妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします! 番外編   作:tom200

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恋人後の二人きりの謎時空です。



11月の記念日 11/14

 

 

11月14日

 

リビングでくつろいでいる時にお兄様の端末が鳴る。

相手を確認してから「牛山さんからだ」と腰に回していた手をわざとするりと撫でるように触れてから離したお兄様は立ち上がり、廊下まで出て話し始めた。

ドアを閉めなかったのは変な誤解をさせたくない気遣いからか。

お兄様を疑うことなんて無いのに、と思うけれどこれはお兄様の誠意なのだと受け取って、隣にあったクッションを抱きかかえながら耳を澄ます。

内容に興味はないが、お兄様の声は聞いていたい。

自分にはほとんど向けられることは無い仕事モードの声。

いや、似たような声なら地下室で毎週聞いている。淡々と、感情を籠めない話し方。

だけどそれだけではない。

ただ指示をするだけでなく、「凄いですね」「流石牛山さん」「そのアイディアも良いですね、それならそこに――を加えたらどうなりますか」「いえ、専門外だから浮かんだだけに過ぎません。牛山さんが形にして下さるからいつも助かってますよ」等、気持ち良く仕事をするためのワードがちりばめられている。

信頼しているからこその、親しいやり取りなのだろうが、あのように言われれば頼まれる側もやる気が違うだろう。

「では、その方向でお願いします」と通話を切って戻ってきた。

その際、抱きかかえていたクッションをちらりと見たと思ったらスッと抜かれてぽん、と放り投げられてしまう。

いつもは見せない少し乱暴な仕草にドキッとした。

 

「達也様?」

「俺が戻ったならそれはいらないだろう」

 

…隣のぬくもりが無くなって少し寂しくなって手持ち無沙汰となり、クッションを抱えていたことなんてまるっとお見通しとばかりの言葉に恥ずかしさのあまり俯く。

それを苦笑しながら肩を抱き寄せ、そのまま頭を撫でられ髪を梳いた。

このまま揶揄われてはいつものように流されてしまう、と思い何か話題をとひねり出す。

 

「…お兄様は理想の上司ですね」

 

出てきたのはつい先ほどの会話で思いついたことだった。

前世の職場では上司に恵まれなかった。というより会社自体があまり良くなかったのだろう。

部下に責任を押し付けるのが得意な人ほど昇格するような会社だった。

残業は当たり前だったのに、上司が先に帰ることなどしょっちゅうで、これで残業代が給料に反映しないようであれば速攻で辞めていた。

上司と喋るとモチベーションが下がる。指示されたことの証拠をできるだけ残して言われたとおりにやった、と責任の押し付けの回避だけが上手くなった。…それでも理不尽に怒られたりしたけれど。

 

(もし、さっきのお兄様みたいな上司だったらどれほど働くことが楽しかったか)

 

というよりお兄様が上司というだけで舞い上がる。

憧れの人が上司なんてTL漫画の王道だ。

脳内でスーツ姿のお兄様を浮かべ一人キャーキャーしていると、髪を撫でていたはずの手が何時の間にやらするりと下りて腰に添えられていた。

 

「深雪の言う、理想の上司とはどういうモノなんだ?」

 

問われる言葉は普通なのに、向けられる視線にはただの好奇心以外の色が映って見えた。

 

「えっと、そうですね。部下を労い、意見を尊重し、その上で的確なアドバイスをくれて、褒めてくれて、頼りにしていると期待して仕事を任せてくれるところがとても素敵に思いまして」

 

牛山さんはお兄様の部下ではない。お兄様は立場的にはアルバイト、牛山さんの方が上司で責任者。

仕事も、お兄様とはパートナーのような間柄なのだが、先ほどのやり取りを聞いているとつい妄想が捗った。

 

(年下上司とそれを受け入れ互いに尊敬しあってお仕事できる年上部下ってのも美味しい)

 

別に恋愛でなくてもいいのだ。そこに愛があれば。

お兄様は職場でとても愛され尊敬されているのが、何よりも嬉しいことだった。

お兄様の視線に動揺しつつも、素敵ですと正面から伝えればお兄様は困り顔。

 

「…なんだかな。そんなことを意識したつもりはないが」

「それを自然にやっていることが素晴らしいのです。お兄様の下で働ける方々は幸せですね」

 

そして、私もお兄様の下で働ける日を楽しみにしております、と胸にすり寄る。

まだ高校生の間は会社を立ち上げない、と準備はいているものの始動はさせていない段階。

まだ採用も決まっていないが、お兄様が働くのに私が付いていかないはずも無く、勝手ながら部下になる気でいた。

お兄様は腰に回した腕はそのままにもう片方の手でまた髪を梳くように撫でる。

 

「深雪が、俺の部下に?」

「達也様の為に一生懸命尽くさせていただきます」

 

少し顔を上げて働く意欲をアピールすると、更に困ったような顔になる。…え、もしやお兄様妹を働かせたくない、とか?原作では仕事を与えてくださったはずだけど、とこちらも瞳を揺らすと顔だけでなくはっきりと言葉でも「困ったな」と言われてしまう。

 

「…達也様は私が部下になることが…」

 

お兄様にとって私は今まで『お嬢様』であり、『護衛対象』であって、『四葉次期当主』なのだ。部下にするにしても扱いが難しいのかもしれない。

 

「深雪。お前の心配は的を外しているよ」

「え…?」

 

顔を上げると困っているというより参ったな、という印象が強くなった。

 

「いずれお前には仕事を手伝ってもらうつもりだ。傍にいてくれた方が俺としても心が落ち着く」

 

…よかった。原作通り雇ってはもらえるらしい。

側にいる方が、って護衛も兼ねてる?視界に入れていないと、手の届く範囲にいてくれた方が集中できるってことなのだろう。

うーん、できれば実力で採用されたかったけれど、お兄様の心の安寧の為ならばそこには目を瞑るか、と納得しかけたところだったのだが。

 

「――そう思っていたのだがな」

 

すり、と髪を撫でていた手が頬に滑り、上向きにされて2つの顔が近づく。

 

「た、つや、さま…?」

「公私混同せずにいられる自信がなくなった」

「……はい?」

 

んん?お兄様が、公私混同⁇あの、どんな時も思考を切り替え冷静に判断のできるお兄様が?

はてなを浮かべてわかりやすく混乱しているところにちゅ、と軽く音を立てて触れるだけのキスを落され瞬時に顔に熱が集まった。

仰け反って逃げようとするも、添えられていた手は後頭部をがっちりと抑え込んで逃げられない。

 

「ったつ――」

「上司になるからにはできるだけ平等を心掛けなければならないが、お前にばかり構ってしまいそうだ」

 

とろりと溶けるような甘い視線と、甘いキスを落されてこのままだとせっかく回避できた流れに戻されてしまう!と激流に逆らうように羞恥を微笑みの下に押し隠して。

 

「まあ。達也様はそんなことなさらないでしょう?」

「なぜそんなことが断言できる?」

「そんなことをしては仕事の効率が下がってしまいますもの。場を乱さぬよう配慮することを達也様が忘れるはずがありません」

「俺はそんな完璧な男ではないよ」

 

よく知っているだろう?と腰のあたりを撫でる悪い手を、「こちらは真剣に話しているのです!」と怒ってみせて封じ込める。

これで止まってくれているのは、私が止めるだけで終わるとは思っていないから。

先を読まれているな、とわかりつつも途中で中断する気はない。

 

「…もう。――でも、そうですね。他の社員にはできないフォローを入れさせてもらえれば、と思います」

「へぇ、それはどんな?」

「達也様はきっと忙しくなったら部下を休ませご自身はノンストップでお仕事をされるでしょう?」

 

その様子が目に浮かぶようです、と言えば、お兄様も心当たりがあるのだろう、苦笑だけが返された。

今までも似たようなことはありましたからね。自分で全て背負って片付けてしまうこと。

周囲は休ませなければとわかっているのに自分のことは問題ないと多少の無理を通してしまう。

…お兄様のそれはちっとも多少ではないのだけれど、どうしてもその自覚が薄い。

 

「達也様とて疲労すれば作業効率も悪くなりますし、良いアイディアも浮かばないもの。そんな達也様を休ませるのが私の重大な仕事では無いかと思うのです」

 

いくら他人が休めと言ってもきっとお兄様は目標達成するまで止まれない。

それは高校生活を送っている間に十分理解した。お兄様は根っからの研究者で、結果が出るまで、成果を出すまで――納得がいくまでやめられない。

ならば、そんなお兄様に休息を与えるのが妹の、そして――婚約者としての役割でもあるから。

 

「丸1日休むのが難しい時もあるでしょう。1分1秒も惜しい時もあるかもしれません。ですが、そういう時こそ休息を忘れてはなりません。10分でもいいのです。休憩室で膝枕でもいたしましょう。少しの間目を閉じて、ヘッドマッサージをして。手もお疲れでしょうからハンドマッサージもしたいところですね」

 

お兄様の頬に触れ、頭に触れ、手を握る。

思い描くよう目を閉じるお兄様に自ら額を合わせて。

何の意味もないただの触れ合い。でも、心の満たされる触れ合いだ。

 

「それに、達也様は素敵な上司ですもの。部下を休ませることも上司のお仕事ですから、私が達也様を心配で休めなければきちんと休めるようご配慮いただけるのでしょう?」

「――さて、それはどうだろうな」

「休んではいただけないですか?」

 

見通しが甘かったのか、私を休ませるという理由ならばお兄様も休んでいただけるのでは、と提案してみたが、即答は得られない。

瞼を上げれば視線がぶつかり合って――。

 

「休暇を取ったところで深雪を休ませてやれるか問われれば――俺は離してやれないだろうから」

「え…きゃっ!」

 

密着していた体をさらに抱き上げ自身の上に乗せるとぎゅうう、とまるで閉じ込めたと言わんばかりに抱きすくめられた。

 

「いい上司になるにはいい部下がいてくれるから成り立つ。俺が良い上司になれるなら、それは深雪という優秀な部下がいてくれるからということ――あとは、支えてくれるパートナーか」

 

いい上司といわれるには一人の力でできることではないという、良いお話のはずなのに全く頭に話が入ってこない。

耳に熱い吐息が掛かる。

それだけで体がぞくりと震えた。

 

「しまったな。いつ深雪を休ませてあげられるんだ?」

「…その怪しく蠢く手を止めていただければ休まるのではないでしょう?」

 

つつ、と身体をなぞる手がだんだんと大胆に動き出していた。

身を捩りたくもがっしりと腰を抑えられてしまっていてうまく動けない。

 

「っ抱き枕にならなって差し上げますから!」

「それもとても魅力的だが、物言わぬ枕より可愛い反応のある婚約者を抱きしめて眠りたいな」

 

………寝る前に運動しないと眠れない、なんて習慣は今のうちに無くさせなくては!と意気込むのだけど、そのたびに流されてしまうだろう未来が予測できてしまうくらい、すべてを見透かすような笑みを浮かべるお兄様に今夜も流されてしまうのだった。

 

 

 






お兄様を休ませると妹は休めない。その分妹にはちゃんと休暇が与えられる。
スケジュール調整は完璧だから仕事上は問題ない。ただ私生活は、ね?
ってことでいい上司の日でした。
お兄様とのオフィスラブが見てみたいものです。きっとあんなことやこんなことが――起きないよう頑張る妹を揶揄って遊ぶお兄様の図が浮かびますね。
流石に仕事とプライベートは分ける。その方が妹も喜ぶこともわかっているのでそこはきっちりする。
…それでも妹を可愛がることは忘れない。それがお兄様。

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