ジルとアリス──海岸で出会った銀髪の美少女に、剣士の少年は恋をする。   作:ぱふすた

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第47話 トマトの魔族・トマトティアラ

 やや遠くから目が合ったジルと、噴水に座るトマトティアラ。

 

 トマトティアラは作戦実行時、セリーヌからあらゆる感知に引っ掛かりづらくなる隠蔽の魔法をミカエルと同じようにかけられていた。なおかつその時狙うよう指示されていたのがケーキの魔族で、そのケーキが水汲みでジル達から離れたという幸運も重なり運良くセラフセヴァーやアリスの目から逃れていた。

 もしこれらの幸運が無ければ、トマトティアラも確実に他2人のように命を落としていたであろう。

 

 

 トマトティアラはジルと目が合った後、すぐに目を疑うような表情に変わる。

 

「……んん〜?」

(……? 僕のこと知ってるのかな?)

 

 ジルはトマトティアラの姿に見覚えは無かったが、彼女の表情の変化から自分の事を知っているのかと考える。

 だがその時、トマトティアラに向かっていかにも遊んでいそうな3人の若い男性が寄って来るのに気づく。

 

「お嬢ちゃん! 可愛いね〜何してんの?」

「ん?」

「おー可愛い魔族! 何の魔族なの?」

「服ボロボロじゃん! 俺らと遊ぶならなんか買ってあげるよ!」

「あ~これナンパってやつ〜? ごめんね〜! アタシ初めての彼氏は自然な出会いでちゃんと付き合うって決めてるの〜!」

 

 トマトティアラは外向きの笑顔で応対する。

 

 トマトティアラは腕輪付きの魔族とはいえ、見た目は10代後半の赤くて目立つ可愛い女の子。

 勇者パーティーから離れれば、こうして魔族であることを軽く考える者から声を掛けられるのもおかしくない。

 

 また、腕輪付きの魔族は任務や自己防衛等以外で人間に危害を加えることは当然禁止されていて下手をすれば討伐対象。この事も魔族をナンパする男性にとっては都合が良かった。

 とはいえ腕輪付きの魔族がこのようなナメた人間達を討伐対象にならない程度にボコボコにして強制労働等の刑を食らうぐらいの話は後を立たないが……

 

「彼氏? いやいや今日1日遊ぶだけだって!」

 

 男の内の一人がそう言いつつ、目線を下げてアリスよりは大きくケーキよりは小さいトマトティアラのDカップぐらいのほどほどの胸にチラッと目をやる。

 男の分かりやすい視線にトマトティアラはイラッとして眉間に皺を寄せる。

 

「……うざーい。ぶっ飛ば……っつ……」

 

 彼女は男達を包丁で脅そうと立ち上がろうとするが、右脇腹がズキッと痛んで思わず表情が歪み脇腹を押さえる。

 

 ケーキの魔族との戦いで戦闘用フォークを深く突き刺されたその傷はまだ癒えておらず、痛覚がやや薄い魔族といえど何も感じないほどの軽傷ではなかった。

 

「ん? 怪我してんの?」

「俺らがエスコートしてあげるよ! 両脇から持って立たせて上げる!」

「は? ちょ……!」

「ちょっと待ってください」

 

 無理やり気味な男達の様子とトマトティアラの嫌そうな表情を見て、居ても立ってもいられずジルは駆け寄って声を掛ける。

 

「は? 誰?」

「嫌がってますよね。しかも体調悪そうな子を無理やり」

「別に魔族なんだからいいだろ」

「……全然良くないですけど?」

 

 キャンディやケーキの事が頭に浮かんだジル。

 思わずカチンと来てしまい怒気を孕んだ声が出る。

 

「こいつめんどくせぇ一発殴るわ……ごほっ!?」

 

 魔族や勇者との戦いをくぐり抜けているジルにとって、もはや一般男性の拳など問題にならない。

 ジルはやすやすと男の拳を躱し、みぞおちに一撃グーパンを入れる。 

 

「う……ぐぅ、コイツ……っ」

「てかコイツ剣持ってるじゃんっ、逃げようぜ!!」

「クソッ!」

 

 男達は走って退散していく。

 トマトティアラは目を点にしてため息をつくジルを見ていた。

 

「ふぅ……」

 

 ジルはクルッとトマトティアラの方に向き直り、笑顔で優しく声を掛ける。

 

「大丈夫ですか? もう安心ですからね」 

「え、うん。ありがと。キミ強いんだねぇ!」

「一応冒険者なので! でもまだまだです」

「冒険者なんだ〜! 納得!」

 

 ジルは謙遜ではなく自分のことをまだまだだと思っていた。

 フラーシア王国にはまだ“槍の勇者”もいる。

 勇者レベルの敵を撃退できるぐらいに強くならないと皆を守りきれないかもしれない。 

 先日の炎剣の勇者の襲撃を経て、ジルはそんなことを考えていた。

 

「あ、そうだ。今この町の冒険者ギルドを探してて。道を知りませんか?」 

「ギルドならアタシ行ったから知ってるよ! 案内してあげる〜!」

「ありがとうございます」

「ううん!」

 

 トマトティアラは立ち上がり、ジルの道案内をする素振りを見せる。

 

(……うん、気のせいだよね〜。生きてる訳ないし、あのクソメイドの魔力より強いし……)

 

「……何より……」

「え?」

「なんでもなーい! それじゃこっち!」

 

 トマトティアラはボソッと呟いたのを取り繕う。

 

 セリーヌは『望遠』の魔法を使って遠くから姿を視認したジルのことを“刀を持った少年”とミカエルとトマトティアラに念話で伝えていた。

 

 刀を持った少年という特徴が一致し、おまけにケーキの魔族も纏っていた淡く白く光るような魔力を視認したトマトティアラはジルのことを標的の冒険者パーティーの一員かと最初は目を疑った。

 

 だがジルの纏う白い魔力はケーキのそれより強く、炎剣の勇者を相手にして冒険者パーティーが生きている訳が無いと思い直す。

 

 

 そして何より。

 

 

(……イケメンっていうより美少年って感じだけど……助けてくれた時カッコ良かったし、笑顔も素敵だし……この男の子ちょっといいかも)

 

 

 トマトティアラは、人間の年頃の女の子と同じぐらいに恋愛欲求がある珍しい魔族だった。

 

 彼女はジルに対し、疑う気持ちよりも異性としての興味が上回ったのだった。

 

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