ジルとアリス──海岸で出会った銀髪の美少女に、剣士の少年は恋をする。   作:ぱふすた

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第16話 準決勝・第一試合 ジル vs ケーキ

 試合開始まで残り三十秒を切った。

 

 

 ケーキは今の時点で既に白い生クリームに包まれた巨大ホールケーキを作り出し、その中に隠れていて姿は見えなくなっていた。

 

「うわぁケーキちゃん最初っからマジだ。もう隠す必要ないしな」

「ジルはどうすんのかねアレ」

「ケーキ! あなたは決勝であたしに負ける仕事があるのよ!! 勝ちなさい!!」

「ジル、がんばれ……!」

 

 アリスはぎゅっと両手を握り合わせて祈る。 

 ジルは巨大なホットケーキと相対し、怯まず木剣を構える。

 

 準決勝以降は審判からの事前の説明は省略される。

 やがてカウントダウンが始まる。

 

「試合開始までじゅーう! きゅーう! はーち!」

 

 試合開始のカウントダウンが始まっても巨大ホールケーキはピクリとも動かない。

 ジルは深呼吸をした。

 

「にーい! いーち! ファイトー!!」

 

 

 試合開始と同時に巨大ホールケーキがズズズと地面を這いずるように動き出し、ジルに迫る。

 それに対し、ジルは左腕で目にクリームが入らないように守りつつ。

 

 

 歩いて、ホールケーキの中に突入した。

 

 

 すぐにジルの姿が見えなくなる。

 もはやジルとケーキ両選手ともに客席から視認することが出来ない。

 

「自分から入るのか!?」

「中はどうなってる」

 

 ◆

 

 

 ジルは少し口に入った甘いクリームとケーキ生地の味を感じていた。戦闘用だからなのかその甘さに繊細さは無く安っぽい。

 太陽の光は届かず、もはや視界は真っ暗である。

 周囲のケーキ生地がうねるようにジルの肌を撫でる。

 

 外見は巨大ホールケーキだが中の生地の密度はさすがに薄く、幸いにもなんとか呼吸ができた。

 

 

 ジルは歩くのを止め、目を瞑る。

 

「………………」

 

 ただ、その時を待った。

 

 

 

 ふと、周囲の生地の感触に違和感。

 

 

 ──左後ろ。

 

 素早く左後ろに向けて横の回転斬り。

 明らかにケーキ生地ではない服の感触があった。だが掠った程度。

 

 ズズズとケーキ生地が横回転するように動き始める。

 ケーキはジルが生地の動きの違和感を感じ取ったことを察し、その違和感を消しにかかったのだ。

 

 ジルは相変わらず目を開けない。

 

 

 真後ろ。ほんの僅かな違和感。

 

 

 ジルは素早く振り向き、今度は姿勢が低くなる程に大きく一步踏み出しての横薙ぎ。

 

 

「なっ……!?」

 

 今度は完全にケーキの胴体を捉えた。

 

 ケーキはホールケーキの外に軽く吹き飛ばされ、左手で木剣に打たれた腰を抑える。

 ケーキ生地越しでかつ木剣のため、大きなダメージにはならなかったようだ。

 とはいえその表情に一切余裕はない。

 

「ち……ッ」

「お!? ケーキちゃんが出て来たぞ!」

「腰を押さえてる! ジルの奴、やりやがったな!」 

 

 

 ケーキは右手を前にかざすと、巨大ホールケーキは吸い込まれるようにケーキの右手に吸収されていく。

 やがてホールケーキは消え去り、ジルとケーキは相対した。

 

「レベル3の魔族にしては能力の規模が大きすぎると思ったんです。僕の後出しの攻撃に遅れを取るってことはかなり無理してたでしょ」

「……ふん。ならば正面から貴様を叩き潰すだけだ」

 

 

 ケーキは両手で木製フォークを一本ずつ取り出し、鋭い眼光を向ける。

 ジルは再び深呼吸をして剣を構え直した。

 

 睨み合いは長くは続かない。 

 両者が同時に突進する。

 

 ケーキは走りつつ右手のフォークをジルの顔面目掛けて投擲。

 ジルは剣の腹で斜めに受けて難なく弾き飛ばす。

 

(……普通の動体視力ではない。僅かに見える白い魔力。やはり強化されているな)

 

 ケーキがジルにかけられた強化を確信する中、ジルはケーキの左肩を狙って剣を打ち下ろす。

 ケーキは左手のフォークでは受けられないと判断。大きく右に飛ぶ。すかさずジルは迫撃しようとするが、そこへ左手のフォークの投擲。

 

 腕で多少の痛みと引き換えに防げば良かったのだが、ジルは咄嗟に真正面から剣の腹で受けてしまう。

 これにより接近の隙を与える。

 

 ケーキが素早く接近。ジルは剣を内から外へ横薙ぎするが体を左横に低く傾けられて躱され、その回避の動きのままに頭を狙った強烈な右脚のキックが飛んでくる。

 ジルは左腕で受ける。腕にビリビリと衝撃と痛みが走る。

 その姿勢のままケーキがふと、左手の平を下からジルの顔面に向けた。

 

 するとその手の平から、なんの前兆も無しにいちご無しのショートケーキが生まれて飛んでくる。

 ケーキの魔族の奥の手の一つだ。

 予想外の攻撃にジルは回避しきれず顔面左半分にショートケーキがベチャッと当たり、生クリームで左目が塞がる。

 

 これを好機と見たケーキは攻めかかる。視界が塞がったジルの左側に回り込みつつ、連続した蹴り技。

 

「つっっ!!」

 

 頭は守っているが体に何発も蹴りを食らい、痛みとダメージが蓄積する。

 片目のためうまく距離感が測れない。

 

 やがてグラッとジルの姿勢が崩れた。

 それを見たケーキは右手でフォークを取り出しつつ素早く接近。決めにかかる。

 

 

 しかしそれはジルの釣りの動きだった。ジルの右目が鋭くケーキの動きを捉える。

 ジルは姿勢を崩すのをやめ、突如踏み出しケーキに接近。

 

「!?」

 

 ケーキもジルに踏み出していたことから急速に距離が縮まり、ケーキは対応しきれなかった。

 

 

 ケーキのフォークを持った右手首はジルの左手に掴まれ、押し倒される。

 すぐさま左手を動かそうとするも右脚で押さえつけられ、万事休す。

 

 ジルは木剣をケーキの目元に当てた。

 

「クソッ……」

「勝者! ジル選手!!」

 

 

 ワアアと歓声が上がった。

 

「あーー!!! 信じらんない!! もう優勝賞品のショートケーキ1個もあげないから!!!」

「ジルーーっ!!♡♡ やだっテンション上がっちゃうっっ!!」

 

 審判が水分補給のためリング外に降りる。

 ジルは木剣を地面に置き、右手を差し出す。

 

「ケーキさん、すごく強かったです。魔刀の強化の残渣が無かったら負けていたかもしれません」

「……違う。能力は見切られ、最後の貴様の動きに私はまんまと釣られた。たとえ強化が無くても結果は変わらなかっただろう。完敗だ」

 

 

 ケーキは淡々と語りつつフォークを手離し、その右手でジルの手を取った。

 

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