ジルとアリス──海岸で出会った銀髪の美少女に、剣士の少年は恋をする。 作:ぱふすた
町の近くの森の中。
草木が生い茂る中、暖かな木漏れ日がわずかに地面を照らす。
普段の森と何一つ変わらないように見える。
そんな中を左腕を失い、腹の傷が治らないまま跳んで逃げるウルスネグル。
あの魔刀に魔力を吸われるのは距離を離すと止まったようだった。
だが、失った大量の魔力に深手の傷。
魔族の凄まじい速さの肉体修復も不可能な大ダメージだった。
「クソッ、あんなガキにッ……次会ったら必ズ殺してヤルっ……」
魔力を戻すためには休息と、食事……できれば人間の肉が必要だった。
「ア……?」
進行方向に、何かいる。
ウルスネグルは足を止めた。
──銀髪の、幻想的な水色の瞳の少女だった。
大きな樹木の枝に止まっている鳥達は、いつも通りの鳴き声を発している。
ウルスネグルは一瞬驚いた表情を浮かべた後、ニヤリと顔を歪めた。
「人間……クク……ちょうどイイ、食って魔力……を……?」
少女は、ゆっくり人差し指をウルスネグルへ向けた。
同時にその銀髪が白くなっていき、淡く光りだす。
全身も淡く白い光を帯び始める。
……ウルスネグルは、気づいてしまった。
気づかなければ、せめて恐怖は感じず逝けたかもしれないのに。
「…………ァ……」
先程まで邪悪な笑みを浮かべていたウルスネグルの顔が、恐怖に染まる。
弱っているという情報から“それ”の強さをウルスネグルは甘く見て、あのような暴れ方をしていたのだ。
主から課せられた任務は対象の発見と報告。決して始末することではない。
ウルスネグルの主には分かっていた。
たとえ弱っていようとも、ウルスネグル程度ではどうにもならない存在。
ウルスネグルは、理解するのがあまりにも遅すぎた。
「……オマエ、だナ……バカな……コレで弱ってい」
──瞬間。
周囲の木々がほんの一瞬白く照らされ、ウルスネグルの言葉は途切れた。
三つ目の目がある額に、人差し指サイズの小さな穴が、ぽっかり空いていた。
後ろの木に同じ大きさの穴が、ぽっかり空いていた。
その後ろの葉も、その後ろも。
空が見えるまで、穴が空いていた。
◆
ウルスネグルの体は黒い魔力の粒子となって消滅していく。
いつの間にかアリスは元の銀髪に戻っていた。
ジルには一切見せていない、冷たく無感情な表情。
心なしか水色の瞳も深く沈み、濁っているように見える。
「……ふぅ」
ふとアリスは、急に入った面倒な用事を済ませた後のようにため息をつく。
次の瞬間には、元の表情に戻っていた。
「…………危なかったら助けるつもりだったけど……必要なかったね」
──手首を引いてくれたその手。
自分を犠牲にする気で逃げてと言ってくれたジル。
出会ってからずっと優しくしてくれるジルと全然違う、剣士としてのジル。
戦いの最中の真剣な表情。
胸にぎゅっと両手を重ねる。
いつの間にかアリスは、先程までの冷たい表情がウソのように微笑んでいた。
「……ジル……カッコよかったな……」
──ボソッと呟いたアリスは町の方向に歩き出し、木々の中へと姿を消す。
後に残ったのは、いつも通りの鳥達の鳴き声だけだった。