ジルとアリス──海岸で出会った銀髪の美少女に、剣士の少年は恋をする。   作:ぱふすた

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第39話 ケーキ vs トマトティアラ

 

 先に動いたのはトマトティアラ。

 

 両手に包丁を持ってケーキに向かって突撃する。赤いドレスがぶわっとなびく。

 それに対し、顔面に向けて両手の鋭い戦闘用フォークを投げつけるケーキ。

 トマトティアラは包丁を持ったまま、前腕で受けるように腕を前に出した。

 するとその前腕かろ生えるように大きなトマトがポコポコと発生。フォークがトマトに突き刺さり、果肉が僅かに飛び出す。

 そしてフォークの突き刺さったトマトは前腕からポトッと地面に落ち、何事も無かったかのようにトマトティアラは突進を続けてケーキに迫る。

 

(能力は予想通り私と似たようなものだな)

 

 ケーキはそう考えつつ再び両手でフォークを取り出した。

 トマトティアラが右腕を振りかぶる。 

 ケーキは後ろに跳んで切りつけ攻撃を回避するが、続けざまに左手の包丁を投げつけてくるトマトティアラ。

 

 トマトティアラがしたように、体を守るように前腕を素早く前に出し、大きなショートケーキを発生させる。

 ショートケーキに突き刺さる包丁。

 だが戦闘用フォークよりも大きい包丁をトマトよりも柔らかいケーキ生地では受けきれず、威力は殺したものの包丁は貫通して刃先がケーキの前腕に突き刺さった。

 

「ちっ……!」

「きゃははっ! 能力はアタシの方が戦闘向きみたいだね~! ま、ケーキなんていう甘いだけのゴミを作る能力じゃあねぇ〜!」

「キーキー五月蝿い生ゴミめ……っ」

 

 そう強がりながらも真正面からの勝負ではやや不利であることを悟るケーキ。

 発生させたショートケーキを吸収し、前腕に刺さった包丁を投げ捨てる。刺し傷から僅かに真っ白な魔力が漏れた。

 

「ん〜? 周りの白い魔力と違うね〜? まさかほんとに魔界の魔族と通じて強化でもしてもらったの〜?」

「……? 何の話……」

 

 言いかけたケーキはジルが纏っている淡く白い魔力を思い浮かべる。

 

 ジルと一緒に行動した為に、魔刀の持ち主を強化する能力が伝播したと考えられないことはないが……道中のジルとゴブリンの戦いを振り返ると魔刀が纏っていたのは黒い魔力だった。

 

 それを考えると自分やジルが纏っている白い魔力は魔刀とは別のものではないかという疑問が湧く。

 しかしそうすると原因が分からない。

 とはいえ自身に微弱でも強化がかかっているならそれは好都合。

 ケーキは疑問を捨て置くことにした。

 

 トマトティアラが最初ケーキを見て、『自分より弱そうってワケじゃない』と言ったのは危険度レベルが同等なのもあるがこの白い魔力が大きな原因である。

 

「まぁいっか〜! 強化の程度は弱そうだし! じゃ、死んで!」

「貴様がな」

 

 2人が同時に踏み込む。

 赤いドレスと紺色のメイド服、赤い髪と白い髪がブワッとなびいた。

 まっすぐ突き出されたフォーク先端の溝と、振るわれた包丁がガキンと激突する。

 

 連続して振るわれる包丁とフォーク。

 ガキンッガキンと金属音が響き渡る。

 

 互角に見えた勝負だが、ビッと包丁の先がケーキの上腕に浅い切り傷をつけた。

 武器のリーチの差である。

 

 ケーキは動揺することなく次の一手を打ち、その前腕から小さな白いムースケーキを発生させて飛ばしトマトティアラの目を狙う。

 だがトマトティアラの両前腕から一個ずつトマトが飛び出し、ムースケーキを撃ち落とした。

 力無く地面に落ちるトマトと崩れたムースケーキ。

 

 ふとケーキは持っているフォークの刃が折れていることに気づく。

 

「! ち!」

「きゃはははっ!! そんなゴミ武器使ってるから!!」

 

 戦闘用フォークとはいえ所詮はフォーク。その耐久度は決して高くなかった。

 対してトマトティアラの包丁は僅かに刃こぼれしている程度である。

 一旦距離を取って新たなフォークを取り出そうとするケーキ。 

 それをさせまいとトマトティアラは突撃しようとするが、正面からの勝負は不利と見たケーキは全身から巨大ホールケーキを発生させた。

 

「!」

 

 一旦足を止めるトマトティアラ。

 そのままモコモコと大きくなり続ける巨大ホールケーキ。トマトティアラからはケーキの姿はもう確認できない。

 そして巨大ホールケーキがズズズと地面を引きずるように動き始め、トマトティアラに迫る。

 

「あっそ! でもそれ、アタシもできるんだよね~!」 

 

 トマトティアラはそう言うと全身を包み隠すような巨大なトマトを発生させ、自身の姿をその巨大トマトに封じ込めるように隠した。

 もう互いの姿は互いから視認できない。

 

 なおも巨大ホールケーキは動き続け、やがて巨大トマトは巨大ホールケーキに包みこまれていく。 

 巨大トマトの赤い皮をケーキ生地が撫でる。

 さっきまでの金属音とは打って変わり、暫しの沈黙。

 

「……おい。質問がある」

「……なに~?」

「なぜ国は、フラーシア王国は……キャンディ様を殺すよう命じた?」

 

 巨大トマトとケーキ生地越しのやり取り。

 

「え〜? そりゃ〜国の仕事しないし、そのくせ無駄に強くなってるし挙げ句に勝手に国外に出るし、まぁ仕方ないよね〜!」

「……その程度の理由で暗殺を命じたというのか?」

「アタシ達みたいな“腕輪付き”の命なんて、国からしたらそんなもんだよねぇ! アタシだってやりたくもない国の仕事、生きるためにそこそこは真面目にやってんだから! 貴方達だけ自由に生きるとかそんなの許されないよ〜!」

「ふん。クソ喰らえだな!」

 

 もうフラーシア王国には帰れないなとぼんやり考えるケーキは、ケーキ生地を渦巻くように動かし始める。

 巨大ホールケーキの中の自分の正確な位置をトマトティアラに把握されないためだ。

 

 ズズズと渦巻く巨大ホールケーキ。

 何もせず迎え撃つ構えの巨大トマト内のトマトティアラ。

 

 ふと巨大トマト内、トマトティアラから見て右斜め後ろに違和感。

 トマトティアラは巨大トマトを通してケーキ生地の動きを感じ取ることができた。

 

 そして右手の包丁を勢いよく右斜め後ろに突き出すトマトティアラ。

 巨大トマトの内側から包丁とトマトティアラが飛び出す。

 

「!?」

 

 だが、そこには巨大ホールケーキの生地内にさらにもう一つ作られた、大きな人型のチョコレートケーキ。

 包丁はチョコレートケーキに突き刺さる。

 

 以前ジルと戦った賭け試合。

 ケーキは巨大ホールケーキで相手の視界を塞いでも自身の動きが読まれたという反省を生かし、相手を上回る策を秘かに考えて修練していたのだった。

 

「しまっ……!」

「遅い」

 

 次の瞬間に右に感じたケーキの気配だったが既に時遅し。

 トマトティアラの右脇腹に強く突き刺さる2本のフォーク。

 

「つっっ!!」

 

 人間に比べ痛覚の薄い魔族だがその動きは崩れ、体を回転させつつ雑に振り抜いた左手の包丁はやすやすとしゃがんで躱される。

 そしてその姿勢から下から上に蹴り上げるような強烈なキック。

 

「がはっ……!!」

 

 顎を蹴り上げられたトマトティアラは迫撃を避けるためにたまらず大きく跳び、ホールケーキの外まで退避した。

 トマトティアラが人間だったならば脳震盪でまともに立っていられなかったであろう。

 2本のフォークが突き刺さった右脇腹からは赤い魔力が漏れ出ている。

 

 お互いに巨大ホールケーキと巨大トマトを吸収し、睨み合う2人。

 トマトティアラは脇腹に刺さったフォーク2本を投げ捨てる。

 

「さて、形勢逆転だな?」

「……あ~もうやだ。逃げよ」

「は?」

 

 トマトティアラは反転し、全力で走って逃走し始める。

 一瞬追いかけようとしたケーキだが、キャンディの所に別の刺客が迫っている可能性をすぐに思い出して足を止めた。

 

(ち、ムカつくがあの生ゴミを追いかけている場合ではない。キャンディ様の所へ急がなければ)

 

 ケーキはキャンディの所へ急いで向かい始める。

 その反対方向のトマトティアラはケーキが追いかけてこないことにほっと一息ため息をついた。

 

(ふ〜……どーせ誰がどうしたってミカエルには勝てないし〜。終わるまで逃げてよっと。逃げた言い訳も考えないと……)

 

 トマトティアラは、結局は炎剣の勇者ミカエルが標的と冒険者パーティー全員を皆殺しにして作戦は終わるだろうと考えていた。

 

 彼女はフォークを刺された右脇腹を押さえて走りながら、ミカエル達と合流したあとにする敗走した言い訳を考え始めたのだった。

 

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