ジルとアリス──海岸で出会った銀髪の美少女に、剣士の少年は恋をする。   作:ぱふすた

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第60話 ケーキの魔族

 

 ジル達が帝都ヴェストハルトに到着し、帝都ギルドでの用事を済ませたその日の晩。

 

「くくく……最高に面白かったぞ、お前らの言い争い」

「き、聞かれてた……恥ずかしい……」

 

 ジル達が泊まっている宿の部屋。

 

 ランタンが皆を照らす中、レタスの魔族・レタスラッシュが意地悪く笑い、アリスはメルスハイムの宿でのトマトティアラとの言い争いを聞かれていたことに対して恥ずかしがって両手で顔を覆っている。

 

 ベジィ達はジル達にトマトティアラを通じて食事の約束を持ちかけ、こうして合計8人での食事会のような状況になっていた。

 面子はジルとアリス、ケーキにキャンディ、さらに野菜の魔族・ベジィと、その眷属種のトマトティアラ、レタスラッシュ、キャベツエリカ。

 

 キャンディとケーキは帝都で買ったドーナツ、ジルとアリスはソーセージやポテト等を食べている。

 野菜の魔族とその眷属種達は生野菜ばかり。

 端からみるとかなりの偏食家ばかりのお食事会だった。

 

「ベジィ様! アタシ絶対優勝したいんです!! 闘技祭頑張りましょう!!」

「おゥ。そのつもりで来たからなァ」

「それにしても、ティアを連れ帰る為だけにベジィさんを寄越すんですね」

「あァ……理由は分かんねえがなア」  

「……ふん……まあ貴様の任務が中止になったということは分かった」

 

 ケーキは、ティアの任務を中止させて連れ帰る為に来たという魔族達の話を聞き、ようやくトマトティアラに対する警戒をほぼ完全に解いていた。

 

「ま、任務が中止になってもアタシはあなた嫌いだけどね!」

「それはお互い様だ」

「はっ! ……てかさ〜、ベジィ様まで送って暗殺中止させるんでしょ? キャンディもクソメイドも王国に戻っていいんじゃない?」 

「一度はキャンディ様を殺そうとした国にか? 話にならん」

「ほんとそれ!!」

「……いや……二度目……か……」

「?」

「あ、いえ……」

 

 ケーキがキャンディの隣で子声で何かを呟いたのを取り繕った中、話は続く。

 

「オレもテメエらが王国に戻るのは反対だなァ……ティアの任務は中止になったけどよォ、炎剣の勇者は行方知れずで、他のヤツを差し向ける可能性もあるしなァ……おいエリカ、オレのキャベツ取んじゃねェ」

「あぅっ……いたい……」

 

 キャベツの魔族・キャベツエリカが、まったく空気を読まずにベジィの前に置かれた木皿の上の乱切りキャベツをそーっと取ろうし、今日はトマトの姿のベジィがミニトマトを口から飛ばしてエリカの額にぶつける。

 エリカがこんな感じなのはいつものことだった。

 

 レタスラッシュがベジィに代わり、折れた話の腰を戻して話を続ける。

 

「オレからも付け加えると、今フラーシアの様子がどうもおかしいというのもあるぜ。正直今はオレも帰りたくないな」

「様子がおかしい?」

「ああ。これはティアを待ってる数日間で帝都で耳にしたことだが、フラーシアが徴兵制を実施するらしいって話を聞いてな。寝耳に水だったぜ」

「……徴兵制!? 聖帝国がやってるっていう、皆何年か軍隊に入るっていうあれですか?!」

「……あたしを殺す為だけにそこまでしないわよね。戦争でもする気なの? どこと? なんで?」

「まァそれは噂とはいえ、胡散臭えよなァ……。オレ達の任務もそうだが何かがおかしいぜェ。……フラーシアを出発する日には王都の様子も変だったしなァ……」

 

 ベジィは、自身に任務を言い渡したフラーシア王国冒険者ギルド長のベルトランの表情や、王都の民衆が騒いでいる様子を思い出していた。

 

 ケーキは話を聞いて思案しつつ、話を纏めるように言う。

 

「……やはり私とキャンディ様は王国に帰らず、この国の腕輪付きになることを目指した方が良さそうですね。その為の手段が他人任せになるのは心苦しいですが……」

「ん! この件が無くても優勝報酬は凄いし気にしないで!」

「任せてケーキちゃん! 私とジルなら優勝間違いなしだから!!」

「ふふっ、アリス様はお怪我に気をつけてくださいね」

「ティアがご執心の少年の望みだしな、オレとエリカのタッグも協力するぜ。優勝できたらお前と菓子の魔族をこの国の所属にするよう頼んでやる」

「……うーん……私は他の人が優勝してもキャベツ沢山くれるっていう条件つきで……あぅっ……」

 

 レタスラッシュがエリカの頭にゲンコツを食らわせる中、キャンディがふと別の話を切り出す。

 

「そういえばさっき自己紹介の時に思ったんだけどさぁ、あたしとティアとエリカの年齢が妙に近いと思ったんだけど、何か共通点とかがあるの?」

 

 皆の自己紹介によると、ケーキが300歳超え、レタスラッシュやベジィも150歳超えの魔族なのに対し、キャベツエリカは10歳ぐらいの見た目だけでなく実年齢もかなり若く、14歳。

 キャンディやトマトティアラも十代で、女の子の姿をした魔族達の実年齢が奇妙に近かった。

 

「あァ……それは以前死んだ時期が近いからだなァ」 

「え?」

「あー。アタシ前は魔女狩りの時期に死んだらしいから、多分キャンディとエリカもそうなんだと思うよ〜。前世のこととか全然思い出せないけどね〜」

「ハハッ、お前図書館の歴史書に名前残ってたぜ? 確か『魔女狩り隊を無謀にも迎え撃ったトマトの魔族は兵士の内の一人と刺し違え、魔力の塵となった』とか書かれてたぜ」

「そうなんだ!? 相手道連れにするとかさっすがアタシ〜!」

「そっか、フラーシアの魔女狩りの時期……」

「ふーーん? じゃああたしも魔女狩りにやられたのね。どんな死に方したのかとか全然思い出せないけど……」

「…………」

 

 ケーキは一人顔を伏せ、その表情は暗く闇に沈んでいた。

 

 

 ──魔族は死んでも、その魔族を形づくる魔力がまた集まれば蘇る。

 

 例えばトマトティアラは、世界中の人間達のトマトへの欲求が無くならない限り、その欲求から生まれる魔力がまた一つに集まり凝縮し、新しいトマトの魔族を形づくる。

 

 蘇るのに必要な期間は割とまちまちだが、どんな魔族も大体100年から数百年はかかるとされる。これは危険度レベルの高い強力な魔族も同様である。 

 その際に前世の記憶はほとんど失われ、しかも思い出せたとしてもフラッシュバックやデジャブのような形でばかりである。

 

 キャンディがジル達と出会った町の闘技場で、対戦相手のフェルディナンドから怒りの感情を向けられて何かを思い出しそうになっていたのがまさにそれであった。 

 

 

「そういや菓子の魔族も名前残ってたぜ。ドーナツの魔族やらクッキーの魔族やら当時の眷属種達を纏めあげて、魔女狩り隊との激戦になったらしい。最後は当時のフラーシアの勇者に屈したらしいがな」

「うーん全然思い出せないわね……ケーキ?」

「ケーキちゃん?」

「……ぁ。いえ……何でもないです」

「……そうかお前! 当時の生き残りか! 魔女狩りとか、以前の菓子の魔族のこととか覚えてるか?」

「……そうですね」

 

 レタスラッシュは歴史に興味があるのか前のめりに聞くが、ケーキは俯いたままで口数も少なく、声も小さかった。

 

「じゃあティア達も復活してるし、あたしの眷属も皆いつ復活してもおかしくないわね。でもケーキ、あたしも死んだのによく生き残ったわね?」

「……キャンディ様が、逃がしてくれました」

 

 

 それは。

 

 この上ない自己嫌悪にまみれた、キャンディすら見たことのない自嘲だった。

 

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