ジルとアリス──海岸で出会った銀髪の美少女に、剣士の少年は恋をする。   作:ぱふすた

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第7話 アリスの初恋

 町の近くの森の中。

 

 草木が生い茂る中、暖かな木漏れ日がわずかに地面を照らす。

 普段の森と何一つ変わらないように見える。

 

 そんな中を左腕を失い、腹の傷が治らないまま跳んで逃げるウルスネグル。

 あの魔刀に魔力を吸われるのは距離を離すと止まったようだった。

 だが、失った大量の魔力に深手の傷。

 魔族の凄まじい速さの肉体修復も不可能な大ダメージだった。 

 

「クソッ、あんなガキにッ……次会ったら必ズ殺してヤルっ……」

 

 魔力を戻すためには休息と、食事……できれば人間の肉が必要だった。 

 

 

「ア……?」

 

 進行方向に、何かいる。 

 ウルスネグルは足を止めた。

 

 

 

 ──銀髪の、幻想的な水色の瞳の少女だった。

 

 

 

 大きな樹木の枝に止まっている鳥達は、いつも通りの鳴き声を発している。

 

 

 ウルスネグルは一瞬驚いた表情を浮かべた後、ニヤリと顔を歪めた。

 

「人間……クク……ちょうどイイ、食って魔力……を……?」

 

 

 少女は、ゆっくり人差し指をウルスネグルへ向けた。

 

 同時にその銀髪が白くなっていき、淡く光りだす。

 全身も淡く白い光を帯び始める。

 

 

 ……ウルスネグルは、気づいてしまった。

 

 気づかなければ、せめて恐怖は感じず逝けたかもしれないのに。

 

 

「…………ァ……」

 

 

 先程まで邪悪な笑みを浮かべていたウルスネグルの顔が、恐怖に染まる。

 

 弱っているという情報から“それ”の強さをウルスネグルは甘く見て、あのような暴れ方をしていたのだ。

 主から課せられた任務は対象の発見と報告。決して始末することではない。

 

 ウルスネグルの主には分かっていた。 

 たとえ弱っていようとも、ウルスネグル程度ではどうにもならない存在。

 

 ウルスネグルは、理解するのがあまりにも遅すぎた。

 

 

 

「……オマエ、だナ……バカな……コレで弱ってい」

 

 ──瞬間。

 周囲の木々がほんの一瞬白く照らされ、ウルスネグルの言葉は途切れた。

 

 

 三つ目の目がある額に、人差し指サイズの小さな穴が、ぽっかり空いていた。

 

 

 後ろの木に同じ大きさの穴が、ぽっかり空いていた。

 

 

 その後ろの葉も、その後ろも。

 

 空が見えるまで、穴が空いていた。

 

 

 ◆

 

 

 ウルスネグルの体は黒い魔力の粒子となって消滅していく。 

 

 いつの間にかアリスは元の銀髪に戻っていた。

 

 ジルには一切見せていない、冷たく無感情な表情。

 心なしか水色の瞳も深く沈み、濁っているように見える。

 

 

「……ふぅ」

 

 

 ふとアリスは、急に入った面倒な用事を済ませた後のようにため息をつく。

 次の瞬間には、元の表情に戻っていた。

 

 

「…………危なかったら助けるつもりだったけど……必要なかったね」

 

 

 

 ──手首を引いてくれたその手。

 

 自分を犠牲にする気で逃げてと言ってくれたジル。

 出会ってからずっと優しくしてくれるジルと全然違う、剣士としてのジル。

 戦いの最中の真剣な表情。

 

 

 胸にぎゅっと両手を重ねる。

 

 いつの間にかアリスは、先程までの冷たい表情がウソのように微笑んでいた。

 

 

「……ジル……カッコよかったな……」

 

 

 ──ボソッと呟いたアリスは町の方向に歩き出し、木々の中へと姿を消す。

 

 

 後に残ったのは、いつも通りの鳥達の鳴き声だけだった。

 

 

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