解釈違いが怖くて今更中身が美少女とか言えない   作:バトルファイティングガール

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第一話

 極めて客観的にその事実について述べてみる事にしよう。

 

 その存在、通称『ドラゴン』について。

 

 それはある日唐突にどこからともなく現れた正体不明の人物である。

 神出鬼没、正体不明なその存在はある日を境に不定期なタイミングでこの世界で観測される事となった。

 その『ドラゴン』がやって来た事と言うのは――そうだ、客観的に言うのならば「私刑」である。

 悪事を働く能力者を己の力で制圧し、そしてそのまま去っていく。

 やっている事はそれこそ正義の味方の様だったが、しかしこれは正確に言うと違法行為である。

 何故かというと、悪事を働く能力者であろうとも、それに対して能力を利用して攻撃する事もまた違法なのである。

 能力は決められた場所で、あるいは許可が下りない限りは自由に扱う事が出来ない。

 その能力を用いて悪事を働く能力者と戦う者というのはそれこそ政治組織から認定を貰っている。

 文字通り政治組織公認ヒーローというものはこの世界には存在し、そしてその『ドラゴン』は認定を貰っていないのにもかかわらず能力を勝手に街中で使い、悪党を倒してきている。

 

 それに対し、人々の意見はというと二分されていた。

 片方は「得るモノがないのにもかかわらず悪党と戦うという危険に身を投じるその様はヒーローそのもの」という意見。

 政治組織から正式に依頼を受けて戦う能力者達は当たり前だが政治組織側から結構な補助を受けられる。

 それは金銭的な面から始まり医療施設を低額で利用出来たりするなど多岐に渡る。

 兎に角、そういった補助があるのは不公平だという意見があるのはある意味世の理かもしれない。

 能力者という生来の才能を持つ者しか政治組織からの補助を受けられないという事に対してそのような考えを持つ者がいるというのは仕方がない事だろう。

 そして、だからこそそういった政治組織とは無関係なのにもかかわらず社会を守る為に戦う『ドラゴン』は、ある意味認められたヒーローよりもずっとヒーローなのでは、というの意見なのである。

 まあ、ありていに言ってしまえば「タダ働きする人間は凄い!」みたいな称賛の仕方であった。

 

 そして、もう一つの意見は「それでもやっている事は違法行為だから取り締まるべきだ」という意見。

 これの方が真っ当だと思う。

 実際やっている事は違法行為というのは正しいし、だからそんな『ドラゴン』も正しく裁かれるべきだ、と。

 

 人々の意見としては前者、社会の意見としては後者……といったところか。

 そしてそれら二つを加味した結果、政治組織が出した答えと言うのは「いっその事、『ドラゴン』を公認の能力者として認定すれば良いのでは」だった。

 まあ、人々からの人気はとても高いというのは事実だし、悪事を働く能力者を倒し治安を守っているというのも事実。

 やっている事自体が違法というだけであってやっている事は正義そのものという事もまた事実。

 だからもうこれなら『ドラゴン』をこちら側に取り入れてしまう、というのはとても正しい考えだろう。

 

 しかしながら、例によって『ドラゴン』は神出鬼没にして正体不明。

 どこにいるかも分からず、どこに出現するかも分からない。

 唯一分かっているのは、『ドラゴン』は悪事を働く者に対しては容赦がないという事だけ。

 その冗談みたいな冗談が通用しない力で敵を倒していく。

 そんな『ドラゴン』に対して人々はいろいろな憶測を交わし、そしてそれらはほとんどが的外れな意見だった。

 仕方がない事だろう。

 

 だって、人々は『ドラゴン』に対して「世界の英傑」を夢見ているのだから。

 

 その英傑というものが何なのかはこの際置いておくとして。

『ドラゴン』がまた現れ悪党を倒したという情報はこの街、アキバシティーに素早く広がっていった。

 ……こうして道を歩いている間にも、人々が『ドラゴン』について話しているのを聞く事が出来る。

 例えば、私が道を歩いていて交差点で信号が青になるのを待っていると、目の前にいた女子高生二人がきゃいきゃい姦しく会話をしているのが聞こえてくる。

 

 

「ねえ、聞いた? 『ドラゴン』様がまた活躍したそうよ」

「何を隠そう私、現地で見ていたわ」

「ええ!? 凄い、羨ましいなぁ……ねね、どんな感じだったの『ドラゴン』様は」

「ふっふーん、勿論噂通りの益荒男って感じの立ち振る舞いで格好良かったわね。クールって言葉はまさに彼の為にあるって感じ。そう、まさに最高にクールだったわ……!」

「いーなー、私も塾がなかったら一緒に目撃出来たのに」

「ま、勿論彼が現れるのは事件が起きる場所だから、その彼が私達の会話を聞いていたら「馬鹿野郎」って怒ってくださるのだと思うけどね」

 

 

「……」

 

 赤信号が青に変わり、会話をしながら歩いていく二人の女子高生の背中を眺めながら私は溜息を吐く。

 それから、一人思う。

 

(馬鹿野郎とは言わないけど、事件があるところに首を突っ込むような事だけはやめてください!!!!)

 

 ていうかデフォルトで『ドラゴン』は男だと思われているみたいだが、それは社会の共通認識なので彼女達に突っ込んでも仕方がない。

『ドラゴン』。

 正体不明の謎の存在は、なんだか知らないけどいろいろな場所に本人の意思とは関係なしにファンが一定数いて、そしてその存在に対して「中の人」である私は頭を抱えるしかないのであった。

 

 ……いや、『ドラゴン』の正体が私こと竜胆アユミである事については特に深い理由はない。 

 強いて言うのならば、私が所持している能力が『悪龍化』という言葉通りのそれであり、そして私はそれをひた隠しにしている。

 ていうかそうせざるを得ない。

 当初の私が、ていうかこの世界の法律について詳しくなかった子供時代に調子に乗ってヒーローごっこしていた所為で、今の私がいるのである。

 普通に能力バトル系現代ファンタジー世界だと思っていたので、能力を使う事自体が違法だとは思ってもみなかった。

 より正確に言うと能力を意図的に使って人を傷つける事が違法なので、私がやっている事と言うのは割かしグレーゾーンだとも言えるが、しかし私の『ドラゴン』としての活動期間は既に数年に渡っている。

 今更「知らなかった」と言い訳は出来ないだろう。

 

 そして、自身の行動の違法性について理解しているのにもかかわらず何故それを続けているのか。

 その理由に関してはちょっとした理由があった。

 使命があるとか、どうしても悪党の事が許せないとか、そういう理由ではない。

 その理由は、ちょっとした少年の憧れだった。

 

「ホント、凄いよな『ドラゴン』は」

 

 霧切トウヤ。

 つまり私の幼馴染が言う。

 教室、微妙に『ドラゴン』の話題が聞こえてくる場所で前の席に座っているトウヤはどこか遠くを見るような眼をしながらあの日の事を思い出す様に語った。

 

「まるで本当に、いや、あれこそが本当のヒーローなんだよな。何の見返りも求めず、ただ正義を為す事だけを考えて悪党と戦う。俺、あんなヒーローになりたいんだ」

「……『ドラゴン』は、何度も言っているけどやっている事は違法行為だよ。あいや、まあ、グレーゾーンだとは思うケド」

「そりゃあそうだけどさ。だけどみんなを守りたいって気持ちを持って戦うのはきっと間違ってない。いや、俺は間違っているとは言いたくないんだよ」

「…………そっか」

 

 私は大層な理由があって『ドラゴン』になっている訳ではない。

 大きな志を持っている訳でもなく、ただ漠然と「それ」の為だけに『ドラゴン』として活動をしている。

 

 ただ、幼馴染がちょっとだけ夢を見続けられるよう、私はその手助けをしたいってだけだった。

 

 多分もっといい方法はあるんだろうけど、だけど今の私は今のこれしか良い方法が思いつかない。

 だから、あとちょっとだけ。

 私は「悪龍」になるしかない。

 

「本当、格好良い男だよ『ドラゴン』は!」

 

 あと、出来れば『ドラゴン』の事を「男」であると断定するのは止めて欲しいんですがッ!!!!

 なんで私ていうか『ドラゴン』が男であるというのが共通認識になっているのかなー本当に。

 確かに変身した後の私の声は男のそれそのものではあるけど、だからと言って中身も男であるとは限らないじゃん?

 実はカワイイ女の子が中に入っている可能性だってあるじゃん?

 なんてそんな事を、正体を隠している私が口を大にして言える筈もなかったので、私は苦い笑みを浮かべながら「そうだな」と首を曖昧に振る事しか出来なかった。

 いやでも、正体を隠している身としては正体が男であると勘違いされている方が好都合なのか?

 まあ、しかしそれでも微妙な気持ちになる事は間違いないな。

 そんでもって、格好良い男である事を期待されているのだとしたら、今更正体を明かす事が出来ない理由が更に増えてしまった。

 頼むから気持ち良くフェードアウトさせてくれとは常日頃から思っている。

 出来ない事も分かっている。

 

 そんでもって、だからこそなんか夢見る少年みたいな表情を浮かべているトウヤに対しては何と言って良いのか分からず口ごもるしかないのであった。

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