ジルとアリス──海岸で出会った銀髪の美少女に、剣士の少年は恋をする。   作:ぱふすた

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第17話 準決勝・第二試合 フェルディナンド vs キャンディ

「ほんとありえない!! 最低! ばかっ! あほっ!」

「申し訳ありません」

 

 ジルに敗北して客席に戻ったケーキはキャンディに口汚く罵倒されていた。

 ケーキは謝罪しつつ、淡々と言葉を続ける。

 

「ただ、ジル選手の強化についての詳細は把握しました」 

「続いて準決勝第二試合、フェルディナンド選手対キャンディ選手! リング上にお越しください!」

 

 ケーキが説明を続けようとすると、女性スタッフの声が闘技場に響く。

 

「ん、試合終わったら聞くわ!」

「承知致しました。……勝ちますよね? フェルディナンド選手はかなりの使い手のようですが」

「当然よ!! おやつに美味しいケーキ作って待ってなさい!」

「……はい。行ってらっしゃいませ」

 

 頼りがいのあるキャンディの言葉と表情に、ケーキは思わず表情を変える。

 

 それはジルに見せたビジネススマイルとは明らかに違う、柔らかい笑みだった。

 

 

 ◆

 

 試合開始前のリング上。

 

 

 木製ショートソードの双剣を持ち、さらに腰に六本のショートソードを携えているフェルディナンド。

 

 対するキャンディは相変わらず素手で、自信たっぷりの笑顔に腕まで組んでいる。服装もTシャツにショートデニムのままだ。

 

 

 三十代半ばの髭を蓄えたフェルディナンドは静かに話しかける。

 

「……魔物討伐の時のあの武器は使わないのか?」 

「え? 別にあなた相手じゃ必要ないでしょ?」

「……そうか」

 

 キャンディはきょとんと返答した。

 そのあまりに舐め腐った返答に対するフェルディナンドの反応は静かなものだったが、その眼光は鋭くなる。

 

 町一番の冒険者と言われている彼のプライドが刺激され、キャンディに怒気が向けられた。

 キャンディが生まれて13年、返り討ちにしてきた野盗等から恐怖の視線を向けられた事は数あれど、これほど明確な怒りを向けられたことはあまり無い。

 

 

「相変わらず素手かよ、流石に舐め過ぎじゃね?」

「フェルディナンドって、あの熊みたいな魔物相手に割とやり合えてたよな?」

「うーん、レベル4っていうのはあの魔物どもと一緒なんだが……ケーキちゃんを見るに魔族って同じレベルの魔物より強いよなぁ」

「試合開始まで、じゅーう! きゅーう!」

 

 

 露骨な怒りを向けられたキャンディは笑みを崩し、何か疑問が浮かんだような表情をした。

 

「……そう、これ……なんか覚えあるのよね……ずっと前にも似たような感情を向けられたような……」

 

 思い出せそうで思い出せない感じのキャンディはうーんと悩む表情をする。

 とても自身に怒気を向ける相手との戦闘前とは思えない。

 それを見たフェルディナンドは額に血管が浮き出ていた。

 

「……殺すッ」

「にーい! いーち! ファイトー!!」

 

 当然、試合で殺しなど厳禁なのだが思わず口走っていた。

 試合開始の鐘と同時にフェルディナンドは突撃する。

 キャンディは動かず微妙な表情のままだ。

 

 フェルディナンドはその舐めた表情を崩すため、挨拶代わりに疾走の勢いのままの右手のショートソードの投擲。

 

「……ま、いいわ。とりあえず終わらせておやつだわっ」

 

 キャンディはおやつタイムに向けて張り切った表情に切り替わり、同時に左手をスッと前にかざす。

 すると突如と言っていい速さで小盾サイズの板チョコが数枚発生。どれも食用にはとても適さない分厚さである。

 投擲された木製ショートソードは1枚の板チョコに大きくヒビを入れるが、それだけだった。

 

「なんだあれ? 手にくっついてるっていうか、浮いてる?」

「ん、魔力で操ってる」

 

 ジルは驚くがアリスは冷静な反応。

 よく見ると板チョコとキャンディの左手が黄色い魔力のモヤで繋がっている。

 ケーキと違い、キャンディは生成物を宙に浮かせることも可能。

 キャンディはケーキよりワンランク上の魔族であるため、能力の格も一段階上であった。

 キャンディは何の魔力隠蔽もしていないため、客席の誰でも魔力のもやを見ることができた。

 

 

 フェルディナンドは投擲の後すぐさま別のショートソードを抜いて再び双剣装備になる。

 板チョコを左手に吸収したキャンディも歩いて接近した。地面の投擲された木剣を足で払い飛ばす。

 そうして何の躊躇いもなくフェルディナンドの剣の射程圏内に入った。

 

 フェルディナンドはギリッと歯を噛み締める。

 そしてこの町で防げる者はいないと言われている双剣の連撃が火を吹いた。

 

「ウオオオッッ!!!」

「うわっ、一つ一つが僕の振りかぶった全力みたいだ……!」

 

 縦、横、斜め。凄まじい双剣の連撃。

 フェルディナンドは珍しく咆哮をあげていた。

 

 ジルの両手で全力で振り抜くような斬撃の連続だったが、全て瞬時に生成される複数の分厚い板チョコの盾に防がれる。砕けた板チョコはすぐに再集結してまた盾になったりキャンディに吸収されたりした。

 

 しかし、魔物との戦いを見てキャンディの実力を把握していたフェルディナンド。防がれることは織り込み済み。

 ここで突然動きに変化をつける。

 

 まず双剣を同時に外から内に横薙ぎ。当然のように両腕から発生した板チョコの盾に防がれるが、ここで双剣を両方とも手放す。

 

「!」

 

 そのまま至近距離に接近。 

 初めて驚きの表情を見せたキャンディの細い両腕をフェルディナンドが掴むことに成功する。

 そして彼は大きく頭を振りかぶった。

 客席がにわかに盛り上がる。

 

「頭突きか!」

「いいぞ、冒険者のプライド見せろ!」

 

 そのまま勢いよく頭をキャンディの頭めがけて振り抜く。

 

 だが、フェルディナンドが頭に感じた感触はグニャッと柔らかかった。

 

「!? なんだありゃ!?」

「あれは……多分『だんご』っていうお菓子だぜ、フラーシアじゃ滅多に食べられないやつだ」 

 

 フェルディナンドとキャンディの頭の間に、人の頭サイズの白いお団子。キャンディが顔から瞬時に生成したものである。

 

「がはっ……!?」

 

 瞬間、フェルディナンドの腹に何かがめり込み、そのまま宙に吹き飛ばされる。

 キャンディの両太ももから勢いよく円柱のように突き出た棒状のお菓子。それはキャンディの太ももぐらいの太さがあった。

 次の瞬間にはそのお菓子もお団子もキャンディに吸収された。

 

「これ、ぽっきー? て言うの。異世界のお菓子らしいわよ、美味しかったわ」 

 

 当然異世界のお菓子はこんなに巨大ではない。

 

 みぞおちに一撃入れられ、受け身を取れずに地面に落ちたフェルディナンドは直ぐには立ち上がれない。

 すると地面に接している手や体全体に違和感。どろりと粘つく透明の液体。

 

「! しまっ……」

 

 気付いた時には既に時遅し。水飴はキャンディにより瞬時に硬化した。

 それはガタイのいい大人一人を封じ込められるものでは無かったが、キャンディの次の動きに対しフェルディナンドの次の動きを遅らせるには十分であった。

 

 キャンディはボールを蹴るようにフェルディナンドの頭を蹴飛ばす……いや、その寸前でピタッと足を止めた。

 

 キャンディはあえて後ろに跳ぶ。

 

 その行動に誰もが呆気に取られる中、キャンディはクルッと審判の方を向く。

 

「審判さーん、本気で蹴ったら首の骨折れたと思うけど試合続けるの? 次は遠慮しないわよ?」

「あ、いや、そこまで! 勝者! キャンディ選手!!」 

 

 審判すら呆気に取られて宣言が遅れてしまったようだった。

 フェルディナンドは悔しそうに下を向いた。

 

 

「はい終わりっ! おやつの時間だわっ!」

 

 

 ◆

 

 客席のジルは冷や汗を流していた。

 

 なんだこの子……

 フェルディナンドさんは町一番の冒険者なのに。

 僕が戦った魔族より力や体の硬さは無いにしても、手札の数はキャンディちゃんの方が上じゃないか? 

 フェルディナンドさんの連撃すら一撃も入らなかったのに、魔刀無しだと何もできる気がしない。

 

 

 キャンディの強さを目の当たりにしたジルは思わず頭を抱える。

 そもそもレベル4の魔物1体が本来、冒険者パーティ一組や二組での討伐クエストが組まれるような相手である。

 そして魔族のキャンディはレベル4の中でも上位の強さに見えた。

 

 

「……流石です、キャンディ様」

 

 そう言って微笑んだケーキは、戦闘中に生成したものと違って繊細な味のティラミスケーキを左手の平上に生成していた。

 キャンディのためのご褒美ケーキである。

 

「♪」

 

 キャンディはケーキが作り出したご褒美目当てに、瞳をキラキラさせて客席に戻っていったのだった。

 

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