妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします! 番外編   作:tom200

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IFで、滅茶苦茶謎時空となっております。
お兄様との婚約発表直後の一条家とのお見合いのお話です。

それなのに11月の記念日にねじ込んでしまいました。
テーマだけお借りして、季節は真冬と思ってお読みください!


11月の記念日 11/6

 

 

11月6日

 

 

かぽーん。

鹿威しの音の響く料亭にて、将輝は珍しくきっちりスーツを着込んだ父の横で最高潮に緊張しながら固唾をのんで待っていた。

落ち着きのない心臓は部屋に音が響いているんじゃないかという程激しく鼓動し、手にはびっしりと汗が滲んでいた。

 

「おいおい、そんなに緊張するほどか」

 

剛毅はカチコチに固まった息子に呆れを隠すことなくぶつけた。

剛毅にとって息子はまだ粗削りではあるが優秀で自慢の息子であった。

学校でも評価は高いと聞くし、一条家の長男としても名に恥じぬだけの努力と結果を残している。

真っ直ぐに育ち、正義感が強いようだが、良き参謀となる友もいる。

まだまだ甘さが目立つが、それも徐々に世の中を学んでいき、ゆくゆくは家を継がせる――そう思っていたところに今回の話が浮上した。

 

(まさか、次期当主だったコイツを婿にやることになるとはな)

 

とはいえまだ決まったわけではない。

むしろ断られる可能性の方が高いことを剛毅は重々承知していたが、それでもこうして場を設けること自体彼にとっても青天の霹靂だった。

今、十師族のバランスが崩れている。

最もそのバランスを悪くさせているのが、今日の見合い相手の四葉だ。

四葉は謎に包まれた一族。分家の数どころか本家に近い血筋まで非公表。噂では国防軍や元老院から任務を委託されていると聞く。

だが、軍事組織などは持たずあくまでも民間組織。大漢を陥落させた一件により、四葉は大半の戦力を失い弱体化したはずだったが十年も経たないうちに彼らは持ち直した。

どころか今では群を抜いた戦力を有しているのでは、と囁かれている。

明らかに異常だ。何か良からぬことに手を出しているのではないかと疑われるのも当然であるし、剛毅自身も疑っている。非道な人体実験をしていると言われても、だろうなと返すだろう。

そんな家に、息子を送ろうとしている。

これには息子の恋模様だけではなく様々な大人たちの思惑が絡まり合っていた。

純粋に四葉家次期当主を慕っているだろう息子をただ単純に応援してやれないことを申し訳なく思う。

だが、好いた女の為ならばいばらの道だろうが息子に選ばせてやりたい。

そう思ったのも事実。

丸まってきた背中をバシッと叩く。

 

「い゛っ!何すんだ親父!」

「何って、応援だ。――そら、くるぞ」

「!!」

 

ピシ、と背筋を伸ばして深呼吸をし、形だけでも悠然と構える息子を横目に見て、やればできるじゃねぇか、と笑ったのは一瞬。自身も正面を見据えた。

 

「失礼いたします」

 

女将自らが案内して入ってきたのは着物姿の美女と美少女の二人――そしてその陰に一瞬黒いスーツの男の姿が見えたが、襖が閉められ誰だかまではわからなかった。

四葉真夜とは何度も対面で会っている剛毅だが、今日のような姿は初めてだ。

一目見て仕立てのいい代物だとわかる訪問着。落ち着いた色合いでシンプルに見えるようではあるが、それは隣の少女――否、もう女性と呼んでもおかしくない落ち着いた様子の四葉家次期当主が淡い桜色の明るい訪問着を着ているからこそそう見えるのだろう。

愛妻家であろうとも視線を逸らすことのできない、見惚れるほどの美女が二人。

美しいものを見ると息を飲むほど、という表現が使われるが、真に美しいものを見ると呼吸すら忘れるらしい。

剛毅がすぐに持ち直すことができたのは、これは帰りに妻に土産の一つでも買って帰らないとな、と不貞を働いたわけではないが愛する妻の存在を一瞬でも忘れたことに対する詫びが浮かんだからだ。

息子の将輝を見れば瞬きも忘れて深雪を見つめていた。

大きめに咳払いをしたことでハッと気づいた将輝にしっかりしてくれ、と思わずにいられなかったが、剛毅に息子を思い遣ってられる時間は無かった。

彼も気合を入れて目の前の女帝を相手にしなければならないのだから。

 

「本日はお日柄もよく――からこういうのは始まるのかしら?初めてだから勝手がわからないわ」

 

先制したのは真夜だった。

ほう、とため息を漏らしながら頬に手を添える様はそれだけで艶めかしく映る。

だが、剛毅が惑わされることは無かった。

 

「仲人もいない。形式にこだわることも無いだろう」

「そうですわね。では、さっそく始めましょうか――二人のお見合いを」

 

二人の間に火花が散ったのを、将輝は内心どぎまぎしながらも見た気がした。

二人からものすごいプレッシャーを感じる。

本当にこれは見合いだろうか?もしや宣戦布告や戦争宣言でもするのでは、という緊張感が漂っていた。

将輝は机の陰で拳を握り意識と姿勢を保ちながら正面へ視線を向けた。

 

(――司波さん…なんて、綺麗なんだ)

 

まだ雪解けもしていないのにまるで春の精が誤って現れてしまったのではないかと錯覚しそうなほど人間離れした美しさだった。

この緊張感漂う一室で彼女の周りだけが輝いて見える。

それは彼女がこのぴり付いた空間の中でも柔らかな笑みを湛えているからだろうか。将輝の耳には父の声と四葉家当主の声が入っているのだが、目の前の女性を見てしまうとただの言葉としてしか認識できなくなっていた。

一応内容は後からこんなことを話しているようだ、と解析はできるのだがタイムラグが発生していた。

とりあえず互いのプロフィールを交換しているようだが、まだ高校生。そんなに話すほどの経歴も実績も無い。

今回の見合いは顔合わせと互いを知る機会を与えるという名目でセッティングされたと将輝は聞かされていた。

横やりを入れてまで手に入れたチャンスだ、後悔しないように全力で挑め、と父から激励もされたことを思い出し、将輝は気合を入れ直す。

丁度そのタイミングで当主二人の『話し合い』もキリが良くなったようで、

 

「では、そろそろ」

「ええ。後は若い二人に、ね」

 

そう言って大人たちが隣を見据え、

 

「将輝、しっかりとな」

「深雪さん、良い時間を」

 

それぞれ声を掛けて、剛毅のエスコートを受けて真夜が続いて部屋を後にした。

残されたのは深雪と将輝の二人きり。

しばし、静かな時間が流れる。

かぽ、ん。

鹿威しの音が広くもない室内で響く。

 

「――一条さんはスーツだったのですね」

 

沈黙を破ったのはまたしても四葉サイドからだった。

声を掛けられ、本日初めての声に聞き入ってから慌てて返答をする。

完全に将輝はペースを乱されていた。

 

「え?あ、ああ。本当は制服にしようかと迷ったのですが、こちらの方がいいと妹に後押しをされまして」

「そうでしたか。一条さんは妹さんのアドバイスをちゃんと聞いてあげる素敵なお兄様なのですね」

「そ、そうですか?」

「兄妹仲も良い様で」

「そ、そうですね。良い方だと思います」

 

将輝は答えるとすぐにお茶を飲んだ。

味などはわからない。だが喉が渇いて仕方がなかった。

彼女が微笑みかけてくれるだけで、声を掛けてくれるだけで鼓動は早まり、酸素が薄く、水分は熱の上昇で干上がってしまうではないかという程体に異常をきたしていた。

しかしその様子に気付いても深雪は指摘もせずただ嫋やかに微笑みを浮かべるのみ。

それはこちらを気遣ってくれているからなのだと、将輝は舞い上がっていた。

彼にとって深雪は女神のような存在だった。

慈愛に満ち、いつでも微笑みを絶やさない、優しくて美しい女神様。

 

「――私も、そうなのだとばかり思っておりました」

 

だから、彼女の悲し気な笑みを浮かべられた途端、ぎゅっと胸が締め付けられた。

 

「それ、は…司波のことですか?」

 

将輝の言う司波とは目の前の彼女のことではなく、この場にはいない彼女の兄であったはずの男のこと。

秘されていた四葉家当主の直系の息子。

目の前の深雪とは従兄妹同士の関係だったと新年早々公表された。

将輝はその言葉に何と返していいかわからなかった。

ずっと兄妹として暮らしていたはずの兄がいきなり従兄妹となり、その上婚約者となったのだ。

…実は従兄妹だと知りつつ兄妹と偽っていたのではないかとの疑いもあったが、今の彼女を見るにそれはないと将輝は直感した。

彼女は未だ困惑しているのだ。だから今、こうして悲し気な顔をしているのだと。

 

「兄妹として暮らしてきたのでしょう?…簡単に切り替えられるわけがないですよね」

 

将輝は考える。

もし、自分が同じ立場になったなら――

 

(もし、妹と血が繋がっていないのだと親父から聞かされ、婚約者となれと言われたら――俺は、きっと冷静じゃいられない。派手に怒鳴り、親子喧嘩まで勃発したかもしれない)

 

信じない、そんなはずがない!と暴れる自分が想像できた。

妹が嫌いなわけではない。ただ、急に妹だった女の子を異性として見ろと言われても納得などできるはずがない。

それを目の前の彼女は実際に体験したのだ。

それはどれほどの衝撃だっただろう。

きっとすぐに割り切ることなんてできるはずがない。

そう思ったらするり、と口に出ていた。

その言葉に、深雪はわずかに目を見開いて、言葉にしない代わりに肯定するように微笑んだ。

 

「――今朝も、今までと変わりのない会話をしてきたのです。今夜は趣向を変えて手巻き寿司にしましょう、と」

「手巻き寿司、ですか?もしかして手作りですか?!今時手作りの家なんてウチくらいなものかと思ってました」

「今では珍しいですものね。でも色々とアレンジができて面白いですよ。特に今日の手巻き寿司なんて、自分で作るものですから」

「自分で?ということは司波も作るのですか!?」

「手巻き寿司は並んだ具材を自分の好きな組み合わせで選んで巻くものですので誰でも簡単に作れますよ」

 

将輝はサンドイッチを思い浮かべた。ホットドックでもよかったかもしれないが、まあどちらでもいい。

好きな具材を選んでパンに挟むだけ、のところをご飯と海苔に変え、イメージをする。

愛する人とどの具材が良いだろうかと組み合わせを相談しては不格好に巻いたそれを笑い合って食べるのだ。

 

「それは、面白そうですね」

「ええ。ただ作った料理を召し上がっていただくのも良いですが、楽しみながら食事をするのも賑やかで良いものですよ」

 

彼女も思い浮かべている映像があるのか、自然な笑みがこぼれた。

それはこれまで浮かべていたモノよりも素朴ながら心が温かくなるような笑みで。

 

「司波さ――深雪、さんの夫になったら、そんな楽しい家庭を築けるのなら、やっぱり俺は貴女を諦めたくない」

 

気が付けば将輝はポロリと言葉を口にしていた。

 

「………」

 

深雪にしてみれば先ほどの言葉は、今夜は楽しみにしている食事があるので早く帰りたい、と婉曲に伝えたつもりだった。

初めからこのお見合いは、彼女にとってはただの予定調和。形だけでもお見合いをした、という体裁を残せればそれで充分責務を果たせたはずだった。

しかし将輝にとってこれは唯一のチャンスだった。

この席への意気込みが違い過ぎた。

 

「一条さん、それは――」

「待ってください!俺は確かに一年の時司波に負けた。この前の京都の時だって、アイツに追いつくのが精いっぱいで、俺一人では周を追い詰めることさえできなかった。倒すなんて以ての外だった。だけど俺はまだ強くなります!必ず司波と肩を並べるほど強くなってみせます!だからもう少し、――大学を卒業するまで待ってもらえませんか?それまでには結果を残します。し、深雪さんにも俺を知ってもらって、すっ好きになってもらえるよう努力します!」

 

それから――、と将輝が畳みかけようとしたところで深雪の鈴を転がすような声がリン、と空気を止めた。

 

「一条さん」

 

ただ、名を呼んだだけ。

将輝はただ名を呼ばれただけなのにぴたりと動きを止めた。

そして、彼女は改めて微笑んだ。

 

「――貴方が四葉を背負うことは無いのです」

 

それはただの拒絶の言葉というよりも、危険から遠ざけるための忠告に聞こえた。

四葉を背負うことなど無い!と断言するのではなく、四葉を背負うようなことなどしなくていい、そんな言葉に。

これが将輝の願望によるものだったのか真意は定かではない。

だが、彼は都合よく解釈して言い募ろうとした。

 

「深雪さ――」

「司波です、一条さん。――私はまだ、司波なのです」

 

遮る言葉は鋭く、今度はやんわりと拒絶されたのだと気付いて開いた口を閉じる。

しかしながら、その言葉もまだ彼女は正式に四葉ではないのだという意味にも取れた。

 

(彼女もまだ、葛藤している――それを、支えてあげられる強さが欲しい)

 

将輝がやはり諦められない!と顔を上げたその時だった。

 

「失礼する」

 

その声は将輝にとって今最も聞きたくない声だった。

反射的に失礼するな!と追い返してやりたいくらいには反発したい気持ちが強かったが、深雪の瞳がパッと明るくなったのを見逃せなかった。

――より一層好きになってしまったから、気付けてしまった。

 

「一条、久しぶりだな」

「…まさかお前もここに来ていたとはな」

「護衛役だ。いくらここのセキュリティがしっかりしていると言っても何があるかわからんからな」

「それで、何の用だ?」

「予定時刻だ。見合いの時間は16時までと決められていたはずだ」

 

腕の時計を確認すれば16時まであと5分というところだった。

あと五分もあるじゃないか、と言いたいところであったが後五分でこの事態が好転するとは思えない。

それなら、とちらりと深雪を見て――綺麗だ、と胸を高鳴らせつつ達也に向き直った。

 

「司波。俺は諦めていないからな。彼女の隣に必ず立ってみせる」

「そうか。だが、俺も譲れない」

 

バチバチと、二人の間に火花が散る。

このことに将輝は一年時のモノリス・コードを思い出した。

あの時もこうして対峙したのだが、達也の熱量が全く違う。

温度も感じられなかったはずの目に今は確かな熱を感じる。

言葉の通りこの男も譲れないのだ、と真剣さを受け、将輝は負けじと睨みを利かせた。

 

 

「――なんだかお二人がお見合いしているようですね」

 

 

今にも一触即発、という空気を霧散させたのは、こんな緊迫した中一人微笑みを讃える春の化身だった。

 

「…深雪」

「だって、あまりにもお二人が熱心に見つめ合っていらっしゃるから」

「そ、それはライバルだからで!」

「俺は見つめ合うならお前とが良い」

「んな!?ずるいぞ司波!それなら俺だって」

「一条は深雪の目を三秒も見られないだろうに」

「これから特訓すれば何とかなる!」

「無理だろう」

「な、何とかする!」

 

そんな言い合いをしていたら襖が開き、呆れ顔の剛毅と、楽しそうに笑う真夜が姿を現した。

タイムリミットだった

 

「なにやら愚息が声を荒げていたようだが」

「ぐっ…」

「こちらも煽るような真似をいたしましたので」

 

問題にするほどのことではない、と達也が言えば、更に剛毅の目は冷ややかに息子を見つめた。

簡単に挑発に乗って、と思ったのかもしれない。

 

「では本日はこれまでということで」

 

真夜の一言でお見合いはお開きとなった。

 

 

 

 

真夜が葉山と去っていくのを見送って、達也と深雪もコミューターに乗った。

 

「お疲れ様、深雪」

「お兄様も。護衛の任、お疲れ様でした。何かございましたか?」

「どこから嗅ぎ付けたか、一条から漏らされたか知らないが七草の手の者がいたようだ」

「一条の方々はあまり工作を好まないので、恐らく前者ではないでしょうか」

「さて、どうだろうな」

 

まだ何かを考えていそうな兄の手に自身の手を重ねた深雪は、そのまま傾いて肩に寄りかかった。

 

「早く、家に帰りたいです」

「深雪は楽しみにしていたものな」

「はい!朝から水波ちゃんと一緒に卵焼きを作ったり、かんぴょうを炊いたり。今頃水波ちゃんは胡瓜を切り始めた頃でしょうか」

 

帰宅する旨を連絡したので、夕食の最後の仕上げを始めている頃だろう。

深雪はずっと微笑みを作っていた仮面を外し、心から楽しみだと頬を緩ませた。

 

「お兄様、知っていますか?毎月6日はロールケーキの日でもあるんですよ。渦巻きが数字の6に見えますでしょう?」

「今朝の甘い香りはロールケーキだったか」

「はい。ちょっと甘めに作りましたので、今夜は濃いめのコーヒーを淹れてもらいましょう」

「楽しみだな」

「ええ」

 

先ほどまでの非日常など何もなかったように、二人はこれから戻る日常のことだけを話した。

目を逸らしたのではない。無かったことにしたわけでもない。

ただ、しばらく何も考えない時間が欲しかった。

 

 

 

結局見合い後は様々な事情により断りを入れるでもなく、進めるでもなく宙ぶらりんとなった。

ここから達也と将輝による深雪を巡る争いは激化――する未来はきっとどこの世界線に行っても無いだろう。

 

 

 







お兄様が手放すわけがないのだから。

またもや尻切れに。
でも仕方ない。いくら一条君が頑張ったとてこのお兄様から深雪ちゃんを奪うことはできないでしょうから。仕方ない。お兄様だから。
お見合いの日、手巻きずしの日、ロールケーキの日でお送りしましたIFのお見合い話でした。
剛毅さん、こんな感じで大丈夫だろうか。資料も何にもなしに書いてしまった…。
剛毅さんは正に豪快でいい男のイメージ!
良いお父さんだよね。きっと十師族の中で唯一まともなお父さん。
深雪ちゃん、もし一条君とお見合いすることになったらずっとお兄様のお話してそう。どうあっても付け入る隙が無い(笑)
真夜様が大人しい着物を着るかな?とも思ったけど、まあ、一応TPOは弁えている、ということで。

お粗末様でした。

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