ジルとアリス──海岸で出会った銀髪の美少女に、剣士の少年は恋をする。   作:ぱふすた

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第14話 一回戦・第二試合 エヴラール vs ケーキ

 試合開始の鐘が鳴ると同時にケーキはダッシュしつつ右手を素早く振り抜き、フォーク三本をエヴラールの顔面目掛けて投擲した。

 

 しかしその動きはエヴラールは予想の範囲内。

 ケーキを見据えたまま淀み無くしゃがんで躱すと、すぐに立ち上がろうとする。

 

 が、そこにさらにフォークが一本飛んでくる。左手で持っていた分である。

 

 エヴラールは素早く槍を左手一本に持ち替え、右腕でフォークを受けた。 

 結果はエヴラールの右腕の皮膚に多少の痛みを与えるだけに終わる。 

 

 フォークを投げつつ走っていたケーキは間髪入れずに姿勢の低いエヴラールの頭を狙った右足の蹴りをダッシュの勢いのまま繰り出そうとする。

 しかしエヴラールは冷静に左手一本で槍を突き出した。

 左手は利き腕でないこともあり、ダッシュしていたケーキは何とか横っ飛びで回避に成功するが姿勢を大きく崩す。

 

 好機。 

 ケーキの初撃で木製フォークの殺傷能力の無さを確信したのもありエヴラールは即座に攻めにかかる。

 ケーキはすぐに新しいフォークを取り出そうとするが、そこへ次は俺の番と言わんばかりに両手で握られた槍の鋭い突き。

 ケーキはメイド服と白いミディアムボブの髪をブワッとなびかせて横に躱す。

 だがエヴラールの槍はそのまま続けざまに何回も突き出された。

 

 槍の先端が丸いことなど関係なく、一つ一つが鋭く胴体を貫くかのような突き。

 一つでも急所に貰えば、審判が勝利条件の一つである実戦ならケリがついた状況と即座に判断し、試合はエヴラールの勝利で終わるだろう。

 

 何とか回避した槍の先端がメイド服のスカートを大きく跳ねさせ、次の突きが胴体にかすった。

 

「っっ……!!」

 

 熊型の魔物との戦いの際、ケーキはキャンディと魔物に注意を向けていたためエヴラールの戦いをほとんど見ていなかった。

 その強さはケーキの予想を超えていた。

 

 ケーキはたまらず後ろに跳び、雑に取り出した何本ものフォークの散弾を投擲する。

 

 エヴラールは瞬時に姿勢を低く半身にし、さらに両腕で頭と胴体を守る。

 結果、木製フォークは彼の腕や手に僅かな痛みを与えるだけに終わる。

 フォークはリング上にカラカラと音を立てて沈んだ。 

 

「……チッ」

 

 ケーキは思わず舌打ちした。

 魔物達との戦いでは見せなかった得意の蹴り技も、もはや繰り出せる隙がない。

 

 

「さすがエヴラールだな、やっぱこの町で一番の槍使いだ」 

「あー。俺は拮抗すると思ってたんだけどな」

「いやこうなるだろ。魔物に投げてたフォークは金属製で、しかも戦闘用に鋭く尖らせてたんだろ?」

「こりゃエヴラールの勝ちだな」

 

 客席で試合結果を察したような声があがる。

 

 所詮は木製フォーク。

 しかも貸し出し用の戦闘用木製フォークなどあるはずも無く、それは酒場から貸し出されたものだった。 

 

 

「ちょっとケーキ!! 何やってんの!!」

「……貴様など眼中に無い、だっけか? もう一度言ってみな」

「…………はぁ……」 

 

 ケーキは残念そうにため息をついた。

 

 

 

「次の試合までは見せたく無かったが、仕方ない」

「あ?」

 

 

 彼女がボソッと呟いた後、ケーキの全身の肌という肌から栗色の何かが発生し、ケーキを包み込んでいく。

 あっという間にケーキの全身は見えなくなった。

 

 それはモンブランケーキのように見えた。

 ケーキの全身が見えなくなってもなお、モンブランのような何かは大きくなるのを止めない。

 

 ふと、それがエヴラールに向かって人が歩く速度で移動し始めた。

 この時点で高さ4メートル以上の巨大な物体と化していた。

 

 なおもどんどん巨大化しつつ、エヴラールに迫ってくる。 

 エヴラールは動揺して後ずさった。

 

「な、なんだこれは」

 

 そしてリングの三分の一を埋めるような大きさになった頃。

 

 

 それは突如エヴラールに襲い掛かった。

 

 

「っっ!!」 

 

 エヴラールは槍を突き出すが、大きな泥沼に思いっ切り木の棒を突き刺すような感触を得ただけに終わる。

 

 リング上にベチャッという音が響く。

 巨大モンブランケーキに覆い隠され、エヴラールの姿は客席から見えなくなった。

 

「お、おい。大丈夫か? どうなった」

「なんだこりゃ。魔物討伐の時は手抜いてたな?」

「……終わったわね」

 

 キャンディは決着を確信した。

 

 スウー……と潰れたモンブランケーキが縮小していく。

 やがてリングのあちこちに残ったモンブランケーキの欠片を除き、全てがケーキの肌に再び吸収された。

 

 リング上には仰向けに倒されたエヴラールと、文字通りエヴラールの目の前でフォークを寸止めしているケーキ。

 エヴラールの右腕は掴まれ左腕は踏まれ、目の前にフォークの先端。

 

 

「……勝者! ケーキ選手!!」

 

 審判は大きな声で決着を宣言した。

 

 

「……眼中に無いというのは撤回する。貴様は目障りな蝿だった」

 

 

 ケーキはそう吐き捨てると、スッとエヴラールから離れた。

 

 そしてそのまま何事も無かったかのようにはスタスタと客席のキャンディの所まで戻って行く。

 

 心なしか、周囲の観客が少し引いているように見える。

 

 ケーキはストンとキャンディの隣に座る。

 

「ケーキさぁ、魔物ぶち殺しに行った時はなんでアレやらなかったの?」

「害獣に食べさせるケーキはありませんので」

 

 ケーキはエヴラールに対する鋭い言葉遣いがウソのようにクールで淡々とした口調に戻っていた。

 

 ◆

 

 第三試合の勝者はフェルディナンド。

 オッズがビリから二番目の選手相手に順当に勝利。

 

 そして第四試合。

 キャンディ対ロドリグ。

 

 キャンディは素手だった。

 十代後半の若い短剣使い、ロドリグは試合開始直後に突進。

 キャンディがロドリグを舐めていたこともあり短剣使いの土俵、近距離戦に持ち込むことに成功する。

 

 

 ──そんなことでは埋まらない、圧倒的実力差。

 

 短剣を胸元めがけて突き刺したはずのロドリグはキャンディを見失う。

 すると急にお腹の服を引っ張られる感覚を感じ、次の瞬間にはロドリグは宙を舞っていた。

 

 

 こうしてキャンディはロドリグをリングの外に投げ飛ばし、能力も見せずに圧勝した。

 

 とはいえジルはケーキの能力を見たため、キャンディの能力も大体は想像がついていた。

 そしてキャンディの次の対戦相手、フェルディナンドはキャンディが魔物達と戦う姿を覚えていた。

 

 

 女性スタッフがアナウンスする。

 

「これにて一回戦は全て終了となりまーす! 準決勝は15分後に開始となりますので、それまでにお手洗い等お済ませくださーい!」

 

 

 準決勝。 

 その組み合わせはジル対ケーキ、フェルディナンド対キャンディ。

 

 ◆

 

「さて……僕があれをされたらどうするかな……」

 

 ジルは思案する。

 ケーキはレベル3とはいえ魔族。魔力量はオーク等の魔物と同等でも、その使い方は格が違っていた。 

 

 

 

「ケーキちゃん? どうしたの?」

 

 アリスの台詞にハッと顔を上げると、いつの間にかケーキが近くに来て立っていた。

 

 ケーキはじっと見定めるような視線をジルに向けている。白いつぶつぶ模様が入った赤い瞳。

 ジルがその瞳を見返すとケーキはニコッとビジネススマイルを作った。

 

 

「ジルさん。次の対戦相手のケーキです。少しお話しませんか」

 

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