ジルとアリス──海岸で出会った銀髪の美少女に、剣士の少年は恋をする。   作:ぱふすた

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第40話 アリス vs セリーヌ

 

 ケーキとトマトティアラが相対し始めた頃。

 

 

 水色ロングのハーフアップの髪がなびく。

 セリーヌが、似たような色の水色の魔力を杖の先端に集中させていた。

 アリスは棒立ちのままで、体も発光させていない。

 

(……この少女、美しい顔立ちですね。弱らせて後で勇者様と一緒になぶって遊びましょうか)

 

 目の前の標的は絶世の美少女であり、勇者ミカエルの好みだろうとセリーヌは考えた。できれば今は殺さずミカエルと一緒にオモチャにしようと考える。

 ミカエルは子どもの他にも若い女性をいたぶるのも好みであり、そしてセリーヌは勇者が人を殺して楽しむ様子を見て嬉しくなる勇者の狂信者であった。

 

「……アイスボール」

 

 セリーヌの短い詠唱と共に、周囲の空気ごと包むようにアリスの周りに球状の氷が発生し、凍りつかせた。

 

 人間一人を瞬時に氷に閉じ込めるほどのアイスボールを放つことができるセリーヌはフラーシア王国でも上位の魔法使いであった。

 今回は弱らせるために若干魔力を抑えて使ったが、通常ならばアイスボールに閉じ込められた者はこのまま何もできずに凍死するだろう。

 

 

 だが……

 

「!?」

 

 ギロッと氷の中のアリスが珍しく鋭い眼光でセリーヌを睨んだかと思うと、次の瞬間アリスを包む球状の氷が四方八方に弾け飛んだ。

 

 そのまま、スタスタとアリスはセリーヌの方に向かって歩いてゆく。

 

「なっ、くっ、アイスアロー!」

 

 切り替えの早いセリーヌはすぐさま次の攻撃に移り、

 細く鋭い氷の矢を空中にいくつも発生させる。

 そして、それらの氷の矢はまさに矢のような速度でアリスに向かって飛んだ。

 

 アリスは大きくは動かず、ひょいひょいと頭や体を傾けて氷の矢を全て回避する。

 かすり傷すら負っている様子はない。

 これにはセリーヌも驚愕の表情を浮かべざるを得ない。

 

(なんですかこの少女は!? 強化魔法は使っていないはず! せっかく勇者様がお好きそうな少女なのに……っ)

 

「躊躇ないね。もしかして人に向けて撃つの、慣れてる?」 

「っ、アイスボル──」

「アリス様。ご報告が」

 

 セリーヌがやむを得ず殺傷力の高い魔法を使おうとした時。

 

 セリーヌから見て前、アリスから見て右斜め後ろ。

 

「……セラ。どうしたの?」

 

 真っ黒の仮面に、真っ黒のローブ。

 遠くからアリスを見守っていたセラフセヴァーが近くに降り立ち、アリスに声を掛ける。

 セリーヌからすれば突如として現れた何者かに彼女は混乱しつつも杖を向ける。

 

「!? 今度は誰──」

「お連れの冒険者達の所に別の刺客が出現しております」

 

 セリーヌを無視し、言葉を続けるセラフセヴァー。

 その言葉を聞いたアリスは血相を変えた。

 

「!! 今すぐ助けに行かなきゃ!!」 

「しかしアリス様の正体を感づかれる可能性が。ここは私が行きましょう」 

 

 セラフセヴァーが遠目で監視する限りではアリスはジル達の前ではまったくと言っていい程その力を使っておらず、故に冒険者達もアリスのことは普通の少女にしか見えていないとセラフセヴァーは考えていた。

 

「っ、分かった、急いで!!」

 

 アリスの言葉と同時にセラフセヴァーはセリーヌの目では捉えられない速度で移動し姿を消す。

 

 突然現れた黒衣装。

 転移魔法でも使っているのか、自身の目では捉えられない速度。

 氷魔法が通じない実力。

 そしてアリス様の正体云々の会話内容。

 

(?! …………この少女はまともじゃない!! おそらく菓子の魔族を唆した魔界の魔族、人間そっくりの見た目で気づけなかった! 絶対に生かしておけないですね)

 

 セリーヌの考察は間違っているが、アリスやセラフセヴァーと対峙したセリーヌからすれば無理もない誤解である。

 もう生かして捕らえるというプランは放棄。

 その表情に余裕は無い。セリーヌは完全に本気を出した。

 

 魔法の杖の先端に今までにない高密度の水色の魔力が集中していく。

 

 いつの間にかアリスがジル達には見せない敵意の籠もった表情でセリーヌを睨んでいる。

 セリーヌは一瞬怯みながらも詠唱する。

 

「ッ、アイスボルト!」

 

 アイスボルト。

 氷の稲妻のような光線を、まるで高い樹木に誘導されて落ちる稲妻のように対象に放つ魔法である。

 高い誘導性能、本物の稲妻よりは遅いが矢よりは速い光線弾。

 レベル5、すなわち熊の魔族ウルスネグルの体皮をもえぐり取れる威力を持つ強力な魔法で、この魔法を放てるセリーヌは性格はともかく実力は勇者パーティーに相応しい魔法使いと言える。

 

 杖の先端が水色に輝き、氷の稲妻が放たれる。

 一瞬周囲が水色の光で照らされた。

 酷く不自然な夕焼けと水色のコントラスト。

 

 目で追えるはずもない超速の稲妻。

 

 

 そして、それよりも速いアリスの手。

 

 

 アリスは右手の雑な裏拳で、虫を払うように稲妻を叩いた。

 一瞬、白い光が弾けるように光る。

 

 氷の稲妻は斜めに逸れ、地面に落ちた。

 地面はえぐり取られ、えぐり取られた地面が凍りついている。

 しかしアリスの右手は、傷一つ付いていなかった。

 

「……え?」

 

 意味が分からないというようなセリーヌの声。

 セリーヌは渾身のアイスボルトを放ったのにも関わらず傷一つ付いていないアリスを見て、何が起こったのか分からず一瞬動きが止まる。

 

 はっ、と次の攻撃を仕掛けようとした時にはもう遅かった。

 

 バキッ。

 

「あっ……!?」

 

 一瞬で目の前まで距離を詰めたアリスは、セリーヌの杖を片手で握り潰した。

 

 慌てるセリーヌ。

 副武装のナイフを取り出そうと腕を動かす。

 

 

 ボトっ。

 

 

 何かが落ちる音。

 セリーヌの両腕の肘から先が切り落とされ、落ちた音だった。

 

 

 遅れて両腕から血が放出される。

 

「あっ……あぁあ!!?」

「ねえ、あなたは誰? セラが言ってた刺客ってどういうこと? 答えないならもっと痛くするから」

 

 

 

 アリスが体を発光させていなかったのは、セリーヌのことを本気を出すまでもない相手だと判断していたからだった。

 

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