妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします! 番外編 作:tom200
本人不在なのに可哀そうなことになる一条君に少しでも幸せになってもらいたいと願いつつ。よろしければどうぞお読みくださいませ。
頂いたお題
『達也と一条将輝の「あの」殴り合い見てどう反応しますかね?成り代わりの深雪ちゃんはやはり原作とは違うツッコミ入れるのでは(ワクワク♡)』
でした。
書いた当時は四葉継承編完結後なので師族会議と多少ズレがありますがご了承ください。
お兄様と婚約者としても恋人としてもお付き合いするようになり、未来はどんどん変わっていった。
大枠はまだ変わっていないこともある。
お兄様に対する周囲の畏怖は日に日に強くなり、警戒される存在なことに変わりはない。
それでも、軍とは円満に離れることができ、魔法師間でも異物として排除しろ!と表立って動くような雰囲気も無い。…裏で全くないとは言わない。どこの組織においても他を圧倒する力とは目の上のたん瘤には変わりないから。
最強チートの宿命である。目立てば目障りになるのは世の常だ。
それをどれだけ摩擦を小さく済ませるかは、陰で支える者の役目。つまり暗躍する私の仕事だ。
と、未来予測を立てながら日々種を蒔いては周囲に目を配っているのだけれど、今のところ仕掛けてくる相手はおらず、状況は穏やか。
お兄様もお忙しくはないようで、今はリビングのソファで二人並んでコーヒーを飲みながら肩を寄せ合っていた。
こんな穏やかな時間を過ごせるなんて、原作では考えられないことだ。
後半は怒涛の展開でしたからね。特に孤立する辺りからは本当にひどい。神様はお兄様を窮地に追い込みすぎだと思う。その逆境をも乗り越えてしまうお兄様はかっこいいですけどね!
お兄様はいつでも深雪ちゃんの為に時間を作ろうとしていたけれど、四方八方から睨まれ、拒まれ、孤立していたお兄様には妹をあまり構う時間も無かったように思う。
それでも貴重な時間をひねり出していたお兄様は凄い。そこには妹が大事という以上の想いがあったはずだけれど、最後までお兄様はそのことに自力で気付くことはできなかった。
――一条君という存在がいなければ、卒業後もお兄様は深雪ちゃんへの愛を勘違いしたままだったかもしれない。
あの殴り合いにはちゃんと意味があったのだ。
(ノリが昭和っぽかったけど)
殴り合ってようやく想いに気付くなんて、夕日が沈む河原で殴り合う展開のよう。それによってライバルとの間に友情が芽生えたりとか。
(ああ、でもこの場合はどちらかというとアレかな。空港で旅立とうとする一人の女性を、地元で見送ろうとする友人二人が何でお前付いていかないんだよ!と殴り合って、最終的に想い合っている二人を見送る、みたいな)
一条君とお兄様の間に友情は無かったように思うけれど、手助けをしたという意味ではそちらの方が近い気がする。手助けというか敵に塩を送るというか。
そう考えたらおかしくなってふふ、と笑って肩を揺らしてしまった。
「…思い出し笑いは欲求不満だという俗説があるらしいが?」
するり、と肩から顎に手が伸びて擽られる。
あれだよね?思い出し笑いをする人はえっちっていう。…お兄様そんな俗説まで知ってるの?!
というか、手!動きが妖しくなってきた。お兄様の方がえっち!!
「悪戯をなさらないでくださいませ」
手を捕まえて腿の上に押さえつける。
くすくすと笑うお兄様は悪かった、と悪びれも無く言って顔を覗き込む。
恋人になってからのお兄様はこうして余裕を見せては翻弄してくる。そして困る私の反応を楽しまれるのだ。
あまりいい趣味とは言えないのだけど、注意をしたところでこのように謝ってはまた繰り返すのでこれに関してはもう修正できないのでは、とあきらめかけている。それでも抵抗しないとエスカレートしていきそうなので防波堤として抵抗は頑張る所存。
「それで、どうした?」
「不満などないのです。ただ、この時間が夢のように幸せだな、と思っただけで」
「――うん。それは嘘ではないようだけど、真実でもない。違うか?」
「いつの間に探偵になられたのです?」
「何も探偵だけが心を暴く職業ではないと思うがな。それに…お前以外に暴くつもりも予定もない」
(…後半の甘い囁きは必要でしたかね?)
出来れば私の心も暴かないでほしい。心まで見透かされてしまったら逃げ場がなくなってしまう。
だけどお兄様の言う通りで、鋭い指摘にまるで犯行を自供しそうになる犯人の心境にさせられる。
(でも、そうだな)
ちょっと話してもいいかな、という気分になったのは、もう原作を離れ、縛られることなく新たな未来に向けて歩き出せる希望が見えたからか。
「――幼い頃に夢を見ました。大人になるまでの間に様々な困難がお兄様に降りかかる夢を」
でも困難ばかりを話すのも面白くない。
この幸せなひと時に、それは相応しくないように思えたから。
「そこでは、お兄様は私のことを妹として愛してくださって、私の方からお兄様に猛烈にアタックしていたのですよ」
「それはまた…その世界の俺は随分と頑固者だな」
「頑固、ですか?」
てっきり羨ましいとか冗談を言われるのかと思ったのに。
予想外の言葉に目をぱちくりさせると、可愛い、とつぶやかれて目元にキスをされた。
「もう、お兄様!」
話が進みません!と突っ込めば許してくれ、とキスを落したところをなぞってから続ける。
「深雪と居て、惚れるなと言う方が無理な話なんだ。それだけお前は魅力的だから」
すり、と頬に滑らせた手を今度は頭の上に。
「お前を妹と思い込むことで、これは抱いてはいけない感情だ、と意識をしないよう反らした。そうでもしないと関係を破綻させてしまうと、――恐れたんだ」
「…恐れた、ですか」
初めて聞く言葉に、思わず繰り返してしまう。
お兄様が恐れる…だけど、言われてみればそうか。
兄妹愛が唯一残されたお兄様が、唯一恐れるのは妹の喪失。でも、それと同じくらいお兄様にとって妹との関係が壊れる事もまた、恐れていたことなのかもしれない。
沖縄の事件が起こる前までなら気しなかっただろう。嫌われていたとしても(けしてあの時も嫌っていたわけではないのだけど)遠くから見守る。彼女の幸せが自分の幸せ、とそう信じていたお兄様。
だけどその妹に好意を寄せられ、距離が縮まり、仲良く暮らす様になって温かいモノに包まれる生活に慣れてきたところで妹との関係が壊れる――その喪失感は相当なものなのではないだろうか。
「兄妹であれば繋がりが切れることはない。だが、男女の関係となるとちょっとしたことで関係は脆く崩れる。…少しでもその可能性があるならば、兄妹でいた方が良い。
――頑固と言ったが、実際は臆病者だな」
「そんなことはございません!」
吐いて捨てるように言うお兄様に、それは違うと大きく否定する。
「それは臆病とは言いません。お兄様は、お兄様はたくさんのモノを奪われてきました。だからもう奪われてなるものかと必死だっただけです。守る為に、抗ったにすぎません!」
少し感情的になって断言すると、お兄様は驚いたように目を開いて、ふ、と力を抜いたように微笑まれた。
そのギャップが、私の心臓をぎゅっと掴む。
「そう言ってもらえると、救われるよ」
「…お兄様は、臆病者ではありません」
首に腕を回して身を寄せると、背中に大きな手が回り、力強く支えられる。
「まあ、なんだ。結局お前に惚れずにはいられない、という話がしたかったんだが。それで、夢の中での俺はお前への気持ちを自覚できたのか?」
「お兄様に告白をしたのは私が次期当主と公表される前の日のことです」
「それは、俺が告白した日だな」
そうですね。あれには本当に驚かされましたよ。
深雪ちゃんが告白しない限りそんなことにはならないと思ってましたからね。しかもお兄様の場合は…、と思い出しかけて恥ずかしくなり額を肩にこすりつける。
「俺だったらお前からの申し出を喜んで受け入れるが、夢の中の俺は受け入れなかったんだな」
「受け入れられない、と言うより保留でしょうか。お兄様は妹としか見ていないと言われ、傷ついた私に言うんです。好きになる努力をする、と。それが、どれほどの救いになったことか」
あれはなかなかのシーンでした。思い出すだけでときめいてしまう。
しかしお兄様にはそうではなかったようで、不審顔。
「…それは、先延ばしにしただけでは…?」
「未来をくれたのです。ありえないと切り捨てるのではなく、努力すると約束してくださった。――お兄様は有言実行の方ですもの。そのお兄様が努力をして下さるというのであれば、それはいつか叶う。そう信じられました」
そう。深雪ちゃんはその言葉があったから希望が持てた。
そこからの婚約者としての深雪ちゃんの肝の座り方はすごい。たまに揺らいでしまう乙女心も見せていたけれど、お兄様を信じる力だけは揺るがなかった。
「なんだか妬けるね。夢の中の自分に嫉妬してしまう」
少し力を籠められて告げられた言葉に、今度は私がくすくすと笑う。
「夢の中ではいつも私ばかりが嫉妬しておりました。そしてお兄様はそれを焦っては躱したり肝を冷やされたりして」
「随分といらぬ苦労を味わっているな。どのみち深雪以外に靡かないだろうに」
それはそうなんだけどね。深雪ちゃんの嫉妬はあながち間違ってもいない。皆お兄様にそれなりに好意を寄せていたりしたから。…お兄様も婚約者として節度を持った行動は起こしていたのだけどね。お兄様はおモテになるから。
「負い目もあったのでしょう。お兄様にとって婚約者の立場はしっくり来ていなかったでしょうから」
「…妹と思い込んでいればそうもなるのか」
腕の力が弱まったのでお兄様の胸に手を添えて、少し体を起こした。
見上げるようにお兄様を見つめて、少しだけ原作のお兄様を重ねる。
「結局お兄様が私への恋心を自覚するのは、卒業式の日、ライバルに気付かされて、でした」
「…ライバル?…一条か?それとも十文字さんか…お前を好きになるのは男だけとも限らなかったな。リーナや雫か?」
ライバルというか、そちらは親友ですね。十文字先輩の名が出てきたのもだけどお兄様の羅列する名にちょっと遠い目になった。
「一条さんです」
「それはまた…。何で卒業式にアイツがいるのかはさておいて。それで。どうやって自覚することになるんだ?」
「殴り合いです」
「…は?」
「魔法も武術も無い、純粋な拳と拳のぶつかり合いですね」
「……なんだってそんなことになるんだ」
下から見るお兄様の怪訝な表情も素敵ですね。眉間の濃さがよく見えます。
ふふ、と苦笑しながら続ける。
「一条さんがお兄様の気持ちに疑念を持たれて突撃を掛けた、と言ったところでしょうか。自分の方が好きだと訴えてお前はどうなのだと問い詰めるのです。お兄様は愛していると返してくださったのですが、彼はその答えに納得はされなくて――それは妹としてではないのか、と」
「…図星を突かれたのか。いや、図星とは語弊があるが、お前を妹として愛そうとした弊害が出たんだな」
弊害…?
これまた思っても視ない言葉にお兄様を見つめる。
視線を受けたお兄様は情けない話だが、と口元を歪ませて、想像だがと付けてから。
「とっくに心は受け入れているのに理性がそれをありえないことと拒むことで無かったことにしていた弊害だな。さぞやダメージを食らっただろうさ」
お兄様、その場にいないはずなのに見事な名推理。それが正解かわからないけれど、やっぱり名探偵の素質がおありなのかな。
「お兄様の心までは私には…。ですが、それがきっかけでお兄様と一条さんは言い争い始めました。周囲など目に入らないと言わんばかりに声を張り上げて。…あんなに長いことお兄様が大声を出されるのを初めて見ました。そして、いつの間にかに拳をぶつけ合っていたのです」
「…自分ではない自分のこととはいえ、なんともむず痒いな。そんなことをしたのか」
「「ばき!」「どか!」と。それはもう防御を捨てて拳をぶつける事しか考えていないように」
「百年前の青春ドラマでもそんなことやってないんじゃないか?」
お兄様が天を仰がれてしまった。…綺麗な喉仏がよく見えますね。触れたい欲求を抑えつつ視線をずらして。
「でも、それでお兄様は言葉にし、ぶつかり合うことで、答えを得られたようです」
「一条はとんだ貧乏くじだな」
それは、確かに。告白したのに、負けないと殴り合いまでして、目の前で奪われてしまうなんて。
でも、一条君もわかっていたのだと思う。全てにケリを付けようとしたのだ。自分の気持ちにも、一条家としての立場にも。いつまでもふらついている自分の心にけじめをつけた。
「それで?」
「え?」
「俺は何と言ってお前へ愛を伝えたんだ?」
お兄様にじっと見詰められ、いつの間にか頬に手を添えられて逃れられないようにされていた。
「お知りになりたいのですか?」
「知りたいね。お前をこんなに綺麗に色づかせるその言葉を」
…しまった。あの感動的なシーンを思い出して顔が緩んでしまっていたらしい。
「一体、なんと言って深雪の心を射抜いたんだ?」
「――さて、どうでしょう」
「深雪」
「その時が来れば、わかるかもしれませんよ?」
お兄様が一条君と卒業式で殴り合う未来はきっと来ないだろう。
だって、お兄様はすでに独り勝ちしているのだから。
一条君の横やりはいつの間にかに自然消滅…あれ?したんだっけ⁇記憶をひっくり返してもそのような記憶が無い。
あれ?叔母様⁇正式に断られたんですよね?
「まあ、そうだな」
「え?」
「もし一条がまだお前を諦めないというのであればわからせてやるのも一興か」
「お、お兄様…?」
「――昔な。深雪の将来について考えたことがある」
「は、はあ」
急に話が飛んで目を白黒させていると、お兄様は頬を撫でながら続けた。
「いずれ誰か婚約者の座に選ばれるだろう幸運な男を、父親に成り代わって俺と殴り合ってもらおうと要求するつもりだった」
「……それは、また…」
「父親には娘の夫となる男を殴る権利があるらしいからな。流石に兄では一方的に殴る権利はもらえないだろうが、条件をフェアにして互いに魔法を禁止で殴り合いで試させてもらおうと半ば本気で思っていた」
わぁお。ワイルドぉ。お兄様、一条君との殴り合いに呆れてましたけど、そのお話はどっこいどっこいですよ。
確かに娘を持つ父親にその権利は…ある、のか?せいぜい娘との交際など許さん!でちゃぶ台をひっくり返すくらいじゃないの⁇何か不貞を働いたりとかすれば殴るだろうけども。婚約者になったからって…。しかも、試すって私の相手にふさわしいかってこと?
お兄様以上に強くないと認めない、と?
「…お兄様に腕っぷしだけで敵う相手がいるのですか?」
「別に勝てなくてもいい。気概があるかが重要だ」
…さようでございますか…。お兄様も不思議な思考をお持ちです。
「だからな。もし一条が俺に想いで負けないと言ってきたら、俺は遠慮なく殴らせてもらおう」
わあ。一条君にいらぬフラグが立ちました。逃げて!一条君!!
「明日からは筋力トレーニングも追加するか」
「お兄様?!どこまでお強くなられるつもりで!?」
「お前を俺から奪おうとなどと思う輩が夢想するのを諦めるくらいかな」
お兄様が生き生きとしていらっしゃる。でも浮かべられている笑みはどう見てもヒーローよりもヴィランのよう。
どうしてでしょうねぇ。四葉の血?
ただ微笑むだけで何か企んでいるように見えるっていうね。呪いかな。
「さ、そうと決まれば早くベッドに行こう。明日は早い」
「きゃ!お兄様?!」
「達也」
「、た、達也様…」
「ん。夜は短いからね」
「カップを片付けておりません!」
「後でやっておく」
「片付けるなんて一瞬です!」
「その一瞬も深雪を離したくないんだ」
「!!」
――深雪は渡さない――
「誰にも邪魔はさせない」
――誰にもだ!――
未来の言葉がリンクしていく。
その言葉に、私は――
この世界では殴り合いは発生しません。一条君が不安に思うほど彼らの関係はグラグラしていないので。がっちりがんじがらめに結ばれています(←
でもけじめをつけるために告白はするかもしれませんね。ヘタレ返上。
けど妹のせいで変なフラグが立ったので気を付けてほしい。お兄様との殴り合いは普通に命の危機。どんだけ自分の身体能力が高いか忘れてます?お兄様。一条君はいくら鍛えていたと言っても魔法師としてが前提だから一通りの武術は通ってきているかもしれないけど、実戦となるとお兄様に分がありすぎると思う。
殴り合いについて、妹としてはあの名シーンを無くしてしまった…としょぼん。ちょっと見てみたかった。
でもそれは深雪ちゃんありきの話であって自分がそこの立場になりたいという願望はない。もしなってしまったら私の為に争わないで!をすべきか悩みつつもし本当になったら二人を冷却してでも止めるかも。自分に向けられると思うとやっぱり恥ずかしがっちゃうだろうから。せめて人目のないところでやってほしい。ほぼ全校生徒の前でやることじゃない。
お粗末様でした。