奈落2 ifストーリー もしも彼の兄が失踪したら 作:アズカバー
【エーベル視点】
エマの元に向かう最中、今わかっている範囲で考えをまとめていく……
「ふぅ……よし、まず一つここは何の建物か…わからん…が、おそらく魔獣を飼育している悪趣味な奴がいるに違いない……もしくは、作ってるやつとか?……まぁいいや保留!次に…この建物の技術力の高さと資金はどこから来ているのか…….一番考えやすいのが王族か貴族……だよなぁ……これから俺、そんな上流階級とズブズブな可能性のあるヤバい研究所にいるってこと?帰りてぇ……」
絶対殺される……そもそも俺が何かできるなら国の騎士がどうにかしているだろうし……あんだけ目立つ穴から辿り着けるのに放置しているということは……
「……吐き気してきた……
この国に住んで騎士の強さを疑う奴はいないだろう…何せ魔獣退治と悪党逮捕が本業のエリート様の集まりだからな……その人たちが何もできないのなら、ただの学生にはなにもできない。
「……いつの間にか上についてたのか……エマのやつちゃんと待ってるといいが……」
まぁこの階層はあらかた調べて危険がないのは把握済みだし、どうにでもなるか。
「…ここだな…エマ、戻ったぞ」
声をかけて部屋に入ると、体育座りをしたまま寝ているエマがいた。
「…zzz…」
「……呑気か!?」
こいつ、女じゃなかったら鉄パイプでぶん殴ってたぞ!?人が必死に出口探しに行く中寝てやがって……図太いなんてもんじゃねぇ……俺のハンカチを何故か抱きしめて寝てるし……アレか?寝る時何か手に持ってたり、抱きしめたりしないと寝れないタイプかこいつ?
「…ん……んん…んぁ?……エーベル君?」
「…………人が苦労している時に随分と余裕そうだな…この腹黒め…勝手に手当したところ取ってるし……」
「…それは、ごめん。痛みが引いたから取っちゃった……汚れても悪いし……手に持ってたら…その、汚れないかなって…」
「…それと眠ってたことはイコールにはならないぞ……その様子からして、足は問題なさそうだな…走れるか?」
「うん、何とか…ところで、走るって?」
「道中、なにが出てきてもおかしくないからな…お前、割とトラブルを引き寄せる体質だし…最悪、お前をおぶって走らざるを得ない状況が来るかもしれん…そんなの互いにごめんだろ?」
……そういうとエマは「うげぇ…」とおよそ貴族の淑女とは思えない顔をしている。
「…確かにゴメンだわ…というか、道中にもあの化け物どもいたんだね…最悪…」
「…少なからず蜘蛛に限っては強化ガラスに閉じ込められてたから無害だ…ここまで、それ以外それらしい怪物も見てないし…大丈夫だろう」
あまり楽観的なことも言えないが、下手に不安にさせないためにも気休めをかけておこう。
「それより、足は?まだ痛むならもう少ししてから行くか?」
「…大丈夫…エーベル君の手当のおかげでしばらくはどうにかなるから…思えば、沢山助けてもらったね…ありがとう」(……デート一回じゃ返しきれないかもね……)
「……お前、どうした?……辺なもんでも食ったか?素直すぎて気持ち悪いぞ……」
「ひどっ!?私だって罪悪感の一つくらい湧くわよ!エーベルサイテー!!」
「わかった…悪かったから…非常口らしい扉を見つけたから、そこまで行くぞ」
「本当に!エーベルのくせにやるじゃん!」
「一言余計だ…なんか出てくる前に早く行くぞ」
「…うん…エーベル君、いざとなったら囮になって…」
「….悪いが相手によって変わる…化け物なら無理だ…つか、普通に死ぬし…稼げて三秒ってとこだな」
「…頼りない…」
そうして、エマを連れて昇降機に乗り例の扉をめざした。
【エマ視点】
「これ、昇降機?すっごーい!初めて乗った!」
学校とか家にもあればいいのに…階段登るの結構疲れるし、学校側も設置してくれたらいいのに。
「…貴族のお前も初めてなのか…」
「えっ…うん…」
エーベルの顔に深く影がかかり、手が震えている。
「…エーベルくん?」
「…エマ、昇降機やこれだけの施設を作れる存在に心当たりはあるか?……組織でも、家族でもいい……そんなかに"ロベリア"って名前は…居たか?」
私の目を見て聞いてくる彼の顔は……怯えていた…
「…私が知る限りいなかったと思うけど…というかまたその話?」
そう返すと彼の表情は、ほんの少しだが柔らかくなり、ゆっくり息を吐いてから一言「…そうか」とか細い声でそう呟いた。
「…何かあるの?ただのお花の名前にじゃないの?」
「…兄貴から言わてな…【ロベリアから逃げて】って…それがどんなもので、どうすれば逃げれるか教えもせずに…どっか行っちまってな」
「…そうなんだ…」
エーベル君のお兄さん…か…どんな姿してるか想像できないな…気になる…
「お兄さんってイケメン?」
「お前下心隠す気ないのか…ある意味スゲェよ……ここから生きて出たら兄貴の写真見せてやるよ。」
「えっ本当!」
エーベルのくせに話早〜い!エーベル自身容姿は整ってる方だし、お兄さんの方も期待できるかも!
「お前、全部顔に出てるからな……お前が思ってるような容姿はしていない……多分兄貴はお前とは相容れないタイプだ」
「……また人の心読んで……変態…」
…今更だけど、エーベルってブラコンなのかな……でも元々世話焼きな性格っぽいし…よくわかんない…
エーベル君みたいに心読めたら良いのに…
【エーベル視点】
エマについてもう一つ聞いておきたいことを思い出した。
「…すまん…もう一つお前に聞きたいんだが、お前の噂で」
「私の噂?」
「ああ…一年前の──」
「エーベル君待って!!」
エマが悲鳴にも似た声で静止してきた。
「…ご…ごめん…その話は…ちょっと………」
地雷だったか…やらかしたな。これ以上の詮索はエマを傷つけるだけだな……
「……すまん、軽率だった……もう聞かない。」
「……えっ?…気にならないの?」
「気にならないと言えば嘘になるが……誰にだって話したくないことや触れてほしくないことぐらいあるだろ」
「俺はその一線を越えるつもりはない…そんだけだ」
だから聞かない…さっきのこいつの顔は、トラウマを抱える人間の顔だった…心の傷は医学ではどうしようもない…下手に触れば悪化させ、心を殺してしまうことになる……
……俺はそれをよく知っている。
「……」
エマはこちらを見つめ、ぼーっとしている……
「ほら、降りるぞ…この先、嫌な予感がするからな……」
「……えっ!?あっ……うん…」
【エマ視点】
昇降機から出るとこの階の異様な雰囲気に体が震え、足がすくんでしまう。
「ここ…なんか空気が重い…怖い…」
「…慎重に進むぞ…ここは明らかに他と違う…」
彼はそういうと私の前に立って先導する。自分だって怖いくせに…
「エーベル君、何か出たら守ってね?」
「…悪い…断言はできない…なぜなら怪物が出た場合、俺にできることは何もない……ちなみに代わりに喰われてやることも無理だ…死ぬのは怖い。」
「やっぱ頼りない……そういう時は『俺が守ってやる』とか「ここは俺に任せて先に行け!」くらい言うものじゃないの?」
「それいうこと言う奴って早死すんだよなぁ」
「……確かに……」
とりあえず、エーベル君の見つけた非常口に行こう…そうしたら地上が見えるはず…
カンッ!カンッ!カンッ!
「「……?」」
何かの金属音?どこから……
ガシャンッ!と天井の金網が落ちてきた。
「なに……?」
「……!?(何か、ヤバい!?)……エマ!走るぞ!」
「えっ…わぁっ!」
エーベルが急に腕を掴み、引き寄せられる。
「ちょっと急に…」
アァァァアアアアアアア!!!
「ヒッ!」「なんつう声してやがる…!?」
この世のものと思えない悍ましい叫び声。その声と共に先ほどまで私がいたところに真っ赤な大蜘蛛が着地し、クレーターができる。
その巨大は5mはあると思う…その巨大が、こちらに振り返りる……体のあちこちに赤い目玉がついており、その全てがこちらを見つめている…肉塊で作られた蜘蛛のような化け物…
アァアアアアアアアアアッ!!!
「いやぁ!!こっち来た!?」
「振り返るな!走れ!」
彼の声で正気に戻り、足を必死に動かす。
そして、命懸けの鬼ごっこが始まった。
─ ─D-033から逃走せよ ─ ─
「はっ…はっ…ハァッ…!」
「あと少しだ、走れ!」
アアアアアアアアアッ!!!
キッツイ!!あいつ足早いし、たまに高速移動してくるし!怖い!怖い!怖い!アイツからなんか鉄臭い匂いするし絶対喰われる!殺される!?
カチッ
ガシャンッ!
アアアアアアアアアアッ!!
エーベルがボタンを押すと扉が閉まり、アイツが来るのを塞ぐ……が、少しずつ凹んでいき、長くは持たないことも分かる。
「よし、時間稼ぎはできるな…!エマっ!」
「…ハァ…ハァ…ハァ…なに?早く逃げないと…」
「そっちのドアを押してくれ!同時じゃないと開かないんだ!」
「わ、わかった!」
言われたとおりにボタンの前に行く。
「「せ〜の!」」
カチッ!
ガシャン!
「おし、開いた!乗り込め!」
バコンッ!!
アアアアアアアアアア!!!
昇降機に乗り込むと同時にアイツが扉を破壊して入ってくる…が、その前に扉が締まり、昇降機は下に下がっていった。
本当ならエンリ登場までやりたかった……でもそれやると1万字越えたからから流石に自主規制……でもって今回文字数が前回の半分もなくてビビってる。
そんなわけで第三話でした。
次回、奈落2if 第四話:魔神降臨
ではまた