魔法少女リリカルなのは~性転換吸血鬼~《瞬間凍結》 作:ビレッジイ
忍side
時は3時と丑三つ時。
良い子も悪い子も寝静まる時間。
子供が外を歩いていれば即補導されてしまうそんな時間に、俺は昼間に訪れた病院に来ていた。
一人で来た。
メメの奴は今頃廃墟で寝ているだろう。
なんで俺がこんな時間に一人で病院に来ているのか。
それは高町さんの傷を治す為だ。
なんで俺がわざわざそんなことをしようとしているのかというと。
「桃子さんのあんな姿を見ちゃあなぁ」
昼間俺達がお見舞いに行った時、桃子さんは泣いていた。
桃子さんはたぶん辛いことがあっても簡単には泣かない人だと思う。
しかし、そんな桃子さんが泣いていた。
俺やメメといった他人がいる前で。
それは桃子さんに限界が近づいていることの表れだろう。
「このままだと本当の限界が来ちゃうだろうな」
そうなってしまったらもうおしまいだ。
半年分の我慢が桃子さんを再起不能、修復不可能にまで壊してしまうだろう。
俺は桃子さんがそんな目に合うことを許容できなかった。
故に俺は多少のリスク覚悟で異能の力を使うことにした。
俺は病院の前まで行くと、高町さんの病室の位置を確認する。
「確か、4階の右から三番目の部屋だったな。よし、行くか」
そう言って俺は背中に意識を集中させる。
ズ、ズズッ・・・バッ
すると俺の背中から一対の黒い翼が出現する。
見た目はコウモリの翼。
これは吸血鬼のスキルの一つである変身スキルだ。
全身丸々コウモリに変身することができるが、今回は部分的に、肩甲骨の辺りをコウモリに変身させている。
全身変身をしない理由?
ビジュアルの問題だよ。
俺はコウモリの翼を羽ばたかせ高町さんの病室まで飛行する。
人に見られたらえらいことになる。
見られないためのこの時間だけどな。
窓から高町さんの病室に侵入する。
俺は高町さんが寝ているベッドの横に立つ。
昼間と同じで、死んだように眠っている。
呼吸は浅い。
いつその呼吸が止まっても不思議ではないと思わせるほどに弱々しい。
しかし逆に、そんな状態でも未だに生きているその姿に、強い生きるという意志を感じる。
「安心しな。あなたは俺が助けてやる」
俺はベッドの横に備え付けられている引き出しを開ける。
開けたその中から果物ナイフを取り出す。
「俺はメメみたいに、人は勝手に一人で助かるもの、なんて思ってない。助けられる命が目の前にあるなら、俺はその命を助けるさ」
取り出した果物ナイフで俺は自分の指先を浅く切る。
するとすぐ指先に血の玉ができる。
「だから・・・・・・」
果物ナイフを置いて、その空いた手で高町さんの人工呼吸器を外す。
「無事に治ったらさっさと翠屋再業して、うまいシュークリームを食わせてくれよな!」
呼吸のために浅く開いていた高町さんの口に、俺は血が出ている指を突っ込む。
突っ込んだ指先を伝って俺の血が高町さんの喉に直接流し込まれる。
ゴクっと高町さんの喉が静かに鳴る。
とたん高町さんの体がピクッと反応する。
よく観察していなければ分からないほど小さく。
「・・・・・・どうやらうまくいったようだな」
さっきまで浅く弱々しかった呼吸が、深くしっかりとしたものになる。
心電図に映る高町さんの心拍も安定している。
「眷属化は・・・・してないな」
今回一番懸念していたことも起きず、思わずホッと安定する。
俺が今回行ったのは、俺の血を使った治療だ。
吸血鬼の中でも飛び抜けた再生能力を持っていた忍野忍の血は高い治癒効果を有している。
その血を俺は「能力」として受け継いでいる。
その血を飲ませることで高町さんを内側から治癒した。
治癒といっても飲ませた血はほんの数滴程度なので、飲ませた相手の自然治癒能力を活性化させるくらいの効果しかない。
しかしあれほどの状態で半年も生きていた高町さんの生命力ならこれで十分だろう。
おそらく一週間もすれば目を覚ますはずだ。
ただ今回の行動には決して無視のできないリスクがあった。
それを説明するにはまず俺の「吸血能力」についての話をしなくてはいけない。
俺が行う吸血行為には二つの使い分けがある。
一つ目は、吸血による栄養補給だ。
俺は吸血した血液を栄養に変換して吸収することができる。
吸血した相手によっては自分を強化させることも出来る。
そして二つ目は、吸血による眷属の作製である。
まず、対象の血液をある程度残して抜き取る。
その後、抜き取った血液と同じ量の俺の血液を対象の体内に流し込む。
すると対象の体内に残っている既存の血液と流し込まれた俺の血液が混ざり合い一つになる。
混ぜ合わせることで体に馴染ませる。
「吸血鬼の血液」である俺の血液が体に馴染むと、次に体が「吸血鬼の血液」に適応したものへと作り変えられる。
つまり肉体の吸血鬼化である。
これで眷属の作製は完了する。
ちなみに眷属の強さは主である俺の力と、流し込んだ血液の量に比例する。
今回のことで重要になるのは二つ目の吸血による眷属の作製だ。
俺は高町さんを治療するにあたって、高い治療能力を有している「吸血鬼の血液」を体内に流し込んだ。
この行為は眷属の作製のプロセスに似通っている。
食道か血管の違いはあるが体内に直接流し込んだことには変わりない。
「吸血鬼の血液」はどんな怪我、病を治すことができる便利なものだが、使い方を間違えると呪いへと変わる。
眷属化してしまった人間が元に戻る方法は一つしかない。
それは眷属化した者が、自らの手で主である俺を殺す。
それが唯一、眷属が人間に戻れる方法だ。
当然俺は殺される気なんてさらさらない。
万が一の時に責任が取れない俺は最初この治療法を使う気はなかった。
しかし昼間のお見舞いで見た桃子さんの姿に俺は思ってしまった。
「俺には高町さんを治すことができる力がある。同時に桃子さんも救うこともできる。なら多少のリスクは覚悟して助けるべきではないか」と。
まあかっこいい理由の後付けならいくらでも出来るけど、俺は結局美人さんの涙に当てられただけなのだ。
桃子さんには笑っていて欲しい。
ただそれだけだ。
「ほんと、俺ってこんなに単純な奴だったんだな」
下手をすれば高町さんだけでなく、高町家全員の人生をめちゃくちゃにしかねないことだった。
それなのに決めてが美人の涙とは、なんとも人間らしい行動原理だと思う。
「さて、帰るか」
入ってきた時同様に窓から外に飛び出る。
落下の途中で翼を展開する。
「ん? これは、血の匂い」
いざ帰ろうとしたところで、風に乗って微かな血の匂いがした。
距離は近い。
病院の敷地内だ。
「この匂いは人間のものじゃないな。でも動物っていうのとも違う気がする」
人間よりは動物に近い。
しかし動物とも違う。
何か異質なものが混ざっているかのような匂いだ。
「もしかして怪異の類か?」
自分と同じように怪異の力を有している存在かもしれない、または怪異そのものの可能性もある。
どちらであったとしても、放っておくことは出来ない。
俺の廃棄生活仕込みの直感が、これは面倒ごとだ、とビンビン反応している。
俺は一回溜息をついた後、なるべき低く飛行しながら血の匂いの元にむかう。
今回出てきた眷属作製のプロセスは私が独自に考えたものでオリジナルとは少し異なります。
感想お待ちしています。