ジルとアリス──海岸で出会った銀髪の美少女に、剣士の少年は恋をする。   作:ぱふすた

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第23話 すごく好き

「えっ? ジル、これ……」

 

 ジルの母親のファニーが家の一階で小さく驚きの声を上げる。

 

 ジル達が帰宅した後、まもなく父親のジョルジュも仕事から帰宅。

 両親が揃ったのを見計らってジルはプレゼントをした。

 アリスはジルの雰囲気を察し、空気を読んで二階で休憩している。

 

「父さん、母さん。僕をここまで育ててくれてありがとう。これ仕事のお金と、プレゼントのケーキ」

 

 これがジルの優勝賞金や賞品が欲しかった理由である。

 

 ジルは初仕事の報酬は全部両親に渡そうと考えていたのだ。

 賭け試合を初仕事と言っていいのかは疑問だが、冒険者になったばかりのジルでは1日では稼げないそれなりの金額と、プレゼントに丁度いいショートケーキセット。

 両親に渡すにはまさにうってつけ。

 

 後でアリスと食べる分のショートケーキ2個を残し、全てを両親にプレゼントした。

 

「あ、ありがとう……やだわ、涙出てくる」

「……ふん、ジルも生意気になったもんだ」

 

 ファニーも涙ぐみ、ジョルジュもなんだかんだ喜んでいるのを隠しきれていない。

 

 ジルはそんな両親を見て、いたずらっぽく笑った。

 

 ◆

 

「それでっ、その後立ち上がって嬉しそうに叫んでて! もうめっちゃくちゃカッコ良かったっ♡」

「あらーー!♡ 私も見たかったわぁ♡」

「……恥ずかしい……アリスもうやめて……」

 

 アリスとファニーがキャピキャピと話す中、ジルは顔を赤くしながら晩ごはんを食べている。

 ジョルジュも興味無いフリをしつつ会話を全て聞いていて、いつもより食べる速度が遅い。

 

「しかしジルが賭け試合に出るとはなぁ。なーにが初仕事のお金だ」

「べ、別に犯罪とかじゃないし良いでしょ」

「でもなんで賭け試合なんて出たの? あまり興味無かったわよね?」

「それは……」

「あ、ジルは気乗りしてなさそうだったんですけど、私がジルの優勝するとこ見たいって言ったらすぐに名乗り上げてくれたんです」

「……あー」 

「あらぁ♡ そーいうことぉ♡」

「なんだよその顔!!」

 

 

 アリスが居候し始めてからの食卓は、毎回が賑やかだった。

 

 ◆

 

 

 晩ご飯の後。

 ショートケーキ2個を、二階のジルの部屋で食べているジルとアリス。

 

「でねっ、今度キャンディちゃんと一緒に遊ぶ約束したの! 楽しみっ♡」

「へー! それは楽しみだね、その日はいっぱいお菓子食べることになりそうだね」

「ふふっ、間違いないねっ!」 

 

 笑い合う二人。会話が一段落する。

 

 ふとアリスが少し真面目な調子で切り出した。

 

「……ねえジル」

「うん」

「私ね、ジルに助けてもらって、ファニーさんとジョルジュさんにも良くしてもらって、新しい友達もできて……こんなに楽しい時間を過ごさせてくれて本当に感謝してる。ううん、感謝してもし切れない」

「……感謝してるのは僕の方だよ」 

「……え?」

「アリスが家に来てから、母さんと父さんずっと楽しそうなんだ。あ、父さんは素直じゃないから分かりづらいけど。まるで以前……おばあちゃんと妹がいた頃みたいに」

 

 ジルはまっすぐアリスの目を見て微笑みながら語りかける。

 

「僕もアリスといる時間が本当に楽しい。アリスがいたから初めての賭け試合であんなにも頑張れた。だから、感謝するのは僕の方なんだ。本当にありがとう」

 

 ジルの優しい声色の言葉を受けて、アリスの瞳が潤む。

 

「でも、アリスはアリス。僕の妹やおばあちゃんじゃない。絶対に元のご家族の所に帰すからね」

「…………ジル……」

 

 アリスは我慢できないとばかりにジルの目の前まで近づくと、ジルの背中の後ろまで両手を回して顔をジルの胸に埋めた。アリスの低い体温が伝わる。

 

「あっ、アリス……?」

「……ジルも抱きしめて……」

「…………ん」

 

 

 ジルもアリスの背中に両手を優しく回し、目の前にはアリスの綺麗な銀髪。

 ジルはそっと目を瞑る。

 

 好きな女の子が自分を頼ってくれている幸福感。

 心臓の鼓動がなぜか心地良い。

 

 (……この子に幸せになって欲しい。幸せにするのは僕がいい……)

 

 二人はしばらく、お互いを感じ合うように優しく抱きしめ合ったのだった。

 

 ◆ 

 

 その日の夜。

 

 アリスはジルの妹のレニーの部屋だった二階の部屋にいる。その部屋は今はアリスに貸されていた。

 

 家事をしている一階の居間の両親にジルが話しかける。

 

「父さん、母さん」

「んー?」

「そ、その、僕……出会ってまだ三日目だけど、アリスのことがすごく好きになっちゃった」

「え? 知ってたわよ?」

「えっ」

「バレバレだろ普通に」

「えっえっ」

 

 ジルはどんどん顔を赤くしていく。

 

「ま、いいんじゃないか。でも、アリスちゃんをご家族の所に帰すことが何より優先だからな」

「そうね、もし付き合えたらちゃんとご家族に挨拶しなさいね」 

「あ、うん……」

 

 ジルは真っ赤な顔でそそくさと自分の部屋に戻っていったのだった。

 

 ◆

 

「あーあ。ジルがどんどん大人になっていくなぁ」

「ふふっ、ほんのちょっと前まで子どもって思ってたのにねぇ……あら?」

 

 ジルが自分の部屋に戻って少しした後。

 

 アリスはジルが部屋に戻ったのを見計らって一階の居間に降りてくる。

 当然ファニー、ジョルジュの二人と鉢合わせた。

 

「アリスちゃんどうしたの? 眠れない?」 

「……ファニーさん、ジョルジュさん……その、私……」

 

 アリスは珍しく言い淀んでいたが、やがて透き通った声でまっすぐ二人を見て話し出した。

 

「出会って間もないけど……私、ジルくんのことがすごく好きになりました。私がジルくんを絶対に幸せにするので、もしジルくんが私の気持ちを受け入れてくれたら交際を認めて欲しいです。お願いします」

 

 アリスはバッと頭を下げた。

 

 

 ファニーは両手で自らの口を抑えて絶句している。

 

 代わりにジョルジュが答えた。

 

「……もちろんだ。というか、若い子たちの恋愛に口を出す権利なんて俺達には無いよ。やりたいようにやりなさい」 

「ありがとうございますっ」

 

 アリスは一度顔を上げて答えを聞き終えると、また頭を下げた。

 

 そして嬉しさが伝わる笑みを隠せず二階に戻っていく。

 なんだか軽やかな足取りだった。

 

 

「……あー……ジルが家を出る心の準備しとかないとだな」

「ふふっ、今日は久しぶりにお酒でも飲もうかしら」

 

 

 息子の一人立ちが近いことをジョルジュとファニーは感じ取らざるを得なかった。

 

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