妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします! 番外編 作:tom200
本日(当時6/26)は雷記念日だそうで、頂いたお題「雷雨からの停電」で一本。
水波ちゃんが来る前の謎時空です。
この世界の事情がよくわからないので適当設定で書いてます。ご都合主義満載ですのでよろしくお願いします。
びゅうびゅうと風が吹き付け、窓を打ち付ける激しい雨音。
ピカッと光ればバリバリバリ!ドォンっと派手な音が響き渡る。
ただいま雷雨襲来中!テンションが否応なしに上がります。
ソファの上でコーヒーを両手で抱えながら、カーテンを開けてのお天気鑑賞。部屋の照明もシアターモードに変更しました。薄暗いです。
「楽しいか」
「はい!」
そうか、とお兄様は腕を肩に回し、肩にかかる髪を指先で弄ぶ。
…お兄様はお暇に思われているかしら。
「あの、照明を明るくしましょうか?」
「何故?」
「お兄様はつまらないでしょう」
「そんなことは無い。十分楽しんでいるよ」
「私に付き合わなくてもよろしいんですよ?」
「そんなつれないことを言わないでくれ。お前とこうしている時間が大事なんだ。雷を見ている深雪はそれは美しいからね。見ていて飽きないんだ」
「!もう…お兄様ったら」
…もしやずっと外ではなくこちらを見られてた?
お兄様、暗闇の中でも夜目が利きますものね。…コーヒーカップを掲げて隠してみる。
「俺の月に雲がかかって見えなくなってしまったかな。どうやって晴らそうか」
月…お兄様も詩的な表現ができるようになりましたね。でもその相手は妹じゃないと思います。
今のうちに練習です?そんなに予行練習されてしまうと私の心臓が持つか心配です。
なんて考えていたらくすくすと笑って弄っていた髪の毛先を使って頬を擽ってきた。
「悪戯なさらないでくださいませ」
「俺のことは気にせず鑑賞していていいんだぞ」
どうやったらこの状況でお兄様を無視して外の景色を眺められるというのか。
「無茶を言わないでくださいませ」
「さっきまでは問題なかっただろう?」
「それはちょっかいを掛けられていなかったからで――」
「なんだ、気付いてなかったのか」
「え?」
「ほら」
「ええ?」
ほら、と言ってつまみ上げられたのは今弄られている髪と反対側。記憶にない細めの三つ編みが一本。
気付いてないってことはこれを編んだのはお兄様ということで。
「何時の間に…」
「本気で気付いていなかったのか」
くっ、と笑いをこらえるお兄様にこちらは唖然として見つめるしかできなかった。
いや、ほんとに何時の間に三つ編みなんて編んでたの?全く何にも感じなかった。
「雷が鳴っている時には深雪に悪戯し放題だな」
「まあ。ひどいお兄様」
あまりお色気モードになってそんな言葉は言わないでいただきたい。心臓がね、痛いくらいに暴れまわってます。
何とか表面上はとりつくろっているけどね。雷の音で心音がかき消されていることを祈る。
「…そろそろお風呂に入ってきます」
「もう観賞はいいのかい?」
「ですが、これ以上イタズラされたらかないませんもの」
「それは悪かったね」
詫びる言葉はもう少し悪かったという気持ちを込めて謝罪した方が良いと思いますよ。
完全に揶揄っている。今日のお兄様はちょっと意地悪だ。
お兄様から解放されてカップのコーヒーをすべて飲み切ると、私はお風呂に向かった。
すべて洗い終えてゆったり湯船につかる。
鼻歌交じりなのは雷にまだ心が浮かれているのか。…悪戯でもお兄様に構ってもらえていたことも嬉しい理由かもしれない。
(は、恥ずかしいけどね?)
でもお兄様に構ってもらえるのはどんなことでも嬉しいわけで。
(…お兄様もだいぶ愛情表現が豊かになった。というかバリエーションかなり増えたよね)
それに学校の雰囲気がギスギスしていないおかげか、交友関係が広いように思う。
クラスメイト以外に話しかけられている姿を見かけたことは一度や二度ではない。風紀委員も部活動もやっていないのに。
やっぱり私が知らないところで何かしらのクエストが発生しているのかな。今度それとなく聞いてみようか。
学校生活がお兄様にとっても楽しいものになっていればいい。
私の為だけでなく、お兄様が自然体でいられる、仲間たちとの交流が必要なのだ。
他人にもっと興味が持てるようになっても私より他を優先するのは不可能だろうけど、手を差し伸べたいと思うくらい親密になってもらえたらいいと思う。
お兄様の『好き』がランクアップして、友人が親友になったり、――恋をしたり。
(これは不可能ではないと思うんだよね。衝動ってそもそも心が大きくなれば自然と起きるもの。なら、お兄様の奪われてしまった感情を再構築し直せば可能性はゼロではない)
心とは一度失われたからと言って二度と生まれないわけではない。
お兄様は激しい衝動を無くされただけで心の動きまでは消えてもいない。感情を抱くことはできるのだ。
機能が失われたなら新たに付け替えればいい。母の完璧な術式は死してなおお兄様を守る力になっているけれど、半永久的に掛けられると言っても外部からの干渉でほころびが出るかもしれない。
お兄様に他人に対しての感情の発露ができるか。
…私はいずれできるのではないかと思うのだけど、それにはお兄様の協力が必要だ。
お兄様が心の成長に気付き、受け入れる事。そして、その先に向かう勇気を持つこと。
その勇気を、誰か奮い立たせてくれる人がいると良いのだけど。
(七草先輩とか、ほのかちゃんとかね)
恋をすれば変わる。それはきっとお兄様にも当てはまるはず。だからこそそのきっかけを誰か与えてくれればと思うのだけど、お兄様にはいまだその兆候はない。
…あんなにたくさんの魅力的な美少女に囲まれているのに。
顔をお湯の中に半分沈めてブクブクと空気を吐き出す。
でもまだ高校一年目。焦ってもしょうがない。
そろそろ体も温まったし出よう!と縁に手を掛けた時だった。
パッと照明が消えたのだ。
「えっ、うそ…停電…?」
突如真っ暗になった視界に、すぐに思い浮かぶのは落雷による停電だ。
もうそろそろどこかに行くだろうと思われていた雷雲だったが、まだ上空に居座っていたらしい。
現代の家は電力を使いすぎるのは良くない、とアナログなところも多い。
一昔前はオール電化でドア一つ開けるのも電力を使っていて停電になった時には閉じ込められるという事態が起きていたと聞いたことがあるが、我が家もそこそこアナログ。
閉じ込められるということも無ければ水道が完全に止まることも無い。それにうちには一般家庭にはない予備電源がある。地下の研究室の為だ。
その予備のおかげで冷蔵庫などのライフラインは大丈夫なはず。
だけど最低限のところ以外の電力はカットされたままになるので、お風呂場はカット対象。蛇口は、うん。ここのは使えないみたい。…まさかこのタイミングで停電するとは。
暗闇が怖いわけではないけど不安にはなる。今は身に何もつけていない状態だしCADは扉の向こうだ。
とりあえず湯船から上がって――、と思ったところでノックが響いた。
少し離れたところから聞こえるのでもう一枚向こうの扉のようだった。
「深雪、ライトを持ってきた。入ってもいいか」
「ありがとうございます」
隠れるところはここしかないのでもう一度湯船に身体を沈めた。
こんな時だし、真っ暗ではあってもお兄様には見えてしまう。
こんなところでお兄様のラッキースケベの呪いが発動しては大変だ。慎重に動かねば。
「入るよ」
そう言って扉を開けて入ってきたお兄様はライトを周囲に照らして何かを探している様子だ。
すりガラス越しにライトの動きとお兄様の影が見えた。
そして、
「バスタオルとCADだ。…触ってよければ服も渡すが」
お兄様の配慮が素晴らしすぎて申し訳なくなってくる。
でも服と言ってもその服の間には下着が挟まっているので、お兄様の呪いの為にも触れさせない方が良いのだろう。
一応ね!下着を表に置くようなことはしていない。ちゃんと服の下に隠しておいてありますとも!
お兄様のラッキースケベの呪いを舐めてはいないので。おかげで直視することは避けられたようだけれど、運んでいる最中うっかり落ちてしまうこともあるでしょうからね。それはそのままでお願いします。
バスタオル一枚は大変心もとないけれど、そこにCADを持たせてくれる気遣いよ…。
「深雪はそのままで、入り口に置いたら俺は出ていくから」
「何から何までありがとうございます」
お手数おかけしますとお詫びしたいけれど、お兄様には謝るよりお礼の方が喜ばれるので。
「足元に気を付けるんだよ」
バスタオルを置いたのか、扉の近くにいるお兄様にドキドキしながらもかけられた言葉に、改めてお兄様の心遣いを感じ感謝する。
立ち去ろうとする影に、待ったをかける。
「あの、…甘えたことを申してもよろしいでしょうか。準備をしている間、待っていていただきたい…と」
――考えたのだ。
お兄様はこの暗闇の中でも怖がることは無い。雷にも怯えることも無い。
だからこの状況はただの日常と何も変わりは無いのだろう。
でもね、こんなレアな状況をせっかく二人で過ごすのだ。いつもと違うことをしてみたい。
こんな珍しい状況に、人はいつもと違う行動を起こすのだと、お兄様にも経験をしていただきたい。
しばしお兄様は沈黙を続けたのち、影が動く。
「扉越しでおしゃべりでもしようか」
「!はい!ありがとうございます!」
そう言ってお兄様は扉の向こうに。
私は扉を少し開けてバスタオルとCADを取る。ライトが照らしていてくれたおかげで迷わず手に取れた。
身体にタオルを巻き付けると、魔法で水気をつま先からてっぺんまで取り払う。
「停電を起こした雷はどれほどのものだったのですか?」
「窓が震えていたな。地響きもあったんだが、風呂場まではその衝撃がいかなかったか」
「電気が消えるまで何も。…閃光もすごかったのでしょうね」
「ああ。先ほどまでの比ではないくらい。閃光弾が落ちたのかと思うほどの眩しさだったな」
うぅん、比べるものぉ。恐らくソレは実際に受けたことのある発言だよね。そんなにすごい衝撃だったんだ。
「あれなら深雪も驚いただろうな」
「それは是非見たかったです」
「明日にはニュースで取り上げるだろう」
「こういうのは生で見るからいいのです」
「そういうものか」
「そういうものです」
ライトが手元を照らしているだけで、お兄様は恐らく明かりも付けていない状況の中二人でくすくす笑い合う。
手早く着替えてお兄様がいるだろうドアに手を当てて。
「お待たせしました」
「開けるよ」
ライトを足元に向けて照らして開くのを待つ。
ゆっくりと空いた扉からお兄様の足だけが浮かび上がり、上はほとんど見えなかった。
下から手を差し伸べて下さることで、その手を掴むことができた。
「ありがとうございます」
「見えないだろうからしっかり掴まるといい」
「はい」
いつもとは違うエスコートを受けてお兄様の後に続く。
向かうのはどうやらリビングらしかった。
「しばらくソファで過ごそう。恐らくそう長い停電でもない」
「停電なんて初めての経験ですね」
「そうだな。機械類に影響が無くてよかったよ」
ライトを探しに行くついでにチェックできるところはチェックしてきたらしい。流石お兄様。
「雷の時とは違うワクワク感がありますね」
「そうか」
腰かけたソファの隣から優しく微笑まれている気配。見えなくても感じるものがある。
「もう、子供扱いされましたね?」
「そんなつもりはない。ただ、可愛らしいな、と思ったまでだ」
「それが子供扱いだというのです」
はは、と笑うお兄様もいつもよりテンションが高い。
「深雪は暗闇が怖くないか」
唐突にお兄様からの質問。
お兄様は夜目が利く。たとえ視界が遮られてもエレメンタル・サイトもある。完全にお兄様の視界を防ぐのはほぼ不可能に近い。
だからお兄様にとって暗闇は何の弊害にもならない。
だけど私は身体的にはほぼ一般人と変わらない。
暗闇が怖いかと聞かれれば、怖い、と答えるだろう。暗闇の中、ごうごうと、吹き荒れる天候も心を落ち着かせなくさせる要因になる。
でも――
「お兄様がいますもの」
だから怖くない、と温かな腕を抱き寄せる。
「お兄様がいて、何を恐れることがあるでしょう」
そう言うと、また「そうか」のお言葉。でも、今度のニュアンスはまた別物で。
とても胸が温かくなるような、優しい声色。
「そうですとも」
寒くも無いのに何を話すでもなく二人身を寄せて、私は見えない窓の外を。お兄様は――どちらに視線を向けられているのかわからない。
しばらくの間、そうしていると唐突に部屋の明かりがついた。
電気が復旧したのだ。
だからもうこの時間もおしまい。そう、思ったのだけれど。
「もうしばらく、こうしていないか?」
「…はい」
明かりも灯り、日常が戻ってきたけれど、瞳を閉じて疑似的に暗闇を作り二人きりの時間に身を委ねた。
いや、最初から最後まで二人きりだからな?とのツッコミは不在要員の為入りませんでした。
暗闇の中二人きりっていいよね。閉鎖空間。
お兄様、無意識に妹を子供扱いして距離を保とうとしていたり――だと嬉しい。無自覚だから本人は全く気付かない。指摘されても何のことだ?となる。
お粗末様でした。