奈落2  ifストーリー もしも彼の兄が失踪したら   作:アズカバー

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注意※
今回のお話は完全にオリジナル展開となっております。
今更と思うかもしれませんが、苦手な方はご注意ください。

大変お待たせいたしました、許してください。
あと、アマリアさんは今回はチョロ出ししかできませんでした。
次の話から本格的に絡みますので……

本当に、すみませんでした。


第十三話: 魔人災害(デーモニック・ハザード)D-004

 

 

 

 

 

(……ここは、どこだ?)

 

目を覚ますと、目の前は暗闇に包まれていた。

何も聞こえず、何も見えない…

 

ただ何かが、こちらを“見ている"

 

見られているというその感覚だけがこの暗闇から感じられた。

 

視線がどこからきているか探るため、まず耳を澄ませて辺りの音すを聞く……暗闇の奥から擦れた呼吸音が、微かに聞こえた。

 

(…いやこれは……近づいてきている!?)

 

錆びた換気扇のようなその音は、徐々に大きくなっていき視界の端に輪郭を捉えた。

 

 

暗闇に溶け込んだその影が揺れた瞬間、“奴“は手を伸ばし首筋に触れる。

 

振り払おうと“奴”の手らしきものを弾いて初めて気付いた。

 

“奴“が触れていたのが、首ではなく俺の首に緩く巻かれた荒縄だと

いうことに…

 

「は?」

 

だが、遅かった

 

ざらりとした手触りに気づいた時には足が地面から離れ、身体が吊り上げられた後だった。

 

爪を立て、荒縄を必死に掻きむしるが、荒縄は解ける様子はなく、ただ指先から血が滴る感触と痛みだけが残る。

 

また、影が揺らいだ。

耳元で何かの声が、濁った水の底から泡立つように囁いた。

 

「……ォ……セ……」

 

まだ、声は掠れて聞き取れない…だが、分からない。死が近づいてきているというのに、徐々に思考が止まってく。

 

徐々に、恐怖が精神を汚染する。

 

(このままだと…お…れは)

 

刻々と死が近づいてきている。

 

指先から熱が滴るのを感じ、痛みと恐怖で視界がぼやけていく。

 

喉が裂けるほど息を吸おうとしたとき、

目の前に“それ”の赤い二つの光が浮かんだ。

 

血のように赤いそれは、ただこちらを覗き込んでいる。

 

鼻先に奴が発しているだろう息があたる。

 

また、何かをこちらに呟いている。

 

死に際で、神経が研ぎ澄まされていたかからか今度は良く聞き取れた。

 

「……ノウヲ……ヨコセ」

 

その言葉を皮切りに、縄が一段と締まり──

 

断末魔と共に俺の意識は途絶えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うああぁああっッ!!!!???……はぁ…!はぁ…!…なんだ、今の?夢?」

 

 

 

辺りを見渡し、異変がないかを探してしまう……が、どうやら本当に夢だったようだ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……っくりした〜っ……ベル、急に大きな声出すなよな〜…」

「……えっ?」

 

 

声の先に目を向けると、ずっと探していた人がいた。

黒くて長い後ろ髪に、()()()()()()()()()()()()()

体の特徴で唯一似ている目つきの悪い三白眼は、紛う事なき、ずっと探していた血を分けた家族。

 

「…ウィル…兄?」

「?うん」

 

 

 

 

〈◼️◼️◼️◼️の世界〉

 

 

 

 

 

 

 

 

〈ウィル視点〉

 

 

 

 

 

 

 

とある裏路地の小屋内で、爆発音が連続的に響いていた。

「……クリア」

「……お、おお」

 

射抜かれた的に目を向けると、穴は一つしか空いていなかった。

 

地面に転がった薬莢の数は10……信じられないことに目の前の自分より一つ下の女の子は全ての弾丸を全く同じ箇所に命中させたのである。

 

それも僅か7秒の間に…およそ同じ人間がやれる該当とは思えない。

 

(……撃った箇所は……頭部…しかもあの位置って…眉間だ…怖ぁ)

「…カスタム無しじゃこれが限界ね…」

 

なんか怖いこと言ってる…この結果に何が不満なのこの人?

 

ガチャっとリロード音がするとハンドガンの持ち手をこちら側に向けられている。

 

「次、貴方の番です…これから地下に向かいますが、多くのDが闊歩してると思われます。訓練を思い出して、今のうちに感覚を研いでおいて下さい。

……相手が魔人となれば、あなたを守りながら戦うことは不可能です…わかっていますね…ANT50」

 

「…はい…その…ありがとうございます」

 

銃の点検をしていた彼女の手が止まり、こちらに視線を向けた。

 

「お礼を言われるようなことはしていません……私の方こそ、申し訳ありません…あなたの家族を守ると……決して巻き込まないと半年前に約束したのに……このような事態になってしまったのも私があの男を僅かでも信用したせいです…」

 

「本当に、ごめんなさい。」

 

そう彼女は頭を下げた。

 

「……いえ、もとあと言えばオレが"奈落"に入ったのが原因ですし……結局ベルを巻き込んだのも……オレが迂闊だったせいですから……アマリア様が謝る事じゃ無いです」

 

この人はオリバーに捕まったオレを助けてくれただけでなく、身を護る術を教えてくれた……人を、殺さずに捉える方法を教えてくれた。

 

この人は手段を選ばないし、表情ひとつ変えずに嘘をつく…完全に信用することは出来ない…けれど、この人の俺たちへ向ける優しさだけは疑っちゃいけない気がする。

 

 

「ANT部隊の中では1番の若輩者ですが、それでも貴方に鍛えてもらった兵士です……!普段の訓練はアレですが、家族の命を守るためならどこまでも頑張れます!」

 

めいいっぱいの笑顔と共に言葉を送ったが、すごく不安そうな顔をされている…オレってそんな信用ないか?

 

「……射撃訓練C…基礎体力測定D…座学C…私の持つ戦術ドクトリンを全て叩き込んでの貴方の成績です…はっきり言って下から数えた方が早いレベルなんですよ?」

 

子供を嗜める先生のような母親のような…そんな困り顔で淡々と話す彼女から目を逸らしてしまう……それを許さないとでも言うように俺の髪に触れ話を続ける。

 

「…ウィルさん…半年前に貴方はあっさりオリバー監督官に見つかり、捕獲されたでしょう?…詰めが甘く、そのくせ好奇心だけは旺盛なのをなんとかしなさい……貴方に死なれたら本当に…本当に、困るんです……危なくなったら私を囮にしてでも逃げてくださいね?約束ですよ?」

 

「オレそんなに信用ないかなぁ!?」

 

「はい」とにこやかに返事をした彼女は、俺の手を取り何かを握らせた。

 

「…通常弾の他に、この特別性の弾丸を貴方に2発だけ渡しておきます。」

 

渡された弾は弾倉から弾丸まで赤で統一されているものだった…ほんの僅かに蠢いている…気がする…

 

「あるDの細胞を改良して作った特別弾です……Dやサイボーグなどにはあまり効果はないでしょうが、時間稼ぎくらいには使えます……Dと遭遇した際はこれを使用して逃げること…ターゲットと遭遇しても勝手な判断で動かないこと…問題が起きたり、何か気づいたことがあればすぐに私の無線に連絡すること…常に自分の命を優先すること……良いですね?」

 

人差し指を立てながらまるで幼児を躾ける時の母親のように話す彼女はやけに様になっている…エプロンとか似合いそう。

 

「話…聞いてますか?」

「Sir, yes, sir!!」

 

急に目のハイライト消して目線合わせてくるのやめてほしい!ほんっとに心臓に悪いから!アマリアさんおっかねぇ!

 

(ベル〜お前なんて人と付き合ってるんだよ……いくら美人だからだってさ〜……お兄ちゃんお前の将来が心配だよ…)

 

※ウィルは二人が恋人同士と聞かされてます。

洗脳じゃないよ※

 

 

「…では、行きますか…目標は全てのDの完全処分…そして完全体魔人の捕獲に民間人の救出…」

 

「オリバーの野郎はどうしますか?」

「──決まっているでしょう?……責任を取らせます」

 

「もう、手は打ってありますから♪」

 

彼女は背中を向け、暗闇の中を進んでく。

氷のように冷たい表情で、歪に口元だけ僅かに上がっている…怒りと悪意を朗らかな笑顔の仮面で包み隠す。

 

人を魅了し堕落させ、地獄の底へと連れていく悪魔のようで…そんな姿が、美しい。

 

彼女の前では、きっと魔王すらたじろぐ事だろう…目を合わせるのも恐ろしく、けれど見惚れる程に美しい人。

 

その心に唯一触れれる人は、おそらくただ一人。

 

(……お兄ちゃんとしては、自慢に思うけど……この人が義妹になるのはなぁ〜……複雑)

 

「ANT050、なにか?」

「──いいえ、後に続きます。」

 

──いけないな、任務に集中しよう。

俺が最も優先するべきことは、エーベルを…可愛い弟を助け出して……ケジメをつけない

 

 

 

 

 

 

 

 

〈エーベル?視点?〉

 

 

今のはなんだ?

 

 

「……全く、こんな難しくてグロい本読んでるから変な夢見るんだよ…その年で医学書なんて読んでるの、お前くらいだよ」

 

 

「…いや別に普通だろ?"繝ェ繝シ繝”なん…て…」

 

今、俺なんて言った?

 

「いや〜子供が見るもんじゃないと思うぞ?医学書なんてさ〜()()()が読んだりしないって」

 

しょうがくせい?…兄貴も、何言って……()()()()()()()()()()()2()()()()()

 

「…これ、結構面白いけど」

 

「読むなら漫画とかにしなって…ほら、この"奈落"って漫画、結構面白いよ?読む?はちゃめちゃにグロいけど」

「グロいのはパス」

 

「お前の本も相当だと思うけど……医学書なんて、8歳の子供が読むもんじゃないって…漫画ならいくらでも貸すからもっと読もうよ〜」

 

だから別に……あれ?兄貴と目線が合う…身長そんな近かったか?……いや、そりゃそうか…()()()()()3()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

あれ?

 

「……いや、まてよ?何かおかしいような──なんか、

頭にノイズが…」

 

──ベル

 

さっきまでのは夢?…なら…この頭に浮かぶ綺麗な人たちは?なんだ、この人たちは……なんで、青髪の子は泣いているんだ?

 

一体…誰か、呼んでるんだ?

 

 

「……これ、本当に現──」

『?"繝ェ繝シ繝”』

 

「ッ!?」

 

耳元で、ナニカが囁いた…嫌な汗が背をつたり、身体が凍えたように動けなくなる…呼吸も、まるで首に縄でも巻かれたみたいに息苦しい…。

 

それこそ、命の危機を感じるほどに

 

「それよりさエーベル、母さんがゴミ捨てお願いだって」

 

「えっ…ああ……」

 

今一瞬、ウィル兄の顔がおかしかったような…気のせい…なのか?…この違和感はなんだ?何かがおかしい…酷く、頭が痛い。

 

 

何か、深刻な問題が起きているような──

 

早ク…業者ガ回収ニキチャウヨ?

 

「!?……わ、かった……」

 

兄貴に急かされ、俺はその場から逃げるようにゴミ袋を持って外に出る……あれ以上考えたらいけない…そう本能が訴えてしているように感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴミを捨て終わり家に帰ろうとした時、妙なヒモ?ロープ?のようなものが垂れているのを見かけた…

 

「なんだこれ?どこからぶら下がって……」

「…ねぇ、そこの君」

 

ロープを触ろうとした時、背後から澄んだ優しいくも裏のありそうな声が聞こえてきた。

 

「んあ?」

 

声の方を向くと綺麗でどこか見覚えのあるブロンドヘアの少女が立っていた。

 

「迷子になってしまって…道案内をお願いしたいの」

 

身綺麗な服に身を包んだ少女の顔を見ると黒く塗りつぶされたように見えない。

 

(この子…どこかで会ったことあるような……さっきからやけに既視感があるし……顔がはっきり見えないのもおかしい…これ、本当に現実か?)

 

そんな疑念を思い、目の前の少女に問いかけようとして、気付いた。

 

自分の意思とは関係なしに口が動く…

 

「──迷子?…それにその見た目…“きぞく”…だったか?と言うかなんでこんなところにいるんだ?」

 

思ってもいないことを口走っている…まるですでに起きたことを繰り返しているような……何かの再現をさせられているような気がする。

 

……なんで俺の体なのに自分の意思で動かせない?

 

話したいのに口が、身体が言うことを聞いてくれない。

 

「少し用事があって……そんなことより君、少し私のお手伝いをしてくれない?この小さな箱を教会まで届けて欲しいのだけれど」

 

顔の見えない少女は、こちらに手のひらサイズの箱を差し出す。

 

「報酬は欲しいものなんでもあげる…どう?」

「…何言ってんだお前?嫌だよ…」

 

明らかに怪しいその誘いをきっぱりと断るが、目の前の少女は微塵も動揺せず質問してくる。

 

「……なぜ?」

「なんかお前怪しい…つかお前きぞく何だろ?なんで俺みたいな“しょみん”に頼むんだよ」

 

「貴族の私には色々と事情があるの…それにこれは貴族である私からのお願いでもあり、命令でもあるのよ?…貴族の命令が聞けないと言うのはどう言うことか理解できてるかな?」

 

「………」

 

 8年前にもこんな事があった…確かこの後──あれ、なんか俺とんでもないこと──

 

「……お前さぁ…バカだろ?」

「………………………………はぁ?……今、なんで言ったのかしら?」

 

「バカって言ったんだよ…俺は知ってるぞ“けんりょく”ってやつだろ?”けんりょく”を振り回してる奴は信用できねーってとーちゃんご言ってた」

 

「あとお前、俺の質問に全部答えてねぇし…良く分からんけど脅してる感じだし…それにさっきのお前の笑顔……なんか作り物みたい。」

「……………」

 

目の前の少女は、少年を見つめた。その目からは段々と先ほどまでの作り物の顔が消え、光の消えた奈落のような瞳を少年に向けた。

 

感情が何もかも消え去ってしまったかのようなその底抜けの瞳に生意気そうな少年の顔が反射する。

 

「………はぁ」

「なんでため息ついてんだ?」

 

「命知らずで…無知で…愚かすぎて言葉が出ないの」

「俺のこと言ってんの?」

 

少女はこちらに視線を向けると、嘲りの笑みを浮かべ言葉を続けた。

 

「貴族に意見すれば良くて投獄案件…ランスロード家の私を相手に侮辱するなんて…一家全員極刑ね…無知な自分を悔やむといいわ」

 

「……やっぱりお前バカだな…」

「はい……?」

 

先ほどまでの仮面のような表情から、なんとも人間らしい困惑顔へと変化した。

 

「……貴方何を言って──」

 

「本物の“きぞく”なら俺みたいな“しょみん”には頼まない…そもそもだ…お前が“きぞく”なのかしら怪しい……よって!これまでの情報から言える結論は一つ……お前は“きぞく”ではない!!」

 

「……………」

 

「どうだ、“ずぼし”だろ?」

 

腕を腰に当てて胸を張り、ドヤ顔を決めている……この自信はいったい何処からくるのか分からない。

 

……俺なんてさっきから胃の辺りがキリキリする…体が俺の意思で動かない…怖い…果たして俺は生きて帰れるのだろうか

 

 

 

 

「……ふ、ふふっ…ふふふっ」

「な、なんだよ急に笑い出して……」

 

…この身体がいうことを聞いてくれたら俺は迷いなく土下座をし、命乞いをしていたことだろう。

 

「い、いえ……何でもっ…ふふっ…『貴族ではない…!!』なんてそんな……ど、どう言う思考で……ブふっ…あははは!…あっははは!」

 

目の前の貴族の少女は腹を抑え、口を開けて大笑いをしている……先ほどまでの冷笑ではない、年相応の子どもらしい大笑い…

 

…その笑顔は歪で、慣れていないように思えた…生まれて初めて心から笑ったようなそんな笑い方…だけど…とても綺麗に思えた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「…な、何だその笑いは……俺の結論が違ったのか!?……え…じゃあまさか……う、嘘だ…ほ、本当に……“きぞく”なのか??………………いや…待って…あの………ご…ごめんなさい…さっきのはその…違うんです…ほ、本当にごめんなさい…な、なんでもしますから…!」

 

この王都において貴族は絶対だ。

 

 貴族の機嫌を損ねただけで年間何人に罰が降っていることか…そういや万引きだけで衛兵に連れて行かれたとかあったな…なら侮辱罪で家族全員極刑……なんてことも簡単に罷り通るわけだ。

 

過去の自分のやらかしを抵抗できない状態で見せられるのは実に気分が悪い…と言うか胃が痛い…吐き気がする…今すぐ逃げたい。

 

ようやく落ち着いたのか彼女は息を整えこちらを見た。

 

「……なんでも…かぁ…なら一つ私と約束しよっか…そしたら許してあげる……」

「や、やくそく?」

 

「うん」

 

朗らかな見覚えのある優しい笑みで彼女は続けた。

 

「────♪」

「……い、今なんて──」

 

その続きが話される前に目の前の少女は霧のように消えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈エーベル視点〉

 

 

 

 

「……あれ?彼女は何処に──と言うか…お…お!は…貴族相手になんて口聞いてんだ!?つかなんで許されてんの俺っ!!?」

 

さっきまでのおよそ俺が発言したとは思えないレベルの情け無い結論は、全く理由はわからないが許されたらしい…いや、なんか約束取り付けられてる気がするが、それだけが思い出せない……怖い。

 

身売りとかじゃ……無いよな?流石に彼女に限ってそんなことは…

 

「あれ……身体が動く…?」

 

 さっきまでは身体がまるで自分の意思で動かせなかったが、彼女が消えたと同時に動けるようになった。

 

「……そうだ…さっきまで俺はあの奈落にいて…それで……妙なDと目があって……3人は何処に行った?……つかここ街だよな…なんでこんなところに……?」

 

試しに頬を引っ張って見ると、

 

「いひゃくない(痛くない)……ならここは夢の中…だよな、多分。つまり、3人が居なくなったんじゃなくて……俺がさっきのDに眠らされてるってわけか…」

 

…強制的に相手を眠らせ、夢の中に閉じ込める能力……何が狙いだ?…それともあのメカミドリの差金か?思考がまとまらない…何故が多い

 

…夢を見ているのは俺だけとは考えずらいが、もし全員寝てるとしたら…危険だ…脳をよこせとか不気味なことも言っていたし、早く目覚めないと不味い。

 

「……ふぅ…一度、落ち着くべきだな」

 

街中を見渡すと、建物のガラスに反射された自身の姿が視界に入った……随分と、可愛げのない死んだ目をした子供が目に入った…

 

 

(なんだ、迷子か……いやこれ俺だな…見た目は8歳くらいだし、背丈も兄貴より小さい…だが、顔とか今のまんまだな…とくに目つきの悪さとかほぼ変わってねぇ)

 

「…タイムスリップさせるとかじゃないよな?」

 

くそっ、また嫌なこと考えちまった……一度状況を見直そう。

 

今俺がいるのは間違いなく夢の世界だ…現に痛みを感じないし、ところどころ景色がぼやけている。

 

エンリたちはどうなったか…これは正直、考えても仕方がない…

 

このまま夢を見続けたらどうなる?…脳をよこせ…とか言っていたが…まさか……今この瞬間も俺は徐々にあいつに食われてるのか?

 

寄生型の魔物なんかも居るわけだし……あり得なくはない…むしろもっとえげつないことになっているかも知れない…Dなら尚更……とにかく脱出する手段を見つけなければ……

 

空もだんだんと血のように赤くなっていっている…覚えている限り、あの日の空はここまで薄気味悪くはなかった……タイムリミットが近い…と見るべきだな。

 

「……急ごう」

 

不安と恐怖を抱きながら真っ赤に染まった夢の世界を探索した。

 

 

「まず、一つ目はここか……近くで見るとロープっていうより血管のように見えるな」

 

先ほど見かけたロープのような物を無理やり掴んで引っ張ってみると簡単に千切れてしまった。

 

千切れた箇所からは鮮血が飛び散り、俺の顔が真っ赤になった。

 

「うげっ!?…くそっ、なんで血が……目の前がうまく見えん…」

 

顔を腕で拭うと、ようやく変化に気づいた…この夢の世界は先ほどまで億劫になるほどの快晴だった…()()()()()()()()()()()()()()()()()…ならこの空はなんだ?

 

「………月にしては随分と禍々しいな…」

 

空に浮かぶ月には怪物を写し出している……こちらを見下ろし嘲る姿に身体が震え思考が鈍る。

 

 

 

 

 

 

 

真夜中、と呼ぶには余りも明るすぎる……今までいなかった住民も、あの繝ェ繝シ繝を切り落とした瞬間ポツリポツリと影のようなモヤの姿で現れ始めたのだ。

 

「……次は、あそこか…」

 

だが、そんなことは一度置いておこう…目的を失わないように早くここから逃げなければ。

 

……鉛のような重さになった脚を引き摺りながら、探索を続けた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……二つ目」

 

脚を引き摺りながら探索し、目的の縄を見つけた。

 

場所は、俺の家の中庭……洗濯物が干された物干し竿の横に、薄赤色のロープが垂れ下がっている……

 

 

「……ッ」

 

縄に触れると、手から力が抜け肩に妙な重さが掛かる…高熱を出した時のような怠さによく似ている。

 

「…はぁ…はぁ……くそっ…早く、千切れろ!!」

 

ロープを両手で持ち、体重を乗せて前方に倒れ込んだ…

 

「…ぐえっ…!……体が…重くて起き上がれねぇ…」

 

顎だけで頭を支え見上げると、千切れた赤いロープから血のような液体が洗濯物や俺の体に付着し、庭を赤く染めていた。

 

「… 夢でよかった…現実なら、母ちゃんに殺される…」

 

「そうねぇ…服についた血って全然落ちないものねぇ…特に白い服とか本当に大変」

 

そんな能天気な調子の声が、部屋の中から聞こえてきた。

 

「……だ…れ?」

 

体が上手く動かない…まるで誰かに押さえつけられているかのように、体の自由が聞かない…

 

「私はエインス」

 

 

【挿絵表示】

 

 

声のする方に首だけをなんとか向かせると、真っ白な髪の女性がこちらに手を振っていた。

 

青空を彷彿とさせる服に身を包み、女神のような優しげな笑みを浮かべた彼女はゆっくりとこちらに歩いてくる。

 

その歩き姿がこの赤い世界には似つかわしくないほど美しく、そして恐ろしかった。

 

「……エインス・ミラン…貴方の…そうね、半身?というよりも先輩というか、なんで言えばいいのかしらね?」

「…えいんす…」

 

そのなまえ、どこかで…

 

「…随分、この世界に飲まれてきているわね……まぁ普通ならとっくに──!……いえ、これからだったみたいね」

 

「な…に…言って──!?」

 

 

 

 

ノウヲ──ヨコセ

 

 

 

「あ……あ…あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!??」

 

 

辺りが赤く染まっていく…知っている街並みが、帰るべき場所が、世界が緋く緋く染まっていく。

 

建物の壁は虫のように蠢き崩れ、辺りを歩く人の姿も徐々に膨れ上がり肉の怪物と成り果て、俺の身体に食らいついてきた。

 

 

「イ゛ダ゛い゛!イダイ゛痛イ゛!!!??た、助け──」

 

まるで、切れ味の悪い刃物で脳をかき混ぜられているかの様な、爪か何かに掻き出されるような不快感と激痛に襲われる…

 

 

「……落ち着いて。目を閉じて意識を集中しなさい…冷静に、壊れた側から直していきなさい…貴方の力を、【無限の魔人】の力を生かしなさい。」

 

少女が何か話しているが、痛みのせいで聞き取れない…伸ばした手は無常にも群がる肉の怪物に覆われる。

 

蠢く視界の中、痛みだけが体を蝕んでいく。

 

(イタイ、痛い痛い!!身体が動いてくれない……誰かッ!…誰…か…?)

 

……誰かって、誰だ?

 

また、エンリに助けてもらうのか?

ノインが助けてくれるのを待つのか?

エマに無茶をさせる気か?

 

俺はどれだけ足を引っ張るつもりだ。

 

これは俺の不注意で…不意を突かれてこんな痛みに襲われている…それを、また彼女たちに助けてもらうのか?

 

違うだろう。

 

…一度ぐらいは、俺だって…自分の力で窮地を脱しろ!!…学年次席の意地を見せろ…!諦めたら、何のために俺は今日まで生きてきた!

 

手の中にある棒に力を込めて、四肢に力を込めて立ち上がり、

 

「…う゛ご゛け゛ぇ゛!!」

 

まとわりついた化け物どもを投げ飛ばした。

 

「…俺を、舐めるな!!」

 

 手にした獲物を引き摺りながら、群がる肉塊の怪物どもを叩き潰す…ここが夢の世界だというのなら、思い通りに動けるはずだ。

 

エンリの様に力強く、アマリアさんの様に先を読み…活路を見いだせ、思考を止めるな。

 

俺はもう、守って貰うだけはごめんだ。

 

「全員まとめてかかってこい!十王学園学年次席、エーベル・アルフィーが相手をしてやる!」

 

 

 

 

 

 

 

〈エインス視点〉

 

 

 

 

──正直、感心した。

 

目の前の少年を……いやエーベル・アルフィーという青年を私は甘く見ていた。

 

私の力無しにこの怪奇の世界で正気を取り戻せした。それぐらいは予想できていた。だけど、精神を持っているとは思いもしなかった。

 

(というか…このD?だっけ?の作る精神世界、少なく見積もって、魔神クラスの力があるわね。人間には突破なんて無理と思って助けに来たけど……それを人間が精神力だけで突破したなんてね……現代の人間も凄いわねぇ)

 

己の過去を、自身の約束を朧げながら思い出したようだ。

 

槍は形状を変え、より殺傷力を高めた斧槍へと変化した…あれもいずれ、私が握る鎌に近づくでしょうね。

 

今の彼は完全な魔人、真っ赤な瞳に黒いオーラ、まだまだ小さくて未熟だし、所々に隙がある……だけど、だからこそこれからも強くなれる。

 

【無限の魔人】とは何か、何ができるか、どんな存在かを知ることができれば、あのサイボーグにも負けはしない。

 

 

本当に、私の後継に慣れちゃいそう…あと2、300年くらいあれば、魔界でもそこそこいけるかもね。

 

「ふぅ……ふぅッ!人の過去を…!荒らしやがって…!絶対に許さん!!」

 

向かってくる魔人の分身を槍で突き、払う。斧で裂き、上にかちあげ、地面に叩きつける。

 

一見圧倒してるようだけど、ここはあの魔人の領域…未だ不利なのは彼の方ね…

 

「エーベルくーん援護入る?」

「呑気か!?…あんた、エインスさん?だったよな…危ないから下がっててくれ……コイツは俺が…!?」

 

今度は、見上げるくらいの巨大な化け物を向かわせてる……幼い姿の彼には荷が重いわね。

 

本人も察しているのか、表情が引き攣り狭間でいる…頃合いね。

 

「──エーベルくん……貴方に今から魔法を教えるわ…その目で見て、自分のものにしてみなさい。」

「……は?」

 

大鎌を構え、目の前の木偶の坊に向ける。

 

彼が「危ない」なんて言い私を制止しようとしたが、どうやら彼は忘れているみたいね。

 

私が何者でその力の源が誰かを。

 

「大丈夫、見てて♪」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「──貴方見てるとね…大嫌いな奴を思い出すのよ…だから悪いんだけど、理不尽に、無慈悲に、貴方と貴方の世界を蹂躙して、破壊して、跡形もなく塵にするけど──先に喧嘩を打ったのはそっちなんだから……文句は無いわね!!!」

 

 

術式………高圧魔法装甲展開、ラストワード【 無限惨劇 】」

 

──突然だけど、私は魔界で七魔帝]に所属している。私はその中で最も弱い魔人と自負している。

 

再生力が、並外れて高いだけで、他のみんなに比べれば火力不足で決定打にかけるから…だから、手数で補うことにした。

 

「……へ?は?な、何が起こった?」

 

 

【挿絵表示】

 

 

ラストワード[ 無限惨劇 ]は一度に35回の斬撃を放つ技。こういった群れを払うのには打ってつけの技なのだが、加減を間違えた。

 

本体と思わしき吊られた魔人はこちらを見つめて固まってしまったし、さっきまで戦っていた彼も私を見て腰を抜かしてしまっている。

 

(やっちゃった)

 

──力にセーブをかけられているから今出せる全力で丁度いいかなって思ったけど……やり過ぎたわね。

 

 

「ハァ──念のため聞いておくわ、奥の手とか、切り札とか私に出してくれるのかしら?慣らしで貴方以外は殺しちゃったけど…まだやる?もう、打つ手もなさそうだし、彼を見逃してくれるなら、大人しく帰るわよ?」

 

吊られた魔人は、こちらを見つめて忌々しそうに唸っている。よほど彼の脳が食べたかったようだ──それとも、私がいるから食べたいのかしら?

 

 

「…エーベルくんにはこの技を覚えて帰って欲しかったのだけれど……ごめんね、レベル差忘れてたわ」

 

返り血に濡れた彼は、少し怯えた様子でこちらを見ている…刺激が強すぎたかも…と思ったが、彼は強いから大丈夫でしょ。

 

ふと、立ちくらみが…いいえ、この世界が激しく揺れ始めた。どうやらD-004

は撤退するようだ。

 

よほど早く私たちを追い出したいらしい。

 

「……あ、頭が…っ!」

「ああ、そうだ──D-004…彼の姿を元に戻しなさい…そしたら命だけは見逃してあげる…悪く無い条件でしょ?貴方の依頼も目的も私にとってはどうでもいいことだし」

 

こちらを何も言わす見つめて、低く唸りながら姿を消した。

彼に視線を戻すが、そこに彼の姿はなかった。

どうやら、夢から覚めることができたらしい。

 

「…随分と厄介な力を持った奴を生み出したものね、ロベリアも……魔獣作りで満足してればよかったのに……本物の魔人……それも私の力の一端を再現しようだなんて……どうしましょうか?」

 

──私が手を貸すのは今回だけ。本当は彼が眠っている間に精神世界でおしゃべりを……なんて考えていたんだけどねぇ

 

「──オリバーだけは、私が出しゃばるわけには行かないわね……頑張りなさい、四人とも。先輩として、応援してるわ。」

 

願わくば、ムフフな展開も楽しみにしながら、貴方たちのこと見届けさせて貰うわね……助けてあげたのだし、それくらいなら良いわよね?

 

 

 

 

 

〈エーベル視点〉

 

 

 

 

 

「……っは!?こ、ここは……さっきの魔人は──」

「エーベル!良かった、本当に良かった!」

 

起きて早々、全裸の美少女に抱きつかれた。心臓が止まるかと思った。

 

「やめろノイン!起きて早々俺を犯罪者にする気か!?」

「あっ、ごめん……何かされなかった?さっきのアイツ、D-004はこの施設にいるDの中で1番恐ろしい奴だから。」

 

「D-004……さっきの魔人か…!奴はどこに!」

「一瞬来て、すぐにいなくなっちゃった…けど、アイツが脱走してるのはヤバいかも…特にエマは人間だし」

 

「えっ私!?」

 

すぐに、いなくなった?……少なからず夢の中では何十時間と経っていたはずだ…

 

「俺は、どれくらい寝てた?」

「寝てたって……エーベルくん大丈夫?数秒ぼーっとしてたくらいだったけど……」

 

(あの世界とこっちだと時差が酷いのか?なら俺があのまま食われていたら、どうなっていた?というか夢を見ていたのは俺だけだったのか?)

 

急に色々なことを思い出したせいか、頭がガンガンするな。

 

「(ちょんちょん)」(エーベル?顔色悪いけど)

「あ、ああ、大丈夫だ…ただその……忘れていたことを思い出したというか…過去の自分の過ちを思い出したというか…俺、地上に出たら打首かも」

 

「!?」(何したの!?)

「別に私への侮辱の数々には目を瞑るわよ…私もそこまで恩知らずじゃな「ああ、お前じゃないから気にするな」なんですって!?」

 

だって、エマだし…凄いよなコイツ…公爵家と大貴族という差もあるのだろうが……幼い頃のアマリアさんの方が遥かに恐ろしかった。

 

というか今のお淑やかで、清楚な優しいアマリアさんは一体誰だ?影武者?いやでもあの人と話してる時は裏があるなんて思えないし…

 

 なんかの本で読んだな…出会いは人を変えるって……つまり、あの人にも変わるきっかけを与えた友人か、恋人がいるのかもな。

 

「……ねぇねぇエーベル」

「んあ?どうしたノイン」

「なんかよくわからないんだけど、背中に気をつけてね?」

 

本当になんで?

 

“── 緊急連絡 ── ── 緊急連絡 ──管内にて複数のDの脱走を確認、スタッフ各位は直ちにマニュアル通りの対応を行ってください ──繰り返します”’

 

けたたましい音と共にそんな放送がなった。

 

「……バレたか?」

「それもある……けど、それよりももっとまずい事になった」

 

ノインのほうを見ると、僅かに震えている。

「この施設に、未知のDが潜入したみたいで、片っ端からいろんなDを逃してる……!その中には──」

 

雄叫びが、聞こえてきた。

まだ、足音は聞こえてこない。だが、確実に……

 

「な、なんてことしやがる……!!」

「ま、まさかまた?」

 

誰か何か言うこともなく、俺たちはその場から全力で走った。

奴の前ではそんなこと無駄と知りながらも…それでも、走った。

 

地響きが聞える聞こえ、壁が、床が、天井が崩れる音が聞こえてくる。

 

アァアアアアアアアアアッ!!!

 

 

奴が、D-033は狙った獲物は何があっても逃さない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




と、言うわけで、やっと更新ですよ!本当に待たせてごめんなさい!メンブレしてゲームやってたらこんなに時間が経ってしまいましたね…待っていてくださった方々、本当にすみませんでした。

本当に、私の小説を待ってくださりありがとうございます。
更新は不定期のままでしょうが、必ず完結はさせて見せます。


話変わりますけど、ショタのまま戦うエーベルくん描こうとして画力不足で描けなかったのだけが心残りです。
子供が戦う姿って難しくて…鳥山明先生を筆頭にかっこいい子供を描ける方々を心から尊敬します。

俺も、精進します。


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