妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします! 番外編   作:tom200

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昨日の続きで九島光宣ホームステイネタです。




11月の記念日 11/13

11月13日

 

 

光宣君は二高で生徒会役員をしていると言うこともあり、放課後は生徒会でお手伝いをしてもらっている。

 

「似ているようでちょっと違いますね」

「そうなんだ。二高ってどんな感じ?」

 

七草双子は元々光宣君と知り合いで、それなりに親しい間柄らしく積極的に彼の話し相手になってくれていた。

香澄ちゃんが今日ここにいるのは、吉田君から今日は生徒会室で待機するよう指示があったそう。

風紀のお仕事は生徒会と連携を取らなければならないこともあるのでその中継係として偶に派遣されるのだ。

おさぼりじゃないよ。以前からあるれっきとしたお仕事。たとえ渡辺先輩の代から始まったと思われるお仕事だったとしてもけっして先輩がそれを理由にここでまったりしていたわけじゃない。連携取るのって大事だからね。うん。

これまで雫ちゃんにその役目が回ることが多かったんだけど、今日は光宣君がいるからと気を使ってくれたんじゃないかな。

で、光宣君には過去のデータ整理をお願いしている。これも一つの勉強になるかなって。

そしたらさっそく色々相違点を見つけているみたい。

ただ作業をこなすだけではなくその資料から読み解けるって、すっごく有能。流石光宣君。お兄様と並び評されるチートっぷりである。

和気あいあいとした生徒会室だったのだが――

 

ピピッと聞き慣れない電子音が響く。ピクシーからだ。

 

 

「光宣様の体温が・変動しました」

 

 

どうやら一定値を下回ったらしい。働かせすぎてしまったか。

 

「光宣」

「あのっ、僕まだやれます!」

 

お兄様の声掛けに顔を青ざめさせている。きっと仕事を取り上げられて保健室へ連れて行かれることを嫌がってのことなのだろうけど、そんなに怯えなくてもいいよ。

 

「光宣君、休憩にしましょう――ちょうどお茶の時間だから」

 

お兄様からも視線が向けられたけれど、体温が下がったなら一度手を休め、温かいお茶でも飲んで一休みしてから様子を見てもいいのではないかと提案。

体調を崩す前兆と休ませるべきと判断するのはおかしなことではない。特に一日でも休めば九島別宅に強制帰宅だから。

でもね、それを気にしすぎて逆に過度なストレスを与えて体調を崩させてしまうこともあるだろうから。

お兄様は私たちの思いを汲んでくれたのか肩を下ろして賛成の意を示してくれた。

光宣君もホッとしてるね、よかった。

役員皆はお茶休憩に慣れたもので手を止めて移動する。

 

「深雪先輩、今日のおやつは何ですか?」

「今日はスフレチーズケーキよ」

 

ピタッと横にくっついて訊ねる泉美ちゃん。相変わらず距離感がバグってますね。流石コミュニケーションの七草。今にも腕を絡めて密着しそうな勢い。

そして同時にすかさずお兄様の横に並んで果敢に攻めるほのかちゃんの姿が。

 

「深雪のおやつは楽しみだけど美味しいから食べすぎちゃって太りそう…」

 

なんだかこの二人も連携ができてきましたね。

香澄ちゃんから呆れた視線が向けられているけど二人は目の前のことに夢中で気付いてないのか気にしていないのか。

 

「ご安心ください、光井先輩。本日の分は豆腐を使用しております」

「え、お豆腐?」

 

そんな私たちのすぐ後ろには割って入れるよう水波ちゃんが。ガーディアン務まってます!…割って入るようなことは起きないはず、なんだけどねぇ。もしもを想定した動きは素晴らしいと思います。

 

「豆腐っておやつになるんですか?」

「あんまり美味しそうじゃ無さそう…あ!深雪のおやつが美味しそうじゃないってことじゃなくて!」

 

ほのかちゃんにそんなつもりがないことは分かるから、そんなに必死になって否定しなくて大丈夫よ、と笑みで返しておく。

この時代、食が有り余るほど豊富ではない。ギリギリではなくなったけれど、食にこだわりの強い日本でも新たなものを作る余裕までは無かった。

そもそも手作りをする家が少ないから、こうして料理に工夫をすること自体減っていて豆腐をおやつに、なんて発想自体が珍しいものになっていた。

 

「昨夜深雪姉様と一緒に作り、味見もしましたが味に問題はないと思います」

「ええ、さっぱりした甘さのおやつになったと思うわ。それに豆腐はヘルシーだから通常よりもカロリー半分よ」

「え!?そんなに違うの?!」

「ふふ、秋は美味しいものが多いから食べ過ぎて心配になるわよね。でもほのかも皆ももう少し食べても問題ないと思うけど、こればっかりは複雑な乙女の問題ですものね」

 

言いながら真っ赤になるほのかちゃんを見た後、ちらりとお兄様たちを見ると彼らは気まずそうに視線を逸らしている。

昨夜のしっかり打った釘を再度打ち直していることに気付いたのでしょうね。

この二人、普段は大変優秀で気遣いはできるしフォローも上手なのになぜかうっかりの一言を口にすることがある。

昨夜起きた出来事は正にそれだった。

出来立てのチーズスフレとコーヒーを並べて四人でリビングに集まった時のこと。

 

 

 

 

「お豆腐でお菓子を作るのは初めてでしたが、見た目や香りではそれとわかりませんね」

「え、豆腐がケーキになるんですか?」

 

感心したような水波ちゃんと、驚きを浮かべる光宣君にほっこりしながら。

 

「今日は豆腐の日だったからというのもあったのだけど、秋は美味しいものが多いでしょう?だからつい食べ過ぎてしまって。偶にはこうしてヘルシーなものにしようかと」

 

豆腐を使ったスウィーツは大分カロリーを減らせる。

このところ調子に乗って色々と作ってしまっていたから食べ過ぎていた。体重に大した変化はなく、体も気を付けてはいるんだけれど、そこはね、まだ若いからと言っても心配になるから。

水波ちゃんも大きく頷いている。

男性陣は気にならない、というか縦に大きくなる栄養に変わるかもしれないけれど、女子はね、横が心配。

そう思ってもこうしておやつを作っているのだから変に思われたか、お兄様がこちらをじっと見つめて――ふに。

 

「………え?」

「深雪はそんなことを心配する必要がない所か、もっと食べてもいいんじゃないか?」

 

自然とお腹に腕が回され、横腹をつままれていた。………え……?

 

「僕もそう思います。お母さんも水波さんも太ってなんかいないですし、気にしすぎではないですか?」

 

こて、と首を傾げて二人のお腹周りを見ては不思議そうな顔をする光宣君。

 

「「…………」」

「深雪?」

「水波さん?」

 

「――二人共、その場で結構ですので正座を。お兄様はまずこの腕をお離しになってから、正座してくださいませ」

 

床の上とは言わない。ソファの上で正座、とにっこり微笑んで伝えると、お兄様と光宣君は顔をそっくりに強張らせピシッと正座に。

水波ちゃんと立ち上がり、庇うように一歩前に立つ水波ちゃんの後ろに控えながら微笑を保つ。

ええ、不満など微笑みの仮面の下に隠しますとも。ただし、空気は伝わるよう隠しもしませんが。

お兄様たちもそれをしっかりと読み取ってくださっているようで何よりです。

 

「まずはお兄様、たとえ妹であろうとも親しき中にも礼儀というものは必要です。女性の腹部をつまむなど言語道断。許されざる暴挙です。以後お気を付け下さいませ」

「すまない…」

「そして光宣君、」

「は、はい!」

「これはお兄様にも言えることですが、まず女性に向かって太っている、いない関係なく『太い』という単語は使ってはなりません。せめて細身であるのに、等言い換えること。そして何より、「もっとしていい」、「気にしすぎ」、は努力している女性に対して失礼に当たります。女心とはとても繊細なのです」

「「はい」」

 

そこから唐突に始まる女性へのマナー講座。

この際ですからね、二人にはきちんと女性の扱いに注意していただかないと。お兄様は言わずもがなだけど、光宣君のような美少年が不用意な言葉を使うと隙を突かれて何か要求されかねない。

終わる頃にはせっかく出来立てだったコーヒーもスフレもすっかり冷めてしまったので冷気を取り除き、熱を加えて飲みやすい温度に魔法をかけて。

 

「もう、お兄様は女難の相をお持ちなのですからこういった発言にはお気を付け下さいませ、と以前から口酸っぱく忠告しておりますのに」

「すまん」

「光宣君も、こんなところお父さんに似なくていいんですからね」

「…すみませんでした」

 

反省した二人に正座をとかせて、水波ちゃんと頷き合ってから再度仕切り直してコーヒータイムに入ったのだった。

 

 

 

 

指導のおかげか、彼らは当たり障りなく、「深雪の作るおやつは美味いからな」「そうですね、昨日先にいただきましたがとても美味しかったです」と刺激しない言葉で自然と会話に加わっていた。

席についてピクシーの並べてくれたお茶とスフレを和気あいあいとした空気の中食べる。

 

「それにしても、光宣君と学校に通えるなんて思わなかったよ」

「本当に。一時的でも嬉しいです」

 

七草双子は光宣君と似た立場ということもあり、好意的なようだ。

…お兄様に対しての対応の差に、それだけお姉さんへの思いの強さを知る。

 

(この世界のシスコンブラコンってちょっと異常だよね)

 

エリカちゃんといい、この双子といい。…え?自分たちは棚上げかって?原作ほどではないからいいんじゃないかな。

お兄様にべったり甘えているわけではないし、お兄様に親しい女性が現れたとしても歓迎こそすれ拒絶など考えたことも無い。

残念なことに今のところまだどなたかと特別仲良くされているところに遭遇したことが無いので検証はできていないけどね。

もし、お兄様が誰かと仲良くなったとしたら…寂しくは思ったりするかもしれない。でも邪魔をしたいわけではないから。

光宣君は七草先輩とどうこうなるとかそんなつもりも無いだろうし、そもそも彼にそういった異性というものを感じにくい。いや、男の子だってことはわかっているんだけど、その、女性に向けてのガッツというか、アピールが無いから無害と思われているのかもしれない。

…お兄様だって無害なはずなんだけどね。衝動が無いから誰よりも無害。なのになぜそんな誤解を受けなきゃいけないのか。

それはお兄様の呪いの女難の相とラキスケによるものだろう。

お兄様が主人公だったばっかりに。こればっかりはしょうがないね。

 

「でも羨ましいです。深雪先輩と一つ屋根の下で暮らしているなんて」

「司波先輩と桜井さんいるからね?…泉美はほっておいて。でもそれならうちでもよかったんじゃないの?」

 

ウチも光宣君なら大歓迎なのに、と香澄ちゃん。…この時点で完全異性って思われてないのがわかるね。

光宣君も苦笑している。

なんというか七草家、コミュニケーションお化け過ぎて思惑があるのかないのかわからない。

彼は十師族の末子であり、能力は同世代の中では飛びぬけて高い。体が弱いことは大きな欠点ではあるが、女と違い子を成すには問題はない可能性が高い。

…ま、きっと彼女たちにそんな思惑は無いだろうけどね。だけど転がってきた幸運をコロコロ掌で転がしたがる父親をお忘れです?人を駒として利用しそうなお家にうちの子を渡したりはしませんよ。

 

「ふふ、光宣君は引く手数多ね」

「有難いですが、僕は今の暮らしが一番理想なので」

「「理想?」」

「気遣われすぎない、適度な距離間のある生活なんて、送れないと思ってましたから」

 

その言葉に香澄ちゃんは顎を引いた。

ほのかちゃんがちょっと首をかしげているのは、彼女は京都の一連の騒動を知らないから。一応病気になりがちとは伝えてはいるんだけど、今は健康的に見えるからぴんと来ないのもわかる。

 

「だから今の達也さんたちの家での暮らしは僕にとって、何よりも楽しいんです。自分でいろんなことがさせてもらえるので」

「雫もだけど、大きなお家っていうのも大変だね」

 

お金持ちの苦労ってことで納得したみたい。雫ちゃん家も使用人がいっぱいで、家にいる時はお嬢様しているものね。常に人がいる環境は気が抜けないことをほのかちゃんも身近で見てきただろうから。

病弱として思われるよりもそっちの方が良かったのか、光宣君は微笑んで紅茶を飲むにとどめた。

 

「それで光宣君、生活はどんな感じ?深雪先輩は何時に起きて、どのような恰好をなさっていて――」

「泉美ストップ!マジで引くから!!」

 

あー、うん。光宣君の大丈夫ですか?の視線がね。大丈夫です。これはちょっとしたオタクのアレ的なモノだから。本当にどうこうしようってものじゃないから…多分。

 

 

 

皆と駅で別れてコミューターの中。

自然とお兄様と私、水波ちゃんと光宣君の並びで座る。

 

「お昼はクラスの子たちと食べたのよね、どうだった?」

「ええ、皆よくしてくれました。今学校で流行っている本のことを教えてもらいました」

 

うっ…、それは、まさか…

 

「貸してくれると言われたのですが、図書室にもあったのでそちらで借りてきました」

 

そうして取り出したのは、『例の本』で。

 

「…深雪様」

「そうですね、お兄様」

「早いうちにネタ晴らしした方が光宣の為でもあるだろう」

 

ということで首を捻っている光宣君に本の真実を――語るにはコミューターの中では短すぎるので帰宅してからと言うことになった。

…帰宅のハグはどうしているかって?水波ちゃんの為に一時的になくなりました。

お兄様の視線がものすごく訴えてきますけどね。光宣君はまだ大丈夫だと思うけど水波ちゃんが困っちゃうから。

ってことなんだけど、寂しい、とばかりにこっそり手を繋がれる。…ううぅ、なんだろうね、この胸に込み上げる思いは。これも母性?お兄様可愛いかな?お兄様に萌え殺されそうです。

これまでなら個々で過ごしてから夕飯なんだけど、お話しすることがあるので着替えたらすぐにお茶の時間を。

しかし、入学したときの事件を説明するのも恥ずかしい。黒歴史を発表するみたいな気分を押し隠しながらなんでも無さを装ってさらっとね。

そして――

 

「お父さんはとても愛されていますね」

「ああ」

 

………とっっっても居たたまれない空気になりました。もうね、仮面なんて意味ない。顔をお手で覆い隠し、水波ちゃんに慰めてもらってます。

恥ずかし死にそう。

でもね、それだけじゃなく光宣君の輝く笑顔とお兄様の力を抜いた柔らかな笑み、この二つが揃うと心臓がね、持たない。爆発しそう。

誰か、映像を!あとで見るから!!

 

「あとでしっかり読み込みます」

 

いや、さらっと読んで。そして無かったことにしてほしい。

…しばらく水波ちゃんに慰めてもらい、冷めた紅茶を飲んだ。

 

 

 

 

夕食が終わり、このまま習慣として定着しそうなコーヒータイムに突入すると思われたのだけど、

 

「あ、水波さん。今日の授業で教えてもらいたいことがあって」

「わ、私でよろしければ!」

 

と二人でお勉強会をしに光宣君の部屋に行ってしまった。

 

(あら、あらあらあら!これはもしかして、もしかするのかな!?)

 

うちの子たちの恋の発展に繋がるのかとウキウキしていたらお兄様から、

 

「久しぶりに深雪のコーヒーをお願いしてもいいか?」

 

とお願いが。

はい!喜んでぇ!!と心の店員が威勢よく声を上げるけど、表向きは淑やかに。深雪ちゃんですからね。

水波ちゃんたちのことも気になるけれど、お兄様に美味しいコーヒーを淹れることに集中。大事なお仕事だから。

しっかり丁寧に淹れて、リビングで待つお兄様の下へ。

光宣君が来てから狭く感じていたソファも二人きりだととても広く感じる。

彼が来て数日しか経っていないのに、不思議だ。

 

「こっちにおいで」

 

そう示すのは背もたれに腕を掛け、ここ空いてますよと言わんばかりの隣で。

うぅん、座った途端に腕が下りてきて安全バーの如くしっかりと抑えられそうな――

 

「深雪」

 

あ、はい。行きます。

徐々に滲むお兄様の圧に負け、すすっと移動。そして下りてくる腕。やっぱりね。これは捕獲機だった。

捕らえられたとはいえ力は強くない。離れようとすればするっとその腕は外れるだろうけれど…いや、どうだろう。お兄様の雰囲気が怪しい。

こてん、と私の首元に頭を付けてぐりぐりと擦りつけられる。

 

(い、痛くないけどっ、くすぐったい!!)

 

二人きりになった途端甘えるようなしぐさに胸がきゅんとして可愛いとときめきを覚えるが、お兄様の髪の毛が首元を擽る方にも意識がいって込み上げる笑いが堪えられない。

 

「ふ、ふふっ…お兄様?くすぐったいです」

「…深雪だ」

「はい、深雪ですよ」

 

答えたら今度はもう片方の腕が伸びてきて寄りかかるように抱きしめられた。

力は込められていなくとも体重は掛けられているので今度は逃げられない。

 

「深雪だが、深雪ではないみたいだ」

 

あら、なぞなぞ?それとも哲学的な話だろうか。私が私でないとは?

 

「これが母親というモノなのか、息子ができると変わるみたいだ」

 

なにが変わったというのだろう?

お兄様の言葉の意味が分からず顔を少し上げたら触れてしまいそうな至近距離、手を添えてひたり、と二人の視線が重なる。

 

「先週まではこんなことをしたら恥ずかしがって逃げていたのに」

「………え、あ…!!」

 

吐息が掛かり、すりっと頬に撫でられて――魔法が解けた。

 

「お、おにっ、お兄様!?」

「ああ、戻ったか」

「は、離してくださいませ!近いです!!」

 

腕を突っ張ってお兄様から距離を取ろうとするのだけれど、びくともしない。

 

「さっきまでこの距離でも普通に微笑んでいたじゃないか」

「そ、それは!その…」

 

本当、何でだろうね?!こんな至近距離、いつもだったら心臓がばっくんばっくん音を立てて血の巡りが高速で駆けていくのに。

 

「許してくれているようで嬉しくもあったが、少し寂しくもあったよ」

「…それは、なぜです?」

「…何でだろうな」

 

俺にもわからない。とお兄様。

お兄様にわからないことが私にわかるわけがない。この難題は棚上げして見なかったことにする。

今はこの状態を打破しなければ。

 

「お兄様」

「離すのはもう30秒経ってからでいいか?習慣が一つ無くなっただけで落ち着かなくてな」

 

……うぅ…ハグを休んでいる弊害が出たらしい。

 

「二人きりの時間も減ったからな。深雪が足りなくなった」

「…一緒にいる時間は増えていると思うのですが」

「だが、触れ合える時間はほぼ無くなった」

 

確かに光宣君と水波ちゃんが一緒にいる前で肩を抱きながら座る、くらいなら水波ちゃんも何も言わないけれど、それにハグや腰を抱き寄せたりすると鋭い視線が飛んできてましたからね。

 

「水波の視線はどうともないが、そのせいで深雪が離れてしまうのがな」

 

いえ、水波ちゃんの視線を感じているならどうかそこでストップしてください。また夕食が洋食一色に変わってしまいますよ。

というかお兄様は至急羞恥心を見つけてきてください。人前でこのようなことをするのはどうかと思います。

人がいなくたってこんなに恥ずかしいのに!

 

「…ああ、深雪が戻ってきた」

「先ほどまでも私でしたよ」

「もちろんわかっている。俺が深雪を間違えるはずがない。だが、先ほどまでのは俺の妹の深雪ではなかった」

「…?」

「先ほどまでの深雪は光宣の母である深雪だった。どこまでも寛容で、すべてを包み込む優しさを持った母の顔をしていた。その深雪もとても魅力的だが、俺の前では妹の顔も見せてほしい――そうか、俺の前でしか見られないお前が見たかったのか」

「!!」

 

ぎゅうっと強く抱きしめられて胸が苦しい。

でも物理的ではなく、お兄様の言葉がね!甘すぎて!!

吐息交じりでそんな言葉を首元で囁かないでほしい。死んでしまう!糖分の取りすぎで死んじゃうから!!

 

「さっ、30秒!もう30秒経ちましたでしょう?!」

「…30秒はあっという間だな」

 

そうですね。でも実際30秒どころじゃなかったと思います。心音早すぎて体内時計は狂っているけど絶対1分は過ぎてた。間違いない。

するり、とお兄様の腕が名残惜しそうに離れていく。

最後に顔を上げてもう一度正面から向き合うのだけど…近い!鼻先が触れ合いそうです。

困っている私が楽しいのか、お兄様は口角を吊り上げて。

 

「可愛いな、俺の妹は」

 

そう言って鼻先にちゅっ、とキスをして離れ、コーヒーを口にしていた。

とても優雅にカップを傾けて飲んでいるけど、私はそれを固まって見ることしかできなかった。

…鼻頭にキスされたのは初めてですよ。

 

「ん、美味い」

「…それは、ようございました」

 

久々に淹れたコーヒーはお兄様のお口に合った模様。それは何よりなんだけど。

 

「…お兄様はずるいです」

 

私ばっかりがいつも翻弄されている。

そう恨みがましく見つめれば、お兄様はくすりと笑って。

 

「俺は普段から深雪に振り回されてばっかりいるがな」

「ご冗談を。動揺したお兄様など見たことがございません」

「それは俺が隠しているからな。かっこ悪い姿を妹に見せるわけにはいかないだろう」

「なぜです?たとえそんな姿を見ても失望なんてしませんのに」

 

というかかっこ悪いお兄様?見てみたい!と身を乗り出して訴えれば、今度は苦笑いを浮かべられた。

 

「たとえ失望させなくとも、妹の前では格好つけたいんだよ。ただでさえ俺はダメ兄貴だからな」

「…お兄様はダメ兄貴なんかじゃありません」

 

お兄様は自虐が過ぎる。それは魔法力の無さからか、育ってきた環境のせいか。

この世界がそう作り上げたのは知っていても、面白くない。

不満だという思いをうまく隠せず俯くと、大きな手がポン、と頭に乗せられる。

 

「お前がそう言ってくれるから、俺は救われるんだよ」

 

顔を上げると、穏やかに微笑まれていて、胸が温かくなる。

しばし見つめ合うと、また羞恥に襲われてドキドキと高鳴る胸を手で押さえながら顔を逸らした。

 

「…光宣君と水波ちゃんは勉強が進んだでしょうか?」

 

もう解決して戻ってくるんじゃないかな、とそわそわしているとお兄様から衝撃の一言が。

 

「光宣が上手いこと水波を引き留めるだろう」

「…え?それは、どういう…?」

「深雪、今日が何の日か知っているか?」

「今日、ですか?」

 

確か一汁三菜の日、とかいい膝の日とかだったと思うけど、水波ちゃんを引き留める理由にはならない。

一体何の日だったっけと考えても浮かばないので降参、とお兄様を見つめると人差し指を立てて教えてくれた。

 

「お父さんの日だそうだ」

「お父さん…あ、語呂合わせ」

「その通り」

 

13日で、10と3でお父さん、となるのかと納得はしたのだけど。

 

「それがどうして水波ちゃんを引き留めることになるのです?」

「光宣がな、今日はお父さんの日だから何が欲しいかと尋ねてきてな、深雪不足だった俺はそのまま答えたんだ。深雪が欲しいと」

「!!」

「そうしたら、何とか時間を確保してみせます、とな。つまり――これは光宣からのプレゼントだ」

 

……光宣君…。いや、それよりお兄様の発言の方が問題なのか?妹不足だからと妹が欲しいって…。それに応えようとする光宣君も光宣君だけども。

 

「俺は親孝行な息子に恵まれたな」

 

私はもう何も考えらえなくて、よかったですねぇ、とだけ答えて真っ赤な顔を隠すのだった。

 

 

 





お父さんの日で、昨日の豆腐の日もプラス。
光宣君はお父さんに似なくていいところが似てしまいました。
でも彼には女難の相は無いんですよねー。そこが一番の違い。

「お父さん何が欲しいですか?」
「お母さん」

ってことで賢い息子はお母さんとの時間をプレゼント。
いい息子だけどお母さん困ってますよ。
両親が可愛がってくれてとってもハッピーだけど二人が仲良しなところも見たい。息子はラブラブな両親をご所望です。
実家で見たことないものね(←
光宣君はこの後お父さんからお小遣いをもらい、4人でデートに行ってお母さんと水波ちゃんにプレゼントを買います。
…デパート大混乱だろうね。深雪ちゃんと光宣君が並んだらそれはもう大事件。注目浴びること間違いなし。撮影を疑われるけどカメラは何処にもありません。
母親モードになるとお兄様に耐性ができる。というか母は強くなるのです。でも解除されると反動もプラスされて心臓が大変なことに。
母親な妹も好きだけど照れる妹が可愛い。
…これで無自覚なんですよ。酷い。自覚して!でもしちゃうと危ないルートが開いちゃうから自覚しない方がいいのか。

もしこの後婚約発表があって光宣君と話す機会があったら師匠たちと一緒で「自覚してなかったんですか?本当に⁇」となりそう。でも二人が本物の夫婦になることが嬉しい。お祝いする。そして結婚を邪魔するものは皆敵。
え、一条さん?お母さんが相手にすると思いませんけど?…真っ直ぐな目で心を抉ってそう。


お粗末様でした。
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