ジルとアリス──海岸で出会った銀髪の美少女に、剣士の少年は恋をする。   作:ぱふすた

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第19話 ……は?

 決勝の試合開始まであと少し。

 

 チュロスを最初の一口目以外は普通に食べたジルとアリスは、そのあと楽しくお喋りを続けていた。

 

「でねっ、その時にジルの恥ずかしい思い出教えてくれたんだよっ」 

「ああもう母さんは本当に……」

「ふふっ。……ねえジル、もうすぐ決勝だね」

「……うん」

 

 結局、ジルは休憩時間をほとんどアリスとの時間に費やしてしまった。

 

 レベル5の魔族を退けたのは魔刀ありきの結果なのは分かっている。

 木剣でレベル4の魔族であるキャンディ相手は分が悪い。

 

 でも。

 

「アリスのおかげで体軽くなったよ、ありがとう」

「ううん。決勝も頑張って応援するからねっ、でも怪我だけは気をつけてね」

「うん! 行ってくる!」

 

 たまたま、優勝賞金や賞品が欲しい理由もあったけど、何よりアリスが見てくれている。

 

 それだけで、勝てる気がしない勝負に全力で挑むには十分だった。

 

 ◆

 

 おやつの時間も終わり、キャンディはケーキからジルの強化についての報告を受ける。

 

「なるほどね、剣も槍もまともに通らないレベル5を斬れる魔刀……その魔力なら納得だわ」

「はい。ただ、強化の残渣でしかなく今の強化は本当に微弱。戦った感じでは力や服の強化は無く、動体視力の強化だけがはっきりと分かりました」

「ん。……魔族にしか見えない魔力なのは謎だけどまあいいわ」

 

 さてっ、という掛け声が聞こえそうな感じにキャンディは立ち上がる。

 

「そろそろ行ってくるわ! ショートケーキセット楽しみ〜っ♪」

「行ってらっしゃいませ」

 

 キャンディは既に優勝した後のことを考えている。

 相変わらずの余裕をまるで隠さずに少女はリングに向かった。

 

 ◆

 

「さあ皆様! お待たせしました! ついに決勝、ジル選手対キャンディ選手です!」

「ジル! 冒険者の意地見せろ!!」

「一矢報いてあの余裕を崩してくれー!」

 

 女性スタッフの宣言に客席が一段と盛り上がる。

 どちらかというとジルを応援する声の方が多いようだ。

 

 リング上ではジルとキャンディが向かい合っている。

 キャンディは相変わらず素手だが、決勝ということで試合前の盛り上げイベントの為のマイクを渡されていた。ジルも同様である。

 

「さあ決勝ということで、まずはキャンディ選手! 決勝への意気込みをお願いします!」

「あたし優勝賞品のショートケーキセットだけが目的で参加したの! 早く食べたいからさっさと終わらせるわ!」

「おお! 相手のことは眼中に無しです! 対するジル選手! 意気込みをお願いします!」

「えっと、相手は強いですが勝つつもりで決勝も精一杯頑張ります」

「ありがとうございます! キャンディ選手が楽しみにしているオリジナルショートケーキセットについてはいかがですか?」 

 

 ジルの無難なコメント以外の言葉を引き出すため、スタッフが質問する。

 

「え? えーと、ショートケーキについては1個だけ貰って、その他は両親や客席で応援してくれている友達に全部あげようと思っています」

 

 

 

「……は?」

 

 

 

 キャンディのマイク越しの声。

 

 ケーキの魔族を除く誰もが今日初めて知る、怒気を孕んだ声色と表情だった。

 

 空気が一瞬でピリついたものに変わる。

 ケーキは客席であーあという感じで額を押さえた。

 

「あなた、なに、言ってんの? あのアストリの、今回だけの、オリジナルショートケーキセットなのよ?」

「え? だ、だからこそ両親や友達に食べて欲しいなって。僕は別にケーキセット目当てじゃないし……」

「………………」

 

 一応キャンディもケーキの魔族には1個だけあげるつもりではあったが、美味しいお菓子を食べるために生きていると言っても過言ではない彼女にとって、1個だけ貰って他は全部あげるとかケーキセット目当てじゃないなどというジルの発言はまったくもって理解不能、信仰する神への冒涜レベルの発言であった。

 

 

 キャンディは絶句したように押し黙る。

 

 進行担当の女性スタッフもあまりの空気の悪さを感じ取り口を挟めない。そのこめかみから一筋の冷や汗が流れた。

 

「……決めた」

 

 キャンディはそう呟くと、リング中央の審判の側にいる女性スタッフの方に歩き、マイクを差し出した。

 キャンディの有無を言わさぬ雰囲気にスタッフはマイクを受け取るしかない。

 

 キャンディはそのままクルッと元の試合開始位置に戻ると、右手をパーに広げて横にかざした。

 すると、その手の平から白い砂のようなものが湧き出るように発生した。恐らく砂糖であろうそれは砂同士で集まり凝縮していき、すぐにキャンディの身長より30センチほど長い白い棒になる。

 

 さらに、その棒の先から何かが渦巻くように生成されていく。

 

「あ、あれだ! 魔物討伐の時の!」

「え、あれって魔物の頭とか普通に叩き割ってたよな? 試合で使っていいの?」

 

 魔物討伐の際のキャンディを知る冒険者達が客席でザワザワし始める。

 やがて十秒もせずに生成は止まり、そのお菓子は完成した。

 

 

 白い棒。棒の先にピンクと水色と白の三色の飴。

 それは巨大なペロペロキャンディだった。

 

 

 キャンディはギロリと目を鋭くする。

 

「あなたは駄目だわ。潰す」

「なんで!?」

 

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