ジルとアリス──海岸で出会った銀髪の美少女に、剣士の少年は恋をする。   作:ぱふすた

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第25話 ジルとケーキ

 アリスとキャンディが喫茶店に入ったのと同時刻。

 

 ジルは冒険者の仕事の真っ最中であった。

 

 隣町と繋がる道の近くに現れたスライムの群れを駆除するという町からのクエストである。多人数かつ初心者向けのクエストで、ジルの遠目で見える距離に経験の浅そうな冒険者が何人か武器を振るっている。

 

「ふっ!」

 

 ジルは片手で魔刀『黒雪』をレイピアのように突き出す。

 その剣先がスライムの核を捉えると、スライムは瞬く間にぷちゅっと破砕した。

 魔刀にスライムの魔力が吸収されていく。

 

(これで二十匹目……まだまだいる。でも魔刀を扱う練習にはなるかな)

 

 道脇にうようよしているスライムを見てジルはため息をつく。 

 

 スライムはその辺の虫や葉っぱを取り込んで溶かし、自らの魔力に変換することができる。

 レベル1のザコだが魔物の中では珍しく繁殖能力があり、放っておくとすぐこのように大量増殖してそのうち農作物等への被害ももたらすので見つけ次第駆除が必要である。

 

(……早く終わらせて、次のクエストを請けよう)

 

 ジルは気合いを入れ直すと刀を構え直す。

 

 

 

 ──アリスと抱きしめ合ったあの日以来。

 

 

 アリスは分かりやすいぐらいに僕のそばにいようとしてくれる。

 

 毎日のように部屋に遊びに来て、寝る時間まで僕とお喋りしてくれて。

 それ以外の時間も僕にピッタリくっ付いてくる。

 

 そして何より。

 

「そろそろ寝る時間だよ、自分の部屋戻ろ?」

「ジルと一緒にいたい」

「っ……」

 

 

 恋なんて初めての僕ですら分かる、強い剥き出しの好意。

 憧れの王子様に向けるような熱い目線。

 

 もし僕の馬鹿な勘違いじゃなければ、アリスは僕に異性として好意を抱いてくれている。

 

 すごく優しくて、一緒にいて楽しくて、可愛くて、本当に可愛くてたまらないあのアリスに。

 

「〜〜っ!!」

 

 そう考えるだけで口元がニヤける。

 駄目だ駄目だ仕事中なのにっ。

 

 ジルは雑念を振り払うように魔刀を振るってスライムを次々と吹き飛ばしていく。

 それは周りの気配にも気付けないようながむしゃらな剣だった。

 

 

「なんだ貴様、そんな荒い剣だったか?」

 

 

 後ろからクールな女性の声が聞こえてジルは刀を振るうのを止める。

 

 振り向くと、そこには白いミディアムボブの髪に白いつぶつぶ模様が入った赤い瞳、そして膝丈のメイド服を着た綺麗な女性。

 賭け試合で戦ったケーキの魔族だ。その右手首には相変わらず黒い腕輪がはまっている。

 

「あ、ケーキさん……」

「まさかと思って近づいてみたが……最悪だ」

「ケーキさんもスライム駆除のクエスト請けてたんですね。一緒に頑張りましょう」

「ふん、貴様と一緒の仕事だとは運が悪い。さっさと終わらせないとな」

 

 そう言うとケーキは腰のフォーク入れから金属製で先を尖らせた戦闘用フォークを何本も取り出し、スライムに投げつけていく。

 その一つ一つがスライムの核を捉え、スライムはぷちゅんぷちゅんと消し飛んでいく。

 

「どうした? 見ていないで貴様も仕事をしろ」 

「もちろんです!」

 

 そう答えるとジルは刀を振るうのを再開し、ケーキはフォークを投げて時には突き刺す。

 こうしてジルやケーキの活躍により、スライムの群れは瞬く間に殲滅されていった。

 

 ◆

 

 スライムが一通りいなくなり、現場監督の冒険者ギルド職員から冒険者達に報酬が入った袋が手渡されていく。

 ジルも袋を受け取ると、先に報酬を貰ってスタスタと町に戻っていくケーキに駆け足で追いつき声をかける。

 

「ケーキさん!」

「……なんだ。言っておくが私はこれ以上貴様との会話など御免だぞ」

 

 実に辛辣な表情と言葉であるが、ジルはめげずに会話を続ける。

 

「あの、キャンディちゃんはアリスが渡したショートケーキ喜んでくれましたか?」

「ああ、キャンディ様が友人と認めた少女だな。あの少女が渡したショートケーキのおかげでキャンディ様はすぐ機嫌を直していた」

「そっか、良かった……」

「…………ん? まさかあの少女の行動は貴様の仕業か?」

「あ、はい……キャンディちゃんが辛そうで何もせずにいられなくて、でも僕から渡すと気を悪くするかなって……」

「…………そうか」

 

 ケーキがポツリと答えてから少しだけ間が空く。

 ふとケーキは前を見たまま言った。

 

「…………ジル。貴様との会話など御免という言葉は撤回してやろう」

 

 ジルは少しばかり驚いて軽く目を見開いた。

 ケーキがジルの名前を呼んだのはこれが初めてである。

 

「ありがとうございますっ」 

「ふん。ところで、あの少女は貴様の何なんだ?」

「えっと、あの子は僕の家の居候です」

「居候? 遠目で見る限りでは若い夫婦か恋人にしか見えなかったがな」

 

 そう言われたジルの心臓が跳ねる。

 

 フラーシア王国を含むほとんどの西側諸国で、男女共に15歳から結婚できる。

 アリスは記憶を多く失っていて正確な年齢は分からないが、見た目から恐らく同世代だろうとジルは思っていた。

 

(そっか……もしもアリスと付き合えてもっと仲良くなれたら、アリスと結婚できるかもしれないんだ)

 

 そう考えただけで胸から幸福感がぶわっと体中を駆け巡る。

 

 アリスは既に過剰な程に好意を示してくれている。僕から見てもきっと勘違いじゃないって思えるほどに。

 でも、女の子として告白は男からして欲しいというのはあるかもしれない。

 

 だから、僕からちゃんと告白しよう。

 

 アリスからの好意がもし僕の馬鹿な勘違いなら勘違いでいい。

 僕が恥ずかしい思いをするだけで、友達としてアリスをご家族の元へ帰す手伝いをするのは変わらない。

 もっと強く、もっといい男になってアリスに振り向いてもらえるよう頑張るだけだ。

 

 

 こうして、ジルは近い内にアリスに告白することを決心した。

 

 

 

 ──アリスのジルに対する目線は恋の範疇を超え、崇拝じみている異常な何かが混じっていた。

 

 だが……ジルもアリスが好きで、しかも初恋。

 

 ジルはアリスと両想いかもしれないことにただただ嬉しくて、その違和感に気づくことはできなかった。

 

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