ジルとアリス──海岸で出会った銀髪の美少女に、剣士の少年は恋をする。   作:ぱふすた

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第8話 魔刀『黒雪』

 ウルスネグルとの戦いの結果、ジルを除くダニエル達冒険者や兵士達6人が重傷を負ったが、速やかな治療により皆なんとか一命を取り留めた。

 

 町の反対側に現れた魔物5体も、多数の冒険者パーティにより討伐に成功。こちらも多数の重傷者が出たが死人は出なかった。

 襲撃者達の力を考えるとこれは奇跡的と言える。

 

 

 そうして戦いから何時間も過ぎ、外が暗くなってくる頃。

 

 ジルとアリスは借りていた刀を返すために刀を売っていた露店を訪ねた。

 

 店主はジルがこの刀を使って魔族を撃退した少年だと知っており、刀をジルに持っていって欲しい意思を示した。

 

 ジルの功績は数時間で町中に響いていたのだ。

 

「こんな若いのに魔族を撃退するなんて……キミはこの魔刀にふさわしい。頼む、受け取ってくれ」

「……ありがとうございますっ。この刀を使ってたくさんの人を助けます!」 

 

 ジルは頭を深く下げた。

 

 

 店主が説明するところによると、この刀は『黒雪(こくせつ)』という名前で、『刀の魔族』が作り出した魔刀らしい。

 刀の魔族が味方していたという東方の滅んだ国から流れてきたそうだ。

 

「ちなみに漢字表記はこうだ」

「あっ、こういうの“かんじ”って言うんだね。これでこくせつって読むの? ジルは分かる?」

「僕は町の学校行ってたから分かるよ。なんでも、すっごく昔に異世界人から伝わったんだって。今僕らが普通に話してる言葉もそう。リルニア王国は漢字を教えない国なの?」

「うーん、おばあちゃん達はひらがなとカタカナしか使ってなかった気がする……あとたまに記号みたいなやつ……“あるふぁべっと”? とか」

「なんだお嬢ちゃんはリルニアの子かい? リルニアは金持ちや王族以外は漢字を習わなかったらしいからね」

「そっかぁ……」

 

 昔、異世界から伝わった言語に、その異世界のまた別の国の言語がさらに混ざり、今ジル達が使っている言語が形成されている。

 例えば、雪とスノーという同じ意味の言葉が混在していたりする。

 

 アリスは納得した表情を見せたが、その後ふと疑問を呟く。

 

「ねえジル、異世界人って?」

「ああ、僕らが住んでるこの世界とは別の世界からやって来た人達のことだよ。僕は会ったことないけど……。『聖帝国』にはたくさんいるらしいけどね」

「別の世界……ちょっと行ってみたいかも」

 

 

 ジルが口にした国は『聖帝国ガルガルシア』のことである。

 

 大陸南西の大部分を占める人類最大最強の国家で、現在進行系で魔界と戦争している二カ国の内の一つだ。

 それは魔界から西側諸国にやって来る魔物達との戦いとはケタが違う、血で血を洗う全面戦争である。

 

 

「あ、すいません話ずれちゃいました」

「別にいいさ。説明に戻ろっか」 

 

 

 話は戻る。 

『黒雪』は斬った対象から魔力を吸い取って力に変え、一時的に持ち主を強くする能力があるらしい。

 ジルが魔族に打ち勝てたのもこの能力による所が大きかった。

 この刀で斬った魔物や魔族から漏れ出す魔力の粒子の様子が、黒い雪が舞うかのようなので『黒雪』という訳だ。

 

「ただ、黒雪はたくさんの魔力を注がないと鞘から刀を抜けないっていう呪縛があるはずなんだが……東方の国じゃ『勇者』しか扱えなかったらしい。だからまあずっと売れなかったな」

「そうなんですか? 僕に魔力なんてほとんど無いはずなんですけどね……」

 

 店主の前で試してみた所、今回も普通に刀を鞘から抜くことができた。

 考えても結局原因は分からなかったが、近くに熊の魔族がいた影響とか時間経過とかで呪縛が解けたのだろうと一応結論する。

 

 こうして、ジルは魔刀『黒雪』を持つ剣士となった。

 

 ◆

 

 翌日の昼過ぎ。

 家では母親のファニーが編み物をしてアリスが手伝い、教会付近ではジルの父親のジョルジュを含む何人もの大工が建物の修復作業をしている。 

 今日はジルの冒険者登録と初仕事のため、アリスとの町の散策はまた明日ということになった。

 

 そう、ジルは今日15歳になり、正式に冒険者になった。

 冒険者登録の際は、昨日のこともあり皆から盛大な拍手を送られてしまい、ジルは挙動不審になってしまった。

 ギルド受付嬢にすらイジられる始末である。

 

「あたふたしてるジルさん可愛いですね♡」

「え、えっと、冒険者になったのでさっそくお仕事を」

「いーや、今日は今から昨日の祝勝会だ! 奢るから食え! ジルの冒険者登録祝いも兼ねてんだよ、主役がいねえと始まらねえだろ!」

「そうだそうだ!! 昨日まだ14歳だったのに武器持ってただろ! 知らないふりしてやるから参加しろ!」

「ふふっジルさん、今日は大人しく奢られてあげてください」

 

 ここまで言われてしまっては断れない。

 ジルは大人しく祝勝会に混ざり、冒険者達に揉みくちゃにされたのだった。

 

 ◆

 

 

 その日の夜。

 町のとある宿の部屋。

 

 

 一個のランタンに照らされる二人の人影があった。

 

 上を脱いでいる誰かが、濡れたタオルで背中を拭かれている。

 

 拭いているのは部屋のもう一人。

 白いニーハイソックスを履き、膝丈のメイド服を着た女性。

 

 髪はケーキの上の白い生クリームのように真っ白で、内側に巻いたミディアムボブ。

 いちごの種のような白いつぶつぶ模様が入った真っ赤な瞳をしていて、力強さを感じる鋭く切れ目気味の目の形をしている。

 肌と髪色と瞳の色を合わせると、まるで苺ショートケーキを擬人化したようだった。

 

 顔立ちはジルやアリスより明らかに年上で20歳くらいに見える。

 さらにEカップというそれなりの胸に身長も170cm台前半と高く、総合すると美少女というより綺麗な女性という印象を受ける。

 

 

 彼女は主の清拭をしつつ、クールで淡々とした口調で切り出した。

 

「キャンディ様、魔族を退けた少年の話を聞かれましたか。冒険者ギルドで少年が主役の派手な祝勝会が行われたそうですよ」

 

 

 キャンディと呼ばれた人物は、右腕を上げて拭いてもらいながら返答する。

 その顔はランタンの光に直接は照らされず見えにくい。

 

「ふーん、興味ない。それより明日の賭け試合よっ! 聞いたわよね!? 優勝賞品がっ、あのめちゃくちゃ美味しいケーキ屋アストリの! 今回だけのっ!! オリジナルショートケーキセットなのよ!!? 絶対に食べたいわ、あたし達も参加するわよっ!!」

 

 

 その元気のいい少女の声は、部屋によく響いていた。

 

 

 

 第2章

 

『ショートケーキ・トーナメント』

 

 

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