妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします! 番外編 作:tom200
本編とはまた違う設定です。
高校一年の入学式のお話。
捏造ご都合主義のお話ですので、ご注意くださいませ。
頂いたお題
『if設定で、もし、深雪の体が弱かったら(気管支が弱かったり、持病もちとか…)
そのときの達也や水波、一高メンバーの会話や日常風景的なお話』
でした。
満開の桜の木の近く、抱き合う男女の姿があった。
男子生徒の背は高く、女子生徒の頭一つ分の差があり、彼女の顔を見ることはできない。
だが、風にたなびく長い黒髪からも美少女であることが窺える、そんな後ろ姿をしていた。
「落ち着いたか?」
「はい、申し訳ございません、お兄様」
「謝らないでくれ。これは俺に原因があるのだから」
「いいえ、お兄様は何も悪くなど。…ですが、こんな日に論争をすることでもありませんね。ありがとうございます。お兄様のおかげで楽になりました」
「やはり総代としての挨拶など受けさせるべきではなかった」
「そんなこと、おっしゃらないでくださいませ。これくらいのこと、熟せなければ今後の学校生活も難しいと判断されてしまいます。それに、私が体調を崩したのは興奮しすぎただけであって、緊張して、ではないのですから」
「…深雪は入学を楽しみにしていたものな」
「はい!お兄様と一緒に通えてとても嬉しゅうございます!」
「先月までだって同じ学校に通っていたじゃないか」
「中学と高校とでは全然違います!それに、ここでしか見られない資料もたくさんあるとか。お兄様の研究にも役に立つものがあるかもしれません」
「…ありがとうな。お前が一緒に通いたいと言ってくれたから俺は受験することを許された。ギリギリの補欠合格ではあるが」
「それでも合格は合格です!入ってしまえばお兄様の実力をもってすれば問題ないですとも」
「実力って。俺の魔法力はギリギリラインなんだぞ?」
「まったく、基準が狂っているのが問題なのです。そんな魔法力なんて、実戦の前ではただの数値でしかありません。己の力をどう使うかが大事でしょうに」
「ふ、お前も実力主義に染まっているな」
「単純明快でいいではありませんか」
くすくすと顔を見合わせて笑い合うことで、ようやく女子生徒の顔が見えるようになる。
予想に違わぬ――否、想像をはるかに超える現実離れした美少女であった。
桜の花びらが、彼女に触れたくて舞っているような錯覚にさえ陥る、幻想の美少女。
だが、確実に現実であると、抱きしめている男が証明していた。
会話からして兄妹とはわかるが、あまりにも似ていない兄妹だった。
この世のものとは思えない儚げな美少女に対し、男の容姿は鋭い目つき以外の特徴は無く、整ってはいるが平均を抜きん出るほどの容姿ではないように見えるのは、どうあっても目の前の少女と比較してしまうからか。
「そろそろ約束の時間です」
「…あまり無理はしないようにな」
兄に頭を撫でられて目を細めた深雪と呼ばれた少女は、とんとんと彼の胸を叩いて離すように伝える。
名残惜しむように離れる兄に口元を綻ばせつつ、深雪は頭を下げた。
「行ってまいります――見ていてくださいませね、お兄様」
「ああ。妹の晴れ舞台だ。しっかり見届けせてもらうよ」
一年生総代として挨拶という大役を任された深雪の足取りは、つい先ほどまでふらついていたのが嘘のように凛とした美しい歩き姿だった。
兄、達也はその姿が見えなくなるまで見送り、『眼』を離すことなく
その表情は無表情に見えるが、妹が見たら苦笑気味にこう言うのだろう。
「そんな心配な顔をされないでくださいませ」
本人も無自覚なことをなんともなしに言い当てる。それだけ彼女も自分を見てくれているのだと思うと、それだけで達也は幸福を実感できる。
だから、侮蔑の視線や言葉を呟かれても何も不快にならなかった。
己が劣等生であることなど他人に言われるまでも無い。生まれながらの欠陥品だとすでに自覚済みだ。
新たにウィードと言う蔑称が追加されたようだが、そんなものも今さらだ。ひとつ増えたところでなんとも思わなかった。
彼の頭には妹のことで一杯だったから。
(このまま無事に過ごせればいいが…)
心配だ、と目を閉じる。
集中すれば、妹が複数人と打ち合わせ中だった。
人気の無いテラス席で端末を操作しながら時間をつぶしつつ妹を
今のところ体調は悪くなさそうだな、と観察しながら並行して操作していた端末の端にある時刻が30分前を指していることに気付き、端末を閉じたところで近づく人影が。まっすぐこちらに向かってくる。
それが誰か、見てすぐに判明する。
この学校の生徒会長でもあり、十師族の一員である七草家の長女。その名に恥じぬ容姿と実力を持つと聞いていたが、確かに映像で見るよりも整った容姿をしていた。
が、達也にとって妹と比べるものは無く、彼女が不動の一位に変わりはない。
よって、彼女の容姿は彼にとって世間一般では美少女と持て囃されるのだろう、とは理解できても彼の心を揺らすものではなかった。
いや、多少揺らいだが、それは別の理由からだ。
この人が、妹を大勢の前にひけらかそうとしている相手なのだと。そして総代になったということは生徒会役員に入れるつもりなのだと。そう思うと、彼女に対しての評価がマイナスの感情に傾いた達也だが、それを表に出すようなへまはしない。
適当に会話を交わしながら、まだ話したがっている様子に、そろそろ時間だからと切り上げる。
生徒会長として個人の成績を見る権限があるらしいが、知っていて声を掛けたという時点で不審がれと言っているようなもの。何を考えているのだろうか――何をさせるつもりなのだろうか、このウィードと蔑まれる二科生に。
厄介ごとに巻き込まれそうな予感を感じつつ、達也はため息を吐いて気持ちを切り替え、入学式が執り行われる講堂へと向かうのだった。
――
やあやあ我こそは絶世の美少女にしてチートな力を生まれながらに持っている司波深雪――に成り代わってしまった一般人である!
いやあ!やってきました原作軸!魔法科第一高校入学式である。
もう、大興奮だよね!お兄様にお願いして講堂まで連れてきてもらって、あのシーンの再現を!と思ったのだけど、残念ながら完全再現はできなかった。
何故なら――私の体がか弱すぎて、駅から講堂までずっと抱きかかえられて運ばれ、講堂に到着してもお兄様に抱きしめられて体調を整えていたから、頭を撫でられるシーンになかなかいかなかったのである。
深雪ちゃんのパーフェクトボディにか弱い設定が?と思われたかもしれないが、それは間違いなく私のせいである。
深雪ちゃんとして生まれ、原作通りに暮らしていた私が前世を思い出したのはあの沖縄事変の時。お兄様に生き返らせてもらったあのタイミングだ。
なぜもっと早く記憶が戻らなかった!?とも思ったが、後悔しても仕方がない。これから先を変えよう!と意気込んだのは良かった。おかげでお母様とお兄様の仲は、軽口を叩き合えるほど(しかし両者ほとんど表情変わらず)と良好。
お母様の死は変えられなかったけれど、あの妹以外に強い想いを向けられないお兄様が、別れを惜しんだことでも原作との違いが分かるというもの。私は心の中で号泣した。…深雪ちゃんの姿で号泣なんてできませんからね。表立ってはしっとり静かに涙を流しましたとも。おかげで周囲がまるで宗教画を見る信者のようになってましたけどね。見なかったことにした。スルーですスルー。いちいち気にしていたら何もできないのでね。
と、改善できるところは改善し、来る災厄に備えようと必死に勉強してきたのだけど、そのことが原因でどうやら災いを齎したらしい。
お兄様の
お兄様の力を封印するために常に魔法を行使して力が半減することは知っていた。原作では大した問題にはなっていなかったはずだが、私はその日以降体調を崩すようになる。
…私の中のサイオン量とそれを抑え込んでいたサイオンのバランスが崩れ、疲労が溜まったり、感情が高ぶりすぎると体温が著しく下がるのだ。低体温症を引き起こすレベルまで。
これは私の得意魔法が冷却魔法であることが影響しているのだという。
こんな事、原作ではなかった。もしや私みたいな一般人が成り代わってしまった弊害か!?と恐ろしくなったがすぐにお兄様が理由を解明してくれた。
「深雪の体がまだ未成熟なところに、急成長したサイオンや魔法力に体が耐えきれなくなったんだ。今まで問題なかったのはバランスが取れていたからだが、誓約という魔法によってそのバランスが崩れ、体に影響が出てしまっている」
らしい。
…つまり、私が前世の知識を使って深雪ちゃんをさらにチートに!計画を実行したことにより、力が早く開花してしまい、体が追い付かない状況になってしまった、ということ。それでも何とかなっていた制御が、一部力をお兄様に使ってしまったことで自分の体まで行き届かなくなったのだと。…自業自得だった。
しかし、そんなこと、お兄様は知る由も無く、自分のせいだと責めた。
一時期は自分が大人しく隔離されていれば負担を掛けずに済むのでは、と分家たちの思惑に乗ろうとするから大いに慌てた。そんなバッドエンドってない!
必死にお兄様を説得。お兄様は私に残された最後の家族(父親?母亡き後きっかり半年待って速攻再婚した時点でそんなものいません)、傍に居てほしい、と。
力の制御は頑張るからお兄様に指導してほしい。成長すれば落ち着くはずだからそれまで傍で支えてほしい。
結果、お兄様は折れてくれた。
制御はなかなか難しく、しょっちゅう倒れたりもしたものだからお兄様の過保護は加速。登下校は抱き上げられて移動が当たり前。少しでも体温を下げないように、疲労を軽減させるため、と理由を付けられているが、私はこれは果たして本当に必要なことなのか疑問視している。
でもお兄様がそれくらいさせてくれとお願いされてしまえば断るのも難しく、それでお兄様の気が収まるなら、と大変、たいっへん恥ずかしいが、お兄様の好きにしてもらっている。
ちなみに運動は問題なくできる。体を動かすことは好きだ。それはお兄様も知っていることなのにね。
魔法を使うことも問題ではない。むしろちょっと良くなるくらいだ。体内を巡るサイオンが放出されるからかな。
ではどんな時に体調を崩すのか。
それは精神状態からくる。ストレスにさらされすぎたり、疲労が重なると体温が低くなる。体温が下がると免疫力も下がり、病気にもかかりやすくなる。…まあ、大抵その前にお兄様が気付いて体温を分け合い、バランスの調整をしてくれるのだけれど、それがとても恥ずかしい。
ぎゅう、と抱きしめられて、触れられ、大丈夫だ、落ち着いてとお兄様の甘々ヴォイスで囁かれるのだ。心臓が持たない。
だが、この外的に熱が上昇して体が温まるのが功を奏するのか、温度が戻ってくるおかげで持ち直す。…だけど代わりに心臓はいつも爆発寸前。苦しくなる。これも精神状態が乱れることだと思うのに、どうやってか同時に施されるお兄様のサイオン調節がうまくいくようで体温が下がるようなことは無いのだ。
酷い興奮状態だと思うんだけどね。そのコツを教わろうにもお兄様は説明が難しい、と言葉を濁す。
自力で何とかするしかないようだ、とお兄様を見つめて研究しようとするのだけど、いつもその途中で意識を逸らされ肝心なところが見られなくなってしまう。お兄様の手練手管に翻弄されてしまうのだ。
…お兄様本当に中学生?なんかいい様に転がされているのだけど、とお兄様の恐ろしい才能に慄きつつ、ここまで来てしまった。
今は初めの頃よりも体調を崩すことなく、月に2,3回程度に落ち着いた。
二日に一度は倒れていたのでかなりの進歩を言えよう。体も徐々に成長してきたことも大きな要因だ。
だが、これから新生活が始まる。ガラッと学生生活も変わる。その上この四月は立て続けに事件が起きることを知っている。…体調を崩さない理由が無い。
だからできるだけ一日一日、気を付けて生活せねば!と気合を入れて準備をしてきたのだけど――あの入学式だ!と嬉しくなって興奮したら、体温が下がってしまい、講堂の前で抱き合うことになってしまった。すぐに持ち直したけれど、これは反省しなければ。これから大好きなキャラクター達にも会うのだ。これ以上お兄様に心配をかけるようなことはしてはならない。心落ち着かせるように深呼吸をして、待ち合わせ場所に向かい、声を掛けた――。
(わ~!あーちゃん先輩予想以上の小動物感!可愛い!!服部先輩も美人系だよね。私に対してはとても優しいいい先輩。やっぱり魔法力が高いと美形ってのは設定的に美味しすぎる。眼福です。あ、リンちゃん先輩も素敵!クールビューティー!!そして何より七草会長よね!うーん、魅惑のボディとプリティフェイスがアンバランスなんだけどそこが蠱惑的…恐ろしい。これでまだ十代?ヤバいね)
大興奮だけど、先ほどお兄様に整えてもらったことと、貰った熱が上手く相殺されて体温が下がりすぎることが無かった。
(ありがとうお兄様。とても恥ずかしかったけどおかげで助かりました)
そして軽く打ち合わせをして、会長は周囲を確認してくる、とふらっとどこかへ。
(お兄様の下へ行かれるのですね!ぜひ!記憶に残るファーストコンタクトを!そして伝説の木の下で告白を!)
…伝説の木が無い?そんなもの、新たに作ればいいのです。伝説なんてでっち上げたもの勝ち!
とと、テンションが上がりすぎている模様。気を付けないと。
ここで大丈夫なところを見せつけて、お兄様の心配性を減らせるようにするのだ。でないと高校生活がずっと私のお世話で終わってしまう。それでは何も始まりようもない。
まずは私が一人でもできるところを見せなければ。
(天国のお母様、見守っていてくださいませ)
それから生徒会役員とはどういうものかという、勧誘ではないにしろお話を聞いている間に時間はあっという間に過ぎ、時間となった。
「司波さん、頑張ってね」
「はい、先輩方の期待に応えられるよう臨みたいと思います」
さあ、まずはご挨拶と行きましょうか。
――
深雪の挨拶の後、拍手が遅れたのは皆余韻に浸っていたからだ。
彼女は見た目だけでなく声も美しく、耳心地の良さに空間全体が酔いしれていたのだ。
彼女が光り輝いて見えて、この、あまりに現実離れした光景に、自分は夢でも見ているのではないかと。
そう思うのも無理はないだろう。それほどまでに深雪は神秘的に見えた。
会長が舞台袖で拍手をしたことで皆拍手をするということを思い出し、あまりの感動を伝えるべく必死に叩いたことにより会場全体が揺れるほどの衝撃となった。比喩ではない。実際に揺れたのだ。足を踏み鳴らしたわけでも、歓声が上がったわけでもないのに。
異常ともいえる空間を作り出した深雪といえば、品のある、美しい所作で一礼して舞台から去っていく。
それだけで感嘆が漏れ、次の進行や紹介などほとんどの人間の記憶に残っていないだろう。
とてもいい挨拶だった。平等を謳った内容は一部ヒヤリとする内容が含まれていたが、理想を語る彼女の姿に非難をぶつけるような輩はいない。
実際彼女に向けられていた視線の中に害意あるものは無かった。…その声に酔いしれて内容まで聞こえていなかった可能性はあるが。
兎も角問題など起こりようも無く入学式は終了。
後はクラス分けの確認とIDカードの受け取りがある。
たまたま一緒になった女子たちと連れ立って向かったのだがなかなかの長蛇の列だ。
出遅れたー、と騒ぐのは千葉エリカ。千葉家の者だということが分かる身のこなしが見られるが、彼女は一般人のふりをしているのか、ところどころ動きが大げさに見えた。そして口を開けば明るく楽しそうに話す様子にムードメーカー的存在になるだろうことが窺えた。
その隣にいる柴田美月の『目』は要注意かもしれない。俺と深雪との関係が何らかの形で見える様だった。
俺たちが兄妹だということは隠すつもりも無いが、特殊な魔法で繋がっていることは見られるとまずい。
釘を刺す必要はありそうだ。
そしてIDカードを受け取り、クラスを確認して各自この後どうするか、との話に妹を待つことを伝えると見てみたい!と二人だけが残った。
深雪を見たい、という気持ちはわかる。が、なかなか彼女たちは豪胆だ。深雪の神々しさに気後れする者は多いのに。
そこへ。
「お待たせいたしました、お兄様」
聞き慣れていてもなお可憐で可愛らしい声に心が浮き立つ。
振り返れば深雪が人を引き連れて歩いてくるところだった。
すぐ近くには生徒会長と副会長。生徒会役員が雁首を揃えているということは勧誘目的か。仕事はどうした?
「お疲れ様。とてもいい挨拶だったよ」
「ありがとうございます」
はにかむ笑みは謙虚で奥ゆかしさがあって、周囲の男たちが胸を撃ち抜かれたかのように抑え、女子も頬を染めていたりとそれぞれの反応を見せていたが、俺の目は誤魔化せない。
そっと頬に手を伸ばし、触れる。
それだけで悲鳴が上がるが、深雪がお兄様?と呼んだことで兄妹とわかって悲鳴は収束。すぐに収まったものの、睨みつけるような視線も向けられていたが、そんなもの気にするほどやわでもない。
「疲れが出ているね。あれだけ頑張ったんだから仕方ないが」
「まだ大丈夫です」
「もう少し頑張りたい、というのはわかるが」
「お兄様は心配性ですね。――そちらのお二人は、さっそくご友人を作られたのですか?」
彼女たちと話していたところを見られていたようで、深雪は彼女たちに親しみやすい笑みを浮かべた。
どうやら疲労しているのを隠したいらしい。
仕方が無く触れていた頬から手を下ろした。
「初めまして、妹の司波深雪です。兄のお相手をしてくださってありがとうございます」
「えーっと、お相手ってほどじゃないんだけど、クラスメイトになったからこれからも付き合っていくつもり。あ!私は千葉エリカよ。よろしく」
「わ、私は柴田美月です!先ほどの新入生総代の挨拶感動しました!とっても素敵でした!」
「ありがとう。兄をよろしくお願いしますね。ちょっと不愛想で勘違いされやすい兄ですが、優しい良い兄なんです」
「深雪、その辺で」
「まあ、お兄様ったら照れていらっしゃるのですか?」
深雪に褒められて照れが全くないというわけではないが、彼女の興奮具合が心配だった。
今朝も学校に着いた途端興奮状態でふらついていたというのに。
大丈夫と本人は言っているし、確かにまだ余力はありそうだが、油断は禁物だ。
じっと見つめると、妹の懇願するような上目遣いに折れそうになる。しばらく見つめ合っていると周囲は深雪に見惚れていた状態から解放されて周囲を見る余裕ができたようで、俺への敵意が増えた。
そして聞こえてくるのはこの学校特有の蔑称。
「おいアイツ、ウィードだぜ」
「うわぁ、二科生のくせにブルームの高根の花に?」
「兄妹だって。似てなさすぎだろ。見た目もだが、中身の出来さえ違いすぎる」
「分を弁えろよ」
等々、好き勝手言ってくれる。
蔑称が聞こえた時点で妹の耳を両手でふさいだが、聡い彼女は状況を把握してしまったのだろう。表情が曇った。
これは危険な兆候だ。
さっさと帰った方が良い。
そう思っていつものように深雪を抱き上げようとしたのだが、そこに待ったがかかった。
生徒会長の七草真由美だ。
一旦深雪の耳から手を放して二人して会長に向き直る。
「ちょっとお時間よろしいかしら?」
どうやらこのまま生徒会役員の勧誘をしたいらしいが、まったくもってよろしくない。
深雪が口を開く前に口を挟む。
「申し訳ございませんが、それは本日でないといけないでしょうか。生徒のプロフィールをある程度把握されている生徒会長ならご存じかと思いますが、妹は現在体調を崩しやすい体質です。あまり無理をさせたくありません」
深雪の前に立ちはっきりそう述べれば、七草会長ははっと気づいた顔をして、その背後に控えている副会長には睨みつけられた。
「そうね、では明日にしましょう」
「会長!」
「長年看病をしているお兄さんが今日は避けた方が良いと忠告しているのよ?」
「ですが、彼女も大丈夫と言っているではないですか!」
「体調不良者の大丈夫を信じるのはいかがなものかと思いますが」
「!!お前が勝手に言っていることだろう!」
深雪の大丈夫と言う言葉を盾にとって反論する副会長に釘を刺したら思い切り噛みつかれた。情緒不安定か?それともカッとなりやすい性格なのか。どうでもいいが、さっさとこの場を離れないと深雪が危ない。
先輩を無視して深雪を抱き上げると周囲から悲鳴が上がるが、――やはり。
「すまない、俺が原因か」
「…いいえ、お兄様は何も悪くございません…」
抱き上げたことで気を張っていたのが解けたのかぐったりと身を預けてきた。その体温はかなり低い。
この場で発生したストレスが原因だった。体が小刻みに震えている。体温が下がり始めた証拠だ。これはまだ下がるかもしれない。
「え、そんなに具合が!?ご、ごめんなさい!確かに体調を崩しやすいと聞いていたのだけど、ここまで…」
「この子は人の害意や誹謗中傷などの言葉にも心を痛めやすいのです。自分に向けられたものではなくとも酷いストレスになります」
この発言に顔色を悪くしたのは好きかって言っていた人間と、彼女の体調を心配し同情した者だろう。
どうでもいいが。
「成長と共に大分良くなってきましたが、今日は疲労も重なったのでしょう。今からケアをすれば明日は登校できるかと」
「…申し訳ございません」
「謝らないで深雪さん!今回のことはこのような人前で話しかけた私たちの不注意でもあるわ」
「いえ、…私の体質が原因です、会長は何も」
「深雪、それ以上話すな。――吐息まで冷たくなっている」
俺の言葉に観念して深雪は大人しく顔を埋めた。
自分の体調が思わしくないことを認めたのだ。
そして俺の言葉に周囲が静まり返る。
「吐息まで冷たいって…ストレスが低体温を引き起こす強すぎるサイオンによる魔法障害とは書いてあったけど。もしかしたら役員の仕事は荷が重すぎるかしら」
「普通に生活している分には申し分ありませんので問題はないかと。ただ、疲労とストレスにさえ気を付けてくだされば」
そこが一番難しい所なんだけど、との呟きは聞こえないふりをした。
現状、これが一高の日常なのだ。一科生と二科生に溝があると聞いていたが、ここまであからさまだとは思わなかった。これは深雪には厳しいかもしれない。
とはいえ、疲労が無ければ多少の害意などここまで悪化するほどではないのだが、わざわざ今それを説明することでもない。
「それでは失礼します」
「失礼します」
もうだるくて動くもの億劫だろうに、深雪は真っ白な顔で別れを告げる。
その様子は儚くて今にも消え行ってしまいそうに見えただろう。今度こそ誰も引き留める者はいなかった。
校舎を出ても抱き上げたままなので周囲からの視線を感じるが、妹を温める事以上に優先すべきことは無い。
「…せっかくお兄様の手を煩わせずに済むと思ったのですが」
「なんだ。そんなことを考えていたのか?俺は今まで通りこうして登下校するつもりだったぞ」
「お兄様にはお兄様の学校生活を送っていただきたいのです…」
「そんな心配は無用だ。俺は俺の好きなようにする」
深雪は迷惑をかけることを心苦しく思っているようだが、俺にとって深雪の世話をすることは空気にも等しい。逆にしていないと苦しくなる。
だから気にすることは無いのだと、どれほど言葉を重ねても、優しいこの子は俺を自由にしたいという。だが、俺は十分自由にしているつもりだ。
好きだからしている。妹が誰よりも大切だから。
(――俺の唯一だから)
俺の力を封じたことでバランスを崩し、体調が悪くなる妹の姿に心が痛くなる。
だが、同時に――自分との深いつながりを感じられて、歓喜もしていた。
こんな感情――心は、ひどく醜く妹には見せられないものであると速攻で隠した。これは、決して、表に出してはいけない感情だ。
妹を守る兄として抱いて良い感情ではない。
弱る妹を前にして、俺がこうさせているのだと恍惚となるなど、あってはならないことだ。
「お兄様、ごめんなさい…」
深雪は弱ると幼児退行と言うほどではないが言葉遣いが幼くなる。それを知るのは俺だけだ。
それがまた、俺の心を高揚させる。
「いいんだよ。お前は何も気にすることは無い」
むしろ気付かないでくれ。こんな、穢れた兄の気持ちなど、気付いてくれるな。
そう思いながら抱きしめる腕に力を込めた。
多少体温が戻ってきただろうか。だが、手放すつもりはない。
「帰ったら甘いホットミルクを淹れようか。チョコレートとはちみつ、どちらがいい?」
「…はちみつがいいです」
想像したのか、ふんわり甘い笑みを浮かべる深雪がなんとも愛らしい。
「あまり急いで大人になろうとしないでいい。お前のスピードでいいんだ」
両手がふさがっているので、こつんと額を当てて願う。
無理をして背伸びをして、成長を焦る必要なんてない、と。
「お前は俺のことを気にしているようだが、俺は十分自由にやっているよ。お前に縛られているなんてとんでもない考えだ」
「ですが、」
深雪が俺に縛られているんだ――とは口にしない。
「お前は俺の大切な妹。その妹を心配するのは兄の特権で、俺に唯一許されたモノなんだ。お前が、それを許してくれたから」
あの日、沖縄の事件の後、深雪は変わった。
俺をお兄様と呼び、好意を向けてくれるようになった。
それだけで世界は一変した。彼女だけが色づいていた世界が、カラフルに染まった。
そして、兄として傍に居ることを許されたことで、俺は幸福を手に入れた。
「…お兄様はもっと欲張るべきです。」
深雪は照れながらも不満を口にする。その尖った唇に視線を奪われないよう反らす先は潤んだ瞳で、こちらもまたしっとりと濡れた黒曜石がひどく魅力的に映る。
「これ以上欲張るのは難しいな。一番欲しいものを手放さなければならなくなりそうだ。――それだけは嫌だ」
もちろん俺の一番が深雪であることは彼女も理解しているのだろう。頬に赤みが差して胸に顔を押し付けてしまった。
よかった。顔に赤みが戻ればすぐに良くなるだろう。
「もぅ、お兄様ったら」
「本心だぞ」
「…追い打ちをかけないでくださいませ」
ぐりぐりと胸元に額を押し付けられるが、全く痛くない。痛くしてくれてもいいのに、可愛い上に優しい妹だ。
こうして入学式初日は想定していた範囲のことばかりで、唯一の違いがあの生徒会長くらいなものか。
どうにも彼女は妹のみならず俺にも何かさせようと接触を図ったような様子があった。
俺には妹と自分のことにしか割く時間を持っていない。面倒ごとは断りたいところだが。
「…おにいさま?」
「安心して眠りなさい」
ベッドに横になった深雪が何かを感じ取ったように声を掛けてくるが、深雪は気にしなくていい。
お前の妨げになるのなら、俺はすべてを排除するまで。
深雪の安眠を見届けて、頭を撫でてから部屋を後にした。
(――俺の一番大切な妹だ。誰にも傷つけさせなどはしない)
彼女を苦しめる存在は、俺だけでいい――
なんか、妹を病弱にしたらお兄様がヤンデレた!
どうしてこうなった??と一番書いている本人が思っています。
完全調整体で病気だと矛盾しちゃう?なんてIF設定にいらない考えだったのに。お兄様の力を封じた影響で妹には体調を崩すようになってもらいました。
おかげでお兄様が自分のせいで~、と…落ち込めば可愛げがあったものを。なぜか独占欲がマシマシに。
この後の展開。
↓
ブランシュ騒動
原作とほぼ変わらず。変わったことといえば終始お兄様が妹を抱っこしているだけ。
でも一科生と二科生の壁は多少薄くなる。
何故なら妹のストレスの原因で、彼女が倒れるのを目の当たりにするから。
原作より儚さが増して神々しくなっている妹のカリスマ性がヤバい。彼女が悲しい顔をすれば皆胸を押さえて反省する。
かといって見えないところでは諍いが起きている。
そしてお兄様は服部先輩との一騎打ちをし、風紀委員に誘われる流れは変わらない。ただ、たいして抵抗しなかった。CAD携帯と、生徒会と風紀委員の距離の近さが理由。
原作通り風紀委員にされて二科生のくせにと目の敵にされるのだけど、妹を抱き上げて運ぶ姿の異常さに徐々に周囲が気付く。…いくら儚いと言っても15歳の少女をずっと抱き上げられるか…?ゴリラ説が浮上。そして風紀委員としてちぎっては投げをしている姿に説は確定。お兄様はゴリラ認定。
裏でも非難しづらくなった。
ついでに女性人気はうなぎのぼり。妹に優しい兄に悪い印象は無い。
一科生二科生間は冷戦時代へ。
だけど二科生間に蒔かれた種は芽吹き(洗脳だからね)、エガリテ――ブランシュが学校内に侵入。
お兄様はアジトに連れて行きたくなかったが、妹のおねだりに屈した――わけではなく、魔法をブッパした方が調子がいいので連れて行った。
魔法を使うと体内のサイオンも消費することもあるが、魔法使うの楽しいからストレス発散になっている。
事件は無事解決した。
九校戦
妹が選ばれないわけがない。
そして妹が出るならお兄様がサポートに入らないわけがない。頼まれなくても付いていく気満々だった。
バスが狙われお兄様キレ気味。妹乗ってるのになんてことしてくれとんじゃあ!この時点で許す気が無い。おうちで事前に貰った情報もあることだし、軍と合流する予定を立てていた。
部屋割りは当然兄妹一緒。…当然とは?流石にそれは、と止めようとしたが、「妹の看病とケアをするのは俺です」と一切譲らない。「それに家族で一緒の部屋にいて何の問題が?」と平然と言い切る。問題しかない。でも謎の説得力。会長は屈した。妹は遠い目になった。
前夜祭で一条君に一目惚れされるが妹にとって原作通りなので気にならない。妹が気にしている様子が無いので兄も気にしない。ほのかちゃんの好意については一過性だと思っていた。エレメンツの執着を舐めている。
無頭竜の細工に妹が心を痛める度にお兄様のボルテージが上がる。
原作以上にお兄様の殺気がヤバい。周囲も異常に気付き始めている。妹がハラハラして体調を崩してお兄様は一旦落ち着く。「すまない、俺のせいで」「お兄様は私の為に怒られているのでしょう?こんな時ですけれど、お兄様が私の為を思って怒ってくださることが嬉しいのです。こんな妹でごめんなさい」と健気に笑って見せた妹に、お兄様陥落。闇討ちは後回しとなる。
その後は原作通りだけど、電子金蚕を仕込まれた時はこの場で殺しそうになったところを九島老師に止められた。
妹と二人きりでラストダンスが踊れて大団円。無頭竜?いたな、そんな奴らも。立て続けに大亜連合にちょっかいを掛けられたことでお兄様がピリピリに。今後大きな動きがあるかも、と軍と相談して警戒対象に。横浜事変に早く対応することになるかも?
と、ここまで妄想しました。
病弱な妹だとお兄様の過保護が酷くなる。
一応この後体が成長していくと落ち着くようになるが、病弱を経験しているとずっと引きずるよねってことで一生過保護が治らない。
成人してから体調を崩すようなことがあれば軟禁待ったなし。
まあ、その前に誓約が無くなるので倒れることは無いのだけど。フラグはいつでも乱立している。包囲網がえぐい。
移動は大抵抱き上げて。横抱きもあれば座り抱きも。
恥ずかしいけれど体調を崩して心配させるくらいなら、と妹は我慢。
高校でもこれが見慣れた光景になっていく。
四葉バレして婚約者同士になったところであまり忌避されることが無い。病弱な四葉家次期当主って…な同情の方が強い。そして魔法力の低い兄があれだけゴリラな理由も、四葉だからか、で納得される。平和。
ちなみにお兄様は婚約に複雑。ずっと妹だと思っていたからね。というか妹だからね。恋だとは思ってない。執着は恋を通り越してますけどね。周囲の方が先に納得する。異常な愛情だったもんな。いくら病弱だからってあそこまで過保護にはならない。――違うんです。お兄様は妹への異常な愛情に気付いていない。少し過保護なだけで普通だと思っていた。そんなわけがない。
妹は、お兄様の為、婚約破棄を叔母様に掛け合う気満々。一時的な措置だということにしようとしている。もしこの計画にお兄様が気付くと監禁一直線。逃げられないメリバエンドが妹を襲う。
なんて。
長々と失礼しました。
これにて本編完結祝いのリクエスト作は終了です。
お粗末様でした。