妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします! 番外編   作:tom200

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今回は達也×深雪成主と将輝×深雪(原作)とその子供たちというリクエストですので、他カプが混ざっております。苦手な方はご注意くださいませ。
初めての挑戦ですのでおかしなところがあってもお目こぼしいただければと思います。
トリップシリーズの二人が夫婦となった後のお話です。
何でもありのご都合主義設定です!

お兄様に関してはこんな未来もあったかもしれません。

頂いたお題
『司波達也と成主が夫婦になっており、子供もできている話を見たいです。具体的には、達也夫婦と子供のいる家に深雪と一条将輝の夫婦が自分等の子を連れて訪問してくる内容です。そこで子ども同士が仲良くなります』
でした。


夫婦+夫婦

 

懐かしい、夢だ。

はじめはそう思った。

懐かしい大学のキャンパス。仲の良い友人たちと笑い合いながら歩いている。

そこへ――

 

「――深雪さん!」

 

息を軽く弾ませて駆け寄ってきたのは一条君。

彼から名前で呼ばれるなんて――と思ったのに、開いた口からはこれまた言ったことのない言葉。

 

「将輝さん」

 

しかも、お兄様を呼ぶ時のような甘い声で呼んでいることに驚愕なのにそれが表に出ることはなかった。

 

「あら、もう婚約者様のお出迎え?」

「いや、見かけたから会いに来ただけだ」

「相変わらず熱烈」

 

リーナと雫に揶揄われるように顔を覗き込まれて、それにはにかんで応えている。

 

(…わぁお。ここはもしかしなくても一条君との婚約が成立した世界線?)

 

どうやらなんやかんやあってお兄様と婚約せずに一条君との婚約が正式に結ばれた分岐先らしい。

この場合お兄様とはどうなっているのだろう?と記憶を探ると、どうやらお兄様は当主の息子と発表されることはなく、次期当主の兄という立場らしい。ガーディアンも解除になっていないようだけれど、以前のように四六時中傍に居て守るということはないようだ。

守護の眼が今も行き届いているのは感じられる。変わらずお兄様に見守られている。

それに、どうやら一緒に進学し同じ大学には通えているようだ。会社についてはまだ立ち上げてないけど準備は着々と進んでいるみたい。私もそのサポートをしているみたいで、原作とは異なる形で会社経営に携わりそうだ。

兄妹としての仲は良好で、というか相変わらず仲が良すぎて婚約者である一条君が嫉妬する、というのがお決まりの流れらしい。

 

(…こんな未来もあったのね)

 

四葉次期当主と発表されたすぐあと、一条家から婚約の申し込みがあり、しばらく候補扱いで保留。

その間猛烈なアタックと、お兄様による、最低限このくらいできなくては深雪の婿に認めない、というスパルタ訓練という名の婚約者候補いびり()があったりと紆余曲折有り、一条君の愛を受け入れ、正式に婚約者になった。

一条家は彼を婿に出していいのか、と思ったが、一条君が一目ぼれした時から本格的に妹さんへの次期当主の教育が始まっていたそうだから、一条家の決断力ってすごい。

もちろん十師族として四葉の暴走を抑える為って言う理由も存在したけれど、そんなのが建前なことくらいは周知の事実だった。

そして走馬灯のように月日は流れ――結婚。

婚約者との結婚なのに恋愛結婚と言われるくらいには相思相愛の夫婦と呼ばれている。

 

(お兄様もそうだけど、深雪ちゃんにお兄様以外を愛することができたんだ)

 

でも、そういう道もあったのかもしれない。深雪ちゃんの中には人に必要とされたい――それは原作ではお兄様一択だったけれど――その欲求は強かったように思う。

誰もが彼女の生まれと容姿、魔法力を褒め称え、彼女自身を見てくれる人間はいなかった。

お兄様が唯一、心に寄り添ってくれる人だった。でも、そのお兄様も心の機微まではわからない。それでも傍に居てくれるならそれでいいと思っていた。

けれど、彼が現れた。

はじめは容姿に一目惚れされただけだった。だから何も期待していなかったのだけれど、会う回数を重ねるごとに、彼が自分を見てくれるようになり、知ろうとしてくれていることに気付き、次第に興味が湧いて惹かれていく。まっすぐで、一生懸命で、全力で好きだと伝えてくれる姿に徐々に絆されていき――彼の求愛を受け入れた。

…恋愛、してるね。ちょっと羨ましいかも。

いえ、お兄様に不満があるわけじゃないよ!?ほら、私たちは順序がちょっとあべこべになってしまっただけであって。

結婚するまで恋愛期間もちゃんとあった。

ただ、一条君たちのような、初々しさは無かったように思う。

それはそうだ。嬉し恥ずかし初デートなんて、兄妹として一緒に出掛けた時の衝撃を超えることは無かった。そしてあの時は男女ではなく兄妹。ずっと一緒にいてから付き合うのと、高校で知り合ってからお付き合いするのとでは違う、ということだ。

 

(だけど、ここではお兄様は幸せに暮らせているのだろうか…)

 

走馬灯が早すぎてお兄様の姿が見えない。

結婚、妊娠、出産とイベントが起きているのにお兄様の姿が見当たらない。

もしや四葉に、分家の思惑通りに隔離されてしまっているのでは――と嫌な考えがよぎったけれど、それにしては私の表情は明るい。…夫に似てきたのか、私とも違う笑みを浮かべるようになっていた。

もしお兄様に何かあるようなら、いかに自分の家庭が幸せになっていても、こんな笑みは浮かべられないはずだ。

 

(…お兄様…)

 

その不安が、世界を歪ませた。

どうやら覚醒が近いらしい。

一条君と、子供を抱いている私の下に、チャイムが聞こえた。来訪者を知らせるチャイムだ。

気配ですぐに誰だか分かった。お兄様だ!

今すぐ会いたい。今、幸せですかと確認したい。

けれど玄関に迎えに行き、扉が開かれるところでタイミングが悪く夢が終わってしまった。

 

「…お兄様…」

 

涙が滲む。

お兄様に、会いたかった。

 

「――夢の中でも俺を求めてくれているのかと思うと嬉しいが、相手が俺だとしても嫉妬してしまうな」

 

そんな声が頭上から降ってきたかと思いきや、すぐにそれはキスの雨に変わる。

 

「お、…達也様」

「おはよう深雪。今日は少し寝坊助さんのようだね。また兄と言いかけて」

 

くすくすと笑う吐息が頬を擽る。

 

「どうやら夢に引っ張られているようです」

「一体どんな夢を見たんだ?」

「それが――」

 

 

 

一通り話し終えると、お兄様(心の中では未だにお兄様呼びだ。だからうっかり表に出てしまうのだけれど、ファンであり、妹でもあることには変わりないのでそこは譲れなかった)は、先ほどまでの軽いキスではなく一度しっかりと口付けてから灯らせた欲の色の宿った瞳を閉じて、打ち消してから面白い話だ、と笑みに変えた。

…嫉妬深いお兄様の仕草に疼きかけるのを抑えるのは、ベッドの上に眠る我が子の為。眠っているとはいえ、キス以上はできない。

お兄様は本来ならトレーニングの時間だったのだけど、私の様子がおかしかったので話を聞いてくださっていた。

私の夢の話で予定を変更させてしまって申し訳なかったけれど、お兄様は気にするな、と心を読んだように頭を撫でる。

というか、読んでるよね。

 

「しかし、一条とお前が、ね。…来ると思うか」

「今までの経験から言って、可能性はあるかと」

 

お兄様と私には一つの確信があった。

時折、私は電波を受信するかの如く、パラレルワールドの夢を見る。

それはお酒を嗜んだ時だったり、眠っている時だったり様々だが、そういう時は大抵不思議なことが起こる。

はじめてそれが起こったのは高校一年生の時だった。

私と原作深雪ちゃんが入れ替わったのだ。

それを皮切りに、お兄様が入れ替わったり、入れ替わらずに二人がこちらに来た時もあった。

それのみならず、世界が崩壊しかけた世界線の深雪ちゃんがきてお兄様に縋りついたこともあれば、深雪ちゃんを婚約者として受け入れられないお兄様が来訪した時は、お兄様と殴り合いのけんかにまで発展した。…まあ、あれはお兄様が煽った結果だけれど。結局その世界のお兄様も自身が深雪ちゃんのことを愛していたのを意地になって認められずにいただけだった。戻って覚えていたらすぐにでもくっつくだろうけど、覚えていなくてもあの様子なら妹に陥落寸前だっただろうから問題はないはずだ。

と、どういうわけか、私たちのところにはパラレルワールドと交わる接点ができてしまったようで、こうして電波を受信しては変わった来訪者や入れ替わりが発生したりする不思議現象が起こるようになっていた。

多分だけど、私というイレギュラーが引き起こした事象な気がするが、お兄様にはいまだに前世のことは話していない。

この秘密は墓までで持っていく所存。

 

「今日は午前中ならオフだから来訪だけで済めばいいが」

「この子が生まれてから入れ替わりは発生していませんでしたが、今入れ替わると説明が大変ですね」

 

誤魔化せればいいけれど、この子はお兄様に似て聡いから。

これだけ話していても起きる気配のない息子の頭を撫でる。

私に似て、癖のない髪はさらさらとしていて、お兄様はそれが特に気に入っているらしく、よく頭を撫でている姿が見られる。

嫌々期もさほどなく、いたずらもほとんどないけれど、その分人一倍好奇心があるようで、集中すると周りが見えなくなる。これはどちらに似たのか、とたまにお兄様と論争になるのだけれど、私はお兄様に似たのだと思っている。

友人に言わせると二人にそっくりだよ、と返ってくるけどね。私はこんなに集中はしないと思うのだけど。

ただ、静かに興奮しては熱を出すタイプなので、体調管理には気を付けている。

 

「この状況が続くようなら、いずれ説明はしなければならないと思うが、今はまだ小さいからな」

 

いくら聡明な子と言ってもこのような現象を理解するのは無理だろう。できれば眠っている間か、預けている間に、と思うけれど今日はお兄様が午前中オフということもあって私もこの子も家でゆっくりする予定だった。

考えれば都合の良い展開ともいえよう。

 

「これは、来ますね」

「来るか」

 

慣れとは怖いもので、理論で物事を考えるお兄様も、この件はそういう物として原因究明など考えず匙を投げている。

来るものは来る。拒めないのなら迎え撃つ準備をするまで。とは流石に物騒だが。

要は受け入れ準備をしよう、ということである。

説明は前回のこれを使うか、と端末を操作してモニターに映したのは、これまで私たちに起きた現象をわかりやすくまとめたもの。

そうだね。口で説明するよりはるかに速い。…混乱は免れないだろうけど。

あ、でも。

 

「一条さんというケースは初めてですので、こちらでの一条さんの状況も書いておくべきかと」

「そうだったな。加えておこう」

 

とりあえず着替えて早めの朝食を用意して、お出迎えの準備をしよう。

私たちは慣れた様子で準備に取り掛かった。

 

 

 

こうして、息子と三人いつもより少し早い朝食を食べている時に、他に誰もいないはずなのに第三者の手によってダイニングと廊下を繋ぐ扉は開かれた。

 

「…え?」

「ようこそ深雪さん。食事中で失礼します」

 

戸惑う深雪ちゃんもため息を吐きたくなるほど美しいですね。

自分と似た容姿だとか関係ない。美しいものは美しいのだと心の中で大絶賛。…だけどこの感覚はどの深雪ちゃんとも合わないらしい。彼女たちには自分に見惚れる趣味は無いんだとか。いえ、私にもその気があるわけじゃないんだよ。ただ原作一ファンの気持ちが強いだけで!そこは勘違いされたくないけど説明が難しくて、毎回誤解される。

椅子から立ち上がり、笑顔でお出迎えをするけれど、まあ同じ顔がようこそー!と歓迎していて驚かない人間はいないでしょうね。

 

「深雪さん、どうかした――えっ!?」

「一条さんも、ようこそいらっしゃいました。この状況に混乱していらっしゃることでしょうが、一旦ソファまでご案内しますね。――お二人のお子さんですか?可愛らしいお嬢さんですね」

 

そつなく笑顔で出迎えて、戸惑う彼ら一行をリビングへとご案内。

お兄様はその間息子に何か言い聞かせながらお世話をしてくれている。素敵です、お兄様!決めていなくともそれぞれの役割分担ができる。

深雪ちゃんは戸惑いながら、一条君は多少警戒するようにして、お子さんを深雪ちゃんに託して前に進み出る。

こちらに攻撃の意図はないことはわかるのだろう、一応言うとおりにリビングまで移動してくれた。

 

「軽く説明させていただきますと、ここは貴方達の世界とは違う運命をたどった分岐先の世界。所謂パラレルワールドです。そちらの深雪さんと私は同一の存在だと検査をすれば出るでしょう。近くにいらっしゃいませんが、一条さんも同じく、この世界の一条さんと一致するはずです。

私たちが落ち着いているのは、これが初めてのことではないから。高校の時からあらゆる深雪さんを見てきました。

だから必ず貴方方も元の世界に帰れますのでご安心くださいませ」

 

一息に説明をして頭を下げる。

果たして彼らの反応は――とりあえず敵意は見えない。怒っている様子もない。ひとまず一安心だ。

戦場帰りの警戒心バリバリのお兄様とは違う。

平和軸からきているんだから当たり前だけれど。

 

「深雪」

「ありがとうございます」

 

お兄様が端末を持ってきてくれた。それを直接渡さず私を経由したのは相手を警戒させない意味もあるが、お兄様も息子を抱えていたから。

こっちに連れてきたんだね。

大人しくていい子、と頭を撫でると気持ちよさそうに目を細めた。うむ。お兄様の遺伝子が強めに出た息子は控えめに言って可愛いオブ可愛い。でも目はどちらかと言うと私寄りかな。まだ子供だからか大きくくりくりとした目は鋭さを持っていなかった。

っと、いけない。待たせてはいけないね。

 

「こちらをご覧ください。とりあえずこれまでの経緯と、こちらの状況をまとめたものになります」

 

端末を渡し、説明を読んでいる間、お兄様は少し離れたソファに腰かけ、私はノンカフェインの紅茶を用意しに行った。

朝食を食べたかわからないが、とりあえず用意しておいた一口サイズのサンドイッチ各種も一緒に運ぶ。これくらいならお茶請けとしてもいいだろう。

机に並べ終える頃、彼らはちょうど読み終わったらしい。

 

「こんな、ことが…」

「ですが、嘘だとは思えません。何より、こちらにいらっしゃるお兄様は、どう見てもお兄様に違いありません」

 

私にはわかります、と深雪ちゃん。そうだね。どの世界でも深雪ちゃんはお兄様が分かります。

一条君はそんな深雪ちゃんを疑うことはないようだ。ちゃんと信頼関係が築けているようで嬉しくなるね。

 

「そうだな。そちらの深雪が深雪と同一だということは俺の眼でも明らかだ」

 

この言葉に深雪ちゃんだけが目を見開いたから、恐らくお兄様の眼のことは一条君は知らないのだろう。

だが、これで彼女には真実だとわかったのか、肩の力を抜いた。

 

「朝食はお済ですか?もしまだでしたら食べながらおしゃべりしましょう」

 

どうぞ、と声を掛ければどうやら食べる前だったらしく、遠慮なく、と一条君は手を付けた。

豪胆な方だ。もちろん毒なんて入っていないけれど、それでも勇気ある行動だ。

深雪ちゃんもそれに倣って食べ始め、大丈夫なことを確認してからお子さんにも勧めた。

 

「うちの子と同い年くらいでしょうか。よろしければ紹介をさせていただいても?」

「ええ、そうですね。では――」

 

深雪ちゃんが口を開きかけたところで、遮るように元気よく手を上げて、高らかに応えたのは一条家の血が濃いめの癖のある黒髪の少女。

 

「オレの名前は四葉冬姫!5歳です」

 

あら、お元気。明るくて真っ直ぐないい子だと伝わってくるご挨拶ですね。

だけど、

 

「こら!オレ、じゃないだろう?女の子なんだからちゃんとしなさい」

 

一条君からの注意が飛ぶ。

意外と教育パパなのかな。深雪ちゃんは微笑んでいるだけで見守っている。

さて、どう仲裁しようか、と思っていると、今度動き出したのは我が息子だった。

 

「――オレって、かっこいいと思う」

 

だからおかしいことじゃない、と。そう言いたいみたい。言葉は父親に似て足りないけれど、とてもやさしい子なんですよ!(親ばか)

 

「だよな!」

「うん」

 

同意が得られたことで冬姫ちゃんのテンションが上がった。

 

「僕も、父さんみたいにオレって言いたくなる」

「わかるか!」

 

あら、あらあら。お父さんが使っていてカッコいいからオレって言いたいなんて。口調も大好きでかっこいいお父さんの真似をしているのね。

一条君がノックアウトされて項垂れたのを隣の深雪さんによしよしされてます。羨ましい!…じゃなかった。よかったですねぇ。でも複雑そう。女の子だもんね。

 

「僕の名前は真弥(まなや)。よろしく」

「よろしく!」

 

ちゃんとご挨拶できて偉いね。いい子たちです。天使。

微笑ましく見守る保護者たちの中心で、子供たちがキャッキャしている。

 

「どうして真弥は僕なんだ?」

「オレもかっこいいけど、僕は使い分けしている父さんがかっこいいと思うから」

「つかいわけ⁇」

「電話してる時、父さんはオレになったり私になったり、自分になったり。色々あってカッコいい」

「!!ほんとだ!」

 

……ほんとだ!だって…かわいい…ここは天国だった…。語彙力が死ぬ…。

どうやら息子は父親が電話越しに一人称を替えるのをカッコいいと思っていたみたい。

それを聞いたお兄様は…おすまし顔ですけれど、私の目は誤魔化せない。照れてますね。…うう、かわいい。

そして同時に一条君がそれをぎりぃ!と見つめてますね。娘さんもお兄様に向けて尊敬の目を向けたからか。

…と思ったのだけれど。

 

「!たつやさんだ!」

 

あら、お兄様のことを名前で呼ばれているのです?彼女にとっては叔父のはずだけれど。

深雪ちゃんが困った表情になって頬に手を当て首を傾けた。え、美人。美人の困った様子ってグッとくるよね。何でもしてあげたくなるっていうか。

疼いたことにお兄様が気付かれたのか、そっと腰に腕が回って動き出さないように止められた。…流石良く私のことを熟知しているお兄様です。

 

「あの、お嬢さんはもしや…」

「ええ。予想通りかと」

 

お嬢さんの目は見たことのある輝きをして一点を見つめていたので、まさか、と訊ねたら肯定が。あらあら、流石お兄様。

 

「姪御さんの初恋も盗まれてしまいましたか」

「お兄様ですから」

 

お兄様なら仕方ないか、と笑い合う私たちに、一条君はふるふると握りしめた拳を震わせていた。

 

「何っで!達也だから!になるんだ!!将来結婚する!は父親が言われるものだろう!!」

 

あらぁ…。お父さんに言う前に言われてしまったのですか。それはさぞ悔しい思いをされたことでしょう。

そして一条君お兄様のこと呼び捨てする関係なんだね。仲が良好のようで何より。ずっとお兄様の影が見えなかったことが不安だったのだけどこの様子だと心配無さそう?

 

「そちらでのお兄様はどのような様子なのです?」

 

ちなみに私がお兄様とこの場で呼ぶのは深雪ちゃんがいるから。深雪ちゃんの前でお兄様を別の呼び方をすると空気が緊張することがあるのでね。配慮です。

しかし、私の質問に二人は顔を見合わせて苦笑した。…何がありました?

 

「そもそも結婚はされたのでしょうか」

「それが…」

「アイツがさっさと結婚を決めればあんなことにはならずに済んだんだがな」

「あんなこと…?」

 

一体何があったというのだろう?

困惑する二人はお兄様をチラ見するけれど、お兄様はどこ吹く風で二人の子供たちに囲まれ膝の上を占領されていた。何時の間に。

写真は撮って良いですか?だめ⁇冬姫ちゃんはにっこにこしてお兄様にくっついてます。対する息子はお兄様に抱っこされながら冬姫ちゃんを観察している模様。…息子の趣味は観察・分析です。大分興味を引かれている様子。

二人は仲良くおしゃべりが続いている。うちの子はあまりしゃべる方ではないけれど聞き上手。この年にしてコレはすでにモテる気配が漂っている。イケショタの香り。

これで運動神経がよければモテモテになる未来が待っている。…お兄様の遺伝が恐ろしい。

!そう、お兄様だ。息子の未来も心配だけれど、そっちのお兄様は一体どんな状況だというのか。

 

「なぜアイツがあんなにモテるか俺には世界の七不思議に入ると思うんだが、」

「「そんなことはございません」」

 

お兄様がおモテになるのは自然の摂理だ。モテないわけがない。

見た目こそぱっとしないと言われるが、それは一条君は光宣君と比べれば華やかさは欠けるだろう。そこは認める。

だが、お兄様はかっこいい上に何をさせてもいい結果を出し、時に失敗をしてもそれをバネにし飛躍していく。

それでいてそのことを鼻にかけることも無く、自然に人を助けては何でもないように振舞う。…これに惚れない人はいない。

知れば知るほど好きになる。

お兄様ほど魅力あふれる存在はいない。

お兄様こそ至高の存在。

私と深雪ちゃんががっちりと手を握り合った。

きっと考えていることは一言一句同じだっただろう。だって、お兄様大好きな深雪ちゃんだもの。

 

「深雪さんは、俺の、奥さんだろう?!」

「将輝さん。いつも言っているでしょう。お兄様は特別枠です」

 

…わかる!!お兄様は特別枠!!!

改めて手をがっちりと繋いだところで、本題に。遊んでいたわけじゃないんだけどね。このままだと一条君が萎れてしまうので。

 

「お兄様は未だ独身でいらっしゃるのですね」

「ええ。私たちは今は別々に暮らす様になりましたが、会社では顔を合わせますし、兄妹仲は変わらず良好です。

以前は時折うちにきて食事もしてくれたのですが、娘がその…お兄様に憧れを抱くようになりまして、お兄様が遠慮されてしまうようになったんです」

 

…わあ。冬姫ちゃん見る目があるぅ。というより四葉の血が案外強かった?四葉の女性は大抵お兄様に惹かれる傾向があるから。例外は夕歌さんくらい?

 

「それは些細なことなので大した問題ではないのですが、問題は――お兄様は様々な功績を残されました。そのことでどの界隈からも注目され、良い歳でもあるからと縁談もたくさん寄せられるようになったのですが、お兄様は幼少の『事故』の後遺症を理由に結婚を断ってきました」

 

感情が兄妹愛以外残されていないことは公にはしていなくとも、精神異常については公にしたらしい。お兄様にとっては誠実な断り理由のつもりなのかもしれない。

実際好きにはなれても深くまで愛せはしないと考えているだろうから。衝動が無い、というのはそういう風に取られかねない。

でも、私は知っている。お兄様は人を愛せると。ただそこに強い性的欲求が襲い掛からないだけで。性欲はあるのだけれどね。理性が働いてしまうので冷めて映ってしまうことを申し訳なく思うのかもしれないね。

愛の度合いが違う、というのは相手を苦しませることになるから。

だからお兄様は特定の相手を作らなかったらしい。

でも、そんなこと、彼女たちにとっては問題なかった。

――そう、彼女たちには。

 

「今、彼女たちが結託して達也の包囲網を作り始めた。七草家は十師族を説得して、達也に複数の家庭を持たせることで合意を得た。あれほどの有能者の遺伝子を残さないのは魔法師界だけでなく人類の損失だ、とね。真由美さんを筆頭に、高校時代から熱を上げていたほのかさん、四葉家からは亜夜子さんも参加するらしい。そのほかは以下略だ。家の柵で狙うように言われている子女たちも多い。…どんな形であれ、そろそろ決着がつくだろうな」

 

……思ったより大ごとだった。

誰かひとり、じゃなく複数の家庭ってことは、奥さん選ばず内縁でもいいから複数奥さんを作れ、と?随分思い切ったことを。倫理観はどこに行きました?魔法師界はそんな少子化が起きてました⁇

どんな形であれ、というのは、恐らくあれだね。

お兄様は常識に拘るところがある。自分が非常識だから余計に、なのかもしれないが普通であることを求めた。

だから兄妹で結婚などお兄様にはありえなかった。常識的じゃないからだ。

…うちのお兄様はその辺が抜けてしまったけれど。それは今は置いておくとして。

何が言いたいかと言うと、常識人のお兄様にいくらゴーサインが出たからとはいえ複数妻を持つことはあり得ない。

誰かひとりと契約結婚でもして周囲を黙らせようとするのではないか、ということ。

…誰を選んでも大変なことになりそうだけど、お兄様大丈夫かな?

 

「恐らく、大丈夫かと思います。お兄様もどうやらお相手を決められているご様子ですので」

 

ああ、だから深雪ちゃんがこんなに落ち着いているのか。もしお兄様が逃げ出したいと考えていた場合、深雪ちゃんは何が何でもお兄様を助け出そうとするだろう。だけど、お兄様が誰か一人を選んでいるのだというのなら、問題はない。

お兄様ならば綺麗に収めるだろう。…誰を選ぶかはとても気になるのだけれど、これ以上は野暮という物。妹は引き際を弁えています。

でも、だとしたら彼女たちのお悩みはほとんど解決しているということ。

ならば、どうしてここへ来たのだろう?

大抵、彼らがやってくる時は悩みを抱えている時だった。

一体何を悩むことが…、とお兄様を見ると、いつの間にかにお子様たちが仲良く二人で図鑑を眺めていた。昔ながらの紙で作られた本の図鑑だ。とっても高級。送り主は、あしながお姉さんだそうです。当主であることを息子は見抜いていますけどね。あしながお姉さんということにしておいてくれる優しい良い子です。

それを二人仲良く眺めている。しかも、あの図鑑はお気に入りの物。

アレを見せてあげるということは、相当仲良くなりました?

すげー!すげー!と喜ぶ声に、でしょう?と落ち着いた、けれど嬉しそうに語る息子。

これを見て、はっとなった。

 

(一条君の子と、お兄様の子が仲良く遊んでいる!)

 

こちらの世界でもお兄様たちの仲は別段悪くないが、一条君お兄様に苦手意識が残ってますからね。これはとても奇跡的な光景。しかも、この二人はある意味兄妹のようなもの。だって、どちらも私たち深雪の子供だ。

次代を担うだろう子供たちが、こうして仲良くなれるというのは、明るい未来を指しているようではないか。

 

「と、もうこんな時間だ!あの、み、深雪さん?」

「はい」

 

一条君に呼ばれたのは私だね。返事をすると一瞬固まられてしまった。なんだか懐かしい反応です。

 

「…将輝さん?」

 

深雪さんからひんやりした空気が。一条君の腕にするりと腕を絡ませて――どこかで見た光景ですね。仲がよろしいようで。

 

「ち、ちがっ」

 

でも一条君はお兄様のように再生はしませんよ?と思ったら血流を操作して凍結しないよう頑張っている模様。そういう対処法もあるんだ。お兄様も感心して見つめていた。

 

「帰られるのでしたら、恐らく来たドアから帰れると思いますよ?」

「そうなのですか!?」

 

経験則だけど、あっさり帰れるときはあっさり帰れる。多分、悩みが解決したり、答えが見つかったりすると帰れるようになるのだと思う。

この場合、一条君の、娘がお兄様を追いかけ続けたらどうしよう、という心配かな?

でも深雪ちゃんの様子見てたら大丈夫だってことに気付いたのかもしれない。

 

「…もう帰るの?」

「やだ!もっと真弥と遊ぶ!」

 

ぎゅーっと冬姫ちゃんが抱き着いてヤダヤダをしています。可愛い。

息子は嫌がることも無く好きなようにさせている。もうすっかり仲良しさんだ。なかなかここまで短時間で気を許すような子ではないのだけれど、…世界を超えた兄妹だってことを本能で理解していたりするのだろうか。

嫌がる冬姫ちゃんを何とか説き伏せて、お別れの時。

 

「…また会える?」

「会いたいと思えばきっと会えるよ」

 

…そして息子のお兄様にそっくりなたらしの才能にちょっぴり慄く。

この子も気を付けないと、あちらのお兄様のようになるかもしれない。なんて、少し心配するには早すぎるだろうか。

一条君の手によって何の変哲もない、リビングと廊下を繋ぐ扉が開かれる。

 

「もしかしたら、またお会いするかもしれませんね」

「その時はまた、よろしくお願いします」

 

パタン、と閉じられた扉の向こうに、人の気配は感じられない。

 

「帰ったようだ」

 

お兄様の眼には彼らの姿が消えたように見えたらしい。

息子の頭を撫でてから、ひょいっと抱き上げた。

 

「朝から色々あったが、この後お昼まで休みなんだ。何かしたいことは無いか?」

 

その言葉に眼を輝かせた息子は、珍しく感情を表に出して喜びを表していた。

早速彼女の影響を受けたのだとわかる。もしかしたら悩みを解決してもらったのはこちらもなのかもしれない。

これは息子にとっていい影響と言えるだろう。

それから三人で一緒の時間を過ごした。

 

 

 

 

その晩。

眠る息子をまたいで、お兄様が私を抱きすくめる。

 

「…達也様?」

 

首元を擽る吐息に熱を感じて、ふるりと身体を震わせる。

 

「深雪は気づいていなかったようだが、あちらの深雪のお腹には新しい命が宿っていたな」

「まあ!それはおめでたいですね」

「今から頑張れば、また同い年になれると思うが、どうだ?」

 

お兄様にしては珍しい誘い方だ。それがおかしくて少し笑ってしまう。

 

「…もう、達也様ったら」

「娘を持つ父親は大変そうだったな」

「達也様もその苦労を味わってみたいですか?」

「俺が泣いたら慰めてくれるか」

「…ふふ、そうですね。その時は精いっぱい努めさせていただきます」

 

次に会う時は、もう一組兄弟が増えているかもしれない。

 

 

 

 





お兄様、別世界でまさかのハーレムで大変なことになってました。一体お兄様は誰を選ぶんでしょうね?そこにリーナちゃんもいてくれてもいいのよ?
一条君はお兄様の妻候補から娘が外れたことを内心大喜びしてた(当たり前)。娘がお兄様大好きなこと知っていたから年齢どころか関係的にもアウトだとわかっていても気が気じゃなかった。奥様もお兄様のこと大好きだからね。兄として、と言われていてもそこはそれ。今では達也、将輝と呼び合い酒を飲む仲。


複数カップルを書くことも初めてであれば子供たちも初めてでこれであってるかわからず書いてみました。
子供たちの名前は適当に付けました。ネーミングセンスぅ…。わ、わかりやすく付けたつもりです。
妹のお兄様の呼び方は様々。しょっちゅう呼び方が変わる。二人の時にはお兄様、達也様、達也さん、旦那様。その時の気分とノリで。今回はたまたま達也様だった。
お兄様は、あちらの世界のお兄様の話に遠い目になっていた。恐らく自分が妹と結婚できなければあったかもしれない未来。密かに同情していた。

お粗末様でした。
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