妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします! 番外編 作:tom200
11月9日
「それは?」
梱包された箱を部屋に持っていこうとしたところで呼び止められた。
「こちらは靴です。本日は靴の日だそうで広告が流れてきて」
それは何気なく見ていた端末に流れてきた広告で、ちょっとした興味本位で靴の一覧を眺めていた時、つい目に留まったのだ。
真紅のエナメルレザーのハイヒールパンプス。
前世の自分ではとても履ける気はしない代物だが深雪ちゃんの体幹であれば見事履きこなすだろうと思われた、エレガントな一品だった。
「一目惚れして買ってしまいました」
箱をちょっと掲げ口元を隠したのはお兄様に内緒で購入したのが気まずかったからだ。
お兄様はじっとその様子を見詰められてから、ぽつ、と一言。
「見てみたいな」
と呟かれた。
ということで移動してきたのは私の部屋。…何で?
「どうせなら服と合わせてみたらどうだい?」
急遽お兄様発案によるファッションショーが開催されることになりました。
「それで、靴はどんな靴を?」
「赤い靴です。落ち着いた色合いの、真紅の靴で」
15歳にしては大人過ぎただろうかとも思ったのだが、一目惚れなので。
それに靴だけ背伸びした装いというのもまたそそるものがある。…こんなことお兄様には言えないが。
お兄様はふむ、と靴を見ながら思考の海に潜られた。
何を思案されているのかわからないが邪魔をしてはいけない、と私はクローゼットへ。
白の膝丈ガーリーワンピースにベルベッドの赤いリボンを合わせたらどうだろう?
それとも秋らしく茶色のチェック柄Aラインのワンピース?ベレー帽を添えたら子供っぽくなりすぎるだろうか。
案外エレガントなライトグレーのドレスに薄紫のショールを羽織っても素敵かも。
色々と脳内でコーディネートを考えて、振り返るとお兄様が靴に魔法をかけていた。
え!?本当に靴に魔法をかけてる!
「お兄様?」
「あのままでは足を痛めそうだったからな」
全身のパーソナルデータをお持ちのお兄様ですから、靴を見ただけでサイズのずれが分かったらしい。
それを微調整って…いいんですか、そんなことに分解を使って。お兄様は一切気にしていないようだけれども。
「ありがとうございます」
「それで、俺は一旦部屋を出るから」
「はい。着替え終わりましたらお呼びしますね」
「ああ、着替えても靴はまだ履かないでくれ」
「え?はい。わかりました」
不思議な注文を口にしてからお兄様は部屋を出ていった。
なんだったんだろう、と思いながらとりあえず初めはシンプルなのがいいかな、と初めに浮かんだ白のワンピースを手に取った。
秋なので少し寒そうだろうか。ショールを掛ければいける?と軽く引っかけて、靴と親和性の高い赤のリボンも忘れない。
「お待たせしましたお兄様」
ドアを開けて招き入れると、すでに機嫌の良さそうなお兄様が(妹視点)。
「可愛いね。よく似合っているよ」
「きゃっ!お、お兄様!?」
ストレートに褒めてくれるなぁ、と感心していたらスッと抱き上げられてくるりと回った。
急なことでバランスを崩しかけるが、お兄様の手がしっかり支えてくださっているので倒れることは無かった。
お兄様の体幹も一体どうなっているのか。抱き上げてるのはほぼ成人に近い少女ですよ?動く生き物はバランスを取って抱きかかえるのが大変なはずなのに。
…捕縛慣れしてるとか?暴れている人を簀巻きにして運んでいるお兄様の図が脳裏に過った。
「深雪?」
「いえ、詮無いことを考えておりました」
黙っていたことを不思議に思ったらしく声を掛けられたが、驚きすぎて言葉も無かったと捉えてもらってもよかったのですけどね。やっぱりお兄様には心が筒抜けな気がしてならない。
そのまま抱き上げられたまますたすたと進んだお兄様はそれはもう丁寧にベッドの上に下ろしてくれた。
一体お兄様の筋力は以下略である。
そしてすっとひざを折り、揃えておいてあった赤い靴を手に取って。
「お嬢様、おみ足に触れてもよろしいでしょうか?」
唐突に始まる主従ごっこ。
キリッとしたお兄様がカッコいい…。見上げる角度も完璧です。――じゃなかった。
姿勢を正し、何もおかしなことは無いとばかりにすまし顔でスッと足を差し出す。
それをありがとうございます、と恭しく受け取って足に手を添えて靴下を脱がすのだけど。
(……お兄様、動作がいちいちえっちぃです)
できることなら今すぐ顔を覆いたい。
淑女としての意地で何とか表情に熱が集まらないよう頑張っているんですけどね。体が今にも震え出しそうなのを堪えているのだけどね!
洗練されて行動って、どうしてこうときめいてしまうのだろうね。心臓が飛び出ていきそう。まって。行かないで。行かれたら困る!
膝の上に何も纏わない素足の踵を乗せられ、真紅の靴がつま先から嵌められていくのだけれど、その際支えられている足裏がとても擽ったい。
「んっ…」
思わず漏れた声に履かせる手が一度止まるが、次の瞬間素早い動きでさっと靴が履かされていた。
続けて丁寧に床に下ろされる。
「履き心地は如何です?」
「悪くないわ」
……つん、と答えてしまったのは恥ずかしかったからです。わざとじゃないんです。
でも言ってから気付く。
同じことを思ったのか、お兄様も口元が少し緩んでいた。だが、もう片方がある為か、すぐにそれは元に戻ってしまった。
先ほど同様にもう片方も履かせてもらい終えると、お兄様は正面から器用にその姿勢のまま左向け左!とばかりに直角九十度回転。
…これってそういうことかな?と、肩に手を置いて立ち上がる。
うーん、体重を少しかけても体幹が全くぶれない。お兄様もだけど、私自身も細いピンヒールで問題なく立てている。
履き心地も新品の硬さを感じない。これはきっと先ほどのお兄様のおかげだろう。
歩いて姿見の前まで行こうとしたら、立ち上がったお兄様からエスコートの手が。サポートが手厚い。
それをこれまた当然のように一瞥もせず前に手を差し出すだけで支えるように重なった。
…うぅ…なんかむずむずする。でもお兄様からとっても満足気な気配がね、感じられると言いますか。
この主従ごっこ、案外お兄様お好きだったりするんだよね。楽しいみたい。…つんつんな深雪ちゃんがご所望です?昔を思い出すとか?お止めください。あれは深雪ちゃんにとっては黒歴史だ。
と、部屋の中の移動なので3歩で姿見の前に。
やっぱり、深雪ちゃんの白い足に赤が映えてよくお似合いです。
それに、高いヒールの為いつもよりお兄様のお顔に近くて、ちょっと上に顔を向けて傾けば――
(なんてね!なんてね!?そんなことしませんけども!)
自身の妄想内できゃあきゃあ奇声を上げながら体をくねらせる。
ええ、もちろん表面上はお澄ましお嬢様モードで。
「とてもよくお似合いです」
「そう」
素っ気なく答えているのにどうして鏡越しのお兄様はとても満足そうなのでしょうねぇ。
その様子にご不満、とむくれて見せればお兄様は困ったような顔を作った後に一拍置いて、二人してふっと噴出した。
「もう、お兄様もお戯れが過ぎます」
「乗っかってくれる深雪がいるからな。俺のお嬢様は下僕にもお優しいから」
「下僕だなんて。せめてガーディアンか執事でお願いします。お兄様を下僕だなんて、言葉だけでも心が痛みます」
「それは悪かったよ」
そう言いながら従者モードを解除したお兄様は寄り添って肩に手を添えたのだけど。
「ヒールが高いとこんなに視線の高さが変わるものなのか」
「ふふ、いつもよりお兄様のお顔が近いです」
「ああ――このままなら屈まずに額にキスができそうだな」
「キッ!?」
さっきこっそり考えていたことを言い当てられたような気がして動転してしまい、淑女らしからぬ声を上げてしまった。慌てて口元を抑えるけれど出てしまった言葉は戻らない。
鏡を見なくてもわかる、きっと顔は赤くなった。
(だって、お兄様が急に色男モードに変わったもの…これはいじめられる気配…)
するり、と頬に手を当てられ顔が近づく。
「お、お兄様っ」
「額にキスなら兄妹では当たり前だろう?」
何をそんなに慌てることが?とおっしゃいますけどそんな当たり前、うちでもしたことなかったでしょう?!
ここは日本です!そんな常識はありません!!
と、叫べたらいいけど残念ながらパクパクと動く口からはあうあうと奇声は出ても言葉にはならなかった。
「だめか?」
……何でそんなにキスがしたいのです?そんなに慌てる妹の様子が面白いですか?
言葉にできない分視線に込めて訴えればくつくつと笑いながら、
「何を言いたいか伝わってくるから不思議だな。俺は別に揶揄っているのではなく、深雪が可愛くて愛おしくてたまらないからキスをしたいと思ったまでだ」
…さようですか。でも。
「だ、ダメです!」
私はNOと言える妹です!
「だめか?」
再度だめか?の攻撃にたじろぐけれど、ここで流されたらきっとこのキスも日常に組み込まれそうな気がして手でばってんを作って意思表示を。
「キスは大切な方となさってください」
「深雪は大切な人だから問題ないな」
「ち、違います!妹は別枠です!!」
「なぜだ?」
「な、なぜって…えっと、それは…」
「キスが恋人だけという決まりはない」
「ないですけど…その、…恥ずかしいのでだめです」
うぅ…なぜこんな話をしているのか。というかお兄様は何処に羞恥心を落っことしてきました?できれば至急拾ってきてください。
顔を覆って許しを請えば、お兄様は残念だ、と引き下がってくれた。よかった、と安堵したところでなら、との声と同時に体を抱き寄せられ、またも抱きかかえられてしまった。
「お兄様!」
少しじたばたとしてしまったから右足の靴がかこん、と脱げて落ちてしまった。
買ったばかりの靴なのに傷がついてしまったかも!しかもピンヒールだ、床も傷ついたかもしれない。とヒヤッとしたが、
「ちょっと待っていなさい」
と、ベッドの上にまた下ろされてから、靴を拾いに戻って。
「なんだ、童話みたいだな」
「童話…シンデレラですか?」
片方脱げた靴を持って、私の足元に跪く。
「さ、プリンセス。この靴が貴女のものと証明されたなら私と結婚していただけますか?」
……お兄様は妹をどうしたいのですか…。
とりあえず今にも呼吸は止まり、心臓も大爆発を起こして止まってしまいそうです。
死因は萌え死にです?本望。――じゃなかったってば!死んじゃだめだ。お兄様を残しては逝けない。
「お兄様はこの靴に魔法をかけてくださった魔法使い様でしょう?私を窮地から救ってくださる魔法使い」
「ああ、確かに王子よりそちらの方がいいな。俺はお前だけの魔法使いだ。さあ、望みは何だい?何でも叶えてあげよう」
「ふふ、それは随分大盤振る舞いの魔法使いですね。――では、魔法使い様にお願いです。ガラスの靴はいらないのでどうか私のお兄様になって一緒に暮らしてください。そして毎日楽しく幸せな暮らしを送るのです」
「それは素敵な願いだ。俺の全てを掛けて叶えてやろう」
そう言って左足の靴を脱がせて私の隣に腰掛けて優しく抱き寄せる。
「可愛い妹の願いは何でも叶えよう」
「まあ。お兄様は魔法使いからお兄様になったのですから、もう願いを叶えようとしなくてもいいのですよ?」
「魔法使いでなくとも、兄というのは妹を可愛がり、いい子で頑張り屋の妹にはご褒美を与えるのが役目だからな。願いを叶えてやるのは兄の仕事だ」
…兄にそのような役目も仕事も無いのだけど、まあ、甘やかしたいということかな。
「では妹も働き者のお兄様に報いる為ご褒美を考えませんと」
「それは楽しみだ。身を粉にして働こう」
「お兄様?あまり無理に働きますとご褒美どころかお仕置きですからね」
働きすぎ、ダメ、絶対!と注意をすると、お兄様は目をぱちくりとさせて。
「お仕置きか。それも気になるな」
「お兄様!」
「はは。怒った深雪も可愛いよ」
お兄様にお仕置きなんてできないことをわかっていてそんなことを言うお兄様は本当に意地悪だ。
それからしばらくお話をし、やっぱり傷がついていた靴と床を修復してもらった。
妹、気付いて。お兄様は働きすぎないことを約束してくれていないよ。これに関しては言質を取らせないお兄様。妹からのお仕置き楽しみにしています。
いい靴の日でした。
…それがどうしてこんな話になったのだろう?
本当は靴を履かせた時に「ガラスの靴なんて実用性の無いものを、と思ったが深雪の足を隠さずに眺めていられるならガラスの靴も意味があったか」とか言いそうだなと書き始めたのに気がついたら道が逸れていました。逸れてよかったと思います。でないと今度はお兄様が脚フェチになってしまう。
でも何でだろう?どちらもあまり大差ないと思うんだ…。
お兄様、妹との従者ごっこがお好き。
妹のツンツンが可愛くて仕方がない。そしてその後こっそり心無い言葉を言って心苦しいと落ち込んでいるのも可愛くて堪らない。お兄様の愛は歪んでるのがデフォだと信じてる(←
妹を傷つけたいわけじゃない。自分を想ってくれていることが前提。
このお話は来訪者前なのでキスはしません。させません。…番外編のどこかで寝ている妹にキスしていたけど妹が寝ているからノーカンです。
そしてリーナちゃん登場で欧米文化を取り入れて堂々とキスするように。照れる妹、困る妹、羞恥に身もだえる妹が可愛くて仕方がないお兄様。――だからドSって言われるんですよ…。
お粗末様でした。