解釈違いが怖くて今更中身が美少女とか言えない 作:バトルファイティングガール
この世界の人々の一部は特殊な能力を持っている。
それを用いて悪事を働く者もいれば、逆に正義を為す者もいる。
まるでアメコミかアニメのような世界観であり、もしかしたらこの世界は実際にフィクションのそれなのかもしれない。
文明レベルで言うと現代よりもちょっと進んでいる程度で、今更有線イヤホンとかダサいよねーとかそんな会話を聞いた時は「おいマジかよ」と呟いてしまったほどだ。
いやまあ、ワイヤレスなイヤホンが主流なのは前世の時もそうだったか?
分からないけど。
兎に角、そんな世界に「俺」……いや「私」は転生した。
竜胆アユミという少女は今年で17歳。
高校二年生であり、ある意味人生の中で一番気楽でいられる期間かもしれない。
とはいえ、世界観が世界観であるが故に気を抜いていると事件に巻き込まれて簡単に死ねる訳だが。
そんな私には一人の幼馴染がいて、そいつは異性であり男性の高校生だった。
何なら同級生の腐れ縁でもあったし、親友と表現する事も出来るかもしれない。
……親友と言えるって事は逆に言うと色恋とかとは無縁とも言えるし、そして私はそういうモノに対して無頓着というか興味がないので、将来的にそうなる事は絶対にないだろう。
自分が何者で何者なのか、なんて事は特に考えない。
そういうのは哲学者とかそういう学者達が考えていれば良い。
私は――兎に角、普通の女子として生きている訳だし。
一応そのつもりなのである、私は。
「なあ、アユミ」
と、そこでその件の幼馴染――霧切トウヤ。
ツンツン頭の、こう言っては何だがラノベの主人公みたいな外見をしている奴が、登校中にこちらを見ながら言ってくる。
「今日、暇か?」
「暇するのに熱中するつもり」
「つまり暇って事じゃねえか」
「違う。何かをしたくないって意味」
「……つまりいつも通りって事ね」
失礼な奴だな、こいつ。
「まるで私がいつも暇しているみたいじゃないか」
「事実だろ」
「まあ……事実だけど。それで? 何か用でもあったか?」
「んー、まああると言えばある」
彼は頬をかきながら言う。
「今日はさ、ほら。バトルトーナメントの準決勝なんだよ」
「あー、そう言えばトウヤ。それに参加しているんだっけか」
特別な力を持っている人々は時にそれを競い合う時がある。
【バトルトーナメント】、名前の通り名前のまま。
戦い、そして強者を決める催し物。
一体全体、何が楽しいんだか。
痛いのは嫌いだし、楽しい事が好きだ。
前世からバトル系は創作の中に限ると思っていたし、プロレスとかは苦手だった。
そんな私がそんなリアルファイトに興味を持つ訳もなく、とはいえ幼馴染が参加しているのは知っていたし、それに関しては仮病をしてまで不参加を決め込むつもりはなかった。
「分かった、見に行けば良いんだな。私もいろいろ準備してから行くよ」
「……ああ、絶対に勝つから見ててくれ」
「私は何度も言うけど、お前が怪我をするところとかはあまり見たくないんだ。だからあまり無茶はするんじゃないぞ?」
「ああ、分かってる」
頷き、それから少しだけ駆け足になり私の前を行くトウヤ。
私はそれに置いて行かれないよう、少しだけ足を速めて追いかけるのだった。
■
『さあ、今日は遂に【バトルトーナメント】準決勝! このあたりで最もつえー奴を決める為の戦いも遂に終盤戦!! わざわざ痛い目を見る為にやって来た馬鹿どもは、こいつらだァ!!!!』
大袈裟なアナウンス、そこそこ広い会場には沢山の人がいて、この【バトルトーナメント】が多くの人々から支持されている事が伝わって来る。
みんな、これから戦う二人の男のうちどちらが強いのかが知りたくてたまらないようだ。
まったく理解出来ない。
『まずはこいつ! 白鷗ジュン!! 白鷗家の長男で最も硬いとされる伝家の業《パーフェクトシールド》を使うぞぉ!!!!』
現れた金髪碧眼の美少年を見、特に女の子達が黄色い声援を上げる。
彼、白鷗ジュンはどうやら沢山の女性ファンを抱えているみたいだ。
確かに元男としても現女としてもあの少年は格好良いと思うし、ファンがいるのも頷ける。
『次に、こいつ! 霧切トウヤ!! 防御なんか知らねえみたいな馬鹿火力が自慢の大馬鹿野郎だーっ!!!!』
対し、トウヤに対してはどちらかと言うと男からの声援が多い気がする。
彼のその熱血でロマンのある戦い方は確かに女性よりも男性からの方が支持が多いのかもしれない。
実際、格好良いとは思う。
止めて欲しいとも思うが。
「やあ、トウヤ。今日も僕が勝たせて貰うよ」
「悪いけど、今回は俺が勝たせて貰うぜ」
そんな彼等はライバルとしてバチバチと視線をぶつけ合いつつ、一言そうやって言葉を交わした後に定位置に着く。
そうして、バトル開始のアナウンスが始まるのを待つ――と、その時だった。
どぉおおおおおん!!!!
悲鳴、しかしそれは先ほどの黄色い声援とは違って悲痛な感情が込められていた。
爆発音。
そしてそれは人為的なモノである事は間違いなかったし、そしてそれを起こした大馬鹿者は何故かすぐに私達の目の前に姿を現した。
「は、はは! 雑魚共がひれ伏せ!! 俺が真の強者って者を教えてやるぜ!」
黒い衣装に身を包んだモヒカン野郎。
特長的なのはその黒い衣装の背中に大きなバッテンが描かれている事。
それを見て白鷗ジュンは「はっ」と息を呑み込んだ。
「その服、もしかして君はクルセイダー!?」
「またお前等かっ!」
トウヤが言った通り、彼等【クルセイダー】と呼ばれる集団は各地で問題を起こし、事件を発生させている。
いわゆる典型的な悪党集団ってところだ。
ちなみに悪党を名乗っているだけあってその実力は無駄に折り紙付きであり、一般人どころかちょっとした能力者でも手も足も出ない。
「……」
ところどころから悲鳴が上がり、逃げていく人々の波。
それに逆らわずに私は戦いを始める三人に背を向ける。
これからは――彼等の戦いだ。
■
「は、はは! 逃げるが良い!」
紅蓮が飛び、しかしそれは白鷗ジュンが呼び出した黄金の障壁によってすべて叩き堕とされる。
《パーフェクトシールド》と呼ばれる能力、おおよそそれを打ち破る事の出来る力は、現状霧切トウヤの能力しかないと言われていた。
「おらっ!」
そして、その霧切トウヤは白鷗ジュンが呼び出した《パーフェクトシールド》を足場として【クルセイダー】の悪党に肉薄し、赤く発光する実体を持たない能力で生み出した刃を振り下ろした。
《フォトン》と呼ばれるそれは、彼の意思によって適切な威力を出力する事が出来る。
そしてその一撃を難なく躱した男。
「はっ、餓鬼どもが。てめえら如きに俺が倒せるとで――」
――も。
そのように言い切り二人に対して何らかのアクションを取ろうとした男。
しかしながらそれは未遂で終わり、そしてそれは突如として現れた新しい存在の介入によって発生した結果だった。
その存在の事を一言で言い表すのならば、ドラゴン。
あるいは人型の龍、ドラゴニュートだ。
漆黒の刺々しい鱗で覆われた、二対の角が生えたドラゴン。
翼をマントのように揺らして現れたそれは、一撃で男を吹き飛ばしてみせた。
「……」
異形の存在、しかしそれは能力によって変貌した存在である事は間違いない。
同時に、只者ではない事も間違いなかった。
事実として白鷗ジュンは大量の《パーフェクトシールド》を召喚し構えていたし、そして霧切トウヤは少しだけ表情を明るくし、「あんた」と声を掛ける。
「また、助けに来てくれたんだな」
「勘違いするなよ、小僧」
機械を通しているかのようなノイズ混じりの低い声。
「私は、あのような悪党を許せないだけだ」
「それでも、またこうして助けてくれた」
「……」
「ありがとう。ずっと、ずっとそう感謝を伝えたかったんだ。ありがとう」
「……好きにするが良い」
そう言い、すぐに踵を返してきた時と同じ様に姿を消したドラゴンを見、白鷗ジュンは友達兼ライバルのトウヤに尋ねる。
「あれは……信頼出来る存在なのかい?」
「ああ」
トウヤは言う。
「なんでか知らないけど……すっげー信頼できる男って思ってる」
……そして、そこから結構離れた場所にて。
漆黒のドラゴンの肉体が青白い炎に包まれ、そしてそこから現れたのは華奢な少女の肉体。
少女は言う。
「い、今更私が正体とか言えない……」