
でもお兄様、こら、と言いながらとっても叱る声には思えないのですが。甘々ヴォイス。
「めんしゃい」
「謝れて偉いね」
わーい、頭を下げたらお兄様に褒められちゃった!と喜ぶ半面、お兄様、私が高校生の意識を持っていることを忘れてませんか?いや、さっきも言ったじゃないか。お兄様はすべて覚えているのだと。…覚えてい、るんだよね?
私は体に感情を引っ張られてる感覚があるけれど、お兄様はいつも通りのはずなのに。…幼女マジックにかかりました?幼女の前では皆甘々になりますから。
「にぃさま」
「何だい?」
「んーん、なんでもにゃ、い」
「そうか」
むぅ、上手く発音ができない。一回目は成功したのに。
ご不満!と頬を膨らませているのに、お兄様はとても微笑ましそうに微笑まれている。
一度やってみたかったんだよね。名前を呼ぶだけって。
ほら、大きくて同じことをやるととっても恥ずかしいけど、幼女なら許されるかなって。
その通り、お兄様は許してくれているようだし。やっぱり幼女、最強。
だんだん調子に乗ってきた。
くるっと回ってお兄様に抱き着く。ギューッとハグ。背中をポンポンされる。
「ふふふ」
嬉しくてたまらないと見上げると、お兄様も笑ってくれていて、それが更に嬉しくなってお兄様のお腹に頭を埋めてぐりぐりと擦り付ける。
「マーキングみたいだな」
「いたい?」
「まったく。くすぐったいくらいだよ」
好き勝手やっているのに、お兄様は嫌がるどころか楽しそうで、次は何をしてくれるのかな、と期待しているように見つめられ、今度は何をしようかとうずうずする。
私にはお兄様のような記憶力はない。絶対記憶云々の話ではなく、そもそも幼少期の時の記憶なんてほとんど持っていなかった。
深雪ちゃんとして生活していた間も、元々夢うつつ状態だったのであまり自分の記憶の気がしていないのだ。
小さい頃は、あんな父でも多少懐いていた記憶と、母が大好きだったことは覚えているけれどお兄様の記憶は、この人が兄だと教えられ、近づいてはいけないと言われて困惑したり悲しかった記憶が薄っすら残っている程度。
そこからは、周囲の反応を見て気にしないように心掛けながらチラ見するくらいで。そんな幼少期だった。
(小さな頃から大好きよ、と伝えることができたなら――何か違っていただろうか?)
お兄様の孤独に寄り添えただろうか、と夢想せずにはいられない。
だからこうして、奇跡のように幼女としてお兄様が大好きな状態でこのように甘えられるのは、ファンとしても、妹としても嬉しくて、やってみたいことがたくさんぽこぽこと浮かんでくる。
時間は有限だから。
「お待たせしました!」
ぐりぐりしてたら水波ちゃんが戻ってきた。
手にはいくつかのキャミソールとストールだけでなくスカーフなどもあった。確かに夏場だから覆えるだけのスカーフでも有りだ。ストールだと大きすぎるというのもある。
「おかぇりー!」
にこーっと返すと水波ちゃんがまたもやうっ、と胸を押さえた。すまない。幼女、スナイパーだから。ハート打ち抜くのが上手いの。
「随分たくさん持ってきたな」
「どれくらいの長さが良いかわかりませんでしたので、いくつかタイプの違う物をお持ちしました」
ということで試着会が始まったのだけど。
「ふむ、これも良いな」
「こちらのフリルも可愛らしいですよね」
「レースだと大人っぽいか?」
「これはこれでスカーフを合わせるとお嬢様のドレス風になりますね」
「何かアクセサリーが欲しいな…確か真珠のブローチがあったはずだ」
「!スカーフに合いますね。持ってきます。ついでに髪飾りも探してきます」
「頼んだ」
「達也様はその間にウエストのリボンをお選びになっていてください」
「わかった」
……着せ替え人形にされてます。
着道楽ではないので原作ほど種類は多くないはずなんだけど、もう片手では足りないくらい着替えている。
いつもなら何着着替えたか覚えていられるけど、思考まで大分幼女化しているのか、もう飽き始めていた。
「う~、おにーさまぁ」
「疲れたな。あと少しだから、もう少しだけ付き合ってくれるか?」
いつもならば頷けるのだけれど、幼女、欲望に忠実なので。
「おなかしゅいたの…」
「…そういえば、まだ朝食を食べていなかったね」
そうなのだ。朝早くに起きたけど、もうとっくにいつもなら朝食を食べている時間になっていた。
「すぐにリボンを選ぼう。髪や装飾は後にしても、服は決めてしまわないとな」
動きづらいだろうから、との言葉に渋々納得した幼女はご不満顔のまま付き合うのだった。
朝食は、食べやすいようにマッシュポテトと野菜のポタージュとパンだった。
隣で水波ちゃんが甲斐甲斐しく食べさせてくれるのは、自分で食べられる!と意気込んだはいいもののスプーンで口に運んだら口がべとべとになったから。…すまない。このクリームパンのおててはなかなかに扱いが難しい。
お兄様と水波ちゃんがどっちがお世話するか攻防を繰り広げたことは記憶の彼方。
スープおいしい。
でもね。
「みぃちゃんもたべて?」
私の世話ばかりで水波ちゃんが全く食べられていない。
「私は後でいただきますので」
「…みぃちゃんもいっしょがいぃ…」
しょんぼりして俯くと、水波ちゃんが隣で苦しそうに胸を押さえているけれど、一人だけもぐもぐしてるのってとっても寂しいのですよ。多分ある程度お腹が膨れてきたから生まれた余裕が、そう思わせたんでしょうね。
「水波、交代だ」
するとお兄様が立ちあがって、場所のチェンジを申し出た。
あ、食事はいつものダイニングで。いつもの椅子にクッションを敷き詰められてふわふわの椅子に座ってます。
というか埋もれて収まってる?落ちないようにという配慮です。
「おにーさま、ごはんは?」
「もう食べ終わったよ」
見せてもらったお皿は綺麗に空だった。
「俺が食べさせてもいいかい?」
「おねがいします」
「ん、いい子だ」
ちゃんとお礼が言えて偉いねー、とお兄様が隣にきて頭を撫でてくれるけれど、お兄様、どんどん幼女の沼に落ちてません⁇可愛がり方が変わってきた。
そしてお兄様からのあーん、を頂きながらなんとか食べきった。
はじめは上手く口に運べなかったり量が多すぎたりしたけれど、徐々に慣れてきたお兄様は食べたいタイミングで口に運べるようになっていた。呑み込みが早い。流石お兄様。
これで新米パパになっても安心ですね。
食事が終わったらまたソファに戻り、お着替え続行。とはいっても服はもう決まったのであとは髪形だけだ。
胸元に子供には不釣り合いなおもちゃにしちゃいけない大きな真珠のブローチが輝いているけれど、鏡で見たら美幼女深雪ちゃんにとっても似合っていた。…汚さないようにしなきゃ。転んで壊すこともできない。歩き回るのはよそう。
まあ、お兄様がいて私が転ぶなんてことは想像できないのだけど。
「三つ編みも良いが、お団子も捨てがたいな」
「ツインテールというのも有りですよね」
…本人不在で盛り上がっています。いえ、いるんですけどね。参加してないだけで。
この間ずっと髪を梳かされているから構ってもらってはいるのだけどね。お兄様に横抱きに抱っこされ、水波ちゃんに髪を梳いてもらっている状況。
幼女も興味があれば天国なのだけど。飽きている幼女にとっては…かなり退屈。
足をぶらぶらさせるとお兄様が気付いて腿をポンポン宥めるように叩いてくれるけど、つまらない。
なのに不満顔をするとお兄様は微笑ましいとばかりに頬を緩めるばかりで。
「ふてくされる深雪も可愛いよ」
「…うー」
可愛いと言ってくれることは嬉しい。嬉しいのだけど、面白くない。
頬を膨らませると、つんつんと突かれる。
「やあ!」
なんだかむかむかしてきてお兄様に拒絶を突き付けそっぽを向いた。
そのことにお兄様がぎしりと固まったけれど、幼女の体は我慢が利かない。むずむずぐずぐず。
「…もしかしたら、おねむなんじゃないでしょうか」
「そういえば、体温が上昇しているな」
ご飯を食べたら眠くなる。幼女の本能でした。
ということで着せ替えごっこは終了。速やかにベッドに運ばれることに。
水波ちゃんはお片付け優先で部屋には来なかった。
スカーフとブローチ、リボンを外してベッドの上へ。
でも横にならずにお兄様のお膝の上で背中をぴったりお兄様にくっつけてお腹に手を当てられ、何時寝てもおかしくない温かさに包まれながらうとうとしている。
これは食べてすぐ横になるとよくないということでしばらくこの姿勢のままにして食べ物が胃に収まるまで待つつもりらしい。
うとうと、うとうと眠たいのに、お兄様の悪戯なおててがほっぺをふにふにする。
先ほど突いた感触がよかったらしい。もちもちほっぺですからね。わからないでもないですが、眠い時の幼女には迷惑なわけで。
「おにぃさま、やぁー」
「もう少しだけ、だめか?」
「…やぁなの」
「…そうか」
何とか諦めてくれたけど、とっても悲しそう。悪いことをしている気分。
…うー…
「おにぃしゃ…おにいさま」
「なんだい」
「だっこしてくだしゃ、さい」
「…こうか?」
「ん」
お兄様の顔が見えないのが不満だと、正面からの抱っこを所望すると、お兄様はその意図を汲み取って反転させてくれた。
…お兄様のお顔がいつになく蕩けたように甘いお顔になっている。
とっても複雑だ。
その笑みをさせているのは私のはずなのに、私ではないような。
(…お兄様、幼女の方が好きなのかしら…大きい私には、こんな甘いの見せないもの)
「…おにいさま、すき?」
「…何をだ?」
「ちっちゃいみゆ、…みゆき、すきですか」
もう、眠くて仕方がないのに確認せずにはいられなかった。
お兄様は小さい深雪の方が好きなのでは、なんて。本当に子供のような言い分。
だってしょうがない。今の私は幼女だから。
お兄様は少し困ったような顔をして、私を抱き上げるとぎゅっと抱きしめて。
「好きだよ。お前は俺の最愛の妹だ。大きくても小さくても、それは変わらない。だが、そうだな。小さな深雪も好きだけれど、大きい方の深雪に会いたいかな」
「どぉして?」
「こうして抱きしめられるのもいいものだが、深雪に抱き返してもらえるのも好きなんだ」
確かに、この体ではしがみ付くことはできても抱きしめることはできない。
「ふふっ」
嬉しくて、ふわふわして、ぎゅーってしたくなった。
「おにいさま、だぁいすきよ。みゆき、おおきくなったらおにいさまのおよめさんになる!」
「深雪さん?あまり揶揄うようなら俺も黙っていないよ」
「ごめんなさーい!」
一度やってみたかったのです。幼女必殺の、将来お嫁さんになる!を。
お兄様は笑って謝罪を受け取ってくれた。
楽しい時間はあっという間だ。
「おにいさまは、おっきなわたしもかわいがってくださる?」
「当たり前だろう。お前は、俺の大事な妹なのだから」
「ふふ、うれしい。ありがとう、おにいさま」
そう言ったつもりだけれど、果たしてちゃんと言葉になっていただろうか。
眠くてたまらなくて、舌ったらずになっていた気がする。
もう、目もとろん、としていて視界がほぼ見えない。
だから小さな手でお兄様のほっぺを両手で挟んで。
「ばいばい、おにぃさま」
ふにっ、とした柔らかな感触と共に、私の意識は夢の中。ポンっとボトルの栓を抜いたような音が聞こえた気がしたけれど、重い瞼が開くことはなかった。
――
小さな手に顔を挟まれ、寝ぼけ眼の深雪が顔を近づけるのを達也はぼんやりと見つめていた。
深雪が何をしても許せるから好きにさせていたのが悪かったのか。
ばいばい、という言葉に気を取られぼうっとしてしまったことも要因か。
まさかキスをされるとは思っておらず、固まってしまったのだが、次の瞬間、腕の中の深雪がポン、と気の抜けた音と共に煙で覆われて深雪が包まれていくと、急に質量が増し、深雪が元に戻った。
一体何が起こったのか、魔法の予兆も何も感じなかったのに――と考えたのは一瞬。
達也は煙が払われ全体が見えるようになった深雪から顔を背けたと思うと布団を捲り横たえさせて、即布団をかぶせた。
(見ていない。俺は、何も見なかった)
薄いキャミソールで隠された二つのふくらみも、その下の肌色も、何も見ていない、と言い聞かせ急いで部屋を出ていった。
いくら夏とはいえ、ほとんど裸のような格好では体を冷やす。特に深雪の体が冷えやすいことを、達也はあの夏を経て知ってしまった。
「水波っ」
本日二度目の切羽詰まった声に、水波は今度はすぐに姿を現した。
用件を聞いた水波が急いで部屋に向かったのを見送ってから、達也はその場にしゃがみこんだ。その時、口元を手で覆っていたのは完全に無意識だった。
(困った…)
だが、達也をもってしてもこの『困った』ということがどれに対してか、よくわかっていない。かつてないほど、困り果ててしばらく立ち上がれずにいた。
最後の最後でラッキースケベが発動。幼女じゃないからセーフ(何一つセーフではない)。女児用の下着なんて無いからね。つまりはそういうこと。
不思議なぱぅわーで幼児化☆した。
でもオタク幼女は知っている。これは愛のキッスで元に戻るヤツです!お兄様が大きいのが良いと言ってくれたので戻してあげた。
けれど別にキスすることも無く眠れば元に戻る仕様だった。キスは偶然。
幼女、書くの楽しい。とても楽しく書かせていただきました。
…おかしい。5000文字いかないだろうな、と思って書いたのに倍以上いってた…。
午前中の部分しか書いてないのに。っていうかお昼にもなってない。多分幼女時間5時間も経ってない。
妹は途中から幼女楽しい!幼女最強!と幼女であることを楽しんでいた。
大きくなったら結婚する、は幼女としてやらねば!と謎の使命感。そのせいで後でえらい目に遭いそうだけど、オタクその場のテンションでやらかす生き物だから。
この後しばらくお兄様の甘やかしがひどくなる。
水波ちゃんも、記録を残せなかったことを後悔してちらちら妹を見てはため息を漏らしていたりとか。
幼児化はファンタジー!三歳児はもっと暴れん坊だ!とか色々あるでしょうが、ここは夢の世界なので☆
ちっちゃい深雪ちゃん見てみたいですね~。
あ、途中お兄様が言い淀んだのは、裏設定として、深雪ちゃんの幼少期、自我が芽生える前は空虚なお人形さんだったのでは、との妄想からです。お兄様の記憶にある3歳前の深雪ちゃんは無表情のお人形さんでした。
だから笑っている深雪ちゃんを見て記憶との違いに戸惑ったのでしょうね。